ライトノベル作法研究所
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  4. ワープ・瞬間移動の科学的考察公開日:2014/09/23

ワープ・瞬間移動の科学的考察

 ダン・シーネンさんのコラム 2014年09月14日

 テレポーテーション は超光速航法ワープ(これは光速度が速度の限界とする相対論の申し子)以前からフィクションによく出てくる。そのため、創作家・ファンの間で長年考察・議論されている。

■空間歪曲タイプの『どこでもドア』は永久機関になるか?

 テレポーテーションは説明不能の超能力を始め(考えて諦めた)、さまざまなタイプがあるが、日本において年齢問わずに最も知名度の高いものの一つが『どこでもドア』であろう。ドアを開ければ行きたいところが目の前にあるわけである。

 空間を歪曲しているようであり、ワームホールと同様のもののようでもある。ドアの先が真空の宇宙空間や超高圧の深海、あるいは溶けたマグマといった事故は報告されておらず、何らかの安全装置があると思われる。それは今回は置いておこう(必ずモメルのだ)。

 どこでもドアでよく問題となるのがエネルギー問題である。たとえば、どこでもドアを下向きにして「100メートル上空!」と言ってドアを開く。そこに小石を落とせば、ドアに落ちた小石は上空の出口から落ちてきて、また入口に落ちる。

 永遠に落ち続けるわけである。空気抵抗が無ければ限りなく光速度に近づくだろう。水を使って水力発電も可能である。これは永久機関となり得る。また、台車の上にどこでもドアを置き、「私の正面!」と言ってドアを開ければ、鏡を使ったように自分が見える。

 その自分を押してみると台車は進む(互いに押すことになる)。これが台車の上に2人いて、互いに押しあったなら台車は進まない。手で押した力は自分の足に伝わって台車を押す力となる。その力の大きさが等しく、方向が互いに反対のため相殺するのである。

 こういう一つの系の中だけで働く力を内力という。内力ではガタガタ振動することはできても、一方向に推進する力にはならない。進むためには外力が必要である。ところが、どこでもドアを使って自分の背中を押せば台車は進んでしまう。なぜだろうか?

 この場合、台車を押す力となる足は一つである。自分自身を押せば、外にある壁を押したのと同じく、一方向の力となって台車を押す力となってしまう。結果として台車は後ろ向きに進む。内力だけで進んでいる上、エネルギー消費はない。

 自分自身を手で押しているからエネルギーを使っているような気がしてしまうかもしれないが、台車に柱を立てて縮めたバネで押してもいいわけである。バネが縮んでいるだけで台車は進んでくれる。永久機関である上、内力による推進でもある。

 宇宙船に応用すれば、ロケット推進などを一切使わない夢の推進機関となる。これがドラえもんの世界でないのは、どこでもドアに必要なエネルギーを補給せねば作動しないからであろう。また内力推進せずとも、どこでもドアで行きたい所に行けばよい。

 しかし、どこでもドアはそんなに都合のいいものではあるまい。なお「とある魔術/科学」シリーズの一方通行(アクセラレーター)も力の方向を自在に変化させる能力を持つため同様であろう。エネルギーが保存しないでいい世界は不安定である。

 どこでもドアや一方通行の存在が宇宙を危うくするのではなく、そういう物理法則がある宇宙がもともと不安定なのである。したがって、それらのテレポーテーションはエネルギーやベクトルを保存するに違いない。変えたければ外から与える筈である。

 自宅の居間から深海の海底へ、どこでもドアで移動しようとしたとしよう。ドアを開けたとき、海水が噴き出すかどうかはどこでもドアの設計次第である。この状況をどこでもドアを使わずに表せば、口を閉じだパイプを海面から差し入れるのと似ている。

 パイプが海底近くに達し、閉じた口を開けば海水が流れ込む。これは浮力に逆らってパイプを差し入れたことで、海水に位置エネルギーを生んだからである。もし口を閉じずにパイプを差し入れれば、位置エネルギーは生じない。省エネなら後者である。

■素粒子ビームにして転送

 どこでもドアは極めて安全で有用らしい。別のタイプには、スタートレックで多用され有名になった『転送装置』がある。転送したい人や物を素粒子に分解し、目的地との間でビームとして送信して、再生する装置であるらしい。ときとして事故もあるようだ。

 マクロスにおける『マイクローン装置』は「マイクロ化したクローンを作る装置」が語源らしい。巨人であるゼントラーディが人間サイズになったり、巨人に戻ったりするのに使われる。これも素粒子まで分解するタイプで、スタートレックの転送装置に近いようだ。

 マイクローン化したときには、形は必ずしも幾何学的縮小ではなく、性格も変化することがあるようだが、おおむね意図した方向へ変わるようである。巨人化すれば元に戻ることからも、それはうかがえる。この点は、ある種の変身に近いのかもしれない。

●余談:「転送!」はBeam me up!か、Energize!か?
 スタートレックでの「転送!」は原作では"Beam me up!"(全てビーム化せよ)、"Energize!"(エネルギー化せよ)の2種類があるようだ。最初は前者だったのが、次第に後者に変わったらしい。転送装置に改良が施されたのかもしれない。

●フュージョンによるザ・フライの恐怖
 転送装置ではまれに事故がある模様。考えれば、物体を素粒子に分解してビーム送信し、目的地で再構成するのだから、非常に難しい技術である。ある生物の原子構成を、正確に複製しても、複製物が、元の生物そっくりの死体になる可能性は低くない。

 生命は未解明の部分が多く、何が生死を分けているか分からない部分も多い。こうした困難を克服し、ノイズのないビーム送受信が行えても問題は残る。転送前の物体スキャン時の問題である。転送するには対象を素粒子まで分解する必要がある。

 これは、転送される物体の原子レベルでの全構成情報を得るためには必須である。CTスキャンなどでやれるようなことではない。しかし、精密すぎるために問題が起きることもある。たとえば、ハエが人の首筋に止まっている状態で転送したとする。

 転送装置は、人とハエを二つの異なる物体と認識するだろうか?もし一つと認識したら、マズいことが起こる。分解して送った原子を元通り再構成しようとして、人間+ハエの生物を作ってしまう恐れがある。ハエの質量は小さいからすぐに問題は起こさない。

 その後も普通は大丈夫であろう。しかしDNAが影響を受け、細胞分裂したときにハエの細胞が作られてしまうようだと悲劇となる。次第に人間がハエ化していく可能性があるのだ。衣服や周囲の空気も同様に危険となり得る。それらへの安全化対策は後述する。

●物体自体も転送なのか、情報のみ送って物質は現地調達か?
 原子レベルに分解してビームで送る。このとき、転送対象物体そのものを送るのは、目的地で再構成に使うためであろう。目的地に転送装置がないならやむを得ないかもしれない。しかし、転送装置間での転送でもそうする必要はあるのだろうか?

 マイクローン装置では、マイクローン化なら物質が余るが、巨人化のときは不足するはずである。必然的に足りない物質は外から補っているであろう。さらには、物体の構成情報だけ送信し、再構成に必要な物質は受信側で用意することも可能なはずである。

 構成情報と構成物質を同時に送って再構成する。非常にリスクを伴うやり方と思われる。構成情報は記録さえあれば再送信可能だが、構成物質を転送すべき物体に依存していたら、送信時に少しでも失われると致命的である。しかし、転送装置は事故が少ない。

 不足分の補充といった、何らかの安全対策が施されているものと思われる。ただ、転送される物体の全構成情報が記録されることは、安全化には必要であるが、別の問題を起こし得る。それは後述する。

●原子レベルに分解? それっていったん死ぬってことでは?
 転送の手順を確認しよう。懐かしい名前を拝借して、カーク船長が転送されるとする。まず、カーク船長を原子レベルに分解しつつ、原子の種類や配置などの構成情報を記録する。次に、……い、いや待った。人間を原子レベルに砕いたら、それって死んだって言わないか?

 思い出した。ファンの一部は「転送なんか絶対嫌だ」と言っていた。「魂が抜ける」とも言っていた。原子レベルに分解する時点のことだったようだ。ちなみに、非常に痛いであろうから麻酔は必須だろう。しかしいったん死ぬことに変わりはない。

 霊魂の類は記録不可能であろうから、転送されまい。しかし、(検討のしようもないので)置いておく。転送されるのが人間を含め生物なら、自分が死んで、複製が作られることを覚悟せねばならないだろう。もしそうなら、スタトレ世界の住人は豪放のようだ。

●エネルギーの問題(質量エネルギーはE=mc^2)
 心を鬼にして手順の確認を続けよう。全構成情報は通常の電波で送ればいいであろう。電波は電磁波であり光速度である。転送される物体は原子レベルに分解され送られる。普通に行えば主に重粒子線となり、光速度未満の速度となる。α線、β線でも同じである。

 そうなると、もし物体の構成情報と構成物質を同時に送信すれば、情報が先に目的地に到達し、続いて物質が到着する。これは、目的地が転送装置でない場合、マズい事態となる。構成情報に従って再構築しようにも、材料がまだないことになる。

 それでは、構成物質をわずかに先に送信すればいいだろうか?しかし粒子線の種類により、電子であるβ線といった軽い物は先に、ヘリウム原子核であるα線、さらに重い原子核の粒子線は遅く到着するはずである。重いほど速度が遅くなるからである。

 ……と思う。だとすると、全体では電荷が0であることを利用して、電磁波というエネルギーにして送信すればよいと考えられる(電荷のある粒子、たとえば電子だけだと電気的に0の電磁波では送れない)。これなら構成情報と同時に目的地に到達する。

 ただし、そのエネルギーは莫大となる。いわゆるE=mc^2ということで、標準的な人間の体重でも大型核兵器何発分ものエネルギーを凌駕するほどになる。スタートレックではエンタープライズと当時は敵だったクリンゴン艦との間で転送は行われていた。

 よく、そんな危険な超兵器レベルのエネルギー照射を相互が許したものである。しかし、これは現在の感覚で考えてしまっているからなのであろう。スタトレ時代の高度に発展した技術なら、その程度はごく当たり前のエネルギーであるに違いない。

●情報量の問題
 それでも転送する物質量は大した問題ではないかもしれない。巨大な宇宙艦船を超光速で宇宙を駆け巡るほどであるから、人間数人程度の移送に手間取るということもないのだろう。では、その人間一人の構成情報量はどの程度なのだろうか?

 残念ながら筆者には試算するだけの力量がない。そこで、物理学者のローレンス・M・ニクラウス(スタートレックファンで、邦訳:SF宇宙科学講座の著者)の試算を紹介する。人間の素粒子の種類と位置を全て記録し、それを40GBの3.5インチHDDに収録する。

 いまどき40GBと思うかもしれないが、試算当時はワークステーションでもそれくらいの容量だったのである。ともかくHDD1個では不足する。必要な数のHDDを揃え、積み上げるとする。その高さは天の川銀河の直径を軽く超えてしまうほどになるとのことだ。

 それで「どうも大変だ」ということなのか、そこで検討が終わっていた。しかし、その試算には疑問がある。データを圧縮しようとはしていないのである。さらに、内臓・筋肉といったもの質は個々人に依存せずとも健康な人間のデータを用いればよい。

 個々人に依存するのはサイズだけである。大幅にデータ圧縮できるだろう。脳だけは安易には考えられない。人間の精神が作り出す人格は脳に依存するからだ。脳の記憶容量は4TBくらいらしい。そんな容量で、たとえば一生分の目視データを動画で保持できるのか。

 詳細は判明していないものの、どうやら高度な圧縮が行われていらしい。そのため、たとえ世界最高齢に達してもまだまだ余裕で記憶を増やし続けられるとのことだ。それでも脳のシステム全体として再構築不可能な情報量ではあるまい。この問題はクリアだ。

●分解まではしておいて、送らなかったら?
 ……と思う。個人の生体データと人体の構成物質があれば、人間が再構築できそうである。なんだか錬金術の禁忌みたいな気がするが、純然たる科学技術であるから心配はあるまい。しかし、ここで疑問が生じる。個人を分解して再構築に必要なデータと材料を得た。

 ここで、「送るのやーめたっと」と言って中断してしまうとどうか。これは誘拐や監禁になるだろうか?もちろん、転送途中の個人に意識はない。なにせ一時的には死人同然なのである。5年以上、転送を中止したままだと死亡認定されるのだろうか?

●二人以上出てくる複製の問題
 逆に、個人の構成物質を二人分にして、構成情報を二度送れば、同一人物が二人になる。働き手が増えたと喜んでいる場合ではない。その人の資産や人脈はどちらのものだろうか。結婚していれば、そのパートナーを押し付け合うトラブルも生じて来るだろう。

 技術上は可能になりそうであるので、法整備が望まれる。スタートレックやマクロスは軍の施設であるので、営利性を度外視した厳しい法規で対処できるであろうが、民営化もされた場合には社会に対する影響は大きい筈である。

●製造装置への応用
 なぜなら、人間の複製は言うに及ばず、転送装置による複製の作成は、金といった元素を増やしはしないが、たとえば高額になった芸術品などを複製できてしまうからである。市場原理から言って、そうしたものは暴落し、作り手はいなくなる。

●疾病治療から不老不死へ
 いくつか「後述する」として保留にしていた。それは、人間の転送においてデータ圧縮をすることと関係している。人体の転送で人体に異物が混入する危険性を避けるには、人体の再構築で余計なデータを使用しなければよい。分解時に得たデータの一部は使わない。

 少なくとも、分解時に得た生データは使用しない。細胞レベルであれば、未分化の幹細胞から、各種組織に分化した細胞に関する知見があれば、それが再構築用データとして使用できる。それは転送用データの圧縮にもなるが、他のメリットも生む。

 細胞レベルでも疾病により不健康な場合がある。その場合。健康な場合のデータを用いればよい。骨格、各種臓器、筋肉、皮膚なども同様である。若年者のデータを基礎として用いれば、加齢による変化を元に戻すことも可能だろう。転送で若返るわけである。

 もちろん、個々人の持つタンパク質等による異物への拒否反応の克服といった課題はある。もっと考えれば、精神が既知の範囲だけで成立しているかどうかも不安だ。そうした点に留意しつつ、転送などのテレポーテーションの開発が進められるべきであろう。~まだ続く

●もし間違えた場合のダークファンタジー
 もし人類には未知であっても、従来『魂』『霊』と呼んできたような何かが人間を人間として支えているとする(人間以外でも同様だが割愛する)。原子レベルに分解するタイプのテレポーテーションは『いったん死ぬ』ことを忘れてはいけない。

 もし魂が実在して、それをテレポーテーションで再構築できなかったら、ちょっと予想がつかない事態が発生し得る。映画化もされたペットセマタリ―というホラーがある。死んだペットをそこに埋葬すると生き返るのであるが、死んだ人間で試みた者がいた。

 結果は思わしくなかった。どれくらい思わしくなかったかと言うと、筆者は夜中にトイレに行けなくなった程度である(察せられたい)。一度死んでしまうということは、非常に重要である。無理なら人には使わぬほうがいい。何ならロボットを送ってもいいし。(終)

○上記記事は、ダン・シーネンさんが、
http://togetter.com/li/522512
 にまとめられた記事を当サイトの交流用掲示場に投稿した物を転載したものです。
 意見や補足などが有る方は、下のメールフォームよりお送りください。

迷える狼さんの意見2014/09/15

 「マクロスF」では、「ゼントラーディ人」の「クラン=クラン」がマイクローン化すると、なぜか小学生くらいの体格(身長だけでなくプロポーションも)になってしまいます(理由は謎らしいです)。

 また、「みきおとミキオ」では、未来世界で発売された物質転送機が欠陥品で、転送した物質の色素が抜けてしまい、全て透明になってしまうという事故が起きていました。

 また、RPG「メタルマックス」でも、転送装置に事故が起きる事があります。
 キャラクターが事故に巻き込まれた時は、予定外の場所に行くだけですが、劇中の説明によると、何か不幸な事になるらしいです。

 映画「ザ・フライ」では、ハエ人間となった主人公に超人的な能力が身に付いて、身体能力や性欲が増大(昆虫の生殖本能の為?)するといった事が起きました。

 また、「ザ・フライⅡ 2世誕生」では、生まれた子供が最初からハエ人間の能力(後に外見も変化していく)を持っていた事から、ハエ人間は優性遺伝すると考えられます。

 また、物語のラストでは、自分を散々実験動物にして来た研究者を拉致して転送ポッドに入り、転送の過程で遺伝子を奪い取り、人間の体を再構築していましたが、遺伝子を取られた研究者は、なぜか出来損ないの体になっていました。

 遺伝子の交換なら、研究者が今度はハエ人間になるはずなのに、交換した遺伝子はどこへ行ったのでしょうか。
 そもそも、転送ポッドは離れた場所へ物質を転送するだけなので、物体の質量は変化しないはずです。
 途中で転送したものに欠損が出来るなら、それはそれでまた問題だと思います。
 それに、欠損が出るなら、それでハエの部分の遺伝子のみを除去して、人間の遺伝子のみを残せば済むのではないでしょうか。

 また、その際に出来た、2人が入っていた繭(まゆ)の様な肉塊は一体何だったのかという疑問が残ります。
 そういう余計なものが生成されるのなら、それも問題の1つであると同時に、それを作った素材の分はどうなったのかという疑問もあります。

 転送装置には人間2人しか入っていないのに、出て来た時には人間2人+肉の繭でした。
 大人2人が入っていた繭を構成していた分の質量は、どこから来たのか?
 SFなのに、明らかに質量保存の法則に反します。

 それと、魂についての考察ですが、RPG「MOTHER2」では、最終決戦で過去に行く時に、
「自分達が使用するタイムマシーンでは、生きた人間を過去に送れない。」
 という理由で、ロボットの体に魂を移すという事をやっていました。
 結果的に、エンディングでは元に戻れましたが、その間に肉体がどうなっていたかは、描写が無いので解りません。

 また、ドラえもんには「魂吹き込み銃」という秘密道具があって、自分の魂を半分相手に吹き込み、意のままに操るというものでした。

 他には、魂ではありませんが、GC「ルイージマンション」では、絵から逃げ出したお化けを捕まえて再び絵に封印したり、逆に絵に封印されたマリオを元に戻すという機械が登場します。

 さらに、ルイージの武器である「オバキューム」は、実体の無いお化けを吸い込んで捕まえるという、謎の機械です。
 ついでに謎なのは、吸い込む容量に制限が無い事です。
※さらに言うと、このゲームでは、お化けと幽霊をごっちゃにするという、良くあるミスをやっています。

うっぴーさんの意見2014/10/03

 世界一長い小説として有名な栗本薫の大河ファンタジー『グイン・サーガ』にも物質転送装置が登場します。
 これは宇宙を管理する神をも超える存在『調整者』が、中原の大国パロに残した遺産です。

・機械でありながら知性があり、マスターを自分で選ぶ。人工知能搭載。
・マスター以外にはまともに操作できない。
・3000年経過しても動き続ける永久機関を内蔵している。
・自己防衛機能もあり、セキュリティも万全。魔術的な攻撃もシャットアウト。
・肉体だけでなく脳の異常まで治してくれる医療装置付き。
 といったとんでもないオプション付きの超テクノロジーの塊であり、原理はまったくの不明です。

 この装置は、世界のどんな場所にも一瞬にして人間を瞬間移動させられるのですが、制約もいくつかあります。
・星々を渡るといったあまりに長い距離のワープはできない。
・ワープする距離が長くなるほど不安定になり、意図したところとは違う場所に出てしまったり、肉体に障害が発生するといったリスクが発生する。

 主人公のグインは、宇宙空間を航行する宇宙船の中で、魔太子アモンと戦い、自らが物質転送装置で脱出した直後に宇宙船を自爆させて、アモンを滅ぼします。
 しかし、超長距離のワープは、彼の脳に致命的な影響を与え、記憶をすべて失ってしまいます。

 グイン・サーガには、物質転送装置の他に、星々を渡る宇宙船という調整者の遺産が存在しており、宇宙船の存在理由のために、長距離ワープに制限を加えたのではないかと考えられます。

 この作品に登場する物質転送装置は、転送したい人の情報を読み取って分解し、目的地で再構築させるタイプの装置です。目的地に受信装置がある必要がないのが特徴です。
 読んでいて不思議だったのは、移動距離が長くなると物質の転送に支障が出るという原理です。

 インターネットを使ってデータのやり取りをしても、ふつうは情報の欠損などは起こりません。
 人体のような膨大なデータを送受信するには、転送量の問題で再構築が難しいということかも知れませんが、時間をかければ良いだけの話で、距離が問題になってくるとは思えないのです。

 おそらくこの物質転送装置は、人間を情報データとして送信しているのではなく、転送したい人間を射出しやすいように素粒子に分解して目的地まで通常空間を通して放り投げ、目的地で再構築する、という結構乱暴なことをしている感じです。このため、距離が遠くなればなるほど、不慮の事故、素粒子の移動中に欠損が生じたり、遠すぎてコントロールがうまくいかず、再構築に支障が出る、といったことが起こるのではないかと考えられます。

 ただ、比較的短距離の移動であっても、ちょっとズレた場所に出てしまうことがある、というのがよくわかりません。座標を設定してやれば、後はコンピューターがかなり高い精度で送ってくれるような気がするのですが……
(パロのイケメン王子アルド・ナリスが非道な人体実験で、転送に失敗して、地面の中に人を送り込んでしまった、といったことを語っています。これって核融合が起きるのでは……というツッコミはここでは割愛)
 もしかすると、物質転送装置に記憶されている地形データが3000年前のもので、更新されていないとか……超文明の遺産はおもしろいですね。

ダン・シーネンさんの意見2014/10/05

 グイン・サーガに転送装置もワープもあるのですか。グイン・サーガはちょっと読んでいなくて、多少アニメで観た程度です(作品の存在を知ったときには、長すぎてどこから手を付けていいか分からなかった……)。教えて頂いた設定、さらにネット検索で調べてみると、作品世界にマッチした設定を工夫しているみたいですね。
 距離が長いと難しいという点ですが、

> インターネットを使ってデータのやり取りをしても、ふつうは情報の欠損などは起こりません。

 というのは送信側と受信側に専用の装置があり、かつ、デジタル情報ということですね。デジタルというよりは、パケットと呼ばれる単位でエラー判定・訂正情報も付けて、データを授受しているという点が大事かと思います。

 送受信どちらも専用の装置があるのですが、通信経路が長いとデジタル信号であっても、いわゆるビット化け(0が1、1が0に変わってしまう)が起こります。デジタルデータであっても、アナログで送受信していたのがパソコン通信であったりしますが、しばしばビット化けが発生していました。

 パソコン通信では無手順と呼ばれる、単なる送信しっぱなしの信号を受信して、それを100%正しいとしていましたので、文字列なら文字化け、画像なら途中からサンドノイズのような画像になったりすることがよく起こっていました。

 インターネットでも、実はビット化けは起こっています。しかし、エラー判定・訂正情報付きなので受信側で、データ送受信の最小単位であるパケットのデータを修復したり、修復不可なら放棄して再送信を送信側に要求するようになっています。

 機械によるテレポーテーションでも、双方向の出入り口を持つ二つの装置の間でなら、インターネットのようなエラー訂正をして、正確な転送を行うような技術的工夫はできそうに思います。しかし、装置は一か所にあり、任意の場所に送りだしたり、引き寄せたりする場合は、エラー訂正は単純には不可能です。

 それでもやろうとするなら、まず転送装置を転送して、それが確かに正しく転送されていることを確認したなら(セルフチェック装置や、状態を送信することはできるはずで、失敗なら再度送る)、それを使って転送を行うことはできなくはなさそうです。

>  おそらくこの物質転送装置は、人間を情報データとして送信しているのではなく、転送したい人間を射出しやすいように素粒子に分解して目的地まで通常空間を通して放り投げ、目的地で再構築する、

 転送装置は仕組みが詳しく解説されないことが多いようですが(無理な技術ですから当たり前といえば……)、そのような説明がなされていることが多いようですね。情報だけでなく、物体そのものを送るのですから、無から有を生じるとしない限り、オリジナルの物体も送るというのが、妥当な設定なのだろうと思います。

 不慮の事故はあるでしょうし(スタートレックで描写されることがあったり、映画ザ・フライでは重要な設定であったり)、何ともないように見えた転送でも、微小な変化は生じたりしているのでしょう。

>  ただ、比較的短距離の移動であっても、ちょっとズレた場所に出てしまうことがある、というのがよくわかりません。座標を設定してやれば、後はコンピューターがかなり高い精度で送ってくれるような気がするのですが……

 例えばカーナビ(やマンナビ)ですが、意図的な誤差を入れない場合でも、誤差は生じます。位置を割り出すためには複数の衛星からの電波が届く時刻差を計測しているのですが、電波も光も電磁波、秒速30万km=秒速3000万mです。100万分の1秒の誤差でも、30mの誤差が出ます。

 そういう位置計測につかった何か(電磁波ではないんでしょうね)による誤差があるでしょうし、単純に遠い所ほどライフルで正確に狙撃するのが難しいというものもあるかと思います。ライフル弾は放物線を描き、空気抵抗もありますが、レーザーポインタで狙うとしても、僅かな角度のブレが狙いを外してしまうのは、遠いほど大きくなります。

 このことも、受信側に装置があれば解決するのですが、一か所だけにある装置では、なかなか難しそうです。遠隔地から転送装置に引き寄せる場合、間違って隣にあったものを引き寄せてしまう事故もあるんじゃないでしょうか(で、こそっとやり直して、記録には残さない、とか)。

> もしかすると、物質転送装置に記憶されている地形データが3000年前のもので、更新されていないとか……超文明の遺産はおもしろいですね。

 そうだとすると、古いマップのままのカーナビ以上に困りますね。地名が同じで場所が違っていて、とんでもない所に送り出されたり、行きたい所を告げても転送装置が「そんな場所知らん」と答えるだけとか。

 テレポーテーションではなく、ワープですが、アシモフだったと思うのですが超短編で、こんなのがありました。警察に追われた犯罪者がワープ宇宙船を奪い、目標地点をデタラメに設定してワープ、見事に逃げおおせるのですが、ワープアウトした場所は人類未踏の地で、そこから見た天体図がない。そのため二度と帰れない運命に、というところで終わっている話でした。

 仰る地形の変化ですと、タイムマシンについての考察で類似のことを心配している文章を見た覚えがあります(誰の、どんなものだったか記憶にない……)。同じ場所で昔々に出たら、地形が隆起していて地中に出てしまわないか、建物があって壁や柱の中に出てしまわないか、といったものです。

うっぴーさんの意見2014/10/05

 どうもダン・シーネンさん、返信ありがとうございます。
 グイン・サーガはSFと魔法の両方の要素が登場します。1979年から連載された作品としては画期的に斬新なものでした。

 ところで、グインが宇宙空間から物質転送装置のワープによって中原に帰還した際、記憶を失ったのは、彼の別れた奥さんであり、調整者の女神であるアウラ・カーが、グインがあまりにも真実に近づきすぎたために、転送中に彼の記憶を消したということを匂わせる描写が入っています。
 転送前に、システムから長距離ワープは事故が起こるリスクが高いといった警告も受けているので、記憶操作、事故、どちらとも解釈ができる内容です。
(宇宙船は3000年前のものなので、現在の調整者の技術なら、遠距離からノーリスクで、転送に介入できるようになっていても、不思議ではありません)

 もし、アウラがグインの記憶を消したのだとすると、「物質転送装置は、洗脳装置、人体改造装置でもある」と言えます。

 転送する人間を素粒子にまで分解して再構築する過程で、「この人の肉体なり、脳の中身なりを自分の都合の良いように改造してしまえ」と装置を操作する人間が考えれば、できてしまうのです。

 事実、グインは物質転送装置の人工知能から、彼が肉体強化処置を受けた特別な個体であることを告げられています。また、グインはパロの物質転送装置の医療機能によって、記憶を回復していますが、宇宙船内部でアモンと戦った記憶、物質転送装置を操作した記憶といった調整者に関連する記憶は回復されていません。
 グインの記憶は物質転送装置の真のマスターであるアウラに都合の良いように操作されているのです。 

 また、第一巻でグインがルードの森に記憶を無くした状態で突然出現したのは、物質転送装置によって、どこからかワープしてきたからではないかと、作中で推測されています。

 グインは調整者の皇帝であったが、大きな罪を犯したことから追放され、なんらかの使命を帯びて中原にやってきた、という設定です。
 調整者は物質転送装置を使って、グインを中原の歴史に介入させるために、パロの王女と王子という重要人物がいる場所に適切なタイミングで、記憶を消した状態で飛ばしているのです。

 単にワープするだけではなく、転送中に記憶まで消してしまうということを考えた栗本薫先生は、なかなかのSFマニアだったのでしょうね。

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