ライトノベル作法研究所
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  4. ラノベとは承認欲求を満たすツールである公開日:2014/12/27

ラノベとは承認欲求を満たすツールである

 ライトノベルとは、若者の承認欲求を満たすためのツールです。
 21世紀の現代において、人々がもっとも求めていて、しかも手に入らないのは「自分は価値のある人間である」という他者からの承認です。

 ラノベは読者の承認欲求を主人公を作品世界の重要人物にすることで満たす、という構造を取っています。

 例えば、ヒット作である『ストライク・ザ・ブラッド』 (2011年5月刊行)の主人公、暁 古城(あかつき こじょう)は、高校生でありながら世界最強の吸血鬼である第四真祖です。真祖とは、吸血鬼たちの大元の先祖であり彼らの王です。

 他の3人の真祖は夜の帝国(ドミニオン)という魔族たちの国家の支配者であり、強大な軍事力を持っています。
 暁 古城は、領土も軍隊も持っていないですが、彼が住んでいる人工島である絃神島の支配者と目されており、ドミニオンの一つである戦王領域の貴族ディミトリエ・ヴァトラーが絃神島にやってきた時、謁見の挨拶を受けています。 

 彼は最強の存在であるだけでなく、国家元首と同等クラスの世界にとっての重要人物なのです。

 また、ラノベの主人公は、特別な能力を先天的、あるいは後天的に偶然与えられます。これは彼がその他大勢の凡人ではなく、「運命に選ばれた特別な人間」であることを意味します。

 『ストライク・ザ・ブラッド』の暁 古城は最初から吸血鬼だった訳ではなく、ふつうの人間でしたが、先代の第四真祖アヴローラから、その力を譲り受けています。その際の詳細は記憶を封じられていて思い出せません。

 彼は吸血鬼となったことを災難だと受け止めていますが、そのおかげで相棒として一緒に戦ってくれる姫柊雪菜といった美少女たちに出会えてモテモテになり、世界の命運を左右する重要人物として扱われます。
 これは承認欲求を求める若者たちの空想の具現そのものです。

 累計400万部以上のヒット作『狼と香辛料』の著者である支倉 凍砂さんは、『「メジャー」を生みだす マーケティングを超えるクリエイターたち』という書籍で次のように語っています。

 もし「現代中二病」の特徴を挙げるとしたら。それは「自分をもっと見てほしい」という、本来ごく小さな問題に対して、とてつもなく大きな解決策を空想するところだろうと、指摘する。
(中略)
 たぶん、スティーブ・ジョブズのような人たちは、目標を定めたときにきちんとひとつずつステップを考えて『一億円の年収を稼ぐためにはどうすればいいか』といった考え方をするんだと思います。しかし中二病の場合は『一億円稼いでからどうしよう』といった空想が中心になっちゃっている。
引用・『「メジャー」を生みだす マーケティングを超えるクリエイターたち』(2014/12/9刊行)著者:堀田 純司

 ライトノベルの物語構造は、支倉 凍砂さんの指摘通り、主人公が突然、大きな力を持った世界の重要人物となることで、自分をもっと見て欲しいという読者の承認欲求を満たす、というものです。吸血鬼の王になったら、どうしよう? という空想を普段からみんなしている訳です。

 他にも累計発行部数135万部のヒット作『ノーゲーム・ノーライフ』 (2012年4月刊行)の構造を例にあげてみましょう。物語の基本構造は『ストライク・ザ・ブラッド』と同じであることがわかるでしょう。

1・社会不適合者のゲーム廃人兄妹が、神様に異世界の救世主として選ばれる。
(主人公が価値ある存在として運命から承認される。『ストライク・ザ・ブラッド』の先代第四真祖の位置に神がいる)

2・ゲームの勝敗がすべてを決める異世界で、兄妹はその才能を存分に発揮して滅亡寸前の人類国家を救って王様になり、世界制覇に乗り出す。
(主人公が世界の重要人物となる。大勢の人から価値ある存在として承認される。多数からの承認)

3・主人公の空は、無職・童貞・非モテ・コミュニケーション障害の社会不適合者だが、不登校の妹にとってはなくてはならない保護者であり、彼女と2人で1人の天才ゲーマーである。
(主人公が帰属する居場所がある。妹との間に切っても切れない強い絆があり、彼女から強く承認される。主人公にとって価値のある特定個人からの承認。『ストライク・ザ・ブラッド』のヒロイン姫柊雪菜の位置に妹がいる)

 運命からの承認。多数からの承認。美少女(価値ある特定個人)からの承認、この3つを満たすのがラノベのストーリーの基本構造です。

 『ノーゲーム・ノーライフ』のように、ヒットしたラノベの主人公には、妹のいる確率が非常に高いです。
 『ストライク・ザ・ブラッド』もそうですし、『ソードアート・オンライン』『魔法科高校の劣等生』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『生徒会の一存』『フルメタル・パニック!アナザー』『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』といった例があります。 

 妹萌えの本質とは、『切っても切れない強い絆』『か弱い存在から頼られる』という承認欲求を満たすことです。
 恋人は何か一度でもトラブルが起きれば、その関係は簡単に解消されてしまうリスクがありますが、妹は血縁関係にあるので、喧嘩しても元通りになりやすい強固な絆を持っています。これが承認欲求を充足させる構造として機能します。
 彼女は、兄である主人公が無職・童貞・非モテ・コミュニケーション障害でも、決して見捨てないのです!(妹だから)

 現代人が承認を求めるのは、承認を与える装置として機能していた共同体、会社や家族が壊れたからです。会社は従業員を使い捨ての駒としか見てくれず、家族はただ同じ家に住んでいる程度のものになっています。
 自分は所属する組織から大事にされている、家族や仲間から大切にされており一員として認められているという感覚がないと、人間は不幸を感じてしまうのです。

 その店では、とてもまずいコーヒーが一杯500円だそうで、「ご主人様、次は何をお持ちしましょうか」とか、「お兄ちゃん、次何飲む?」といわれると、まずいとわかっていても、ついついおかわりしてしまうそうだ。メイドカフェでは、コーヒーを売っているようであって、実は、「大切にされている」という感情体験を売っている。
引用・『なぜ日本は若者に冷酷なのか』(2013/11/22刊行)著者:山田 昌弘

 メイド喫茶が大ヒットして、秋葉原から東京のあちこちに増殖していったのは、「自分は大切にされている」という承認欲求を充足させるビジネスだったからです。

 1995年頃からインターネットが急激に発達したのも、自分の意見を発信できて、それに対して多数の反応が返ってくる「承認欲求」を満たすツールだったからです。
 Facebookで「いいね!」をもらうためにかわいい動物の写真をアップしたり、Twitterのフォロワー数やリツイート数を上げるために偉人の名言を呟きまくったり、LINEの既読スルーに激怒したりするのも、すべて「自分は価値のある人間である」と認めて欲しいという承認欲求がなせる技です。

 これほどまでに承認欲求とは、人間を突き動かすのです。

 ラノベ新人賞の下読みをされているジジさんは、次のように語っています。

 読者がこの設定の作品を通じてどのような得(カタルシスや読後感)を得るのかが最重要課題になります。
 読者目線で「得」のない物語は、結局のところ作者の自己満足で終わります。

 物語というのは、読者になんらかの利益を提供しなければならないのです。
 その利益とは、読者が求めているのに手に入らない快感であること、現代では「承認欲求の充足」なのです。

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