(No: 5の続き)
9.変更案:主人公の変化
そうした工夫抜きに主人公を行動させていますので、作者さんも気が付いたか、あるいは漠然と不安になられたのか、以下のような念押しするような記述がありますね。
> 首のない体を見た時彩也子は確かに仰天したし、(略)そこそこ仰天したし、もちろん今だってしっかり仰天した。実際まだ心臓がばくばくと音を立てている。
こういう、思い出したように説明するのは言い訳っぽく見え、逆に無理矢理な感じが出てしまう恐れがあります。もし主人公:彩也子のある行動の不自然さをお感じになったのだとしたら、後付けで説明するよりも、その行動の前を見直したほうがいいと思います。
彩也子が従属(他人の評価が自己評価基準)から自立(己のことは己で決定)に変わっていく部分についても、ちゃんときっかけの適切なイベントがあります。遅刻です。彩也子は勤務状態、私生活から考えて過労状態であると伝わってきます。
だからちょっと飲み過ぎると、起こされない限り寝過ごしてしまう。自然な流れですが、主人公が叱られるだけのイベントになってしまっているようです。妖怪たち、わざと寝過ごさせたとしたらどうでしょうか。会社より彩也子の心身の回復をそれとなく図った、としても自然な行動であるはずです。
そういうことがときどきあって、彩也子の過労は次第に改善してきたとします。気力も回復しますし、感情は落ち着いてくるし、思考も正常に戻ってきます。妖狐の言う「自分の問題に立ち向かえるのは、自分だけだから」「元気になったら、思ってたより勇敢な自分に出会えるはず」方針に合致する解決方法です。
短い尺ですから、キャラの行動にはできるだけ目的、意味を持たせたほうがよいと思います。せっかくイベントを作ったら、できる限り使い倒せないか考えてみてはどうでしょうか。寝過ごして怒られるたびに強さが出てくる主人公を描けば、反撃に転じる主人公も不自然ではなくなります(むしろ期待したくなる)。
10.主人公の最大の問題は作者さんしか解決できない
しかし、会社のことは恋愛問題ではないわけですよね。相談所の本義:恋愛問題からは外れています。作劇的には、本当の問題の解決の予兆に当たるのではないかと思います。主人公:彩也子の抱える真の問題はおそらく「カタログスペックの高い彼氏を持つことによる偽のプライド」でしょうか。
そこを断ち切らないと、彩也子は真に自立したことにはなりません。せっかく会社問題を一気に片付けたのだから、その勢いで本丸の諒一を撃破する。現状でもそうなっています。そこはなんとかしたいところですが、自分ではアイデア例すら出ず、申し訳ありません。作品の最重要部分ですから、作者さんにしか分からないのかもしれません。
11.主人公に辛い選択を与えることによる説得力
ただ、諒一との決別で主人公も犠牲にするものがあったほうが、重み、説得力は出るように思います。例えば、
・相談所や妖怪相談員は恋の悩むがある人にしか見えない。
・相談所に打ち明けた悩みが解決すると、妖怪たちには二度と会えない。
としておくとか。この前段で、主人公が妖怪たちと仲良くなる必要があります。現状でもそうなっているんですが、変化が少ないようです。例えば、最初のうちは主人公は「妖狐さん」と呼んでいて、次第に愛称で呼ぶようになると描写すると、変化が感じられやすくなります。
そうしておいて、クライマックスで「諒一と決別して、しかし妖怪たちとも別れる」かどうかのジレンマを主人公に与えると、決断の重みが増します。すると、主人公が依存心を捨てて自立したこともはっきりします。
(かつ、あやかし相談所、妖怪がなぜ騒ぎ立てられないかの説明にもなる。御作の描写にあるような「ろくろ首が正体見せてうろついている」なんてことがときどきあれば、いずれ大騒動になるはず。)
12.まとめ:完成作としては不足、叩き台としては優秀
いずれも御作には種としては既に仕込まれているも同然のものばかりです。もちろん、上記は例に過ぎないですし、この場の思い付きですから寝れてもいません。しかし、そういう思い付きができ、かつそうしてみても物語が崩れそうにもありません。
完成した小説としては物足りないとしても、叩き台(そこから改善するための原案、原作)としては優秀であるように思います。倍以上の出来には必ずできます。また、お考えのように、ここを起点に連作するのも容易でしょう(ゲスト主人公さえ思いつけば作れる)。力尽きたとのことですが、気力が戻られましたら、いろいろ工夫を考えられてはどうかと思います。
(終)