ライトノベルの基礎を一番最初に築いた作家は、19世紀のスコットランドの幻想作家ジョージ・マクドナルド(1824年12月10日~1905年9月18日)だと考えられます。
彼は児童向けファンタジーのパイオニアであり、次のように述べているからです。
「私は子供のためではなく、子供の心を持った人……5歳だろうと、15歳だろうと、75歳だろうと実年齢は関係ない……のために書くのだ」
この言葉から19世紀においても、子供向けのファンタジーを楽しんでいた『大きなお友達』がいたことがうかがえます。この精神は、現代のライトノベル作家そのままです。
マクドナルドは日本ではまったく知られていませんが、人間探求の手法としてファンタジーを活用し、『ナルニア国物語』(1950年刊行)のC・S・ルイスや『指輪物語』(1954年刊行)のJ・R・R・トールキンに大きな影響を与えました。
トールキンは子供の頃、マクドナルドの作品をむさぼるように読んでいたそうです。彼の著者『指輪物語』は、日本のファンタジーブームの火付け役で、この作品からTRPGが生まれ、TRPGから『ロードス島戦記』(1988年刊行)といったファンタジーライトノベルが派生しました。
『指輪物語』からさらにライトノベルの源流を遡れば、マクドナルドの作品に行き当たるのです。
『ファンタステス』、『お姫様とゴブリンの物語』、『黄金の鍵』、『北風のうしろの国』といった作品がマクドナルドの代表作としてあげられます。
トールキンは『黄金の鍵』をファンタジー童話の最高傑作と賞賛しています。
C・S・ルイスは、『ファンタステス』を「私の想像力を回心させ、洗礼した」と絶賛しています。ルイスのマクドナルドへの傾倒ぶりはすさまじく、長編小説『天国と地獄の離婚』(1945年刊行)の中にマクドナルド本人を登場させるほどです。
また、マクドナルドは、ルイス・キャロルの友人であり『不思議の国のアリス』(1865年刊行)の未完成原稿を読んで、この出版を手伝いました。ルイス・キャロルにこの作品の出版を決意させたのは、マクドナルドの娘の熱心な勧めによるものでした。もし、マクドナルドとの出会いがなかったら、『不思議の国のアリス』は存在しなかったかも知れないのです。児童文学界にも多大な影響を与えていると言えます。
マクドナルドが文学の道を志したのは、18歳の頃、ドイツ・ロマン主義の作品に出会ったからだとされています。中でも後期ロマン派を代表する幻想作家E.T.A.ホフマンに影響を受けました。
ライトノベル『“文学少女”シリーズ』(2006年刊行)のヒロイン天野遠子によると、彼の作風は次のようなものであるそうです。
「マクドナルドの物語には、生と死、光と影が、同居しているの。ページをめくった瞬間、魔法のような言葉の連なりが、荘厳な音楽のように響いて、わたしたちの周りの風景を、夜明け前の薄桃色や夕暮れ時のセピア色に、染め変えてしまうのよ!」
“文学少女”と飢え渇く幽霊【ゴースト】より引用
遠子先輩、絶賛していますな。もっとも、文学少女である彼女は、どんな文学作品でも絶賛レビューしていますが。
現在のライトノベルや漫画、アニメは、似たような作品が溢れてコピーのコピーと言われるような状況になっています。この状況から脱するために『指輪物語』のさらに源流の物語を読んで、そのエッセンスを吸収してみてはいかがでしょうか?
マクドナルド童話全集『王女とゴブリン』の訳者、村上光彦は、優れたファンタジー童話というのは、イメージの豊かさと、そこに込められた思想の深さ(作家の精神内部の絵図)があるものだと、あとがきで語っています。
ともすれば私たちは、目新しい設定や世界観にばかり目が行ってしまいますが、そういったものが、人間を描くのに役立っていなければ、優れたファンタジーにはならないということです。
●補足
マクドナルドは牧師をしていた経歴からか、その作風は説教臭い物という批判もあります。
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