ライトノベル作法研究所
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  4. ラノベ作家の才能公開日:2012/06/05

ライトノベル作家に求められる才能

 10代のオタク男子の欲求、気持ちを理解し、彼らがおもしろいと思える物語を、楽しんで書けるかどうかが、ラノベ作家に求められる最大の才能です。

 ラノベ作家として最も適しているのは、20代前半くらいのオタク男子です。20代前半であれば、10代の若者の気持ちも理解できるし、彼らの生活実態を客観的に眺めることも可能です。
 オタクとしてのレベルが高ければ、オタクの好む物を自然と理解できるので、彼らの嗜好や流行に合わせた『外しにくい』物語を考えることができます。

 しかし、30代くらいになってくると、もはや高校生だったころの記憶も薄らぎ、学校生活のことをイメージするのも難しくなります。嗜好も変化し、健全な物より鬱でハード路線の物を好むようになり(エロゲーに魂が汚染される!)、恋愛や結婚などをしていれば、熱い萌え魂を維持するのも困難になります。

 彼女ができて家に招待したり、同棲などを始めようとすれば、萌え萌えオーラ全開! の秘蔵お宝アイテムを処分するか否か、究極の選択を迫られることになります。また、女性に対する幻想や妄想力がいちじるしく低下し、少年の日のピュアな心を失ってしまう傾向があります。

 ライトノベル作家の本田透は『モテると妄想パワーが落ちて創造力が消えてしまうから、オリは護身する!』と言っています。彼に言わせると、『NHKにようこそ!』(2002/01)で有名になったラノベ作家・滝本竜彦が小説を書かなくなったのは、恋人ができて幸せになったからだ、そうです。
 滝本竜彦さんは元ひきこもりで、その体験を元に佐藤達広というひきこもり歴4年の主人公を登場させましたが、リア充になってしまったため、その力の源である暗黒パワーを失ってしまったというのです。

 つまり、歳を取れば取るほど、少年の気持ちを理解するのが難しくなり、オタクとして高いレベルに留まることも、健全な精神を維持することも困難(より過激な鬱、エロに魂が惹かれる)になるということです。

 シリーズ累計400万部を売り上げた大ヒット作『僕は友達が少ない』 (2009/08)について、当サイトに次のようなレビューが寄せられました。この作品は、友達がいない主人公・羽瀬川小鷹や登場人物たちが、隣人部という友達を作るための部活を作って、ギャルゲーをやったり、プールに行ったりして遊ぶ、というものです。

しめじさん・19歳女性の意見
 (略)小鷹だけではなく、他の部員達も皆不器用です。
 友達が少なくコミュニケーションにあまり慣れていません。
 その場の勢いで調子よく喋れたとしても、本質的に人との距離の測り方が不器用です。ものすごく。
 だから6人もいる女の子達は皆仲良しこよしなわけではなく、どこかぎこちない関係です。
 少なくとも、気軽に遊びにいったりメールしたりという関係では決してありません。
 歩み寄ろうとしたり喧嘩したり、いろんなイベントを経ながら少しずつ経験値を積んでいる状態です。
 コメディパートが注目されがちな本作ですが、人と人の距離の描き方がとてもリアルなんです。
 コミュニケーションが苦手な人たちが悩んだり葛藤したりする話だから、たくさんの現代の若者が共感できる。
 笑いながらも、あーそうだよな、わかるわかる、と思っちゃう。
 それが、「はがない」(作品略称)の支持される理由の一つではないでしょうか。

 他にもAmazonのレビューを見てみると、登場人物の心理に共感できるという意見がいくつか寄せられています。

 10代の若者の置かれた状況や心境を理解し、その願望を反映した物語を作っているのですね。

 また、この作品は、それ以前のヒット作『凉宮ハルヒの憂鬱』『生徒会の一存』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の良いところをすべて足して作られています。
 隣人部という、ヒロインの個人的な願望を満たすための部活というアイディアが『ハルヒ』。
 美少女とギャルゲーをやって盛り上がったり、オタクトークをするのが『生徒会』。
 似たもの同士だけど、仲の悪い美少女二人が口喧嘩を繰り返すのが『俺妹』。

 このためテンプレート的な作品と呼ばれることもありますが、実は既存作品のいいとこ取りをして、オタクが喜ぶ作品を作るのは簡単ではなく、かなりの能力を必要とします。

 売れているライトノベルやサブカル作品を普段から研究して、既存作品の何がオタクに受けているのか見抜くというのは、ハイレベルのオタクにしかできません。審美眼が試されるのです。

 また、『はがない』(作品略称)は、とにかく作者が楽しんで書いているのが伝わってきます。
 この楽しんで書いているというのが重要です。
 人間は自分と同じ価値観・嗜好を持った同種の存在に好感を持つのです。

 なにより、好きで作っている人の作品の方が、間に合わせの仕事として作っている人の作品よりクオリティーが高くなります。オタクではない人、萌えが嫌いな人が、売れるから、という理由でろくに調査もせず、深く考えもせずに既存作品を繋ぎ合わせて作った劣化コピー的な作品というのは、ツマラナイものです。
 テンプレートにも良いテンプレートと悪いテンプレートがあるのです。

 例えば、1995年に大ヒットしたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』は、過去の名作の良いところ取りをした、オタクが好む要素をすべて詰め込んでいたのが、成功の要因だったと言われています。『巨大ロボット』『地下の秘密基地』『怪獣』『年上の巨乳のお姉さん』『気の強いツンデレ娘』『無口でかわいそうな美少女』『ガンダムのアムロをパワーアップさせたようなヘタレ主人公』『女の子と一つ屋根の下』『スケールの大きい謎の計画』『謎の秘密結社』『天使』『ハルマゲドン』、と良くこれだけの要素をまとめ上げたな、と驚嘆してしまうほどです。

 これが良いテンプレートのお手本です。オタクだからこそ、オタクの好むものが理解できるのです。
 オタクではない人間には、エヴァを構成する素材選びがまずできません。

 2006年にケータイ小説『恋空』がヒットしてメディアミックス展開され、ケータイ小説ブームが起きましたが、これと通底するものがあります。作者は、読者層と同じ、ヤンキー系の若い女性でした。このため、読者が好む文体、好むストーリー、好むキャラクターというのが、自然とわかっていたのですね。
 同じ属性の若い女性の欲求、気持ちを理解し、彼女らがおもしろいと思える物語を楽しんで書いて提供したから、共感を呼び、支持されたのです。
 作者はこの小説が思いの外ヒットして、想定読者層以外の人間にまで読まれるとは考えていなかったのでしょう。その文章は、既存の文学作品の枠組みから大きく外れた、日常的なメールやブログに近いものでした。

 このため、ターゲット層から外れた男性、一般文芸好きやラノベファンの好みからは、はるかにかけ離れた物となり、彼らからボコボコに叩かれることになりました。近しい距離にいるけれど、異質な存在というのは、嫌悪の対象になりがちなのです。

 ケータイ小説とエヴァの違いを一言で言うと、ターゲット層だけでなく、他の層にまで受け入れられるように作っているか否かです。

 『はがない』は、『エヴァ』より、ケータイ小説に近い作品だと言えます。
 10代のオタクの心を掴んだので、彼らから熱烈に支持されましたが、それ以外の層を切り捨てたため、低俗な物として批判されました。

 『フルメタ』『エヴァ』がユーモアがありながら教養や知性を感じさせ、幅広い年代層に支持された夏目漱石的な作品だったのとは対象的です。『はがない』は、ライトノベルのメイン読者層にとにかく強い快感を与えることを狙ったものです。

 高めの年齢層や読書好きにとっては『フルメタ』のような作品が理想でしょうが、この境地に20代そこそこで達するのは、正直、困難です。ライトノベル作家に若い間になることを狙うのであれば『はがない』路線を取ることが、正解に近いと言えます。
 そもそも夏目漱石にも欠点があって、彼は女性キャラクターを描くのが苦手で、下手だったのですね。だから、漱石はラノベ作家としては失格です。

 なんでもとにかく教養を身につける、という王道ではなく、読者が求めている物を理解し、それを提供するためには、どうしたら良いか? どういったスキルを身につけるのが良いのか? を考えて、効率的にやっていくというのも一つの戦略です。ラノベ作家は20代前半くらいが最大の適性を持つ期間であり、それを越えると、デビューがだんだん難しくなります。時間をかけて知識、教養を得ていると、乗り遅れることになりかねません。
 2012年現在なら、「キャラ同士のおもしろい掛け合い」「ラブコメによる萌え、切なさの演出」が必須スキルとなっています。漱石のように、中国の古典やシェークスピアを学ぶのでなく、こちらを極めた方が費用対効果が大きいです。

 もちろん、できれば、「読者の嗜好を理解しオタク道を極めること」、「名作の文学や経済学などのさまざまな知識、教養に触れること」両方をやった方が良いです。

 どちらか片一方に片寄ると、『狼と香辛料』『“文学少女”』といった経済学、文学をライトノベルでやる、という希有な独自性を持った作品は作れません。
 また、センスに頼っていると、歳を取ったら通用しなくなるでしょう。
 ラノベ作家が短命なのは、真の実力を得る前にセンスでデビューしてしまい、次回作が作れなくなるのが、要因の一つだと考えられます。

●補足
 ライトノベル作家の田村登正は、2001年に『大唐風雲記 長安の履児、虎の尾を履む』で第8回電撃ゲーム小説大賞を受賞しましたが、受賞当時の年齢が50歳を越えていて注目されました。ラノベ作家は20代でデビューする人ばかりです。
 彼は2007年に『マルティプレックス―彼女とぼくのコミイッタ日々』という作品を発表しており、『3年生き残れた奇跡』と言われる一発屋ばかりのラノベ界で、6年間生き残り続けました(2012年6月段階)。このため、高齢でラノベ作家を目指す人の希望の星となっています。

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