設定の発想方法

 本多さんの質問 

 初めまして。本多と申します。

 私はかれこれ四年程小説を書いているのですが、ずっと克服のできない致命的な弱点があります。それは設定があまりにも陳腐で貧弱であることです。
 今まで多くのジャンルを書いてきました。SFやファンタジー(指輪物語に似た伝統的な? ファンタジー)、恋愛もの、異世界もの、現代ファンタジー、群像劇、純文学など多岐に渡ります。ただどれを取っても本当に設定が弱い印象です。既視感のあるものばかりです。完全にオリジナルなアイデアはないという話も聞いたことがあるので、仕方のないことではあると思うのですが……。SFに関してはある程度物理学を勉強し作品に活かそうと試みたのですが、なかなかうまくいきませんでした。

 世の中には本当に素晴らしい設定がありますよね。個人的にはドラえもんはやりやすそうで羨ましいです。ドラえもんのひみつ道具を起点にしていろいろな方向へ話を転がしていくことができる、よい設定の一つだと思います。もちろんエヴァンゲリオンのような謎だらけの作品も好きです。一体どうやってあれ程の設定を思いついたのか不思議でたまりません。

 皆様はどのように設定を考えているのでしょうか? できればお話を伺いたいです。執筆等で忙しいとは思いますが、よろしくお願い致します。

●答え●

飛車丸さんの意見

 着想からどこまで拡大・深化できるか、ですね。
 たとえば魔法を作品に出すとします。で、魔法といえば詠唱と身振り手振りなのですが、なぜこれが必要かと考えます。ここで魔力をどうたら、となるとどこにでもある普通の設定です。そこで頭をひねります。あちこち変な方向にいったりします。そうこうしているうちに、詠唱とは発声であり発声とは空気の振動である、ということを発見し、その流れで身振り手振りもまた空気を動かすものであることに気付いたりします。

 こうして新たな視点を得ることで、視界が一気に広がります。本来ならオカルトでしか存在し得ないはずの魔法が、たとえば分子の振動により生ずる物理的な現象、となったりもします。そのために魔法使いは、音程・リズム・声量などに狂いのない詠唱と、正確で無駄のない身振り手振りを覚える必要があり、その修行にはうんたらかんたら――となったところで、あれ、これ、歌手と似てないか?
 さらに新たな視点が得られました。また視界が広がります。

 ここから、とある新人アイドルが初めてのコンサートでステップを間違えたところ超常現象が起きてしまい、アイドルとそれを見に行っていたアイドルと同級生の主人公は、謎の組織に追われるようになって、うんたらかんたら。政府の組織の人に救われて、アイドルの方が魔法を使ったせいだといわれるも、なかなか再現できない。が、主人公が魔法を使った時と再現しようとしている時で動きが違うことに気付き、そこからうんたらかんたら――。
 あ、そういえばこれだとアイドル同士が歌とダンスでバトルしたり、そういう方向にもいけるなあ、とか。
 などなど、まあ、こんな感じでどんどん広く深く時には物語のあらすじにも入ったりして、設定を作っていく、といったところですか。

 ただこれだとネタになった部分だけとりだしてますけど、実際にはとんでもない量の没ネタも同時に大量生産しています。
 段取り八分どころか段取りで99%の労力を費やすくらいです。
 でもまあ好きでやってる分には、さほどの労力とは感じませんし、労力を費やさずともすこっと閃いたりもします。
 要は着想と連想を繰り返すしかない、ってとこですかね。しかも、一度いいとこまでつみあげても、新たにいい発想が得られたり矛盾に気付いたりしたら、崩してまた積み直しとかしょっちゅうですが、まあ、それもまたよしってとこですね。

布施隆三さんの意見

 俺の書いてるジャンルがラノベではなく、しかもハードボイルドやノワールなので、参考になるかはわかりませんが……

 俺が設定を考える時、常に考えているのは「エスカレートさせること」です。

 例えば、具体的にどことは言いませんが、ネットで評判の危ない犯罪都市があります。日本で言うとごにょごにょ(言ったら誹謗中傷になっちゃう)……しかし、そういう街だって、現実の、現代の、しかも世界で有数の治安の良さを誇る日本の中です。治安が悪いと言っても限りがあります。
 けれど、それだと面白くない。いや、そういう意味で面白かったらいけないですし、不謹慎ですけど、それは置いといて。だから、治安の悪さをエスカレートさせます。そして完全オリジナルの都市に発展させちゃいます。

 人物に関しても同じです。例えば同じクラスにいた不良生徒。今は退学しちゃったけど、せいぜい罪状は器物損壊と恐喝。なら、自分の小説の中に登場させる不良生徒は、殺人未遂と強盗傷害にしちゃおう、ってな感じです。なんて不謹慎なんだろ。自分で書いてて心が痛い。
 これはファンタジー小説でも同じです。魔法が登場するなら、魔法を使う秘密結社を作って、その裏の情勢をどろどろの方向にエスカレートさせる、とか。
 エスカレートは常に俺が念頭に置いてることです。

 要は着想と連想を繰り返すしかない、ってとこですかね。しかも、一度いいとこまでつみあげても、新たにいい発想が得られたり矛盾に気付いたりしたら、崩してまた積み直しとかしょっちゅうですが、まあ、それもまたよしってとこですね。

ラノベの薔薇騎士さんの意見

 基本は組み合わせにあります。

 エヴァって、ウルトラマンやマジンガーZをベースに学園ものやリアルロボット系を組み合わせて作られているでしょ。
 ドラえもんも、昔話などがベースに、タイムマシンや現代の子供社会(当時)を組み合わせています。

 コツは、メジャーをベースにマイナーを組み合わせたり、昔をベースに現代や未来を組み合わせると簡単ですが、メジャーにメジャーを組み合わせていくとビックヒットになりやすいです。
 寿司にカレーをかけて生クリームで味付けして「うまい」と言われるようなテクニックが必要でしょうけどw

本田さんの返信(質問者)

 連想して話を広げていく方法ですか。私はこのような発想の仕方をしたことがなかったので使ってみようと思います。確かに飛車丸さんのやり方であれば、アイデアに関連性も生まれますし使いやすいですよね。

 私の場合、魔法を使うとしても「分子の運動により生ずる物理的な現象」で終わっていました。この辺りまでは思いつくのですが、ここからどのようにして広げていけばよいのかわからなかった。その上「分子の運動により生ずる物理的な現象」としたところで、この設定をいかに作中に活用するかも悩みの種でした。
 私はアイデアを別々に考えていたきらいがあるのでうまくいかなかったのですね。連想してアイデアを生み出すことで、詠唱のための修行のシーンを書いてみようなどと思いつくことができる。素晴らしい発想方法でした。回答ありがとうございます。

 布施隆三さんのエスカレートさせるというやり方では、自ずから設定にわかりやすい特徴が生まれて良いですね。私の小説ではあまり際立った特徴がなかったので困っていました。どこかで見たことのある話という感じです。
 このやり方ならば独自の視点、オリジナリティが生まれやすそうですよね。多くの人が見落としているような平凡なことをエスカレートさせれば聞いたことのない話になると思います。ギャグにも応用できますね。『坂本ですが?』 のような作品も一種のエスカレートだと思いますし、様々なジャンルに使える発想方法です。是非使わせて頂きます。回答ありがとうございました。

 ラノベの薔薇騎士さんの言うように確かにエヴァンゲリオンはそのような感じですね。ロボット(作中ではロボットではありませんが)による戦闘パートがあったり、学園ものの要素が含まれていたりしていますね。組み合わせによって物語は広がっていきますし、何よりもキャラクターを詳しく書き込んでいけますよね。

>寿司にカレーをかけて生クリームで味付けして「うまい」と言われるようなテクニックが必要でしょうけどw

 最終的にはやはりうまくまとめるテクニックが必要になってくるのですね。この組み合わせという手法を使って話を考えていこうと思います。回答ありがとうございました。

たこやきさんの意見

 起承転結と三幕構成を使い。
 一つの事件に一つの解決方法が示されて終わるものには、それに合う設定とそうでないものがあります。

 女の子が可愛く書ける。文章が上手いなどは書き手側の技量ですが、基本に忠実な構成ほど技量の上手い下手がでやすくなります。

 設定を中心に物語を見せようとすると読者の気を惹くフックと、仕掛けの二つが必要になります。
 仕掛けを成立させるためには、どこかで基本を破らなければいけません。

 女の子が可愛くかける人が読者に作品の感想を聞き。
 作品名=ヒロインの名前、を狙うとすると。
 ストーリー、キャラ、設定、構成、文章、商業性のすべてを部品のように使い。
 女の子が一番可愛いんだ、と作品でそれを表現します。

 設定も同じです。テンプレートのような起承転結や三幕構成に、核となる設定をただ入れても機能しません。
 作品名=設定、と読者に気づいてもらえるように。
 物語のすべてを構成するパーツを使い組み立てていきます。

 設定はちょっとしたもので十分だと考えます。

 もし全国のコンビニで三ツ矢サイダーが一万円で売っている世界があったとしたら。←設定のとっかかり
 経済うんちく。サイダーを巡った異能バトル。サイダーの恋愛などを簡単に思いつきますが。
 この物語をどう思うと誰かに聞けば。

 「あなたはその物語で何をしたいの?」と必ず聞かれます。
 「僕は私はこの物語で○○を読者に伝えたい、もしくは、この物語は三ツ矢サイダーが一番面白い」
 そこで、「そうだね面白いかもしれないね」と言われれば合格になります。

 もし女の子が可愛く書ける作者がいたとしたら即答します。
 可愛い女の子が書きたいから小説を書くと。
 この素直さと情熱は作品の強度に直結します。

 後は作品名=三ツ矢サイダー、と読者が気づくように自分の書きたいジャンルでそれを表現していきます。

 サイダーを活かすためにどんな主人公がいいのか。
 この文章で本当にサイダーの魅力が伝わるのか。
 世界観をプロットにまとめていくうちに。これしかないという、ストーリーかキャラか設定などが見つかってきます。
 後はその発想をヒントにして仕掛けを作り。書き始めます。

 これらは新人賞に応募する小説の場合であって、連載小説での設定なら全体的な技量を高めていくとしか。

あめ玉コーラ味さんの意見

 私は「逆を突く」ことを考えながら書いています。
 つまり「こう書いたらみんなこう思うだろうな」というシチュエーションがあったらその反対を書いてみる。
 たとえば勇者と魔王が出てきたら普通は勇者が正義の味方で魔王が悪者。なら魔王を正義の味方にしてみようという発想が生まれる。
 このネタもだいぶ使い古されている感はありますが、私の発想方法のイメージはこんな感じです。

Smanさんの意見

 思考方法には、垂直思考と水平思考があります。
 垂直思考は、一言で表せば論理的思考のことで、一つの事柄を掘り下げたり積み上げたりしていくような縦の思考です。
 これは論理的と現したように、とても理にかなった答えを導き出すことができるもので、説得力のある文章や設定などを思いつく際に必要なものです。
 といっても、文字書きには日頃から馴染みのある思考方法でしょう。

 対して水平思考というのは、横の思考です。
 パッと思いつくアイディアというのがコレで、斬新だったり奇抜だったりします。
 一言で表せば、論理的ではない発想、でしょうか。
 比喩表現なんかも水平思考にあたると思うのですが、うまく説明できないので情けないながらもWikipediaから引っ張ってくると、水平思考には「ランダム発想法」「刺激的発想法」「挑戦的発想法」「概念拡散発想法」「反証的発想法」などがあるそうです。

 ランダム発想法はランダムに選び出した単語を結びつけたりして新しい発想を得る方法で、ランダムでないにしても、本田さんが良いと思った単語を無作為に選び膨らませてゆけば新しい発想を思いつくでしょう。
 膨らませたらあとは余計な部分を排除し、単純化していって、すると「ひみつ道具を起点にいろいろな方向へ話を転ばせる」といった具合にまとまりを見せることと思います。
 他の発想法でも同じですが、膨らませたあとに単純化することが重要じゃないかなと思います。

 「水平思考」と検索をかければすぐに出てくる例題ですが、

 多額の借金をした父親と娘に、醜い金貸しがチャンスを与える。
 地面から白い石と黒い石を拾い上げ、袋に入れてこう言った。
 「白い石を引いたら借金は帳消しだが、黒い石を引いたら娘は嫁にもらう」
 ところが、袋の中には黒い石しか入れられていない。金貸しがイカサマをする瞬間を娘は見てしまった。
 娘は醜い金貸しの嫁になどなりたくないのだが、どのように回避するか。

 垂直思考の場合、石を引くのを拒否するとか、インチキを暴くとか、そういう答えしか出てこない。
 水平思考をすると、娘は袋から石を取るが、色を確認する前に地面に落として「袋に残ってる色じゃないほうを引いた」と答えることができる。

 ……まあ、ぶっちゃけなぞなぞクイズみたいなものですね。
 上り坂と下り坂のどちらが多いか? みたいな。

 論理的な答えを導き出す垂直思考はとても大事なのですが、「既視感」という言葉に、垂直思考と水平思考の違いが頭に浮かびました。
 垂直思考だと、縦の思考だから、どうしても元ネタ(発想の起点になったネタという意味で)のイメージから抜け出せないんですよね。
 エレベータで一階から二階に行っても同じビルにいることは変わらないわけで、既視感を拭いたいなら横に移動しなきゃいけない。
 そういう意味で、水平思考なんてどうでしょう? と勧めてみます。

本田さんの返信(質問者)

 作品を通して何を書きたいのか、というのはとても重要ですよね。私もたこやきさんに似た発想方法かもしれません。自分が形にしたいテーマがあってそこから出発していきます。そしてそのテーマが活きるような設定や世界観を構築します。
 しかしここまで深くは考えておりませんでした。私にとってテーマとは単なる出発点でしかなく、それから先がどうすれば良いのかいまいちわからない、このような感じでなかなか前に進めなかったように思います。
 参考にさせて頂きます。回答ありがとうございました。

トロうまさんの意見

 ドラえもんの設定は、のび太という主人公のキャラと一体だと思います。
 設定は、キャラと一体となってドラマ(読者の感情を激しく揺さぶる状態)を生み出します。

 ドラえもんの話というのは、たとえば、ダメキャラののび太が子供らしい見栄やわがままから問題を引き起こして弱り果て、ドラえもんに泣きつきます。ドラえもんが取り出した不思議な道具によって問題は解決し、のび太は得意と歓びの絶頂に立ちます。しかし過剰な使い方をしてしまう結果、事態はいっそう混乱し、のび太とドラえもんは窮地に追い込まれてしまいます。
 このように、困って苦しい→喜び爆発→どん底、といった大きなドラマが発生します。

 しかし、もしこの設定で、主人公がのび太ではなくて、アンパンマンだったらどうでしょう? たぶん正義のために道具を使ってみんなが幸せになるでしょう。何もドラマは生まれません。
 もしも、ちびまるこが主人公だったらどうでしょう? 世間体やまわりの目を気にしながら、先のことも考えつつささやかに道具を使うのではないでしょうか。それはそれで面白いだろうと思いますが、ドラえもんの時のようなドタバタしたドラマは生まれないと思います。

 ほとんどの場合、設定自体は使い古された、どこかで見たことがあるものになりがちです。しかし、問題はそこではないと思います。設定とキャラの組み合わせ方が問題だと思うのです。設定が100通りで、どれも見たことがあるとしても、キャラの100通りに掛け合わせれば、10000通りになります。見たこともない設定の使い方はその中にあると思います。

壁の民さんの意見

 初めまして、壁です。
 設定が陳腐になりがち、ということでしたが、私の発想法を紹介いたします。
 一言で言えば、「どうでもいい事を突き詰める」ということ。
 日々生きていると、フワフワした疑問が浮かんできますよね? 例えば「死後の世界ってどんなのだろう」とか「人間の脳はコンピュータに出来ないのかな」とか「自分は何故自分なんだろう」とか。誰しも思い浮かべたことのあるような身近な疑問を、自らの視点で考察し「その考察が正しい世界」を作り上げてしまえばいいのです。誰でも一度は思った事のある疑問なのですから、その世界観にすんなりと馴染めるというのもメリットの一つです。
 秀逸な設定は分かりやすい、でも奥が深いというのが特徴です。この発想法でプロの真似事程度は出来るのではないでしょうか。