ライトノベル作法研究所
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ライトノベル歴史年表1990~1999年

1990年 ライトノベル元年

影響を与えた周辺事情

・パソコン通信ニフティサーブの「SFファンタジー・フォーラム」内に新しいタイプの小説を語るための「ライトノベル・ミーハークラブ」という会議室が作られる。『ライトノベル』という呼称の発生。しかし、この名称はすぐには広まらず、2003年に刊行された大塚英志の書籍『キャラクター小説の作り方』においても、「スニーカー文庫のような小説」という呼ばれ方をしていた。
 『ライトノベル』という呼び名の世間的な定着は、2004年以後、ライトノベル関連書籍が多数発売されるようになってから。

代表作品

・神坂一の『スレイヤーズ』が富士見ファンタジア文庫から刊行される。
 第1回ファンタジア長編小説大賞〈準入選〉受賞作。その後、20年以上にも渡ってシリーズが作られ、三度もテレビアニメ化された歴史的大ヒット作品となる。
 ドラゴンクエストやロードス島戦記のようなファンタジー世界を当たり前の物として崩したギャグと、どんでん返しのあるシリアスなストーリーが同居した作品。主人公リナは、15歳で魔法を極めた最強の魔導師にして、盗賊を襲って金品を巻き上げる美少女という極端な個性の持ち主だった。
 スレイヤーズはライトノベルの元祖とされ、ラノベ的な要素をすべて含んでいるとされる。唯一欠けているのは、ラブコメと萌え要素で、リナは美少女という設定ながら、パーティメンバーから女とは見られていない。逆にこれが功を奏して、リナは男性に依存しない自立した女性像となり、女性人気も高く、幅広い層に受け入れられることになった。
 また、この作品から、シリアスな本編と、ギャグ満載の短編集が交互に発売されるという手法が確立した。

ラノベ業界の動向

・スレーヤーズのヒット以後、ラノベの出版点数が爆発的に伸びたため、出版社はイラストレーターの確保が追いつかず、アニメ制作者にイラストを発注するようになる。以後、アニメ絵的なイラストが表紙に使われるようになっていった。 

レーベルの創刊

・大陸書房が、大陸ネオファンタジー文庫を創刊。(~1992年)
 ファンタジー小説をメインとしたレーベル。
 大陸書房が1992年に自己破産したことにより、自然消滅となる。

・朝日ソノラマが、パンプキン文庫を創刊。(~1990年)
 寿命は非常に短く、同年廃刊。

萌える都市、秋葉原の黎明

・秋葉原にコンピューター関連商品専門の6階建大型ビル『ラオックス・ザ・コンピューター館』がオープンする。
 80年代までは、秋葉原はファミリー向けの家電の街であったが、これを契機に、次々にパソコン関連ショップの出店が続き、パソコンマニアの若い男性向けの街へと変貌していく。
 当然、パソコンマニア向けのPCソフト、ゲームなども売られるようになり、1992年ごろからのPC向け18禁美少女ゲームの隆盛と伴って、徐々にオタクの街への変化が始まっていく。パソコンマニアはオタクの代表格で、漫画やアニメ、ゲームも好む傾向があった。このためPC向け18禁美少女ゲームは、アダルトビデオと違ってアニメ絵の二次元美少女が登場するオタク趣味の極地となった。家電が売れなくなってパソコンマニア向けの街になったことが、世界的に有名なオタクの聖地、秋葉原を生み出す要因となったのである。

1991年

代表作品

・中村うさぎの『ゴクドーくん漫遊記』がスニーカー文庫から刊行される。
 主人公の極道くんはパソコンゲーム雑誌『コンプティーク』のコラム記事から生まれたキャラクターである。
 物語の内容は、中世ヨーロッパ的なファンタジー世界で、自己中心的な悪人である主人公ゴクドーがやりたい放題しながらも、国の危機を結果的に救ってしまうというもの。ギャグと美少女が満載のコミカルなストーリーだった。
 『コンプティーク』は他にも、ロードス島戦記の水野良、フォーチュンクエストの深沢美潮など、著名なライトノベル作家を輩出している。
 中村うさぎはその後、漫画原作なども行なったが、ライトノベル作家は辞めてエッセイストとして活躍している。 

レーベルの創刊

・講談社が『講談社X文庫ホワイトハート』を創刊。
 講談社X文庫ティーンズハートより高めの年齢層をターゲットとした女性向けレーベル。
 ファンタジーとボーイズラブ作品がメイン。

・小学館が『パレット文庫』を創刊。(~2007年)
 1988年から刊行されていた小説雑誌『Palette』を母体として創刊された少女向けレーベル。
 「本屋さんで買える恋」がキャッチコピーの恋愛小説路線だったが、途中からボーイズラブに路線を切り替えるようになる。
 廃刊後は『ルルル文庫』がその後継となる。

・集英社が、『スーパーファンタジー文庫』を創刊。(~2001年)
 前年、大ヒットゲーム『ドラゴンクエストⅣ』『ファイナルファンタジーⅢ』が発売されるなど、ファンタジーRPGが隆盛を極めていた。このような背景もあって、ファンタジーライトノベルを刊行するレーベルとしてスタートする。
 90年代後半から、異世界ファンタジー熱が冷めると、SF、ミステリーなども刊行されるようになった。

影響を与えた時代背景

・12月25日にソビエト連邦が崩壊する。
 これによって、1945年の第二次大戦後から、世界中を巻き込んで続いてきた東西冷戦が完全に終結した。
 冷戦とはソ連を盟主とする『共産主義・社会主義』とアメリカを盟主とする『資本主義・自由主義』のイデオロギー対立であり、これ以後の世界は勝利した資本主義・自由主義一色に染まっていくことになる。
 ライトノベルの世界では1998年から刊行された大ヒットシリーズ『フルメタル・パニック!』が、ソ連が崩壊していないIFの世界を舞台にしていたが、2000年代になるとソ連を知らない読者が増えて困ったことになったと、作者の賀東招二は語っている。

1992年 一般文芸への越境作品の登場

代表作品・一般文芸小説への越境

・小野不由美の中華風ファンタジー『十二国記』が講談社X文庫ホワイトハートから刊行され、同レーベルの代表作となるほどの人気となる。
 少女向けにも関わらず恋愛要素がまったくなく、異世界に放り込まれた少女の過酷な体験と、成長を描く。
 その後、一般人でも読むにふさわしい内容であるとのことから、2000年に講談社の一般向け文庫でも刊行される。
 ライトノベルが一般文芸小説として再版されることになった初の作品。ライトノベルと一般文芸を越境する作家が現れるようになる。

レーベルの創刊

・角川書店が『角川ルビー文庫』を創刊。
 BL(ボーイズラブ)を主に扱う女性向けレーベル。BLという言葉はこの時代にはまだ無く、『耽美』『ジュネ』『やおい』などと呼ばれていた。この分野のパイオニア的存在とされる。BLという言葉は90年代後半から使われるようになる。

・小学館が、『スーパークエスト文庫』を創刊(~2001年)。
 漫画、アニメ、ゲームのノベライズがメインのレーベル。
 他にはない、特撮を原作とする小説があるのが大きな特徴だった。

影響を与えた時代背景

バブル崩壊。経済成長神話の終わり。日本の景気の悪化が徐々に認識されだす。
 データ上(景気動向指数)のバブル崩壊は1990年11月頃始まったとされる。
 ただ、この頃は、景気悪化は一時的な物だと楽観されていた。
 バブル経済の崩壊と冷戦終結は、それまでの日本人にとって絶対の価値観だった、日本は世界第二位の経済大国でスゴイ! もっと豊かになるためにがんばる! 日本はアメリカ陣営の一員で悪の共産主義と戦う! という『仕事』と『闘争』の二大アイデンティティを失わせた。これを『大きな物語の喪失』という。
 世界は圧倒的に自由になったが、自由すぎてどうして良いのかわからない、自分に自信がないという状況を生み出した。
 これ以後のポストモダンの世界では、心のよりどころを失った男性オタクは二次元美少女との恋愛によって自己承認を得ようとして、萌えとラブコメブームに繋がったと分析される。国家や社会による承認ではなく、家族(妹)や友達、恋人などの小さなコミュニティの中での承認を得ようとする動きを『小さな物語』と呼ぶ。

美少女ゲーム業界の動向

・ゲーム会社『エルフ』が初の18禁恋愛アドベンチャーゲーム『同級生』を発表。10万本を超えるヒット作となる。
 それまでのアダルトシーンのみの18禁ゲームの在り方を、恋愛ストーリーに変えた画期的な作品だった。

SFの凋落と人材流入

・早川書房「SFマガジン」が主宰するSF小説新人賞『ハヤカワ・SFコンテスト』が休止される。
 SF小説は1980年代後半から人気が衰え、数多くあったSF雑誌が次々と廃刊に追い込まれた。
 行き場を失ったSF作家志望たちは、発表の場をライトノベルに求めた。ライトノベルは凋落したSF小説を取り込んで更に大きくなったと言える。
 本格SF小説をライトノベル風にアレンジして成功した作品として、森岡浩之の『星界の紋章』(1996年)が挙げられる。
 SFの凋落の原因として、科学技術が夢のような世界に連れていってくれるという幻想が、科学が発達した時代において壊れたこと。SFの科学考証や設定が複雑になりすぎて、SFマニア以外には理解不能になってしまったことが挙げられる。

1993年 電撃文庫の誕生

レーベルの創刊

・メディアワークスが『電撃文庫』を創刊。
 富士見ファンタジア文庫、スニーカー文庫の二強が支配していた少年向けライトノベル界に参入し、出版点数の数と多様性を武器に、猛追撃の末、90年代の終盤には業界トップに躍り出ていく。電撃文庫はラノベ界の少年ジャンプ的な存在となる。

・集英社が『ジャンプ ジェイ ブックス』(JUMP j-BOOKS)を創刊。
 文庫ではなく、新書系のライトノベルレーベル。
 少年ジャンプの漫画を小説化する他、ゲームのノベライズ作品も刊行する。オリジナル小説もある。
 出身作家として有名なのは、後に一般文芸作家となった乙一。

・アスペクトがログアウト冒険文庫を創刊。(~1998年)
 TRPG雑誌『LOGOUT』(ログアウト)を母体としたレーベルだった。
 ウィザードリィやイースといったゲームのノベライズ作品を主に刊行していた。
 1997年にログアウト文庫と名前を変えてリニューアルされるも、翌年には廃刊となる。
 その後、ファミ通文庫がその後継レーベルとなる。

・小学館が『キャンバス文庫』を創刊。(~2000年)
 少女向けレーベルだった。
 霜島ケイの『封殺鬼』が代表作。同作品は、2007年創刊の後継レーベル『ルルル文庫』に継承され、第二部が開始される。

ラノベ雑誌の創刊

・角川書店が隔月刊ライトノベル雑誌『ザ・スニーカー』を創刊。(~2011年)
 下敷きやポスター、フィギュアなどのキャラクターグッズが、たまに付録となっていた。
 スニーカー文庫の母体雑誌であり、角川書店が発行するエンターテイメント小説誌『野性時代』の増刊という形でスタートした。創刊号では火浦功の『未来放浪ガルディーン』が特集された。表紙イラストは、本作の主人公・王女コロナ〈筋肉娘〉フレイヤー。
 表紙は『ドラゴンマガジン』とは異なり、最初からアニメ風のイラストが使われた。ライトノベル雑誌は、漫画誌とは違い、表紙は水着のグラビアアイドルではなく、アニメ風イラストがスタンダードになる。
 以下は、創刊号表紙。この画像からは判別できないが、右上に小さい字で『野性時代4月号増刊』と書かれている。
 ザ・スニーカー創刊号表紙

代表作品・ラノベ業界の動向

・長谷川菜穂子の『天地無用!魎皇鬼』が富士見ファンタジア文庫より刊行される。
 最初からメディアミックスを視野に入れて作られた作品で、1992年に発売されたOVA版がその走り。その後、ライトノベルだけでなく、漫画、ゲーム、ラジオドラマ、テレビアニメ化される。
 ライトノベルにおける美少女ハーレム物のパイオニアで、ヘタレな男子高校生の元に、宇宙人の美少女たちが次々に押し寄せてきて、はちゃめちゃな騒動を巻き起こす。
 美少女ハーレム物の源流は1988年に刊行された漫画『ああっ女神さまっ』にあり、長谷川菜穂子はこの作品のOVA版の脚本も担当している。さらに源流を遡れば、高橋留美子の漫画『うる星やつら』(1978年)に行き当たり、天地無用は『うる星やつら』の影響を受けていると考えられる。

・あかほりさとるの『爆れつハンター』が電撃文庫より刊行される。
 同時に電撃コミックスより漫画版も刊行。1995年にはアニメ化されるなど、メディアミックスによる売り上げ増を狙って作られたもの。
 ヒット作をメディアミックスするのではなく、メディアミックスによって作品の認知度を高めて、ヒット作に押し上げるという手法がこの頃から始る。
 ただし、この手法は2003年の『凉宮ハルヒの憂鬱』のヒット以降は、流通する娯楽コンテンツ量が増えたためか、効果的ではなくなっていく。

1994年

代表作品

・秋田禎信の『魔術士オーフェン』が富士見ファンタジア文庫より刊行される。
 スレイヤーズと並ぶ富士見ファンタジアの代表的な作品となり、シリーズ累計発行部数1000万部を記録する。
 魔術が存在するヨーロッパ的な世界観だが、ガス灯や整備された水道、銃火器が存在するなど、文明レベルは近代的なものとなっている。
 また、魔術の設定も従来より凝ったものとなっており、人間の魔術士が使えるのは声を媒介にした「音声魔術」というもの。声が届く範囲にしか、効果が及ばない。ドラゴン種族は、視線や文字を媒介にしたより強力な魔術を使える。
 ギャグもあるが、スレイヤーズよりシリアスで重い内容のストーリーだった。

新人賞

・電撃文庫が『電撃ゲーム小説大賞』(2004年に電撃小説大賞に改称)を設立。
 第1回大賞受賞作品は土門弘幸の『五霊闘士オーキ伝』。

レーベルの創刊

・電撃文庫のサブレーベルである『電撃ゲーム文庫』が創刊される。
 ゲームを原作とする小説を取り扱う。

美少女ゲーム業界の動向

・コナミから全年齢向け恋愛シミュレーションゲーム『ときめきメモリアル』が発売される。
 爆発的な人気を呼び、各店舗で売り切れが続出する。
 複数の美少女が登場し、主人公が彼女らと個別に関係を深めていくという構成は、ライトノベルにも輸入される。

ゲーム業界の動向

・スクウェア(現スクウェア・エニックス)よりRPG『ファイナルファンタジーVI』が発売される。
 ドラゴンクエストと双璧を成すファンタジーRPGの大作ゲームシリーズの第6弾。
 この作品から、ファイナルファンタジーは剣と魔法の異世界ファンタジーではなく、機械文明と魔法が混在した世界観となる。次回作以降は、ファンタジーよりSF要素に重点を置いた世界観に変っていく。
 剣と魔法の異世界ファンタジーが飽きられ、そこに捻りや、プラスアルファが求められる傾向が生まれる。

児童文学のライトノベルへの接近

・1994年、ジュブナイル作家はやみねかおる氏の『名探偵夢水清志郎の事件簿』シリーズがスタートした。
 一般的な常識や記憶力も持たない元大学教授が、話を聞いただけで事件の謎を解いてしまうという児童向けミステリー。主人公に限らず、メインキャラともいえる三つ子の姉妹とその同級生、人情味あふれる刑事たちなど、個性豊かなキャラクターたちのやりとりはラノベにも通じる点がある。同シリーズは一度完結したが、夢水以外のメインとなる登場人物が一新した第二期がスタートしている。
 はやみね氏はこの他にも「勇嶺薫」名義で大人向けの本格的な推理小説「赤い夢迷宮」も出版している。こちらは「清志郎シリーズ」とちがって本当に人が死ぬうえ、結末後もまだ悪夢をさまよっているような読後感に包まれる作品だ。
2013/04/15 by月冴ゆ

1995年

アニメ業界の動向

・テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』が放送される。
 SFロボットアニメとして、ガンダムに次ぐ歴史的大ヒットとなる。新聞や一般言論誌、思想誌、テレビ番組等、ふだんはオタクコンテンツとは縁のないメディアでも取り上げられ、関連書籍が多数発売されるなど、社会現象となり、日陰者だったオタクコンテンツを一躍『文化の領域』にまで押し上げた。、
 ライターの前島賢は著書『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』にて、物語の後半、数々の伏線を放棄し、主人公、碇シンジの自意識的一人語りに代表されるような登場人物の内面を描くようになった展開を『オタクの文学』と表した。この後半部分が賛否両論を巻き起こしながらも結果としてエヴァをメガヒットへと押し上げたために、登場人物の内面を描くのに適した媒体である小説が台頭し、学園物ライトノベルの隆盛に繋がったと解説している。エヴァはファンタジー世界の英雄譚より、学生である等身大の少年少女の物語の方が受ける時代がやってきた、その端緒であるというもの。
 エヴァはオタク第二世代(ガンダムに代表されるアニメ世代)と、オタク第三世代(美少女ゲーム、インターネット世代)、両方に受けた作品であり、その橋渡し的な役割を担っていたと考えられる。
 エヴァ以降、主人公を取り巻く私的な人間関係が世界の在り方に直結するセカイ系と呼ばれるジャンルが興る。2000年代を代表するライトノベルのヒット作である『凉宮ハルヒシリーズ』(2003年刊行)もセカイ系に属し、エヴァの影響を受けているとされる。
 セカイ系という言葉は2002年にWebサイト『ぷるにえブックマーク』で生まれた物だが、この頃にはすでに時代遅れになっており、『凉宮ハルヒシリーズ』を臨界点として、それ以後は消えていった。セカイ系とは、要約すればヘタレ主人公が世界の命運を担ったメンヘラ系の女の子によって全肯定され、共依存関係になって救われる、という消極的なマッチョイズム。批評家の更科修一郎はセカイ系を「結末でアスカに振られないエヴァ」と指摘している。

代表作品

・メディアワークスより高畑京一郎の『タイム・リープ あしたはきのう』が刊行される。
 タイムトラベル物のSF小説として高い評価を受けて、実写映画化(1997年公開)される。ライトノベルの初の実写化。同年、電撃文庫から文庫版も刊行される。

レーベルの創刊

・新声社が『ゲーメストΖ文庫』を創刊(~1996年)
 人気アーケードゲーム「ストリートファイター2」のノベライズなどを手がけたが、売り上げが伸びずに翌年には廃刊となる。

漫画業界の動向

・少年ジャンプの看板漫画だった 『ドラゴンボール』が連載を終了する。
 これによって漫画界の王者だった少年ジャンプは低迷の時代を迎え、1997年48号で『週刊少年マガジン』に発行部数を抜かれる。
 評論家の宇野常寛は、その著書『ゼロ年代の想像力』(2008年刊行)において、1995年を契機に 『トーナメントバトル/ピラミッド型物語』から『カードゲーム/バトルロワイヤル型物語』への移行が始まったと言う。ドラゴンボールは、『戦闘力』という単一の価値観が支配する世界での格闘漫画で、戦闘力が低い者は高い者に絶対に勝てない。しかし、1997年から連載がスタートした少年ジャンプの新しい看板漫画『ONE PIECE(ワンピース)』は、悪魔の実の能力者に代表される一芸に秀でながらも致命的な欠点を持った者たちが、お互いの長所を組み合わせて目標を達する過程が描かれ、戦闘力だけが勝敗を決める要素ではなくなっている。
 つまり、飲茶は悟空に絶対に勝てないが、ウソップは戦い方次第ではルフィに善戦、あるいは勝てるかも知れない、ということ。力だけでなく異能力と知恵が、今後の漫画では重要なファクターになっていく。
 また、地球を守るという、たった一つの大きな物語に支えられたドラゴンボールとは異なり、ワンピースの登場人物たちは、それぞれが自分の意志で、異なる夢や目標を決めて冒険をしており、これは2000年代からの世界観を如実に反映していると言える。
 弱くても相性や戦い方次第では強い相手に勝てる、最強の能力にも欠点がある、という考え方は、2000年代のヒット作ライトノベル『とある魔術の禁書目録』(2004年刊行)にも継承されている。

影響を与えた時代背景

・マイクロソフト社がパソコンOS、Windows95を発売。
 この優れたOSによって、一般人もパソコンを購入するようになり、パソコンが大衆化する。
 インターネットが普及していく契機となり、1995年はインターネット元年とも呼ばれる。
 作家の仕事道具もワープロからパソコンへと置き換わっていく。

・携帯音声通信サービスPHSが始まり、携帯電話の契約数がこの年から爆発的に伸びていく。

・オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こす。
 毒ガス「サリン」が撒かれて、多数の死傷者を出した国内最大のテロ事件。
 これ以降、宗教は胡散臭い物というイメージが定着し、サブカル作品に登場する宗教団体は、たいてい危ない団体となる。
 また、この事件以降、テレビ局各社は心霊特集などのオカルト番組を自粛するようになる。

・阪神・淡路大震災が発生する。
 この震災を題材にした小説、漫画、映画、ドラマなどが多数作られる。

1996年

新人賞

・角川書店がライトノベル新人賞『スニーカー大賞』の公募を始める。
 藤本ひとみ・水野良・飯田譲治・あかほりさとるが、選考委員を務める(第10回まで)。
 結果発表はスニーカー文庫の母体雑誌であるザ・スニーカーの誌上で行なわれた。
 ザ・スニーカーが2011年に休刊してからは、公式サイト上で結果発表が行なわれている。
 第一回の金賞受賞者は『黒い季節』の冲方丁と、『ゴッド・クライシス』の七尾あきら。
 冲方丁はその後、日本SF大賞、吉川英治文学新人賞、本屋大賞、北東文芸賞を受賞し、第143回直木賞にノミネートされるなど、数々の文学賞を総なめにして、注目を浴びる。ライトノベル作家の枠を越えた作家。彼は夢枕獏と栗本薫に特に影響を受けたらしい。

異世界ファンタジーブームのピーク

・スレーヤーズが初版部数最高値を7月刊行の第11巻『クリムゾンの妄執』で記録した。著者の神坂一は1995~1999年度まで長者番付に顔を出していた。一説によると、スレイヤーズの売り上げだけで富士見書房の全社員を養えるほどだったという。
 以上のことから、異世界ファンタジーのブームは1996年頃をピークとし、1998年に『ラグナロク』の登場で一時盛り返したものの1999年以降は、学園物に押されて衰退していったと考えられる。
 その後、1999年に日本で刊行された児童文学ファンタジー『ハリーポッター』、2002年に日本で公開された指輪物語の実写版映画『ロード・オブ・ザ・リング』などにより、ライトノベルを読まない一般層の間で、第二次ファンタジーブームとも言うべき状況が起る。ちょうどこの時期、1998年に上遠野浩平の『ブギーポップは笑わない』がヒットし、一般文芸読者からも評価されたことや、2002年に第3回本格ミステリ大賞を受賞したライトノベル出身作家、乙一によって、ライトノベルが評価されだした。このため、『風の大陸』(1988年)や『デルフィニア戦記』(1993年)といった大人の評価に耐えうるファンタジーライトノベルが認知されだし、2004年以降のライトノベルブームに繋がっていったと考えられる。

代表作品

・第2回電撃ゲーム小説大賞受賞作、古橋秀之の『ブラックロッド』が刊行される。
 オカルトとSFが融合した頽廃した世界観が特徴。この作品を契機に、ライトノベルが「何でも有り」になっていったと言われる。
 ただ、ファンタジーとSFの融合は、すでに1983年刊行の『吸血鬼ハンターD』でも行なわれていたので、手法の再発見と言える。

レーベルの創刊

・竹書房が『ガンマ文庫』を創刊。(~1997年)
 竹書房の漫画雑誌『コミックガンマ』の漫画作品や、ゲームのノベライズを手がける。
 コミックガンマが休刊したことにより、短命で終わる。

・アスペクトが『ファミ通ゲーム文庫』を創刊。(~1998年)
 ログアウト文庫の後継レーベル。ゲームのノベライズ作品と、ゲームブックを取り扱う。
 1998年にオリジナル小説も刊行する『ファミ通文庫』にリニューアルされる。

・角川書店が、『角川mini文庫』を創刊。(~2000年)
 大きさは新書の半分という小型サイズの文庫本レーベル。1冊200円の低価格帯で刊行されたものがメインだった。人気ライトノベルの外伝を取り扱う。

美少女ゲーム業界の動向

・PCゲーム会社Leafが18禁美少女ゲーム『雫』を発売。
 1992年3月にスーパーファミコンで発売されたノベルゲームの元祖『弟切草』の手法で、アダトゲームを作るというコンセプトで生まれた学園物美少女ゲーム。ゲームと言うより、小説に近い形式である。小説にイラストと音が組み合わさり、表現の幅を広げた物だと言える。
 テキストを読んで物語りを追い、現れる選択肢を選ぶとそれに応じて展開、結末が変化する。
 この形式は、制作コストが安いことから新規参入を容易にし、以後の美少女ゲームのメインスリトームとなっていく。
 小説のようなゲームの台頭は、ライトベルにも大きな影響を与えた。ノベルゲーム形式の美少女ゲームをプレイする層とライトノベル読者は重なっていたと、批評家の東浩紀は指摘する。

オタクの地位向上

・アニメ制作会社ガイナックスを設立したオタキングこと岡田斗司夫(おかだ としお)が、日本の東京大学教養学部で「オタク文化論」のゼミを開く。オタク文化は1989年の宮崎勤事件で決定的にネガティブイメージが世間に広がってしまったが、1990年代前半になると、海外で日本の漫画・アニメ文化がクールだと評価されだし、エヴァのヒットもあって、オタクコンテンツを日本の文化として売りだそうという動きが高まった。岡田斗司夫はこの背景を利用して、オタクの社会的地位向上のために活動した。 
 パソコンが普及し出すと、オタクこそが次のIT化社会の牽引者になるのではないか、という期待が高まり、オタクのネガティブイメージとポジティブイメージが混在することになる。

ゲーム業界の動向

・任天堂の『ポケットモンスター』がゲームボーイより発売される。歴史的超大ヒットゲームソフト。
 手に入れたモンスターを通信ケーブルを通して友達と交換する、というコミュニケーションとしての楽しさをコンピューターゲームに取り込んだ初の作品。
 1997年10月にテレビアニメ版のノベライズ『ポケットモンスター The Animation』が小学館スーパークエスト文庫より刊行された。
 ポケモンは小学生向けだったこともあり、アニメや漫画、絵本にもなっているが、ライトノベル化はあまりされておらず、ラノベの歴史にもさほど影響を与えていない。

1997年

ラノベ界の動向

・電撃文庫の年間刊行点数が77点、お抱え作家の数が54人と、前年度の約2倍の刊行点数と作家数の増加となる。これによって電撃文庫は、富士見ファンタジア、スニーカーを抜いて、業界のシェアトップに躍り出る。
 ただし、知名度抜群の看板作品と呼べる物はまだ無く、知名度という点では、先行する二レーベルに及んでいなかった。

影響を与えた時代背景

出版不況の始まり。
 この年以降、出版社の倒産が相次ぎ、本屋は街から消えだし、出版業界の市場規模は縮小へと向かう。
 「若者の活字離れ」が叫ばれるようになる。ライトノベルは若者に本を読んで貰うための手法として、注目されだす。

レーベルの創刊

・白泉社が『白泉社花丸文庫』を創刊。
 白泉社は『花とゆめ』などの少女漫画雑誌を出版している会社だが、花丸文庫はボーイズラブ専門レーベルである。

・徳間書店が『徳間キャラ文庫』を創刊。
 ボーイズラブ系ライトノベルを取り扱う。

・メディアワークスが『電撃G's文庫』を創刊。(~2003年)
 電撃文庫の派生レーベル。全年齢向けのギャルゲーのノベライズや、美少女萌えを狙ったラノベを刊行する。

代表作品

・1月、雑賀礼史の『召喚教師リアルバウトハイスクール』が富士見ファンタジア文庫より刊行される。
 異世界ファンタジーと学園物、格闘アクションを組み合わせた異色の作品で、シリーズ累計発行部数200万部を越えるヒット作。2010年7月までの長期連載となる。
 高校教師をしていて、異世界に鬼神として召喚される格闘家、南雲慶一郎が主人公。彼は29歳で、作中最強となる完成された強さを誇っていた。学園物のヒット作の先駆けとも言える作品。
 萌え要素やラブコメ要素はほとんどない、硬派な作風だった(おそらくこれが、いまいちブレイクしなかった要因かと思われる)。

新人賞

・角川書店が、『角川学園小説大賞』をスタートする。(~2010年)
 受賞作品は角川スニーカー文庫から刊行された。
 選考委員制度は設けておらず、角川書店のアニメ・コミック事業部が審査を行うというシステムだった。
 学園物が流行していく時流をいち早く読んでいたと言える。
 2001年からは、ヤングミステリー&ホラー部門を開設したが、ライトノベルとミステリー、ホラーは相性が悪かったためか、2006年で終了している。

アニメ業界の動向

・サンライズ制作最後のロボットアニメ、『勇者王ガオガイガー』が放送される。
 これ以後は、ロボットアニメの人気が落ち、ガンダムシリーズを除いて、滅多にロボットアニメは作られなくなった。
 ロボットアニメの凋落と、ライトノベルの隆盛は同時に進んでおり、このような背景からか、ライトノベルにはSF要素を持った作品は多いが、巨大ロボットが登場する作品はガンダムのノベライズを除いてほとんどない。
(ロボットアニメは中高生向けではなく、小学生向けという理由もあると考えられる)

・7月、宮崎駿によるスタジオジブリの長編アニメ映画作品『もののけ姫』が公開される。狼に育てられた「もののけ姫」と呼ばれる少女サンと、タタリ神に呪いをかけられた少年アシタカの活躍を描く。
 主人公はアシタカであり、宮崎駿は、アシタカの名を冠したタイトルにしたいと主張したが、商業的な理由により「もののけ姫」に決まったと言われる。物語の看板になり、物語を引っ張っていくのが、少年ではなく少女に切り替わった象徴的な出来事であると考えられる。
 これ以降、ライトノベルでも『灼眼のシャナ』(2002年刊行)、『涼宮ハルヒの憂鬱』(2003年刊行)など、少年主人公ではなくヒロインの名前を冠したタイトルが増えていくことになる。 

ゲーム業界の転換点

・物語評論家のさやわか氏の著書『僕たちのゲーム史』によると、ゲーム業界の転換点となった年。1997年には、以下の様な変化がゲーム業界に起こっている。
●ゲームソフト記録媒体が、半導体ROMから光学ROMに転換(カートリッジからCD-ROMへ)。
●映像描画技術が2D(平面)から3D(立体)に転換。
 以上、2点によって、ゲーム表現の幅が大きく広がり、漫画のようなキャラクターがアニメのように動きまわるゲームが台頭するようになった。その象徴的存在が、この年にプレイステーションから発売された『ファイナルファンタジーⅦ』である。同作品は、これまでのFFシリーズとは異なる光学ROMで記録された3Dグラフィックのゲームだった。
 日本のゲームは、これまでも物語性を重視してきたが、この転換によってますます高度な物語表現が可能になり、漫画やアニメとの親和性を高めていくことになった。
 しかし、この年をピークにして、日本国内のゲームソフトの売上が減少に転じようになる。その流れは止まらず、2003年に、任天堂の社長、岩田聡が東京ゲームショウで「日本のゲーム市場ではゲーム離れが進行している」と語ったほどである。
 海外では物語性を重視したゲームはあまり売れないため、日本のゲームメーカーは国内外で苦戦を強いられるようになっていった。
 ゲームの売上が減少するようになったのは、ゲームが漫画やアニメと親和性の高いオタクコンテンツと化してしまったからだと考えられる。任天堂のスーパーマリオのようなゲームは一般人でもプレイしやすいが、この年に18禁美少女ゲーム『To Heart』がヒットしたこともあり、ゲームにも美少女キャラクターや萌え表現が頻繁に使われるようになってきた。このような傾向が一般人のゲーム離れを招いたのではないかと思われる。

萌える都市、秋葉原の誕生

・テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の大ヒットによりオタク関連産業の需要が拡大し、ガレージキットや同人漫画の専門店が秋葉原の一等地に進出する。この年、ちょうどエヴァの劇場版が発表され、エヴァ熱が最高潮に達していた。エヴァの経済効果は約300億円もあったと言われる。
 秋葉原に進出したこれらの店舗が空前の売上を見せたことで、アニメ、ゲーム、漫画などのオタク関連産業が雪崩を打って秋葉原に集まり、1998年以降、ラジオ会館にゲームソフト専門店、漫画・アニメグッズ専門店、ガレージキット専門店、トレーディングカード専門店などが次々に入って来た。
 元々、オタク趣味と親和性の高いパソコンマニアの若い男性が集まっていたことと、エヴァ特需により秋葉原はオタクの街になっていったのである。

1998年 学園物への転換

代表作品

・上遠野浩平の『ブギーポップは笑わない』が電撃文庫より刊行される。
 第4回電撃ゲーム小説大賞「大賞」受賞作。シリーズ累計発行部数420万部を超えるヒットとなり、電撃文庫の名を一躍有名にした。
 西尾維新、奈須きのこ、時雨沢恵一といった後発のラノベ作家にも大きな影響を与えた。
 ミステリー、ホラー、SFといった複数の要素が混在し、物語が幾人もの登場人物の視点から描かれる。エンターテイメントとして優れているだけでなく、文学性も備えた傑作。
 ライトノベルがこれまでのファンタジー路線から、学園物へと舵を切ることの転換点となった。

・今野緒雪の『マリア様がみてる』がコバルト文庫より刊行される。
 カトリック系のミッションスクール、リリアン女学園を舞台にした学園物。
 少女向けであるにも関わらず、男性から絶大な支持を集めた希有な作品である。
 女性が少年向けライトノベルを読むことは珍しくないが、その逆は滅多にない。
 女性作家が描く、深窓の令嬢との百合っぽいストーリーと、スール制度という姉妹関係を結ぶシステムが男性の心にヒットしたと考えられる。
 「ごきげんよう」というリリアン女学園内のあいさつは非常に有名になり、その後の作品にパロディとしてたびたび登場する。

・賀東招二の『フルメタル・パニック!』が富士見ファンタジア文庫より刊行される。
 ミリタリーと学園物、SFの要素を混在させたボーイ・ミーツ・ガール。シリーズ累計発行部数1000万部を超えるヒットとなる。
 海外の紛争地帯で育ってきた凄腕の傭兵である少年が、一人の少女を守るために高校に転入してくる。しかし、日本の常識を持たないが故に、下駄箱を爆弾で吹っ飛ばすなどの非常識な行動を繰り替えして、彼女にしばき倒されるというギャグで人気を博した。ガンダム的なロボット兵器が登場することでも有名。
 2011年にスピンアウト作品「フルメタル・パニック!アナザー」が刊行されている。

・安井健太郎の『ラグナロク』がスニーカー文庫より刊行される。
 第3回スニーカー大賞〈大賞〉受賞作。
 魔術士オーフェン以降なかなか現れなかった、90年代最後の異世界ファンタジーのヒット作品である。
 言葉をしゃべる剣ラグナロクと、凄腕の傭兵リロイのバトルアクションファンタジー。
 リロイの出自の謎がストーリーの根幹にあるが、なんと言ってもその特色は、ラノベ界随一と言われた格闘描写のスピード感にある。

ラノベ界の動向・代表作品

・電撃文庫より『To Heart―マルチ、がんばりますっ! 』が刊行される。
 『To Heart』は1997年に発売されたPC向け18禁美少女ゲームの大ヒット作品である。
 18禁美少女ゲームが、初めて全年齢向けにリライトされて刊行された。
 この頃から、美少女ゲームはストーリーとキャラクター性を重視したものとなり、ライトノベルとの親和性を高めていく。

ラノベ雑誌の創刊

・メディアワークスがライトノベル雑誌『電撃hp』の刊行を開始。(~2007年)
 2000年からスタートした『電撃hp短編小説賞』の母体雑誌となる。
 また、電撃小説大賞の最終選考に残った作品を掲載し、『キノの旅』の時雨沢恵一、『撲殺天使ドクロちゃん』のおかゆまさきといった作家を輩出した。

レーベルの創刊

・新書館が『新書館ウィングス文庫』を創刊。
 少女向けレーベルである。

・朝日ソノラマが『ソノラマ文庫NEXT』を創刊。(~2000年)
 菊地秀行といった作家を擁するも短命で終わる。出版点数も非常に少ない。

アニメ業界の動向

・1998年、テレビ東京にて『カウボーイビバップ』が放送された。2071年の太陽系を舞台に、宇宙船に乗って旅する賞金稼ぎたちを描いた、ハードボイルドタッチのスペースオペラである。ジャズやブルース、ロック、テクノなどSF作品ではあまり使われない音楽を用いるほか、キャラクター同士のコミカルなやりとりで独特の雰囲気を生み出した。
 主役は元マフィアの構成員で銃と格闘術を使いこなすスパイクをはじめ、元刑事の船長ジェット、コールドスリープから目覚めた記憶喪失のヒロイン・フェイ、少年のような風貌をした天才ハッカーの美少女エドなど、その後の漫画やライトノベルのテンプレともいえるキャラクターたちばかりである。
 今作品は最終回で衝撃の結末を迎えたが、その後2001年に映画化もされている。
2013/04/13 by月冴ゆ

影響を与えた時代背景

・日本の年間自殺者数が3万人を越える。
 前年から約8千人も自殺者数が増加するという事態になり、以後、自殺者数は年間3万人以上という高止まりをキープし続ける。また、この頃から非正規雇用が増加し、1999年には全体の25%を占めるようになる。

1999年

レーベルの創刊

・角川書店が『角川ティーンズルビー文庫』を創刊。(~2001年)
 ルビー文庫より、低い年齢層をターゲットとした少女向けレーベル。ボーイズラブ的な作品も刊行していた。
 角川ビーンズ文庫が後継レーベルとなる。

新人賞

・エンターブレインが『エンターブレインえんため大賞小説部門』(当初の名称は「ファミ通エンタテインメント大賞小説部門」)を創設する。
 受賞作はファミ通文庫より刊行される。
 第一回の佳作を受賞し、後に直木賞作家となった桜庭一樹がデビューする。

美少女ゲーム業界の動向

・PCゲーム会社Keyが18禁美少女ゲーム『Kanon』を発売。
 シナリオに「感動」「泣き」の要素を取り入れた作品で、大ヒットとなり、メディアミックスされる。
 「泣きゲー」と呼ばれるジャンルを作り出した。
 2009年に全年齢版のノベライズがVA文庫より刊行されている。

ラノベに影響を与えた文学作品

・イギリスの作家、J・K・ローリングのの『ハリー・ポッターシリーズ』第一弾「ハリー・ポッターと賢者の石」が静山社より刊行される。(原語版1997年)。
 世界的ベストセラーとなった児童文学作品。映画シリーズも作られ、大人もその魅力に熱狂することになった。
 いじめられっ子のハリーの元に魔法学校の入学案内書が届く。自分の出生の秘密を知ったハリーは、未知の世界に踏み出して成長していき、やがて両親を殺した邪悪な魔法使いと対決することになる。という内容。
 魔法学校での生活、というアイディアはラノベにも影響を与えたようで、2000年代はファンタジーと学園物をミックスさせた作品が流行することになる。

時代の先駆的な一般文芸

・高見広春の小説『バトル・ロワイアル』 が太田出版より刊行される。
 中学生同士が政府の計画した殺人ゲームに強制的に参加させられ、生き残りをかけて殺し合うという内容の小説。第5回日本ホラー小説大賞の最終候補に残ったものの、審査員の不評を買って落選するが、おもしろいから売れるだろうと判断され、出版される。
 優勝者には一生涯の生活が保障されるが、それ以外の者たちは全員死ぬ、というハイリスク・ハイリターンのサヴァイブ系物語の先駆け。生まれた時から資本主義のゲームに強制的に参加させられ、敗北は死や破滅を意味する90年代後半からの社会状況を反映した作品であると言える。
 2000年代からは、サヴァイヴ系の物語が漫画や美少女ゲームでヒットすることになる。漫画『DEATH NOTE(デスノート)』(2003年)、美少女ゲーム『Fate/stay night』(2004年)、セカイ系とサヴァイヴ系融合させた漫画『未来日記』(2006年)など。漫画の世界では、すでに資本主義の暴力性をギャンブルを通して描いたサヴァイヴ系物語『賭博黙示録カイジ』が1996年に単行本化されてる。
 ただサヴァイヴ系の物語には、残酷性や暴力性が付きものであるため、明るさ楽しさが売りのライトノベルでは、これらをオンラインゲームという世界観で脱臭した『ソードアート・オンライン』(2009年)がヒットすることになる。

妹萌えブーム到来

・メディアワークスが刊行するゲーム・漫画雑誌『電撃G'sマガジン』で、読者参加企画『シスター・プリンセス』がスタートする。
 お兄ちゃんが大好きな12人の妹たちが、兄(読者)に熱烈ラブコールを送るという主旨のもので、予想外の爆発的人気となり、漫画、アニメ、ゲーム、ライトノベル化された。
 2002年に電撃文庫からテレビアニメ版のノベライズである『シスター・プリンセスRe Pureセレクション 』が刊行されている。時代の潮流が『萌え』へと傾いていったことを物語る作品の一つと言える。
 ライトノベルにおける妹萌えは、『シスター・プリンセス』で美少女ゲーム業界から輸入され、その後2008年刊行の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』で火が付く。

影響を与えた時代背景

・人類が滅亡するという『ノストラダムスの大予言』が外れる。
 これ以降、超能力、宇宙人、心霊現象といったオカルトコンテンツが衰退することになる。

・『中二病』というオタク用語が生まれる。思春期の少年少女ありがちな自意識過剰な言動を揶揄したスラング。不思議な能力に憧れたり、自分は異世界の戦士の転生体だ、などと思い込むような状況を言う。
 ラジオ番組『伊集院光のUP'S 深夜の馬鹿力』によって作られた。

・巨大匿名掲示板サイト『2ちゃんねる』を西村博之が設立する。

1990年代の総括

 前半はファンタジーバブルのまっただ中でしたが、『魔術士オーフェン』以降、剣と魔法の異世界ファンタジーが飽きられ、徐々に新機軸が求められるようになっていきます。
 大きな転換点となったのは1998年で、『ブギーポップは笑わない』『フルメタル・パニック!』『マリア様がみてる』など学園物のヒット作が生まれます。
 異世界ファンタジーは、これ以後も根強い人気を誇っていましたが、ファンタジー単体では勝負できなくなり、SFとファンタジーを融合させたり、学園物とSFを合わせたような各ジャンルを越境した作品が生まれるようになり、ライトノベルは「何でも有り」の状態になっていきます。
 1998年にはアニメ『カードキャプターさくら』が放送されたのを契機に、インターネットを通して『萌え』というオタク用語が急速に広まっていきました。ボーイズラブという言葉が生まれたのも1990年代中頃からで、オタク文化は90年代の後半に完成の度合いを深めたと言えます。
 ただ、ロードス島戦記の水野良といった作家を輩出したTRPGは、90年代後半になると、急速に人気が衰えてしまいます。その後、2000年代に入ってから、徐々に人気を盛り返すようになりますが、かつてのようにTRPGのリプレイ小説がライトノベルとして刊行されることは、無くなっていきます。TRPGをGM(ゲームマスター)としてプレイすることは作家修業に有効だと言われていたので、興味のある人は挑戦してみても良いでしょう。
 また、90年代後半には、『To Hear』『Kanon』といったシナリオを重視した美少女ゲームが生まれてヒットを飛ばします。美少女ゲーム業界の隆盛はラノベ界にも強い影響を与え、2000年代には、ラノベは『萌え』と『ラブコメ』路線に入っていくことになります。

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