ライトノベル作法研究所
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ライトノベル歴史年表1980~1989年

1980年

レーベルの創刊

・出版社・文化出版局が『ポケットメイツ』というレーベルを創刊(~1982年)。
 レーベルの特徴はアニメのノベライズだった。おそらく、ガンダムのノベライズのヒットを受けての路線だったと思われる。

代表作品

・ハヤカワ文庫JAより高千穂遙作のSF冒険活劇、ダーティペアシリーズ第一弾『ダーティペアの大冒険』』が刊行される。
 犯罪トラブルコンサルタントという職業に就く、戦う美女コンビが主役という、エンターティメントに特化した作品。ヒロインの年齢は19歳と、現代(2012年現在)のラノベと比べると年齢が高めで、萌えというより、色気を備えたヒロイン像だった。
 同作品は、同じく安彦良和が挿絵を担当している『クラッシャージョウ』と世界観を共有していた。

妹萌えの誕生

・あだち充の漫画、『みゆき』が少年漫画雑誌『少年ビッグコミック』にて連載開始される。
 主人公と、彼が憧れを抱く同級生の美少女みゆき、6年ぶりに再会した血の繋がらない妹のみゆき、の三角関係を描く青春ラブコメディ。妹のみゆきと2人で生活することになった主人公は、彼女のことを異性として意識してしまい困り果てる、という「妹萌え」を初めて打ち出した作品。
 主人公は最終的に血の繋がらない妹と結婚するというシスコンの鏡のような男だった。 

1981年

ゲーム業界の動向

・米国のSir-Tech社から初のコンピューター用、ファンタジーRPG『Wizardry』(ウィザードリィ)が発売される。
 本作品は、TRPG(テーブルトーク・アールピージー)『Dungeons & Dragons』(ダンジョンズ&ドラゴンズ)をコンピューター上で再現するというコンセプトの元に制作された。
 日本語版は1985年にパソコン用として発売され、以後、シリーズ化されるほどの人気を博す。  

1982年

レーベルの創刊

・ 徳間書店が『アニメ-ジュ文庫』を創刊。略称はAM文庫(~1998年)
 アニメブームを背景とした、アニメのノベライズがメインのレーベルで、アニメの脚本家を作家として採用していた。
 『天空の城ラピュタ』(1986/5)、『となりのトトロ』(1988/4)といった宮崎駿アニメのノベライズも手がける。
 1998年に新興レーベルに押される形で、いったん、その幕を閉じるが、2009年7月より復活する。

・集英社が少女向け隔月雑誌『Cobalt』(コバルト)を創刊する。
 雑誌『小説ジュニア』がリニューアルする形で生まれた物。少女向け小説を掲載する。

・講談社が『講談社ノベルス』を創刊。赤川次郎に代表される推理小説がメインの新書レーベルだが、後に奈須きのこの『空の境界』(2004/6)、西尾維新の『少女不十分』(2011/9)など、ライトノベルに分類される小説も刊行される。

代表作品

・田中芳樹によるSF小説『銀河英雄伝説』シリーズがスタートする。
 総計1500万部を突破し、2012年現在でも続いている超ロングセラー作品。
 はるか未来の宇宙を舞台にした銀河帝国と自由惑星同盟の二大勢力の戦争を描いたスペースオペラ。2人の主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムとヤン・ウェンリーを軸に数多の英雄の活躍を描く。
 中世の国盗り物語を宇宙で展開したような話で、腐敗した銀河帝国を戦争の天才ラインハルトが内側から打倒、帝位を簒奪する様が描かれる。一方で、汚れた民主政治の犠牲になって銀河帝国と不利な戦いを強いられる智将ヤンの活躍と、彼とラインハルトとの宿命の戦いが描かれる。
 単行本の表紙は、アニメ的なタッチの宇宙船や兵器などが主に描かれていた。挿絵も少ないが入っており、写実的なタッチの漫画風イラストだった。
 ただ、10代の少年少女が読むには内容が高度であり、清廉な独裁国家と腐敗した民主国家のどちらがマシか?といった難しいテーマや、マキャベリズム、経済学、皮肉の効いたブラックユーモアの数々など、楽しむにはそれなりの教養を必要とした。対象年齢は20歳以上だと言える。劇場版アニメやOVA化もされている。
 ヤンの戦略、戦術の天才だが、それ以外は全然ダメ人間で私欲がないというキャラ設定は、後の『無責任艦長タイラー』(1989年1月刊行ラノベ)、『機動戦艦ナデシコ』(1996年10月放送アニメ)といったラノベ、アニメに影響を与えている。

・菊地秀行のデビュー作『魔界都市〈新宿〉』がソノラマ文庫より刊行される。
 現実世界を舞台にしながらも、魔物や怪奇現象、魔道士などのファンタジー要素が登場する現代ファンタジーの先駆け。

・夢枕獏の『キマイラ・吼』シリーズの第一弾『幻獣少年キマイラ』がソノラマ文庫より刊行される。
 幻獣(キマイラ)化する肉体を持った気の弱い美少年・大鳳吼の数奇な運命を描いた壮大な伝奇小説。「エロ」と「バイオレンス」要素を持った10代後半向けの小説で、学園異能物の源流と言われる。

美少女ゲーム業界の動向

・パソコン向けの美少女ゲーム(エロゲ-)が誕生する。
 光栄マイコンシステム(現:コーエーテクモゲームス)が開発した『ナイトライフ』がその第一弾とされる。
 以後、美少女ゲームはライトノベルに密接な影響を与えるようになる。

1983年 オタクという言葉の誕生

新人賞

・ 集英社が初のライトノベル新人賞『コバルト・ノベル大賞』を開始。
 雑誌『Cobalt』1983年春号で最終選考が発表される。
 入選作品はなかったが、佳作として選ばれたのは『たとえば、19のときのアルバムに』著者、一藤木杳子(21歳)。『聖野菜祭 セイントベジタブルデイ 』著者、片山満久(17歳)というように対象読者層と同じ、若い女性だった。
 新人作家と読者の年齢層が近いというのは、以後のライトノベル新人賞でも見られる傾向で、ラノベの特徴の一つに数えられる。

代表作品

・菊地秀行の『吸血鬼ハンター"D"』がソノラマ文庫より刊行される。
 未来を舞台にした吸血鬼物で、超科学と超能力、魔物が混在する世界観が特徴。
 SFとファンタジーの初の融合作品であり、後の吸血鬼物に大きな影響を与えた。
 2012年現在でもシリーズが刊行されている超ロングセラー作品。

ゲーム業界の動向

・日本語版のTRPG『スタークェスト』が発売される。TRPGのブームが徐々に加速していく。

・1983年7月15日に任天堂より初の家庭用ゲーム機、『ファミリーコンピュータ』が発売される。

オタクという言葉の誕生

・美少女コミック雑誌『漫画ブリッコ』で中森明夫が連載した『「おたく」の研究 』中で、アニメや漫画といった子供向けコンテンツが好きな成人男性がお互いを呼び合うときに「御宅は……」と言っていたことから、彼らを「おたく」と呼称した。当時は、ひらがなで「おたく」だった。

1984年

代表作品

・笹本祐一の『妖精作戦』がソノラマ文庫より刊行される。
 男子高校生の主人公が、謎の超国家組織に追われる超能力者の美少女と出会い、彼女を助けるべく奮闘するという王道的な『ボーイ・ミーツ・ガール』。 会話文を主体としたテンポの良い文体が特徴。
 これらのことから、『ライトノベルの源流』と呼ばれ、著者自身も「現役最古のライトノベル作家」を名乗っている。
 同作品は、2011年に創元SF文庫より復刊され、30年近く経ってもその魅力は色あせていない。

レーベルの創刊

・講談社が『講談社X文庫』を創刊(~1987年)。
 漫画・映画のノベライズ、タレント本を出すレーベルだったが短命で終わる。

アニメ業界の動向

・宮崎駿のアニメ映画『風の谷のナウシカ』が公開される。
 元は『アニメージュ』1982年2月号~1994年3月号まで連載された漫画作品。
 絶大な人気を誇り、2010年代になってからもテレビで再放送が繰り替えされ、その度に高視聴率を取る。
 しかし、新城カズマの書籍『ライトノベル「超」入門』 (2006年4月)によると、宮崎駿が発表した一連のアニメ作品がライトノベルに与えている影響はほとんどなく、その理由もわからないとのこと。
 私の見解を述べれば、宮崎作品の主人公は戦う女性的な女の子であることが理由であると思われる。少年向けレーベルの主人公は、少数の例外を除いて主人公は少年である。これは主人公が少女だと、男性読者は感情移入しにくいため。大ヒット作『スレイヤーズ』(1990年)の主人公はリナという少女だが、彼女は中身は男性である。しかし、『風の谷のナウシカ』のナウシカの性格は、限りなく女性的なものであり、平和的に争いを解決する。また、宮崎アニメ『天空の城ラピュタ』(1986年8月公開)のヒロインは、気が弱く受け身なお姫様タイプで、ガンガン主人公に絡んで来る押しの強いラノベのヒロインとは対照的。女の子の方からアプローチして欲しいラノベ読者の嗜好とはマッチしない。
 少女向けレーベルでは、ナウシカのようにバトルや戦争は描かかず、恋愛がメインである。戦争がテーマであり、恋愛要素のほとんどないナウシカとは対照的。
 宮崎作品はライトノベル読者の嗜好とはマッチしなかったために、影響が少なかったのではないかと考えられる。
 イラスト方面に影響がないのは、宮崎アニメが有名すぎた上に絵柄が独特であったため、下手にマネできなかったのではないかと推測する。

・高橋留美子の漫画『うる星やつら』の劇場版オリジナル長編アニメ第二作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』が2月11日に東宝系で公開された。脚本は押井守。
 学園祭の前日が繰り替えされるという時間ループ物の先駆け的な作品。
 『うる星やつら』は、もともと70年代~90年代前半にかけて流行した父権的なロボットアニメとは対照的な、登場人物たちが永遠に歳を取らない母性的なユートピアを描いた作品だったが、今作は、これをメタ視点的に描いたものだと言える。愛する人や楽しい毎日を永遠に閉じ込めておきたいというヒロイン・ラムの願望が閉じた時空間を生み出し、主人公はそこから抜け出そうとする。
 宮崎アニメがライトノベルにほとんど影響を与えていないのとは対照的に、こちらは大きな影響を与えていると言える。時間がループするという構造は2000年代の美少女ゲームで流行し、『涼宮ハルヒシリーズ』(2003年刊行)『All you need is kill』(2004年刊行)といったラノベでも使われた。

1985年

ラノベ業界の動向

・『ダーティペア』が日本サンライズ(現:サンライズ)制作でテレビアニメ化される。
 初のライトノベルのテレビアニメ化。
 同作品は、同年OVA化され、1987年には劇場版が公開。さらにゲームソフト化されるなど、メディアミックス展開が行なわれてブームとなった。

・角川書店がアニメ雑誌『月刊ニュータイプ』(Newtype)を創刊。
 アニメ以外にも音楽や実写映画の情報を取り込んだ総合カルチャー誌的な雑誌で、漫画やライトノベルも掲載される。
 機動戦士ガンダムの監督・富野由悠季の手によるガンダムのが外伝的小説『ガイア・ギア』(1987年4月号から1991年12月号)などが連載され、後に創刊される角川スニーカー文庫から単行本として刊行された。
 創刊号ではこの年から放送されたガンダムの続編『機動戦士Ζガンダム)が特集されている。本誌の名前も、ガンダムに登場する新人類の概念ニュータイプにちなんで付けられている。
 以下は創刊号、表紙画像。「ガンダムMK-II」のアップによって飾られている。
『月刊ニュータイプ』(Newtype)創刊号表紙

漫画業界の動向

・12月、車田正美の『聖闘士星矢』が少年ジャンプで連載を開始する。
 ギリシャ神話を下敷きにした設定で、美少年同士が特殊能力を備えた鎧を着て戦うという内容は、少年だけでなく少女も熱狂させ、「やおい同人誌」ブームを起こす。1990年代に同人アンソロジーコミックやBLが隆盛する礎となった作品。
 中国でも人気を博し、多くの女性をBLに目覚めさせてしまい、中国で腐女子文化が生まれるきっかけとなる。
 本作のコンセプトは、“バトルスーツもの”というジャンルを生み出し、ライトノベルの礎を築いた一人とされる『あかほりさとる』のデビュー作『天空戦記シュラト』に影響を与えた。

1986年

影響を与えた周辺事情

・パソコンゲーム雑誌『コンプティーク』がTRPG紹介記事として『Dungeons & Dragons』のリプレイである『ロードス島戦記』を掲載する。リプレイとは、TRPGを紹介するためにゲームマスターとプレイヤーの会話を記録した物であったが、内容をおもしろくするために様々な工夫、演出、編集がされるようになり、読み物として楽しまれるようになった。

代表作品

・3月、アニメージュ文庫より西谷史の伝奇SF小説『デジタル・デビル・ストーリー 女神転生』』が刊行される。
 天才プログラマーの少年がコンピュータから悪魔を召喚してしまい、日本神話の神々の転生である人々がこれと戦うというストーリー。内容はダークで救いのない物で、暗黒ライトノベルの源流と言われる。
 シリーズ累計80万部を越えるヒット作。『女神転生シリーズ』としてゲーム化され、2010年代になってもゲームシリーズがリリースされている。真・女神転生シリーズはおろか、ペルソナやデビルサマナー、デジタルデビルサーガやデビルサバイバーといった数々のゲームに影響を与えている。

ゲーム業界の動向

・ファミリーコンピュータ用ゲームとして、初のファンタジーRPG『ドラゴンクエスト』が発売され、大ヒットとなる。勇者が魔物の親玉である竜王にさらわれた姫を救い出して、竜王を倒すというオーソドックスな神話的ストーリー。
 これによってファンタジーブームが到来する。
 また、ドラゴンクエストは、1989年にエニックスより小説化され、ゲームノベライズの先鞭となった。ハードカバー版、新書版、文庫版がある。

1987年

レーベルの創刊

・講談社が、『講談社X文庫ティーンズハート』を創刊(~2006年)
 コバルト文庫より少し低めの年齢層、中高生をターゲットとした少女向けライトノベルレーベル。
 背表紙はピンク、表紙は少女漫画家の華やかなイラストを採用した購読層を意識した作りだった。
 代表的な作家は、創刊に際して企画から参加していた花井愛子。三つのペンネームを使いこなし、月に2冊というハイペースで作品を発表していた「少女小説の女王」。
 少女の夢を詰め込んだわかりやすい物語と、改行を多用し、ページの下半分が余白という読みやすさを重視した作風で人気を博し、現代のライトノベルの基礎を築いた。

漫画業界の動向

・荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』が少年ジャンプで連載を開始する。
 第一部では、吸血鬼と化したディオと、これに対抗するための波紋という能力を身につけたジョースター家当主ジョジョの対決が描かれる。第二部では、吸血鬼を凌駕する超越種族との戦いが描かれる。
 しかし、89年の第三部からはスタンド(幽波紋)と呼ばれる、それぞれ固有の超能力を宿した守護霊のような存在を使っての異能力バトルへと移行する。スタンドバトルには、スタンドの性質によるルールが定められており、敵のスタンドの能力を探り、その長所を打ち消して、弱点を突くという戦術が求められるようになる。
 90年代後半から隆盛することになる『カードゲーム/バトルロワイヤル型物語』の先駆けと言える。
 『ジョジョの奇妙な冒険』は戦闘力のインフレを回避し、キャラクターの個性に直結した能力を授けたという点で画期的だった。
 異能力バトルの系譜は、その後、2000年代のヒット作ライトノベル『とある魔術の禁書目録』(2004年刊行)を生む。
(異能力バトルの元祖は車田正美の忍者漫画『風魔の小次郎』(1982年)であるとも言われる)

初のゲームノベライズ品

・1月、角川文庫より井沢元彦のゲームノベライズ『ドラゴンバスター』が刊行される。
 原作は1985年1月に出たナムコのアーケード用アクションゲーム。その後、87年1月にファミコンに移植される。
 小説版の内容は、ローレンス王国建設の記念日に、かつて王に滅ぼされたハズのドラゴン族に攫われたセリア姫を助けるため、剣の達クロービスがドラゴン山へ向かうという内容。王道的な神話風物語であった。
 初のゲームノベライズと考えられる。小説の完成度は非常に高かった。

ゲーム業界の動向

・PCゲームソフト会社、日本ファルコムがファンタジーアクションRPG『イース』を発売する。
 日本ファルコムの看板作品となった大人気シリーズ第一弾。2010年代になっても最新作がリリースされている。
 1988年にリリースされた続編『イースⅡ』のヒロイン・リリアは、パソコンRPG史上初のキャラが立ったヒロインとして知られる。リリアはあまりにも人気が出すぎて、1990年3月26日に新宿ルミネACTで行われたファルコムフェスティバル'90でミス・リリア・コンテストという『リリア』のイメージガールを探すコンテストが開かれたほど。『イースⅡ』は、美少女との恋愛にも比重が置かれており、主人公アドルはリリア以外に女神フィーナとも相思相愛のような関係だった。ファンタジーに萌え要素をいち早く取り入れ、萌えジャンルを開拓した作品の一つに数えられる。

・12月、ドラゴンクエストと双璧を成す国内の代表的なファンタジーRPG『ファイナルファンタジー』がスクウェア(現スクウェア・エニックス)より発売される。翌年の暮れにシリーズ第二弾『ファイナルファンタジーⅡ』が発売され、1989年に小説版『ファイナルファンタジー2―夢魔の迷宮』がスニーカー文庫より刊行された。
 初代ファイナルファンタジーは、ケイブンシャ・アドベンチャーヒーローブックスより1987年12月に『ファイナルファンタジー クリスタル継承伝説』というタイトルでゲームブックが刊行されている。ゲーム版以前の時代を舞台とした物語で、ゲーム本編へと繋がる展開になっている。

1988年 少年向けレーベルの誕生

レーベルの創刊

・9月角川書店が『角川スニーカー文庫』を創刊。
 『ガンダムシリーズ』の富野由悠季、『重戦機エルガイム』の渡邊由自、『マクロスシリーズ』の富田祐弘などの作家を擁する。

・富士見書房が『富士見ファンタジア文庫』を創刊。
 刊行第1作は『銀河英雄伝説』で有名な田中芳樹によるSF小説「灼熱の竜騎兵(レッドホット・ドラグーン)」
 ファンタジア長編小説大賞(現・ファンタジア大賞)が開始される。
 初の月間ライトノベル雑誌『ドラゴンマガジン』(DM)の刊行が始る。

 刊行当初はアイドルがらみの記事が多く、小説との比率は半々くらいで、アイドルがコスプレをして表紙を飾っていた。以下は創刊号の表紙画像。その後は、ラノベの文庫の表紙と同様にアニメ風イラストに表紙が変更されていく。
ドラゴンマガジン創刊号表紙

・勁文社が『ゲイブンシャ文庫コスモティーンズ』を創刊。(~89年)
 少女向けのレーベルだったが、翌年には廃刊となる。 

・小学館が、少女向け小説季刊雑誌『Palette』を刊行。
 キャッチコピーは「キュートな女の子の恋愛小説マガジン」。

代表作品

・水野良がスニーカー文庫(厳密には角川文庫、本作はスニーカー文庫創刊前に刊行された)より、TRPGのリプレイを元にした小説『ロードス島戦記』、第1作「灰色の魔女」を刊行。大ヒットとなり、シリーズ化される。ここからファンタジー小説ブームが巻き起こる。 
 ロードス島戦記は、1990年代後半まで、最新刊が文庫売上5位内にランキングされるほどの人気となる。これを受けて、1998年4月にテレビアニメ化された。
 水野良は、『スレイヤーズ』の神坂一、『爆れつハンター』などのあかほりさとると並ぶライトノベルの創始者にして、90年代に最も売れた超大御所の一人。彼ら三人は「三柱の創造神」と呼ばれることもある。
 また、ロードス島戦記はアメリカでも発売され、好評となった。

・日本ファルコムの人気ファンタジーアクションRPG『イース』のノベライズ作品『イース 失われた王国』が、角川文庫より刊行される(角川スニーカー文庫創刊前)。著者は、この作品でデビューした飛火野耀。
 ゲームノベライズの先駆けとなった作品。
 ただ、小説版イースは原作を無視したまったく違った作品として知られ、ファンの間では黒歴史扱いされている。

漫画業界の動向

・萩原一至のファンタジー漫画『BASTARD!! -暗黒の破壊神』が少年ジャンプで連載を開始する。
 1987年にファンタジーRPGをオマージュとした世界観の漫画として、読切版『WIZARD!!~爆炎の征服者~』が掲載されたのが始まり。月刊アニメ雑誌ニュータイプ(1988年5月号)の「崎孝留の楽漫画案内所」コーナーで、連載3回目の本作が紹介された。それによると、メジャー少年誌にファンタジー漫画が連載されるのは珍しく、『ドラゴンクエスト』『ウィザードリィ』『ウルティマ』といったファンタジーRPGのブームにより、こういった世界観の物語が受け入れやすい下地が作られていた中で誕生したものだと指摘されている。これまでもファンタジー漫画はあったが、それは作家の趣味的な物であり、本作は時代の要請によって生まれたものだという。
 『ロードス島戦記』の誕生と同時に、漫画界にもファンタジーブームの波が到来した。
 また、1990年刊行の大ヒットライトノベル『スレイヤーズ』は、本作の影響を受けていると思われる。両者ともドラゴンを一撃で消滅させるほどの威力を持った攻撃魔法が登場する。主人公がイケイケな性格の最強の魔法使い。シリアスなストーリーとギャグの混在した物語、意外と細かく決められた世界設定など共通点が多い。

1989年 平成元年

代表作品

・深沢美潮のファンタジーライトノベル『フォーチュン・クエスト』がスニーカー文庫より刊行される。
 それぞれのキャラクターにレベルが設定されていて、モンスターを倒すと経験値が溜まってレベルアップするという、ゲーム的な世界観が特徴。主人公は、駆け出しの冒険者であるドジな16歳の少女で、特別な能力など持っていない等身大のキャラクターだった。

サブカルチャーに大きな影響を与えた作家

アニメ脚本家あかほりさとるが『天空戦記シュラト』のノベライズでエニックス文庫よりライトノベル作家デビューする。以後、執筆した小説をアニメ化していくなど、メディアミックス戦略を積極的に仕掛け、1990年代を代表するサブカルチャーの発信者となる。
 彼の小説の特徴は漫画、アニメ的な擬音を多用し、改行によってページに空白を作ること。「ページの下半分はメモ帳として使える」などと揶揄された。あかほりの著書『オタク成金』によると、普段、本を読まない人にも手に取ってもらえることを狙ったものだったらしい。

レーベルの創刊

・ENIXが『エニックス文庫』を創刊(~1997年)
 ドラゴンクエストシリーズなどのゲームブックを牽引する。
 アニメのノベライズにも力を入れており、オリジナル小説は少なかった。

・学研が『レモン文庫』を創刊(~1996年)
 少女向けの小説を出版するレーベルだった。
 代表的な作家は『お嬢さまシリーズ』で有名となった森奈津子。
 しかし、同シリーズはレモン文庫の市場撤退により、突如打ち切りとなる。
 その後、森奈津子は一般文芸に移るが、「私はライトノベル界を卒業したのではなく、放逐されたのです。私がライトノベルを棄てたのではなく、ライトノベルが私を棄てたのです」というコメントを残している。

・双葉社、『いちご文庫ティーンズメイト』を創刊(~1990年)
 少女向けのレーベルだった。

・MOE出版が、『MOE文庫スイートハート』を創刊(~1991年)
 少女向けのレーベルだった。新人作家の発掘に力を入れたが、売り上げが伸びずに二年で廃刊となる。
 MOEとはオタク用語の『萌え』とは無関係。この頃には、まだ萌えという言葉は普及していなかった。

新人賞

・小学館が、少女向けライトノベルを対象とした新人賞『パレットノベル大賞』を開催する。
 作家の喜多嶋隆が選考委員を担当。

オタク文化に大きな影を落とした事件

・東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(1988~1989年)の犯人、宮崎勤が逮捕される。
 低年齢の女子児童が被害者となった犯罪史に残る猟奇殺人事件。犯人は、犯行声明を新聞社に送りつける、被害者の遺骨を遺族に送りつける、などの異常な行動を取り、日本中の注目を浴びた。
 、宮崎勤はロリコン・ホラーマニアであったことから、同種の趣味を持つオタクバッシングへと発展した。このため、『オタク』=『犯罪者予備軍』、『オタク』=『宮崎勤』というイメージが付き、コミックマーケットの会場に取材に行ったマスコミが、「ここに10万人の宮崎勤がいます」と報道したと言われる。
 これによって、オタクコンテンツが人間に悪影響を与えるという『メディア効果論』が勢いづき、有害コミック規制運動に発展した。
 宮崎事件の影響は、その後も長く尾を引き、2008年刊行のライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』では、妹物の美少女ゲームが大好きなオタクヒロイン桐乃は、この偏見に苦しめられている。
 ただ、ライトノベルはこの時代、まったく認知されていなかった上、小説という形態を取っていたためか、バッシングの対象にはなっていない。

1980年代の総括

・『Dungeons & Dragons』に代表されるTRPGと、ドラゴンクエストに代表されるファンタジーRPGが爆発的な人気となった時代です。このような背景から、『ロードス島戦記』といったTRPGのリプレイ小説、ゲーム的な世界観を採用した『フォーチュン・クエスト』という名作が生まれます。
 80年代後半になるとSF小説に成り代わって、ファンタジー小説が台頭し、これから90年代後半まで、ライトノベルは剣と魔法の異世界ファンタジー一色というファンタジーバブルとも言える時代に突入します。
 また、この時代は、中高生向けの小説を作るために、アニメの脚本家や『コンプティーク』のようなゲーム雑誌出身のライターを起用していました。作家を確保するのが大変で、筆が速い作家に複数のペンネームを使わせて、月に2冊以上も本を刊行したり、男性作家に少女向け小説の執筆を依頼するなど、拡大するラノベ需要に対応するために出版社は苦労していました。
 コバルト文庫、富士見ファンタジア文庫は、いち早く新人の登竜門であるライトノベル新人賞を開催し、有力な新人の発掘に力を入れていきます。
 後半は、コバルト文庫の成功に倣ってか、たくさんの少女向けレーベルが立ち上がりますが、講談社X文庫ティーンズハート以外は、すべて短命に終わります。ライトノベル界で成功するには好景気の中であっても、過酷であることがうかがえます。

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