ライトノベル作法研究所
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  4. 進撃の巨人はなぜ素手で襲ってくるのか?公開日:2014/09/28

進撃の巨人はなぜ素手で襲ってくるのか?

 ダン・シーネンさんのコラム 2014年09月14日

 進撃の巨人ではエレンが巨人化して(以降、エレン巨人と略称)、巨大な岩を運んで、破壊された壁を応急修理しようとする作戦があった。残念ながら、エレン巨人は作戦をよく覚えてなかった。

 岩を運ぶどころか、仲間を攻撃しようとしてしまった。友人らの決死の説得は功を奏するか?で次週へ(わくわく)。その後、ふと思ったのは「巨人は道具を使えるか?」ということ。岩を運んで穴を塞ぐ。簡単ながら自然物を目的に応じて利用するわけである。

 巨人は今のところ素手で襲ってくるが、もし岩を質量兵器に使うとさらに脅威である。もし剣や盾を使い始めると、人類は非常に苦しい戦いを強いられそうである。人間が1mの剣なら、15m級巨人は10mくらいの剣を振いそうだと考えれば、脅威の高さは容易に分かる。

●使える道具の重さと大きさ

 巨人を人間を幾何学的に10倍にした生物だと仮定しよう。そういう生物が道具を使うわけである。筋力は筋断面積に比例なので、10倍巨人は10の2乗=100倍の筋力がある。したがって100倍も重い道具を使えることになる。それも10倍の高さからなのだ。

 非常に恐ろしい話である。しかし、重さ100倍の道具の大きさはどうなのだろうか?かなり大きいはずではあるが、10倍巨人は10倍の大きさの道具を扱えるのだろうか?ここで思い出すべきは、サイズが10倍になれば、体積は10の3乗=1000倍だということである。

 質量は体積に比例するとしてよいであろう。10倍サイズの道具は質量が1000倍になる。一方、10倍巨人の筋力は100倍である。普通の人間の縮尺なら、100/1000=1/10倍の大きさの道具となる。人間が1mの大剣を振うなら、巨人のは10cm。

 人間サイズ換算であって、10倍巨人のままで10cmではないことに注意。巨人にとっての大剣は人間の感覚では短剣でしかない。その実際の剣長は1mである。あ、あれ?いくら巨大になっても普通の人間と同じサイズの道具しか使えないの?それはおかしい。

 いかん、考え違いをしている。単純ミスのレベルではない。[しばし熟慮] 100倍の力が扱えるサイズを考えるには、質量∝体積がサイズの3乗であることから、3乗根を考えるべきだった。100の3乗根は約4.64。10倍巨人は4.64倍のサイズの道具が扱える。

 うーん、ま、まあ大丈夫そうだ。人間サイズに直せは、0.464倍、つまり半分弱くらいのサイズの道具となる。1mの剣なら46cmくらい。ナイフとは言わないが、ずいぶん迫力は落ちてしまう。どうやら巨人化すればするほど、扱える道具の威力は落ちそうである。

 そう言えば、小さなアリは身体の何倍もの大きさのものを持ち運んでいる。ハキリアリなんか、葉っぱが歩いているように見えるくらいだ。あれが道具であったなら、ずいぶん大きな道具であり、素手のアリの何倍もの能力を発揮するのではないだろうか。

 古いB級映画にあるような、人間より遥かに大きな巨大アリが出現するだけでも恐ろしいが(あのアゴとか)、それがその巨体の数倍ある斧とか振り回すようなら、もう絶望的に強すぎる。しかし、小さいからこその身の丈に似合わぬ怪力であるようだ。ちょと安心。

●落下物としての重量物の脅威

 重量挙げ62kg級の世界トップレベルは150kg(スナッチ)~180kg(クリーン&ジャーク)である。10倍巨人なら700~840kgくらい。これを高々と頭上に差し上げて落としたらどうなるだろう?普通の重量挙げでも相当な破壊力になる。10倍巨人なら高さも10倍だ。

 質量100倍で高さ10倍なら力学的エネルギーは1000倍である。落下時の運動量で推し量るなら、(計算略)速度は4.5倍で質量100倍だから450倍。速度を持つ物体の破壊力は運動量比例のケースが多いようなので、後者だとしておこう。それでも恐るべき破壊力である。

 巨人が単なる大岩を用いただけでも、これだけの危険な状態にはなり得る。ただ、巨人が狙うのは人間なのである。小さく力も弱い対象に破壊力を増しても、巨人側がさらに有利になることはなさそうだ。メリットがあるのは巨人を狙うエレン巨人くらいだろう。

●彼我の巨人の道具使用の必要性について

 エレン巨人の攻撃対象は巨人であるため、通常の人間同士の戦いと同じく、武器を持てば有利に働く。対超大型巨人戦では必須かもしれない。通常の人間は既に立体機動装置といったスピード&クリティカルヒットであるため、巨人が重量物で動きが遅くなるなら好都合である。

 そのため、巨人が人類を狙う限りは、道具を用いないものと考えられる。今後、エレン巨人のような戦闘技術を持ち、巨人に敵対する奇行種が増えれば、巨人同士の戦闘用に巨人は道具を使うことを覚えるかもしれない。人類が巨大兵器を駆使する場合も同様である。

 ともあれ、エレンが巨人化して持ち上げられるのは、彼が10倍の大きさになったとして、通常サイズのときの4.64倍であった。通常サイズのときで持ち上げられる大きさの半分以下であることは要注意だろう。相対比で見た感じで判断してはいけないのである。

●今後の研究課題1:巨人自身の強度問題など

 しかし、10倍巨人は重量物を持ち上げたら潰れてしまわないだろうか?直立状態として、巨大化を支える強度は面積比で2乗、質量は体積比で3乗で増加する。ただでさえ潰れやすい。

 さらに道具を使用するのは危険ではあるだろう。これを逆手に取れば、軽そうに見えて実は重いものを巨人が手に取るようにしむけ、重量で自壊を誘うこともあり得る(かも)。巨人が大きいほどその肉体は崩れやすい点は留意しておいてよいかもしれない。

 夏目漱石の『吾輩は猫である』では、吾輩氏が飼い主宅の末の娘を評して「この子は顔が横に面長である」と言っている。それで思い出したのだが、人間の場合、縦横比が低い、つまり低身長で太いほど力持ちになるのである(贅肉は除く)。筋肉が太いからである。

 さらに低身長と高身長の人間が筋力増強で同じ努力をした場合、低身長の人の方が力持ちになる。経験則だが、筋肉1kg増やすには、身長に関係なく同じだけの努力を必要とする。同じ重量の筋肉を増量できたとして、高身長は筋肉が長いため、太くなりにくいのだ。

 日本の男子ボディビルダーのトップレベルは身長160cm台前半が多い。体重制の重量挙げ、パワーリフティングも同様に低身長の選手が活躍している。仮に巨人化を横にだけ10倍したなら、どうだろうか。体重は100倍に留まる。筋力は100倍である。

 リーチは縦横の拡大比率が違うが、最大で10倍を確保できれば、スピードは10倍になるはずである。これは、幾何学的拡大が10倍でも速度が通常の人間と同じという試算と比べると、非常に高脅威である。巨人の進化には引き続き要注意となるだろう。

●今後の研究課題2:巨人の知能問題

→道具を作る知恵を持っているのか? 脳は大きいとすると記憶できる量は膨大?
→マクロスではマイクローン化で記憶容量が減るらしい。
→エレン巨人が通常エレンの意識や知恵を活かせないのは、制御すべき脳が巨大化したため?
→エレン巨人の脳を活かすならSD巨人がよいのでは?

 巨人が脳も幾何学的に巨大であるとすると、それは脳細胞数の増加になると考えられる。細胞の大きさはあまり生物サイズに関係しないのである(と思う)。すると、10倍巨人は1000倍の数の脳細胞があるであろう。これは知能全てにおいて1000倍を意味するわけではない。

 しかし記憶容量は確実に大きいであろう。マクロス世界においては、膨大な記憶を持ったゼントラーディはマイクローン化を避けることがある。記憶が維持できないからだ。現状の巨人は記憶を重視した行動は見られない。学習している様子がないからだ。

 しかし道具を使うことを覚えると、記憶することの重要性を巨人は理解するはずである。既に考察したように、巨人が巨大であるゆえに、パワーを増すための道具は使うまい。しかし、一点への鋭さや人類が現状は優位なスピードを巨人が増すことはあり得る。

 人類の優位面に奢らず、今後の巨人の行動を含む生態について、謙虚に観察することが重要であろう。もし変化があれば、対応策を考えておかねば、後れを取りかねないのである。(終)

●本職の物理学者の考察では

 沖縄大物理学科講師 前野昌弘さん(いろもの物理学者さん)が生物の大きさと強さについて授業されてる。さすがは本職の物理学者、考察の説得力が凄い。今まで、筋力がサイズの2乗などだけから考えたが、反省して考察し直してみたい。

 生物が巨大化しても、体高6mくらいで頭打ちになるという。生物を支え、動かす力は断面積に比例するので2乗比例だが、その重さは体積に比例して3乗比例で増加するためである。このため巨大化するにつれ、自らの重みに力・強度が追いつかなくなってくる。

 それが計算上は体高6m辺りになる。キリンは非常に背の高い動物だが6mを超えていない。恐竜では体高6mを超えたものがいたようだが、彼らは鳥の祖先でもあり、高度に軽量化されていたからであろう。普通の陸上獣類の構造では、やはり6mと考えたほうがよさそうだ。

○当コンテンツは、ダン・シーネンさんが、
http://togetter.com/li/523508
 にまとめられた記事を加筆修正した上で、当サイトの交流用掲示場に投稿した物を転載したものです。
 意見や補足などが有る方は、下のメールフォームよりお送りください。

活火山さんの意見2014/09/17

 そもそもあの世界での巨人は見た目に反して相当軽いという設定がありますね。
 ハンジ分隊長が巨人の頭をサッカーボールみたいに蹴飛ばせた描写が存在するので(たった1コマですが)。
 なので、そもそも人間の重さを単純比較して考える前に、この世界の巨人の重さにある程度の基準が必要になるのではないでしょうか(○メートル級巨人は○○キログラムみたいな)?

ダン・シーネンさんの意見2014/09/17

 サイズの割に異様に軽いことについては「進撃の巨人と壁」のほうで、一言だけ触れてあるのです。ただ、これを短文投稿サイトにアップしたのは、アニメ放映開始間もなくで、巨人の体重について触れられる前でした。ネタバレ的なことは書きにくかったのです。

 これを書いていたときに見つけた、本職の物理学者さんが別の点から進撃の巨人の限界身長を計算したものでは(何と講義録!)、やはり人間を幾何学的に拡大したという仮定で考察していて、自分の重さに耐えて動けるという観点から、6メートルが限界といったん結論していました。そして、軽いかもしれないことにちょこっと言及していました。

 その他、強度として耐えられるサイズということも考察すべき観点となります。おおむねですが、強度もサイズの2乗比例で、負荷は3乗比例です。象の足が極めて太いのは自重を支えるのに必要だからですね。

 生物ではなく建造物ですが、ピラミッドは割とぎりぎりいっぱいで作られていて、工法が完成する前は直線的な四角錐ではなく、上が曲線的に尻すぼみになっているものがあります。石を積んで行ったら、下の石が重みに耐えられなくなったからです(ピラミッドに限らず、小さな模型の試作で盲点となることがよくある強度問題)。

 いずれにしても人間を単純に幾何学的拡大したと考える、すなわち筋力がサイズの2乗比例で、体重が3乗比例だという点が巨大化のネックになりますので、例えば体重がサイズの2乗以下に比例するとすれば、巨人があのような形態で存在してもおかしくないといった結論にもなるでしょう。

 そうなると、構成する材質、組成なども異なり、見た目は人類を巨大にしたようでも、全く異なる生物ということになってきます(それは作中でもだんだん明らかにされていくわけですが……)。

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