![]() |
やむちゃさん 著作 | トップへ戻る | |
|
![]() |
雨風が窓を叩きつけ雷が休みもせず鳴り続けている。そんな外の景色とは対照的に室内は静まり返っていた。
「犯人はこの中にいます」 ああ、今まで何度この台詞を言った事だろうか。今は馴れたけど過去何回か緊張して噛んだんだよな、犯人はこにょ中にいますとか。あの時の空気は思い出したくもない。 「しかし永瀬君、私達には皆アリバイがあるんだよ。それは君も納得していたはずじゃないか」 きたきた。居るんだよなこんな奴、警察関係者でも無いのにアリバイなんて言葉得意げに使っちゃって。しかも大抵口うるさいオッサンばっかりだ。何故かこの手のオッサンは死なないんだよなあ。 「はい、私も最初はそう思っていました。しかし……」 今回もいつも通りだ。決まった流れで事は進んで行く。 初めて殺人事件に係わったのは高一の頃だった。現場は学校で殺されたのは同じ美術部の先輩。たまたまその事件を俺が解決した時から俺の周りで頻繁に殺人事件が起こるようになった。 俺は次々とその事件を解決し高校生名探偵なんて言われて天狗になっていたけど、そんなの初めの内だけで途中からはうんざり。だって行く先々で殺人事件が起こるんだもん。バイトに行けばバイト先の人が死にスキー旅行に行けば必ず天候が崩れてペンションに閉じ込められた上どんどん人が死んでいき学校では行事毎に誰かが死んだり。おかげで知り合いはほとんど死んじゃった。 「じゃああの部屋が密室っだった事についてはどうは説明するんだ?」 あまりにも事件が起こるんで一回わざと犯人探さなかった時があったんだけど、そしたら俺と犯人以外みんな死んじゃってさ。もうソイツしかいねえじゃん、みたいな。 その時に気付いたよ、どうやっても俺を探偵役にしたい大きな力が働いてるってね。俺がどうあがいても無駄なんだ。 「それも今から説明します。あの部屋は密室のように見えましたが実は……」 その現象は大学生になった今も当然続いている。この前なんてネタに詰まったのか密室のトリックが『犯人は実は超能力者でサイコキネシスを使って裏側から鍵を掛けました』だってさ。笑っちゃうだろ? たまたま俺が犯人がコーヒーカップを落としそうになった時サイコキネシスを使ってテーブルに戻すのを偶然見てたからよかったようなものの。もはやギャグの領域だ。 「なんだって?それじゃあ」 そんな風に俺はひたすら事件の犯人を当て続けた、名探偵という役で。どんな悲惨な事件だろうが俺には退屈な演目に過ぎない。 「ええ、それが実行出来たのはこの中でただ一人」 そして俺は壊れた。 「犯人はあなたです、杉田さん」 永瀬が俺の方を指した。 「見事です永瀬さん。全てあなたの推理通りだ」 「しかし一つだけ分からない事があります。あなたはこの旅館に泊まりに来たただの客、殺された女将さんとは知り合いだという話も聞いていない。日本一の名探偵と言われるあなたがいったいどうして?」 「俺は降りたかったんだ、この名探偵という役から」 自然と笑みがこぼれる。 「役? 何を言ってるんですかあなたは」 「その正義感と興奮に満ちた目。俺も初めはそうだったんだ。でもだんだんとおかしくなっていった。お前達に想像出来るか? 出来ないだろう。何回も死体に触れてきた。何回も人のおぞましい悪意を見てきた。最終的には全部喜劇に見えてきた。もう俺は発狂する寸前だ。いやもうおかしくなっているに違いない、何せ人一人殺しているんだからな。でも今はほっとしているよ、やっとこの呪縛から抜けだせるんだ」 「他人の命と引き換えに……ですか?」 「自殺も考えたさ、でも俺だけこんな苦しい思いをするのは不公平だ。誰か他の奴にも同じ苦しみをあじあわせたいと思うのが人間だろ?」 そう、それが君だ。 おそらくこれからは君が僕の代わりになるだろう。 いつまで続けられるかな? 名探偵という役を。 |
![]() |
![]() |
●感想
ダイヤモンドダストさんの感想 やむちゃさま、はじめまして。ダイヤモンドダストと申します。 拝読しました。面白かったです! 指摘すべきところが見当たりませんでした。 私の敬愛する東野圭吾先生の、「名探偵の掟」を彷彿とさせています。 最後シリアスになりましたが、ギャグっぽい路線で行っても面白いと思いました。 これからも頑張って下さい。 下駄箱の化け猫さんの感想 オチのカッコ良さには魅せられました! 僕は単純なので思いっきりミスリードしてました。 こんなショートショートに僕はあこがれています。 次も頑張って下さい。 カエルさんの感想 こんばんは、やむちゃさん。はじめまして。カエルというものです。 コナン君の気持ちはこんな感じなんでしょうかね。悲しいような。 さて、私はこの作品でげらげら笑わせてもらいました。特に自分と犯人以外はいなくなってしまったとこと、サイコキネシスには。 でも、気になったことがあります。私は『俺』=『永瀬』だと、勘違いしていました。わざとそれを狙っているのですよね? でも、ちょっとわかりにくいような気がしました。 短いですがこれくらいで。カエルでした。 綿火薬さんの感想 こんばんは。読ませていただきました。 うん。面白いですね。掌編らしい設定が得意なんでしょうか。序盤から中盤にかけては非常に良い流れだと思います。 しかし。 後半は、逆に言えば設定に負けている気がします。 中盤までのノリでオチまで持って行ってるような。 しかもギャグ→シリアスの流れなので、余計に尻すぼみ感を受けてしまいます。シリアス→ギャグだと効果があるんですが。 例えば…… いつも厳しい先生がギャグを言うと面白いかもしれませんよね。8割方ぽかーんってなると思いますけど(笑) でもいつも面白い先生が突然厳しくなると、たぶんほとんど全員引いちゃうと思うんです。「えー……」みたいな。このお話はそういう印象を受けました。僕は掌編ではオチを一番重要視する方なので、余計に気になったんだと思います。うーん。非常に惜しい。 ではでは。また次回作も頑張ってください。 かずのんさんの感想 楽しく読ませていただきました。 最初、「長瀬」だと思っていたのに本当は「杉田」さんだというのは驚きました。 一人称の盲点を突いた、いい作品だと思います。 月乃守さんの感想 「そして俺は壊れた」までの部分が、主人公の境遇や設定を提示することに集中してしまっているようです。 推理ショーが今、目の前で行なわれているという雰囲気がなかなか伝わって来ないかなと感じました。 “名探偵による推理ショー”と“名探偵となってしまった主人公の語り”のバランスをもう少し上手くとるようにすると、もっと面白くなるんじゃないかなと思いました。 黒夢さんの感想 感想としてはお見事の一言です。 冒頭部分での杉田=台詞と思わせる巧みな錯覚描写。 中盤部分での理不尽な現状に対する呆れと達観。 終盤部分での予想を裏切る真相に永瀬を昔の自分と重ね合わせ嘲る様。 ただ、それだけにオチの描写が簡素だったのが残念でした。 私的にはもうちょっと杉田の苦悩の様子が見たかったので。 一言コメント ・フィクションの名探偵が実際にいたらただの疫病神ですよね。この話すごくよかったです。 ・彼らの宿命に対する理不尽さを見事に語っていますね。 短い中に叙述トリックもあって、とても面白かったです。お見事! |
![]() |
![]() |
![]() |