ライトノベル作法研究所
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  4. 主人公は読者に近くて読者の理想公開日:2014/09/13

主人公は読者に近くて読者の理想

 ライトノベルの主人公は、ラノベの対象読者層である10代の男性オタクという属性に近く、彼らの理想像を反映した者であることが望ましいです。

 読者は、主人公になりきって物語を楽しみます。「主人公=自分」なのです。主人公が自分に近しい属性を備えた人物であると、主人公に自分を重ねやすくなります。

 例えば、大ヒット作『ソードアート・オンライン』(2009年4月10日刊行)の主人公であるキリトは、ネットゲームとパソコン操作技術に長けた少年です(読者に近い属性)。1歳下のかわいい義妹がおり、彼女から惚れられています。他の女の子からもモテモテです(読者の理想)。

 大ヒット作『生徒会の一存』(2008年 1月19日刊行)の主人公である杉崎鍵は、エロゲマスターを自称する高校二年生で、かなりのオタク知識を持っています(読者に近い属性)。美少女の義理の妹がおり、彼女から好意を持たれている上に、生徒会役員の美少女たちからも好意を寄せられ、彼女らに囲まれて毎日楽しく生きています(読者の理想)。

 ヒット作『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(2011年3月18日刊行)の主人公である比企谷八幡は、女の子にモテない非リア充として生きてきた高校二年生です。人助けができる良い奴なのですが、斜に構えた性格の隠れオタクでもあります(読者に近い属性)。でも、彼を受け入れてくれる奉仕部という居場所が有る上、由比ヶ浜 結衣(ゆいがはま ゆい)という女の子から好かれており、彼のことが大好きで良き理解者でもある妹がいます(読者の理想)。

 以上にあげた主人公は10代の男性オタクという読者に近い属性と、読者が理想としている人物像の両方を満たしています。だから、人気があるのです。

 主人公が少女であると10代の男性読者は、彼女らの思考回路や価値観が理解できないので、主人公になりきって楽しむということができません。これは大きなデメリットです。
 このためライトノベルの主人公は、10代の少年であることが基本で、女性主人公というのは例外的な存在になります。

 中には『聖剣の刀鍛冶』(2007年11月22日刊行)のように女性主人公でヒットした作品もあります。この作品にはタイトルにもなっている聖剣を作る技術を持ったルークという主人公級の少年キャラクターがおり、彼を感情移入の対象とすることができるようになっています。私は途中まで、このルークが主人公なのではないかと思って読み進めていました。
 また、『聖剣の刀鍛冶』は萌えとラブコメで定評のあるMF文庫Jで刊行されていますが、ルークが影を背負った謎めいた少年で、女の子にあまり興味なさそうな態度を取ることから、女性読者を意識しているような節があります。
 このように、女性を主人公にする場合には、ラノベのメイン読者層が感情移入しにくいというデメリットを打ち消すような工夫が求められるので、難易度が高くなります。

 また、10代の男性オタクが理想とするキャラクター像とはズバリ、「最強」で「モテモテ」です。男性というのは太古の昔、女性や子供を外敵から守るという役割を担っていたので、遺伝的に「強さへの憧れ」があります。また、若い男性は異性を獲得したいという欲求も強いので、この両方の本能を満たせるキャラクターが人気となります。

 ヒット作である『ストライク・ザ・ブラッド』(2011年5月刊行)の主人公、暁 古城(あかつき こじょう)は、世界最強の吸血鬼である第四真祖です。天災にも等しい力を持った12体の眷獣を従えています。
 その上、女の子たちからもモテモテで、次々に登場するヒロインの血を吸うことで、反抗的な眷獣を完全な支配下において、使いこなせるようになっていきます。

「アルディギア王家が長女、ラ・フォリア・リハヴァインの名において命じます。第四真祖・暁 古城、わたくしの血を吸いなさい」
(中略)
「信じていますよ、古城」
 自分の首筋に残る傷を愛おしげに撫でて、王女は美しい花のように微笑んだ。
引用・ストライク・ザ・ブラッド 3巻 著者:三雲 岳斗 2012年2月刊行

 吸血鬼にとって血を吸うというのは、性行動のメタファーです。ヒロインにとっては身を捧げる、食べられて同化するという意味があります。これを行うことで新たな力を覚醒させ、ヒロインの応援を受けながら、強敵に立ち向かって打ち勝つという、力とモテ、両方を満たすストーリー構成になっています。

 暁古城はオタクではありませんが、高校一年生であり学園生活を送っています。なんと吸血鬼の大元の先祖でありながら、高校生でもあるというスゴイ設定になっているのです。
 これによって、ラノベのメイン読者層が感情移入しやすく、しかも読者の憧れと快感も満たす、という2つの条件を両立させています。

○オマケ
 女性は共感能力が男性よりはるかに優れているため、異性の主人公でも、彼らの気持ちを理解し、共感して楽しむことができます。少女レーベルでは男性主人公も少なくありません。BL系では男性主人公ばかりです。
 また、女性は力への憧れはありませんが、関係性への欲求があります。強い絆や憎悪、愛といったものに弱いのです。このため、少女レーベルでは複数の登場人物の愛と憎悪が入り乱れます。人間関係が少年向けレーベルよりずっと複雑です。
 戦いもいかに相手を憎悪しているか、愛しているかを示す意味合いが強く、バトルの勝ち負けや、キャラクターの能力に興奮しているのではありません。
 このように男性と女性では、好むキャラクター像やストーリーがまったく異なるので、創作をする場合は、まずどちらをメインターゲットにするのか決めなくてはなりません。

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