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『目覚ましニュース』なんか大嫌いだ。
なんで牡牛座の恋愛運が三日連続で最低なんだ。そっちがそのつもりなら、明日から『ズームイン・スプラッシュ』を観てやる。ざまみろプロデューサー。 情緒の無いテレビに見切りをつけて、僕は朝の通学路へ踏み出した。 ――今年でもう十七歳。なのに、僕にはまったく恋人ができない。 “黒泉(こくせん)高校の失敗アンガールズ”こと十文字兄妹にさえ今年恋人が出来たというのに、これはどういうことだろう。キモカワイイというよりキモグロイと評判の兄妹に春が訪れたのに、なぜ僕には訪れないのか。 もしかすると、何かが決定的に足りないのかもしれない。 顔? 背丈? 頭の良さ? ……全部だったら、どうしよう。 悩み始めるときりがない。モヤモヤを枕にぶつけて発散するのも限界だった。 変なプライドは捨てて、これはいい加減誰かに助言をもらうべきなんだろう。そうだ、それがいい。それも僕のことをよく知っている、近しい人間に。 となればあいつしかいない。 輝かしい突破口のご登場だ。なんで今まで気付かなかったんだろう? ふはは、何だか陽の光がいつもより明るく見えてきたぞっ。 今日の昼休みにでも、じっくりと相談してみよう! 「――と、いうわけなんだけどカオル。僕には何が足りないと思う?」 「恋をあきらめる潔さでしょ」 返答は、日本刀のように鋭い突き放し。 ……あれ? 陽の光ってこんなに暗かったっけ……? 机の前でうなだれる僕を見て、さすがにカオルにも思うところがあったらしい。 ピンクの弁当箱の横に箸を置く。僕と対照的に長い黒髪を掻き揚げると、切れ長の瞳を細めて面倒そうに言葉を続けた。 「というかね真(まこと)、なんでアタシにそんなこと訊くのよ?」 「いや、幼なじみだし、カオルなら男女の気持ちに鋭いから参考になる意見が聞けるかなって思って……」 カオルの唇から漏れる大きな溜め息。そんな、あからさまに嫌がらなくても。 「昼時にメンドイのよあんたは。アタシが食事の時間は心穏やかに過ごしたいことぐらい、幼なじみのあんたなら知っているはずでしょうが。……、…………。解った、解ったから捨てられた成犬みたいな、悲しいを通り越して空しすぎるその目をやめなさいよ。あんたに足りないものでしょ?」 「そう。何だと思う?」 カオルは細い顎に手をやり、僕の頭のてっぺんから足先までを眺めてから「そうね」と呟いた。 「あんまり人のこと言えないけど、まず“僕”っていう一人称を何とかしなさい。あんたには合わないし、相手によってはそれだけでアウトよ。それにもう幼い頃とは違うんだし。甘ったれてんじゃないわよ。次は髪型。自宅で切っているんだっけ? 今時ありえないから。それに短いし。あんたに比べれば高校球児だってパリコレのモデルよ。もう少し伸ばしたら美容院に通いなさい。その後で髪に合わせて私服も考えること。中学校時代のだっさいジャージをスポーティとは呼ばせないわ。神が許してもアタシが許さない。おしゃれに気を配れない人間が恋人どうこうなんて問題外だから。あと重要なのは日常のしぐさね。あんたの歩き方とか物の食べ方って、基本的に乱暴なうえに下品で見てらんないのよ。現代に復活したネアンデルタール人のつもり? 考古学者は喜んでも一般人はさっぱり笑えないわ。異性ってそういう細かなところを意外に見ているから、致命傷になりやすいわよ。恋人が欲しいなら徹底的に直しなさい。それから……って、どこ行くのよ真。まだ話は済んでないわよ?」 僕は、自分でも解るほど力の無い声で答える。 「あはは……これから帰宅して母さんに“産まれてきてごめんなさい”って謝ろうかと」 「このぐらいのアドバイスであっさり心を折ってんじゃないわよ」 アドバイス? 新手の殺人術だとばかり思ってたよ。 ――今さらだけど、どうして過去の僕がカオルに相談を持ちかけなかったのか、その理由がはっきりしてしまった。 カオルの口撃は毒にまみれていて、心構えが出来ていないと死んだおじいちゃんに容易く逢える。だから僕は、無意識に遠ざけていたんだろうなぁ。 ふふ、勝手に盛り上がった今朝の僕ったらお馬鹿さん……。 「アタシのアドバイスが欲しかったんでしょ? ウジウジしてどうすんのよ」 「落ち込みもするよ。外から見た僕がそんなにダメダメだったなんて。あー、恋人が出来ないのも無理なかったんだなぁ。あはは、は。でも、ありがとうカオル。参考になったよ……」 強がりにしか聞こえないだろうお礼を言い、無理矢理笑う。 そんな哀れな僕を、カオルは黙って見つめていた。そうしてからふと視線を外し、咳払いをひとつ。 「蓼(たで)食う虫も好き好き」 「え?」 「そうやって、自分の欠点を素直に受け入れられるのは貴重な美徳よ。……そんなあんたを好いてくれる奴も、広い世界のどっかにはいるんじゃないの? 自分に足りない物を補うのが難しいなら、補ってくれる人を見つけるのもひとつの手かもね。磁石みたいに上手くいくかもよ?」 ――えーと、もしかして。これは慰めてくれている、のかな? 「例えば、どんな人?」 「そうね……総じて自分に鈍感な真には、感性が鋭くて物事をハキハキと伝えることの出来る、面倒見のいい人なんかが最適かもね」 はぁ、なるほど。 ん? でもそれって……。 「――その人って、まるでカオルみたいだね」 何となく思いついたことを口にしただけなのに、カオルの顔が大げさに強張った。 「は、はぁ!? 馬鹿じゃないのあんた、やめてよ気持ち悪い! 今すぐ死になさいよ!」 そこまで言うか。 「だいたいアタシはっ……」 と、そこで。友達の優奈(ゆな)が、どこからともなく僕らの間に現れた。 「はいはい、そこまでねカオルちゃん。もうすぐお昼休み終わっちゃうよ? 次の時間は体育なんだから、着替えの時間も気にしなくちゃね」 「ふ、ふん。解ってるわよっ」 鼻を鳴らしたカオルは残っていたお弁当をあっという間に平らげると、体操服を手に教室を出て行ってしまった。 僕と優奈は、いきり立つその背中をただ見送るしかない。 「……何であんなに怒るかな」 「うふふ。たぶん、照れちゃったのよカオルちゃん。言葉はキツイけど、ほんといい子よねー」 優奈にはカオルの気持ちが理解できるらしかった。むぅ、僕って本当に鈍いのかも。 「ところで、カオルちゃんとどんな話しをしてたの? 小耳にはさんだところだと、恋愛相談かな?」 「……実は、そうなんだ」 「あ、やっぱり。でもそれってピッタリかも」 優奈は朗らかな笑顔を浮かべて続けた。 「カオルちゃんオカマさんだから、男の子の気持ちも女の子の気持ちもよく理解できそうだもんね」 「うん。でも、もう少し繊細な幼なじみの気持ちも理解して欲しいよ」 二人して笑いあったところで、予鈴が鳴った。あ、次は優奈の言った通り体育だ。急がないと。 「僕らも行こう」 「うん。マコトちゃん、今日の種目だけど女子はバスケだって」 「ホント? やった!」 うん、ちょっとテンション上がった。恋人のことは置いといて、今はバスケを楽しもうっと。 ……あ、でもちょっと女の子らしく、丁寧なシュートを心がけようかな? 毒まみれだったけど、貴重なアドバイスだしね。 後で、改めてお礼を言っておこうっと。 そんなことを考えながら、僕は優奈と一緒に女子更衣室を目指すのだった。 |
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●感想
一言コメント ・タイトルはちょっとひどい。ネーミングセンスの欠如っぷりにびっくり。しかし問題の中身は文句なし、大満足です。まさかのどんでん返し、しかもそれがダブル。面白かったです。 ・だまされないと思いながら読んでいましたが見事にだまされてしまいました…とても面白かったです! ・今まで読んだ小説の中で、一番後味が良かった(笑)。 ・自分と同じ名前なのでカオルちゃんに親近感感じました。 ・長文嫌いの自分でもすんなり読めた上に、叙述トリックにビックリ。まさにライトなノベル。 ・カオルちゃんがかわいかったです。アンガールズ残念。 ・っはぁ〜、騙されました。思わずにやり。 ・伏線の張り方がうまい、と思いました。 ・見事に騙されてしまいました。カオルちゃんのキャラ、何だか好きですね。 ・いやもう見事に騙されました。「コレはツンデレ! GJ!」と思っていた俺が恥ずかしい。 ・気持ちいいぐらいに騙されました・・・・・・。 カオルのキャラに惚れました。 |
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