夏月 歩さん著作
夏の終わり、蒸し暑さもだいぶ優しくなった夜。
部屋の窓辺で花火を見ながら、私は自分の横に寝転ぶ彼に言葉を投げる。
「ねぇ、来年も一緒にこれ見られるかな?」
その言葉に、彼はいつものように言葉なく首をかしげ、私はその様子に何とか笑って見せた。
「いじわる」
ドンッ、ドンッ――
少し遠くの方でなるその音が、痛むように私の奥に響いていった。
『花火の音の響く中』
携帯や雑誌、リモコンから飛び出た電池、いろんな物が散乱した部屋で、私はぼんやりと打ち上げ花火を眺めている。
近くの河で、毎年行われているという花火大会。
ひるがえるカーテンの隙間に、夏の暑さの残滓は光となって消えていく。
オレンジの大輪に、弾け散らばる金の花。それらが空を彩り、また空は夜に戻る。
打ち上げる花火は、明るく力強く……でも、とても弱く儚い。その様子を眺めながら私は、まるで自分の心のようだ、そう思ってしまう。
感情のままに彼の部屋にやってきて、彼をあの女から奪い返そうとするような私に、とても、よく似ていると。
私は、近くにあった灰皿を手にとった。紅みがかったガラス製の灰皿。結構なヘビースモーカーな彼に、あの女が贈ったのだろう。嫌でも自然に力は入る。
彼とは大学生2年の終わりからつきあい出して、今月で2年と9か月になった。この春に2人共就職し、離れ離れになり、喧嘩をし、新しい女の存在を知り、今に至る。
それでも、見苦しいほどに彼を忘れられない私は、こうやって彼の部屋まで押しかけてしまったのだ。
彼の部屋、私以外の存在を感じさせるものをあの女に投げつけ、追い出した。
開いた窓、そんなことは気にせず、気がつけば私は自分の想いを彼にぶつけていた。
そして、一連の騒動の末、彼はどうしようもないと黙りこくってしまった。
答えのないことに、わからないことに、どうしようもないことに、返す答えもないのだと、開く口はないのだというように。それが私の知る、彼らしさでもあった。
ドンッ、ドォン―― ドンッ、ドンッ――
今度は紅い花火が上がった。
花火を見ながら彼とよりそう私の顔は、どこか紅く、鼓動は少し早かった。
こうしていれば、元の2人に戻ったのでは、そんな気さえしてしまう。
でも分かっている、戻れはしないのだと。一度上がった花火が元には戻れないように、いつも2人一緒だった頃には、もう帰れはしないのだと。
高揚する気持ちは、やはり花火のように消えていった。
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ――
けれど、私は部屋に咲いた、盛大な紅い花を見て思うのだ。
きっと、この花は私の中からは消えないよ、と。
あなたは、私の中から消えたりなんてしない、と。
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ――
私は、花火の音の響く中、
あの女がドアを叩く耳障りな音を止めるために、また、紅く染まった灰皿を握り締めた。
夏月歩といいます。
すいぶんと前に使っていたことがあり、ふらりと戻ってきちゃいました ^^;
表現がくどくないか、
ラノベっぽくなく、場違いじゃないか、
いろんな不安もありますので、どうぞ忌憚なきご意見お願いします。
9/02 一部の表現を修正しました。
9/04 漢字のひらき方を修正しました。
2012年09月02日(日)12時48分 公開
こんにちは。汁茶と申します。
拝読いたしました。
怖えー。
いや、殺したなんて一言も書いてないけど。
書いてないからこそ怖い。
>「ねぇ、来年も一緒にこれ見られるかな?」
読み終えてから戻ると、このセリフが特に怖いです。
何いけしゃあしゃあと言ってんの、この人は。
彼女の感情を花火にたとえているのはうまいと思いました。
一時的に爆発して……後悔はしないところとか。
音の描写もラストの扉をたたく音と絡めるなど、効果的だと思います。
指摘したいところとか浮かびませんが、難癖つける形で書きますと、曖昧で事実関係がはっきりしていないところでしょうか。
匂わせる程度に止める匙加減からするとちょうどいいとは思いますが、彼が生きてるのか、死んでいるのかはっきりしない。
気絶しているだけかもしれないし、そもそも殴られてさえいないかもしれない。部屋に咲いた、盛大な紅い花が血であるとは一言もいってない。
あー、うん。でも、やっぱりはっきり書けばつまらない話になりそうですね。
比喩を巧みに使った掌編ならではの作品だと思います。長い話では使えない手法かなと。
こういうヤンデレは好きなため、褒め殺しになってしまいました。
嫉妬に狂った彼女素敵です。自分のやってる事を美化するナルシーぶりが特に。
執筆お疲れさまでした。
それでは失礼いたします。
どうも
ラスタです
感想を頂いたので感想返しに参りました
うん、面白かったです
彼女の心境は上手く伝わってきました
大きな指摘点はないと思います
細かい部分を指摘するとしたら、中盤のゴツめの灰皿という表現でしょうか
雰囲気に合わない気がしました
あと空いた窓という部分がありましたが開いた窓の間違いだと思います
怖い話ですね……
狂気を前面に押し出している作品だと感じました
灰皿は絶対置かないでおこう――って、そういう問題じゃないか
感想に不備等ありましたら申し訳ありません
私は素人なので見当違い等多々あるかと思います
ご容赦ください
ではでは、次回作も期待しています
夏月 歩様、こんばんは。
投稿一覧にお名前があったのと、題名が印象的だったので拝読させていただきました。
最初はどこか別れを感じさせる切ない小説なのかな、と思っていたのですが、描写はどんどんと不穏になり、そして戦慄。でもやっぱりとても切ないんですね。彼が絶命(?)して初めて2人の時間が戻ってくるあたりが。
きっとその時間も、花火の終わりとともに終わってしまうことでしょう。
そう考えると、怖くもあり、哀しくもある掌編だなぁ……と思います。
もし気になる箇所があるとすれば、やっぱり”ゴツめ”という表現でしょうか。その比喩はないほうが「紅みがかったガラス製の灰皿」というアイテムが生きるような気がします。
描写がとてもお上手なんですね。この夏に見た花火大会の記憶が残光みたいにテキストを通して蘇ってくるようでした。
次回作も期待していますね。
では。
作品、読ませて貰いました。
表現が巧みだなあと思いながら呑気に読み進めていたのですが、最後はかなり怖い。
私は甘っちょろい恋愛観の持ち主なので、他の方々の感想を見るまで彼がそんなことになっているとは考えてませんでした。
平和的な先入観で読んでいて見落としていましたが、読み返せばちゃんとそういう描写がされている……。
……ますます怖くなりました。
とはいえ、花火を軸にした表現と読者の想像に幅を持たせるストーリーはすごく面白かったです。
表現もくどくないと思いますよ。
楽しませてもらいました、次回作も期待しています。
……元カノはともかく、彼女の思い出の品でそんなことに……。
初めまして。
拝読致しましたので、感想を書かせて頂きます。
「自分の横に寝転ぶ彼」
「言葉なく首をかしげ」
「一連の騒動の末、彼はどうしようもないと黙りこくってしまった」
「花火を見ながら彼とよりそう私の顔は、どこか紅く」
「部屋に咲いた、盛大な紅い花」
読み返してみて、その巧みな描写に鳥肌が立ちました。
読みようによって、どちらとも取れる表現がとても秀逸です。
これからも頑張ってください。
楽しみにしています~。
こんばんわ、とよきちです。
感想返しに馳せ参じましたが、返り討ちにあった気分です(笑
それではさっそく。
皆さんも言うように、比喩表現がお上手ですね。特にドアの音と花火の音をミスリードに使うのは素直に感嘆です。
文章については少し思うところがあります。
というのも細かいことで、漢字の『ひらき』のついてですが、
>彼とは大学生2年の終からつきあい出して
ここの『終』は『終わり』としたほうが良いと思います。少し読みつっかえてしまったので。
漢字の『ひらき』や種類で読みやすさやその物語の雰囲気を左右しますからね。などと偉そうに何を言ってるんだ自分(笑
なんだか粗探しのような感想ですいません。単純に気になっただけなので、しかも言っていることが正しいのかもわかりません。
なのでここは作者様の方で取捨選択をお願いします。
楽しめました。次回の作品も期待してます!
夏月 歩様、こんばんは。
汁茶様と同じで彼が死んでいるとは書かれていないのですが、逆にそれが不安感を煽り怖かったです。
花火の音やドアの音が物語を引き立てていたと思います。
描写や伏線の入れ方がとても上手だと思いました。
最後の一行の終わらせ方も恐怖の余韻が残る感じで良かったです。
これからも執筆頑張って下さい。
短いですが、失礼します。
こんにちは、瀬海です。拙作へのご感想、ありがとうございました!
感想返しに伺いましたので、思ったことをいくつかちらほらと。
叙述トリック! つい最近まで、短編の間やら掌編の間やらでそんなもんばっかり書いていた僕ですので、妙に興奮してしまいました。うん、上手い。ミステリが結構好きなので、灰皿が小道具として出てきた時点で殺人自体は疑えてしまいましたが、音声錯覚は全くの予想外でした。なるほど、こういう騙し方もあるのか、と感心してしまった今日この頃です。
……ただ、一つだけどうしても気になることが(僕の好みの問題である可能性が大なので、以下は読み飛ばしてもらっても結構です)。
一回目に読んだときに違和感を覚え、それから何度も読み返してみたのですが、なんとなく文のリズムに居心地の悪さを感じました。なんというか、着地点が少ない。一息つけない。一つ一つの文ごとに、一旦流れが完結してしまっている気がします。そのせいで全体的にぶつ切りにされたような不安定さを感じる上、さらに改行や花火(もしくはノック)の音まで頻繁に挿入されてくるので、頭の中でリズムが途切れ途切れになってしまい、どうしても読みにくさを感じてしまいました。これ、ちょっと、本当に僕の感覚の問題かもしれないので、意味が分からなければ即座に読み飛ばしてしまってください。僕自身、言いたいことを上手く表現できている気がしません……。
長々とすみませんでした。拙い感想ですが、僕からは以上になります。
これからも頑張ってください! ではっ。
初めまして、お風呂です。
拝読させて頂きました。
怖いです。
しかし、その怖さというのは、一度読んで、二度読んで、感想欄に目を通して、状況を理解して、三度目に読んでようやく分かる怖さであって、正直に申しますと、感想を返すために読み込もう、と思わなければ、意味の分からん駄作だ、と判断していたと思います。
一度読んだだけで全てを把握できる物語もどうかと思いますが、一度でいまいち何も把握できない物語も駄目だと思います。
まとめると、雰囲気作りのみに気を取られすぎではないかと。
とはいえ、こういう流麗な文章には、素直に憧れます。
次回作も期待しております。
どうも川夕です。お邪魔します。
早速ですが感想を残したいと思います。
まず表現のくどさですが、読みやすくて違和感などはありませんでした。ただ作品の雰囲気に合っているかと思うと少々軽すぎないかなぁとも考えてしまうのですが、読みやすいにこしたことはないので気にしなくても良いと思います。
それからラノベっぽくないのではないかと懸念されているようですが、これは気にしなくても良いのではないかと思います。ラノベの中にも大量に人が死ぬ重いものもありますし、ラノベっぽい一般小説もありますから、自由に書かれるのがよいと思います。縮こまって書くより思い切って書くのが作品の魅力は上がります。
ここからは個人的な感想になります。
まず夏という季節を上手く使っているなぁと思いました。背筋がぞわりとするような後味。これはやっぱり夏に感じたいですね。
あと評価するべきはやっぱり掌編の良さを考えた構成をしていることでしょうか。掌編は繰り返し読めるのが利点なので、一度読んだ後にもう一度読んでまた違った見え方をして面白いというのは楽しみが広がりますね。叙述トリックを使った作品は上手く決まると必然的に評価が高くなりますねー。こまった。
短い枚数で奥深い作品だと思います。ただ個人的にはもっと嫉妬狂った心理描写が読みたかったかも。また別の味わいをしそうですしね。あとは閉じ込められている女の視点でとか、また違った雰囲気があって楽しそうです。
長々と失礼しました。
私の作品にご感想、ご意見戴きありがとうございました。
切ない系のお話に見せかけて、怖い。
この短い文章で表現しきっているところは憧れてしまいます。
素直に、楽しめる作品でした。
未熟なため、指摘できる部分が思いつかなくて申し訳ないです……
こんにちは! 綾龍です。
拝読しましたので、感想などを残していきます。
実は、作品が投稿されて間もないころに読了をしていたのですが、作者名を見て、もしかしたら彼の頭が転がるかも……とか思ってしまい、おおよその結末を予測してしまいました。大失敗です。楽しめる部分をほとんど反故にしてしまいました……。
なので点数としての評価は非常に決めかねてしまうので、今回は『点数評価なし』を選択させてください。
短めな文章が多く、少し詩のような印象を受けます。
そのおかげで情景がイメージの中で美化されやすく、また、あいまいな領域を作る効果にもなっていると思います。だからこうした違和感を感じにくいミスリードが成立するのだと思います。そして、それをしっかり使いこなしちゃっている夏月さんは、やはり只者ではないです!
花火の音とドアをたたく音の重ね合わせも面白いですね。
ドンッ、ドンッって。
本物の音を読者は聞けないので、上手いミスリードだと思います。
>一度上がった花火が元には戻れないように、いつも2人一緒だった頃には、もう帰れはしないのだと。
とても綺麗な比喩ですし、意味も分かるのですが、過去には戻れないということを強調する文章なんですよね。なので『いつも2人一緒』という点については、つながりが弱いように思いました。
……とは書きましたが、別に問題ないと思います。他に指摘できそうなところがなかったんですよ。
それでは、失礼します。
こんにちは、夏川 歩様。
私の作品に感想を頂き、誠にありがとうございます。
僭越ながら感想をば!
情景描写がとても素晴らしかったかと思います!
実に私好みの物語でした!
最後のシーンを読み終えて、たいへん私の心の中に主人公と同じく、やるせない気持ちが湧き上がりました。
陳述トリックを交えたこの物語は怖さが引き立ち、心霊ホラーなどとは別の怖さがあり良かったと思います。
私は情景描写を書くときは、くどくならない様に注意し過ぎてアッサリし過ぎた文章になりがちですが、この物語は良いバランスで描かれているかと思います。
お互い情景描写と陳述トリックに力を入れる者どうし、頑張っていきましょう!
夏月 歩さん、こんばんわ。表参道です。
感想を書かせてください。
面白かったです。彼が殴られた後であるのは、多少予想しましたが、花火の音とノックの音は驚かされました。そして、どの音が花火なのか、ノックなのかを明記していないことが、じわじわ効いてきます。
花火の表現が上手ですね。要所要所で花火を連想させるのがすごいです。さらにそこから、あの女の殺害の連想に着地。綺麗です。
ただ、あえて言わせてもらえば、私と彼のエピソードが薄いかもしれません。
見当違いでしたら、戯言と聞き流してください。
それでは、執筆お疲れ様でした。
とても奥深い物語(とゆうより小説?)でしたね!!
ライトノベルを来年受験が控えてるなか書いている自分にとってとても表現の仕方が勉強になりました!
ありがとうございます!
ただ、あえてこの小説で自分が気になったといえば「~た」で終わっている回数が多い気がするなぁ…程度なのですけど…。
もっと体言止めなどを利用して物語のテンポをあげていったらなと…。
アドバイスになるかどうか悩ましいところですがすみません。
おひさしぶりです。ほとんど僕のことなぞ覚えてないかもしれませんが、ぱんどらの箱です。
相当かなり前ですが謎のメールを貰って以来、それはもう、ちょっと気になっておりましたこともありまして(メルアドがのっとられた可能性について)
僕のほうは、まったくあなたのことを忘れておりませんでした。
すいません、ストーカー地味てて、テヘ(逆に怖いかw)
なぜか、ここ一ヶ月の間。本当に夏月さんのことが思い出されて、なんだろうなぁと思っていたのです。
まさか高得点入りの知らせで再会できるとは、すごい胸が心躍っております。
おめでとうございます。冗談とか嫉妬とかまったく無しに祝福したいです。
こう思い出されていた人の名前が見れたことが、こんなにうれしいことだなんて、知らなかったのです。(覚えてなかったら、無視してください)
長い前置きはさておき、感想を書かせていただきます。
前の作風をしっているものとしては、前よりも洗練されていることを感じます。
読みやすくて、伝わってきて、それでいて、夏月さん独特の淡く美しい文章が生きている。
ただたに、それだけを主眼にすえてしまうと、つまり、淡い文章だらけになってしまうと逆に良さがかき消されるという、
昔の欠点はなくなり、それはもう解像度の高い文章と、ぼかした淡い文章とが、まざっていて、
夏月さんの良さが生きてる感じです。成長されていることに驚いています。
話の内容は、これはもう、まさにミスリードの王道でして、読みすぎるぐらい読んでいるのに、
でも、やっぱり、うまくできていると面白いなぁ、と思います。
そう、王道でも面白いものは面白いって、思わせることができることが優れていることなんだと思います。
短い、本当に短い物語の中で、無機質な狂気みたいなものが感じ取れました。
しかしまぁ、すっごい個人的な感情なんですけど、ヤンデレになる前にどうにかしてあげろよ、と思いますね。
バカになるまで愛してやるか、痕跡すら残さぬほど完全逃亡するか、ちゃんと男はやるべきなんだと思いますよ。
そうだ、僕も鍛錬投稿室で投稿をはじめようかなと、そんなことを考える次第です。
最後に、まったく僕のことを覚えてなかったら、まじで感想以外の部分は無かったことにしてください。
死にたくなるので(笑)