ライトノベル作法研究所
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  4. パロディのデメリット公開日:2014/07/28

パロディのデメリット

 ライトノベル新人賞の下読みをされているジジさんは、以下のように言っています。

 下読みとして気持ちよく笑えるのは「パロディじゃない笑い」ですね。
 パロディはいろいろと問題を生み出す可能性がありますし、なにしろ「応募者が考えたネタ」ではないので正しい評価ができない部分があるのです。

 パロディの問題点とは、『既存の作品の魅力や知名度を使って笑いを取っている』ことそのものです。
 作者本人の実力ではなく、他人の力を借りていると見なされてしまうので、作者に笑いの実力があるのか正しく評価できない部分があるそうです。まったく同じ理由から、パロディを一段低いギャグとみなす人たちもいます。

 また、作品名やキャラクター名をハッキリと明示するパロディの場合、元ネタを知らないと、意味不明になるという問題が起きます。

「この学校の全ての揉め事は、公正なる勝負で決するようにしよう」

「それなんてリアルバウトハイスクール!?」
引用・『生徒会の日常 碧陽学園生徒会黙示録1』 著者:葵 せきな 2008年9月20日刊行

 これは葵 せきなの『生徒会の一存』 シリーズからの引用です。

 果たして、このパロディの元ネタや意味がわかる人はどれほどいるでしょうか?
 『リアルバウトハイスクール』は、『生徒会の一存』と同じ版元の富士見ファンタジア文庫から刊行されている学園バトル物のラノベです。1997年1月~2010年7月まで長期連載された作品で、シリーズ累計発行部数200万部と、そこそこ有名ではあるのですが、古い作品なので知らない人も多いでしょう。
(『リアルバウトハイスクール』では、学校で起きた揉め事を格闘バトルで解決するというルールがあり、生徒会の一存では、これをネタにして笑いを取っています) 

 パロディは著作権的な問題も発生するので、『生徒会の一存』では、同じ版元である富士見ファンタジア文庫の作品については、モロに名前を出してパロディであることをわかりやすく示していますが、それ以外の版元の作品については、「ひ○らし」など、著作権に配慮して伏せ字を使っています。
 著作権というのは親告罪なので、めんどくさい人から難癖を付けられると、例え常識の範囲内のパロディや引用であったとしても、トラブル解決のために奔走しなくてはならないため、配慮しているのだと考えられます。

 また、例え抜群の知名度を誇る名作をパロディに使おうとも、時代を経ると、その知名度が失われて、意味が通じにくくなるという問題点があります。

 一人の青年、その肖像をひと刷毛で描き出すとすれば、──18歳のドン・キホーテを想像してもらいたい。鎧を着ないドン・キホーテである。もとの碧色が、酒糟色とも朗らかな空色とも、見わけのつかないニュアンスに変色した毛織の胴着を着た、そういうドン・キホーテ。
引用・『三銃士』 上巻 デュマ/作 1983年刊行(岩波文庫)

 こちらは世界的な名作と名高い小説『三銃士』(1844年発表)の主人公、ダルタニアンの初登場シーンです。
 ここで作者のデュマは、ダルタニアンをドン・キホーテに例えて、笑いを取っています。

 ドン・キホーテとはペンギンキャラクターで有名なディスカウントショップのことではなく、聖書の次に売れたという世界的大ベストセラーである小説『ドン・キホーテ』(1605年刊行)の主人公の名前です。『ドン・キホーテ』は騎士道物語の読み過ぎで、自分のことを伝説の騎士ドン・キホーテと勘違いしたオジサンが、冒険の旅に出てひどい目に会うという滑稽小説です。

 このように過去の名作の知名度や魅力を借りて笑いを取るパロディは、昔から存在していました。
 しかし、ドン・キホーテのことを知らなければ、田舎から立身出世のために駄馬に乗ってやってきた小貴族ダルタニアンの滑稽さというのは、うまく伝わらず、このシーンは良くわからないものになります。

 大ヒットライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(2008/8/10刊行)の作者、伏見つかささんによると、作中に漫画『ドラゴンボール』(1984年~1995年、少年ジャンプで連載)のパロディを入れたら、これが通じない読者がいて困ったそうです。ドラゴンボールは、かつては漫画、アニメ界に君臨する超ヒット作でしたが、1995年に連載を終了していますから、それ以降に生まれた読者にとっては、知らない作品であるケースが多いのです。

 このため、パロディは、パロディであることが理解されなくても、意味がそれなりに通るように作るのがコツと言えます。

「ええ、私ですらまだ試していないそれをあなたに先を越されるなんて屈辱だわ。絶対に私が勝たせてもらう! 私の魔動球は百八式まであるのよ?」
「受けてたつわ。支取ゾーンに入ったものはすべて打ち返します」
 何やら御ふたりとも瞳に炎が宿っているのですが……。てか、賭けの対象が庶民的すぎますぜ、お嬢さま方……
引用・『ハイスクールD×D3巻 月光校庭のエクスカリバー』 著者:石踏一榮 2009年4月20日刊行

 これは『ハイスクールD×D』 のヒロインのリアスとソーナがテニスで勝負をしているシーンです。

 分かる人はわかると思いますが、少年ジャンプで1999年~ 2008年まで連載していた『テニスの王子様』のパロディです。二人は悪魔という設定なので、元ネタを知らなくても、なにか常人にはできないすごいプレイをするのかな? というように意味が通じます。

「自分でトラウマ掘り返すなら最初からやらなきゃいいのに……」
「っるせ! お前があだ名に変な憧れをいだいているからその幻想をぶち壊してやろうと思ったんだよ!」
引用・『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている3巻』 著者:渡航 2011年11月18日刊行

 こちらは、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』 3巻からの引用です。

 元ネタは『とある魔術の禁書目録』(2004年4月刊行)の主人公、上条当麻の決め台詞「その幻想をぶち殺す(壊す)」ですが、文脈からして元ネタを知らなくても楽しめるように配慮されています。
 元ネタを知らなくても楽しめる、知っているとさらに楽しい、というのが優良なパロディであると言えるでしょう。

●パロディのデメリット

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