ライトノベル作法研究所
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  4. 文体研究。人気作分析公開日:2012/04/24

ライトノベルの文体研究。人気作分析

 あみん・ばらっどさんの投稿 2012年04月22日

論考:文体について2
補足・具体的研究

1.二作品の具体的分析
 公の場で、あまり特定作品を槍玉に挙げるのもどうかとは思います。けれどもライトノベルの今後を考察する上で、二作品ほど検討してみました。両方とも部分的にしか読んでいないため、作品そのものの良し悪しよりは単純に文体についての分析が主です。

A.『かのこん』(MF文庫)

 
 狐の嫁入りの現代版。アニメなどのせいもあってHな作品として知られています。
 けれどもHなラブコメなんて、今時あふれかえっています。ゆえに通常ならば無数の類似作品に埋もれて消えてしまいそうなものです。それではなぜ、この「かのこん」はウケたのでしょうか?

 まず「面白おかしく語る」センスは、ライトノベル創作で好まれる能力でしょう。
 どれか一冊(自分が読んだのは新しい巻でした)読んでみれば、すぐに気がつくはずです(アニメや漫画ではなかなか伝わらないでしょうけれど)。

 「地の文」までがトコトン口語、とどのつまり「本一冊が丸まる一個の話芸」なのです。

 現実的な話として、文法の崩れた文や主観的独白「混じり」の文章なら誰でも書けます。けれども本一冊分の分量を、丸々主観視点の口語調だけで書けるでしょうか? 普通ならば、どこかの段階で息切れし破綻をきたすはずです。ところがこの作品の場合は破綻していない(それどころか十巻を越えて「継続」する)。

 要するにハメットの客観写実型ハードボイルド(作風が正反対のせいか、主観視点重視のジッドはかえって賞賛したわけですが)の正反対。

 文体の徹底性が作品に力を与えた一例だと思います。
(余談ですが同じ作者が、江戸時代や平安時代を舞台にして「かのこん」姉妹篇を書いたら面白い作品になるだろうな、などとも思っていたりします)

 さて。ここでは合わせて、話芸調中心の文体全般の利点だけではなく、弱点についても考察してみたいです。
 強みと弱み、長所と短所は表裏一体です。昨今のライトノベルではそのメリットのみがクローズアップされ、それに頼りきることのデメリットはあまり自覚されていないのではないでしょうか。

 その弱点とは第一に「視野が限定される」ということ。

 主観から語っている以上、複雑な背景はなかなか包括的には説明しにくい。
 特に「感情移入のしやすさ」という効果を最大限狙うためには、読者にとって「イメージしやすい、慣れ親しんだ視点」である必要がある。そのため舞台が「学園」やら「日常」やらに限定されがちです(異世界ファンタジーでなどであっても、既存のテンプレートに依存することになる)。
 また趣味や嗜好の面でも「読者に同調」するのが無難であるため、「筆者側からの独自性」などは逆に打ち出しにくくなるでしょう。

 けれどもそのせいで「対象とする読者が限定」されてしまい、「ライトノベル=一部のオタクの読むもの」という図式が強化されていくことになる。読者を限定しすぎることはひいてはマーケットの縮小を意味し、長期的に見て業界の衰退につながりかねません

(現時点では「オタク」の価値観を共有する人口が増大したことによって抑制されてはいるのでしょうが、それにも自ずから限度があるでしょう。固定客を満足させるだけでなく、客層や作品の範囲を広げていく、「開拓」もまた常に必要だと考えられます)。

 第二には、客観的視点が弱いことにより、物語を一般的な意味で深化させ辛いこと。

 「かのこん」でも、機知(エスプリ)的な逆説はしばしば活用されます(一例として。「恋愛関係で大切なのは、小難しい理屈より、まず色気肉(おっぱお)」など)。しかしそういう軽妙さが身上であるが故に、理論的な掘り下げはかえってやりにくいのかもしれません。
 もし仮に一般的な価値観に対してアンチテーゼを提示するとしても、「語り方が主観的」であるために「説得力」の面で少なからず不利になってしまう(学者の論文やニュース記事が没個性的・客観的な文章で書かれるのは、「一般的な説得力」を持たせるためです)。

B.『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』(角川文庫・角川スニーカー文庫、全十巻)

 
 おなじみのガンダムを主題にしたオリジナル小説。けれども同人作品以上の内容があり、現在もアニメ化が進行中です。

 著者は軍事ものの小説で有名な人なのだそうで、非常に「手堅い」文章。ガンダムに舞台を借りているものの、背景描写などにも抜かりがありません(それなりに考えて、毎回の舞台を構築しています)。
 地の文にキャラクターの独白が混じる場合であってさえも、客観的説得力を意識しているようにみえます。
 各巻の後半三分の一は戦闘描写に当てられるのが通例のようですが、写実的な描き方故に迫力が凄まじいです。
 とにかく写実型(客観・叙事詩タイプ)の強みが典型的に出ている作品です。「MS(人形兵器)」という設定さえ受け入れられるなら、普通に戦争冒険小説で通るでしょう。続き物ですが部分ごとにある程度のまとまりがあるので、気の向いた巻からでも読めます。
(「お勧め本」に推薦したいくらいなのですが、自分自身が飛び飛びで半分しか読んでいないため、二の足を踏んでいます)。
 読み応えがあり、それゆえに読むのに若干の労力がかかります(だから「さらっと読みたい」人には敬遠されるかもしれません)。

 この作品は角川スニーカーからライトノベルとして出版されていましたが、一般向けの角川文庫でも再版されています。ライトノベルがクオリティ次第で、一般向けにも食い込めるという証拠のような作品だと思います。

2.ライトノベルの未来

 自分としては『UC』ではありませんが、写実型の作品がもっと増えてもいいように考えています。
 センスで書くよりも、考えて造りこむタイプの作品はきっと手間がかかるでしょう。けれども「地平を広げる」観点からすれば極めて有効ですし、それによって将来的に、話芸型の作品に材料を提供することにもなるのです。
 現状、多くのライトノベルは一定のペースでの刊行が求められます。そのためにセンスに頼って矢継ぎ早に作品を仕上げなければならないのですから、人気のある作者ほどに才能を酷使していくことになる。これではやがては業界そのものの「ネタ切れ」を招きかねません(同じような作品が増える傾向)。

 この悪循環を中和するためには、主流派と違う逆タイプのやり方で「補完」すれば良いのではないでしょうか。

 また話芸型が得意な人にとっては、日記・書簡体の小説や戯曲(脚本)なども参考になるかもしれません。なぜならそれらは、「主観を客観に昇華する形式」だからです。その型で「名作古典」として殿堂入りを果たした作品も、古来から枚挙に暇がありません。

 ライトノベルは常に没落の危険に曝される一方で、従来の一般向け小説にとってかわる可能性を秘めています。きっとこれこそが「サブカル」に特有の性質なのでしょう。

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