藤子不二雄作品の女尊男卑、母親に対する考察

 迷える狼さんのコラム 

 基本的に藤子作品に限らず、ホームコメディ系の作品は、もれなく女尊男卑で描かれる事が多いのですが、藤子作品は概ね徹底しています。
 そこで、「主人公キャラ達の親、特に母親に対する考察」を行いたいと思います。

①野比 玉子
 旧姓「片岡」。実は38歳で、夫の「のび助」よりも2歳程年上の姉さん女房である。
 当初は、メガネを外すと3の字目であったが、後にメガネ美人に変更された。
 ただし、性格も変更されており、当初はのび太に対してだだ甘であり、何があっても怒らないとされ、のび太の行動には寛容であり、動物嫌いでもなかったが、すぐに現在の馴染みある性格に変更された。

 性格は、ヒステリックで理不尽。のび太(たまにドラえもん)をお使いや草むしりなどの雑用にこき使う事もしばしばであり、のび太が少しでも渋ると恫喝(どうかつ)して、有無を言わさず押し付ける。

 また、のび太がしょっちゅうウソを付く事から、我が子を全く信用していない。
 何かと言うと、「ウソおっしゃい!」で片付けてしまう。

 さらに、頼みもしないのに勝手にのび太の部屋を片付けて、自分の価値観で片っ端から物(本棚の漫画などはもちろん、時には秘密道具でさえも)を捨てたり、訳の解らないものは、宇宙人でさえ箒(ほうき)でひっぱたくという悪癖がある。

 また、極度の動物嫌いであり、のび太が何か(犬や猫に限らず、訳の解らないものでも)拾って来ると、「捨ててらっしゃい!」と怒鳴るが、のび太が自分で使う為に「カワイソメダル」を外した子猫を、そのまま家に置いてやるなど、いざ飼い始めると情が湧くタイプである。
 ただし、のび太は飼ったペットをすぐに死なせてしまう為、これはのび太にも責任がある。
 これまでは、金魚や昆虫などで済んでいたが、小鳥や犬猫では責任が桁違いに重いので、玉子の気持ちも解らんではない。

 玉子を語る上で外せないのが、虐待にも近いのび太へのお説教である。
 その内容はほとんど意味が無く、いかにのび太が駄目人間であるかだとか、頭ごなしに怒鳴り散らす事がほとんどである。
 平均のお説教時間は1時間であり、2時間を越えた事もある。また、のび太を座らせて、2時間程もただ無言で睨みつけただけという、凄まじい拷問を展開した事もある。

 なお、「人生やり直し機」で、のび太が人生をやり直した時、2年生ののび太に、「のびちゃん、宿題は?」と問いかけて、「必要ない。僕は天才なんだから。」の答えに、「それもそうね。」と、あっさり納得してしまうのである。

 のび太が駄目人間なのは、玉子にも責任がある。
 だが、単にのび太を叱りつけているだけかと言うと、案外そうでも無かったりする。
 たまに、のび太の為にホットケーキなどのお菓子を手作りする事があるし、家出から戻ったのび太を、感激して抱きしめた事もある(この時は、秘密道具の効果で時間を長く感じた為である)。

 さらに、秘密道具の効果で柱がしゃべった時は、のび太の名前の由来を思い出し、その後は穏やかに接したり、「嫌な事ヒューズ」でのび太がお説教中に気絶すると、お説教が厳しすぎたと取り乱したり、部屋をガードする機械に自分で引っかかったのび太が黒コゲになると、抱き起こして心配するなど、(一応)母性らしいものは持っている。

 余談だが、実は結構なプロポーションの持ち主であるらしい。

②その他まとめて
 実は、のび太のママ以外は、あまり出番が多い方ではないので、まとめて解説させていただく。

●パーマン・「須羽 ミツ夫」のママ
 カバオやサブが認める程の美人なのだが、気が強い。ミツ夫も良く怒られる。
 ただし、ミツ夫の妹である「ガン子」の密告グセをたしなめたり、パーマンと付き合いがある事を心配するなど、子供に対しては割と常識的に接している。

●忍者ハットリくん・「三葉 ケンイチ」の母
 あまり怒る事が無く、藤子作品の母親キャラの中では珍しく、穏やかな性格をしている。
 のんびりしている様でそそっかっしい面もあり、天然系な所もある為、家族の事を心配する時も、怒るよりは穏便な解決策を考える。

 美人である事と、その優しい性格(ハットリくんらを本当の家族として接し、ハットリくんが生活費を家に入れたいと申し出た時には、「子供からお金が取れるか!」と本気で怒ったり、一人暮らしのケムマキの世話を焼くなどした)から、ライバルのケムマキや影千代からでさえも、慕われている。
 ハットリくんが、「ママ上のおいしい料理で舌が肥えてしまい、忍者食が食べられなくなった」とあせる程に料理が上手い。

●エスパー魔美・「佐倉 魔美」の母
 仕事(朝売新聞の外信部)を持っている為に忙しい身であり、良く家を空けているが、それでいながら、それなりに魔美の事を心配している。
 中学生の娘が居るとは思えないくらい若くて美人である。

 また、仕事も家事も一流の「出来る女性」であり、料理の腕が壊滅的な魔美に料理を仕込んで、シチュー程度は食べられる様にした。

●T・P・ぼん 「並平 凡」の母
 家事はそれなりにやるのだが、仕事(共働き)で良く家を空けており、凡への指示をメモに残して伝える事が多いが、時にその内容は理不尽な事がある。

 中でも一番ひどかったのは、短編「奴隷狩り」において、
「勉強が終わったら、洗濯ものとベランダに干してある布団を取り込み、庭の雑草をむしり、居間のガラス戸をみがき、買い物をしておく様に」
 という趣旨の内容であった。
 ちなみに、この内容の全てを、学校から帰って来てからやれと言うのである。
 無茶もいいところだ。

 また、凡が描いていた漫画を取り上げて窓から投げ捨てたり、時に理不尽と言っても差し支えが無い行動を取る事がある。
 家に居る時には、それなりに凡の世話もしてくれるのだが、勉強に関する事だと鬼母へと変貌する。

 総合すると、藤子作品の母親キャラは、基本的に美人で料理が得意という傾向がありますが、子供の教育に関しては、あまり上手ではない様ですw

たまきさんの意見

 藤子不二雄作品の女尊男卑について、少々意見があります。

 あれは女性像というよりも、母親像といったほうが適切でしょう。
 母親というものはなんだかんだいって子供のことを心配していますし料理等の家事も得意です。
 しかし、子供の命の危機という状況でもなければ、いつも教育にうるさく高望みばかりして理想を押し付け、自分の思い通りにならなければどんな言い分も聞き入れずに子供にとっては理不尽としか言いようのない躾や体罰を行います。
 これは言いすぎかもしれませんが、我々(特に男性)の幼少ないし思春期の頃を思い出してみれば、そう感じたことや思い当たる節がいくつもあるはずです。
 理不尽さや教育面での行き過ぎた姿は、「少年から見た典型的な母親像」をフィーチャーして登場させたものだといえるでしょう。

 つまり玉子とのび太は「母親と息子」という括りで考察すべき題材であって、男女像やジェンダーという点にまとめてしまうのは相応しくないと考えます。