ライトノベルが、衰退せずに発展してきたのは、SF、漫画、アニメ、ゲーム、ジュナイブル小説といった周辺ジャンルの良いところを無節操かつ貪欲に吸収してきたからです。
ファンタジーが流行れば、それまでSFが主流であっても、すぐにファンタジーに鞍替えし、美少女ゲームが流行れば、その要素を貪欲に吸収して『萌え』を追究してきました。
逆に、かつては人気があったのに衰退してしまったジャンルとして、SF小説と、ケータイ小説があります。
SF小説はイギリスのH・G・ウェルズが『タイム・マシン』を発表した19世紀終わりごろから隆盛し、日本でも1980年代まで爆発的な人気を博していましたが、1990年代に入ると衰退し、無数にあったSF雑誌が次々に廃刊に追い込まれました。
早川書房「SFマガジン」が主宰するSF小説新人賞『ハヤカワ・SFコンテスト』も1992年に休止され、行き場を失ったSF作家志望は、ライトノベルに発表の場を求め、森岡浩之の『星界の紋章』(1996年刊行)といった名作が生まれました。
SFが衰退した理由として、SFの科学考証や設定が複雑になりすぎて、SFマニア以外には理解不能になってしまったことが挙げられます。歴史の長くなったたSFは、どんどん科学考証にリアリティを持たせる方向に発展しましたが、これが新規参入する作家や、新しい要素を閉め出す方向に作用してしまったのです。
これを象徴する言葉が、
「これはSFではない」です。
1970年代を代表する宇宙戦艦ヤマトや機動戦士ガンダムといったSFアニメに対しては、SFファンは「これはSFではない」と批判しました。
SFはそうとうな修練を積まないと理解、参入できない、閉鎖的、権威的なジャンルとなってしまったのです。
イノベーションとは、新参者や異端者からもたらされます。新しく入ってこようとする若者や変わり者を排除すると、発展が阻害され、その分野は衰退に向かうのです。
SFの衰退は、新しい才能や作品を理解せず、古参のファンや作家が自分たちの価値観に固執したことによって、もたらされました。
ケータイ小説は2006年に『恋空』が出版されたのをピークとして、その後2008年にはブームが過ぎ去り、衰退してしまいました。
ケータイ小説が衰退した理由は、ヤンキー文化に属する人は体験を重視するが勉強は嫌いで本を読まないからではないかと考えられます。彼女らは行動力があり、何事も体験しなければわらかないと考えているので、結婚、妊娠、出産が早く、間違ったパートナーとくっついてDV被害にあって離婚する、といったことになります。
こういったヤンキー系女性の特徴はケータイ小説の内容に反映されています。
ライトノベル作家の本田透は、著書『なぜケータイ小説は売れるのか』(2008年2月刊行)で、ヒットしたケータイ小説に共通する題材として「売春・レイプ・妊娠・薬物・不治の病・自殺・真実の愛の7つ」を見つけ出し、ケータイ小説七つの大罪と呼びました。
これはヤンキー系の女性がたどってしまう危険のある、おそく最悪の人生シナリオであり、「真実の愛」はその中の希望です。だから、共感されます。
実際に、『恋空』は著者の実体験から書かれたとされています。
このようにケータイ小説は、著者の実体験を元にして書かれたとされる物が多く、著者名と主人公の名前が同じであるなどして、とにかくリアルであることが売りとされていました。
小説のネタとは突き詰めると、著者の体験と知識の二つから捻出されます。
他人の体験、それも悲惨な人生や失敗談、特異な経験などは、読者の興味をひきつけます。
しかし、同じような体験をしてきた人たちが、それだけを元に小説を書くと、同じような内容となってしまい、これが氾濫すると、結局、すぐに飽きられることになります。
ケータイ小説が衰退したのは、体験を元にしか小説を書いていなかったからです。
一方で、ライトノベルは、周辺ジャンルでなにか流行ったり、ヒットすると、これを取り込んで、自らを進化させてきました。オタクは、おもしろい物を追究することに貪欲なのです。
例えば、2004年、ゲーム雑誌『コンプティーク』に美水かがみの4コマ漫画『らき☆すた』が掲載され、爆発的な人気となると、その要素を取り込んだヒット作が作られました。『らき☆すた』は、オタクな女子高生の緩い日常を描いたギャグ漫画で、美少女たちがオタクトークをしてまったり楽しく過ごす、という作風を売りにしていました。
2008年1月に刊行された葵せきなの『生徒会の一存』は、これをライトノベルにいち早く取り入れ、主人公が美少女ばかりで構成された生徒会で、彼女らとオタクトークして遊ぶというパロディ満載の内容でヒットしました。
その後、この要素は『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『僕は友達が少ない』といったヒット作にも使われ、ラノベの王道的要素の一つになっています。
ラノベを書くためには、ライトノベルを読むことも重要ですが、漫画、アニメ、ゲーム、映画といった周辺ジャンルも教養として押さえておくことが大切です。
ライトノベル作家のうれま庄司さんは、アマチュア時代、いろんな小説やマンガや映画を見て、「これはなんでこんなに面白いんだろう」「あずにゃんはなんでこんなにかわいいんだろう」と考えるようにしていたそうです。
漫画など読んでいても何の役にも立たないと、一般人は考えるでしょうが、たくさんのおもしろい作品に触れ、これはなんでおもしろいのだろうと考えて、それらの要素を取り込むようにすると、おもしろい作品が作れるようになるのです。
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