ライトノベル作法研究所
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ライトノベル歴史年表2000~2009年

2000年

影響を与えた周辺事情

・巨大匿名掲示板サイト『2ちゃんねる』に、「ライトノベル・雑誌・エンターティメント板」が開設される。
 ネット上でライトノベルについて話し合う場が生まれるようになり、『ライトノベル』という名称が浸透していくようになる。

代表作品

・時雨沢恵一の、『キノの旅』が電撃文庫より刊行される。
 シリーズ累計で600万部を超えるヒット作。
 少女キノがしゃべる二輪車のエルメスと様々な国を旅するという短編集、1話完結型の異世界ファンタジーである。
 萌えや冒険といった要素は含まず、静かに淡々と進んでいく寓話的な物語。ライトノベルと言うより「大人の読む童話」という表現がピッタリする。
 ライトノベルの世界では、『キノの旅』、『ソードアート・オンライン』(2002年執筆)といった、生き残りをかけたサヴァイブ的な物語が、2000年代前半に花開き、それぞれが2010年代に至るまで人気を博している。これは何も決断しないでボケッと過ごしていると、他者から殺されてしまうかも知れないという2000年代のリアリティを反映していると考えられる。
 ただ、漫画や一般文芸とは異なり、ライトノベルでは残酷描写は忌避される傾向があり、サヴァイヴ系の物語より明るく楽しい日常系の物語がメインストリームになっていく。

レーベルの創刊

・集英社が、『スーパーダッシュ文庫』を創刊。
 学園物やギャグをメインとしたレーベルとして生まれた。2001年にスーパーファンタジー文庫が廃刊になると、同レーベルの路線だったファンタジーやSFも取り込む。

・徳間書店が『徳間デュアル文庫』を創刊。
 SF系のライトノベルレーベル。一般文芸小説として再版される作品もあり、ターゲット年齢層は中高生よりやや高めの一般文芸よりのレーベルである。

・富士見書房が『富士見ミステリー文庫』を創刊。(~2009年)
 同時に新人発掘の場である富士見ヤングミステリー大賞をスタートする。
 既存のミステリー小説ではなく、キャラクターと恋愛要素を売りにしたライトなミステリーを刊行していた。
 『GOSICK』の桜庭一樹といった著名な作家を育てる。
 米澤穂信が2001年にデビュー作となる『氷菓』を第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門に送った理由は「ライトノベルとミステリーの組み合わせに未来を感じたから」だった。
 しかし、ミステリーとライトノベルの相性が悪く、8年半ほどで廃刊となる。ミステリーの重い、難解、展開が遅い作風が、ラノベ読者の求める「楽しい」「爽快感」「ネタになる」に合致しなかったためだと考えられる。
 その後、ライトノベルとミステリーの組み合わせ的な作品は、対象年齢をラノベ読者より高めに設定した一般文芸とライトノベルの橋渡し的立ち位置である、『謎解きはディナーのあとで』(2010年9月2日刊行)や『ビブリア古書堂の事件手帖』(2011年3月25日)がヒットする。

同人業界の動向

・奈須きのこの同人PCノベルゲーム、『月姫』が発売される。
 同人ゲームとして異例の大ヒットとなり、商業作品としてメディアミックスされる。
 細かい設定と独自の世界観、キャラクター性で爆発的ブームとなる。吸血鬼物として、後の作品に大きな影響を与えた。
 また主人公は、対象の死が形有る情報として見え、これを断ち切ることでどんな怪物でも殺せる『直死の魔眼』という異能力を持っていた。この設定が人気を博し、『灼眼のシャナ』『とある魔術の禁書目録』を始めとする現代学園異能物と呼ばれる作品群がライトノベルで流行した。
 奈須きのこの作風は、菊地秀行(魔界都市〈新宿〉)、夢枕獏(キマイラ・吼)といった80年代の伝奇小説に源流を求めることができる。

一般文芸への越境

・電撃文庫の看板作家となっていた上遠野浩平が、講談社ノベルスより事件シリーズ第一弾『殺竜事件』を刊行する。
 ファンタジーとミステリーが融合した作品。ライトノベルと一般文芸の中間のような存在である。
 ファンタジー要素の入った一般文芸小説は、大正、昭和の初めに芥川龍之介が『藪の中』(幽霊が事件について語る)、『河童』(異世界迷い込み)といった作品を残しており、そういったものの延長線上にあると位置づけられる。

ネット小説の書籍化の始り

・梶本雄介が株式会社『アルファポリス』を設立する。
 ネット小説の登録・閲覧プラットフォームサイト「アルファポリス」を運営し、同サイトに登録された人気作を書籍化していく。
 2006年11月にライトノベル系レーベル、アルファポリス文庫を創刊し、シリーズ累計100万部、吉野匠の『レイン』(2005年10月刊行)や累計50万部、柳内たくみの『ゲート』(2010年4月刊行)といったヒット作を生み出す。両者とも、ネット上に掲載されていた作品。
 2010年11月には中・高校生から20代の女性を対象にした恋愛小説レーベル『エタニティ文庫』も創刊する。
 インターネットの発展と共に、ネット小説が書籍化されていく流れができる。

東池袋、乙女ロードの誕生

・5~6月、女性向け新刊同人誌専門店KAC SHOPと、女性向けの球体関節人形スーパードルフィーを扱うボークスが東池袋にオープンする。秋には、アニメグッズ、同人誌等を取り扱っているK-BOOKSから男性向け同人誌がなくなり、女性向けオンリーとなった。これを契機に、東池袋の漫画、アニメ専門店が女性向けに偏り始め、腐女子の聖地『乙女ロード』と呼ばれるようになった。
 この背景には、男性オタク向け商品が秋葉原に集中することによって、これらに詳しい店員を秋葉原に派遣せざるをえなくなり、結果、男性向け商品を取り扱うのが難しくなって、女性向けにならざるを得なかったこと。元々、池袋には女性客が多かったことが挙げられる。

2001年 萌えの重視

代表作品

・築地俊彦の『まぶらほ』が富士見ファンタジア文庫より刊行される。
 魔法が存在するパラレルワールドの日本で、魔法使いの養成学校の劣等生である主人公の元に、三人の美少女が押しかけてくる。主人公は実は、高名な魔法使いの血を引いており、その遺伝子を手に入れるため嫁の座を争うというハチャメチャラブコメディ。萌えを全面に押し出したハーレム物だった。
 この頃から、萌えを重視する風潮が生まれる。

ラノベ界の動向

・美少女ゲーム誌『パソコンパラダイス』で単発の仕事をしていたイラストレーター・駒都えーじが『まぶらほ』でライトノベルのイラストレーターとしてデビューする。
 これまでのアニメ絵ではなく、CGによって作成されたイラストが表紙として使われた。しかし、CGによるイラストはコストがかかるためかその後、なかなか定着しなかった(2000年代半ば頃から一般化しだす)。
 駒都えーじの絵柄の特徴は、美少女が下着が見えてもおかしくないほどスカートを翻していながら、下着は描かないというもの。通称、『ぱんつはいてない』。
 その画力は非常に高く、『まぶらほ』の著者、築地俊彦は、まぼらほがヒットしたのは駒都えーじ氏の力が大きい、と作品の後書きで語っている。
 以来、「ライトノベルの第一巻は表紙イラストで売れて、二巻目からは中身で売れる」などと言われるようになる。
 彼の登場以後、ライトノベルの表紙は、購読層を刺激するために、どんどん萌えを重視したものとなり、2000年代後半になると、一部のファンからラノベが買いづらくなったと、不評を買うほどになる。

新人賞

・集英社が、『スーパーダッシュ小説新人賞』を開始。受賞作はスーパーダッシュ文庫で刊行される。
 第一回の大賞は、神代明の『世界征服物語~ユマの大冒険~』(2002年刊行)
 女子高生の由真が本の世界に入り込んで、魔神(わるもの)を復活させるために奔走するというもの。彼女は勇者ではなく、魔神の代理人。90年代のファンタジーライトノベルの王道を崩した作品。

レーベルの創刊

・角川書店が『角川ビーンズ文庫』を創刊。
 ファンタジー系の少女向けレーベル。『─物語の扉、異世界への鍵―』をキャッチフレーズにスタート。

オタク関連業界の動向

メイド喫茶誕生。
 秋葉原で初の常設コスプレ喫茶『カフェ・ド・コスパ』が、キャラクターコンテンツ製作会社『ブロッコリー』からコスプレ衣装製作会社『コスパ』に運営権が譲渡され、ウェイトレスの制服をメイド服に統一した日本初のメイド喫茶『CURE MAID CAFE(キュアメイドカフェ)』へとリニューアルされた。
 『カフェ・ド・コスパ』は1996年に発売された人気18禁PC美少女ゲーム『Piaキャロットへようこそ!!』の舞台となったレストランを模した喫茶店「Piaキャロレストラン」が始まり。メイド萌えの原点は、1993年に発売された18禁PC美少女ゲーム『禁断の血族』とされる。メイド萌えは、その後、徐々に勢力を拡大し、ライトノベルにおいても『フルメタル・パニック!』(1998年刊行)、『バカとテストと召喚獣』(2007年刊行)『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(2008年)といった人気作品で美少女キャラクターがメイドの格好をさせられている。

影響を与えた時代背景

・9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が発生する。通称「9・11」。
 テロ組織がハイジャックした航空機をアメリカの高層ビルに突っ込ませ、崩壊させるという、ハリウッド映画さながらの事件。これによって、アメリカは出口の見えないテロとの戦争に邁進することになり、日本もその支援をすることになった。国家とテロ組織が戦う新しい戦争の到来。

2002年

レーベルの創刊

・メディアファクトリーが『MF文庫J』を創刊。
 海外の翻訳作品を扱ってきた「MF文庫」のサブレーベルとして作られた。
 当初は、アニメやゲームのノベライズ作品を取り扱っていたが、2004年の『ゼロの使い魔』のヒット以降、オリジナル小説系のレーベルとなる。
 時代を読んだ『ラブコメ』と『萌え』を全面に押し出したレーベルカラーで人気を博し、大きなシェアを誇るようになる。
 2011年に角川グループの傘下となった。

代表作品

・西尾維新の『戯言シリーズ』第一弾「クビキリサイクル」が講談社ノベルスより刊行される。
 第23回メフィスト賞受賞作。推理小説家、清涼院流水の推薦がついた。
 『萌え』と『ミステリー』の融和を目指した作品だが、シリーズを追う毎にバトル的な要素が増えていく。
 巧みな言葉遣いに混じるジョークと、個性溢れる魅力的なキャラクターで人気を博した。

・高橋弥七郎の『灼眼のシャナ』が電撃文庫より刊行される。シリーズ累計850万部を越すヒット作。
 平凡な生活を送っていた男子高校生が、異世界の怪物と、それを滅ぼす美少女シャナとの戦いに巻き込まれる。
 日常と非日常を対比させた作品。萌え要素で注目されるが、冒頭で主人公が怪物に食われて死ぬなど、世界観はハードなものだった。

・滝本竜彦の『NHKにようこそ!』が角川書店より刊行される。
 元々、Webサイト「Boiled Eggs Online」にて、2001年1月29日から4月16日まで連載されていたもので、後に漫画化、アニメ化された。
 ひきこもり歴4年の主人公、佐藤達広が自分の境遇は、すべて悪の組織NHK(日本引きこもり協会)の仕業であると妄想していたところ、ヤンデレ美少女、中原岬が現れ、彼を立ち直らせようとプロジェクトを開始する。セカイ系に分類される作品。著者の滝本竜彦はひきこもりだった経験があり、これを主人公の設定に反映させた。
 若者のひきこもりは1990年代後半から社会問題化しだし、精神科医の斎藤環が1998年に『社会的ひきこもり』という新書を発表し、世間の注目を集めるようになっていた。こういった時代背景もあってヒットした作品と言える。

同人業界の動向

・2002年、同人サークル「07thExpantion」が『ひぐらしのなく頃に』を世に出す。昔ながらの村社会の様相を残した村落を舞台に連続怪死・失踪事件の顛末を描いた連作式ミステリーの第1作目であり、主人公をとりまくヒロインたちの豹変ぶりやサウンドノベル独特の視点や音響などを生かして読者の恐怖を煽り、ミステリーではなく実はホラーなのではと思わせる工夫がなされていた。
2013/04/12 by月冴ゆ

実学系ライトノベルの先駆け

・2002年、会計士である山田真哉氏の『女子大生会計士の事件簿』が単行本として出版された。現役の大学生にして法人専門の会計士・藤原萌実が数字の裏に隠された会社の不正を暴いていくもの。元は公認会計士資格等の予備校TACのフリーペーパーで連載され、著者自身が自費出版で出した。文庫化の際多くの出版社からオファーがあったものの、サブカルチャーに造詣が深い山田氏の希望で角川書店に決定した。
 同氏はその後「さおだけやはなぜ潰れないのか?」など、身近な場面から会計について学ぶノンフィクションを数多く書いている。
 「狼と香辛料」や「もしドラ」など実学を教えてくれるライトノベルの先駆けと言えるかもしれない。
2013/04/12 by月冴ゆ

ゲーム業界の動向

・2002年、九州のゲーム会社サイバーコネクトツーより、オンラインゲームの世界を舞台にしたアクションRPG『.hackVol.1感染拡大』が発売された。
 ごく普通の中学生の少年が友人に誘われ、オンラインゲーム「TheWorld」を初めてプレイしたところ、謎のNPCアウラと遭遇し、イレギュラーに力を手に入れてしまう。主人公はキャラクター「カイト」をプレイしながら、正体不明の敵に襲われ意識不明になった友人を救うため、多くの仲間を作って「TheWorld」の謎を解いていく。
 本作品は四部作のシリーズでできており、三か月おきに発売されるという連続ドラマ的な構成になっていた。ゲームの発売前後には前日譚となるアニメが放送され、数年後の物語を描いた漫画も連載、専門雑誌も出版され、ゲームの続編にあたる二期「.hack/G.U.」や、三期「.hack/Link」も制作され、あらゆる媒体で物語が展開されるクロスメディアの始まりだったのかもしれない。
2013/04/12 by月冴ゆ

韓国にライトノベルが輸出される

韓国の出版社、大元 C.I.(株)がNTノベルというレーベルで、日本のラノベの韓国語版を刊行する。
 『フルメタル・パニック!』『魔術士オーフェン』「『デルフィニア戦記』『キノの旅』が、この年、韓国で売られたが、当時、韓国では韓国のファンタジー小説の人気が高く、あまり注目されなかった。
 しかし、2006年に『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズが韓国内で紹介されると、大ヒットとなり、ラノベ人気が一気に高まる。これを受けてか、2006年からは韓国人作家による韓国産のラノベも作られるようになっていった。
 韓国のラノベ人気の背景として、韓国では政府の規制や著作権侵害の問題で、漫画やアニメ産業が成長しておらず、日本の漫画やアニメを輸入して、日本のオタク文化に親しんでいたたためだと考えられる。

影響を与えた周辺事情

ケータイ小説ブームの到来。
 Yoshiの個人サイト「ザブン」上で連載されていたケータイ小説『Deep Love』(ディープ ラブ)がスターツ出版から刊行される。シリーズ累計270万部のヒット作となる。

2003年

代表作品

・谷川流の『涼宮ハルヒシリーズ』第一弾「涼宮ハルヒの憂鬱」がスニーカー文庫より刊行される。
 第8回スニーカー大賞〈大賞〉受賞作。世界15カ国で発売され、シリーズ累計1640万部以上を売り上げた2000年代の記録的ヒット作となる。刊行当初はあまり注目されていなかったが徐々に人気が出始め、2006年4月にテレビアニメ化されたのを機に大ブレイクした。
 女子高生の涼宮ハルヒが、主人公を巻き込んで、宇宙人、未来人、超能力者を探し出して一緒に遊ぶためのクラブSOS団を作って、お祭り騒ぎの毎日を過ごす。ハルヒ自身は決して気づかないのだがSOS団のメンバーは、宇宙人、未来人、超能力者で、みんな彼女の持つ特殊な能力を調査、監視するために集まっていた。SFと哲学的要素を含み、日常と非日常の対比を描く。主人公(語り部)キョンのユーモア性のある一人称も魅力だった。
 また、ハルヒシリーズのヒットにより、ヒロインが変な部活を作って主人公をそこに巻き込む、というのがラノベの王道の一つとなる。
 「涼宮ハルヒの憂鬱」は中国でも発売されてヒットを飛ばし、2000年代後半より、中国でライトノベルが広がっていくきっかけとなった。中国ではラノベは「軽小説」と呼ばれる。、

・成田良吾の『バッカーノ!』が電撃文庫より刊行される。
 2002年第9回電撃ゲーム小説大賞にて金賞を獲得、翌年2003年にシリーズがスタートした。
 1930年代の禁酒法が施行されマフィアが横行していた時代という、他の文芸作品ではあまり見られない時代を背景に、飲んだ者を不老不死にする酒とそれを生み出した錬金術師、ホムンクルス、カップル強盗、テロリストなど一癖二癖ある登場人物たちが織りなす群像劇である。
 同氏もまた個性的なキャラクターが入り乱れる群像劇やB級映画を好み、作風にそれを取り入れているらしい。
 同じ世界観を持つ「デュラララ!」「ヴァンプ」もシリーズとして続いており、コミック・映像化もされた。
 また、成田氏はFate/StayNightやBLEACH、「とある科学の超電磁砲」などのスピンオフも手掛けている。
2013/04/12 by月冴ゆ

・浅井ラボの『されど罪人は竜と踊る』がスニーカー文庫より刊行される。第7回スニーカー大賞受賞作。
 化学の専門用語を駆使した咒式(魔法)の描写、設定と、キャラクター同士の毒舌の応酬で話題を呼んだ。
 また、ハードな残虐描写、性表現、鬱展開という、中高生向けとはとても言えないようなストーリーが特徴。『暗黒ライトノベルの元祖』などとも呼ばれる。
 2008年からガガガ文庫に発表の舞台を移す。

・おかゆまさきの『撲殺天使ドクロちゃん』が電撃文庫より刊行される。
 机の引き出しから突然現れた天使のドクロちゃんが主人公を撲殺し、「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」という擬音と共に生き返らせるというハードなギャグが特徴。当初は、編集部から問題作とされていたが、電撃hpに短編として掲載したところ、読者投票で人気を博し、文庫本化された。
 本来は救済者となるドクロちゃんが主人公に危害を加えるという、王道を崩したドラえもんのパロディである。

一般文芸への越境

・冲方丁の『マルドゥック・スクランブル』がハヤカワ文庫JAより刊行される。第24回日本SF大賞受賞作品。
 少女娼婦バロットは、賭博師であるシェルに犯罪に利用されて殺されそうになる。 重傷を負ったバロットは、マルドゥック・スクランブル09法によって禁じられた科学技術による肉体改造によって救われた。これによって特殊能力を手に入れた彼女は、自分を助けてくれたウフコックやドクターと共にシェルの犯罪を追う。
 サイバーパンクな世界観だが、マネーロンダリング、虐待、家庭崩壊など当時の社会問題に直結するテーマを扱っている。ライトノベルとしては重い内容。
 このため、出版に際し、冲方丁はライトノベルレーベル数社にこの作品を持ち込んだものの相手にされず、SFの老舗、早川書房から刊行されることになった。

ラノベ関連書籍

初のライトノベル系の小説ハウツー本、大塚英志の『キャラクター小説の作り方』が刊行される。
 この書籍の中では、まだライトノベルという言葉は使われていなかった。

雑誌の創刊

・講談社が不定期刊行の文芸雑誌『ファウスト』を創刊。キャッチコピーは「闘うイラストーリー・ノベルスマガジン」。
 メフィスト賞受賞者の舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新の三人を中心にスタートする。批評家の東浩紀、評論家の斎藤環も起用される。さらに乙一、滝本竜彦、北山猛邦といった書き手や、美少女ゲーム業界で高い評価を受けたシナリオライター、奈須きのこ、竜騎士07も参加し、本格ミステリ、ライトノベル、美少女ゲーム、評論界の人気若手作家たちによる総合雑誌として、人気を博した。ライトノベル作家の上遠野浩平がファウストの設立に大きな影響を与えたという。
 当初からイラストを積極的に掲載したことにより、ライトノベル雑誌の一つとされることもある。2008年のVol.7では、SF界の大御所、筒井康隆が「21世紀の時をかける少女」のキャッチコピーがついた『ビアンカ・オーバースタディ』というライトノベルを執筆している。
 ライトノベルと一般文芸の橋渡し的な存在となり、ライトノベルブームの要因の一つとなったとされる。

漫画業界の動向

・せがわまさきの漫画『バジリスク ~甲賀忍法帖~』が『ヤングマガジンアッパーズ』(講談社)で2003年から2004年まで連載される。2005年にアニメ化。
 原作は山田風太郎が「面白倶楽部」(光文社)に1958年12月号から翌11月号まで連載し、1959年に単行本化された小説『甲賀忍法帖』。徳川家の三代将軍を決める跡目争いを伊賀と甲賀の忍者10人同士の対決で決める。伊賀の頭の孫娘、朧と、甲賀の首領の孫、弦之介は恋仲であり、結婚の話も持ち上がっていたが、お互いを宿敵として戦わなければならない状況に追い込まれる。
 作家の夢枕獏は「ストーリー上にチーム対決の要素を盛り込んだのは山田風太郎が初めてであり、山田風太郎という作家が漫画界に与えた影響は計り知れない」と評している。
 それだけでなく、登場する忍者の技が、異能力とも呼ぶべき領域に達しており、能力者同士の相性で勝敗が決定する能力バトル物の元祖とも言える。例えば、朧は、忍者としての体術などは一切身につけていないが、あらゆる忍法を見るだけで無効化する「破幻の瞳」を生まれつき持っている。弦之介は、彼に害意を持って襲ってきた者の技を相手に返す「瞳術」を持っている。このため、作中では弦之介を唯一倒しうるのは朧だけとされた。しかし、実際には、弦之介に恋心を抱く陽炎の吐く毒を弦之介は受けており、無敵と思われた瞳術の意外な弱点が表現されている。
 原作は時代小説であるが、このチームバトルと能力バトルの面白さは2000年代にも十分に通用する物であり、第28回講談社漫画賞一般部門を受賞している。

2004年 ライトノベルブームの到来

代表作品

・4月、鎌池和馬の『とある魔術の禁書目録』(とあるまじゅつのインデックス)が電撃文庫より刊行される。累計発行部数1340万部を超える大ヒット作。
 SFとファンタジー要素を学園都市を舞台に詰め込んだ、熱血主人公が活躍する少年漫画的なバトルアクション物。主人公は最低ランクの超能力者であったが、右手には「幻想殺し(イマジンブレイカー)」という、あらゆる超能力と魔術の力を打ち消す力が宿っていた。「その幻想をぶち殺す」というセリフが有名。しかし、彼の元に空から美少女シスターが降ってきて、一緒に暮らし始めるという幻想だけは、決して消せない。
 SFとファンタジーを融合させた作品はこれまでもあったが、この作品はそれらの集大成、一つの完成形と言える。

・ヤマグチノボルの『ゼロの使い魔』がMF文庫Jより刊行される。シリーズ累計450万部のヒット作。
 主人公の少年サイトが異世界に使い魔として召喚される。彼を呼び出しのは魔法学校の劣等生である美少女ルイズだった。彼女に犬と呼ばれて召し使い同然にこき使われるサイトは、やがて世界を揺るがす戦いや冒険に巻き込まれていくことになる。
 90年代のファンタジーラノベと比べて、世界観や魔法の設定はわかりやすさを重視して作られており、ラブコメと軽快に進むストーリーが魅力的。主人公は女の子たちから、モテモテである。

・奈須きのこの『空の境界』が、講談社ノベルスより刊行される。70万部以上を超えるヒットなる。
 もともとは1998年から同人サークルのホームページ上で公開されていたWeb小説だった。その後、同人誌としてコミケで売られ人気となり、講談社の編集者の目に留まった。
 同人、Web小説から商業作品化され、ヒット作となった初の小説作品。
 『月姫』『Fate/stay night』とは、世界観を共有している。
 また、これ以降、美少女ゲームシナリオライターは、即戦力のライトノベル作家として注目されるようになり、『田中ロミオ』『虚淵玄』といった有名シナリオライターがデビューしていく。

・五十嵐雄策の『乃木坂春香の秘密』が電撃文庫より刊行される。
 美少女のヒロインがアキバ系オタクで、これを必死に隠しているという設定で人気を博した。
 この設定は、後に『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』でも使われ、ヒットするヒロイン像の一つとなった。

ラノベ関連書籍情

初のライトベル解説書『ライトノベル完全読本』が日経BP社より刊行される。
 これによって、ライトノベルという名称が世間的に定着する。
 以後、ライトノベル解説書やハウツー本が続々と刊行されるようになり、ライトノベルブームを加速していく。

・宝島社がライトノベルガイドブック『このライトノベルがすごい!』2005年版を12月に刊行する。
 ライトノベルの人気ランキングで注目を集めた。
 シリーズ化され、毎年一回、12月に刊行されるようになる。

レーベルの創刊

・学研が『メガミ文庫』を創刊。
 「読んで萌えろ!」をキャッチコピーとし、アニメのノベライズ作品を取り扱うレーベルとしてスタートする。
 2008年にライトノベル新人賞『メガミノベル大賞』を開始し、オリジナル小説の刊行に力を入れていく。
 しかし、メガミノベル大賞は2009年の第二回を最後に行なわれていない(2012年現在)。

・マッグガーデンが『マッグガーデンノベルス(MAG-Garden NOVELS)』を創刊。
 新書系のライトノベルレーベル。
 主に『月刊コミックブレイド』の漫画作品のノベライズを行なう。

ラノベ業界の動向

・電撃文庫を創刊したメディアワークス代表取締役社長・佐藤辰男が書籍『ライトノベル完全読本』のインタビューで、「最近は10代の女の子が大量に入ってきている印象がある」と、電撃文庫で10代の女性読者が増えている状況を語る。

・スニーカー文庫で人気作『トリニティ・ブラッド』シリーズを刊行していた吉田直が、7月15日に肺梗塞のために死去する。「人気が落ちれば即打ち切り」という厳しい条件の中での連載だったため、過労死説が囁かれた。
 ライトノベル作家は激務で、膨大な仕事量を抱える人気作家が体調を崩してしまうことは珍しくない。

漫画業界の動向

・ゲーム雑誌『コンプティーク』に美水かがみによる四コマ漫画『らき☆すた』が掲載される。
 オタクな女子高生の緩い日常を描いたギャグ漫画。爆発的な人気を博し、舞台になった神社に『聖地巡礼』するファンが押し寄せ、問題化するほどだった。
 美少女たちがオタクトークをして楽しく過ごす、という作風は、ライトノベルにも影響を与え、『生徒会の一存』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『僕は友達が少ない』といったヒット作を生んだ。
 しかし、この作風は誰にでもマネできるため、2010年代に入ると、漫画、ライトノベルでは飽和状態になっていった。
(2007年9月にノベライズ『らき☆すた殺人事件』が角川スニーカー文庫より刊行されている)

美少女ゲーム業界の動向

・奈須きのこがシナリオを担当したPCノベルゲーム『Fate/stay night』が発売される。
 聖杯を手に入れるためのバトルロワイヤルを、美少女の使い魔を主人公がサポートしながら戦い抜くという内容。爆発的ヒットとなり、メディアミックスされる。
 この時期、『灼眼のシャナ』『凉宮ハルヒの憂鬱』、漫画『ローゼンメイデン』(2003年単行本刊行)というように、女の子を戦わせて、主人公の少年はそれを補佐するというような構造の物語が人気となっていた。
 この作品の主人公は、最初は無力で女の子の足を引っ張っていたが、最終的には一対一でラスボスを倒すレベルにまで成長するのが、斬新だった。

出版業界の動向

・巨大匿名掲示板サイト『2ちゃんねる』の書き込みをまとめた、『電車男』が新潮社から刊行される。100万部越えるベストセラー、漫画化、映画化、テレビドラマ化された。
 アキバ系オタクが電車で酔っ払いに絡まれた女性を助けたことから始まる恋愛ストーリー。特定の作者は存在せず、固定ハンドル『電車男』の恋愛を成就させるために、2ちゃんねるの住人らがアドバイスを書き込み、電車男が恋愛の進展を報告し、さらに助言を求めるという遣り取りで、ストーリーが展開していった。これが5月末以降ネットで爆発的なブームとなり、10月に書籍化に至った。
 コミュニケーション志向性メディアからコンテンツ志向性メディアが生まれた初の例。現実の恋愛にネットでのアドバイスが影響を与えているのは、若者がネットを当たり前の物として享受し、新しい世界観を構築しだした証とも指摘される。
 ただ『電車男』は、オタクを卒業してモテる男になることが正しいというメッセージを孕んでおり、これに反発した本田透が翌年、書籍『電波男』で猛烈に批判している。こういったこともあってか、2ちゃんねるの住人ではなく、一般人に主に支持された。

2005年

レーベルの創刊

・コナミデジタルエンタテインメントが『コナミノベルス(KONAMI NOVELS)』を創刊。
 新書系のライトノベルレーベル。
 ゲーム、アニメ、特撮のノベライズ、オリジナル小説を刊行する。
 「コミックとノベルの融合」を掲げ、挿絵に吹き出しやコマ割りが使われているのが特徴。

ラノベ業界の動向

・オタクWebサイト「しろはた」の管理人・本田透がオタクの恋愛観について語った書籍『電波男』を三才ブックスより刊行する。本書の中で本田透は、現代社会は1980年代から『恋愛資本主義』という思想に毒され、そのカウンターカルチャーとして、『萌え文化』が発達したと述べている。
 恋愛資本主義とは、男性も女性も一生涯、異性にモテるためにお金を消費し続けねばならない仕組みであり、そこから脱落した人間にはオタク、キモメン、ニートと呼ばれて差別される。そこに愛はなく、真実の愛はイデアの体現者である二次元美少女との恋愛にあるんだYO!と喝破した。
 本書の中で、本田透は、「俺は彼女を作るよりもラノベ作家になりたかった」と訴えた。その願望は見事叶い、同年10月スーパーダッシュ文庫から『アストロ!乙女塾!』でライトノベル作家デビューした。
 いつの間にか、ライトノベルと言えば萌え、という状況になってしまったのを象徴する書籍、著者であると言える。

オタク業界の動向

・野村総合研究所が書籍『オタク市場の研究』を東洋経済新報社から刊行する。
 オタク市場は、4100億円もの巨大産業に成長しており、海外市場すらも形成しつつある。日本文化といえば、「わび」「さび」「もえ」という状況になっているのに気づいて、オタク市場に対して、野村総合研究所が試みた初めての真面目なマーケット分析本。それまでオタク市場というのは、ニッチな存在として無視されていた。

2006年

レーベルの創刊

・ソフトバンククリエイティブが『GA文庫』を創刊。
 「超世代アドベンチャー」がキャッチコピー。
 少年向けだけでなく、少女向けに分類されるラノベも刊行する。
 オンライン小説が原作の本を刊行しているのも特徴。

・ホビージャパンが『HJ文庫』を創刊。
 同時に、新人発掘の場として『ノベルジャパン大賞』(2011年からHJ文庫大賞に改名)を開始。
 関連雑誌として『Novel JAPAN』をスタートするのも、2009年3月号で休刊となる。
 創刊からすぐに海外進出したのが特徴で、台湾・東立出版社と独占契約を結ぶ。
 ジュブナイルポルノ出身の作家を多数取り込むなど、エロ萌え路線のレーベルである。

・エンターブレインが『B's-LOG文庫』(ビーズログぶんこ)を創刊。
 少女向けレーベルである。

・竹書房が『ゼータ文庫』を創刊。(~2007年)
 1997年に廃刊となった同社の『ガンマ文庫』とは異なる方針を取り、オリジナル小説オンリーのレーベルだった。
 翌年に廃刊となる。

新人賞

・小学館がライトノベル新人賞『小学館ライトノベル大賞』を設立。
 翌年、創刊する『ガガガ文庫』『ルルル文庫』の新人を発掘するための新人賞だった。

代表作品

・支倉凍砂の『狼と香辛料』が電撃文庫より刊行される。第12回電撃小説大賞の銀賞受賞作品。シリーズ累計発行部数、400万部を超えるヒット作となる。
 行商人を主人公とし、商人同士の駆け引きや経済学が学べる『勉強できるライトノベル』。為替レートがストーリーに大きく絡んできたのには、当時、非常に驚かされた。狼の耳と尻尾を持つ美少女ホロと主人公とのウィットに富んだ会話が魅力的。ホロの名言の数々は、実社会でも応用できる。
 ライトノベルというと、役に立たない暇つぶしの趣味だと思われていたが、萌えを利用して『実学』を教えてくれる物語が初めて登場した。

・野村美月の『“文学少女”シリーズ』第一弾、「“文学少女”と死にたがりの道化」がファミ通文庫より刊行される。
 ひとつの文学小説を物語の中心に据えて、これをなぞるかのようにストーリーが展開していく。第一巻では、太宰治の「人間失格」がテーマに選ばれており、ラノベを読みながら文学について知ることができるようになっている。
 本を愛する生粋の文学少女である天野遠子と主人公が、様々な事件に首を突っ込んで解決していく。

・3月、竹宮 ゆゆこの『とらドラ!』が電撃文庫より刊行される。シリーズ累計発行部数、300万部以上のヒット作。
 ラノベと言えば、想い人と結ばれるのが当たり前だったが、恋が破れる痛みや切なさが描かれているラブコメ作品。榎本秋の書籍『ライトノベル文学論』で少女漫画のストーリー構造を少年向けライトノベルに持ち込んだ作品だと指摘される。
 主人公の高須竜児は、父親譲りの目つきの怖さから不良と勘違いされ、これにコンプレックス抱いているなど、等身大の高校生の悩みが描かれている。こういった設定は、2009年のヒット作、『僕は友達が少ない』に影響を与えたと考えられる。

・雨木シュウスケの『鋼殻のレギオス』が富士見ファンタジア文庫より刊行される。シリーズ累計発行部数、400万部以上のヒット作。
 汚染され生き物が住めなくなった大地を移動する移動都市『レギオス』を舞台とした「学園アクションファンタジー」。終末SF的な世界観に、怪物、精霊といった西洋ファンジー要素と、「剄(けい)」を操る武芸者といった東洋ファンタジー要素を織り交ぜている。
 主人公の少年レイフォンは、かつて武芸者として最高峰の地位にいたが、罪を犯して故郷を追放された。新しい道を探すために学園都市に入学した彼は、仲間を守るために再び武芸者としての力を振るう。
 ストーリーは重いが、ハーレム的学園ラブコメ要素も盛り込まれており、笑える会話の遣り取り、仲間との友情、爽快なバトルもあるという豪華な内容。今までに存在した少年向けラノベの受ける要素をすべて入れて、うまく調理した作品と言える。

影響を与えた周辺事情

ケータイ小説ブームが絶頂を迎える。
 美嘉のケータイ小説『恋空』がスターツ出版より刊行され140万部を超えるベストセラーとなる。
 ケータイ小説ブームは2008年ほどまで続き、他にも数々の書籍が出版されて話題を呼んだ。
 ブーム中は、ライトノベルのライバルだと目されて、顧客の奪い合いになるのではと、ラノベ界から警戒されたが、読者層は本を読む習慣の無かったヤンキー系の10代の少女たちだったため、さほどの影響はなかった。
 1990年代ではオタクは本を読まないものだと出版業界は考えていたが、ライトノベルは広く普及することになった。ケータイ小説もこれと同じで、出版業界から見えていなかった顧客が開拓されたのだと言える。
 ブーム以後、ファンタジー要素のあるケータイ小説も増えてきており、ライトノベルとの垣根が曖昧になっていると指摘される。

2007年

レーベルの創刊

・小学館が『ガガガ文庫』を創刊。少年向け。
 実験的な作風の作品でも取り上げてくれるチャレンジ精神を持ったレーベル。
 新人育成を重視しているとされる。

・小学館が『ルルル文庫』を創刊。ガガガ文庫の姉妹レーベルで、少女向け。
 廃刊となったパレット文庫、キャンバス文庫、スーパークエスト文庫の後継レーベル。

・ハーヴェスト出版が『なごみ文庫』を創刊。
 美少女ゲームの外伝小説を刊行する。「全年齢対象」の文庫。

・学研パブリッシングが『もえぎ文庫ピュアリ』を創刊。
 十代の少女向けのライトなBLと乙女系(少女趣味的な物)の文庫。

・富士見書房がStyle-F(すたいるえふ)を創刊。
 文庫ではなくソフトカバーを媒体としたライトノベルレーベル。イラストはなく、対象年齢層はやや高め。
 当初は新人賞も開催される予定だったが、結局開催されなかった。

・芳文社が芳文社KR文庫を創刊。
 同社の萌え四コマ漫画雑誌、まんがタイムきらら系各誌に連載されている漫画のノベライズ作品を刊行する。
 しかし、わずか半年で活動を休止し、2012年4月現在に至るまで、新刊が刊行されていない。

代表作品

・井上堅二の『バカとテストと召喚獣』がファミ通文庫から刊行される。シリーズ累計累計530万部を超えるヒット作。
 テストの点数で召喚獣の強さが決まり、クラス対抗の召喚獣バトルで勝利すると、相手のクラスと『設備が入れ替わる』という斬新な設定で人気を博した。主人公は学園の落ちこぼれが集まるFクラスの劣等生だが、好きな女の子のために最悪な設備を豪華な物に改善しようと、クラスのリーダーである悪友を焚きつけて、優等生たちに戦いを挑んでいく。
 主人公らは勝ち目のない敵に勝つために悪知恵と行動力を駆使する。その様が非常におもしろく、ギャグやユーモアをふんだんに取り入れていて笑いを誘う。珍しいほど笑えるギャグ小説。 

文学賞

・角川グループの系列文庫である電撃、スニーカー、富士見ファンタジア、ファミ通らがライトノベル文学賞、『ライトノベルアワード』(Light Novel Award)を開催。「ラブコメ部門」「学園部門」「アクション部門」「ミステリー部門」「ノベライズ部門」が用意され、読者投票によって大賞が決定された。
 「SF部門」「ファンタジー部門」が無いのが興味深い。

2008年

代表作品

・8月、伏見つかさの『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』が電撃文庫より刊行される。410万部を超えるヒット作となりメディアミックス展開がされる。
 従来の萌え重視の妹物とは異なり、リアリティのある兄妹関係を描く。冷え切った妹との信頼関係の再構築がテーマ。
 女子中学生なのに、妹物のエロゲーが大好きというヒロイン、桐乃のキャラが際立っていた。
 美少女が重度のオタクで、ライトオタクの主人公をどん引きさせるという手法が、この作品でブレイクした。
 また、この作品以後、タイトルに『妹』という単語が入ったり、口語体のタイトルが増えることとなる。
 『この中に1人、妹がいる! 』( 2010/8)、『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』( 2010/12)、『俺が彼女に迫られて、妹が怒ってる?』(2012/2)などなど。

・1月に葵せきなの『生徒会の一存』が富士見ファンタジア文庫より刊行される。
 ハーレム物にギャグパロディを融合させ、メタフィクションの仕掛けを取り入れた作品。読者を飽きさせないコミカルな短編形式が特徴で、疲れている時でも気軽に読めて楽しめる。
 編集部にとっては冒険的な作品だったようだが、予想外のヒットとなる。

・9月に石踏一榮の『ハイスクールD×D』が富士見ファンタジア文庫より刊行される。
 主人公、兵藤一誠はバカでおっぱいが大好きな男子高校生。生まれて初めて彼女ができたと思ったら、その娘は、一誠の身体に宿る危険な神器を排除するために現れた堕天使の刺客だった。殺された一誠は、美少女の悪魔リアス・グレモリーの下僕として蘇り、彼女が部長を務めるオカルト研究部に入って、仲間と共に様々な敵に立ち向かう。
 ライトノベルとしては、かなりきわどいエロが多いが、ストーリーは友情、努力、勝利の王道少年漫画的。一誠は、最強だが欠点や副作用も大きい神器『赤龍帝の籠手』を駆使して、自分よりはるかに強大な敵に立ち向かう。
 この作品以降、ライトノベルのエロ表現(特に挿絵イラスト)が過激になっていく。本書1巻では裸の女の子の挿絵が堂々と描かれており、おそらく、ここまでやっても大丈夫、ということになったのだろう。

著名な作家・一般文芸小説への越境

・桜庭一樹が『私の男』で、第138回直木賞を受賞する。
 ライトノベル出身の作家として、初の直木賞受賞となり話題を集める。
 以後、ライトノベルは一般文芸作家となるための修行の場的な扱いもされるようになり、新聞でもたびたび話題にのぼるようになる。

新人賞

・2月、GA文庫がライトノベル新人賞『GA文庫大賞』を開始。
 プリントアウトした原稿は不要とし、テキストデータの入った記録媒体での応募受付を行った。
 第一回大賞となった逢空万太の『這いよれ! ニャル子さん』がヒットし、同レーベルの代表的な作品となる。
 同時にキーワードに沿った短編小説を募集するGA文庫テーマ大賞が設立されるが、こちらは第一回で終了している。

レーベルの創刊

・ゲーム会社ビジュアルアーツがVA文庫を創刊。
 恋愛ゲームのノベライズを主に行なう。 

・一迅社が一迅社文庫を創刊。
 オリジナル小説が中心だが、漫画やゲーム、アニメのノベライズ作品も刊行する。
 同時にライトノベル新人賞『一迅社文庫大賞』を開始。姉妹レーベルである一迅社アイリス文庫の新人賞も兼ねており、一迅社文庫部門と一迅社文庫アイリス部門の2分門がある。

・一迅社が一迅社アイリス文庫を創刊。
 少女向けライトノベルレーベル。
 オリジナル小説が中心だが、漫画やゲームのノベライズ作品も刊行する。

影響を与えた時代背景

・アップル社製のスマートフォン『iPhone 3G』が7月に日本国内で発売され、スマートフォンが普及していく。
 スマートフォンアプリ、モバゲー(2006年サービス開始)、GREE(2005年サービス開始)といったスマフォやケータイが提供するソーシャルゲーム、ニコニコ動画(2007年サービス開始)といったウェッブサービスが成長し、ライトノベルの競合相手として、漫画やアニメ、ゲームと並ぶ脅威となる。
 また、スマートフォンは2010年初夏より「電子書籍端末」としても注目されるようになった。

2009年

代表作品

・平坂読の『僕は友達が少ない』がMF文庫Jより刊行される。400万部を超えるヒット作。
 人間関係が下手な登場人物たちが、友達を作るための部活を作って、衝突を繰り返しながらも遊ぶという内容。キャッチコピーは、「残念系青春ラブコメ」。若者が人間関係作りで悩んでいる世相を反映した、斬新な作品だった。
 やや下品な下ネタが多いのが特徴。
 これ以後、「残念系青春ラブコメ」に分類される作品が増えることになる。

・川原礫の『ソードアート・オンライン』が電撃文庫より刊行される。230万部を超えるヒット作。
 2002年から著者のWebサイトに連載されていたオンライン小説が書籍化されたもの。著者が『アクセル・ワールド』で2008年に第15回電撃小説大賞の大賞を受賞したため、編集者の目に留まり、商業作品化されることになった。
 近未来のオンラインゲームが舞台。ゲーム中の死が現実の死に繋がるというデスゲームを描いた物語である。

・5月、弓弦イズルの『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』がMF文庫Jより刊行される。135万部を超えるヒット作(第7巻発売時)。
 女性しか操縦できない究極の兵器『IS』を、世界で唯一操縦できる少年、織斑一夏が主人公。彼は女子しかいないIS操縦者育成学校「IS学園」に入学し、そこで超モテモテの生活と、最強の攻撃力を誇るIS操縦者としてバトルの日々を送る、という妄想ド直球の内容。

一般文芸からの越境

・岩崎夏海の『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』が、ダイヤモンド社より刊行される。255万部を超えるベストセラーとなり、実写映画化、アニメ化される。
 ライトノベルを意識した萌えタッチの美少女イラストが表紙の一般文芸小説。中にも豪華なカラーイラストが挿入されている。
 女子高生がドラッカーの経営学の集大成である「マネジメント」を読み、これを高校野球部に応用して、部活を強くし、甲子園を目指すという内容。野球という年配層にも受け入れられる素材と、萌え美少女、経営学の入門書としても読める、ということから幅広い層から支持された。
 この作品をライトノベルとして見る読者もおり、一般文芸からライトノベルへの越境、手法の取り入れが起ったと言える。

レーベルの創刊

・12月、電撃文庫を擁するアスキー・メディアワークス(角川グループ)が、『メディアワークス文庫』を創刊。
 ライトノベルを卒業した人向けの文庫。一般文芸とライトノベルの中間のような作品を刊行する。表紙は萌え成分がほとんどないもののライトノベル的なアニメ風イラストであり、カラーの口絵が1枚挿入されている。同時に、電撃小説大賞では、第16回より同賞の一部門として「メディアワークス文庫賞」が新設される。
 若者の少子化、非婚化の社会状況から、ラノベのメインターゲットである10代の少年少女が少なくなっていくであろうことが予測されること。子供にも貧困が広がっていることなどから(2008年に『子どもの貧困―日本の不公平を考える』といった新書が刊行された)、生き残りをかけて、いち早く20代以上のライトオタク層を取り込んでいこうという戦略を開始したものと考えられる。

新人賞

・宝島社がライトノベル新人賞・『このライトノベルがすごい!』大賞を開始。
 ムック『このライトノベルがすごい!』から生まれた賞である。
 受賞作は、2010年に創刊された『このライトノベルがすごい!文庫』から刊行される。
 ライトノベル関連サイトの運営者を最終選考委員に入れた点が斬新だった。

2000年代の総括

 前半は、『灼眼のシャナ』『凉宮ハルヒの憂鬱』というような日常の中に非日常が入り込んでくる物語が人気を博していました。後半になると『生徒会の一存』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『僕は友達が少ない』というようなファンタジー要素のない日常系の物語が人気となります。
 後者の2作品は妹との絆の再構築、友達を作るための訓練といったごく身近なテーマを題材としており、若者が家族、友人とうまく関係を結べず、悩んでいることを反映しているのだと考えられます。
 また、『ゼロの使い魔』『『バカとテストと召喚獣』『とある魔術の禁書目録』といったファンタジーと学園物をミックスさせた作品がヒットを飛ばしました。 

 ヒット作に言えることは、どれも「楽しさ」「萌え」「家族友人との絆」を売りにしていることです。これらを提供することができれば、特にファンタジー要素など無くても構わないということでしょう。

 2000年代になってからのラノベは、萌えとラブコメ一色に染まって行き、表紙もこれに合わせて、萌えを重視した美少女イラストが使われるようになりました。正直、本屋のラノベコーナーの前を通ると、萌えオーラ全開でいたたまれなくるような状況です。
 一方で、ライトノベル作家であった桜庭一樹さんが直木賞を受賞したり、ラノベ的な表紙を使った一般文芸小説『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』がベストセラーになったりと、ライトノベルは一般文芸との距離も縮めていきます。
 また、『狼と香辛料』のような経済学を教えてくれるラノベも登場し、『読むに値する物』という認識も世間では広まっていきました。 

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