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  4. 神話を下敷きにした物語公開日:2011/12/29

神話を下敷きにした物語

 1990年代少女漫画の金字塔と言われる『美少女戦士セーラームーン』は、ギリシャ神話の月の女神セレ-ネーと絶世の美少年エンデュミオーンの物語を下敷きにしています。

 まず、この漫画の元ネタとなった神話のあらすじを解説しましょう。

 月の女神セレーネーは、ある時、山の上で寝ていた羊飼いの美少年エンデュミオーンに恋をします。
 二人は相思相愛の仲になり、毎日、イチャイチャして過ごします。
 しかし、エンデュミオーンは人間なので、やがては年老いて死ぬ運命にあります。
 セレーネーは、彼と死に別れることもさることながら、美しい恋人が醜く老いていくのに耐えられませんでした。
 そこで、セレーネーは大神ゼウスに彼を不老不死にしてもらえるように頼みます。
「エンデュミオーンは人間なので、神々と同じ不老不死にはなれない。どうしてもと願うなら、永遠の眠りと引き替えに彼を不老不死にしてやることはできる」
 と、ゼウスは答えました。
 以後、エンデュミオーンはラトモス山の洞窟の中で、絶世の美しさを保ったまま眠り続け、その顔を月が毎晩照らしているという逸話です。
(一説によるとエンデュミオーンは、ゼウスの孫、あるいは息子でエリース王であったとも言われます)

 セーラームーンは主人公月野うさぎをはじめとする美少女戦士たちが、人々を襲う妖魔と戦うという話なのですが、その裏にある設定はセレ-ネーの物語を元にしています。
 月野うさぎの前世は、月の王国のプリンセス・セレニティであり、彼女を陰ながら支えると地場衛の前世は、地球の王子エンディミオンで、かつて月と地球は戦争をしており、二人は悲恋で終わった恋人同士でした。

 ちょうどギリシャ神話と『ロミオとジュリエット』の物語を足して二で割ったような設定です。

 ギリシャ神話の神々というのは、自分の欲望に忠実で、暴走して周囲を巻き込むトンデモない奴らですが、セーラームーンのプリンセス・セレニティには、セレ-ネーの純愛というより独占欲の塊のような暗部は反映さられておらず、きれいな話に昇華されています。セレ-ネーの暗部は、エンディミオンに横恋慕して悪魔(ゼウスに相当する者)に魂を売ってしまったクイン・ベリルが担っている形です。
 一説によるとエリース王であったエンデュミオーンには歴とした妻と子供がおり、セレ-ネーは、その平穏を壊した略奪愛の女神でもあったのです。

 セーラームーンの物語上で敵対するセレニティとベリルは、セレ-ネーという女神の光と闇の部分を抽出して作られた存在だと考えられます。

 アニメの第一期では、敵組織であるダーク・キングダムの女王クイン・ベリルが、失敗続きの幹部を「永遠の眠りの刑」で処罰します。これは要するに氷漬けなのですが、それ以外はゼウスがエンデュミオーンにかけた魔法そのまんまです。
 また、登場人物の名前も、セレニティなど女神の名前をもじった物だけでなく、ルナ、アルテミス、ダイアナなど、月に関係する神話の神々の名前をそのまま使っています。

 このように神話や伝説、童話などを下敷きにした物語というのは、数多く存在しています。

 日日日のライトノベル『魔女の生徒会長』も、『ロミオとジュリエット』『オズの魔法使い』(いずれも著作権の保護期間が切れたパブリックドメイン)などをエピソードの下敷きにしており、登場人物の名前も、ロミオ、ジュリエット、ドロシーなど、もろにこれらの名作との関連を匂わせる物にしています。

 原作を知っている人に展開をある程度予想させながらも、それを裏切ることで、先の読めないおもしろさを生み出しているのです。

 また、なにかと参考にされることの多い『ロミオとジュリエット』ですが、これもギリシャ神話『ピュラモスとティスベ』を元にして作られた話です。
 両作品は共通して、若い男女の許されざる恋と、女性側の相手ことを想うが故の行動・計略が裏目に出て、相手を死なせてしまうという悲劇が描かれています。女性は愛する人と添い遂げるために、そのまま短剣で自らを刺して後追い自殺をします。

 セーラームーンの原作でも、クイン・ベリルの攻撃からプリンセス・セレニティを庇ってエンディミオンが命を落とし、セレニティはそのまま後追い自殺をします。
 どうも愛のために、まず男性が死に、それに絶望した女性が後追い自殺をするのが神話から続く悲恋の王道のようです。

 小説ハウツー本やシナリオの指南書などが、私の自著も含めて世の中にたくさん溢れていますが、正直に申せばこれらを読みあさるより、

 世界の神話、伝説、童話などを読みあさって、そのエッセンスを吸収する方が、はるかに名作を作る近道であると言えます。

 神話や伝説、童話などは人類共通の財産なので、著作権が存在せず(近年の制作物は、著作権の保護期間が切れてパブリックドメイン化しているか調べること。神話について解説した本、グリム童話などを映像化したコンテンツには著作権が発生しているので注意)、その設定や登場人物の名前、アイテム名などを拝借してきても、著作権で問題になることがありません。

 また、長い歴史の中で、本当におもしろい物だけが語り継がれ、ツマラナイ物は淘汰され消滅してきたので、現存している物は、例外なく人間の心にヒットする何らかの要素を孕んでいます。

 最近流行している漫画やアニメ、ゲームなどに影響されて、パクリに近い劣化版コピーを作るくらいなら、神話から設定を拝借してきた方がはるかに賢明です。また、セーラームーンなどは一見子供っぽい話であるのですが、神話を下敷きにしているおかげか、中二病臭さが抜けて、深い趣を醸し出しています。
 簡単に言うと「神話を元にしていると、頭が良さそうに見えるのです」。

 聖書、ギリシャ神話、ケルト神話、日本神話、クトゥルフ神話、アラビアンナイト、グリム童話、アンデルセン童話、三国志、水滸伝などを読みあさっておくことを強くオススメします。

●オススメ参考文献

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