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タイトル:主人公の正当化についての返信 投稿者: 手塚満

例として「主人公を強者にする」とか考えてましたら、サタンさんのご回答が「主人公を弱者にする」で、ちょっと慌てました。が、趣旨的に齟齬するものではなかったみたいです。

強者といっても、能ある鷹は爪を隠すタイプです。他人と争えば強いんだけど、強さを使わない。強さは、腕力でも異能でも、作品に合わせておけばいいです。主人公は差別され、偏見を受けても、抗わない。無理してでも笑顔を作り、じっと我慢する。表面的には、気弱で脆弱な善人といったところ。

読者には「主人公が実は最強クラス」ということは明示しておきます。しかし、劇中のキャラクターには一切明かさない(要は劇的アイロニーにしておく)。

すると、主人公が虐められるたびに、読者は「主人公は本当は目の前の憎たらしい奴を倒せるのに」という気分になるような作劇が可能になります。主人公に同情する運びにするのも比較的容易になります。

しかし終盤まで主人公に我慢させます。読者には「やり返せばいいのに」「なぜやり返さないんだ」といったストレスが溜まってきます。つまり読者が復讐を望むようになる。そうすれば、主人公が暴れても共感してもらうことは可能です。

1.正当化といっても、正しさを主張すべきではない

正当化と仰るということは、理屈的な正しさをお考えでしょうか。サブキャラの主人公に対する行動は違法だ、とか、サブキャラの言動はモラルに反するとか。もしそうなら、不利なやり方です。物語で示しやすいのは気分的な納得です。

これはこう正しいから、みたいにやると反発を招きやすい。どうしても説教的になります。作者は得意げに「ほら、こうするのが正しい」と示しても、読者の理屈や価値観はまた別だったりします。説教は説教であるというだけで嫌われるものです。

2.たとえ間違っていても共感できる主人公であるべき

代りに有効でやりやすいのは、理屈はさておいての共感、同情です。特に主人公に対するものですね。なにせ感情移入が最も発生しやすいのが主人公ですから。

読者のほとんどは、合法であることを喜びとしたり、モラルに共感するわけではないでしょう。倫理が快楽の源なんて人は滅多にいないはずです。勉強よりゲームしていたい人のほうが多そうです。仕事に励むより、酒飲みに行きたい人のほうが多いでしょう。欲望を満たすほうが、インスタントに快楽を得られます。

つまり本音の価値観ですね。ですので、読者の多数が「主人公は正しい」と思うような運びは不利です。正しいと思えても、なかなか共感できず、従って感情移入が生じにくくなります。結果、読者は主人公に対して批判的になりやすい。そういう物語が面白いと感じにくいでしょう。

3.崇高より低俗がいい

物語で提示するなら、下卑ている、低級、欲望むき出し、といった攻め方のほうがいいでしょう。主人公の正当化ではなく、逆に理屈では不当な方向性を持たせる。だけど共感はできる、という作りですね。建前と相反する本音のほうが共感はしやすいです。

ちょっと例を作ってみます。主人公が財布を拾って交番に届ける想定です。

A「俺は十万円入った財布を拾った。落とした人は困っているだろうと思うと胸が痛み、すぐに交番に届けた。落とし主が相談に来ていて、すぐ返せた。胸がすっとした。」

B「俺は十万円入った財布を拾った。やった儲けた、と思ったが、警察にバレるかもと怖くなって交番に届けた。でも惜しかったなあ、持ち逃げしたほうが良かったかなあ。」

Aの主人公は立派と思われるかもしれませんが、感情移入度は低いでしょう。Bはおそらく逆です。

4.100%より80%正しいほうが簡単か?

> 読者に「主人公が100%正しい」と思わせるのではなく、あくまで共感してもらう程度でいいです。

こう仰る点が気になります。もし「100%正しい」は難しいが「80%正しい」なら簡単、とお考えでしたら、間違うリスクが高そうです。

理由の1つとしては、正しさと共感は相反しやすいからです。例えば、昔風の道徳の教科書の話みたいのは面白くないのが多いですよね。読者は主人公が正しいと思うけど、主人公のようになってみたいという意欲は湧きにくい。

あるいは「100%正しい」と描写するほうが簡単ということもあります。主人公に対する敵役をとても嫌な悪党に描いておけばいいからです。しかし、当たり前すぎる勧善懲悪になってしまい、面白みに欠けます。

「主人公にも間違いがある」ほうが難しいと言えます。しかし、そうしないと感情移入がなかなか難しい。それには作者による匙加減が大きく影響し、バランスを取るのは簡単ではないです。

5.行いが間違っていても気持ちが分かるのが大事

もっと申せば「主人公は間違ってるんだけど、気持ちはすごく分かる」ように描けたら成功です。理屈的には矛盾が起きているわけで、それゆえ難しいわけですが。

しかし物語は心情が命です。正しい結論ではなく、キャラに即した結末を描くべきであるわけです。

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