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ほうきんさん 著作 | トップへ戻る | |
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オヤジ、オヤジ! 来たぜ、来たぜ、お客がよ。
まったくこのオヤジ、最近めっきり老けこんじまって、すぐ居眠りしちまいやがる。 すんませんね、お客さん、ちょっとお待ちくださいよ。すぐ起こしやすからね。 おらよっ、パシャッとね。ほら、水かけられて目え覚ましやがった。 おっ、お客さん、一万円札ですかい。お金持ちですね、羨ましい。 ポイはいくつにしやす? ふたつ。え〜と、一個三百円だから、二個で六百円。するってえと、釣銭は〜、あ〜、おう、九千四百円だ。 ほら、ぼさっとしてねえでさっさと釣銭渡しなよ。オヤジがボケてて釣銭間違えんじゃないかって、お客さん心配そうじゃねえか。 釣銭、水槽に落とすなよ。こないだ五百円玉なんか落とすもんだから、ビックリしちまったぜ。 さあ、お客さん、ポイを持ちましたね。思い切りすくってくださいよ。とはいえこの金太郎、この水槽で産湯をつかった根っからの屋台金魚。プロですからね。そうそう簡単にはすくわせませんよ。 おい、みんな、準備はいいか? おい、金造、あと五センチ下だ。お客さんは左手でポイ持ってるだろう。その位置じゃスナップが効いて、一発で持っていかれちまうぜ。 出目ハチはもうちょっと手前に出て来い。そこじゃあお客さんに見えねえだろうが。怖いのはわかるが、こっちも商売。魅せる仕事をしなきゃあなあ。 さあお客さん、こっちは準備万端。一丁勝負といきましょう! 生暖かく気持ちよい水がユラユラと揺れる昼下がりの水槽の中、五匹の子金魚たちが、興味津々に金太郎を囲んでいた。 「そのポイの速いこと速いこと、まさに稲妻のポイ捌き。仲間は神隠しにあったみてえに次々消えちまう。もう水槽大パニックよ」 「そ、それで金太郎おじさんはどうなったの?」 子ども金魚たちは、小さな胸ビレをパタパタさせ、目をキラキラと輝かせた。 「まあまあ子どもたち、そんなに焦るんじゃあない。ちゃんとお話し聞きたかったら急かしちゃいけえねよ。この金太郎おじさんの金魚人生の中で、ヤツは図抜けてた。なんでも一枚のポイで一分間に二十匹すくったなんつう記録も持ってたらしい」 「こ、怖えー!」 子どもたちは口をパクパクさせ、可愛い尾ビレをブルッと震わせた。 「そんなヤツが、ポイを五枚も買っての挑戦だ。五十匹ちょっとしかいねえ俺たちの全滅は必至。商売あがったりになるオヤジも青くなってた。俺たちは必死で逃げた。逃げる勢い余って水槽から飛び出しちまうヤツまで出る始末だ。だけど相手が上だった。疾きこと風のごとく、侵略すること火のごとくってな、おっと、こりゃ人間の世界のお偉い人の言葉だ。坊主ども、覚えとけ」 「うん!」 「み〜んなすくい上げられちまった。最後におじさんが残った。ヤツの最後のポイが、ゆっくりおじさんの迫ってきた。いいか、子どもたち。後ろから慌ててポイで追いかけてくるヤツァ、下手くそだ。すぐ紙が破れちまう。うめえヤツはな、ゆっくり正面からくる。けっして焦らねえ。こっちが焦れて動いた瞬間、チョイとポイの枠に引っ掛けられて、気がついたらお碗の中だ」 出目金の子が、大きな目をさらに見開いた。 「ヤツのポイが、目の前でピタリと止まった。おじさんもピクリとも動かなかった。我慢比べよ。先に動いたほうが負ける。我慢できなくなったのは向こうだった。ポイが目にも止まらぬ速さでおじさんに迫った。その瞬間!」 子金魚たちはゴクリと息を呑んだ。 「おじさんはポイに向かって突っ込んだ。カウンターってやつだ。おじさんは紙をブチ破ったんだ。最後のポイを失って、ヤツの悔しそうな顔っていったらもう」 「ス、スゲー!」 子供たちのどよめきに、金太郎は気持ち良さそうに胸を張った。 金太郎は下を向き、背ビレを子供たちに見せた。 「ホラ、おじさんの赤白模様の境目に、傷痕があるだろ?」 「うん」 「これはな、その時ポイの枠にぶつかってできた傷だ。いわば屋台金魚の勲章ってやつだ」 「おじさんの赤白模様は色がキレイでくっきりしてて、ほんとに立派だね」 「ありがとよ、坊主。子どもたちもおじさんみたいに立派になりたっから、しっかりエサ食べて、しっかり泳げ。そうすりゃ必ず、お客さんの視線を独占できる、立派な金魚になれるからな」 「金太郎、すまないな。子どもたちの面倒みてもらって」 金太郎よりやや小ぶりな赤い金魚が頭を下げた。 「おう、金吾か。なに、昼間は客がいねえからな。だけど今日から夏祭りは本番だ。夜は忙しくなるぜ」 「そうだな。今夜は打ち上げ花火がある。できれば子どもたちに見せてやりたかったんだが」 金太郎と金吾は、水槽から斜め前を見上げた。 「目の前の焼きトウモロコシ屋が邪魔で、そいつは難しいだろうな。だけど子どもたちの先は長え。この先、いくらでも綺麗な打ち上げ花火を見る機会はあるだろうよ」 金吾がふと口調を変えた。 「なあ、金太郎。前からひとつ聞きたいと思ってたんだが」 「おう」 「金太郎は人間にもらわれていく気はないのか?」 「なんでえ、やぶから棒に」 「金太郎はこの水槽一番の古株だ。体格も立派だし、お客の目も引く。居てくれたほうがオヤジさんも、面白い話をたくさん聞かしてくれるんで子どもたちも喜ぶ。だけど……」 金吾は言いよどんだ。 「だけど俺たちは所詮、夏祭りやら縁日やらを次から次へと渡り歩く旅ガラス。いつか気に入った人間にすくわれて、そこの水槽で過ごすのが正しい金魚の生き方だと思うんだ。俺は子どもができてしまった。そいつがちゃんと片付くまではここにいるつもりだ。だけどお前は違う」 「なんだ、金吾。オメエ、俺が邪魔だ、この水槽から出て行けって言いてえのか」 金太郎が胸ビレで力コブをつくってみせた。 「そ、そんなこと言ってないだろう。それじゃあ例えばお前、”こういう人間にもらわれたい”っていう希望はないのか?」 金太郎は、胸ビレを顎に当てて考え込んだ。 「そうだなぁ。いや、そういうのがねえ、ってわけじゃねえんだが……」 「おっ、どんなだ。言ってみろよ、金太郎」 「へへっ」 金太郎は水槽の底へ行き、胸ビレを底板に当ててこねくりまわした。 「ちっと照れるがよ。俺の理想のタイプは、歳は四十くらいで和服の似合う年増だ。オバハンじゃあねえぜ。結い上げた黒髪と白いうなじから色気が漂ってくる、そんな年増美女がよ、水槽の前で和服の袖を押さえて、しゃなりとポイを動かすんだ。その動きがまた色っぽくてよお。俺は吸い込まれるように自分からお碗に入っちまう。連れていかれたところは粋な小料理屋だ。女は女将だったんだ。俺はそこの看板金魚になる。そして女将目当ての客が言うんだ。『女将は金太郎っていういいヒトがいるから、他の男には目もくれない』なんてな」 「そ、そんな人が屋台で金魚すくいするかな?」 金太郎の胸ビレの動きがピタリと止まった。 「バカヤロー! だから俺は今もここにいるんだろうが」 金太郎は体を震わせて怒鳴った。 「い、いや、悪かった。金太郎の夢をバカにするつもりはなかったんだ」 金吾は胸ビレをブンブン横に振った。 「フン、いいよ、いいよ。どうせ俺はいい年こいて理想の女を夢見てるバカなおじさん金魚よ」 金太郎は拗ねて、プイと横を向いた。 ユラユラ揺れる水面上の太陽が、西に傾きはじめていた。 「金吾、昼寝してる連中にボチボチ体を動かしておくよう言っとけ。それから子どもたちには水面に近づかねえよう、口を酸っぱくして言っとけよ。子どもは目え離すとすぐ危ねえことやりたがるからな。ま、俺も人のことは言えねえがよ」 「おい、金太郎、なにボンヤリしてるんだ?」 金吾が胸ビレで金太郎の顔をピタピタと叩いた。 夏祭りもたけなわの夜である。 「水面を見上げてボーとして、エサでも浮いてるのか? ボケッとしてるとすくわれるぞ」 金太郎は我に返った。 「いま金魚すくいやってんのはド素人ばっかだ。ポイの構えでわかんだよ。眠ってたってすくわれるもんか。そんなことより、ちょっとあれ見ろ」 金吾は不審げに金太郎の視線の先を追った。 「なんだ、ガキ連れのくたびれたおっさんじゃないか。あーあー、下手だなあ。ポイを半分だけ水に漬けちゃってる。あれじゃ乾いた部分と濡れた部分の境目が破れるよって、あ、破れた。金魚に触ってもいないのに。あー、子どもが父親を見る目つきの冷たいこと。父親の権威ガタ落ちだ。と、あれがどうした?」 「違う、そこじゃねえ、その左後ろのほう……」 金太郎がヒレで指す方向には、浴衣姿の若い女が二人立っていた。 「いま混んでるから空くのを待ってるんだな。茶髪のほうはたいしたことないが、黒髪のほうは清楚な顔立ちで、今どき珍しいタイプだ。女子高生ってとこか」 「ミカちゃんっていうらしい。隣の女がそう呼んでた。さっきからずっと目が合っててよお……」 金太郎は上を向いたまま、微動だにしない。 「そういやあのお嬢さん、ずっと金太郎を見てるな。きっとお前をすくい上げようって狙ってんだ。身の程しらずなことだ。あの手のお嬢様タイプは運動神経まるでなしって相場は決まってる。金太郎をすくおうなんて百年はや……って、まさか、おい金太郎!」 「ああ、どうやらそのまさかだ。俺を見る眼差しによお、愛を感じるんだ」 「おいおいおいおい金太郎」 金吾は胸ビレで金太郎を突いた。 「お前の言ってた理想のタイプと全然違うじゃないか」 「二十年経ったら、俺の言ってた女になるよ。俺にゃあ分かるんだ」 「お前、あと二十年も生きる気か?」 金太郎はゲンコツをゴツンと金吾に食らわせた。 「悪いか!」 「い、いや、悪くない、悪くないけど……」 金吾はスリスリと頭をなでながら弁解した。 「金吾、おりゃあそれなりに自分の金魚人生について悩んでたんだよ。他のヤツはみんな良さそうな人にもらわれていく。中にゃあうっかりミスでとんでもない人間に連れて行かれるヤツもいたけどよ。それだって、いま不幸かどうかなんて神様じゃなきゃわからねえ。俺だって良さそうだなと思った人はいたよ。だけど自分を預ちまう踏ん切りがつかなかった。だけど今わかったよ。おりゃあ、あの娘、ミカちゃんにすくわれるために、これまで水槽に残ってたんだってな」 「金太郎……、本気か?」 「ああ、本気だ」 金太郎は顔を引き締めて、真面目くさって頷いた。 金吾はヒレを胸の前で組み、目を瞑って沈思黙考した。 「金太郎、いいんだな?」 「ああ、運命の出会いだ」 金太郎はキッパリと断言した。 「よし、わかった。お前がそう思うなら、もう何も言うことはない。めでたいことじゃないか」 「金吾」 「ちょっと待ってろ、金太郎。あの娘の順番まで少しあるから、みんなに知らせてくるよ、子どもたちにもな。寂しがるだろうけど、仕方ない。これはめでたいことなんだからな」 金吾は胸ビレで目頭をグイと拭った。 泳ぎ去ろうとする金吾の肩を、金太郎が掴んで引き止めた。 「待ってくれ、金吾。できればそっと、この慣れ親しんだ水槽から旅立ちてえんだ」 「なんだって! そんな水臭いこと」 「大仰なことは苦手だ。それにな……」 金太郎はしんみりとつづけた。 「子どもたちがな……。おりゃあ静かにあのミカお嬢さんに持っていかれるからよ。後はオメエのから皆に話しといてくんねえか。『金太郎はマヌケにもすくわれていっちまった』ってな。決心が鈍りそうでよ……。金吾、水槽のこと、後はオメエに頼むぜ」 「金太郎……」 「ミカお嬢さんの順番が来たぜ。少し左に寄れよ、金太郎。そのほうがすくわれやすい」 「世話になったな、金吾」 金吾は金太郎と視線を合わせようとしなかった。 「あ〜、やっぱあのお嬢さん、てんで素人だ。お前のほうからお碗に飛び込んでやらなきゃ難しいんじゃねえか」 「そうだな。最後はそうするよ。けど出来るだけポイですくわれてやりてえ。そのほうがミカお嬢さんも”自分ですくった”っつう満足感があるだろうからよ」 「もうノロケてやがる。じゃあな、金太郎、俺は行くぜ。お前がすくい上げられるところなんか見たくない」 「ああ、見送りはこれで十分だ」 「アバヨ、金太郎。幸せになれよ」 ミカのポイは、躊躇いなく金太郎の下に入れられた。 (ああ、こんなんじゃ俺は持ち上げられねえよ) 金太郎はちょいと体を左に動かした。 (よし、これで体重が枠に分散されて持ち上がる。いよいよこの水槽ともお別れか。ミカお嬢さんの顔がよく見える。キレイな顔立ちしてるな。将来美人になるぞ。ヘヘッ、なんだかこそばゆいな、この金太郎が幸せを求めるなんてよ。さあ、水面に近づいてきた。ミカお嬢さん、なかなかうめえじゃねえか」 「うわあー、た、大変だ!子どもたちが、子どもたちが!」 一匹の金魚が絶叫した。 「大変だ、子どもたちがエアー供給器のほうに追い込まれてる」 「バカ! 底のほうにいれば、あんな所に!」 「遊んでたんだよ! 度胸試しでどこまで上に行けるか」 「ああ! ダメだ! 供給器の上隅に追い込まれたら、もう逃げ場はねえ、子どもたち、根こそぎ持ってかれちまうぞ!」 大人の金魚たちが次々に叫ぶ。 「ワーン、ワーン! 助けて、誰か助けて!」 子金魚たちの悲鳴が水槽に響いた。 (金吾、この水槽の大将はオメエだ。子どもたち、助けてやれ) 「早く助けなきゃ」 「助けるたって、ああなっちまっちゃ、もうどうにもこうにも……」 金太郎の体が水面の上に出た。じっとして、あとはお碗に収まるだけだ。 「ワーン、ワーン、助けて、誰か助けて! 誰か! 金太郎おじさーん!」 (さあ、俺は幸せになるぞ〜) 「バッキャロー、水面にゃあ近づくなってあれほど口酸っぱくして言ったろうが!」 「ご、ごめんなさい、ワ〜ン」 子金魚たちは、しゃくりあげながら涙をボロボロ流した。 「あんな乱暴そうなガキにすくわれたらな、おめえらみてえな体力のねえ子どもじゃあ、水袋ごとブン回されて、家に着く前には腹を上にしてプカプカ浮いてんだ。そんで猫のエサにでもされちまうんだ、わかってんのか!」 「ごめんなさい、ごめんなさい、金太郎おじさん、ワ〜ン、ワ〜ン」 金吾がおずおずと声をかけた。 「あ、ありがとう、金太郎。子どもたちを救ってくれて。お前が駆けつけて水面上にジャンプしてポイを破ってくれなかったら、今ごろ……」 「おめえも親ならしっかり言い聞かせとかねえかい!」 金吾はうなだれた。 「め、面目ない……。それに金太郎が怒るもの無理はない。せっかく自分の幸せ掴もうとしてたときに……」 「バッキャロー、そんなこと怒ってねえよ」 「け、けど……」 金太郎はプイと横を向いた。 「おりゃあな、許せねえんだよ」 「だから子どもたちが」 「ちげえよ。おりゃあな、おりゃあ……」 「……」 「……子どもたちが悲鳴あげてんのによぉ、おりゃあすぐに動けなかった。いや、動かなかった。つまんねえ自分の幸せのためにな。こんな大口叩くだけの金太郎おじさんを、子どもたちが頼ってくれてんのに……。こんな先の知れたフーテン金魚の行き先なんか、子どもたちの未来とは比べモンになりゃしねえってのによお……」 「金太郎、おめえ……う、うわっ!」 金太郎と金吾の間に、いきなりポイが突っ込まれた。 ポイは乱暴に金太郎をすくいあげると、あっという間に水面に浮かぶお椀へ入れた。 「き、金太郎〜! や、やばい。子どもだ! 頭の後ろにオモチャのお面をずらして、腰にプラ刀を差してる。なんていたずら好きそうなガキなんだ。あ、あ、オヤジが金太郎を水袋に入れた。ああ〜、小僧、いきなり振り回してやがる、あ、あれじゃ、いくら金太郎でも!」 「金太郎おじさ〜ん!」 水槽に子金魚たちの叫び声がいつまでもこだました。 ―― 俺としたことが油断しちまったぜ。それにしても世界はグルグル回りやがるなあ。まったくこの人間のガキャ、ブンブン振り回しっ放しで手加減てものを知らねえ。ウプッ、こりゃさすがの金太郎もヤベェな。頭がクラクラしてきやがった。ああ、ユラユラと光って見えんのは、夏祭りの打ち上げ花火だなあ。そういや、花火をオヤジの水槽以外から見るの、これが初めてか。ちっとでもブン回すのやめてくれりゃあ、じっくり観れんだがな。ああ、体がだんだん重くなってきた、いや、軽くなるかな。それが金魚の死に様だしな。まあ、最後に子どもたちを助けたんだ。金太郎の死に様としては悪くは……なかっ……た……。 「姉ちゃ〜ん。見て見てー。こんな大きい金魚取ったよ」 半ズボンにブラスチック製の刀を腰に差した少年が、浴衣姿の姉を見つけた。 「こら、ケンタ! 迷子になるから姉ちゃんから離れちゃダメだって言ったでしょ」 「怒らないでよ。これ、ミカ姉ちゃんにあげようと思って取ったんだ。はい、あげる」 ケンタは水袋をグイと差し上げた。 「まあ、ありがとう、ケンタ」 弟からのプレゼントを、ミカは目の前にかざして覗き込んだ。 「あら、この金魚! まあ、弱ってるじゃない。大変、すぐ家に帰って水槽に移してあげなくちゃ」 「姉ちゃんが買った立派な水槽。やっとお魚さん第一号が入るね」 ケンタは得意満面で言った。 ミカは金魚の入った水袋を、中の水が揺れないよう右手で優しく吊り下げた。 「そうね。それにしても大きな金魚さんね。気は優しくて力持ちの金魚さん”金太郎ちゃん”という名前にしましょう。さ、ケンタ、姉ちゃんの左手を握ってなさい。金太郎ちゃんがこれ以上弱る前に急いで帰るわよ」 ―― 俺の金魚人生、まだまだ捨てたもんじゃねえ。 |
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