7000字近くあるので分割二枚投稿しまーす。
途中までですが読みました。良い所は後で書きますんで、取り合えず『つまらない』所から触れます。
俺の所見ですが、つまらないと言われる理由は要するに『読みづらく、読者が得られる情報量が少なく、かつ読者が求めている情報が得られないから』です。
大まかに分けると、以下の5点だと思います。
①地の文・台詞・モノローグの全てにおいて、文章的に同じ言い回しや、定型的なセンテンスが続くため、細かい単位で読者が物語の緩急を掴みづらく、『ふーん、そうなんだ』くらいの熱量で読んでしまう。バリエーションを付けろ。
②地の文の描写量がとても少なく、各シーンの状況やキャラの動きが見えないため、物語中の展開がイメージしづらく、物語に没頭できない。文字数を増やせ。
③キャラの人格面に対する情報量が少なく、読者がキャラの個性や感情を理解しづらく、感情移入したり、好悪を抱きづらい(結果的に読者がキャラに愛着を持てないので、作品そのものへの興味も弱まる)。人物紹介じゃなく、台詞とモノローグで個性を見せろ。
④かなり高頻度で文法的なミスが挟まり、かつ時制や助詞・使役などの根本的な部分であるため、読み進めるのが難しく、度々阻害されるために読書に集中できない。
⑤車に関する説明やレース用語などで専門語が多すぎるため、読んでいて内容がわからない部分も多い。(『テール・トゥ・ノーズ』とか『ヒール・アンド・トゥ』とか言われてもわからない)分かりやすく言い換えましょう。
納得いかない部分も多いでしょうから、各項を掘り下げて説明します。
①文章の言い回しが単一的で緩急がない。
一度ご自身の作品を読み返して頂きたいのですが、まとら魔術さんの小説はほぼ全ての地の文が『○○は◇◇だ』『○○は◇◇ている』『○○は◇◇した』の三つの文型で構成されています。他の形も使った方が良いと思います。
(『おれは疑問に思った』を『疑問がおれの脳裏をよぎる』、『髪をリボンでハーフアップにまとめている』を『髪をまとめるリボンはハーフアップの位置だ』などと言い換えてもいいでしょう)
理由を述べる際はほぼ『AはBだからだ』の文型であり、かなり画一的です。(『そのわけは~だ』とか『BのせいでAなのだ』とか、バリエーションを設けましょう)
同様に、使役用法の文章や非人物主語の文章がとても少なく、報告書のような硬さを感じます。(例えば、『悲鳴を聞くと姉さんが立ち上がった』を『悲鳴が姉さんを立ち上がらせる』と言い換えたり、『男は苦しんだ』と書かず『苦しみが男を襲う』と書いてみよう、という話です)
動作を伴う内容についてもほぼ『誰が何をした/する』の文型であり、もう少しバリエーションが欲しいです。(例えば、『彼女は頭を下げて必死に頼み込む』を『彼女の必死さは、下げた頭の深さが物語っていた』と言い換えてもいいでしょう)
無論、例外もありますが、全体として文章が固まりすぎていてすこし読みづらく、かつ流れが悪いように感じます。
一通り例は挙げてみましたが、もう少し癖のある文章の方が読みごたえがあると思います。
②地の文が短く、描写が薄い。
これに関しては、ただただ『情報を掘り下げろ』『形容詞と副詞を増やせ』以上のことは言えないんですが。
例えば、一話で智が作ったスパゲティの味の情報『美味い』『最高』『六荒も太鼓判』の三つしか実質的に内容がないの、お気づきですか? 付け加えるなら『おれの大好物』『満足』も書いてありますが、もう少し具体性が欲しい所です。
『ソースに和えられた明太子は、そのしなやかさと弾力を失わず~』とか、『口の中でほろりと崩れる明太子の塩辛さが、麺の味を引き立てる』みたいな。
料理の話を書きたい訳じゃない、と仰るならパスタは別に掘り下げなくても構いませんが。
百合シーン。智のお姫様抱っこについての情報を掘り下げて『背筋から伝わる智姉の心拍が、おれの恐怖を和らげる。同時に仄かに感じる甘い香りに気が抜けてしまい、心地よさのあまり脱力した』と書くとか。
あるいは一話のヘアピンカーブでのドリフトのシーン(フライミーソーハイ)。原文だとカーブの鋭さも、ドリフトがどれくらい傾いていたのかも、助手席の窓が傾きすぎて青空しか見えなかったとか、ゴムが地面をこすって嫌な音を立てたとかの情報もないんですが、本当に描かなくていいんですか。
書かないと伝わりませんよ。臨場感も、ドキドキも、車の勢いも。
『速かった』の一言だけじゃ、伝わらないんです。だから、速いせいで起こった事や風の音なんかを描写して臨場感をもっと煽ってほしい。じゃないと読者が盛り上がらない。
形容詞と副詞を描きこめ!
③キャラの人格面に関する描写。
念の為、なんでそれが要るのかから書きますが。それが小説の特徴だからです。小説・漫画・映像、それぞれに表現の仕方が異なるからには、表現できる内容も細かく見ると違ってきます。
一般に、他の媒体と比べた時の文章の利点は内面的・精神的な物に対する表現力です。理由は映像と違って『時間』に縛られる必要がなく、漫画と違って一コマの中で情報を完結させる必要がないためです。
なので、小説媒体では基本的にキャラの葛藤や、精神的成長、恋愛要素、心理戦などを盛り込んだモノが受けやすい傾向にあります。
その上で。まとらさんの人物描写には大きく4つ問題のある部分があります。
A 描写が足りない
②で触れたのと同じで単純に地の文やモノローグでの描写量が足りません。もっと書け。文字数を増やせ。
例えば、一話の六荒との遭遇シーン。
『おれは戦慄した。眉毛がVの字になる。何故なら男性恐怖症だからだ。どれぐらいっていうと、体を触る事や近付くだけでも嫌だからだ』(原文)
一文目が恐怖と不快感を感じた旨、二文目がそれに対する体の反応、三・四文目が理由の説明になっています。
一文目の恐怖と不快感はもう少し掘り下げてもいいと思います。例えばこんな感じ。細かい感情は勝手な妄想で作ったので解釈違いならスンマセン。
『気に食わない声に思わず肌が泡立つのを感じて、自分が戦慄していると自覚した。少しビビってる自分にも、声の主にも腹が立って、眉を吊り上げる。気に食わない理由? 俺が男性恐怖症だからだ。それこそ、触れたり近付くのも嫌ってくらいに』
戦慄部分の具体性の掘り下げをし、眉を吊り上げる際の細かい感情の機微を書き加え、多少文体を崩してみました。
文体を崩す理由はその方が感情的に見えるからです。
①で言い忘れましたが、各キャラが感情を大きく動かすシーンでも固い文体を貫いていると、感情が見えずらくなるので適宜文体を崩した方が良いでしょう。
B 一貫性がない描写が多い
何かというと、感情や個性を表現するにあたってちょっと違和感を感じる部分が多いという事です。
例えば一話冒頭、男性恐怖症のはずのショウコが熱意に圧されたとはいえ、男性恐怖症の描写もなく見知らぬ男の胸を触っていたり。
同じシーンの男に関する地の文『それを聞いた、男は激しい口調でお願いした』という文章は『お願い』という単語の持つニュアンスの緩さが、口調の激しさや男の熱意に反していて、不自然に映ります。『懇願した』とか『頼み込んだ』とか『求めた』とかの言葉を使った方が良いでしょう。
他の箇所でも、こういうのが散見されます。例えば三話での谷村と不愉快な仲間達による煽り台詞。『葛西サクラはコイツに警戒するとは恥ずかしい事っス』(原文)ですが、相手を卑下するなら『こんな奴』『こんなガキ』みたいな言い回しをする方が良いんじゃないでしょうか。
C 感情が足りない
そもそも論ではあるんですが、レース中に各キャラが焦ったり、慄いたり、予想外の展開にテンションが上がったりと言った描写を、すべて台詞で済ませようとしているせいで、全体にレース中の感情が見えづらいんですよ。
例を挙げると、二話での休憩後の試合で智に追い詰められるシーン、段々迫ってくることや後続が追い抜かれて後がなくなっていく描写はありますが、翔子の感情について直接触れる文はほとんどありません。
シーンとしては強い焦りの中で覚醒技の『コンパクト・メテオ』を繰り出すも同じ技を返され、精度でも負け、差し返せない所まで逃げられてしまう、という強い悔しさや遠い背中への憧れを抱くシーンと思うのですが、そういう感情が地の文でほとんど書かれていません。
こういうの、もっと書いて。速さへの憧れと、追い抜かれる口惜しさと、いつか食らいつくという強い渇望を、ちゃんと書いてください。
D 説明っぽいセリフが多い
これについては、作品全体で本当にそうなんですが地の文で書くべきことを台詞で書いている部分がとても多く、そのせいで台詞から臨場感が失われている上にキャラの個性が見えづらくなっています。
分かりやすくするためあえて嫌な言い回しをしますが、
テンプレラブコメの冒頭でヒロインが『キャー! まさか遅刻しそうになってトーストを加えながら走ってたら曲がり角から急に自転車に乗った茶髪の少年が飛び出してくるなんて思わなかったわよ! しかも偶然かも知れないとはいえわたしのスカートの中に頭を突っ込んでくるなんてヘンタイさんね!』と言いやがったらどう思うでしょう。
多分『なんか説明っぽいキャラだな』か『これを噛まずに言えるとは、すごく滑舌が良いな』のどちらかでしょう。そして多分、このキャラにそれ以上の第一印象は付きません。どんな美少女だろうが、人外だろうが。
説明的なセリフは、解説キャラ以外の全てにおいて『他の個性を薄めるノイズ』二しかなり得ません。ですので、気をつけた方が良いでしょう。