ライトノベル作法研究所
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  4. 盗作騒動の真相公開日:2011/12/20

パクリ疑惑騒動は読者による第二の新人賞

 ネットで新人作家の盗作が問題になって、処女作が絶版・回収になるという流れは、いわば第二の新人賞と言えるかも知れません。
 多くの読者がこれは盗作である、許されない、作者にはプロになる資格がない、という判断を下し、それが正当であると見なされた場合、出版社は対象作品の絶版・自主回収という措置を執ります。

 ネットの住民は、案外、公正でして、まったく問題も罪もない個人を、無理矢理罪人にしたてあげて、火あぶりにするような行為はしません。

 そのようなことを考える不届き者がいたとしても、誰も共感して協力したりしないので、大きな騒動には発展しないのです。ネットで騒動が起きるのは、そこに、なんらかの問題が潜んでいるからです。

 ジェームズ・スロウィッキーの書籍『「みんなの意見」は案外正しい』 では、一握りの専門家や天才の下す判断よりも、集団の判断の方が、正解に近い場合が多いという事実をさまざまな事例を元に紹介しています。
 むろん、集団は間違った方向に暴走する危険性もあるのですが、以下の四つの要件を満たした集団は、正確な判断を下しやすい賢い集団だというのです。

1・意見の多様性(各人が主観的な意見を出す)
2・独立性(他者の意見に左右されない)
3・分散性(身近な情報に特化している)
4・集約性(個々人の意見を集計するメカニズムの存在)

 1人1人が思い切り主観的であっても、それをたくさん集めて均せば、各個人が犯した間違いが相殺され、客観的で優れた回答が生まれるという訳です。

 その証拠に、パクリ疑惑騒動は、必ずしも出版社による絶版・回収にまで発展するわけではなく、それが言いがかりに近い場合、正当性を欠く場合には、一部の人だけが騒ぐにとどまります。

 ただ、ネット上では一度、騒動に火がつくと、罪人を叩く正義の快感を求めて、大勢の人が便乗してきて祭りと化し、過剰な制裁が加えられるようになります。
 問題提議そのものは正当なものであったとしても、それがやがて司法を介さない私的なリンチに発展してしまうのです。こうなると、賢い集団の要件である、「意見の多様性」「独立性」が崩れてしてまうので、ネットでの騒動は、便乗して騒ぐ人が大量にやってきた時点で見る価値のない物に堕落してしまいます。

 しかし、このような側面を差し引いても、出発点が公正な問題提議である以上、パクリ疑惑騒動は、読者による第二の新人賞と位置づけて良いと思います。

 例えば、2007年にケータイ小説の文学賞である第一回モバゲー小説大賞の優秀賞に『メビウスの輪』という作品が選ばれました。
 しかし、この作品は、モバゲータウン上で公開されたのと同時に、田中ロミオ氏がシナリオを手がけたギャルゲー『CROSS†CHANNEL』に内容がそっくりだとして、一部の読者が騒ぎ出しました。
 『メビウスの輪』のあらすじは、

 時間がループしている隔絶された世界に数人の少年少女が閉じ込められる。
 主人公以外は時間がループしている自覚がない。
 主人公は世界の謎を解いて、友達すべてを元の世界に送り返す。
 誰もいないループする世界で一人きりになった主人公はラジオ放送を始める。
 元の世界にいる友達に放送が届く。

 というもので、これは『CROSS†CHANNEL』のストーリーとまったく同じだったのです。
 作者である『咲かない花』氏は、批判を受けて、以下のように盗作であることを否定するコメントを発表しましたが、火に油を注ぐ結果になりました。

 はぁ。
 普通にしゃべります なんかやたら言われてるね……
 どうせ信じないけど1回だけ言っときます……
 俺そのクロスチャンネルてゲーム知りません。
 ちなみにDグレも読んでません。
 ひぐらしのなく頃に(字あってる?)は結構、意識してた。
 著作権に関わるようなら優秀賞も書籍かもなくしてくださいとは伝えてる!!
 純粋に読んでくれた人はありがとうございます……
 ……ホントにありがとう。
作者コメント抜粋

 批判によって、ボロボロに憔悴しきっていることがうかがえます。
 ネットでのバッシングは、対象者に想像を絶する精神的ダメージを与えます。
 大勢の人から批判されているという状況は、人間にとって耐え難いものです。

 ただ『純粋に読んでくれた人』などと、読者に作品はこう読むべし、という要求を突きつけるのは愚の骨頂です。
 批判に対して、反論したり、読者をバカにしたりする態度を取ると、多くの人の反感を買って、かえって状況が悪くなります。ネットスラングで言う「燃料投下」という状態です。

 本人も言っているとおり、作者が盗作を否定したところで、まともに信じる人などいないし、読者を非難する作者を支持するような人など希です。

 おそらく『咲かない花』氏は、デビューすれば自分がプロとして批評の俎上に載せられることになる、ということについて、無自覚だったのでしょう。
 プロになれば、批判や中傷の的にされるというリスクを背負うことになるのです。
 それが嫌なら、プロになろうなどとしてはいけません。

 結局、『メビウスの輪』は、著者が受賞辞退を申し出ることになり、出版は取り消しになりました。
 例え、偶然、ストーリーが酷似してしまったのだとしても、これを問題ないと認めれば「偶然、被ったので問題ありません!」と主張する確信犯が大量に現れることになります。

 残酷ですが、すでに存在する人と全く同じ作品しか作れない人は、世に出る価値がないのです。

 これを受けてか、同じケータイ小説文学賞である『魔法のiらんど大賞』では、読者による投票システムを早い段階で取り入れています。
 これによって、パクリ疑惑作品をすぐに除外できるようになりました。

 審査員が、膨大な数に上るサブカル作品すべてに目を通して記憶し、投稿作がパクリか否か見極める、などというのは不可能です。

 また、偶然、既存作品と内容が酷似してしまった場合、受賞が決まった後や、出版後に問題が発覚して、サンドバックにされた後に、絶版・回収となるより、審査段階で弾かれた方が、著者にとっても幸せです。
 読者に審査してもらう、というのは非常に良い仕組みだと思います。

 もちろん、読者投票システムは、ケータイ小説というジャンルだからこそできることです。
 ライトノベルの新人賞にこの仕組みが導入されることはないでしょうが、パクリ作品はデビュー後、ネット上での炎上を通して、淘汰されていくことになるでしょう。

●補足
 ネット上で人気を博した小説が書籍化されるというケースも、少なくはありますが存在します。
 出版社の人間は、意外と実力のある人を探して、ネットを巡回しているので、本当の力さえあれば、ネットからのデビューも可能です。当サイトからも例があります。
 このような場合、パクリ疑惑があれば、デビュー前にまず指摘されているはずなので安全です。

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