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タイトル:新人賞応募の際の序盤の展開についての返信の返信 投稿者: 手塚満

(No: 13の続き)

8.フィクションでは仮想のものに置き換えることが多い

ですから、フィクション作品では架空の症状、疾病などを登場させます。漫画「からくりサーカス」(藤田和日郎著)では「ゾナハ病」という設定があります。初期症状としては、他人を笑わせないと苦痛が生じるという奇妙なものです。現実のどんな疾病、症状とも似ていません。不特定多数に供する作品として、読者の誰も自分に似たような症状があると思って不快にならないよう、計算してあるわけです。

かつ「ゾナハ病」は話が進むにつれて謎と解明が深まり、ラストに深く結びつく設定でもあります。単にキャラを動かすためだけのツール的な設定ではない。つまり「チェーホフの銃」(観客/読者に銃を見せたら、その銃は使われなければならない)の使い方をされているわけです。

多指症や吃音を主人公に与えたのなら、もしそれで大多数に嫌われるという便利設定(←あえてこう申しておきます)にしてしまうならリスキーです。その特徴はドラマの解決のために使われる必要があります。しかしその特徴の扱いは難しい。

ですので、フィクションでよく使われる、仮想のものに置き換える手法を使ったほうが無難だろうと思います。例えば「指が1本多い」を「見えない指が1本ある」にしておくとか。主人公が小さい頃、主人公の手の近くにあるものを見えない指で動かして遊んだりしますと、周囲は不気味に思うはずです。それで迫害される。が、その見えない指を駆使して危機を脱するシーンを作る、とする手も考えらえます。

吃音も主人公に対する仮の障害として、例えばヒロインと心から和解したら吃音がなくなった、なんてやらかすと、おそらく非難する向きも出てくると思われます。吃音に限らず、障がいを何かの罰とか、呪いとか、不幸の象徴等々に使うのは、当事者としては不本意でしょうし、そういう当事者の知人、友人も受け入れがたいでしょう。

何より安易であることが問題です。こういう状況なら困るだろう、それを脱したら幸せだろう、というものですから。吃音なら吃音のままで主人公が目的達成すべきですし、主人公はそういう自分を誇りに思うようでないと、長丁場を読んできた読者としても共感はできません。

これが敵役/悪役が「主人公を殺すまでもないとは思うが、自分たちに敵対したり、不利な証言をされるのを防ぐため、呪術的に喋れなくした」のなら、例えばヒロインとの和解が呪いを説く条件だった、みたいな展開でも不快に思われるリスクは下がります。作中の悪役の作為で、現実にはないものなら描写の自由度が高いのは、過去の人気作でも証明されています。

9.作者として辛い方向のほうが実はやりやすい

「実は母親を殺したのは少女では無かった」についてなんですが、お示しの構想でこれが特に気になりまして。これをもし、主人公とヒロインの葛藤のドラマ解決にストレートに使うと、まずそうです。母親を殺してなかったと分かったのでヒロインに対する恨みもたちまち解消、だとしたら、たぶんがっかりする展開です。ドラマの解決ではなく解消になってしまいますから。

たぶんですが、お示しの構想を私が書いてみようとすると、たぶん自分もヒロインが殺してなかった、としたくなるだろうと思います。主人公と深く結びつく予定のヒロインだと、あまり傷を作りたくないという自然な人情です。

ですが、作者が気持ちいいのは読者には無関係です。むしろ、作者が書いていて楽しいとか、避けたいと思うことは、読者には正反対の感情を呼び起こしがちです。作者として安易だからです。作者として好きなキャラへのえこひいきと言い換えてもいいでしょう。作品世界の神がフェアでなかったら、読者に見抜かれます。

やはり、ヒロインが母親を殺害したとしておくのが無難かと思います。いったんヒロインが真犯人と明らかになり、主人公が憎む展開のほうがやりやすいでしょう。そして殺害後のヒロインが密かに悔いていたとか、事情があったとかでひっくり返す。例えば、確かにヒロインが母親を剣で刺し殺したけれど、実は母親が背後に隠した主人公を他の海賊に見つけられないためだった、とか。

もしヒロインが真犯人でないとする展開なら、母親を殺そうとした仲間の海賊を止めようとしたんだけど、主人公にはヒロインが促したように見えた、とかでしょうか。その後、ヒロインは密かに悔いていて、主人公がヒロインの奴隷となったとき、知らない奴だと振舞ったけれど、実際には「あのときの男の子だ」と認識していた、とか(この場合、ヒロインが表面上は主人公につらく当たるも、危機に陥れば救うという展開が入れやすかったりする)。

10.余談的に「少女」の数年前の母親殺害について

細かいことですがちょっと奇妙に感じたもので最後に少しだけ。主人公がかたき討ちに来るのが数年後で、その時点でも少女としまして、ヒロインはまだ10代、例えば17歳だとします。高校生くらいですね。その数年前だと中学生、どうかすると小学生くらい。

それで母親を殺害することができるのはちょっと不自然な感じがします。主人公が「かたきはこいつだ」と思うようなことをやらかしたはずですよね。その主人公がかたき討ち時に青年とすると、ヒロインより年長でしょうか。

もしそうならですが、主人公は海賊襲撃~母親殺害時に何をしてたんだ、年下の女の子に母親を目の前で殺されたとしたら、ちょっと情けなくないか、とも思えます。主人公は数年で船を率いるまでの力を持つわけですよね。だとすると、海賊襲撃時でもそれなりに力があるはず。

これは詳細をお伺いしてませんので、もしかしたら整合性ある描写になるのかもしれませんが、粗い設定案としては気になりましたので、申し上げてみることにしました。

(終

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