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百器徒然袋―雨
「推理はしないんです。彼は」 知人・大河内の奇妙な言葉にひかれて神保町の薔薇十字探偵社を訪れた「僕」。 気がつけば依頼人の自分まで関口、益田、今川、伊佐間同様 “名探偵”榎木津礼二郎の“下僕”となっていた……。 京極堂をも巻き込んで展開するハチャメチャな妖快3篇 「鳴釜(なりかま)」「瓶長(かめおさ)」「山颪(やまおろし)」を収録。
さすが、京極夏彦。 そうとしか思えません。 京極夏彦の作品は、有名な「姑獲鳥の夏」などがありますが、 これはライトノベルとしては濃過ぎる物として、そういった人達には読まれる事は少ないです。 ですが、これは違います。 何と言っても仕切るのが、自分が神であり世界で唯一の探偵と豪語する 薔薇十字探偵事務所の榎木津礼二郎だからです。 彼は探偵ですが、推理なんて野暮な事はしません。視えるからです。 それじゃ、小説として成り立たないんじゃね? とか云う心配も無用なのです。 それが榎木津礼二郎だからです。 短編集の形式になっていますが、どれも主人公である「僕」の視点で主に進められます。 ぶっちゃけると彼は影が薄いです。いえ、周りが濃過ぎるのですが。 榎木津はどんな状況でも破砕する探偵です。 八方塞がろうと、国際的大問題だろうと奇奇怪怪な状況だろうと、問題にしません。 榎木津が仕切るからこその軽さがありながらも、京極夏彦作品としての味も失くしていません。 ライトノベルと言えるかは判りませんが、読むべきです。
弁が立つところです。実に詭弁家なのですが、理に適った話し方をします。 最初は何でそんな話をするのか判らない事でも、全て伏線を拾い上げます。 実に話し方が上手いのです。京極の語りには引き込まれます。
好きな人はあっと言う間に好きになりますが、 駄目な人は二度と読む事すらしなくなるでしょう。 それから、京極シリーズとしては番外編になるので、 本編を読んでいないと多少判らない事がある事です。 それもさらりとフォローはされていますが。 京極堂の語りでも好みが分かれてしまいます。 長過ぎると、と途中で放り出してしまう人も居ます。
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パスワードは、ひ・み・つ―パソコン通信探偵団事件ノート
パソコン通信を知ったマコトは、入団資格テストにみごと合格。 飛鳥、ダイ、みずきとともに捜査会議に参加する。団長のネロが出題する事件や、 メンバーが出会った事件をみんなで解いているまではよかったのたが、 ある朝、ジョギングをしていたみずきが現実の事件にまきこまれて…… さあっ、探偵団の出動だ。小学上級から。
彼これ十二年以上も続いている長寿小説で、累計発行部数は320万部超、 シリーズも番外編を含めて二十四冊を数える、今現在の青い鳥文庫の小説の中でも、 一、二を争う人気シリーズとなっております。 その人気の秘訣はといいますと、まず第一に、毎巻随所にクイズやパズルなど、 様々な楽しい謎解きが用意されており、要するに、ページをめくっているうちに、 読者は思いがけないところで頭の体操が出来るというわけです。 登場人物たちより先に問題を解いてやろうと、ページをめくらずに必死に頭を捻って捻って、 絞り取れるところまで脳みそを絞って、やっとのことで答えを導き出したときの爽快感といったら…… 筆舌に尽くしがたいものがあります。 それこそ、テストで百点をとったときの満足感なんか、比較になりません(笑) 考えた末に、登場する人物の誰よりも先に真相を解き明かすことで一種の爽快感を味わえるのが、 ミステリーの醍醐味といえますが、本書はその爽快感を一度きりでなく、 随所で何度も味わうことが出来るので、かなりお得です。 まあ、頑張って問題を解き明かせばの話ですが(汗 で、肝心のクイズはといいますと、これがもう、簡単な駄洒落クイズから、 本編の事件の鍵を握る超難問まで実にバラエティ豊か、より取り見取りな問題が楽しめます。 クイズ・パズル好きの方には、ぜひオススメしたいシリーズですね! 第二の秘訣は、この作品には一種の友情小説的な要素が含まれているという点です。 ネット上で知り合った電子探偵団のメンバーが、毎回力を合わせてさまざまな難事件に挑んで、 それを見事に解決したり、捜査の過程で友情や恋が芽生えたり…… 時には団の間に亀裂が生じたりと、読んでいて辛いこともありますが、 どの事件も最後は必ずハッピーな状態で幕を閉じて、 読んでいるほうの心をほわっと温かくさせてくれます。
シリーズ開始当初は小学五年生だった探偵たちも、巻を重ねるごとに徐々に成長していき、 最新刊では遂に中学校へと入学しました。 探偵No.1 小海マコト……主人公。学校の成績はイマイチだが、 推理力ではネロでさえ一目置くほど。みずきとは相思相愛。 探偵No.2 鳥遊飛鳥……県下一の名門校、山王学園に通う秀才。理論系の問題が得意。 マコトに強いライバル意識を燃やしている一方で、ダイとは漫才コンビのような関係。 ある事件で人気アイドルの野原たまみと知り合い、相思相愛に。 探偵No.3 林葉みずき……活発で明るい性格の健康的美少女で、マラソンは全国クラスの腕前。 マコトのことが好きだが、お互いにそのことをなかなか言い出せない。特技は暗号解読。 探偵No.4 仙崎ダイ……駄洒落で事件を解決する「ギャグ推理」が得意(?)な大食漢。 特技の将棋は最初はアマ三段の腕前だったが、後にアマ四段に昇格した。 ひそかにまどかのことが気になっている様子。 探偵No.5 神岡まどか……ある事件をきっかけに知り合った、帰国子女の女の子。 フランス人形のような外見とは裏腹に、蛙や蛇を「可愛い」と断言するなど、 一風変わった感性を持っている。 団員たちの中でもとりわけ想像力がぬきんでていて、 事件の真相を突拍子もないほうへと持っていく「暴走推理」が得意。 また、かなり惚れっぽい性格の持ち主。 ネロ……電子探偵団団長。推理力はピカイチで、団員のみならず周囲の人間からの信頼も厚い、 団員たちの頼れる保護者的存在だが、謎が多い。
児童書なので仕方がないとはいえ、読んでてやや物足りない気持ちに陥ることもあるかと。
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パララバ―Parallel lovers
遠野綾は高校二年生。 平凡な日々を送る彼女の一番の幸せは、部活を通して知り合った他校の男子生徒、 村瀬一哉と毎日電話で話すことだった。 何度も電話をするうちに、互いを友人以上の存在として意識し始めた二人だったが、 夏休みの終わりに一哉は事故死してしまう。 本来であれば、二人の物語はそれで終わったはずだった。 しかし一哉の通夜の晩、綾のもとに一本の電話がかかる。 電話の主は死んだはずの一哉。そして戸惑う彼女にその声は告げた。 死んだのはお前の方ではないのかと……。 二人が行き着く真実とは!? 出会えぬ二人の運命は!? 携帯電話が繋ぐパラレル・ラブストーリー。 切なさともどかしさが堪らない、第15回電撃小説大賞「金賞」受賞作。
あらすじやタイトルを読む限りだと、パラレルワールドと言う設定の元、 ファンタジー・ラブストーリーなのかと思いきや…… 実はミステリーだったのです!! ……もっとも、実は『学園ラブミステリー』なんて銘打ってあったりもしたんで、 驚いた原因はそれを見落とした僕の落ち度なんですが(笑) ミステリーとしてはちょっと柔らかいと言うか、 コッテコテと言うほどではなく誰でも手軽に読める程度だと思います。 ふだんミステリーが嫌いな僕なのですが、 (伏線が回収されるたびにページを戻って読まないとすっきりしないたちで、 けどそれをやるのが非常に億劫なので基本ミステリーは読まないんです) こちらはおいしくいただけました。 この作品を一押しするその理由は、キャラやシナリオもさる事ながら、文章の構成力にあると思います。 とにかく無駄がないんです。 一文一文が、一言一言が、精密な機械の小さな部品のように組み込まれ、形を成しているという点です。 これほどまで無駄のない作品は久しく目にしていなかったなと。 伏線の提示は実にサラリと、しかし回収の仕方は大胆に。 そうして無駄なく機械のように精密に構成された文章が、 しかし実に生き生きと命を宿しているんですよね。 綾の一人称だからと言うのもあるかも知れませんが、 いくら読んでも肩もこらずすらすらと読み進められる。 普段女性を主人公に物語を書く事の多い僕としては、参考になる事ばかりでした。 巧みな文章によって綴られたその物語も、 最後はホロリとさせられるラブストーリーとして完成度が高いです。 時におかしく、時に切なく、時にもどかしく、思春期の淡い恋心を等身大で描けているなと。 金賞も納得の一作。 ぜひぜひ読んでみてください。
とにかく言動、行動全てにおいて可愛いです。ナデナデしてあげたいです。慰めてあげたいです。 そんな事したら一哉に投げられますが気にしません。 好きな人に対して一途で一生懸命で、 時には身を案じるが故に言葉を荒げてしまい喧嘩に発展してしまったり、 怒り心頭した時には思わず言葉が汚くなってしまったり。 彼女の言葉、行動、思考は、どれも等身大の女子高生だなと。 イラストからだと、やや奥手で「あう〜あう〜」というステレオタイプなイメージを抱きがちですが、そ ればかりじゃない。 誰もが持ちえる二面性をしっかり持った人として描けている。 そう言った点が、彼女に好感を持てる最大のポイントです。 ……物語の後半、綾が激怒して声を荒げた時はキュン死にしました。ギャップが非常に萌えた(笑)
おそらく普段からミステリーを読み慣れている方にとっては物足りない感を抱くと思います。 なので『学園ラブミステリー』と言うのはちょっと盛り過ぎかな〜と言う点が一つ。 もう一つは『ラブ』と銘打っている割に、一哉に対してあまり魅力を持てなくて、 どうして綾は一哉の事が好きなんだろう、と言うのがやや不透明だった点。 もちろん綾が想いを寄せる理由は何となくつかめるのですが、 それを色付けるエピソードがやや薄いような気がします。 メールや電話を通じて人を好きになる事はいつの時代もある種日常茶飯事だとは思うのですが、 もう一つ二つエピソードが欲しかった所です。
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あれ!? その小説、もしかして105円で売られていない? |
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