gmさん一押し!
荒れ果てた大地と砂漠、点在するレインスポットに暮らす人々。
その過酷な世界を戦車で旅する少女がいた。名はエリザベス・スタリーヘヴン。
素性を隠し“賞金稼ぎのキッド”として名を馳せる彼女だが、実は1年前まで銃を触ったこともなかった……。
謎の協力者ウィリアムや不思議な能力を持つ少女フラニーとともにベティは旅を続ける。
父の仇ロングストライドを追い詰め、決着を付けるために。
秋田禎信、待望の新作。
異世界の砂漠を舞台にした、西部劇風の作品です。
ストーリーは、父殺しの汚名を負わされた主人公の復讐劇。
作者は「オーフェン」で知られる秋田氏。
独特の語り癖を持ちますが、世界観と物語の構築、何より作品世界に流れる「空気感」の造り方は見事の一言。
ストーリー自体は単純と言えますが、それを語る下地がしっかり根を張って活きている。
故に「復讐劇」「西部劇」という外見で最初から印象付けてしまう事が無く、「ベティ・ザ・キッド」という作品の自然な形が、そのまま脳裏に侵入してくる感覚を覚えます。
私が特に気になった、気に入った部分があります。
「砂漠には謎がある」
文中に時折登場する文句です。「砂漠」とは物語の舞台となる砂漠、西部劇でいうところの荒野のことです。
「入植してそれなりの年月が経っているけれど、砂漠にはまだわからないことがある」概ね、言葉の意味合いとしてはそんなようなところです。
ですが、これが非常に面白い効果を持っていると思うのです。
たとえばそれは、「メルカバ(戦車)をはじめとするオーバーテクノロジー」であり。
または、「そのような高い技術力を持った先史文明はどこに消えたのか」という世界観にまつわる謎を指しています。
かと思えば、「水を持たずに砂漠を彷徨えば2日で死ぬ。だが、3日生き延びる者もいて、半日で死ぬ者もいる。それが謎だ」というように、漠然とした物事を指していることもあります。
要するに、「砂漠にある、理解のできないこと」が総じて「砂漠の謎」として扱われているわけです。
合理的に謎になるものがあれば、不条理だから謎になるものもある。
物語は「復讐劇」です。
簡単に生命が失われる砂漠という過酷な環境の中、簡単に生命を奪う銃という道具が当然のように存在している世界です。
人の命は非常に軽い。発砲音一つで人は死ぬ。
主人公も殺人を犯すことを目的に物語を歩いていきます。
そんな世界観、物語の両方にこの言葉は作用しているように思います。
時にそれは「世界観を語る小道具」になり。時にそれは「物語を牽引する鍵」になる。
上手く説明できたとは思えませんが、この作品が只の「西部の復讐劇」で終わらない理由は、この言葉に集約できるような気がします。面白く、魅力的です。
……といった、キーワードの存在もそうですが、先に挙げた世界観や空気感の造り方、物語の構成など、全てに渡って完成度が高い佳作ではないかと思い、投稿させて頂きました。
全9話、単行本2巻完結と文量は控え目ですが、特別に物足りなさは感じませんでした。むしろ少ない分、要点が把握し易いと感じられ、尚の事参考にしやすいと思います。
氏のファンには言わずもがな、そうでない創作志望者にもお勧めできる一作です。是非。
お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?
ロングストライド。
悪党です。非道で卑怯、卑劣漢で情状酌量の余地はなさそうです。
ですが、妙に人間くさく見える人物でもあります。
とことん利己的なのですが、それ故「卑怯」でも「現実的」な考え方の持ち主と思われ、小物臭くすら思えます。
唯我独尊ではなく、上司に不満を持つ下っ端の身分だったりして、どうにも憎めません。
結末もいい具合です。
復讐劇の仇役といえば当然なのですが、それ以上にそのキャラクターがこの作品の顔となっているような気がします。
この作品の欠点、残念なところはどこですか?
秋田節。と言ってしまえば伝わると思いますが。
むしろ持ち味だと思っていますが、万人受けしないであろうとも思うので、注意点と言う事で挙げておきます。
【雰囲気が暗い】
あっさり人が死ぬ世界観、作風ということもありますが。
ギャグは無い、派出さも無い、泥臭い、汗臭い、埃っぽい、剣呑な人々、一方的な思考、身勝手な理屈、人間ってそんなもん。
大体そんな感じで、つまり暗い。
最近の業界のメインストリームには全く入れない作品なので、苦手な人はとことん苦手だろうと思います。
【文章に癖がある】
文章に何のこだわりも無いのであれば、問題無く読める文章です。
ですが、こだわりがあったりするとひっかかりを覚えてしまう文章かもしれません。
氏の持ち味だと思うのですが、万人受けする文章だとは思えません。