ライトノベル作法研究所
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  4. はたらく魔王さま!公開日:2014/02/21

はたらく魔王さま!

ジャンル:異世界FT
著者:和ヶ原 聡司
出版社:電撃文庫
発行年月:2011年02月
本体価格 620円(税込)

ラノベの王女様(女性・17歳) 持田(女性・15歳)さん一押し!

■ 解説

 世界征服まであと一歩だった魔王サタンは、勇者に敗れ、異世界『日本』の東京・笹塚にたどり着く。
 そんな魔王が日本でできること。それはもちろん“世界征服”!!
 --ではなく、駅前のファーストフード店でアルバイトをしながら生活費を稼ぐ、いわゆるフリーター生活だった!
 その頃、魔王を追って時空を越えた勇者エミリアもまた、テレホンアポインターとして日本経済と戦っていた。
 そんな二人が東京で再会することになりー!?
 六畳一間のアパートを仮の魔王城に、今日も額に汗して働くフリーター魔王さまが繰り広げる庶民派ファンタジー。第17回電撃小説大賞“銀賞”受賞作登場。

■ ラノベの王女様の書評2014/02/20

 「主人公は中高生ぐらいの年齢に」というのは、ラノベ執筆における基本中の基本と形容するべきかしら。俳句における字数制限や季語の必要性みたいに。
 ラ研でも「ラノベの大学生主人公にメリットはある?」「大学生が主人公のライトノベルはなぜ少ないのか?」で語られてるように、中高生主人公は他の年齢層にはない、様々な利点を持ち合わせてるわ。有季定型という制限が俳句の世界に広がりを持たせたのと同様に、中高生主人公という制約がラノベの魅力を後押ししてるわけね。

 でも、河東碧梧桐が新傾向俳句で名を成したように、世の中には非中高生主人公でベストセラーの座を手にした作品だってもちろん存在するわ。
 それが今回取り上げる『はたらく魔王さま!』よ。

この作品は「非学生主人公」「非ハーレムもの」「主人公が労働者」という、現代ラノベのスタンダードとはむしろ真逆の設定であるにもかかわらず、累計発行部数は140万部を突破し、2013年4月にはアニメ化で絶大な人気を博した、まさしく「魔王」級の作品よ。

 ではなぜ、本作はここまでの支持を得ることに成功したのか。
 ラ研が誇る教養深いスーパーエリート美少女であるこのあたしが、『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』を度々参考にしながら、その秘密を紐解いていくわ。

(1)魔王と勇者ものであること
 世界を支配してた魔王が一転! ハンバーガーショップのアルバイトに!
 最高のツカミだと思わないかしら? この「ネタになる」あらすじは、間違いなく読者に「刺さった」はずよ。なんか面白そうだな、って感じで。
 以前「キャラのギャップを演出する方法とは?」にも書いたけど、魔王と勇者ものの利点は「ギャップを作りやすい」ってことよ。それは単に「手軽だから」ってだけじゃなくて、同時に「安心感」も付与してるわ。
 「大企業の社長がクビになってアルバイト生活!」だと確かにギャップはあるけど、あまりにもシリアスすぎて反応のしようがないわ。少なくとも楽しく読書できないのは間違いなしね。
 でも、魔王ってファンタジーな存在だからこそ、読者は安心して笑うことができる。「お約束(ほら、2chに魔王がいじられるssがいっぱいあるでしょ?)」で済ますことができる。「楽しい」要素もきちんと取り入れられてるわ。
 魔王と勇者ものには、想像してる以上に利点がいっぱいあるのよ。だから流行るのよ。

(2)真奥が正社員ではなくフリーターであること
 「お仕事もの」にありがちなのが企業を舞台にすること。
 一般文芸がそうだし(今話題の半沢直樹とか)、ラノベでも『なれる!SE』『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました』はその類ね。
 でも『魔王さま』はそうしなかった。主人公をマグロナルドの正社員ではなく単なるアルバイトにした。なぜか。
 それは会社内で物語を展開する限り、どうしてもドロドロした要素を回避できないからよ。

 あたしもあんたたちも労働問題の専門家じゃないけど、「ブラック企業」や「社畜」の存在くらいは知ってるでしょ?
 考えてみて。寝てない自慢をする同僚が出てくる物語が見たいかしら? サービス残業を強要する上司に感情移入できるかしら? 何よりそんな世界に憧れを抱けるかしら?
 ラノベ読者は「楽しさ」を求めてるんであって、決してドキュメンタリーを求めてるわけじゃないわ。
 それに、高度経済成長期じゃないんだし、「働くこと」に憧れを抱いてる中高生なんて、もはや絶滅危惧種よ(生活費のために働きたがってるのは大勢いるだろうけど)。ブラック企業の存在が明るみに出た現代においては。
 だからこそ、真奥はフリーターなわけ。主軸を仕事以外(エンテ・イスラ関連)に移せるから。実際、『なれる~』『勇者に~』と違って仕事の話はメインじゃないでしょ? だから売れたのよ。

(3)キャラクターがとにかくポジティブ
 前述のように真奥はフリーターで、しかも芦屋と漆原を養ってる。加えて漆原はニート。収入は不安定で、笹塚のボロアパート住まい。貧乏も貧乏、キングボンビーよ。
 こんな状況だったら、あまりの生活環境の酷さに「あー漆原死んでくんねーかなー」「魔王様、漆原のバカを追い出しましょう!」「ふざけんなよ! 真奥も芦屋もぶっ殺すぞ!」って不満が爆発してとんでもないことになりそうだけど、実際は紆余曲折ありながらもほのぼの? とした生活が続いてるわ。
 どれだけ困窮しようとも、真奥も芦屋も他のキャラも、他人に罵声をぶつけないし、暴力も振るわないし、延々と愚痴ったりイヤミを言うこともない。むしろ眩しすぎるほどポジティブな登場人物たち(表紙を見なさい!)。理想かどうかは分からないけど、ほほえみながら眺められる生活がヴィラ・ローザ笹塚にはある。「安心感」への配慮をここでも見て取れるわね。

(4)説教臭くない
 終始ポジティブで、イヤな気持ちになるところがないテイスト。
『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』で、バカテス成功の要因の一つとして挙げられてたけど、これは『はたらく魔王さま!』にも適用できるんじゃないかしら。
 上で「キャラのポジティブさ」に言及したけど、それ以上に大きいのが「多様性の許容」ね。
 現実的に考えるなら、現代は不景気真っ只中なんだから、フリーターよりも正社員の方が何百倍も安定した未来を歩める可能性があるわ。
 でも、この作品には「正社員になるべき」「ニートはダメだ」「人生は妥協が肝心」みたいな説教じみたメッセージは存在しない。「あるべき規範」へと読者を誘導しない。むしろ、様々な人生を相対化してるわね。
 例え不安定でもいろんな生き方があっていい。フリーターでもいい。専業主夫でもいい。裏切り者のニートだっていい。コールセンターで働いてもいい。弓道を頑張ってもいい。宝石を売って生計を立ててもいい。旅行しながら大家さんをやるのもいい。マグロナルドの店長を追っかけてもいい。ネットカフェに滞在してもいい……
 「生き方は一つではない」というメッセージが、多くの読者を魅了してるんじゃないかしら。

 こうして書き出してみると、なぜこの作品が売れたのかがよく分かってくるわね。
 ベストセラーには深みがあるわ。人生を考えさせるだけのね。

お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?

 みんな個性的で好きよ。
 作者がどのキャラにも愛情を注いでるってのがいっぱい伝わってくる。悪役含め、ね。
 強いて言うなら、定番であるまおえみ(真奥×恵美)とはんすず(漆原×鈴乃)の二組かしら。

この作品の欠点、残念なところはどこですか?

 オルバが魅力無さ過ぎ!

■ 持田さんの書評2011/09/18

 世界征服の一歩手前まで行った残酷な魔王であるはずの真奧貞夫が、ファストフード店『マグロナルド』で真面目に働く姿は、何か笑えます。

 何か残念な部下、芦屋と漆原(は特に役に立っていない気もする)と力を合わせてボロアパートで節約生活を送る魔王サタン。
 彼らを追って日本までやってきたはずの勇者エミリアも、その三人を殺してしまうことをためらうようになっていきます。

 真奧はバイトの後輩に好意を寄せられ、世界を制圧しようとしていた魔王サタンの目標は日に日に小さく狭くなっていくのです……。

 正直、ファストフード店の店長になったところで世界征服などできるはずが……w

お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?

 漆原が好きです。ニートですけど。
 魔王城の家計を苦しめている原因のひとつですね。

 それと、芦屋も好きです。毒舌ですけど。

この作品の欠点、残念なところはどこですか?

 まだまだこれからじゃないでしょうか。

■ 一言感想コメント

・面白いことは間違いない。しかし、右肩下がりの面白さなのが非常に残念。
 一巻の時点で感じた期待は最早無く、凡作に堕してしまっている。
 面白いことは間違いない、が……
2014/12/29

・魔王と勇者の立ち位置がいいです。
2013/05/01

・勇者魔王系ラノベで一番すきデスw!!
2013/04/13

・すっごいハマってます!
 ごり押しです☆
 アニメ楽しみですよ…!
 原作の絵とか超絶かわいいんで是非読んでみて下さいっ
2013/04/04

■ あなたはこの作品についてどう思いますか?(読者投票)

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おもしろいです!オススメします。
なかなか良いと思います。
ふつうです。
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