ライトノベル作法研究所
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  4. 魔王殺しと偽りの勇者公開日:2014/03/23

魔王殺しと偽りの勇者

ジャンル:異世界FT
著者:田代裕彦
出版社:ファミ通文庫
発行年月:2013年8月30日

活火山(男性・27歳)さん一押し!

■ 解説

 四人の“自称"勇者たち。魔王を殺したのは一体だれ?

 “本当"に大魔王を打倒した勇者を見つけだせ――王宮戦士のエレインは、その不思議な命令に首を傾げた。
 十日前、百年に一度復活すると云われる大魔王が打倒され、アルブリオ王国は歓喜で満ち溢れていた。
 そんな中、国王に内密に呼び出されたエレインは四名もの人物が「自分こそが大魔王を倒した勇者である」と主張していることを知る。
 さらに、堅物な彼女に用意された協力者は王族でありながら魔族に寝返り、牢に幽閉されていた青年、ユーサーだった。
 魔族を尊重し、不遜な態度を貫くユーサーに苛立ちを覚えながらも自称勇者を訪ねるエレインだったが……。
 果たしてエレインは勇者たちの嘘を暴き、真実を手繰り寄せることが出来るのか?
 異色のクライム×ファンタジー、開幕。

■ 活火山さんの書評2014/03/22

 本作を短く言い表すならば「名探偵の助手が主人公の異世界ファンタジーミステリー」といったところでしょうか。
 主人公は、直情的で、男言葉を使う応急戦士、エレイン・イアラーグ(女性)なのだが、彼女は王宮からある任務を言い渡されることになります。

 その任務が、大魔王を倒した勇者候補4人のうち、本当に大魔王を倒した勇者を見つけ出せというもの。

 つまりこの4人の中の誰かが大魔王を倒した勇者だが、このうち3人は嘘をついているので、その嘘を暴き、勇者を見つけ出せというものです。
 しかし、主人公である彼女はというと、そういった嘘を暴いたり、駆け引きが苦手で、どちらかというと脳筋な女性です。
 そこで、協力者として魔族であるユーサー(男性)とコンビを組んで勇者を探し出すという物語です。

 当然ながら人間と魔族は水と油の関係で、エレインとユーサーもその関係です。

 しかし物語を読み進めればわかりますが、この物語のほとんどの謎を解くのは魔族であるユーサーで、人間であり本来任務を賜ったエレインは基本見ているだけか、ユーサーの指摘に驚く役回りとなっています。
 つまり、本来協力者であるユーサーが名探偵の役回りで、エレインは謎解きを見ているだけの助手なんですね。
 この関係が実によくできていると思います。

 エレインがユーサーの名探偵ぶりを見て徐々に自信を失って行きます。そしていつのまにか、ユーサーに依存し始めていくのですが、これが本当にさりげなく行われているのには驚かざるを得ません。感服です。

 本来なら主人公は名探偵の方になるはずですが、あえて助手の方を主人公にしたのは読者の感情移入のしやすさや、エレインが受ける衝撃を読者も追体験できるからなんだなというのは想像に難くありません。

 彼女にはユーサーにからかわれ、萌え要素やちょっとしたお色気をサービスする役回りもあるので、そう言う意味でも美味しいですね。

 主人公なのに、活躍あんまりしないのか? と思われるかもしれませんが、エレインとユーサーのコンビでなければこの物語の面白さは半分以下になってしまっていたことでしょう。
 エレインは直情的で、騙されやすく、純情で、ユーサーは狡猾で、からかうのが好きで、名探偵な部分がよく噛み合っています。

 騙す方と騙される方、からかう方とからかわれる方、真相を告げる者と告げられるもの、といった関係が綺麗にまとまっているのです。

 またユーサーがどんどん謎解きをしていく過程で出てくるキーワードを拾い集めながら読んでいくと、読者も擬似的な推理ができるように構成されているのもポイントですね。
 ほんのわずか数行先にある答えなのだが、その答えに至る直前で読者も答えに到れる伏線がいくつもある。

 この逆も然りで、結論がはっきり最初に出てきて、そこから、今までの物語を読み返して照らし合わせれば既に答えが出ているものも多く、プチ推理が楽しめる。
 推理したい人も推理せずに読みすすめたい人にもおすすめできる作品だと言えましょう。ちなみに私は後者です。
 ミステリーらしく最後にかなりトンデモなどんでん返しが待ち受けているのですが、本当いい意味で期待を裏切られました。

 固定概念を上手く利用したどんでん返しで、思わずそうきたか! と心の中で叫んだくらいです。

 この物語は2巻構成で、3巻以降は出ない予定だそうですが、もしこの作者が次の作品を書くのなら、ぜひまた彼らの物語を読みたいと思いました。

お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?

 ユーサーとエレイン。これにつきますね。

 ユーサーはエレインの可愛らしさを引き出してくれるところが素晴らしい。彼がいたから、我々読者は堅物なエレインの魅力を知ることができるわけです。

 エレインは実直で、直情的で、堅苦しく、やや男勝りなのですが、そこが彼女の味でもあり難点でもある。彼女の魅力はユーサーがいなければほとんど表に出てこない部分があります。なので、この作品のうち好きなキャラクターといえばこの二人は必ずセットで好きと言わざるを得ないでしょう。

この作品の欠点、残念なところはどこですか?

 ユーサー無双なところですね。
 物語の構成上致し方ないのかもしれませんが、ほぼ全ての謎は彼が解決してしまうので、エレインが本当の意味で活躍するのは2巻の終盤に差し掛かる頃になってしまうのが少々残念。

 しかもそれまでユーサーからは小馬鹿にされっぱなしで、どんどん落ち込んでいくわで、見ていてちょっと辛いものがあります。

 エレインの職業、王宮兵士という設定も決して無駄な設定ではないのですが、次から次へと溢れ出てくる真実にただただ驚くばかりの役回りなので、あまり凄さとか、兵士らしさといった部分が感じられないのが残念です。

■ あなたはこの作品についてどう思いますか?(読者投票)

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