ライトノベル作法研究所
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  4. 二重の関係性公開日:2012/01/31

キャラに二重の関係性を持たせる

 前項・『キャラの魅力引き出す人間関係』の続きです。
 注目していただきたいのが、「キャラに二重の関係性を持たせる」ことです。
 ヤマグチノボルの『ゼロの使い魔』がおもしろいのは、主人公・サイトの立場は限りなく恋人に近い状態だけれども「使い魔」という属性も持ち続けているところです。
 ルイズは嫉妬に駆られた際に、サイトを口汚く罵倒し、股間を蹴り挙げ、魔法で吹っ飛ばすなど、情け容赦のないお仕置きをします。

 キャラクターの性格や言動は、このように極端であるほど印象に残りやすいです。
 しかし、理由もなく暴力的な言動を見せては、ただの危ない人になってしまいます。

 使い魔は主人である魔法使いの奴隷という身分なので、女性として嫉妬に駆られた際に、人権無視なお仕置きを加えても、ルイズは人格破綻者とは見られません。
 「使い魔」というサイトの属性は、ルイズが極端なお仕置きをしても、読者に受け入れてもらえる下地として機能しています。

 さらに、「使い魔」であると同時に「恋人(未満)」という二重の関係性は、二人の間に齟齬や駆け引きを生みだし、ハラハラさせてくれます。

 本当はサイトのことが好きなくせに、使い魔とご主人さまという関係上、プライドが邪魔をして冷たい態度を取ったり、立場を利用して彼に言うことを聞かせようとするルイズを見て、読者はニヤニヤしてしまうわけです。
 ルイズは「公」の立場では、サイトを使い魔として扱いますが、「私」領域では好きな男性であるため、どちらの顔で接するのか、予測がつかないところがあります。

 サイトも、ルイズの態度は、「使い魔」として自分の身を案じてくれているだけなのか、恋人として見てくれているのか、物語の中盤で悩んでいます。
 これがルイズとサイト、双方の魅力を引き出す原泉になっています。

 ルイズが仕える女王アンリエッタは、彼女の「主君」であると同時に幼馴染の「親友」でもあります。
 公の場所では、分を弁えて臣下の礼を取りますが、二人っきりの時や、プライベートな対面の場では「親友」としての顔で接します。

 『ふたつの顔を社会的な状況に応じて使い分ける』のは、キャラに多面性を与えるのに非常に効果的です。
 キャラクターが生身の人間としてリアリティを持ち、魅力が深まります。

 他にも吉田直の『トリニティ・ブラッド』の主人公アベル・ナイトロードも、上司である国務聖省長官カテリーナ・スフォルツァと二重の関係性を持っています。
 「上司」と「親友(片思い?)」です。
 後者は、隠れた関係なので、作中で描かれることはほんとんどありません。

 アベルは公式には教皇庁という組織の下っ端中の下っ端にすぎません。
 また、ドジでのほほんとした性格のため、同僚からは、しばしば「ダメ神父」と呼ばれています。
 彼は、教皇庁の大幹部であるカテリーナに対して、普段は「うちの上司、すげー怖いんですよ」と彼女を恐れるような言動を繰り返しています。
 実際に、カテリーナも彼を部下として容赦なく死地に向かわせ、公の場で特別扱いはしていません。

 しかし、これは実は建前であり、プライベートな状況で二人が会う時は、盟友として、他の誰にも見せない顔をのぞかせることがあります。
 アベルの一人称が「私」から「俺」に変わり、口調もシリアスになるなど、カテリーナだけにしか見せない本当の顔があるというのが、実にミステリアスで二人の関係を過去を、もっと知りたい! と思わせます。
 つまり、ここでも「公」と「私」の関係が異なるわけです。

 さらに、二重の関係性は、登場人物に多面性を与えるだけではありません。
 二つの関係が「親友」で「宿敵」、「片思い」で「敵」など、相反する場合、キャラクターの内面に葛藤を生みだし、ドラマを自然と盛り上げてくれます。

 例えば、漫画『ベルセルク』の主人公ガッツとグリフィスは、「親友」であると同時に「宿敵」であるという二重関係があります。
 ガッツにとってグリフィスは最大の友なのだけれども、過去に痛烈な裏切りをされているので、倒すべき敵として憎悪しています。
 しかし、それでもグリフィスを完全には憎めず、葛藤しています。
 グリフィスもガッツを唯一の友として認めており、彼の友であるために、彼を裏切ったという複雑な面を持っています。
 お互いに認め合い、惹かれあいながらも、戦うしかない、という状況は読んでいてゾクゾクします。

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