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タイトル:主人公の過去描写のタイミングの返信 投稿者: あざらし

お悩みを解消するために。
まずは『主人公の過去話を挿入するタイミング』で悩んでいるのではなく、『物語の始め方』と『構成』の問題だと認識された方が良いように感じました。
そもそも全ての物語は、クライマックスである物語のピークを主体にすれば、冒頭は過去話だと見ることもできます。
つまりは主人公の過去話だと感じてしまう時点で、冒頭が物語から地続きにならずに浮いてしまっているのかも知れません。
主人公という、ひとりの人間の人生に影響を与えるほど大きな出来事で、物語に必須ならば、それは見せ方の問題で、本来読者のハートをつかみ取るエピソードになるはずです。
”おそらくは”と付け加えますが、kwsrさんの質問を読む限り、ご本人も構成として『なにかおかしい』という直感が働いていらっしゃるようですし、おそらくそれは間違いないのだろうと思います。
(これより以下は細かい説明ですので、必要ならばどうぞ)

仮に物語の開始時点が『主人公10歳』
物語の本編が『主人公17歳』だとしましょうか。
この場合、小説を冒頭から読み進める読者から見れば、本来過去話ではなく単に時系列に並んでいる出来事です。

一方、物語途中に挿入すると、これは疑いようもなく過去話になります。
主人公が語り出せば女々しい印象をつけてしまいかねませんし、もし芯の強いヒーロー然とした性格なら整合性がとれなるかも知れません。
こういった転び方をすればシーンとしても、物語としても浮いてしまいます。

主人公10歳時点でのエピソードに読者のハートをグッとつかみ取るだけのパワーがあるならば、冒頭に使用しても全く問題なく、むしろ古典的なパターンです。
手垢のついたやり方ですが、時間の乖離、エピソードと本編の接着剤は『――それから○年後』というやつですね。

方法をいくつかあげておきます。(極力ネタバレは避けますが、気になる方は読まないでください)

現在までを時系列できっちりと並べるのは、とくに映画で使いやすいパターンですが変化球として使う方法もあります。
例えば【園子温監督:愛のむき出し】
主人公の子供時代、母親がお祈りの最中に妙な咳をするシーンから始まり『母は、僕が小学生のときに死んだ』というナレーションから、(本編主人公視点で)これまでの半生で印象的だった出来事を振り返り、今日を作り出している人格を炙り出すというやり方です。
この映画は変化球の連続で、映画文法をことごとく崩していくので参考になるのではないでしょうか。
三人の主要人物の半生を、現在の一点に収束していき物語本編に点火させる方法は映画的ではありますが斬新かつ印象的です。

小説で変化球ならば【山田宗樹著:嫌われ松子の一生】
新聞記事(直近過去)で始まり、甥の手によって(現在)、松子という女性の生涯(過去)を炙り出す、という構成になっています。

物語本編の主人公が過去を振り返る方式で始まるならば、たとえば【桜庭一樹著:少女には向かない職業】
引用~ 
中学二年生の一年間で、あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した。夏休みにひとり。それと、冬休みにもうひとり。
~引用終わり
極めて小説的な書き出しですし、読了すれば冒頭との絡みが参考になると思います。
キャッチーな冒頭で、最低限の決まり事、おおまかな小説のジャンルも語っていますし、短文でありながら『あたしの現在年齢』『あたしの名前』『時間の開きから計画性殺人の予感』という情報量もあります。
過去そのものが本編であり、現在の”あたし”は本編から見れば未来という位置づけですので、ひとりの人間を決定づける出来事の大きさ、エピソードの大切さを逆説的に読めるかと思います。

まるっきり過去エピソードで始めるなら【秋山瑞人著:龍盤七朝 DRAGONBUSTER 】
引用~
遠い昔、老人は”竜”をみたことがある。
~引用終わり
この後、厠から這い出てきた糞まみれの女が砦の一群を双剣で壊滅させるエピソードへと続くのですが、回想シーンである移ろいゆく記憶をエピソード内での時系列の揺れを利用しつつ、事件後の老人の半生の片鱗を見せながら、年老いても決して忘れることのない強烈な印象が生々しく想起されます。
主人公の過去ではなく、つまり視点移動のある小説ならではですが、物語の根幹である”竜”を読者に強烈に印象づけることに成功しています。

いくつか例を交えましたが、読者の興味を引きつけ、物語の推進力に成り、読者へのサービスになるならば、過去話から始めることには全く問題を感じません。
例に出したのはごく一例で、やり方は先人が作り出した方法だけでも色々ありますので、物語全体を見渡し、構成として最も行かせる方法を考えてみてください。

最後になりますが、気になったことを。

>主人公の目的や考え方に関わってくるので必須

この点です。
――主人公の目的
――主人公の考え方
どちらも過去話に拘らずともエピソードを利用し、物語中のリアルタイムで語れることです。
『過去話は出てこないが、キャラクターの半生が人格を通してぼんやりと見える』
これは小説は無論、漫画でも映画でもプロ作品では普通にやってます。全くやってないのは三流の監督と脚本家が、数字を取れるタレントを使って撮る盆暗ドラマぐらいです。これは制作者がポンコツであるが故に、そうとしか造れないパターン。
もうちょっと追求すると、家事をしながらでも見た気になる(させる)テレビドラマで意図的に使われる手法、要するに頭を使わずとも満足感を与える必要があるならば『直接的に伝わりやすく』することは決して否定しません。
それはそれで、制作者が意図的に使う立派なやり方です。漫画だとヤング誌では少なく、少年誌によく使われます。
代表的には【吾峠呼世晴著:鬼滅の刃】が過去話を組み込んだ成功例ですね。敵側の事情も読者に伝えることが売りのひとつになってます。
目新しい手法ではありませんが、あそこまで徹底すると斬新になってしまうという好例ですし、印象が強いだけに下手に使うと『鬼滅っぽさ』が匂ってしまいかねないほど強烈になってます。

一方、直接的に伝わりやすくする手法に対して、想像させることで伝える手法。
こっちは物語から撤退しない、言い方を変えると物語を楽しませる以前に収益を得ているメディア、映画も小説でもスタンダードな方法。
手っ取り早くは金獅子賞だとかアカデミー賞、ドラマでもなじみ深いところだとエミー賞、こういった作品は軒並みそうです。

で、ライトノベル的な小説の場合、どちらもあります。
ライトノベルでヒットを飛ばす作品だと、直接伝える部分を抑え気味に、伝える場合はサービス重視の感、より読者を楽しませるためが多少強いでしょうか。
これは小説というジャンルにある以上、もともと読者と想像を切り離せない部分が手伝っていると思います。

見せ方を熟慮され工夫を見せられるならば、良い悪いではなく、どちらが相応しいのかはkwsrさんの筆致と作風で決定されるて良いかと思います。
長々と書きましたが、疑問を感じたら、そう感じた己の感性を信じ、逆説的に洗い出し、新たな手法を開発するというのは、クリエイターの常套手段です。
執筆頑張ってください。応援いたします。

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