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  4. 名探偵コナンの人気の秘密公開日:2012/02/22

名探偵コナンの人気の秘密とは?

 名探偵コナンの人気の秘密とは、『高い貢献と、低い報酬』です。

 日本人はコナンのように、高い能力を持って周囲に貢献しているのに、低い地位に甘んじ、見返りを求めない人間が大好きです。
(参考文献・『お金より名誉のモチベーション論』著者:太田肇 2007/1/4)

 知らない方のために少し解説すると、『名探偵コナン』はアニメや映画にもなっている『週刊少年サンデー』屈指の人気漫画です。
 主人公・江戸川コナンは元々、名探偵の呼び名高い高校生でしたが、謎の犯罪組織の作った毒薬を飲まされた結果、小学生に若返ってしまいます。
 彼は、元の身体に戻るために組織を追いかけますが、行く先々で殺人事件に巻き込まれ、これを独自の捜査で解明します。

 しかし、身体が小学生であるため、推理を披露しても誰も相手にしてくれないことから、保護者である私立探偵・毛利小五郎を薬で眠らせて腹話術的に操り、彼の声音を使って、犯行の全貌を解説します。
 必然的にコナンの手柄は毛利小五郎の物となります。
 毛利小五郎は何もしていないのに、名探偵と評価されるようになっていきますが、コナンは犯行現場をチョロチョロしていると彼に怒鳴られる始末です。

 コナンは事件を解決し、仲間や他人の命を守っているのに、誰からも褒められず何の報酬ももらえません。

 彼の陰徳にうすうすガールフレンドの蘭などは気づいていますが、コナンは決して自分の手柄などとは主張したりせず、その功績を隠します。
 もちろん、これは敵の組織に自分の生存を悟らせないために、ただの子供を演じているという面もありますが、何とも健気で慎ましいです。
 そして、驚くべき事に彼は、この状況を不満ともなんとも思っておらず、事件が起こる度に陰ながら蘭たちを守るために骨を折るのです。
 コナンの周囲にいる人間は、彼を正当に評価して報酬を与えていないけれど、読者はコナンの活躍を知っています。

 そのため、「コナンはがんばっているのにかわいそうだな……せめてオレ(私)だけも応援してやらないとな」という気持ちにさせられ、結果として人気が出るのです。

 逆に嫌われるのは、「高い報酬を得ているのに、低い貢献しかしていない人」です。

 刑事ドラマなどでは、正義感あふれる主人公のヒラの刑事が、彼を邪魔者扱いしながら捜査を推し進める東大卒のキャリア組と張り合い、これを打ち負かして事件を解決するというパターンが好まれます。
 キャリア組は、ヒラの刑事を見下しながら自信満々に行動しますが、彼らの行動が裏目に出て、逆に事件解決が難しくなり、主人公の泥臭い捜査のおかげで、逆転に結びつくという筋書きです。

 主人公のヒラの刑事は『高い貢献と、低い報酬』の人。
 キャリア組は『高い報酬と、低い貢献』の人、という図式です。

 政治家、大企業の重役、キャリア官僚などがドラマに出てくると、たいていあくどい憎まれ役ですが、これは人々の心に、「彼らは不当に高い報酬を得ているのに低い貢献しかしておらず、懲らしめたい」という心理があるためです。
 彼らに対抗する主人公は、報酬や見返りなど求めず、所属組織内で窮地に陥ろうとも正義を貫くという、まったく正反対の人間です。
 こんな人間は現実には、まずいませんが、だからこそフィクションの中では求められるのです。

 人気刑事ドラマ『相棒』(2000年6月~)『踊る大捜査線』(1997年1月~3月放送、その後シリーズ化)なども、このパターンを踏襲しています。

 特に『相棒』の主人公・杉下右京の人物設定は、かなり工夫されています。
 彼は東大法学部を卒業後し、国家公務員採用I種試験に合格して、キャリア組として警察庁に入った超エリートです。
 通常、キャリア組を主人公にすると『高い報酬と、高い貢献』の人になり、また視聴者である庶民からかけ離れた存在になるため、好感を持たれにくいという大きなデメリットがあります。

 しかし、杉下右京は出世に興味が無く、事件の真実解明のために警察組織の利害を度外視した捜査を強行したりするため、上層部から睨まれ、特命係という閑職に追いやられています。
 彼は頭の切れる有能な刑事で、上手く立ち回れば、ライバルである小野田官房長(警視監、警察で上から2番目の地位)と同じくらい出世してもおかしくないのですが、真実を解明することを第一とし、自分が立場上不利になることも平気でドンドンやります。
 ふつうの国家公務員なら、定年まで大過なく勤めることが第一ですが、彼はそんな一般常識とは正反対の人物です。
 やめておけば良いのに、圧力をかけてくる上層部の警告を無視して、警察組織の不正や腐敗を暴きます。
 そんなことをして大丈夫か? と見ているこちらがハラハラします。

 キャリア組なのにヒラの立場にいるというのは、貴種流離譚の変形です。

 これによって、「杉下さんはかわいそう」「俺たち庶民の味方だ!」「正義の人だ!」という好感と共感を得られているのです。

 つまり杉下右京は、『高い貢献』(庶民に対する)と『マイナスの評価』(所属組織内での)という、『高い貢献と、低い報酬』のさらに一歩先を行っている人物なのです。

 警察内部の腐敗を暴くのは、庶民にとっては正義ですが、警察にとっては迷惑極まりないことです。
 彼の行動は、警察組織への貢献ではなく、庶民への貢献という方向に向いています。
 これは庶民の思い描く理想的な国家公務員の姿であるため、彼は視聴者からはヒーローとして受け入れられているという訳です。

 この法則は刑事ドラマに限らず、学園ドラマの熱血教師でも同じです。
 例えば、仲間由紀恵主演の人気学園ドラマ『ごくせん』(2002年4月17日~2008年6月28日)では、主人公のヤンクミは生徒を守るために、チンピラやヤクザの集団と徒手空拳で戦います。
 そんなことをしても、給料は変わらず出世するわけでもなく、逆に教職としての地位が危うくなるかも知れないのに、損得勘定抜きで身体を張るのです。
(ヤンクミは生徒には人気があるけれど、職員室では厄介者)

 もっとも、コナンや『相棒』の杉下右京などは、「真実を知りたい」「自分の力で謎を解明したい」という、趣味的な知的好奇心から行動する推理バカでもあります。

 彼らは、正義感もさることながら『真実を解き明かすのが三度の飯より好きだから』、めんどうな事件に首を突っ込んだり、自己の不利益を顧みずに行動するという一面があります。
 要するに一般人とは異なったことに快感を覚える変人なのです。

 コナンは追い詰めた犯人から「君は一体何者だ?」と尋ねられた際、「オレの名前は江戸川コナン、探偵さ……」と得意顔で決め台詞を吐きます。
 つまり、彼は探偵という職業が大好きで大好きでたまらないのです。
 危険に首を突っ込むのも、めんどうな捜査を進んでやるのも、それが彼にとっては至福の時間だからであり、犯人に犯行の決定的証拠を突きつける時こそ、彼にとって最高の瞬間なのです。

 このように正義感のみで行動していない点が、人間臭さとなり、リアリティを生んでいます。

 主人公ないし、その陣営は『高い貢献と、低い報酬』の人に。
 悪役および憎まれ役は『高い報酬と、低い貢献』の人にすると、おもしろくなるでしょう。

 その際は、コナンのように、主人公が低い報酬でも高い貢献をするための動機を与えておくと良いです。そうしないと、人間臭さのない、リアリティに欠けた人物になってしまいます。

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