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ラムネキッス・ハロー

ラムネキッス・ハロー


 ……恋人が死んだ。
 そのことを知ったのは連絡が無くなり、二年経ってからだった。
 まったくの不意打ちだ。
 恋人の母親からの電話で聞いのは、彼の死んだことと、もう一つ、身寄りのない私を引き取りたいと思っていること……。
 私は彼の死を理解しても涙を流さなかった。
 それは何かを感じる心も涙もないのか、『消失症』という病名を聞いてしまったからか……。
 確実なのは何も残らない重ねるだけの年月が終わったことだ。
 それはただ過ぎ去るだけの時間だった。
 大き目のボストンバッグを手に、何の感慨もなく二年間を過ごしたアパートを出る。
 そう、何の感慨もないはずだ。
 そう自分に言い聞かせる。
 一歩外に出れば風が私のおさげをソッと揺らす。
 暖かさと冷たさが混じった季節の変わり目の風だ。
 夏が終わりもうすぐ秋が訪れようとしているのだろう。
「先生」
 ふいに、そう呼ばれて隣を見る。
 隣室のドアの前に立った学生服の少年が、人懐っこい顔を私に向けていた。
 津筒都綴喜(つづつつつづき)……。
 私が昨日まで勤めてた中学校の生徒で、数年前に両親が他界した。
 何の因果か、私の恋人と同じ病気で……。
 綴喜は一人暮らしが長いせいか家事全般が得意で、そういう事が全くダメな私によくご飯を作ってくれた。
 教師と生徒、隣同士ということもあるが……それ以上に私を好いてくれていたからかもしれない。
「先生」
 綴喜はもう一度、私を先生と呼んだ。
 いつもは「常葉さん」と私を呼んでいたが……今は先生と呼んでいる。
 これから別れるということを意識しているのだろうか。
 少し、寂しいような気がしないでもない。
 だがそれはひどく勝手な考えだ。
 他人行儀でいい。
 私は全部捨ててここを出てくのだから。
 後には何も残らない方がいいに決まってる。
 何も残らない方が。
 そう考え少し胸が痛む。やはり私は勝手だ。
 綴喜の穏やかな横顔……。
 子供っぽい瞳。
 ちょっとした癖。
 そう、ちょっとした…恥ずかしがると頬をかく些細な癖だ。
 横顔や瞳、癖……それらがどこか彼と似ていて……。
 抱きしめられるその度に、重ねてしまったていたんだろうと思う。
「行くんですね……」
「ああ。けじめ……みたいなものだな」
 そうけじめだ。
 全てが終り前に進むことも留まる事もできなくなった。
 あとは戻るだけだ。
「元気でな……」
「はい。先生もお元気で……」
 私は綴喜に背を向けた。
「恨んでもいいからな……」
「はい」
「私は猫が嫌いだ。特に甘えるだけの子猫が大嫌いだ」
「はい」
「だから……捨てる、それだけだ。そういう女だ、だから憎んでいい。そして忘れろ」
 綴喜には私のように待って欲しくなかった。
 何も生まない時間はひどく空しい。
「先生……先生は短気で、横柄で大酒のみで片付けも下手で……背も小さければ胸も小さい…」
「よ、余計なお世話だ!!」
 そこだけ聞いてるとまるで私がダメ人間みたいだ。
 た、確かに。料理も片付けも苦手だが……。
 私が口の端を尖らせると綴喜が後ろからそっと抱きつく。
 一瞬、私の身体が強張り、すぐに緩む。
 ああ……。なんで私は綴喜の手を握ってしまうのだろう。
 弱さだ。身勝手な心の弱さだ。
 そう分かっているのになんでこの温もりを手放したくないのだろう。
「どうせ、向こうで大喧嘩して追い出されるでしょうから……俺、待ってます」
 綴喜には私のように待って欲しくなかったのに……。
 なんで、なんでそう言えないんだろう。
 あの時、彼もこんな気持ちだったのだろうか?
「勝手にしろ」
「はい……」
 私から綴喜と離れる。
 振り向けなかった。
 私の声も震えている。もう嘘はつけない。
 こんな顔を見せたくないし綴喜の声も震えていたから……。
「じゃあ、な」
「はい」
 ……。
 …。
 住み慣れた都会から数時間。
 私が田舎町にある彼の着いた頃、すでに外は夕暮れ時だった。
 新緑は鮮やかな赤に染められ、夕日の映る小川は静かに流れ続ける。
 まるであの時から変わってない。
 点在する民家の中の、古びた一軒家……。
 いったいどれくらいぶりだろうか。ここに訪れるのは……。
「常葉さん……!!」
 玄関前に水をまいていたお義母さんが私の姿に驚く。
 お義母さんの持っていた尺がその手から滑り落ち、カランと音をたてた。
 強張ったその顔はゆっくりと笑顔に変わっていく。
「お久しぶりです」
「いいの、いいの。さぁ、お入りなさいな」
 お義母さんはすぐに私を仏間へ通してくれた。
 久しぶりに会ったお義母さんは以前に比べ少しやつれた気がする。
「元気だったの?」
「はい」
「良かったわ、ずっと気になっていたの……」
 閉ざされていた仏間の闇を赤い光が包み込む。
「それにしても貴方はずっと変わらないわね」
「そうですか?」
「ええ、学生の時のまま……あ、子供っぽいということじゃないのよ?」
「いえ、よく言われることですから」
「あら? やっぱり?」
 た、確かに胸も身長もあの頃から変わっていないが……。
 私たちはそんなことを話しながら仏壇の前に座った。
「よく来てくださいました。常葉さん」
 彼のお義母さんが改めて頭を下げる。
「いえ」
 お義母さんに向き合い私も頭を下げる。
 畳とお線香の匂いが室内に漂ってきた。
 顔を上げながら見上げた仏壇の彼には黒い縁取りがある。
 ああ……死んだんだ。
 私は何の感情もなくそう思った。
 そう改めて確認したのだ。死んだことを。
「あの子のことをなんとお詫びしていいものやら……」
 お義母さんはひどく狼狽するような困った表情だった。
「こちらこそ、顔もださずに……」
「いいいんですよ、そんなこと。あ、これはあの子の日記です。時間がある時にでも読んであげてください」
「ええ」
 私は黒い日記帳を受け取る。
「貴方はなにも後悔することないんですよ?なにせ、私たちもあの子のこと……」
 お義母さんは言葉を捜しあぐねているようだ。
「私たちも……」
 お義母さんがぽつりと途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
 そのせいか時計の音だけがひどく響いて聞こえた。
「ほとんど覚えていませんから」
 消失病……。
 それが彼や綴喜の両親が死んだ病名だ。
 最初の症例である患者は日本人の高校生だった。
 ある日、突然に体が透ける様に霞みはじめたという。
 それは全く前例のないことだったため世間をひどく騒がせた。
 研究機関や学会でも大々的に何度か取り上げられはしたが……。
 原因は一切不明、まったく未知の病気のため為す術がなかったという。
 そして、その数年後……少年は消えた。
 少年が消えたことに最初に気づいたのはいつも通り見舞いに来た家族で、病院側はそのことに気づきさえしなかった。
 ナース、医師……病院関係者で少年を覚えている者はいなかったのだ。
 残ったのは膨大な消失病のカルテだけで、その少年を覚えていた者は家族だけだったという。
 そして、病院側を告訴したその家族も数ヵ月後にその告訴を取り下げる。
 理由は何故、裁判を起こしたか分からなくなったからだった。
 消失病と名付けられたその症状は、ゆっくりと体が消えていき、周囲の人間から忘れ去られ、最後はある日突然、この世界から消えていく。
 綴喜の両親も、私の恋人であった彼もその患者の一人だった。
「申し訳ないのですが、先ほど言ったようにかろうじて自分の子がいたことを覚えている程度なんです」
 お義母さん自嘲的に笑う。
「全く死んだことに実感もないし、何の感情も沸かないんです。それもどんどん強くなって……」
 お義母さんがどういう気持ちか良く分かった。
「お義母さん、私の中でも彼のことが少しずつぼんやりとしてきてます」
 そうゆっくりと薄れ、消えていく。
 思いも、その姿も。
 最も思いは二年前に死んでいたのだろうが。
「そうですか……なんなんでしょうね。この病気は……」
 多分、お義母さん達も彼が死んだ時、涙を流さなかったのだろう。
 とても残酷で……そして優しい病気だ。
 残された人の思いさえも消してしまう。
 それはどれだけ寂しいことだろうか。
 彼は最後まで私に会いたいと思ってくれなかったのか。
 それとも、どうせ忘れられるならと思ったのだろうか。
 アスファルトに吸い込まれる雫のように。
 色あせてしまった街角のポスターのように。
 勝手だ。
 ひどく勝手だ。
 勝手だと思うのは好きだという気持ちが消えているからだろうか。
 それとも私が勝手だからだろうか。
 そんなことを思いながら、お母さんと彼のことを話した。
 私の知ってる彼のこと、私しか知らない彼のことを。
 忘れてしまう前に。確認しあうように。
 ……。
 …。
 話が終る頃、和室は真っ暗だった。
 お義母さん達と食事を済ました後、薄暗い縁側に腰掛ける。
 風が涼しくて心地いい。
 もうすぐ初秋だというのに鈴虫の音が辺りに響いていた。
 その音に耳を傾けながら、そっと彼の残した黒い日記帳を無造作に開く。
『自分の病名を聞いた。今日から日記をつけてみようと思う』
 日記には短く一日、一日が綴られている。
『多分、ボクは助からない。そっと首筋に剃刀を当ててみた。分かった。死ぬこと、消えることが怖いんじゃない。忘れられることも怖くない』
 なら、私を呼べば良かったのにと思った。
『ずっと怯えて考えてた。死んだらどうなるかよりも。もっと他のこと』
『会社の上司が会いに来た。僕のことはほとんど覚えていなかった。忘れられることにはもう慣れた。そのおかげで少し考えがまとまった気がする』
 この後はしばらく病院でのことが綴られていた。
『同じ症状の女の子と会った。まだ小学生だそうだ。』
『一緒にトランプで遊んだ。明日また会おうと僕に手を振っていた』
 ……。
『何も考えたくない。大人はすぐまたとか、いつかとか言ってしまうんだ。ごめんね…ごめんね』
 ここからしばらく日付が飛んでいる。
 日記が再開したのは死ぬ数日前からだった。
『考えないようにしてたことを考えた。ずっと常葉のことが気になっていた。常葉と行った川や一緒に歩いた町のこと、これから一緒に歩むはずだった道のこと。僕たちの破り捨てられていくページのこと。だから考えることにした。常葉のことを』
 私の心臓の鼓動音が一気に大きくなる。
 この日を境に文量が変わっていた。
『常葉と一緒に夏の縁側でアイスを食べたことを思い出した。常葉のほっぺにクリームがついてて僕が指で取ってあげたら怒ってた。子供扱いするなって。今、会えば少しは身長が大きくなってるだろうか?いつも僕はからかって意地悪してばかりだったけど。お互いに仕事が忙しくて全然会えなかったなぁ。すねてまたほっぺた膨らませてるのだろうか。会いたいなぁ。でも会えないんだよ、常葉。君は僕に会いたいのかな?』
 その後も綴られる私のこと……。
 私の好きな場所。私の好きな食べ物……自分のことをもっと残せばいいのに。
 なんで私のことばっかり……。
『常葉の性格は分かってるつもりだ。ねぇ、常葉。僕がもしここで君に会ったら……君はどう思う? 僕はそれが怖いよ。僕は消える。でも君は残る。君は前に進んでくれるだろうか?飼っていた子猫が死んだ時、君はもう子猫を飼わないと言ったね。僕は例え僕が消えても君には前に進んで欲しい。君がこの日記をもし読んだら笑って欲しい。私をそんな女だと決めつけるな、てね』
『残せるものもない。残したくないんだ』
 なんでだろう……。
 そんな心なんて枯れ果てたと思ったのに……。
『僕のことは忘れろ。二年も待たせてひどい奴だろう。恨んでいい。だから忘れろ』
 この言葉って……。
 脳裏に綴喜の人懐っこい笑顔がフッと浮ぶ。
「なんだよ、同じようなこと言うなよ……」
 好きだった気持ちなんてもうないのに。
 二年も放っておいて……。
 なのに、なんで胸がこんなに熱いんだろう……。
 最後まで自分勝手で……。
 バカで……。
『常葉に出会えてよかった。さよなら』
 目の前を光が通りすぎていく。
 小さな儚く弱い光だ。
 それが私の手の甲にとまる。
「まったくいつもいつも……」
 空に向かって私はつぶやいた。
 蛍だ。
 何匹もの蛍が庭を飛び交う。
 こうやって二人で座って……。
 蛍を……蛍を……。
「勝手で、バカで……だから私は、私は……」
 私は日記をそっと閉じる。
「……さよなら」
 ああ……。
 私は最初からさよならを言うためにここに来たのかもしれない。
 夜空に星は煌煌と輝いている。吸い込まれるように蛍の光が天にかえって行く。
 さよならは届いただろうか……。
 私は……もう一度ここから始めなければいけない。
「あら……秋蛍」
 いつの間にか背後に義母さんが立っていた。
「きれい……あの子も好きで……あの子……」
 お義母さんが首をひねる。
「あの子って誰かしら?あら、貴方は……」
「お義母さん……」
 私は自分の手の平を見つめる。
 薄く透けた私の手から、スッと蛍は飛び立っていった。
「貴方は……常葉さんよね、うん。いやだ、私ったら……」
 お義母さんは私を見て苦笑いを浮かべていたのだった。
 ……。
 …。
 あの夜の後、私はお義母さんに発病していることを告げず彼の家を出た。
 電車から降りると私の足は住みなれたアパートに向かって、ハイヒールのまま走り出す。
 風は少し冷たくなりだしてる。
 それは一つの季節が終わり、新しく始まろうしていたからだ。
 もう後悔はしたくない。
「あう!」
 つまずいて足がもつれた。
 そのままアスファルトの水たまりに身体ごと飛び込む。
 構わない。私はハイヒールを脱いで、泥だらけのまま走る。
 私は二年も待っていただけで……結局何もしなかったではないか。
 もう、そんなのは嫌だ。
 乱れた呼吸のまま駆け足で階段を上る。
 その先にあるのは綴喜の部屋だ。
 やや緊張しながらアパ−トのドアノブを握った。
 綴喜……。
 私が消える前にすること……。
 それは残すことじゃない。
 私の心に刻み込むことだ。
 綴喜の事、綴喜といる時間のことを。
 ドアノブを握ったまま固まった。
 指先が震えた。それはどんどん強くなる。
 また勝手なことを考えてしまった。
 私のしていることは綴喜をひどく傷つけることかもしれない……。
 いや、怖いんだ。否定されるのが。
 自分の迷いで見捨てようとしたんだから。
 でも、踏み込まなきゃダメだ。
 同じことの繰り返しだ。
 でも伝えなくちゃいけない。
 彼に似てるからじゃない。
 私は綴喜が……綴喜の事が……。
 ドアノブを回そうとした時、ふいにドアが開き私は頭から倒れこむ。
「あうう……」
 頭をさすり上半身を起こす。我ながら少し情けない姿だ。
「あ……」
 私はつぶやく声に気づき顔をあげた。
 そんな私を見つめているのは……綴喜だった。
「どうして……」
「うむ。君の言うとおり追い出されてしまった」
 毅然とした態度でいつも通り強がってみせる。
「いや、住む所もなくて難儀しててな」
 違う、こんなことを言いたいんじゃない。
 私は、綴喜が……。
「綴喜……あの」
 少しの間。
 その後、微笑んだ綴喜はポンと私の頭に手を置く。
「常葉さん、お帰りなさい」
 その言葉を……聞きたかった言葉を綴喜は言ってくれた。
「と、常葉さん?」
 私は泣いてた。
 声を出して、泣いてた。
 綴喜を見上げたまま。
 涙が乾いた心に染込んでいく。
「ただいま……綴喜」
 綴喜は私に手を差し出す。
 最後まで生きてみようと思う。
 何も残すことは出来ない。
 それでも私は色んな大切な物を覚えて消えていきたい。
 私は差し出された綴喜の手を強く握り返した。


この作品が気に入っていただけましたら『高得点作品掲載所・人気投票』にて、投票と一言感想をお願いします。
こちらのメールフォームから、作品の批評も募集しております。

●感想
つかさけんさんの意見
 ジャンゴ五郎さま。はじめまして。つかさけんと申すものです。作品拝読させていただきました。

 初めに感じたのはセンスが良いな、ということ。
 ガジェット(ラムネ等)やキャラの名前、情景。綺麗な感性をお持ちだな、と。

 それだけに「惜しい!」と思いました。
 文章に無駄が多過ぎる。そしてなにより「説明」が多すぎる。
 最初の「正午過ぎ〜」の一文がすでに無駄です。いきな りラムネを出した方が良い。
 今は何時か、はキャラ同士の会話で表現可能です。
 極論すれば「何時かどうかなんてどうでも良い」匂わせてくれるだけで充分で す。
 
 「子供っぽい我侭で〜」も説明になっています。
 書かれなくとも主人公が「子供」なんてとっくにわかっています。
 「描写」して下さい。貴方ほどの書き手ならば理解しておられるでしょう。

 キャラが悲しんでいる時に「悲しい」と書いては(言わせては)いけない。

 一人称での心理描写は極めて難しい。油断をするとすぐに説明過剰になる。そして「正直になりすぎる」。
 普通の人間はなんでもかんでも「正直」に「語る」ことはありません。
 本当は「悲しい」のに、「全然平気だね」と見栄を張ったりする。
 でも見栄を張るから こそ、より、「悲しい」のだな、と思わせることもできます。
 また、「子供っぽい」と感じさせることもできます。


藤林 蘭さんの意見
 心理描写が上手い!!
 心にズクズクと刺さるような辛さです。キッツイ。
 2人の心の葛藤とやらが凄くでてて、いいな〜とかって思いました。

 消失病というワケワカラン病気が出てきましたな。
 イイ小道具です。ヒロインの悩みやらなんやらがいろいろとあわせるのにピッタリッス。
 まあ、邪推かも知れませぬが。

 ワタシなどがコレ以上うだうだと感想とか述べても仕方ないんで、この辺で。では。


たむらさんの意見
 どうもはじめまして、ジャンゴさん。たむらと申します。
 ラムネキッス・グッバイ、ラムネキッス・ハロー拝読させていただきました。

 まず、キャラの名前が凄まじくブッ飛んでますですね。
 ときわときは、つづつつつづき、一体この二人の親は何を考えてんだ! 
 とツッコミつつも、そのセンスに感服です。

 中学生と女教師ですかー。いいですねー、本当にいいですねー。
 シチュエーションに無条件でノックアウトされました。
 とりあえずご飯三杯は軽くいけると思ったので、炊飯器のスイッチ入れちゃいましたよ!
 
 チラリズムの描写というか、あー、ちょうど背中がかゆいんだけど、中指があと数センチ届かなーい、
 みたいな表現に強く魅かれます。琴線に触れてくる文章と言い換えてもいいですね。
 きっとジャンゴさんは人の焦らすのが上手いんですね。悪い人だ(笑)。

 メインの二人の、ある種屈折した関係、心情を消失症という奇妙な病気が、
 上手く暗示しているように感じました。
 ジャンゴさんはそこまで狙っていたわけでは ないのかもしれませんが、少なくとも僕はそう感じました。
 いいお話というものは、作者の意図しないところで作品の雰囲気が結びついてしまうのだと思いま す。


うっぴーさんの意見
 『消失病』というのもなかなかおもしろい設定だと思いました。
 ただ、病気と言うより、オカルト的な呪いに近いモノなので、
 最初に発症者が現れた際の社会の驚き様なども盛り込むと、よりリアリティが出たでしょう。
 
 また、存在を忘れてしまうという病気? にもかかわらず、お義母さんと常葉が、
 二年経った今も彼のことを強く思っていることに、やや矛盾を感じました。
 それほど強く思っている人が親族にいるのなら、裁判を取り下げたりしないのではないでしょうか?
 ストーリーはとても優れていたので、『消失病』の練り込みが甘かったことが悔やまれます。
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