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夏の湿った夜空を見上げて
今夜も父親とその妻がやかましく吠えている。やれ浮気者だ、やれ出て行けだと、時間も気にせずよく騒げるものだ。互いにバツ持ちの夫婦というのは、近所迷惑という概念がないのだろうか。 保護者がこんな状態では、愛だの恋だのの価値というものを考えたくもなる。 近頃、頻繁になってきた怒鳴り声の応酬。その流れ弾が二階の部屋にまで響いてきていた。 耳障りな音が少しでも外へ逃げるように、瀬久斗は毎晩窓を開け放っている。そして霞んだ月をぼんやりと眺めながら思うのだ。愛とはなんだ、と。 「瀬久斗~、なんかCD貸して。 するとそこへ瀬久斗の姉、 姉とはいっても、二人は親の連れ子同士で同い年。血の繋がりなどないものの、そこはやはり姉弟。親に対する不快感は共通のようだ。 「好きなの持ってけよ。っつうか、CDくらい自分で買えよな」 「あたしには貸してくれる優しい弟がいるからいいのよー」 冗談めかしてそんなことを言いながら、明日羽はラックを漁り始める。 そのとき、乾いた音の流れ弾が部屋に飛び込んできた。いつの間にか夫婦は、言葉だけでなく物まで投げ合うようになったらしい。 あまりにも下らない争いに、瀬久斗は大きな欠伸の後に感想を漏らす。 「もっと静かにやってほしいもんだね。あのお二人様には」 他人事のように言ってはみるが、色々と害は被っている。大いに。 明日羽は聞き流しているように見えたが、抱えている思いは同じのようだった。呆れ顔でラックからケースを一枚引き抜いて、ジャケットを確認すると軽く頷く。 「ああいう病気は一生治らないわよ。あたしの親も……あんたの親もね」 瀬久斗は明日羽の手元に目をやる。持っていたのは、今流行りのアニメソングだった。ポップな絵柄で描かれた少女たちがこちらを向いて、目一杯の笑顔を押し付けてくる。 瀬久斗の視線に気付いたのか、明日羽はジャケットが見えるように指で挟んで、悪戯っぽく笑った。 「こんな女の子にばっかり夢中になってるようじゃ、いつまでも彼女なんてできないわよ~」 「うっせ。その恰好の姉貴に言われたくない」 言って、瀬久斗は明日羽の服装を指す。 ヒラヒラでフリフリ、大きなリボンが特徴的な白と紺の給仕服。つまりはメイド服である。いつもは流している黒の長髪も左右の高い位置でまとめ、絵に描いたようなツインテールとなっていた。更にはネコミミのカチューシャまで装備し、完全にファンタジックな世界の住人と化している。 しかし明日羽は瀬久斗のジト目に怯むどころか、逆に大袈裟に肩をすくめて嘆息まで吐いてみせる。 「分かってないわね~、これはオシャレよ。しかも家でしかやらないんだから、極めてすこぶるとっても健全」 オシャレなら仕方ないが、隠れてすることが健全かどうかは甚だ疑問なところだ。 しかし、相手の嗜好をとやかく言うつもりはない。家庭がこういう状況では、何かしらで紛らわせたくもなる。 「はいはい、どうせ俺は不健全ですよ。彼女もできなければ学校以外に外出もしない寂しい奴ですよ」 などと自嘲すると、明日羽はケラケラと笑ってから瀬久斗に背を向けた。 「あんたもその気になれば彼女くらい作れるわよ。あたしが保証してあげる。それじゃ、CDありがとね」 そう言い残し、ネコミミのメイドは部屋を出て行った。瀬久斗は離れていく足音を聞きながら一つ息を吐き、 「まったく……」 とこぼす。だが、継いだ言葉は声にならずに、口内でわだかまるだけだった。 ――人の気も知らないで。 だから、瀬久斗にとってはどうでもいいのだ。あってもなくても構わないものなのだ。 “虫の声が聞こえる”などという、こんな能力のことは。 『おそらくきっと、ファーブルは』 馴染みの客は大抵、瀬久斗が寝る寸前にやってくる。 名はナリヒラ。種族は、アリ。 「うおぉ~ん、旦那ぁ、聞いてくれよ~。うおぉ~ん」 「なんだよ、またお前か。あと俺を旦那って呼ぶなっつうの」 「でも青二才って言ったら怒ったじゃないか~。うおぉ~ん」 「当たり前だ。悪口だぞ、それ」 「え、そうなの? まぁ気にしない気にしない。……うおぉ~ん」 月明かりに照らされた窓枠の隅で、小さなアリがおいおい泣いている。……その割には軽い足取りでサッシ付近を歩き回り、瀬久斗の部屋に踏み入ろうと画策しているのだが。 「だからお前の『働く気が起きない』ってのは五月病だっての。働いてればそのうち治る。分かったら帰れ」 瀬久斗は窓の外の客に向かって、面倒くさそうに言う。いつも悩みの相談と称して無駄話をしにくるこの困った奴は、GW頃に初めて来て以来、すっかり常連になってしまったのだ。 ナリヒラ曰く、瀬久斗は「一流のお悩み相談員」らしい。 「違うんだよ旦那~。今日は悲しいことがあったんだよぉ。聞いてくれよ~開けてくれよ~入れてくれよ~」 相手をするのが億劫で追い返そうと思っていたのだが、どうやら今回は遊びにきたわけではないらしい。 虫の話を長々と聞かされることに辟易してはいるものの、昆虫自体は嫌いではない瀬久斗はつい、窓を開けてやってしまう。 「しょうがないなぁ。ちょっとだけだぞ?」 「さっすが旦那。話が分かる~」 アリと人間を分かつガラスの戸がなくなって、ナリヒラは嬉しそうにサッシを乗り越えた。そして比較的明るく風通しの良いところで止まると、身振り手振りで瀬久斗に訴えかける。 「今日さぁ、親友のモハメドの奴がさぁ、車に轢かれて死んじまったんだよぉ」 「あぁ、そりゃ気の毒だったな」 「モハメドの遺体が発見されたとき、アイツの近くにセミの抜け殻があったんだ。あんな重いものを独りで運んでたんだよ。きっと、アイツにとって一世一代の大仕事だったんだ。巣に帰れば同僚たちの賞賛と尊敬が待ってたはずなのに……うおぉ~ん」 瀬久斗は適当に相槌を打ってやる。同じ社会性のある生き物同士、気持ちは分からないでもない。 「その所為かなぁ、俺っちさぁ、労働意欲がなくなっちまってさ~」 「だからそれは五月病だ! 責任転嫁するな!」 同情した傍からこれである。瀬久斗は欠伸も吹き飛ばす大きな溜め息を吐かずにはいられなかった。 ナリヒラはその後も外回りの苦労や巣内での地位の低さ、最近やってきた外国のアリとの攻防など延々喋りまくった。 そして時計の長針が一周する頃になって、ようやくスッキリしたらしい。何かを探すように忙しなく歩き始め、帰る準備を始めた。 意気揚々と壁を上り、満足気に窓の外を眺める。そのアゴに、部屋に落ちていたと思われるスナック菓子の欠片を咥えて。 このアリ、五月病のくせに仕事はちゃっかりしている。 その逞しさすら感じられる後ろ姿に、瀬久斗は何気なく声をかけてやった。 「自信持てよ。お前らがしっかり働いてるから、仲間は食い物に困らないんだからな。言ってみれば、お前が巣を支えてるんだぞ。だからまぁ……頑張れ」 言った後、決まって後悔するのだ。アリなんかに何を言っているのだろうと。 自分に呆れ果てる瀬久斗だったが、その前でナリヒラは小さな身体をプルプルと震わせていた。 「俺っち……感動しちまったぜ! いつもありがとう旦那! じゃあな、また来るよ!」 もう来るな、とはさすがに言えない。こういうお節介をするから、相談に乗ってやっただけのアリが常連になるのだ。分かっているのにやめらない自分が情けないったらない。 こういうとき邪魔なのだ、この能力は。 瀬久斗は窓を閉めると、本棚へと視線を投げる。子供の頃、夢中で読んでいたファーブル昆虫記の絵本が、未だ捨てられずに並んでいた。 いつから、なぜ備わったのかは分からない。気付けば虫の声が聞こえるようになっていた。 子供の頃から自室でばかり過ごしてきた瀬久斗だったが、この力のおかげで退屈はしなかった。 老いたクワガタの武勇伝に胸を躍らせ、ちびっ子に狙われたトンボの逃亡劇に手に汗を握った。 楽しいことはすべて自分の部屋にあった。外は嫌なものが多くて出たくなかったのもある。 やってくる昆虫たちはとても友好的で優しくて、何より―― 「あーっ、もう寝よ」 思い出すのも面倒になり、瀬久斗は頭を掻いて横になった。 明日は静かな夜を迎えたい、なんてことは口に出さず。 期末試験の範囲が発表された直後の昼休み。 瀬久斗が教室でコーヒー牛乳片手にコロッケパンをかじっていると、前の席に座る大介が興奮気味に話しかけてきた。 手には携帯電話。どうやら、いつもチェックしている動画投稿サイトで何か発見したらしい。 「瀬久斗っ、これ見ろ! 公園の砂場で古代遺跡を発見したかのような感動だぞ!」 「……イマイチ共感できない例えだな」 「とにかく! ほらっ、これ!」 大介が鼻息を荒くして、携帯電話のディスプレイを眼前に突きつけてくる。そのままだと近すぎて見えないため、瀬久斗は携帯電話を奪ってからコーヒー牛乳をすすりつつ画面に視線を落とした。 そこではネコミミを生やしたツインテールのメイドさんが、流行りのアニメソングに合わせて踊っている。 これ自体は別段、珍しいものではない。 ……だが、姉だった。 「ぶふぁっ」 画面の向こう、六畳一間の洋室の中に見覚えのあるものがガッツリ映り込んでいる。人物の服装や髪型だけでなく、部屋のレイアウトに至るまで。更に流れている曲は先日、明日羽に貸したCDに入っているものだ。 間違いなく、姉だった。 「ぶふぁっ」 「ぬおわー! 二度目かぁ!」 全身コーヒー牛乳色に染まった大介の叫びも耳に入らず、瀬久斗はディスプレイを食い入るように見つめる。 明日羽が、血の繋がらない姉が、狭い部屋の中を縦横無尽に跳ね回り、腕を振り腰を振りノリノリでダンスしている。 手でハートマークを作る締めのポーズもキメて、かなり本格派の様相を呈していた。 「な? な? そっくりだろ? 明日羽ちゃんは美人系だけど、こーゆーことやっても似合うと思うんだよな~」 とりあえずティッシュで顔だけ拭いた大介が、うんうん頷きながら言う。 表情が分かるくらいしっかりと撮影されているが、幸い「そっくり」程度で留まっていた。 それもそのはず。何せ隣のクラスにいる姉は校内で、落ち着きのあるクールな美少女として通っているのだ。 そんな人物が、メイド姿でアニメソングを満面の笑みで踊るなどという趣味があるとは誰も思うまい。 だがコスプレだけならまだしも、まさかネット上で公開までしているとは夢にも思わなかった。弟ですら一瞬、目を疑ったのだ。 画面越しの姉は見たこともないような笑顔を浮かべていて、底抜けに楽しそうだったから。 「こんな顔……するんだな……」 「ん? 何か言ったか?」 「いや、別に」 瀬久斗は携帯電話を大介に返すと、残りのコロッケパンを口へ放り込む。そしてコーヒー牛乳諸共、悶々とした気分を腹の底へ押し流したのだった。 涼しくて過ごしやすい夜となったこの日、窓際は違う意味で熱を帯びていた。 「なぁ、ナリヒラ」 「なんだい旦那? 分からないことがあったら何でも聞いてくれよ」 明かりを消した室内で、瀬久斗はどこか得意気なアリに話しかける。疑問に思っているのは勿論、来客の多さについてだ。 どこから集まってきたのか、様々な昆虫が瀬久斗の部屋の窓枠で列を成している。人気のラーメン屋の軒先のようだが、こんな多彩な顔ぶれは近年稀に見る貴重な光景だろう。 「それがさぁ、腕のいい相談員さんがいるぜって、俺っちが言ったのが広まっちゃってさ~。どいつもこいつも会わせてくれって、泣きついてこられちゃさ~」 あたかも勝手に知れ渡ったようにナリヒラは言うが、このアリがあちこちで触れ回った可能性の方が高い。というか、腕のいい相談員の意味が分からない。 「なんだってこいつらは俺のところに集まってくるんだ……」 「そりゃあ旦那、人間が賢いってのは常識だからね。相談すれば悩みをパーッと解決してくれそうだろ?」 「お前らの悩みなんて知らないし聞きたくもないっ」 瀬久斗はがっくりと肩を落とす。その間も、昆虫たちは自分の番はまだかまだかと首を長くしていた。 人間が昆虫に対する見方を持つように、昆虫たちにもまた人間の見方があるようだ。そうである以上、頼ってこられては無視するのも忍びない。 瀬久斗は仕方なく、それぞれの相談を受けることにした。 「押すなよ~順番守れよ~。ウチの旦那がどんな悩み事もバッチリ解決してくれるからな~」 後でこのアリに何らかの報復をしようと思いつつ、最初の相談者に目を向ける。 そこには小枝を何本も集めた筒状の塊。どうやってここまで来たか謎であると共に、そもそも相談する気があるのかも怪しい。 しかしながら、正体の見当はついている。 「どうした、ミノムシ」 「話しかけないで! そっとしといて!」 相談に来たはずなのに会話を拒否されてしまった。引きこもりのミノムシとはまた厄介な相手だ。 ミノムシといえばガの幼虫。果物の木の葉を食べてしまう害虫として扱われる場合が多かったが、近年、急激に数を減らしているという。この様子からして、悩みもそれに関係したことなのだろう。 「怖いのか? 外が」 問うと、 問題はこれからどうするかだが、無難なところに落ち着かせるのが妥当だろう。そうしなければ、相談者全員を捌くのにどれだけの時間がかかるか分かったものではない。 「そのまま安全に過ごすといいだろうな。多分だけど、オスの方がお前を放っておかないだろうし」 この季節まで蓑に閉じこもっているということは、おそらくはメス。そのうちに、嫌でもオスからの熱烈なアプローチがあるはずだ。 「そ、そうなのかな……。なら、しょうがないからそうしてあげる。……あ、ありがと、ね」 大したことを言ったつもりはないが、ミノムシはすっかり素直になってコロコロと部屋を出て行った。 それでたちまち昆虫たちはどよめき、見事と言わんばかりに目を輝かせる。瞬く間に膨らんでいく期待が、瀬久斗には重かった。 やっと一人……いや、一匹。大変なのはこれからだ。 「最近のオスはだらしないのよっ、花の蜜ばかり吸っちゃってさっ」 肉食系女子のチョウ。 「オレ! もっと熱いビートを刻みたいんだ!」 ロックなスズムシ。 「妻の暴力が酷くて、時々命の危険を感じるのです……」 恐妻家のカマキリ。 「嫌だぁーっ、まだ生きていたいぃぃ!」 セミ。 その他諸々、とにかく数が多かった。最後尾、暗所恐怖症のホタルが帰る頃には、時計の針は深夜から早朝に変わる時間帯を示していた。 「お、終わった……」 「お疲れさん旦那っ。よっ、男前! って、うわあぁ――」 徹夜しても無駄に元気なナリヒラを息で吹き飛ばし、ぐったりとベッドに倒れこむ瀬久斗。 夜が明けるまで一体何をやっていたのか……。テストも近いというのに。 「あ、あのぉ……」 そのとき、また新たな相談者が現れたようだった。しかし、瀬久斗は腕を振って営業終了を告げる。 「またにしてくれ。俺はもう眠い」 そのまま寝てしまおうとしたところ、気弱そうな客は急に声の音量を上げた。 「お願いです、聞いてください! 僕、好きなコがいるんです!」 「……」 ヒラヒラと揺れていた瀬久斗の手が止まる。 瀬久斗が徐に顔を上げると、夜を淘汰していく四角い空をバックに、一匹のカブトムシがこちらを見下ろしていた。 「……で、お前はどうしたいんだよ?」 「強くなりたいんです。そうすれば、きっと彼女は振り向いてくれると思うんです」 見たところ、少々小柄でお世辞にも恵まれた体格とは言えない。強い者だけがメスと結ばれる厳しい世界、ハンデを背負った時点で負け組だ。 だが、 「人間はトレーニングとかして身体を鍛えて強くなる。それがお前に有効かは知らないけど、やってみたらどうだ?」 認めたくなかった。好きな相手を壁があるからという理由で諦めなければならないなんて。 無性に、目の前のカブトムシを応援したくなった。ハンデを乗り越えてほしくなった。 それが成し遂げられたとき、自身の想いを明日羽に伝えられるような気がして。 「よぉっしっ、そーゆーことなら俺っちも手伝っちゃうぜ!」 合点承知とばかりに、いつの間にか戻ってきていたナリヒラが協力を申し出る。それはそれはご機嫌に、カブトムシの角をバシバシ叩いて帰っていった。 「ナリヒラの奴、ここに来る口実に利用する気だな……まぁいいけど。ところでお前、名前は?」 「あっ、僕、マサタカっていいます」 「そうか。頑張れよ」 トレーニングに付き合う約束をしてマサタカを帰し、やっと静かになった部屋で瀬久斗は布団に潜り込んだ。明るんでいく空が、何故だか少し嬉しいものに思えた。 その日、瀬久斗が学校に遅刻したのは言うまでもない。 ◆ 「暑いからやっぱり冷たい飲み物だよな。……あと、そうだ、つまみもあった方がいい」 日曜日の昼過ぎ、瀬久斗はぶつぶつと独りごちながらキッチンを右往左往していた。 置かれたトレイの上には氷の入ったグラスが二つ。その脇へ今、ポテトチップを盛った皿を追加した。そして冷蔵庫からココアのパックを取り出すと、丁寧にグラスへと注ぐ。甘い海を泳いだ氷が、涼しげな音を立てた。 「これでよし」 瀬久斗は頷き、ぎこちない手つきでトレイを持ち上げると、足早にキッチンを後にする。 親が二人とも外出したタイミングを見計らってきたのだ。誰もいないとはいえ、親の空間に長居などしたくない。 「おっと……うぉっとっ。やべっ、ちょっとこぼれたっ」 グラスの中で踊るココア。動じないポテトチップ。カラカラと笑う氷。トレイの上を賑やかにしながら、瀬久斗は二階の扉の前に立つ。一呼吸し、小さなお立ち台を片手に持ち替えてから、軽くノックした。 「姉貴、いる?」 「いるけど、なに?」 間もなく聞こえた返事と共に扉が開いて、明日羽が顔を覗かせる。幸い奇抜な恰好はしておらず安心したものの、薄着のため露出が多く、目のやり場に困ってしまう。 当初とは違う意味で動揺しつつも、瀬久斗は明日羽に言った。 「もうすぐテストだろ? だから――」 「勉強なら自分でやりなさいよ」 「だーっ、待った待った!」 バッサリと切り捨てた明日羽が扉を閉めようとするが、瀬久斗は足を出して必死の抵抗を試みる。 やり方が悪かった。ものを頼む立場なのだから、ここでは相応の態度で臨まなくてはならない。 「お勉強を教えてくださいませんでしょうか? キレイでカワイイ明日羽お姉様」 更に準備した貢物を見せて頭を下げる。 トレイの上を確認した明日羽は僅かな思考の後、「しょうがないわねぇ~」と扉を開けてくれた。 瀬久斗は心の中でガッツポーズをキメる。これで次のテストも安泰が確定したのだ。 部屋に入ると、どうやら明日羽も勉強中だったようで、ちゃぶ台にはノートと問題集が広がっていた。 その邪魔をしたみたいで、瀬久斗は急に申し訳ない気持ちになってくる。 「俺、やっぱりいない方が良かったか……?」 「別に。で、何を教えてほしいのよ?」 「お、おう。まずは苦手な数学から」 冷たい飲み物とお菓子の効果か、キレイでカワイイ明日羽お姉様はとても寛大だった。 こうして同い年の家庭教師となった明日羽は片肘を突きながら、ポテトチップをポリポリとかじる。エアコンの効き目も薄れさせる暑さの所為か、ココアは一気に半分くらいまで量を減らしていた。 成績優秀でクールな美少女が、家では「ぷはぁっ、美味いんだなこれが!」とか言うキャラだと知ったら、学校の男子はどれほどのショックを受けるだろうか。……なんて思わなくもない。 が、今は勉強に集中しなければ。 「この二次関数の問題なんだけど……」 「はぁ? そんなの前に教えたじゃない。おまけに話題のゆとり教育のおかげで、中学でも習ったし高校入ってからも同じことやったでしょ?」 「しょうがないだろ、忘れちゃうんだよ。台形の面積の公式は覚えてるんだけどさ」 「それは小学校で教わるっ」 こんな瀬久斗でも、成績は中の下程度である。勿論、明日羽の協力によるところが大きい。 姉弟となって丸三年、成績について教師から心配されることはなくなった。同じ高校に入れたのも明日羽のおかげである。 そのためにどれだけ差し入れを用意したかは、瀬久斗自身、考えないようにしていたりするのだった。 「あんた進学するつもりなんでしょ? そんなことで大丈夫?」 「だいじょーぶ……なんじゃないか? というか、俺進学するなんて言ったっけ?」 「ずっと前に言ってたわよ。だからほら、早くこの問題解くっ」 「は、はいっ」 以前は部屋に入るのだけでもひどく緊張したが、今ではそういったものはない。それどころか、自室でやるよりはかどるようになったのだから、勉強法は本当に人それぞれだ。 ちなみに瀬久斗が集中できる理由は、すぐ近くに明日羽がいるという安心感からで……。 「げほっげほっ、おほん」 「……どうしたのよ」 「いや、何でも……」 そうして時間は過ぎていく。壁にかかったカラフルな時計の音だけが満ちる部屋で、瀬久斗と明日羽はノートにペンを走らせていった。 時々質問したり、その度に呆れられながら。 「んーっ、飽きたわ」 優等生らしからぬそんな発言の後、明日羽はノートを閉じて氷の解けきったココアをグイッと飲み干す。そして伸びをしながら後ろに倒れ込み、「ふいー」と一息。 「ああ、もうこんな時間か」 気付けば外は薄っすらと暗くなっており、時計の針は一直線になろうかというところだった。 瀬久斗も疲れた脳を休ませようと横になると、机の上に置いてあるパソコンがふと目に入る。 曲線的なデザインが評判の白いノートパソコン。愛用のデジタルカメラもそこに繋がれたまま無造作に置かれてある。 それらをぼんやりと見て、何の気なしに瀬久斗は話しかけた。 「そういや姉貴、動画観たよ」 「はっはー、やっぱり観られたか」 明日羽は少々の恥ずかしさはあるものの、困っているほどではない様子で話す。その辺りはある程度覚悟の上での投稿だったようだ。尤も、誰かに観られることを前提に公開するわけだが。 「友達にはバレなかったんだけどなー。ちょっと似てる、くらいは言われたけどね」 「姉貴の趣味なんて誰も知らないからな」 「あんた以外はね。だから、くれぐれもこのことは内緒にしといてよ」 「はいはい。でもさ、才色兼備の美少女の趣味がコスプレなんて、男子には色々と大ウケだと思うんだけどなぁ」 「ウケなくていいわよ、そういう目的で撮ったんじゃないもの。それ以前に才色兼備とか美少女って何よ? おだててるつもり?」 「男子の間では評判だぞ? 見ず知らずの奴から姉貴の連絡先を教えてくれって、日頃俺がどれだけ苦労してるか……」 「うぇ……マジ? で、教えてるの?」 「なわけないだろ。知らないんだから」 「あぁ、そういえばそうね」 明日羽が安堵の息を漏らしたのが分かる。己の個人情報云々よりも、男子からの評価が思いの外高いことに困惑気味のようだった。 「なぁ、俺には教えてくれても良くないか?」 「必要ないじゃない。直接言えるんだから」 「……たしかに」 自分のケータイに明日羽の名前を入れたいとは口が裂けても言えない。明日羽に好意を寄せる他の男子よりアドバンテージが欲しいなんてことも。 でも思わず口に出してしまいそうで、瀬久斗はどうにか紛らわすためにココアを口に含んだ。 と、そのときだ。視界の隅の見てはいけないものに気がついてしまったのは。 「ほぉら負けるな! 気合入れて引っ張れ~!」 「よいっしょ、うんっしょっ」 まずは一匹のカブトムシ。陶器製のヒヨコの置き物を縛った糸を角に結びつけて、ノロノロとカーペットの上を歩いている。 次にアリ。カブトムシの角の先端に腰掛け、寛いだ様子で声だけを張っている。 マサタカとナリヒラだった。 「ぶっ」 「ちょっ、ちょっと! いきなり噴き出さないでよ! 汚いわねーっ」 「わ、悪い……」 間一髪、被害者を出さずに済んだが、ゲホゲホと咳き込む瀬久斗。しかしマサタカとナリヒラは無駄な爽やかさを纏って、大きく手を振りながらアピールしている。 「おーっす旦那! マサタカの奴、なかなか根性あるぜ!」 「お邪魔してます、旦那さん」 「根性もお邪魔してますもあるか! お前らどこから入ってきた!?」 マサタカのトレーニングはいつも瀬久斗の部屋でやっていたのだが、この日はどういうわけか明日羽の部屋に出張してきていた。 慌てて小声で怒鳴りつけるが、二匹は悪びれもせず平然と入り口を指す。 「そこ、開いてたもんで」 どうやら明日羽と扉の周りで色々とやっている間に、堂々と隙間を通り抜けてきたらしい。 当時は、そんなことが足元で起きていたなんて思いもしなかった。それだけ舞い上がっていたのだろうか。 好きな人の前で。好きな人の部屋の匂いに。好きな人の微かに汗ばんだ素肌に。 「煩悩退散っ、煩悩退散!」 「ど、どうしたのよ……?」 「気にしないでくれ姉貴っ。俺は別に、俺は別にぃっ!」 頭を抱えてうずくまり、右へ左へ転がり回る瀬久斗。すっかり慣れたつもりでいたのに未だに緊張していた自分が、最高に恥ずかしかった。 「今日の旦那は元気だな~」 「何かいいことでもあったのかなぁ?」 などと二匹が言っていると、突然そこに巨大な影が差す。 「あ、カブトムシ」 明日羽だった。 「これ、瀬久斗の?」 「え? ま、まぁ、そう……なような、違うような」 「高校生になってもカブトムシ飼ってるなんて、ホンット昆虫好きよね~。子供っぽいっていうかさ」 「い、いいだろ別に」 最近ではその昆虫に色々と困らされる機会が増えた、などとは言えなかった。虫嫌いの明日羽にそんなことを知られたら、どんな目で見られるか分かったものじゃない。 ……だが、当の明日羽はクスクスと笑いながら、マサタカの角を指でつついて楽しそうにしていた。 「あれ? 姉貴……虫、嫌いなんじゃなかったっけ?」 素朴な疑問が口をついて出る。 大分前のことであるが、部屋にバッタが入ってきただけでギャーギャー騒いでいた記憶が瀬久斗にはある。そのとき、虫が大の苦手だとも話していたはずだった。 「もう慣れたわよ、あんたの影響で」 「え? 俺?」 自分を指差し、瀬久斗はキョトンとしてしまう。その様子に、明日羽は呆れた顔で続ける。 「覚えてないの? この虫はあーでこーでどんな習性があってーとか、その虫の良さを物凄く熱心に教えてくれたじゃない」 「……ああ、そういえばそんなことしたかもなぁ」 おぼろげな記憶が蘇ってくる。 姉弟となったばかりの頃、虫を毛嫌いする明日羽に昆虫を好きになってほしくて、あらゆる努力をした……ような気がする。 思えば、虫が出るたびに自分を頼ってきた明日羽を守ってやりたくて、それがいつの間にか可愛く思えてきて―― 「おかげで、今じゃゴキブリとか一部の虫以外は大丈夫……って、今度は何よ?」 「何でもない、何でもないんだ……」 思い出に悶絶する瀬久斗だった。 そこへ、明日羽を正面やや下方から見上げていたナリヒラが話しかけてくる。 「この人が旦那の意中の相手かぃ? べっぴんさんじゃないか~。まぁ、人間なんて旦那以外はみんな同じ顔に見えるけどさ。ハハッ」 いい加減なことを言っている割に図星の部分もあり、妙に憎たらしかった。 「笑っちゃダメですよ。旦那さんにはすっごい素敵な人に見えてるんでしょうから」 更に、フォローしている風でまったくなっていないマサタカが続く。 二匹には早く帰ってほしかったが、明日羽との距離が近いため喋るわけにもいかず、残りのココアを流し込むことで自分を誤魔化した。 すると、明日羽の方に向き直ったナリヒラが、 「あんた幸せ者だぜ~、旦那に想ってもらえるなんてさ~。ちょっと乱暴なところもあるが、優しい人だから大事にしてやってくれぃ」 なんてことをぬかした。不意に。ハッキリ。 「ぶふぇぁっ」 「ひゃっ! なにまた噴き出してるのよ! かかったじゃない、もーっ」 明日羽には聞こえていないと分かっていても、堪えることができなかった。おまけにココアもぶっかけてしまった。 申し訳ないという反省と共に、好きなはずの昆虫に殺意が芽生える瞬間。 「ああもう、しょうがない、着替えるわ。今度は染みにならない飲み物にしてよね」 「お、おう。ごめんな」 立ち上がる明日羽。 チャンスとばかりにナリヒラとマサタカを捕獲した瀬久斗は、姉の背中に返事をする。手の中で何やら喚き散らしているのは完全に無視した。 明日羽はタンスの中から服を取り出すと、着ている服に手をかけ……こちらを見た。 僅かな沈黙。 「女の子が着替えをするんだから、あっち向く」 「あっ、ああぁあぁそうだな。すまん」 瀬久斗は何気なく視線で追ってしまっていた明日羽から目を逸らし、慌てて後ろを向いた。 間もなく着替えを始めたようで、妄想を掻き立てられる衣擦れの音色に心臓は否応なしに速くなっていく。 邪なことは考えまいと理性で抑えつけるが、そう簡単に冷静にはなれない。 そして自制心が徐々に追い込まれていく内、些細な疑問が唐突に瀬久斗の中に生まれた。 これでいいのだろうか、と。 年頃の男女なのだから、部屋を出ていかせるくらいは普通やるのではないか。それをこの程度で済ませるなんて、男として見られていないということなのか。 考えれば考えるほど不安になった。怖くて、得体の知れない何かを否定したくて、それでも高鳴る胸が辛くて。 間隔が狭まる呼吸から逃げ出したい思いで、瀬久斗はたまらず声に出してしまった。 「姉貴」 「んー?」 「ここでもし俺が振り向いたら、どうする?」 「ぶん殴るわ」 「でも恋人なら殴らないだろ……? 俺は、殴られないようにはなれないのか……?」 「…………」 明日羽は答えない。 静寂の中で我に返った瀬久斗は息を呑んだ。言ってしまった後悔が沸騰するように湧き上がり、重い空気が全身を押し潰す。 しかし、どれだけ自分を責めても、時間は巻き戻ってくれなかった。 「何考えてるのよ」 間を置いて、抑揚のない声が背後から聞こえた。冗談で済ませてくれることを願って瀬久斗が振り向くと、着替えの終わった明日羽が……部屋を出て行くところだった。 「……『キョウダイ』なんだよ? あたしたち」 閉じられる扉。離れていく足音。 最初は足元に引かれていただけの境界線が、明日羽を想うほどに天を衝く壁になっていったことを、瀬久斗はようやく自覚した。 後ろを向いても道はなく、ただ高い壁だけが目の前にそびえていた。 ◆ 「旦那~、どうしたんだよ~? ここんとこ全然元気ないじゃないかよ~」 学校から帰ってくるなりベッドに突っ伏したままの瀬久斗に向かって、ナリヒラが枕元から声をかける。しかしながら反応は薄い。 「ほっといてくれ」 くぐもった返答にナリヒラは頭を掻く。あの日以来、瀬久斗は塞ぎこんでしまった。 「マサタカ~、なにか知らないか~?」 ベッドの下、漫画本を持ち上げているカブトムシに問いかける。 マサタカは足を止めてナリヒラを見上げるが、その表情は優れなかった。 「僕にも分かりませんー」 「だよなぁ……。旦那ぁ、何があったんだよ~。虫たちが毎晩、相談に乗ってくれって来てるのにさ~」 再度話しかけるが、結果は芳しくなかった。 その声が聞こえていないわけじゃない。だが、瀬久斗には答える気力すらなかった。 学校では避けられ、家では顔も見れていない。謝ろうと話しかけてみても、扉一枚挟んだ一言二言の会話が精々。その会話も、感情がこもっているとは思えない事務的なものだった。 「俺……バカだ……」 あのとき黙っていれば、これまでの良い関係のままで生活していけたのに。どうして急に確かめたくなってしまったのか。明日羽の中の自分を。 「旦那……」 抜け殻のようになっている瀬久斗の横で、ナリヒラは呟く。 するとそこへトレーニングを終えたマサタカがやってきて、瀬久斗の具合を窺った。だが、ナリヒラが首を振るのも頷ける様子に表情を曇らせる。 それでも、マサタカは瀬久斗の耳元で小さく頭を下げた。 「旦那さん、今までお世話になりました。僕、やります。ライバルたちと戦って、好きなコに告白します」 声だけでも分かる程に、明確な決意が滲んでいた。 「勝てないかもしれません。けど、負けたくないんです。ここへきて毎日トレーニングして、そう思うことができるようになりました。本当に、ありがとうございました」 瀬久斗は黙って聞いていた。 マサタカはここへやってきたときに比べて成長している。身体的には分からないが、精神的には確実に。自信を手に入れられただけでも充分な進歩だ。 だが、おそらくはそこまで。マサタカは体格差という絶対的なハンデを覆すことはできないだろう。ちょっとの努力で越えられるような壁なら、誰も苦労などしないのだ。 だから、小さく生まれた時点でマサタカは負けている。勝つ権利なんて、生まれながらに持っていなかったのだ。 ただ、これまで応援してきた手前、それを口にするのは躊躇われて、 「お前なら勝てるよ。頑張れ」 心にもないことをベッドに突っ伏したまま言っておいた。 そして外が暗くなり始める頃、意気込んで飛び立っていったマサタカを見送り、ナリヒラは独りため息を吐く。 瀬久斗は、枕に顔を埋めたままだった。 ◆ 酷い結果だったテストの補習も終わったある日、瀬久斗は階段を駆け下りていた。 「姉貴!」 大きなバッグを肩に掛け、両手に荷物を提げた背中に向かって叫ぶ。開いている扉の向こうに、同じく荷物を手にした明日羽の母親が立っていた。 「どういうことだよ姉貴!」 額に浮かんだ汗も気に留めず、大声で問う。その横を、引越し業者の名前が入った作業着姿の男性らが通り抜けていく。運んでいるのは、明日羽の部屋にあったタンスだ。 「そういえば、言ってなかったわね」 明日羽は玄関に腰を下ろし、スニーカーの靴紐を結びながら言う。瀬久斗から見えるその華奢な後姿からは、どんな表情をしているのか窺い知れない。 ただ淡々と、言葉が継がれていった。 「親の離婚が決まったの。正式な手続きはこれからだけどね。だから、あたしたちはこの家を出ていく。それだけの話」 「なんでそんな、急に……!」 「あんたにはあたしから説明しとくって話だったんだけど、言いそびれちゃってさ。……ごめん」 そこへ、外から明日羽を急かす声が届く。 会話の邪魔をするなと大声で叫びたかったが、拳を固く握り締めるだけに留める。 震える手と、声。 「どこ、行くんだよ?」 「ずっと遠く。あたしの親の希望でさ」 「……ここからどれくらいかかるんだ?」 「分かんない。でも凄く遠いから、転校するの」 「え……?」 「クラスの皆とはお別れも済んでる。隣のクラスのことだから、あんたは知らないだろうけど」 そして明日羽は立ち上がった。荷物に引っ張られている腕が、バッグを支える背中が、すべてが。遠くに行ってしまう。 「姉貴……」 明日羽が玄関を出る直前、何を言ったらいいのかも分からず、それでも行かせたくなくて、瀬久斗は声を漏らす。 その気持ちを察してくれたのか、足を止めて振り向いた明日羽は……どこか怒っているようだった。 「もうそんな風に呼ばないで。あたしたち、姉弟でも家族でもないんだから」 立ち尽くす瀬久斗の前から、そうして明日羽は離れていった。 間もなく視界からも消え、瀬久斗はただ呆然と、その場に独り立ち尽くしているだけだった。 ◆ 「旦那~……」 「なんだよ」 「……なんか、相談しにくいよ~」 「いつもみたいに好き勝手喋ればいいだろ」 「そうは言ってもさ~……。相談し難い雰囲気出してる相談員って、俺っち知らないよ~」 「俺はいつも通りだ。あと、元から相談員なんかじゃない」 静かになった家の中で、瀬久斗は天井を見つめていた。虫が話しかけてくる以外は、何の物音もしない。 姉とその母親は家を去り、開放されたからか気まずさからか、父親も最近は帰ってこない。顔を見るのは前々から嫌だったため、いてもいなくても大して変わりはないのだが。 「はぁ、明日も学校行くの面倒だな……サボるか」 「旦那ぁ……」 とにかくすべてが鬱陶しかった。何もかも壊れてしまえばいいと思った。 誰もいないこの家が。都合の悪い環境が。 携帯電話を開いてみても、そこに明日羽の名前はない。着信も、メールもない。二人の繋がりを示すものが、何一つ残っていないのだ。 好きだった人は、まるで最初から存在しなかったかのように、手の届かないところへ行ってしまった。 ただ一言、素直な気持ちも伝えられないままに。 「姉貴……」 そのたった三音で身近に感じられた存在は、もはや言うことすら許されない。どんなに呼んでも、振り向いてはくれない。 「くそっ」 瀬久斗は枕を乱暴に投げつける。あれからどれだけ自室の壁を痛めつけたかなど、覚えていない。 大体、好きになんてならなければ良かったのだ。そんな浮ついた気持ちなんてすぐに壊れて消えてしまうと、散々目にしてきて知っているはずじゃないか。 なぜ赤の他人に、自分を必要としてほしいなどという愚かな幻想を抱いてしまったのか。 もう嫌だ。こんな気持ちでこれから生きていくくらいなら、いっそ……。 「死に――」 「どあぁあんなあぁあぁーーっっ!!」 そのときだ。いつの間にか瀬久斗の鼻の頭に上ってきていたナリヒラが、自慢のアゴで思い切り噛み付いたのは。 「いってぇえー!」 瀬久斗は反射的に身を起こして、ナリヒラを払い飛ばし鼻を押さえる。 「旦那! いつまでうじうじしてるんだよ!? あの人がいなくなってから、どうしちまったんだよ!?」 床に転がったナリヒラはすぐに起き上がると、鋭い目つきでこちらを睨んでいた。声を荒げて怒気を露にしているナリヒラを見るのは初めてのことだ。 だが、いきなり噛み付かれた上に怒鳴られては、瀬久斗の怒りも急激に膨張していく。途端に、腹に溜まっていたものを吐き出したくなった。 「お前に言う必要ないだろ! 俺の気持ちなんて知りもしないくせに!」 「あぁ知らないね! 俺っちは虫だからよ! 人間みたいに頭良くないんだ!」 「だったら黙ってろよ! 俺はあいつに拒絶されたんだ! もうどうにもならないんだよ!」 「本当にもう無理なのか!? 旦那のことが嫌いだから関わりたくないって、そう言ったのか!?」 「そうじゃねぇよ! だけど、俺たちの間にはどうしようもない壁があるんだよ!」 「それが何だって言うのさ!? 相手の気持ちを確かめもしないで!」 そしてナリヒラはその小さな身体で、更に大きく声を張ってまくしたてた。 「何をどうしたいのさ!? どうしてそれを抑え込んでおくのさ!? 旦那の言う壁ってやつは何なんだぃ!? 俺っちならそんなもの、軽く上って空を拝んでやらぁ!」 「簡単に言うなよ! 俺とあいつはキョウダイ――……」 瞬間、言葉が途切れる。気持ちがすべて声になることはなかった。これからしようとした発言に、自身が疑念を抱いたのだ。 キョウダイ……姉弟、なのだろうか。最大の壁だったはずのものは、今目の前に立ちはだかっているのだろうか。 過去を気にして下ばかり見ていた所為で、それがなくなったことに気付いていないだけではないのか。 明日羽は二人の間の壁を示した。だがそこに、明日羽自身の気持ちはなかったはず。それも今なら、聞くことができるのではないか。 「俺は……」 高低さこそあれ、瀬久斗とナリヒラの視線はぶつかったままブレることはなかった。 ただただ純粋で真っ直ぐな眼が、自身の百数十倍も大きい相手を見据えている。何も恐れず、絶対に引かず。 昆虫は だがいずれ自力でそれを破って外へ出る。悲惨な運命が待っていることもある。それでも出る。太陽の光を浴びる。 そうしないと、生きられないから。そうすることが、生きることだから。 あぁ、そうか……と瀬久斗は不意に思い当たった。 自分がそんな昆虫たちをずっと好きでいられた理由は、彼らは常にリアルな会話をしていて、誰もがそれぞれ悩みを持っていて、そして何より―― 「お邪魔しまーす」 と、そこへ来客があった。声のした窓の方へ目を向けると、小ぶりなカブトムシが佇んでいる。隣に、メスを連れて。 「マサタカ~!」 「僕、やりましたよ!」 ナリヒラがすぐにマサタカの角に飛びつく。先端でくるくると回りながら、仲間の健闘を称えた。 瀬久斗も頬を綻ばせて窓際に寄る。しかしマサタカの出で立ちに、上がっていた口角が元の位置へ戻り、固まった。 「その身体……」 硬い外骨格にいくつもの傷跡が刻まれ、動かなくなっている足もある。とても、勝利を手放しで喜べる状態ではなかった。 「旦那さん、僕、勝ちましたっ」 ところがマサタカは嬉しそうな顔を瀬久斗に向ける。達成感と充実感に満たされた、良い表情だった。 「大丈夫なのか? 傷、痛むだろ?」 「え? 平気ですよ、これくらい」 心配する瀬久斗だったが、軽く返答されてしまう。 「彼女のためなら僕は何にだって耐えますし、どんなことだってやれますよ」 少し照れ臭そうに、でも誇らしげに。 「ひゅーひゅーっ。言ってくれるぜこいつめぇっ」 ナリヒラは茶化しながら、うりうりとマサタカの頭をつつく。 喜び合う二匹の脇で、瀬久斗の視線は自然と本棚に向かった。 立ち並ぶ昆虫記の絵本。かつてそれを著した偉大な生物学者も、彼らの魅力に気が付いていたことだろう。 ――こいつらはいつだって、自分に正直だ。 「よしっ」 瀬久斗は立ち上がり、父親のデジタルカメラを持ってくるとパソコンを起動させた。 カメラのバッテリーがまだあることを確認し、三脚に固定して高さを調整する。 「旦那?」 「旦那さん?」 突然の行動に首を傾げる二匹へ、瀬久斗は笑ってみせた。 「ナリヒラ、マサタカ。ありがとな」 録画モードに切り替え、瀬久斗は一度咳払いをするとカメラに向かって口を開く。 ただ一つ、望むことのために。 後悔しない生き方をするために。 ◆ ◆ ◆ 終業式前日の教室でのこと。 セミの大合唱に体力を奪われつつある瀬久斗の前で、突然大介がコーヒー牛乳を前の席の生徒に噴射した。手には携帯電話。そこから伸びたコードが耳のイヤホンまで繋がっている。 どうやら、例の動画投稿サイトでまた何か見つけたらしい。 大介がワナワナと、口をヒクヒクとさせながら瀬久斗の方を振り向く。 「お、おまっ……これ、うおぇ!?」 とりあえず瀬久斗は、大介の携帯電話を受け取る代わりにハンカチを渡してやった。勿論、前の人を丁寧に拭いて差し上げろという意思表示だ。 しかしその思いは届かず、大介はハンカチで目元を拭い、鼻をかんで返してきた。 「……この野郎」 「瀬久斗、お前……なんつーか、ホント色々とすげー奴だったんだな」 携帯電話のディスプレイを指差して、大介は甚く感動しているようだった。そしてまた目頭を押さえる。己の鼻水がついたハンカチで。 「ははっ、まぁな」 瀬久斗は笑って答え、懐かしむような目でディスプレイを眺める。 そこには、自分で名付けた動画のタイトルが大きく表示されていたのだった。 『俺の告白が明日羽に届くことを願って』 ◆ 夏休みの駅前は混んでいて、ベンチに座る瀬久斗は行き交う人々から目を背けるように時計を見た。 午前十一時。 予定の待ち合わせ時間より二時間も早い。こういうとき、少々遅れてきた方が画になるのだろうにと、暑さにやられた頭は無用な想像を膨らませる。 「二時間経ったらまた来ようかな……」 「なによ、あたしを置いていく気?」 脳内が旅立つ寸前の瀬久斗を引き止めたのは、近くで配っていた団扇をあおぐ、同い年の少女だ。 瀬久斗の元姉。そして――現彼女。 二人とも、予定より早く来すぎた者同士。結果として待ち合わせは成功だった。 「あんな恥ずかしい動画を全世界に披露した人の発言とは思えないわ」 「そんなに恥ずかしい内容だったか? 実はまだ観てないんだけどさ、俺何て言ってた?」 そう言って意地悪く笑みながら、横に座る明日羽に視線を向ける。 思った通り、悔しそうな、恥ずかしそうな、複雑な表情をしていた。 「どうした? 顔、ちょっと赤いぞ?」 「そんなの暑いからに決まってるでしょうが!」 明日羽にポカスカと叩かれながらも、瀬久斗はケラケラと笑った。 投稿した動画を観ていないのは事実だが、内容はすべて覚えている。 明日羽への想い。 そんな簡単なことを、十分以上もカメラの前で喋り続けた。 当然ながら、馬鹿なことをしたものだという自覚はある。だが、やって良かったと思える。後悔はない。 「まったく、よくあんなことしといて平然としていられるわね」 「慣れただけだって。ネットでは言われたい放題だったし、学校じゃちょっとした有名人だ」 「あんたはそれでいいわけ?」 「いいよ。……明日羽が今、俺の傍にいてくれるから」 瀬久斗は立ち上がり、隣へ手を差し伸べる。すると躊躇いながらも、潤んだ瞳の明日羽の手が重ねられた。 「明日羽」 「……なに?」 「明日羽が踊ってる動画、また観たいんだけど」 「だ、ダメっ。絶対ダメ!」 「なんで?」 「あ、あれは……」 言葉に出そうとして、明日羽は言い淀む。しかし幾度目かの逡巡の後、意を決したその顔は太陽の熱を帯びたように真っ赤だった。 「言いたいことは直接言える人に、恥ずかしくて言えない部分を撮ったやつで、本当のあたしはこんなですって伝えたくて……って、もうそんなことどうでもいいじゃない! もーっ!」 告白動画を投稿して二週間、瀬久斗へ連絡があった。蛇行気味のルートを通って遠回しに。だが、確実に。 朗報を以て。 瀬久斗は空を見上げた。抜けるような青い空から、太陽の強烈な熱が降り注いでくる。 これまでの自分では直視なんてできない、巨大で膨大なエネルギーを持った世界。 その中で前を向き、上を向き、生きていけるようになるまで、その日差しを遮り続けてくれた小さな守り人がいた。 「ありがとな。今まで、本当に」 そんな心からの礼が届くことを信じて、瀬久斗は明日羽の手を強く握る。 これからは自分の力で、空と向き合うのだ。 その頃、誰もいない家の窓際で、アリとカブトムシが風に当たっていた。 「旦那さんが外出なんて珍しいですね。どこ行ったんでしょう?」 「さぁな~。訊いたけど答えてくれなかったよ」 「仕方ないですね。……旦那さん、もう僕たちと話せないみたいですし」 「ま、それが普通なんだけどなー」 「良かったんですか?」 「んー? 何が?」 「僕、知ってますよ。働きアリって皆メスなんですよね。ナリヒラさん、本当は旦那さんのこと――」 「言うなって。行動した旦那と何も言えなかった俺っちとじゃ釣り合わないよ。それにほら、旦那は恋してるが、俺っちは愛してるからね」 「……どう違うんです?」 「相手の幸せを願うことが『愛』なんだよ。ヘヘッ」 「ナリヒラさん……。じゃあ、今日は食べまくりましょうか!」 「ああ、そうしようぜっ」 言って、二匹は窓の外に置かれた砂糖水と昆虫ゼリーに飛びつく。 虫と会話ができた不思議な人間からの、最後のささやかな贈り物。 一年で最も太陽に好かれる季節はまだ衰える気配を見せない。 誰もが今しかない時間を謳歌し、新たな瞬間を求めて進んでいく。 自分のために。誰かと共に。 次に起こる何かを、ただ待つことなく。 |
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●作者コメント
緊張で胃が痛いです……。 が、参加できて良かったです。自分なりに夏祭りを楽しもうと思います。 お題は「境界」「夜明け」「傘」を使いました。 純粋な実力勝負の場で少しばかり無茶をしましたが、どうぞよろしくお願いします。 2010年夏祭り掲載作品 |
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●感想
高橋さんの意見 +10点 こんにちは、企画参加お疲れ様です。 いきなりですが、題名をもっと別のものにした方がよかったんじゃないかと個人的には思います。というのもですね、タイトルからは想像できないレベルで、予想外に面白かったというのが感想だからです。読みいりました、はい。だからこそタイトルがもったいないかなぁと。 恋の相談をする相手が昆虫というのはなかなかいいですね。割とどこにでもいるからうってつけだと思います。 昆虫たちは直接姉との恋に関わっていないのにここまで自然に感じられたのは、おそらく主人公の家族背景がうまく掘り込まれていたからでしょうね。深くでいいです。 欲を言えば、もう少し落ち着いた主人公だったらよかったかなと。恋がうまくいかないからの落ち込みっぷりとキレっぷりがオーバーに感じました。どうせなら恋愛を匂わせるけど最後まで付き合うわけではない、あくまで家族だけど最終的には恋人になることを「読者にはわかる」という形にすればもっと質が上がったんじゃないかなーなんて妄想してます。意味わかんないですね、ごめんなさい。 次回作にも期待します。お疲れ様でした。 御爺さんの返信(作者レス) 感想一番槍ありがとうございますっ。しかも比較的早いうちにつけていただきまして救われましたっw >題名をもっと別のものにした方がよかったんじゃないかと個人的には思います。 最初つけていたタイトルはもっとテンション高めの感じだったのですが、書き終わってみたらシリアス風味が予定より増していたのでこうしました。 内容とギャップがあるくらい良くなかったですかね……? ちなみに投稿後、このタイトルで検索かけてみたら、色々とけしからんものが引っかかってションボリしましたorz >恋の相談をする相手が昆虫というのはなかなかいいですね。割とどこにでもいるからうってつけだと思います。 ありがとうございます。 「傘」の意義からして身近なものでないといけなかったので、そう言っていただけると嬉しいです。 どこにでもいて自由に生きてる奴ら、ということで昆虫をチョイスし、さらに気持ち悪くならないように必死でしたw >昆虫たちは直接姉との恋に関わっていないのにここまで自然に感じられたのは、おそらく主人公の家族背景がうまく掘り込まれていたからでしょうね。深くでいいです。 リアリティが出ていましたでしょうか。 偶然噛み合った感がしなくもないですが、現実味が出ていたのなら幸いです。 単なる想像ではこうはいかなかったかなと思います(ぉぃ >欲を言えば、もう少し落ち着いた主人公だったらよかったかなと。恋がうまくいかないからの落ち込みっぷりとキレっぷりがオーバーに感じました。 うむむ、物事に対するリアクションが過剰でしたかね……。 その過剰さで瀬久斗の子供っぽさを出そうと思っていましたが、どうやらミスっていたようでorz ハッピーエンドをラストで匂わせるのも好きなのですが、この作品においては明確な「結果」を示したかったのであのようにしました。が、何かとやり過ぎでしたでしょうか……。 それでは、感想ありがとうございました! いさおMk2さんの意見 +30点 企画参加お疲れ様です。いさおMk2と申します。 拝読致しましたので、拙いながらも感想など書かせて頂きます。 ・一読して なんと言うか、とても可愛らしいお話でした。 健気で一生懸命生きている虫たちと、彼らとの交流(?)で自分を変えていく瀬久斗。王道的展開ではありますが、イイですね。 読後感も大変良く、読み終わった後優しい気持ちになれる作品でした。 ・人物について 瀬久斗 なんというメタな名前www 「虫と話せる」という、何気にトンデモな能力を持っている割には、話の展開が小さい(失礼)所が、個人的にツボでした。 彼が、アリやカブトムシ相手に真剣なトークを展開している所を想像すると、軽く笑えますねw。良いキャラでした。 明日羽 こちらも地味にメタネームw 外ではクールビューティー、家ではネコミミメイド。しかも義理の姉(同い年) 何ですかこのフル装備w ただ。 あまりにもな設定であるゆえに、かえって記号的な存在になっているのではなかろうかとも感じました。 もう少し、彼女ならではの魅力みたいのがあったら良かったのでは? と少しばかりいちゃもんつけさせて頂きます(マテ この辺の匙加減、難しそうですが。 ナリヒラ マサタカ こいつら、素敵すぎる! 特にナリヒラ。 小生が感じた御作の魅力、その半分くらいは恐らくこの二人(?)です。 作中にある >――こいつらはいつだって、自分に正直だ。 に、心から共感。 ・タイトルについて イイです。個人的に、好きですね。 昆虫達とここまで触れ合う事の出来る主人公だからこそ、のタイトルに感じました。 ・良かった所 既に何度も書いてますが、瀬久斗と虫たちのやり取りが最高です。特に、ミノムシw あくまで前向きなナリヒラとマサタカは読んでいて楽しく、また勇気をもらえる素晴しいキャラでしたね。彼らと出会えた瀬久斗は、きっと幸せ者でしょう。 それだけに、ラストの、砂糖水と昆虫ゼリーの下りでは、危うく涙腺が緩みました。 ・気になった所 >「はいはい、どうせ俺は不健全ですよ。彼女もできなければ学校以外に外出もしない寂しい奴ですよ」 のセリフ等から察するに、瀬久斗は軽いヒッキーというか、相当に引っ込み思案なキャラかと思われます。 しかし、その割には学校内では普通に(w)生活しているようにも見え、あまり設定が役に立っていない様にも感じました。 彼をもっと、対人関係が築けないくらいにしといた方が、最後の告白動画が生きるのでは、と愚考致しました。 あと、ナリヒラ。 おにゃのこのミスリードを狙うなら、もう少し口調をユニセックスにした方が、効果が高いと思われます。 さすがに一人称の「俺っち」はどうかと…… 大好きなキャラだけに、ここだけが残念でした。 何だか纏まらない駄感想になってしましましたが、それだけ楽しめた、という事にしておいてくださいw 良い作品を、ありがとうございました。 乱文、ご容赦を。 お互い祭りを楽しみましょう。 御爺さんの返信(作者レス) お初にお目にかかります。拙作に目を通してくださりありがとうございます。 >なんと言うか、とても可愛らしいお話でした。 >健気で一生懸命生きている虫たちと、彼らとの交流(?)で自分を変えていく瀬久斗。王道的展開ではありますが、イイですね。 可愛らしさはちょっとだけ意識していました。昆虫が出ますので、虫が苦手な人に敬遠されたくないという思いの表れですw 展開も王道ですね。捻りたい気持ちもありますが自分にはまだ無理だろうと思い諦めましたorz ハッピーエンドも自分の中ではお約束になっています。その中で何をどれだけ表現できるかが自分の永遠の課題です。 >瀬久斗 >なんというメタな名前www >「虫と話せる」という、何気にトンデモな能力を持っている割には、話の展開が小さい(失礼)所が、個人的にツボでした。 ありがとうございます(?) インセクトからとった強引な名前でございますw 展開の小ささは、瀬久斗が能力を特別視していないという感じが出ていれば幸いです。己のためだけにある力、ということが書けていますでしょうか……? 虫相手に真剣に話すのも、身近な存在であることが伝わればとw 人ってコミュニケーションがとれれば相手を侮らないんじゃないかと考えたものでして。 >明日羽 >何ですかこのフル装備w 作者自身、実はたくさんの装備品があったことに気付いていませんでした(ぉぃ 名前については瀬久斗と絡むんだから少しは目立つようにと。趣味は両親の関係で多少特殊にもなるだろうと思ったので、思い切ってオタク趣味に。 け、決して作者の理想なんかじゃ――!w >あまりにもな設定であるゆえに、かえって記号的な存在になっているのではなかろうかとも感じました。 >もう少し、彼女ならではの魅力みたいのがあったら良かったのでは? たしかに、設定に比べたら中身は目立ってないかもしれませんね……。 一目で分かるキャラクター性があれば良かったのですが、自分は今回「何気ないことの可愛さ」を出したかったので、設定が記号的になってしまったように思います。 ラノベでキャラは命ですし、その辺の兼ね合いをもっと考えるべきだったかもです。 >ナリヒラ マサタカ >こいつら、素敵すぎる! >特にナリヒラ。 昆虫たちへの感想が、「気持ち悪い」ではなく「素敵」だったことに感動しております!(ぉぃ ナリヒラは自分の中でも、作品のナンバー2のポジションとして考えていたので、良いキャラとして映ったのなら万歳させていただきます。 そして、重要な言葉に共感までしていただけ、自分としてはもう大満足です。そろそろ泣きます。 >・タイトルについて >イイです。個人的に、好きですね。 >昆虫達とここまで触れ合う事の出来る主人公だからこそ、のタイトルに感じました。 ポジティブに受け取っていただけたみたいで良かったです。タイトルはホント、悩みます……。 恋愛要素よりも昆虫たちとの関係の方にウエイトを置いていたので、それが出せたかなと安心しております。 >・良かった所 >既に何度も書いてますが、瀬久斗と虫たちのやり取りが最高です。特に、ミノムシw ほんの少しの出演だったミノムシが好評……w ナリヒラとマサタカはもう、「正直」とか「素直」の塊にしました。自由に楽しく生きている様が伝わればガッツポーズです。 最後のプレゼントも瀬久斗の昆虫たちに対する誠意なので、そのように評していただけるとこちらの涙腺が崩壊しそうです(ぉぃ >セリフ等から察するに、瀬久斗は軽いヒッキーというか、相当に引っ込み思案なキャラかと思われます。 >しかし、その割には学校内では普通に(w)生活しているようにも見え、あまり設定が役に立っていない様にも感じました。 仰るように、こういうところは極端にした方が分かり易いのですが、瀬久斗に「サナギ」っぽさを出すためにどっちつかずなところにしました。 幼虫(子供)でもなく、成虫(大人)でもないところにいる若者が一歩踏み出す……そんなお話が書きたかったので、何かとのっぺりした面は多いかもしれません。 際立った設定を使った割には、自分は少々難易度の高いものに手を出してしまったかもしれないですね……orz >あと、ナリヒラ。 >おにゃのこのミスリードを狙うなら、もう少し口調をユニセックスにした方が、効果が高いと思われます。 ここは失敗でしたか……(汗 大きな驚きはなくとも、締めに相応しい何かがあればと軽く考え入れましたが、どうやら余計だったようで……orz そこを徹底できていなかったのを見るに、詰めの甘さが出てしまっていますね。ぐふっ。 それでは、感想ありがとうございました! 安倍辰麿さんの意見 +10点 ども、安倍辰麿です。安部でもなく、阿部でもありません。 御作品を拝読したので、感想をば。 なるほど、これはなかなか可愛らしい結末ですね。 冒頭の暗い印象から読み進めると、うまく明暗が付けられているのはグッド。 涜職すべきなのが、虫たちのキャラクター。案外、その虫に合わせて深刻な悩みを抱えているのは面白かったです。 特にセミ……。諦めろ、君は二週間しか生きられない! 残念な点。 もっと姉への想いの根拠を描くべきだったのかも。 好きという現状は分かりますが、何故好きなのか、をもっと掘り下げていないため、動画での告白と言う突飛さが浮きだって仕方がありません。 「こんな根拠があるから、こんな事ぐらい平気なんだぜ!」と言わしめるくらいの設定の練り込みを所望します。 最後の能力の喪失は突っ込むとキリがないですね(何故失くしたとか、なくした意図とか)。 むしろここは曖昧にしたほうがいいのかもしれません……。 全体的に楽しく読めました。 やや告白部分が唐突過ぎて、オチへ下る部分が説明不足なのが悔やまれますが。 ではでは、祭りを楽しみましょう! 御爺さんの返信(作者レス) 初めまして。多くの作品に感想をお書きになっていることに尊敬の念を抱かずにはいられません。 >冒頭の暗い印象から読み進めると、うまく明暗が付けられているのはグッド。 >涜職すべきなのが、虫たちのキャラクター。案外、その虫に合わせて深刻な悩みを抱えているのは面白かったです。 冒頭との明暗の差は意識しました。その方が読後感の良さが増すかなという単純な思考でw 涜職と聞いて少々戸惑いましたが、特色ですね。危ない危ないw さて、昆虫の悩みについては半分ふざけてますが、その虫の個性が危うくなる深刻さを心がけました。他人の抱えてる悩みって、結構そういう風に見えるんじゃないかと思いまして。 そういえば、セミって成虫でも割と長く生きるものもいるんだそうです。でも基本は短命なので、切実な叫びだと自分でも思っています(ぉぃ >もっと姉への想いの根拠を描くべきだったのかも。 >好きという現状は分かりますが、何故好きなのか、をもっと掘り下げていないため、動画での告白と言う突飛さが浮きだって仕方がありません。 これはやっちまいましたね……。書き込みが足りませんでしたorz 作者が元々恋愛モノとして書いていなかったので軽く考えていたかもしれません。 濃いぃエピソードを挟むべきだった……。 >最後の能力の喪失は突っ込むとキリがないですね(何故失くしたとか、なくした意図とか)。 >むしろここは曖昧にしたほうがいいのかもしれません……。 ここはこちらの失敗ですね。書いたつもりが伝えられていないというやっちゃいけないことをしでかした模様orz 瀬久斗にとって昆虫や能力はいったい何だったのか、もっと濃厚に書いた方が良かったかもしれません。 枚数を言い訳にして逃げていたのかも(泣 それでは、感想ありがとうございました! デルフィンさんの意見 +10点 こんにちは。デルフィンと申します。 御作、拝読させて頂きましたので感想を述べたいと思います。 文章 詰まることなく読む事が出来ました。 内容 ラノベっぽくほのぼのとしていて、癒されました。 他の方も仰っているように可愛らしいお話でした。 御題 境界は文字列で使われていましたが、他二つはモチーフみたいですね。 しかし、いまいちそれが上手く感じとれませんでした。 虫たちとの会話は「夜明け」というより「夜中」の印象ですし、 「傘」に至っては何を意味しているのか読み取れませんでした。 まあ、わたしの読解力不足なのかもしれませんが。 総評 まず御題が上手く絡めていなかった感じでしたので減点です。 ラノベっぽいのは有難かったのですが、個人的好みですともっと弾けても良かったかな、と。 ヒロインの明日羽が、記号的で、もっと性格部分をしっかり魅せて欲しいなと思いました。 主人公との会話で、「可愛いな、この娘」と思わせて欲しかったです。 以上です。 創作お疲れさまでした。 御爺さんの返信(作者レス) デルフィンさん HNでなぜだか涼しげなイメージを持ってしまいました。きっとドルフィンに似ているからだと思いますが……勝手に妄想しましたことをここに謝罪します(ぉぃ >ラノベっぽくほのぼのとしていて、癒されました。 自分としてはそれほど意識してはいないものの、知らないところでほのぼの感が出ているのですね。 可愛げは少しくらいあってもいいかなと思っていますが、これからはほのぼのっぷりも頭の片隅に入れてみようと思います。 >虫たちとの会話は「夜明け」というより「夜中」の印象ですし、 >「傘」に至っては何を意味しているのか読み取れませんでした。 表現すれば大丈夫なようだったので、ぼかして使用したのが祟ってしまったようですねorz 作者は知ってるつもりで分かりにくく書いていたかもしれません。 ラノベらしくぱっと見で伝わるようにしなければ……。 >御題が上手く絡めていなかった感じでしたので減点です。 あうちっw >ラノベっぽいのは有難かったのですが、個人的好みですともっと弾けても良かったかな、と。 >ヒロインの明日羽が、記号的で、もっと性格部分をしっかり魅せて欲しいなと思いました。 >主人公との会話で、「可愛いな、この娘」と思わせて欲しかったです。 目指した方向が尖りの少ないものなので、弾けさせてそれをまとめる自信はありませんでした(泣 明日羽も絵に描いたような美少女キャラではなく、現実的に「相手の気持ちが見えない」というのを重視しました。 で、明日羽の気持ちがちょろっとでも見えるように動いてもらったつもりなのですが、装備品の関係で記号キャラになってしまったようですね。趣味や設定などはちょっとラノベしすぎました……orz それでは、感想ありがとうございました! フェルト雲さんの意見 +30点 ファーブルと聞いて参上しました。フェルト雲です。駄文ですが、置かせてください。 これは虫好きな方も虫嫌いな方も楽しめる作品だと思います。虫と主人公の交流がかわいらしく描かれていて、終始ほのぼのしました。瀬久斗くんはゴキブリと対面したときにどんな話をするのだろうかと冷や冷やしましたが……出てこなくてよかった……。 虫好き少年が、虫たちを通して生きることを考え、生命力の可能性に思いを馳せ、そして思いを伝えようとする流れは素晴らしかったです。主人公が「ファーブルはこうだった」と思うように、私も小さな虫たちを見る主人公のやさしいまなざしを感じました。他者を愛するというテーマや、自分の手で運命を変えようとする行動力や勇気について、さわやかに表現されていたと思います。 告白のエピソードに関して二人のエピソードは大きく省かれていますが、ここを省いたことで、虫たちのささやきというか、命の声というか、なんと言えばいいのかわからないのですけど、作品全体を包み込むこのような素敵な雰囲気を壊さずに一貫することができていたのだと思います。 同じ社会性のある生き物同士、という言葉がとても印象に残りました。ここで瀬久斗のことが好きになりました。アリの名前もグローバルで面白かったです。 >『働く気が起きない』ってのは五月病だ 働きアリの何割かは仕事をしないらしく……。それをかぶせたエピソードだったのでしょうか。他にも、 >最近やってきた外国のアリとの攻防 だったり、 >引きこもりのミノムシ >肉食系女子のチョウ >ロックなスズムシ >恐妻家のカマキリ >暗所恐怖症のホタル などの虫たちのエピソードはどれもとても面白かったです。普通に人間社会にもあるような問題であるのですが、その中でも恐妻家のカマキリというのはオスのカマキリの宿命であり、ほのぼのしながらも虫たちの奇妙さも感じることができました。また、暗所恐怖症のホタルも、滑稽だとかおかしいものというよりも、やるせないものを感じました。 虫たちが必死に生きる姿から、待ち続けるだけじゃなく何とかしようとあがくことを見出す主人公。それ自体は素晴らしく、大切なものです。ですが、やっぱり虫たちは(人間から見れば)憐れな生涯です。オスのカマキリは交尾後(もしくは最中に)メスに食べられてしまうし、アリたちは個ではなく群れの遺伝子(「自身の遺伝子」ではなく「自身に近しい遺伝子」)を守るために働いています。それはどこか空しいとか可哀そうとか私は感じるのです。そう思ったあと、それでも彼らはいのちを連綿と受け継いできたことに変わりはなく、そうして生き続けているいのちに愛しさを感じずには居られませんでした。御作は読みやすい文章で、さらにコメディタッチな描写を交えつつも、そういったテーマやメッセージを強く訴えることができていたと思います。 お題 境界としての瀬久斗と明日羽の間の壁、虫たちと明け方まで話し込む主人公。ここは難なくお題を消化していたと思います。 そして日差しを遮り続けてくれた小さな守り人たち、これが傘……ということなのでしょう。 巨大なエネルギーのもと、主人公が歩きだせるようになったと思うと、素敵なラストだと思いました。「虫たちは瀬久斗にとってこういうものだった」わけですが、もうその傘をさすことがなくても、いつまでも大切にしてほしいですね。……全然違う、とかだったりしたらごめんなさい。 素敵な作品、ありがとうございました! これからもがんばってください。応援しております。 フェルト雲でした。 御爺さんの返信(作者レス) フェルト雲 様 ファーブルと聞いてですって!? もしや同士では(以下自粛 >これは虫好きな方も虫嫌いな方も楽しめる作品だと思います。 虫が苦手な人でも楽しめるように頑張りました。夏ならではの虫で、マイナスイメージが先行していないものを探したつもりです。なのでそれを分かっていただけて感動っw ゴキブリはこの時期の虫ですが登場は見送りました。でも、設定ではいたので、瀬久斗とシュールな会話をさせたいと当初は思っていたりしました。今思えば、出さなくて良かったと心から思えます、ええ。 >虫好き少年が、虫たちを通して生きることを考え、生命力の可能性に思いを馳せ、そして思いを伝えようとする流れは素晴らしかったです。 書きたかったことが伝わっている……! しかも褒められているなんて……まずいっ、泣きそうだ(ぉぃ この感想をいただけて、書いて良かったと思うことができました。自分の中でこの作品ほど恋愛要素に重きを置いたものはないので色々苦しんだのですが、ちゃんと伝えられたのなら報われました。読み取ってくださりありがとうございますっ。 >告白のエピソードに関して二人のエピソードは大きく省かれていますが、ここを省いたことで、虫たちのささやきというか、命の声というか、なんと言えばいいのかわからないのですけど、作品全体を包み込むこのような素敵な雰囲気を壊さずに一貫することができていたのだと思います。 恋愛要素が強めですが、自分としては二の次のものだったのでごっそり省かせていただきました。行動することと結果がこの作品のメインだと自分は考えて執筆しています。 なので、瀬久斗と昆虫たちの関係が全面に出ているなら、自分は大満足です。 >同じ社会性のある生き物同士、という言葉がとても印象に残りました。ここで瀬久斗のことが好きになりました。アリの名前もグローバルで面白かったです。 虫だから……という考えを持っていない瀬久斗のキャラが伝えられたでしょうか。同じ目線に立てているなら、狙い通りいけたのだと思えます。 アリの名前については一応、アリなので……アリ関連です。某歴史上の人物とか、某アスリートとかw >虫たちのエピソードはどれもとても面白かったです。 ありがとうございます。 基本的に「お前それで大丈夫なのか?」っていうことに重点を置きました。どれも習性やイメージについてなので、仰る通りです。 ですが、今思えば昆虫に興味がない人には「だから何」と言われそうなものばかりかもしれませんね……。 >やっぱり虫たちは(人間から見れば)憐れな生涯です。 そうなのですよっ。そのために昆虫を選びました。 人間は長く生きられるけど、今しかできないことがある。というのを昆虫の短い生涯とかぶせて、それぞれの虫たちの発言に重みというか説得力を持たせようとしました。 こんなところまで読み取っていただけて、作者冥利につきすぎます(意味不明) >日差しを遮り続けてくれた小さな守り人たち、これが傘……ということなのでしょう。 はい、その通りです。良かった……伝わってorz 傘は雨を防ぐだけでなく日傘もそうだろうと考えまして、文字列も使わず書いたので分かりにくいものになりましたが、なんとか表現できていたようで安心しました。 でも、ハッキリしていないことは間違いないので、そこは反省しようと思います……。 それでは、感想ありがとうございました! まつげぱちおさんの意見 +30点 こんばんは、ぱちおです。 夏企画お疲れさまです。 作品を読ませていただきました。 ストーリー 動画が最終的に布石として働いていてとてもすっきりしました。兄弟なのか、他人なのか、その間で揺れる主人公の心情はなかなかおもしろかったです。題名から虫の話が中心に進むのかと思っていたのですが、どちらかというとサイドストーリーみたいですね。そこが少し残念といえば残念です。ドクトルみたいなものを想像していたので。いや、ドクトルもこんな感じですね。 キャラ どうしても虫の性格が目を惹きます。なんて愛らしいのでしょう。 それに虫の相談事がとてもおもしろかったです。 お題 できればどこに使ったのか明記してほしかったです。 ですが、そこは無視しても構わないようなおもしろ話だったので別にいいです。 全体 題名からはブラックジャックによろしく的な印象を受けました。中身はぜんぜん違いますけれどもね。私はとても好きな感じの題名で惹きつけられました。 煮え切らない感じの明日羽と主人公の絡みは、じれったくて、おまえら好きなんだろ! と言いたくなるような感じですが、そこがいいですね。ラブコメとはこうあるべき、といった気持ちのいい作品でした。 そんなに役に立たない感想で、すいません。 それでは失礼します。 御爺さんの返信(作者レス) まつげぱちお 様 鍛錬投稿室では度々お名前を目にしていました。今回感想をいただきまして感謝感激。 >動画が最終的に布石として働いていてとてもすっきりしました。兄弟なのか、他人なのか、その間で揺れる主人公の心情はなかなかおもしろかったです。 行動を起こすなら少しくらい過激でなくちゃね! ということで動画にしました。でも、そのために明日羽の動画投稿を入れたわけでなく、その逆なのでどちらかというと後付け的なものですw 姉弟の方が親密な感じはしますが、他人なら遠そうだけど踏み込んでいけるというのが表れていれば幸いです。 他人なのに姉弟だから近寄れない、というのはまさしく境界ですよねっ(ぉぃ >どうしても虫の性格が目を惹きます。なんて愛らしいのでしょう。 >それに虫の相談事がとてもおもしろかったです。 昆虫たちが好評で良かったです。重要なポジションだったので安心しました。 相談事も面白く映ったようで作者としては小躍りもの以外の何物でもありませんw >題名からはブラックジャックによろしく的な印象を受けました。中身はぜんぜん違いますけれどもね。私はとても好きな感じの題名で惹きつけられました。 ありがとうございます。 ですが、タイトルは賛否が分かれている様子……。作品の顔となるタイトルは重要ですので、どうすればいいか本当に悩みます。 それでは、感想ありがとうございました! ななななさんの意見 +30点 拝読したので感想を書かせていただきます。 起。義姉が好き。 承。昆虫と喋れる。 転。振られたっぽい。 結。動画。 こんな感じでしょうか? やっぱり短編以上となると起承転結ではまとめられないな、と思いました(感想)が、それはさておき。 個人的には、昆虫と喋れるという微妙な設定が大好きでした。動物でも植物でもなく、ムシ。その能力、何の役に立つのん? という微妙な感じがたまりません(褒めてます)。 動画を使った告白というのも、思い切りが良くてけっこう好きです。 今作のポイントとしては、「好きな人が義姉」「義姉のコスプレ」「昆虫と喋れる」「両親が離婚する」「動画で告白」の5つだと思いますが、それぞれの要素がばらばらに働いている気がします。好きな人が義姉でなくても問題なさげですし、最終的に動画で告白しなくても良いですし(携帯電話の番号をどこかで聞きだしたことにして)、逆に義姉と離婚と動画を取り入れて、昆虫と喋れる、という設定を削っても成立しそうです。昆虫と喋れる能力は、結局カブトムシの頑張りに心動かされるということにしか使われておらず、だったら人間の友人が部活で頑張って云々、みたいな話でも良いだろうと思うのです。どうせなら、動画よりも昆虫ネットワークで義姉の居所を探り出すくらいのことをやれば良かったのに。 ひとつひとつの要素は良いのですが、寄せ集めっぽい印象がありました。 そんなわけで、点数はこんな感じです。短編完成させた時点で50点でいいじゃん! とも思うのですが、そうも行かない。 以上です。 ちなみに一番好きな場面は昆虫相談所なのですが(特にセミ)、大局的に見るとどうでもいい場面なんですよね……。 御爺さんの返信(作者レス) なななな 様 短編ともなると起承転結で分けるのは難しいですよね。一応分けて書いてはいるものの、実際かなりあやふやです(ぉぃ >個人的には、昆虫と喋れるという微妙な設定が大好きでした。動物でも植物でもなく、ムシ。その能力、何の役に立つのん? という微妙な感じがたまりません(褒めてます)。 自分の中で特殊能力とはそんな感じになっています。役に立つかは甚だ疑問だけど、ちょっと不思議……みたいな。何やらとんでもない能力でバリバリやる作品が世には多いようなので、時代に助けられている感が否めませんけれどw 動画の過激さは大事にしました。やるんだったらこれくらい! ということで瀬久斗の踏み出した一歩を強く表現したかったんです。好意的に受け取っていただけたようで安心しました。 >今作のポイントとしては、「好きな人が義姉」「義姉のコスプレ」「昆虫と喋れる」「両親が離婚する」「動画で告白」の5つだと思いますが、それぞれの要素がばらばらに働いている気がします。~~ >ひとつひとつの要素は良いのですが、寄せ集めっぽい印象がありました。 自分としては繋げたつもりでいましたが、一本の直線になっていなかったという感じでしょうか。 なるほど、要素同士の枝がまっすぐに伸びて繋がるようにするべきだったですね。 「そういう風にもできる」という選択肢を残してしまったのは失敗でしたorz >ちなみに一番好きな場面は昆虫相談所なのですが(特にセミ)、大局的に見るとどうでもいい場面なんですよね……。 セミが結構人気のようですw やはり生きたいという切実な叫びは人の心に届くものなのでしょうかw こんなことならもっとセミを濃厚に描写しておけば……(ぉぃ それでは、感想ありがとうございました! 加藤 汐朗さんの意見 +10点 拝読いたしました。 丁寧な文章と独特なアイディア、お見事です。こんな良作があったとは……。 表現の押し付けになり兼ねないので、ストーリー構成にはあまり言及しない主義なのですが、作者様への個人的な願望を書き連ねます。(気に入らなかったらスルーの方向で) 『姉が好き』『離婚直前の両親』『虫と話せる』『友人』『ネット』『メイド服』これらが1本の線でちゃんと繋がっていないように感じました。 他の方が述べておられますように、切り貼りした感じがします。 どうやったら綺麗にまとめて昇華できるだろうかと考えてみたのですが。 『ナリヒラをストーリーの主軸』にしたら良かったのではないでしょうか。 学校まで付いて来て校庭にアリ塚築いて大騒ぎになるとか、大雨で巣が水浸しでアリ一家が女王様ごと居候するとか。 ナリヒラに振り回されてるうちにお互いの想いが通じ合い、父母も和解して大団円だったら素敵だなと。(とうちゃんかあちゃん登場させて欲しかった) ※姉弟でも血が繋がってなければ婚姻できますので問題ないです。 もしかしたら、ディズニー映画並みの暖かい物語になるのではないでしょうか。普通に出版社に投稿できる素材になり得ると思います。 一念発起して長編にしてくださいまじで。 以上です。心から期待してます(ぷれっしゃーぷれっしゃー) 御爺さんの返信(作者レス) 加藤 汐朗 様 お初にお目にかかります。半分埋もれていたのを発掘していただき感謝ですw >『ナリヒラをストーリーの主軸』にしたら良かったのではないでしょうか。 ふむふむ、そんな手もありますね。 提示していただいたアイディアはそれはそれで面白そうです。学校にアリ塚やら一家全部居候とか、何かとおいしそうなネタの宝庫ですねw ただ、それをやろうとするとまた別の話になってしまうように自分は思いました。この作品とは異なるテーマを書くときに、是非とも使わせていただこうかと思います(ぉぃ >※姉弟でも血が繋がってなければ婚姻できますので問題ないです。 そうなのですよ。法的には何ら問題ないらしく、下手をするとただの勘違い物語になりかねませんでした。 ですが、あくまで法的であって精神的、世間的にはそうではないだろうというのが自分の結論です。 若者は法なんて重く考えてませんからねっ(ぇ >もしかしたら、ディズニー映画並みの暖かい物語になるのではないでしょうか。普通に出版社に投稿できる素材になり得ると思います。 ほめすぎです……。それ以上書かれたら図に乗ります(ぉぃ 温かい物語というのは常々意識していますね。空想の世界なのだから楽しくて温かいのが一番だよねと自分は考えているので。 それが出版社に投稿できるほどのものになるかは……まだまだ怪しいですがw >一念発起して長編にしてくださいまじで。 ま、前向きに検討を……w 温かいお言葉、感謝です。非常に励まされました。 それでは、感想ありがとうございました! ↓Bさんの意見 +30点 ↓Bと申します。 ・……こいつはすげえや。いや、お世辞でもなんでもなく、めちゃくちゃ面白かったです。ここまで30作ほど読みましたが、今のところ本作が一番ですね。それぞれのキャラが非常に生き生きとしていて、特にみんな自分勝手に能動的に動き回るのが(これは、言うほど簡単じゃない)本作の世界に立体的な質感と生命感を与えています。その中でナリヒラはじめ主人公に干渉してくるキャラがいちいち魅力的で、もうなんかお前ら大好きだ! と言いたくなるのですが、実際に彼らに触れる主人公もまた愛すべき自然体のキャラで、だから作品の世界自体が好きになってしまいました。ストーリーは動画サイトをキーアイテムにした簡単な流れですが、複雑な家庭事情と血のつながらない姉弟がこれも自然に描かれていて、下手に恋愛ものの装飾を加えるよりずっと説得力がありました。 ・強いてこれ以上を要求するなら、作品全体のプロデュースという考え方を持ってほしい、と思います。本作は「結果として」非常に良い出来になっていますが、文章を読んでいてもそれほど大きな視点で作品作りをしているようには思えないんですよね。文章力としてはそれほど高くないのを平和的な内容と飾らない文体でしのいでいるけれど、それらを使って積極的に作品の色づけをしているようには見えない。全体のイメージとして、ある程度計算してもっとスマートな作品にしても説得力は損なわないはずだし、また逆にもっと泥臭い空気で脇道回り道を通らせても現状以上の結果が期待できると思います。本作はそのどちらでもなくて、いくらか偶然的に成立している、言ってみれば半端な作品であるように思われます。 ・実は妹もいけますが姉もいけます↓Bです……じゃなくて、恋愛の扱いも素晴らしいですね。他作のようにわざとらしくありがちなイベントや過剰な好意アピールや予定された紆余曲折を用いないで、本当に単純な筋書きで恋愛模様を描く様子が「この作品は恋愛だけじゃないんだ、そんな単純なことを言いたいんじゃないんだ」というメッセージのように思えました。広い視野を持った素晴らしい世界観です。ラストの締め方も爽やかで、ナリヒラがメスとかはちょっと蛇足な印象を受けましたが、現状でもこれはこれでいいと思うです(じゃあ言うなよ)。 以上です。評点は私の最高点をつけてもよかったのですが、まだ上を目指せる作品だと思いますので、すみませんがこの程度に留めます。良作をありがとうございました。 御爺さんの返信(作者レス) ↓B 様 お初にお目にかかります。……して、なんとお呼びしたら良いのでしょう? したびー……さま?(汗 >……こいつはすげえや。いや、お世辞でもなんでもなく、めちゃくちゃ面白かったです。 そこまで言われると恐縮してしまいそうです。非常に喜ばしいことなのですが……なんだろう、恐れ多い(ぉぃ >それぞれのキャラが非常に生き生きとしていて、特にみんな自分勝手に能動的に動き回るのが(これは、言うほど簡単じゃない)本作の世界に立体的な質感と生命感を与えています。 おぉっ、ありがとうございます。 奇跡の産物のような気がしなくもないですが、作者としてはキャラクターの自由な生き方は意識しました。 それぞれが自然に仕上がっていたのなら、大喜びしようと思います。 >ストーリーは動画サイトをキーアイテムにした簡単な流れですが、複雑な家庭事情と血のつながらない姉弟がこれも自然に描かれていて、下手に恋愛ものの装飾を加えるよりずっと説得力がありました。 ここまでお褒めいただくと逆に胃がシクシクと痛んできそうです(ぉぃ 今回、ラノベっぽくしようと思いつつも「普通」を重視したためラノベ的なものは記号になってしまっていますが、結果として説得力を出せていたのなら自分、今世紀最高のしたり顔ができるかもしれませんw 萌え萌えな感じを出さなかったのは成功だったでしょうか。 >文章力としてはそれほど高くないのを平和的な内容と飾らない文体でしのいでいるけれど、それらを使って積極的に作品の色づけをしているようには見えない。 ここの一文はズバリ言い当てられた気がして、思わず背筋を伸ばしてしまいました。 この前の、「結果として良い出来になっている」というのも当たりかと思います。この作品は偶然に助けられましたね。 作品への色づけもまだ自分の中にはない考え方です。とにかくお話を形にするので精一杯の状態なので、余裕ができたら魅力的に見える文章というものを意識してみようと思います。 >全体のイメージとして、ある程度計算してもっとスマートな作品にしても説得力は損なわないはずだし、また逆にもっと泥臭い空気で脇道回り道を通らせても現状以上の結果が期待できると思います。本作はそのどちらでもなくて、いくらか偶然的に成立している、言ってみれば半端な作品であるように思われます。 たしかに、自分がネガティブなものが嫌いということもあり、中途半端なところまでしか踏み込めなかったかもしれません。 少し戻ってみるのもいいですが、ここで今一歩突き抜けた方が起伏はつきそうです。 そこに手が届かなかったあたり、作者の力量が知れるというものですね……orz >実は妹もいけますが姉もいけます↓Bです……じゃなくて、恋愛の扱いも素晴らしいですね。 義理の妹は定番でイイですがお姉さんもいいよね……という作者の妄想が迸った結果で(ぉぃ 恋愛については現実味重視の、どちらも近寄りたいけど近寄れない感じを表現したつもりです。萌えなんてないですが互いの好意が見えれば……と気を遣った部分なので、そこを評価していただけると涙が……w 恋愛をメインに据えなかったことも結果的に良い方向に転がったかもしれません。偶然、ばんざい。 >評点は私の最高点をつけてもよかったのですが、まだ上を目指せる作品だと思いますので、すみませんがこの程度に留めます。 いえ、充分すぎる評価をいただけただけで幸せです。これでまたしばらくは生きていけます(ぉぃ いつになるかは分かりませんが、更に上の作品を書けるように研鑽をつんでいければと思います。 それでは、感想ありがとうございました! ツヅラさんの意見 +30点 読みましたので、感想を書かせていただきます。 面白かったです。 虫と話ができて、虫の相談にのっているという設定が良いですね。 綺麗にまとまって、読後感の良い作品ですね。 気になる点をいくつか。 すでに書いてらっしゃる方もいますが、ナリヒラの口調はもうちょっと中性的な方が良かったかもしれません。 あとは、ヒロインのキャラがちょっとつかみづらかったです。若干記号的な印象でした。 とはいえ、上の二点はそれほど気になったというほどのことはありませんでした。 感想は以上です。それでは。 |
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