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世界モグラ

 ある草原に一匹の若いモグラがいました。
 彼は毎日ミミズをムシャムシャ、ケラをムシャムシャ、四時間行動しては、四時間きっかり睡眠をグウグウ、スヤスヤ、と真にモグラらしい生活をしていました。
 そんなある日モグラは自分の食料貯蔵庫で食事をしていたところ、地上からなにやら音が聞こえてきました。
 ムシャムシャムシャムシャ。
 シャクシャクシャクシャク。
「これは僕が食べてる音じゃないぞ」
気になったモグラは地上へ這い出てきました。そこには角が一本欠けてる長いヒゲをもったヤギがいました。モグラはヤギに質問しました。
「あなたは誰?」
 ヤギが歯をむき出しながら笑いました。
「私はヤギさ、モグラ君」
「こんなところでなにしてるの?」
「食事さ」
 モグラは辺りを見渡しました、といってもモグラは殆ど目が見えないので聴覚と嗅覚で辺りを探りました。
「こんな地上には美味しいミミズはいないよ。でも美味しそうな虫がいるよ」
「私はそんなものは食べない、ヤギが食べるのは草さ。モグラとヤギ、君と私は違うんだ」
 モグラは首を傾げました。
「でも、ヤギもモグラも食事はするよ、何も食べなかったらお腹が空くさ。あなたはお腹が空いても食べないの?」
 ヤギは少し考え………微笑みながら答えた。
「食べるよ、食事をしなきゃお腹が空くのはヤギもモグラも同じだね。」
 ヤギはそう言い残し去っていきました。モグラは食事を再開しました。

 ヤギとしばらく別れたある日モグラは自分の寝床で寝ていたところ、地上からなにやら音が聞こえてきました。
 グウグウグウグウ。
 スヤスヤスヤスヤ。
「これは僕が寝ている音じゃないぞ」
 気になったモグラは地上へまたも這い出てきました。そこには目が一つ欠けている長いヒゲをもったオオカミがいました。モグラはオオカミに質問しました。
「あなたは誰?」
オオカミは鋭い牙をむき出しながら笑いました。
「俺はオオカミさ、モグラ君」
「こんなところでなにをしてるの?」
「睡眠さ」
モグラは辺りを見渡しました、といってもモグラは殆ど目が見えないので肌で感じました。
「こんな寒い地上には寝れないよ。でも此処の地中はとても暖かいよ」
「俺はそんなところでは寝ない、オオカミは寝る場所は地上さ。モグラとオオカミ、君と俺は違うんだ」
 モグラは首を傾げました。
「でも、オオカミもモグラも睡眠はするよ、ずっと眠らなかったらとてもつらいんだ。あなたは眠らなくてもつらくないの?」
 オオカミはしばし考え………笑いながら答えた。
「寝るさ、睡眠をしなきゃつらいのはオオカミもモグラも同じだな」
 オオカミはそう言い残し去っていきました。モグラは睡眠を再開しました。

 オオカミとしばらく別れたある日モグラは自分のトンネルを掘っていたところ、地上からなにやら音が聞こえてきました。
 ブツブツブツブツ。
 ブツブツブツブツ。
「これは僕が出してる音じゃないぞ」
 気になったモグラは地上へまたも這い出てきました。そこには腕が一本欠けてる長いヒゲをもった人間がいました。モグラは人間に質問しました。
「あなたは誰?」
 人間は鼻で笑いました。
「俺様は人間だ、モグラ」
「こんなところでなにをしているの?」
「お祈りさ」
 モグラは辺りを見渡しました、といってもモグラは殆ど目が見えないので聴覚と嗅覚を使いました。しかしモグラには全然分かりません。そこで肌で感じてみましたがやはり分かりませんでした。
「こんな地上にはお祈りするものなんて無いよ。地中にも無いさ」
「俺様はそんなものには祈らない。人間が祈るのは神様さ。モグラと人間、お前と俺様は違うんだ」
モグラは首を傾げました。
「でも、人間もモグラも食事はするよ、睡眠だってするさ。あなたは違うの?」
 人間は口を歪ませて答えました。
 「うるさい、人間とモグラは違うんだ。盲目の、何も知らないモグラめが……………」
 人間はそう言い残し去っていきました。モグラは仕事を再開しました。

 人間しばらく別れ、長い月日が経ちました。年老いたモグラは静かにその生を閉じようとしていたところ、穴の周りからなにやら音が聞こえてきました。
 …………。
 …………。
「よくわからないけど……僕じゃないぞ……………」
 気になったモグラの周りからもやもやした光が這い出てきました。そこからもやもやは爪が一本欠けてる長いヒゲをもったモグラの形になりました。
 モグラは光ってるモグラに質問しました。
「あなたは………誰?」
 光ってるモグラは笑いました。
「神様じゃない者さ、モグラ君」
「こんな、ところでなにをしてるの?」
「生きてるモグラ君に会いに来たんだよ」
 モグラは辺りを見渡しました、といってもモグラは殆ど動けないので…………考えました。
「此処の地中にはもう生きてるモグラはいないよ………もちろん地上にも」
「君がいるじゃないか、神様じゃない者は世界に存在するのさ。でも、神はいないんだ。だからモグラと神様は違うのさ」
 モグラはゆっくり、首を傾げました。
「でも……………モグラもヤギもオオカミも人間もいつか死んじゃうんだ…………僕もそろそろ死ぬさ。あなたは違うの?」
 神様じゃない者は答えました。
「違うよ、生きているモグラ君。角が一本欠けてる長いヒゲをもったヤギは生まれた草原で生き続けてるよ。目が一つ欠けている長いヒゲをもったオオカミは綺麗な星空の元で生き続けてるよ。腕が一本欠けてる長いヒゲをもった人間は少し違う場所に寄り道をしてから生き続けるよ。モグラ君だってこの豊かな土の中でずっと生き続けるよ。世界もモグラも同じだよ。ずっと、ずっと生きているのさ」
 神様じゃない者はそう言い残し去っていきました。モグラは見えない目を閉じました。
 少ししてモグラは死に、


 
 豊かな世界の土の中で生き続けました。


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●感想
一言コメント
 ・よくありそうなおとぎ話かもしれない。けど、この優しさは本物だと思う。好きです。

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