ライトノベル作法研究所
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  4. ギャグはネタで見せずに会話で見せる公開日:2014/02/11

ギャグはネタで見せずに会話で見せる

 会話文におけるギャグ、コメディ表現というものは、

1.ボケ担当(始点)のキャラのセリフ(あるいは行動)
2.ツッコミ担当のキャラによる言動、あるいは地の文章によるツッコミ
3.周りに1、2の影響を受けるキャラが存在する場合は、そのキャラのリアクション

 の繰り替しです。
 例を挙げます。

「あんたの言うベストな行動ってのはなに? 超かわゆい妹の肩を抱き寄せたり、ぴったりと身体をくっつけてスリスリしたり、公共の場で羞恥プレイを強要したりすることを指すわけ?」
「悪意に満ちた言い方をするんじゃない!」
 エロゲーのシチュエーションかよ。
引用『俺の妹がこんなに可愛いわけがない7巻』(2010/11/10刊行)

 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のヒロイン・桐乃が、兄である主人公・京介から受けた行為に対して抗議した場面です。
 お笑いコンビの構図で言えば、桐乃がネタを振るボケ担当で、京介がツッコミ役です。ツッコミ役がネタに対して、否定・スカし・突き返し等を行うことで、一つのお笑いネタを提供します。

 小説においては、文章でしかネタを作ることができません。
 この際、地の文を使って、長々とネタの解説をしたりすると、テンポが阻害され、ネタをいくつも挿入することができなくなります。わかりやすく、しかもテンポよく次々とネタを提供しなくては、読者は冷めてしまうのです。
 そこで、会話によるボケ・ツッコミのセリフ回し、リズムとテンポで笑わせる方式がラノベにおいては良く使われています。
 『バカとテストと召喚獣』( 2007年1月刊行)が多用していた方式なので、ここではバカテス方式と呼ぶことにします。

 また、例に挙げた『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の会話がおもしろいのは、桐乃と京介の持つキャラクター性が出ているからです。
 「超かわゆい妹の肩を抱き寄せたり」と桐乃は、自分のことを「超かわゆい妹」と自称しています。ここに自意識過剰な彼女のキャラクター性が現れており、平然とこんなことを言ってのける可笑しみが生まれています。
 これに対して京介は、言葉でツッコミを入れるだけでなく、「エロゲーのシチュエーションかよ」と内心、ツッコミを入れています。妹の抗議からエロゲーを連想するというシュールさ、またとっさにそんなことを思ってしまう彼の趣味と価値観が垣間見えて笑いを誘います。
 京介はもともと、オタク趣味にはあまり縁が無かったのに、桐乃に強要されて美少女ゲームをやらされた結果、エロゲーオタになってしまったという経緯をたどってきているので、彼の心の変遷を知っている読者にとっては、さらに笑える結果になります。

「まさか、またラブレターを貰ったなんて言わないわよね?」
「美波、言葉に気をつけるんだ。ラブレターという単語に反応して皆が僕に向かってカッターを構えている」
引用『バカとテストと召喚獣3巻』(2007/8/30刊行)

 ラノベ界トップクラスのギャグ小説、『バカとテストと召喚獣』3巻から引用したネタです。
 ここでは、主人公・明久の返しの一言が笑いを生んでいます。また周りのリアクションも笑いを取るのに使っています。
 彼がラブレターを貰ったかも知れないことに対する、周りのクラスメートの異様な反応のシュールさと、嫉妬深い彼らのキャラクター性、そこから生まれる緊張感が笑いの源泉です。キャラクター性は現実にはあり得ないような極端なものの方が、漫画的なスピード感が出て笑いを誘います(ギャグだと理解されやすくなる)。

 バカテスは、このようなネタ振りに対する意表を付くシュールな返しを、作中で何度も繰り返しています。このように、短い会話の中に笑える要素を詰め込み、さらにこれを繰り返すのが、ラノベにおけるギャグの王道です。ネタの数が少ないと、読者に作風やキャラの個性が浸透しきらないうちに作品が終わってしまいます。

 短い会話文によるネタの連発は、読者を飽きさせず、キャラの個性と作風を印象づける効果を持っています。

 また、ギャグやコメディのエピソードを作る際には、「ボケを受け取るツッコミ担当の属性を設定する」のが有効です。
 京介なら、「常識人ぶっているけれど、実はシスコンでオタクな兄」、明久なら、「自分の欲求に忠実すぎるバカ」といったキャラクターに沿った返しを行っています。これを繰り返し行うことで、キャラクターを印象付けるだけでなく、お約束的な鉄板ネタに昇華されていきます。
 ネタの主導権はそれを発信するキャラが握っているわけですが、そのネタを回転させ、作者の思う効果へ打ち返すのは受け手となるツッコミ担当キャラです。受け手がいて初めてネタはネタとして機能し、パワーアップし、加速していきます。

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