ライトノベル作法研究所
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  4. 村上春樹はなぜマラソンをするのか?公開日:2013/10/16

村上春樹はなぜマラソンをするのか?

 世界的人気の超一流の小説家、村上春樹の趣味はマラソンです。ほぼ毎日10km程度を走り、冬はフルマラソン、夏はトライアスロンに参加する「走る小説家」として有名です。
 彼は2010年6月に刊行したエッセイ『走ることについて語るときに僕の語ること』 において、マラソンをすることで小説を書くための能力を鍛えることができると語っています。

 その理由を要約すると、以下の2つになります。

1・小説家にとって才能の次に必要なのは集中力と持続力(小説を集中して3,4時間続けて書くことを毎日続ける力)であり、マラソンをすることでこの2つが鍛えられる。

2・小説の執筆は全身のエネルギーをひどく消耗する過酷な肉体労働であり、身体にとって有害。なので、基礎体力を付ける必要がある。

 マラソンをすることで集中力が鍛えられるという村上春樹の持論は、実は科学的な裏付けがあります。
 ハーバード大学の医学博士ジョン J. レイティの研究をまとめた著書『脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方』 (2009年/3月日本語訳版刊行)によると、運動をすることで、集中力と注意力、さらには読み書き能力を高められることがわかったそうです。

 ジョン J. レイティは注意欠陥多動障害(ADHD)の研究も行なっており、ADHDの治療にも運動が効果的であると主張しています。
 ADHDとは先天的に不注意な性行を持って生まれた人のことです。長く一つのことを続けられない集中力の欠如、多動性を特徴としています。
 例として、本書の中で学生時代はADHDとして問題児のレッテルを貼られていたが、大人になってからは数キロの早朝ランニングをすることで仕事中の集中力を保持し、経営者として活躍している男性などが紹介されています。

 つまり、村上春樹の走ることで集中力を鍛えるというやり方は、精神論や彼にしか適用されない独特のものではなく、万人に適用できる普遍的なものだということです。

 また、小説家には早死にしている人が多いです。
 ライトノベル作家では、『ゼロの使い魔』で人気のあったヤマグチノボルが41歳で死去、『風の聖痕』の山門敬弘は37歳で病死、『トリニティ・ブラッド』の吉田直は、34歳で亡くなっており、当時、過労死説が囁かれました。
 一般文芸とラノベの中間のような作風の人気大河ファンタジー『グイン・サーガ』の栗本薫は、体調が悪化しながらも無理に小説を書き続け、56歳で亡くなっています。作者死亡のために未完で終わった同作のあとがきには、とにかく体調が悪くなって辛いことが最終巻に近づくにつれて、壮絶に書かれています。

 なぜ、彼らは若くして死んでしまうのか、ずっと疑問だったのですが、村上春樹の言葉で気づきました。
 そう、小説の執筆とは、実は過酷な肉体労働であり、生命力を文字通り削る作業なのです。
 そのため、人気作家になって大量の本を出す必要に迫られると、その負担に肉体が耐えられず、最悪、死んでしまうのです!

 20代の頃は身体に元気がありますが、30代を越える頃から体力が急激に衰えます。
 特に小説を読み書きするのが好きなインドア派の人は、運動を嫌う傾向があるため、体力の衰えは激しいです。
 30代を越えてからは、2時間、集中して文章を書くだけで、もうクタクタになります。村上春樹のように、3,4時間集中するなど、体力的に不可能になるのです。
 ライターの山崎一夫によると、集中力を維持するには精神力だけでなく体力も重要だそうです。例え大好きなことをやっていたとしても、体力が尽きると気力もなくなり、集中力が続かなくなります。(参考・書籍『迷って選んだ答えは必ず間違い』2012/9刊行)

 また、現代ではパソコンなどの電子端末で小説を書くことが当たり前になりました。
 パソコンは身体に有害な物質です。
 IT系の仕事をしている知人の話によると、職場の誰もが『眼精疲労』『肩こり』『腰痛』のいずれか、あるいはすべてに悩まされているそうです。パソコン作業を長く続けると、この3つの症状を必ず引き起こします。
 これは小説を集中して書くことの妨げになります。身体が痛い、不健康であるということは、意識を小説の執筆のみのに集中できない、ということです。
 その知人は肩こり、腰痛対策として、3、4キロ程度のランニングを日課にしています。
 運動し、基礎体力をあげることで、これらを予防、軽減できるのです。

 私も20代の終わりごろからパソコン作業による『肩こり』と『腰痛』に悩まされるようになり、整骨院や整体に行くようになりました。
 そこで整体師の先生から教えられたのは、 

 パソコン作業やデスクワークのような『静』の作業による疲労は、ウォーキングやスポーツなどの『動』の作業によってしか解消されない、ということです。

 パソコン作業による疲労を、寝っ転がってテレビを見るとか、ゲームをするなどの遊びで解消しようとすると最悪です。パソコン作業によって疲れた目や、同じ姿勢を続けて固まった筋肉にさらなる緊張を強いてしまい、まったく休息にならないのです。
 この場合、軽くランニングしたり、ストレッチをしたりして、こわばった身体をほぐし、目を休ませてやることが必要となります。
 『静』の作業をしたら『動』の作業を、『動』の作業をしたら『静』の作業をすることが疲労を回復し、健康を維持する上で重要なのです。
 『静』の作業ばかりしていると、酷使された肉体はやがて壊れてしまいます。

 『脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方』によると、理想的な運動は週に6日、なんらかの有酸素運動を45~60分行なうことだそうです。ウォーキングのような軽めの運動ではなく、走ることを推奨しています。

 村上春樹が毎日行なっている運動より軽めですが、ハッキリ言って、これはキツイし続かないです。
 「21世紀の医療・医学を考える会」の創設者である医師の岡本裕氏によると、運動は、息が切れない程度のジョギング、景色を見ながらのハイキングが良いそうです。岡本氏は、「40歳を過ぎたら長時間のランニングは勧められない」「走る人は寿命が短い」と語っています。
 村上春樹のように40歳を越えても毎日10km近く走って、フルマラソンに参加するようなことは、身体を痛めるので逆に不健康であるというのです。なにより、そんな高レベルの運動は毎日に続けられません。
 2009年6月に放送されたNHKの人気番組「ためしてガッテン」によると、歩く程度のペースでゆっくり走る「スロージョギング」(1日30~60分)でも脳が活性化するそうです。あまり極端なことはせず、個々人に合った無理のない適度な運動が良いのです。

 ランニングを始めては止め、始めては止めを繰り替えしてきた私の経験からすると、とにかく10分でも良いから負担にならない程度に走ることが、毎日続けるコツだと言えます。たったこれだけでも、だいぶ身体の調子が良くなり、体力が向上します。
 また、2日以上続けて休むとやる気がなくなるので、2日続けて雨が降った場合、2日めは傘を差しながら短めに近所を走ってくると良いでしょう。
 とにかく走らないより走った方が良いことづくしですので、あなたも今日から軽く走ってみることをオススメします。

●走ることの効果のまとめ

●補足
 太宰治、夏目漱石、芥川龍之介など、昔の作家は、心を病んで早死にするインテリのイメージがありました。また、IT系の仕事に就いている人には鬱病が多いそうです。
 どうも『静』の労働というのは、長く続けると心を病む傾向があるようです。運動はストレス解消や鬱病の治療にも効果的だとされています。

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