高得点作品掲載所     大盛貝塚さん 著作  | トップへ戻る | 


やさぐれでぃ

 逆に言えば、窪村マキナは、二つの欠点を除けば、彼女として付き合うのならば、ほぼ完璧な二十歳なのだ。
 まず見た目がかわいい。俺より年上の人に言うセリフとしては生意気かもしれないけど、あいつは芸能人レベルだと言っても過言ではない。
 ストレートの長い髪は、神様から目をつけられた証拠。そこに光あるならば、エンジェルリングは永久に消えない。大きな目に長いまつげ、少しとんがった鼻が、モンゴロイドとは思えないほど。少し厚めの唇は、ときおり息を呑むほど官能的にぷるんと震えるのだ。
 少し長い首、スレンダーな胴体には絶妙な大きさに育った胸。腰がビーナス像みたいにくびれ、長い足が彫刻みたいに理想的な肉付きで伸びる。
 性格だって、悪いわけじゃない。基本的には親切だし、面倒見がいい。意図して悪いことはしないし、善人なのは間違いない。ドラゴンボールでクリリンがフリーザに殺されるシーンを見て泣きそうになっていたのだから、間違いないと思う。
 大学に行ってはいるけど、頭がいいとは思わない……勉強ができるとかできないとか、そういうことじゃなくて。ふらふらと男を喰いまくってるのでもないの だけど、なんとなく見ていて不安なのだ。いまいち頭と体の回転と反応が遅いというか。よくドジるし、石につまづいてこけるし、落し物も忘れ物も寝坊もす る。隙が多いというか。母性本能(または父性本能)をビンビン刺激するのだ。ひょっとしたらオヤジにウケるタイプかも。
 そんな、ある意味最強の女子大生が俺の従兄弟なわけなのだが。
 しかもひとつ屋根の下で同居しているのだが。
 ああ、確かに何にも知らない奴らからしてみれば、夢みたいな生活かもしれない。
「きれいなお姉さんは好きですか?」「ええ、三度の飯よりも! 処理後の無駄毛を茶碗一杯食えます!」というような変態も俺のクラスには十人くらいいるから、そういう面ではこれ以上ないくらい恵まれた環境にいるのかもしれない。
 だがしかし、考えてみて欲しい。その代償に、俺の双肩に世界の運命が乗っかっているとしても、果たして恵まれていると言えるのかどうかを。
 史上最大の二つの欠点を知った後でも、同じことが言えるのかどうか。



○やさぐれべる いち
(やさぐれLv.1 日常生活に不穏な影が差す。 判断基準:喫煙、飲酒などを行い始める。)

「いてっ」
 と、俺は頭を押さえる。ごつん、ぶちっ。そんな音が脳天から響いて、激痛が走る。
 くっそー。見上げると、公園に毎年巣を作るカラスが、俺の髪の毛を数本掴んで飛び立っていくところだった。真っ黒な、これ以上ないというほどのありきたりのカラス。妙に毛つやがよくて、羽が黒光りして夕日に映える。不吉なほどに。
「なんだよ、もう夏になるのに今頃巣作りかよ……」
 というものの、俺はふとした不安を覚えるのだった。
 こういうことは以前にもあった。ごく最近なら、二〇〇八年、去年の秋だ。その時もやっぱり、このカラスが季節外れの巣作りを始めて、俺の頭を一時的に円形脱毛症にしたのだった。
 まさか。俺は嫌な予感を覚えながら、頭をカバンでガードして、しつこく寄ってくるカラスと死闘を繰り広げながらその公園を離れた。くそ、もうしばらくはあの公園に近寄れないぞ。高校への登下校は遠回りしていかなければ……。
 やっとのことでカラスを振り切り、ようやく家路へついたところで、ふと道路の真ん中に座る猫と目が合う。
 黒猫だ。これもまたカラスと同じように、一本たりとも白い毛の混じらない、純粋な黒猫。金色の目でにらみつけて、その猫は不吉ににゃあと鳴く。
 ごくり、とつばを飲み込む。カラスに続き黒猫。まさか、これは。
 黒猫はいっとき俺をにらみつけて、何かを思い出したかのようにさっと道を横断し、家の塀の陰に隠れて、もうどこに行ったかわからない。
 俺の心臓はどきどきと高鳴りだす。これは、ひょっとして予兆か?
 気になった俺は、近くの神社に駆け込む。ダッシュで事務所に行き、おみくじを引く。
 結果は、ものの見事に大凶。それから何回も引くけど、凶、小吉、凶、大凶、大凶、末吉、大凶という非常にテンションの下がる結果に。千円分おみくじを引いたところで、俺は諦めて全部境内の木にくくった。
 これでほぼ確信したけれど、それでもまだ一縷の望みをかけて、俺は家に急いで戻る。慌ててネットに接続し、無料の占いサイトをいくつか開く。
 今日の星座占い。俺の星座はおひつじ座。金運、星二つ。恋愛運、星二つ。仕事運、星ゼロ個。
 血液型占い。俺はA型。今日の運勢は「運勢は全体的に低調。しかもこれからどんどん落ちていく見込み。うまくいかないときは、じたばたしても仕方ないこともあります。まずはゆっくり休んで、頭をすっきりさせて。ラッキーカラーはレインボー」
 タロット占い。結果は「最悪です。時には諦めることも大事」。
「また……始まったのか……」
 俺は目の前が真っ暗になった気がした。去年はあれだけの被害を出したのに、また今年も同じことの繰り返しになるのか……?
 いや、そうは言ってられない。俺は気合を入れなおし、あいつを探す。
 台所に行き、母さんに尋ねる。
「なあ、マキナ帰ってきてない?」
「マキナちゃん? まだ帰ってきてないけど、何かあった?」
 俺は重々しく口を開いた。
「例のやつ、また始まったかもしれない」
 それを聞いた母さんも、しばらくは意味がつかめていなかったが、すぐに俺の言いたいことが理解できたみたいだった。
「……大変! 今日はハンバーグにしなきゃ! 急いでひき肉買ってくる!」
「デザートのメロン忘れないでよ!」
 母さんはエプロンをつけたまま、慌てて財布を片手に家を飛び出していく。おれはその姿を見送って、親父にメール。
 ――マキナの件、注意されたし。第一次戦闘配備。
 返信はすぐに来た。普段なら俺のメールなんて三日後くらいにしか返してこないのに。
 ――了解。帰りにデパートの最高級水ようかんを確保する。帰還予定時刻一九○○。
 そこまでしたところで、碓氷に連絡しようかどうか迷う。が、まだ確定したわけじゃない。万一の誤情報になったとしたら、後で面倒なことになる。今のところ、こちらで対処できることならば、それに超したことはない。
 さて、そろそろマキナの授業が終わって戻ってくる時間だ……。

「――ただいま」
 がちゃり、とドアが開いて、マキナが入ってきた。
 ただいま午後五時三十二分。今日はバイトがないから早めの時間の帰宅だ。台所では母さんがハンバーグをコネコネ中。メロンはさっき冷蔵庫に入れたところなので、まだ冷えていない。予定時刻より早い遭遇だ。俺にとっては、あんまりよくない傾向。
「ああ、マキナちゃん。お帰り」
 母さんが顔を出して出迎える。俺もドアの隙間からちらりと見ると、なんとなく疲れた顔のマキナ。
「ヒデちゃん、つかれたぁぁ。もう、人生にぃ」
 ふううん、と少し甘えたような声で俺に寄ってくるマキナ。女の子特有のいいにおいが鼻腔を刺激。胸元のゆったりとしたワンピースの隙間から、ふっくらとした部分が眼に入る。ごくり。
 いかんいかん、冷静になれ。Be cool!
「俺のアイスは冷凍庫のポケットに入ってるけど、もうすぐ飯だから我慢だな」
「ううう……いじわるう」
 俺の肩にもたれかかったマキナが、はあ、という大きなため息をついた。ふらふらと二階の自分の部屋へと上がっていく。
「……まずいな」
「そうね。ヒデ、これ買ってきたからマキナちゃんに渡して」
 そう言いながら母さんが取り出したのは少年ジャンプ。買い物ついでに買ってきたらしい。確かにマキナはジャンプ派だが……。
 まあ、いいか。母さんの微妙なご機嫌取りは、何かとボディーブローのように効いてくるのだ。いくらか効果はあるだろう。ジャンプを持って二階に上がり、俺はマキナの部屋をノック。
「へえい」
 低い声で返事があり、ドアを開ける。
 マキナは窓際に腰掛けていた。窓枠に肘をつき、外をぼんやり眺めながら、
「なんや、ヒデちゃん、どしたん?」
 ちなみに関西弁のマキナの発音、「ヒデちゃん」の「デ」にアクセントが来る。それからふーっとため息。そして煙の臭い。
「タバコ吸ってんのかよ……」
「ヒデちゃん、人には明日を削ってでも一時息をつきたいこともあるんよ」
 と、無駄に達観したセリフを吐くマキナ。やれやれ、と首を振って立ち上がる。
「何かあったのかよ」
「んん? 別になんもないよ。お腹すいただけやって。で、お願い、これ冷やしといて」
 と言いながら渡されたのはコンビニで買ったらしいビールの缶だった。
「お父さんとお母さんとあたしの三人分。ヒデちゃんのはコーラでええやろ?」
 ああ、ヤバイ。これは完全に第一段階だ。そのとき、窓の外にストッと音がして、黒猫が横切っていった。
「とりあえず、飯までこれでも読んで待ってて」
「おお、ジャンプやん! さすがヒデちゃん、気ぃきくわ」
 そう言ってパラパラとめくりだすマキナ。気が利くのは俺じゃなくて母さんなんだが、そんな母さんに感謝多謝。
 と、マキナの表情が急に曇りだす。
「……アカン、またハンター×ハンターやってへん」
「もう諦めろよ! 万一載ったらラッキーくらいでさあ!」
「しかも今週のTo LOVEるは先週号よりエロくない!」
「それのエロさを二十歳の女子大生が毎週チェックしてどうすんだよ! 完全に思春期男子ターゲットだろ! てかエロいほうがいいのかよ!」
「ああ、おまけに今回のジャガーさん、微妙や……」
「うすた先生を馬鹿にするなぁ!」



○やさぐれべる に
(やさぐれLv.2 周囲に不運が訪れる。判断基準:うつむいて独り言を言い出す)

 そんなわけでせっかくのジャンプも、逆効果になってしまった。おそらくそのせいだ。事態が第二段階に進行してしまったのは。
「ええんよ、ウチなんか、しょせんジャンプにも見放されるんやから。どうせウチなんて、単なる居候やし、関西弁なおらへんし、ハタチになってもまだ処女やし……」
 とブツブツ独り言を言い出したからヤバイとは思ったんだ。こうなったら一刻も早く夕飯での回復を図らねば。てか、ハタチになった今でもまだ……!
 マキナのある意味衝撃告白の余韻を残したまま階段を駆け……下りる途中で罠が仕掛けてあった。
 ヤツの名はパンティ。洗いざらしの憎いヤツ。
 世の男性全てが興奮する魔法の布切れ――の一種だが、残念ながらマキナではなく、今年四十五歳になった母さんのものだった。
 それが洗濯物を取り込んで一階に持って降りるときに、はらりと一枚落ちたみたいだった。
 俺の足は、見事に正確にそのトラップの上に。
 つるん。
 俺は次の瞬間、まるで冬季オリンピックのルージュのごとく、背中をきつく打ちつけて猛スピードで階段を落ちたのだった。スケルトンでなかったのがまだ救いだ。
 とりあえず俺の落下音を聞きつけた母さんが助けてくれたが、背中を打ってもんどり打ってる俺がそこにいた。なんかもう、不幸だった。
「ちょ、もう、だめ……」
「しっかりヒデちゃん! ヒデちゃんがいないと世界は破滅しかねないのよ!」
 母さんがそう言いながら、背中にシップを貼ってくれる。ああもう、この姿はまるで七十超えたおじいちゃんみたいだ。俺、まだ十六歳ですよ。
 よろよろになった体で、俺はようやくのことでケータイを取り出した。もうこれは完全に事態は進行している。ここまで来ると、俺は報告の義務が生じる。
「あの野郎、出るかな……?」
 ケータイのアドレスを検索。コール三回目でつながった。電話に出たのは、マキナとは違って緊張感漂う、大人の女性の声。
「はい、こちら内閣府特別設置委員会」
「感情型特殊体質対策室の碓氷さんお願いします」
「はい、『やさぐれでぃ対策室』の。少々お待ちください」
 ああ、内閣府なんてお堅い組織の、決して表に出てくることのない部署なのに、こんなふざけた愛称でいいんだろうか。そんなことを考えていると、がちゃりと受話器の向こうで音がして、
「バカヤロウ! どうしてくれんだ!」
 どデカイ声で怒鳴ってきやがるから、おれは耳がキーンってなる。
「お前、またマキナをやさぐれさせてるだろう!」
「俺のせいじゃないですよ! ジャンプに言ってください!」
 ん、俺がまだ何も言ってないうちにそんな話になってるってことは……?
「まさか、何か被害出てます?」
「出まくりだこのボケ。さっきから黒猫が列を成して俺の前を通り過ぎるわ、靴の紐はぶちぶち切れるわ、おまけに俺の今日の馬券、ものの見事にかすりもしねえ。どうせ去年と同じく『やさぐれでぃ』の仕業だろうが! となるとお前の責任だ!」
 突然の責任転嫁。駄目だ。この人、駄目な大人の見本だ。死ねばいいのに。
「競馬なんてあんたの読みが外れただけでしょうが! こっちは十六歳の体が約七十歳まで老いてるんですよ。どっちが不幸かわかるでしょ?」
「知るかそんなもん。俺は俺が幸せだったらそれでいいんだよ。だから俺の出世を邪魔してるお前なんざ、どうなっても知ったこっちゃない。むしろ死ね」
 ああ、なんか呪いとか詳しい人とかいないかな。この殺意を実行に移したい。瞬殺したい。
「そもそも、去年のサブプライムローンからリーマンの破綻まで、全部やさぐれでぃの仕業じゃねえか。やさぐれでぃのご機嫌とるのが君の仕事じゃないんですかぁ? 聞こえてるかい、僕ちゃん?」
「……あんた、貯金してる?」
「あ? なに言ってんだ。してるに決まってるだろ」
「あっそ。じゃあもうすぐレベルが上がって銀行破たんだな。俺が何にもしなければ」
「英雄君、君なら世界を救える! もはや頼れるのは君しかいない!」
 一瞬で態度変えやがる。駄目だ。駄目人間だ。死ねばいいのに。
「じゃあ非常事態に備えて緊急予算とっとけ! 一億くらいで済んだら御の字だ」
「承知しました! 十億ほど念のため確保致します!」
 ぶちっ。乱暴にケータイを切る。こいつと話すと毎度キレそうになる。これで本当に官僚なんだから日本は腐ってやがる。
 そのころ、ようやくマキナが降りてきた。ジャンプはなんだかんだ言ってしっかり全部読んだらしく、指先がインクで汚れている。
「……おばさん、ごはんが」
「あ、マキナちゃんお腹すいた? 今、マキナちゃんの好きなハンバーグ焼いて――」
 あ、と母さんは振り返る。
 僕の湿布を貼っている間、フライパンの中に置いてけぼりにされていた肉塊たちは、ぶすぶすと黒い煙を上げて怒りをぶちまけている……。
「ごはん、もう終わった?」
 ぼすん。マキナのセリフと共に、黒い、元ハンバーグの炭素の塊が音を立てる。確かに今日の夕飯終了。食べる前に終了。



○やさぐれべる さん
(やさぐれLv.3 不景気が訪れる。判断基準:引きこもり、言葉を交わさなくなる)

 よっぽど腹が減っていたのか、マキナは何も言わず財布を握り締め、自転車に乗ってコンビニへと再び旅立っていった。俺と母さんはそれを見送って、大急ぎで(でもイヤイヤながら)碓氷に再度連絡。
「碓氷、マキナが外に出て行った! 誰も近づけるな、不幸になるぞ!」
「なにぃ! お前、ちゃんと捕まえとけよ!」
 電話越しに碓氷が怒鳴りつける声が聞こえた。お前、××市××周辺に緊急配備だ! このボケがやさぐれでぃ逃がしやがった!
 ……んの野郎、聞こえてるって。
「……っておい! お前、テレビつけてみろ」
「はあ? テレビがどうしたんですか」
「いいから早く!」
 腹が立つが、言われたようにテレビをつける。ニュースキャスターが慌てた様子で原稿を読んでいた。
「臨時ニュースです。この度、日本の大手○○銀行に巨額の負債が発生しているとの発表がございました。これを受けて株価は急激に下がり――」
 おおっと、これはヤバイ。すでにもう一段階、レベルが上がっている……。
「ったく、やさぐれでぃ担当になったのが運の尽きかよ。この俺にあんな面倒なもの押しつけやがって、上はなに考えてんだ」
 つぶやくのは電話の向こうの碓氷。その言葉に、俺は余計にイライラする。

 窪村マキナ。その特異体質にはこんな名前が付いている。
「先天性感情型ダウナー的特殊体質」
 非常にめんどくさい名前。大体、――性とか――型とかいう名前が付いているものって大抵、よくわからないからこんな感じのものでしょ的な扱いのものだ。てか「ダウナー的」ってなんだよ。名前付ける人、めんどくさくなって適当になってるじゃん。
 で、これがなんなのかって言うと、生まれついて持っている一種の超能力みたいなものだ。理由はわからない。メカニズムなんて調べようがない。けれど、効果は確かに絶大だった。
 マキナの能力は何かというと、早い話が、落ち込むと周囲も巻き込んで不幸になっていくというものだ。そんな現象を引き起こすマキナは、人呼んで「やさぐれレディー」、略して「やさぐれでぃ」。
 台風を考えて欲しい。大気の気圧が局部的に下がって低気圧が生まれる。それがどんどん大きくなって台風になる。この場合、中心部が一番気圧が低く、周囲はそれに巻き込まれていくかたちになる。
 マキナの場合、これを空気の代わりに、例えば運勢なんかに変えて考えればいい。マキナを中心に、運勢の気圧がマキナの気分と共に落ち込んでいくのだ。
 本人が凹む→周囲を巻き込んで運勢が悪くなる→そのまま凹み続けると渦を巻きながら勢力拡大→他人に迷惑→日本に迷惑→地球に迷惑→非常にヤバイ。
 その状態によって、マキナの行動と現象は五段階に分けられている。地震の震度みたいなものだ。その落ち込み方、やさぐれ方によって被害状況を分類し、「やさぐれLv」略して「やさぐれべる」として表現している。
 とまあ言ってしまうと冗談みたいだが、事実、マキナの存在は恐ろしい。
 例えば一九九四年。バブル崩壊に加え、米の大不作、失業率が過去最大になるなど日本では非常に悪いことが起こった。このときの原因は、当時五歳だったマ キナが、その頃住んでいた大阪の郊外にある遊園地「ひらかたパーク」のプールで溺れかけ、非常に機嫌が悪くなったことが原因とみられている。
 この時、同じプールにマキナの近所の住人が来ていたのだ。たまたまその人が官僚で、マキナの機嫌の悪さと様々な不幸の相関に気づき、「やさぐれでぃ=窪 村マキナ」の構図が国に発見される。調査の結果、あまりの影響の大きさに、内閣府に翌年「特別設置委員会感情型特殊体質対策室」を設置。そしてマキナの両 親と委員会のメンバーのみ、マキナがやさぐれでぃであることが知らされたのだった。
 しかし、一般国民と本人にそのことは知らされていない。このことが広まってしまうと不貞な輩にマキナが狙われてしまうし、本人が知ってしまうとそのことで余計に凹んで落ち込んでやさぐれてしまう可能性があるからだ。
 この事実を知っているのは内閣府の一部の人間とマキナの両親だけだった。
 しかし表面上、普通の生活を続けているマキナ。マキナは一般人と同じようにすくすくと育ち、途中でやさぐれべるが増加して二〇〇一年の同時多発テロや二〇〇五年の「ハリケーン・カトリーナ」の原因となり、世界に密かに迷惑をかけながらも無事高校を卒業した。
 そして大学に進学。都内の私立に受かったマキナは故郷の大阪を出る。
 そして家が学校に近いからという理由で、去年から、親戚である俺の家に居候しているという訳だ。
 俺の家に来るにあたり、政府から、新たに同居人になる俺と俺の家族にはマキナの件を伝えられることになる。以来、俺たちはマキナの行動を常に監視しつつご機嫌を損ねないよう、細心の注意を払いながら住んでいるのだ。
 しかしそれでも去年はやさぐれべるが三まで上がってしまった。原因は、マキナが高校の頃好きだった先輩に彼女ができていたことを知ったからだった。おかげで大分落ち込んだマキナは去年の秋、世界を同時不況に陥らせたというわけだ。
 そのとき、たまたまマキナが立ち直るきっかけを作ったのが俺だということになり、内閣府きっての駄目人間の碓氷と、俺の両親まで、俺を対マキナの最終兵器として認識するようになったのだ。なんて迷惑な。
 よって俺にはマキナの面倒をみるという変な大役が押し付けられてしまったのだ。
 それはニアリーイコールで、世界平和が俺の肩に圧し掛かっているということでもあった。
 マキナの史上最大級の短所。それは、マキナがやさぐれでぃであること。しかも、けっこうナイーブで落ち込みやすいところ。
 こうして本日も、俺は――須坂英雄は世界の番人としてマキナの側にいることを義務付けられている。

「ただいま……」
 マキナは暗いオーラを醸し出しながらコンビニから帰宅。
 須坂家の面々は一度、せーので深呼吸し、マキナに異変を気づかせないように何食わぬ顔で出迎える。
「おかえりマキナちゃん。ごめんね、ご飯作り直すから」
「うん……」
 口数の少ないマキナに俺の背中を悪寒が走る。大阪人のマキナは普段はもっとおしゃべりなのに、こうも無口になってしまっているということは、かなり重症だ。
「コンビニに行ったら、なんか全部売り切れてた……。近くで交通事故起きたとかで、なんか搬入ができひんとかで……。あかん、もうあかん」
 マキナはそれだけ言うと、二階へ上がっていく。そっと後をつけると、ばたんというドアの閉まる音の後に、がちゃりと鍵の落ちる音が響いた。
「だめだ、完全に不幸の自家中毒になってる」
 俺はため息をついた。こうなると事態はいよいよ深刻だ。
「ああ、お父さんからメールがあったわ。『水ようかんは入手したものの、電車が事故により不通。復旧見込みなし』ですって。これはお父さんのフォローは期待できないわね」
 母さんから絶望的なコメント。これで常套手段の「好物で釣る作戦」は全滅か。
 そのとき、外が一瞬、ぴかっと光った。少し遅れて雷の轟音が響いてくる。それを皮切りに、土砂降りの雨が突然降り出してきた。
「これは、まさか……」



○やさぐれべる よん
(やさぐれLv.4 嵐を呼ぶ。判断基準:我慢できなくなって、周囲の人に絡みだす)

 急いで一階に降り、テレビをみると、緊急速報が写っていた。キャスターがヘルメットと河童姿で、お台場のレインボーブリッジをバックに中継している。
「突然発生した異常に勢力の強い台風十六号は、太平洋を北上し東京へ直撃するコースを取ると見られています。つい数分前に発生した台風がこのように一瞬で勢力を大きくすることなど前代未聞で……あ、見てください! 東京湾で竜巻が……!」
 こ、これは! てか一瞬で台風なんて発生すんのかよ!
「ヒデちゃん、これはまずいわ! なんとかして頂戴!」
「なんとかって何すんだよ!」
 母さんは途方に暮れる俺の肩をぽんと叩き、
「いい? マキナちゃんはこの東京砂漠に出てきて、本当の意味で心許せる人間はヒデちゃんしか出会ってないの。我が息子ながらよくできた男だと思うわ。いい? 本当の弟みたいに、本音を話せる人間は、今はヒデちゃんしかいないの。だから、マキナちゃんの悩みを聞いてきて」
 俺の肩を掴む母さんの手が、ぎゅっと力強く握られる。東京砂漠って、いやおうなく昭和を感じるぜ……。
「できるわ、あなたなら。私の息子だもの。信じてる。私とお父さんがあなたに『英雄』って名前を付けたのも、きっとこの子なら本当の英雄になってくれるっ て願いを込めて付けたんだから。そして事実、あなたは去年、見事マキナちゃんを立ち直らせて世界を救ったわ。だからヒデちゃん、あなたは今回も、きっとや れる! 世界を救える!」
「母さん……」
「だから私はしばらく実家に帰ってるわ。大体片付いたら電話ちょうだいね」
 そう言って母さんは、ばっと上着を羽織ると、貴重品を持って玄関へダッシュ。そしてどこかへ消えてしまった。
「お、ちょ、これって……」
 に、逃げやがったあぁぁ!
 やばくなったからってさっさと実家に逃げやがったあぁぁ!
 大人ってひでえぇぇ!

 そのとき、俺のケータイが鳴った。着信画面には碓氷の文字が。世界で一番話したくないヤツからじゃねーか。
 とはいえ、事態は進行している。俺は仕方なく、もう本当に残念な気持ちで電話に出る。
「おい、英雄。ヤバイぞ」
「んなこたぁわかってるよ!」
「いや、そうじゃない。台風もそうだが、今回のやさぐれでぃの原因だ。四六時中張り付かせて監視させているヤツから、マキナのセクシー盗撮写真と共に、情報が入ってきた」
「お前、さくっと盗撮写真確保してるんじゃねえ! 犯罪じゃねーか!」
「はん、そんなもん国家権力でもみ消してやる」
 ああ、人として駄目だ。最低だ。碓氷、生まれてきたことを謝れ。全世界に向けて土下座しろ。そして死ね。
「そんなことはどうでもいい。欲しけりゃお前にもやるよ」
 っく、そんな誘惑するんじゃねえ……! セクシーな想像しちゃうだろ!
「い、いらないっての! それより何だよ、その情報っての」
「例の、去年のサブプライムローンのきっかけになったマキナの高校のときの先輩。あいつが最近、マキナにコンタクトを取ってるらしい」
「え、それは……どういうことだよ」
 片想いで、しかもそのまま振られてしまった人に、今更になって連絡を受ける気持ち。それってどういうものなのか、経験のない俺には想像がつかない。
「まあ、ここから先はお前の出番だ。俺たちは電話の盗聴しているから大体の事情は知ってるが、それをお前に話す義理はない」
「なんだよ散々煽っといて、一番大事なところ伏せるんじゃねえ!」
「ふん。お前がやさぐれべるを抑えられなかったおかげで、デイトレード失敗しちまったじゃねえか。東証平均は昨日より二千円も下がってるぞ。俺の百万円返せー。今すぐ返せー。どうせ返せないお前に教えられるかー」
 すごく棒読み。何だこいつ、小学生かよ。てかデイトレードの失敗まで俺に弁償させようとするなよ!
「とにかくマキナの相談に乗ってやれ。早くしないと日本滅亡だ」
 そう言って碓氷は電話を切った。
「うるせー! 言われなくてもそうするよ!」
 ケータイを乱暴に閉じて、俺は二階に向かう。もう、誰も信じられない。大人なんて大っ嫌いだ……。

 ドアをノックすると、マキナが暗い顔で出てきた。
「あ、あのさ」
「ヒデちゃん……ちょっと入って」
 マキナに手を引かれ、俺は部屋の中に。
 マキナの部屋は、あんまり女の子っぽくない。どっちかっていうとシンプルなレイアウト。ベッドが窓際にあって、小さな机が部屋の中央。小ぶりの衣装ケー スとカラーボックスに大学のテキストと小説が少々あるだけ。テレビも置いていないのは、須坂家の居候であることに気を遣って、なるべく物を増やさないよう にしているからだ。
 そう、マキナは元来、そういう気のきく人間なのだ。優しく、繊細。なるべく人に迷惑をかけたくない。でも、その繊細さが、そして何の不幸か、やさぐれでぃであるがゆえ、この先一生、自分の想いとは裏腹に世界に影響を与えてしまう。密かに誰かから監視を受けながら。
 俺は思うんだ。これは結構、最大級の不幸なんじゃないかって。
「ヒデちゃん、お願い、教えて。男の人がなに考えてるのか、ウチよくわからへん」
 俺の肩にもたれかかり、マキナは少し涙声で話す。
 でも、なかなかその後の言葉が続かない。鼻をすすりながら、何かを言いたそうにするけれど、上手く言葉にならないみたいだ。
「なんだよ……」
 俺はそんなマキナの姿に動揺しながらも、それを表に出さないように努めて言う。
「うん、あんね……ウチが、高校のときに好きやった人がいるんやけど……その人、大阪からこっちに出て来てんの」
 マキナはゆっくり話し出した。
 手が俺の肩を掴んでいる。その手のひらが熱い。
「その人、大阪に彼女いるねん。いるねんけど、ウチに会いたいって……。何でって訊いたら、寂しいからって、ウチのこと気になってたからって……。なあ、どうしよ。ヒデちゃん。その人もうすぐ、ここ来るんや」
 なんだよ。なんだよそいつ。
 何のつもりだよ。
「そいつって、去年、マキナが話してた人?」
「……うん」
 そう。去年のサブプライムローン問題が起こったとき。マキナはその男に彼女ができたことを知り、かなり落ち込んだ。俺はその話をマキナから少しだけ聞い ていた。本当は碓氷からの報告で、事情は全部知っていたけど、そんなこと言える筈がない。俺は何も知らないフリをして、マキナと一緒に映画を見たり、買い 物を付き合ったり、とにかく気を紛らわせるようにした。なんとかその効果あって、マキナは立ち直り始めたところだったのだ。そしてその功績が(迷惑にも) 認められ、俺は晴れてやさぐれでぃ対策室からマキナ対策の最前線に立たされることになったのだ。
 ……まあ、それはそれとして。
「え、つまり、その男が遠距離の彼女がいるのに、マキナと付き合おうって?」
 俺の言葉に、マキナは一瞬、肩を震わせた。
 俺は、結局のところただの十六歳の男子だから、こういうときに変化球が投げられない。いつもストレートな言葉しか言えない。言ってから後悔することばかりだ。なんで俺は、こういうときに優しいアプローチができないんだろう。
 それでもマキナは応えてくれた。震えるような小さな声で。
「……うん」
「……それで、マキナはその人と会うのかよ」
「……でも……だって……ウチ、まだその人のこと」
 そのとき、机の上のマキナのケータイが鳴った。メールを受けたみたいだ。マキナがそれを確認して、息を呑んだ。
「……来はった」
 一際大きな稲光が差し込んだ。
 街に轟音が鳴り響く。
 雨は一層強さを増す。まるで俺たちの会話を邪魔するように。
 事実、俺とマキナは一瞬、何も言えなくなっていた。そしてマキナは俺から手を離すと、ゆっくりと立ち上がって部屋を出て行った。出る間際に、俺のことを一度振り返りながら。
 その仕草を、どう読み取ればいいのか。切ないのか、止めて欲しいのか。俺はわからなかった。
 ばたん。ドアの閉まる音。
 結局、部屋に取り残された俺。
「バカヤロウ」
 俺は呟いた。わかってるじゃないか、そんな男に引っかかったら、マキナは不幸になるって。二股かけようとしてる男がマキナを幸せにできるはずないって。
 でも、それでも、まだその人のこと、マキナは好きなんだ。
 わかってるくせに。それがどんな結果をもたらすことになるかなんて。
 なのに、何で俺は引き止められなかったんだ。
 ひょっとして、俺もショックだったのか?
 マキナのことが、もしかして、俺は?
 そのとき、俺のケータイが震えた。



○やさぐれべる ご
(やさぐれLv.5 天変地異が巻き起こり、国の崩壊の危機が訪れる。判断基準:涙を流して感情を爆発させる)

「おい英雄! 富士山に噴火の傾向が見られた! このまま行くと富士山大噴火で関東一帯が滅亡しかねん! 何とかしろ、冗談抜きに日本の危機だ!」
 俺は碓氷の言葉をぼんやりと聞いていた。
 やさぐれべるは最大の五になろうとしている。マキナは今、泣きそうなんだ。マキナ自身でも、自分の選択がどうなるか、きっとわかってるんだ。
 本来なら、マキナだって馬鹿じゃないから、そんな男と付き合ってどういう結末になるか目に見えてる。マキナは遠距離の彼女と彼氏の取り合いでドロドロの 修羅場を勝ち抜くようなタイプじゃない。むしろ、自分にも他人にも、きっと大阪の彼女のことまで考えて自滅していくタイプなんだ。それは、きっと薄々自分 でも気づいてる。
 でも、今この瞬間は、マキナはその男と会わずにはいられないのだ。
 人間って、なんて複雑で、マキナってなんて面倒なんだ。
 でも、俺は? 悩んで、やさぐれて、迷ってるマキナを前にしているのに。
 そんなマキナを見てる、俺はどうなんだ? 世界を背負ってるのに、何かしなきゃいけないのに、俺は……。
「おい、聞いてるのか英――」
 碓氷の叫びは続いてるけど、電話を切る。こんだけアホだったらマキナも楽なのに。
 玄関先で、音が聞こえた。窓から下をのぞくと、車が一台停まっていて、中から男が出てくるのが見えた。髪を染めてだぼっとした服を着た、なんとなく渋谷にいそうなタイプの男だった。
 ひょっとしてあいつか。
 果たしてそのとおり、マキナがその男の前に立ったのが見えた。
 二人は見つめ合っている。
 俺はなぜか、直視できずにいた。
 またケータイが震える。畜生、なんだよ。黙れ碓氷。
 いっそのこと電源を切ろうと思って見ると、父さんからのメールだった。
 ――街頭にてニュース視聴。事態は深刻化している。早急に手を打て。
 俺は深い息をついて、返信。
 ――どうすりゃいいんだよ。富士山噴火なんて止められるわけないだろ。
 俺が打つと、父さんはややあって返してきた。
 ――お前は勘違いしている。
 むっとして送り返す。
 ――何を?
 ――世界の事など思慮無用。大体、お前に世界など救えない。
 このクソ親父。俺がどんだけ悩んでるのか知らないから……。
 ――その様なこと考えずとも、彼女のことを考えろ。女一人の涙も拭えぬのなら、世界のことなど考えても無駄だ。
 ――いいか、英雄。俺の息子なら、

 ――男を見せろ。

「父さん……」
 俺は、まるで殴られたような気がした。親父にも殴られたことないのに。いや、実際は殴られまくりなんだが。
 俺の親父。名前は須坂太郎。剣道五段、空手四段、書道二段、ゴールド免許。愛読書は論語。そしてゴルゴ13。クセは、文章を軍隊っぽく書くこと。しかし職業は警察官。自衛官ではない。あくまで交通課のおまわりさん。
 そして、男らしさの求道者。矢沢栄吉かお前は。
 それでも、俺は。
 そんな父さんの言葉に、腹をくくった。
 ああ、そうだった。
 世界? そんなもん、実は最初っからあんまり考えてないぜ。
 ただ、やっぱそうだよな。やや問題ある父さんだけど、言っていることには共感する。
 男は男らしくあるべきだ。少なくとも、女を泣かせちゃならん。
 それは、間違いない。まして、あのマキナなら。
 ナイーブで面倒な、優しいマキナなら。
 俺は立ち上がって、玄関に向かった。

 勢いよく玄関のドアを開くと、マキナと男が対面中。ばん、なんて音を立てて俺が出てきたもんだから、二人は俺を振り返った。
「ヒデちゃん……」
 マキナが困惑して俺を見てくるが、俺はその視線を無視して男の前に出る。
「……なんやねん、自分」
「やかましい」
 俺はその男の胸倉を掴む。そのまま押して、車のドアに押しつける。その男は短髪を金色に染めた、やや華奢な今風のヤツだった。胸にクロスのネックレスなんてしやがって、東京デビューしてんじゃねえよ。いや、この男の大阪時代なんて知らないが。
「お前、わかってんのかよ。マキナを泣かせようとしてんじゃねえぞ」
「あん? お前いきなり出てきて、なにかましとんねん。誰が泣かそうとしとるやと? 大体、お前誰か知らんけど、なんも関係ないやろ」
 俺はその男に顔を近づけ、怒鳴った。
「関係なんて関係あるか! マキナをナンパするんなら覚悟決めて来いよ! 二股なんてかけようとするんじゃねえ! お前にはマキナを背負う資格なんてない。中途半端な気持ちでマキナに手ぇ出すな!」
 後ろから、目を丸くしたマキナの視線を感じる。確かに俺はただのでしゃばりかも知れない。でも、それでも言わなきゃならん。空気なんて読めずとも、やらなきゃならん。
「いいか、マキナと付き合うんなら世界を背負え。地上のあらゆる物を賭けてマキナに接しろ。すべてを投げ出してでもマキナを悲しませないと誓え。地元と離れてるから二股かけようなんて、マキナはそんなに安くねえ!」
 俺は拳を握り締めた。男が顔をしかめて俺をにらみつける。
 別に怖くない。嵐がを打ち付けるけど、痛いほど雨粒が吹き付けて、俺はびしょびしょだけど、確かに世界はマキナにかかってるけど。
 そんなことより、大事なことがあるだろう。
 男として、大事なことがあるだろう。
「マキナと付き合うなら、一世一代、マキナとこの世の中全てを賭けて幸せにする覚悟決めろ! それができないなら、軽々しくここに来るんじゃねえ!」
 俺は男をにらんだ。
 雨が冷たくて寒かったけれど。
 雷が背後で唸っていたけど。
 経済はボロボロになりつつあり、台風は日本を直撃し、富士山は噴火の危機にあったけど。
 それよりも大事な事は、この男をにらみつけることだった。
 マキナを守るために、この男に立ち向かうことだった。
「……帰ってください」
 マキナが、言った。
「先輩、帰ってください。ウチ、先輩とは付き合えません」
 マキナは俺の肩を叩き、俺を男から引き剥がした。正面に立ち、普段のマキナからは想像出来ないくらい強い口調と視線で、男に相対した。
「マキナ、お前言うとったやんけ。俺のこと好きちゃうんかい」
「好き……でした。確かに好きでした。でも」
 パン。マキナの平手が男の頬を打った。
 その音は、俺たちの周囲を襲う嵐よりも、さっきからピカピカうるさい雷鳴よりも大きく響いた。
「今の先輩は、大っ嫌いや!」
 マキナの平手がよっぽど効いたのか。男は、そのままずるずると崩れ落ちて、車にもたれかかったまま、地面にしりもちをついた。
 男は、もう何も言えなかった。

 追い立てられるように、男は車で去っていった。おととい来やがれと、俺とマキナはその後ろでやいのやいの騒いでやった。
 さんざんそうやった後で、俺たちは顔を見合わせたら、
「……あーあ、失恋してもうた」
 マキナはそう言って笑った。笑ってはいたけど、なんだか泣いてるように見えなくもなかった。でも、ずっと二人とも雨の中で騒いでたから、顔も体もびしょびしょ、涙だって本当に流れてたかなんてわからない。
 まあ、そんなことどうだっていいのかも。
 だって、マキナの表情は、どこか晴れやかだったから。
「でも、ヒデちゃんはほんまに空気読まへんな。普通、あの場で出てこれへんで」
「悪かったな、そんなやつで」
「ほんまや。ほんまに迷惑ないとこや」
 そう言いながら、マキナは俺の胸にもたれかかった。
 雨はいつの間にか小降りになっていた。空を見上げると、遠くに雲の切れ間が見える。夕暮れの太陽の陽が、雲間から差し込んでいた。
「でも、ありがとうな」
「お、おう」
 マキナの腕が、俺の肩に回って、ぎゅっと力が入った。
 やばかった。マキナの柔らかい胸を感じ、濡れて乱れた髪からいいにおいを感じ、びしょびしょのワンピースがマキナの体に張り付いて、しかもちょっと透けてる。
 俺の胸が……心臓がバックバク。
 だめだ、これ以上抱きしめられると……。でも、もうちょっとこのままで……。
 そのとき、タイミング良くか悪くか、俺のケータイが鳴った。
「ご、ごめん」
 俺はマキナから離れると、ケータイに出る。案の定、碓氷からだった。
「よくやった、思ったとおり、お前はできる子だ。富士山の噴火は収まったし、台風は勢力を弱めながら日本を逸れていった。経済も銀行破たんを免れて、恐慌にはならずに済みそうだ。さすが俺の舎弟」
「誰が舎弟だこの野郎! 俺がどれだけ苦労したかわかってんのか!」
「それは知らんが、やさぐれでぃ対策特別予算も予定より使わなかったおかげで一億ほど横領できたぜ。これで来週のモナコはカジノで豪遊だな」
 こ、この日本のガン細胞め!
「まあ、ともかくお前はまた日本を救ったヒーローになったわけだ。これからもよろしく頼むぜ、俺のために」
 ぶちっ。それだけ言って切りやがった。
「ああああの野郎ぅう!」
 ケータイを投げつける。死ね、世界のために碓氷、お前は即刻死ね!
 うがーっ。
「あはは、なんやヒデちゃん。楽しそうやな」
 後ろでマキナが笑っていた。俺の苦労と苦悩を知らずに。
 まるで世界が祝福するみたいな笑みを浮かべて。



 窪村マキナには、気をつけたほうがいい。彼女にするなら、ほぼ完璧な二十歳の女子大生に見える。
 けれど、付き合うなら覚悟を決めろ。一世一代、人生を賭けろ。
 彼女は、やさぐれでぃ。
 彼女と一緒に、地球の命運を背負うのだから。


この作品が気に入っていただけましたら『高得点作品掲載所・人気投票』にて、投票と一言感想をお願いします。
こちらのメールフォームから、作品の批評も募集しております。

●感想
やぎさんの意見
 作品の方は素直に面白かったです。やさぐれでぃの設定にやられました。
 世界を左右させてしまう特異体質を持った少女と、何だかんだ言いながらマキナのことが好きな主人公。しかも姉。しかも関西弁。しかもダウナー系。もうドツボです。

 ストーリーもそつなく作られていたと思います。やさぐれべるが進行するにつれて、徐々にやさぐれでぃの設定を明かしていく構成が良かったです。ただ、少しじらしすぎかなとも思いましたが。

 地味に父さん母さんのキャラも良かったと思います。

 少し気になる点があるとすれば、やさぐれでぃの設定が少しハルヒっぽいってところですかね。少女=世界なところですね。一人の人間を国が監視しているっていうのは何となくサトラレを思い出しました。
 まぁ、全くかぶりのないものを作ることなど不可能だと思うので、聞き流してくださって構いません。

 お話自体はストライクでした。
 では、企画お疲れ様でした。


チベットさんの意見
 こんにちは。
 窪村マキナさんとつき合いたいです。やさぐれLv.4以上には絶対させませんので、よろしくおねがいします。

 「やさ ぐれでぃ!」いいですね。ハルヒを読んでいると何故彼女のちょっとした不満などがダイレクトに現れないか疑問だったものを、ストレートに表現したところが 好感でした。またそういう疑問がありながらこの作品のようなオリジナルストーリーに発展させなかったんだろうと悔やみましたね。それぐらいズバズバと刺激 されるものがきました。
 須坂英雄くんが頼もしいです。ナイトです。格好いいです。なぜキミは16歳だったのかと、早く大人になりマキナの精神に安らぎあたえて世界に幸せにしてほしいです。
 なにげに碓氷さんが私にはツボでした。大人の汚いところを全てもっている人物が電話のむこうとはいえ、その存在と照らし合わせることで英雄くん健気さや爽やかさがくっきりと表れまたいいポイントでした。

 ほ めてばかりではだめだと思っていたのですが、正直、私のいまの実力ではこの作品から決定的なマイナス要素をみつだすことはできませんでした。設定には負の スパイラルを一度起こすとそこから脱出しずらいから、クリリンがフリーザに殺されるシーンを見て泣きそうになったときなど、英雄くんに出会う前はどう解決 していたんだという疑問がありますが、それは無視でいいでしょう、短編での限界ですし。またこれ以上のエンターテイメントとストーリーの整合性とがうまく バランスとれたものを私には作れないですし。

 爽やかさと創作意欲がわいてくるいいお話でした。


ツミキさんの意見
 お祭りの賑やかしにとぽつりぽつりと感想書かせてもらってます。どうぞよろしく。

 まずは全文拝読いたしましたー。
 面白かったです。うん。
 ハチャメチャな境遇のいとこ(自覚なし)と周囲のダメな人たちに振り回されながら奮闘する英雄くん。
 くすりくすりと小さく笑いを零しながら読ませていただきました。

 お題は『一世一代の大勝負』『英雄』『嵐』というところでしょうか。

 冒頭からの引き込みが巧く、これから何が起こるんだろうとするすると物語に入っていけました。つかみはバッチリというやつです。そして一人称でのテンポの良い語りが面白おかしく、心地よかったです。
 そして『やさぐれべる』等、わかりやすく進行していくストーリーも好印象でした。
 惜しむらくは後半の展開が少々中途半端になってしまったことでしょうか。
 若干シリアスな展開にはなるのですが、ちょっと弱いかなと。
 どうせならもっと落ち込んだマキナの様子をしっかりと描いてやって、その解決に向けて奔走する英雄くんの姿もまたしっかりと描いてやるほうがクライマックスの盛り上がりにつながったかなあーと。

 他、細かいところなど。

 作品全体をみるとテンポのいい文章、構成になっているのですが一か所気になった点があります。

>窪村マキナ。その特異体質にはこんな名前が付いている。

 から始まる設定の開示部分ですね。
 ちょっとここだけごってりしている印象。もう少し軽めにさらっとながしてしまったほうが勢いやテンポを殺さずにおけると思いました。

 それから、

>この時、同じプールにマキナの近所の住人が来ていたのだ。たまたまその人が官僚で、マキナの機嫌の悪さと様々な不幸の相関に気づき、「やさぐれでぃ=窪村マキナ」の構図が国に発見される。

 さすがにこのあたりは無理あるだろw とか思ってしまいましたが、まあ、ジャンル的には許容範囲かなーとか思わなくもないんですけれどねw

 気になった点はそのくらいでしょうか。


 登場人物ではさっさと逃げ出したお母さんと、電話口でしか搭乗を許されなかったお父さんが印象に残ってますね。何のミッションをスタートするつもりだよ、って感じの会話と、ラストの格好よさは良かったですねw
 実物の登場がなかったのが悔やまれます。いや、そこがイイのかもしれない……

 と、こんなところでしょうか。

 大したこと書いていませんが、お祭り。無礼講。ということでご容赦をー。
 では失礼します。
 ありがとうございました。またいずこかでー。 


佐伯涼太さんの意見
 こんにちは。夏祭り参加、お疲れ様です。佐伯涼太と申します。「やさぐれでぃ」拝読させていただきましたので、感想を残していきたいと想います。自分の実力を完全に棚に上げていますので、見当違いな意見などがありましたらどうぞ鼻で笑ってやって下さい。

 もう既にみなさんから高い評価を寄せられていますし、今更言うことは殆ど無いのですが……。
 とりあえず言わせて下さい。これなんてハルヒ。
 ……すいません、面白すぎる作品に対する、たんなる妬みです。

 はい、文句なしで面白かったです。これはもう、お見事としか言いようがない具合に。
 なんと言ってもマキナでしょう。ふわふわとした関西弁、いいですねぇ。

>「……アカン、またハンター×ハンターやってへん」

 ここで盛大に噴きました。それは貴女のせいじゃないですよ!
 やさぐれていきながらも、ちゃんと可愛さを残しつつ書けているあたり、相当な実力者様なんだろうなぁ、なんて事を思います。

 話はどんどん進み、やさぐれレベルもアップ。
>――いいか、英雄。俺の息子なら、
>――男を見せろ。

 父さんも格好良すぎです。
 唯一気になったのは、この辺まで主人公がやけに受け身だったこと。個人的には、自分の中で決断して欲しかったかなぁ、といった感じです。でもその後の、先輩に食って掛かるシーンは格好良かったです。

 以上です。お疲れ様でした。夏祭り、まだまだ楽しんでいきましょう!


みすたンさんの意見
 何だこれ!

 ども、みすたンです。

 僕が小説を読んで、最大の誉め言葉として使っている言葉があります。そう、「何だこれ!」の一言。今まで売り物になってる本で三冊、ネット上では初めてです。
 こんな小説を書ける人がネット上にいるなんて感無量です。

 なんだよやさぐれでぃってw
 なんだよやさくれべるってw
 もう笑いを堪えるのに必死で、うーん、傑作。
 お題の使い方もはっきりしていて且つ自然で、他の作品を頭一つ突き放しちゃってます。
 惜しむらくは最後、やさぐれべる5に至った辺りからが若干熱くなかったんですよね。
 父親でも構わないんだけど碓氷が「てめぇ、世界の危機と一人の女とどっちが大切なんだ!」「そ、そりゃぁ……」「馬鹿やろう!男なら世界を滅ぼしてもてめぇが惚れた女守れよ!」ぐらいのクソ熱い展開が僕的好みです。あくまでも僕的好みなのでお気になさらず><

 これから先まだまだ色んな人が投稿しているだろうからこんなこと言うのは早すぎるだろうことは分かっているのだけど、敢えて言わせてもらいたい。
 この夏祭り一の傑作であると。

 たらふく頂きました。ごちそうさまでした!><


かなひとさんの意見
 こんばんは、拝読しました。

 これだけ沢山の人が感想残してるところに、また感想書くのもどうかなぁとは思ったのですが、面白かったので足跡代わりに点数置いていきます。

 「やさぐれ、day」だと最初思っていたので、主人公のやさぐれの日々を書いた小説なのかなぁと思いきや、まさか「やさぐれレディー」だとは!
 素敵なセンスですね。やさぐれレベルも最初は「?」と思いましたが、いい味を出してると思います。

 キャラクターは僕は碓氷が一番好きでしたねぇ。
 短編で脇にこういう素敵キャラをすごいと思う。
 反面、マキナの魅力はあんまりよくわかんなかった……あくまで僕的にですが。
 やさぐれ表現はいっぱいあったけど、碓氷とか主人公とかその両親とかすごく魅力的に描かれてたのにそれに比べると少しパワー不足かなぁと。

 でもでもとっても面白かったです。素敵な作品をありがとうございました。


ゆかさんの意見
 こんにちは、拝読しました。
 つらつらと書かせていただきますので、取捨選択をお願いします。


●題名の第一印象
 やさぐれレディ、というのはすぐに思いつきました。
 ただなぜか、やさぐれた日→やさぐれデイ(day)→やさぐれでぃ 
 という方向にも考えたりw


●読後の題名の印象
 これしかないだろうなと。雰囲気からひっくるめて、これが一番だと思います。


●ストーリー
 自分の機嫌によってさまざまな世界的不幸を巻き起こしてしまうマキナ(自覚なし)とそれをくいとめる英雄の
 ドタバタストーリーと感じました。
 テンポも小気味よい、登場人物達のかけあいも面白い。とてもさくさく読めました。
 それにただ面白いだけでなく、

>そう、マキナは元来、そういう気のきく人間なのだ。優しく、繊細。なるべく人に迷惑をかけたくない。でも、その繊細さが、そして何の不幸か、やさぐれでぃであるがゆえ、この先一生、自分の想いとは裏腹に世界に影響を与えてしまう。密かに誰かから監視を受けながら。
 俺は思うんだ。これは結構、最大級の不幸なんじゃないかって。

 というアプローチもあり、うまいなあと思います。

 惜しむらくは、最後の爆発に至るマキナに対する英雄の心情が分かりづらく感じたことでしょうか。
 恋愛感情なら、伏線は足りないかと。
 たんに男を見せただけなら、最後の感動が少し薄れてしまう感じがします。
 任せられる相手だったら、渡してしまうのかな、なんて深読みをします。
 
 あと色々考えさせられる話が好きなので、あっさりは良い点でもあるのですが
 後味があんまりなかったな、とも思います。 
  
 
●キャラクター
 英雄のセンス、ひいては作者様のセンスに脱帽です。
 特に気に入った、というより印象に残ったのキャラは碓氷でした。
 腐ってやがるw にこれほど相応しい人もそういないです。
 

●文章
 オモシロ一人称でさくさく読めました。一人称の醍醐味を感じます。


●お題
・英雄
・嵐
・一世一代の大勝負
?5が意味を持つ物語

・英雄は、名前そのままですね。ただ彼の行動が人々に知られたなら本当の「英雄」になれるでしょう。
 マキナのやさぐれべるは一気に5になりますがね……
・嵐
 自然に使われていました。
・一世一代の大勝負
 最後の最後にばしっときました。
 「5が意味を持つ物語」が?なのは、たんにレベル表記が5までだったので、確信には至らないためです。


 色々書きましたが、さっくり読めて面白かったです。

 それでは、祭を楽しみましょう。


北野卵さんの意見
 こんにちは。卵です。


 何というアイディアの勝利……! 「やさぐれでぃ」というタイトル、面白すぎますよ。「やさぐれべる」とかもグッド。


 内容は、やさぐれべる3まではかなり面白かったです。ただ、設定に頼りすぎている感はあって、もう少しギャグがもっと笑えるんだけどなあ、と思うこともありましたが。
 

 やさぐれべる4以降は、雰囲気が変わります。先輩、親父と名前だけ出てきた人間が登場するわけですが、話の流れが変わったせいか唐突感を覚えました。とくに親父は、なんかもっとノリのいいオッサンだと思っていたら、意外とお堅く真面目? な人だったんだな、と。
 また、ラスト部分も、いい意味ではこちらの期待を裏切ることはなく、悪い意味では予想通りに終わって、設定の突飛さにしては大人しいかな、と。設定が飛び抜けている割に、話が飛び抜けられていないんですよね。


 個人的には、キャラを減らして、主人公とマキナの絡みを多くし、突飛なキャラを一人という体勢で、話のほうをもっと作り込んだほうが面白くなったのでは? と思います。アイディアはめちゃくちゃいいですからね。磨けばどこまでも光るかと。


 以上です。これからも頑張ってください。


雨杜 潤さんの意見
 ( ̄^ ̄)ぐーてんもるげん。
 面白いとの噂を聞いたのでやってまいりました。

 文章は読みやすいですし、テンポも良かったです。サクサク読めて苦はなかったと思います。
 以下、読みながら思った突込みなど。

>ドラゴンボールでクリリンがフリーザに殺されるシーンを見て泣きそうになっていたのだから、
 ( ̄^ ̄)www

>見上げると、公園に毎年巣を作るカラスが、俺の髪の毛を数本掴んで飛び立っていくところだった。
 ( ̄Д ̄ )えw
 人間じゃないフラグ(読後。深読みしすぎたw

>ダッシュで事務所に行き、おみくじを引く。
 即行動しちゃってますねww

>(やさぐれLv.2 周囲に不運が訪れる。判断基準:うつむいて独り言を言い出す)
 ふむふむ。やさぐれべるで周囲にも被害が出るんですねw

>ヤツの名はパンティ。洗いざらしの憎いヤツ
 (つへ ̄。)オカンのぱんつで転ぶなんて。

>「はい、こちら内閣府特別設置委員会」
 なにwwwwwww

>人呼んで「やさぐれレディー」、略して「やさぐれでぃ」。
 ははぁ。そう見ると、可愛いネーミングなんですねw

>マキナの機嫌の悪さと様々な不幸の相関に気づき、「やさぐれでぃ=窪村マキナ」の構図が国に発見される
 普通は気づかないってwwww

>おかげで大分落ち込んだマキナは去年の秋、世界を同時不況に陥らせたというわけだ。
 わたしの就職先がないのはこのせいか!(ぁ

>俺は――須坂英雄
 ヒデオwwwww

>何でって訊いたら、寂しいからって、ウチのこと気になってたからって……。
 駄目男臭。男なんて、、ふっ(何があった

>マキナのことが、もしかして、俺は?
 |^ ̄*)やんw
 しかし、この後から急に恋愛っぽくなりますよね。うーん。前半がコメディすぎたので、いきなり作風が変わった気がして、どうにも。

>マキナは今、泣きそうなんだ。
 泣くくらいで……でも、普通の人が許されることが許されないって、なんかアレですねぇ。

>――その様なこと考えずとも、彼女のことを考えろ。女一人の涙も拭えぬのなら、世界のことなど考えても無駄だ。
 親父、いいところだけ持っていくwww

>「……なんやねん、自分」
 「自分」って、関西でも和歌山辺りの言葉みたいです。と、以前に大学の先生が言ってました(何

>勢いよく玄関のドアを開くと、マキナと男が対面中。
 っていうか、異常気象中なのに外出とか、この男何なんでしょうね(ぁ

>地元と離れてるから二股かけようなんて、マキナはそんなに安くねえ
 おお( ̄^ ̄)漢だ!

>追い立てられるように、男は車で去っていった
 そういや、地元離れてるのに車持てるって、実はボンボン? 惜しいなぁ(ぉぃ

 感想は面白かったです。今回の企画はお題のおかげか、駄目男主人公ばかりにならなくて面白いですね。
 テンポが良くていいですね。設定は斬新ってわけではありませんが、面白いと思いました。
 しかし、前半のコメディと後半の恋愛がちょっと噛み合わないような。マキナのやさぐれ原因も唐突に出てきたように思いますし。もう少し全体のバランスを考えて、前半をラブコメ調にするといいかもしれませんね。
  また、配役についても考える余地が。お母さんは良いのですが、碓氷とお父さんは一緒にならないのでしょうか。お父さんは存在感がないのに、最後だけ良いと こを持って行ってしまいます。碓氷が急に覚醒してかっこよくなっても問題ないと思います。それか、お父さんが官僚の方がやさぐれでぃを管理するって面では 自然ですので、碓氷に父親役やらせても良かったと思います。
 あと、マキナの年齢は下げても良かったかと。それか、主人公の年齢を上げるか。年下男も魅力ではありますが、やっぱり同い年かそれ以上の方が良いように思います。この作品の場合、年下よりも年上男の方が映えると思いました。

 総じて楽しめましたが、ところどころで粗が目立った印象です。でも、楽しめたら勝ちだと思うので、こういう点数付けておきます(笑
 では、失礼します。ごちそうさまでした( ̄^ ̄)b


Ririn★◆さんの意見
 こんにちは。面白かったです。

 軽いタッチの作品で短い時間で一気に読めました。
 やさぐレベルの段階的なレベルアップも興味をひきつけていて、うまい仕組みだと感心しました。
 お題の組み込み方も違和感ないレベルまで達していて良かったと思います。

  どことなく「サトリ」を思わせるような設定の女の子に、その女の子に対して好意を寄せているんだか寄せていないんだかわからないような主人公の苦労話なの ですが、関東破滅の危機が迫っているにもかかわらず、あまり悲壮感を感じさせず、必要以上に問題が大きくならなくて、やはり根本的な原因、やさぐれでぃを どうにかしないといけないと気が付くというところで、ストーリー構成が秀逸だなと感じた次第です。
 ところで、やさぐれ方向だと地球が破滅に向かうわけですが、これから主人公と付き合ったりして幸せな毎日を送ったら、地球は幸福な方向に向かうんでしょうか。
 その辺が気になったりして、ちょっと続編を見てみたいと思いました。

 夏祭り作品の執筆お疲れ様でした。


楠木アユムさんの意見
 マキナ可愛い、そしてそれ以上に作者さん可愛いと思った楠木アユムです。わずか二行でこの可愛さ……

 面白かった。一人で読んでいて良かったと思った程です。
 ですが、やさぐれべる いちの時のマキナ、ジャンプ云々の辺りのマキナが、あまり落ち込んでいるようには思えません。先輩とあったのは恐らく帰宅前でしょうから、その時点でもうちょっと落ち込んでないとだめかなー、と思うのです。いやまあ個人的にですが。
 でも、やさぐれでぃが何なのかもよく分かりましたし、所々の笑いどころもいい。40枚という枚数が、苦になりませんでした。
 余談ですがデイトレードには「空売り」というものが存在します。簡単にいうと株が安くなればもうかる、といった仕組みです。それを利用すれば儲けれたかもとかおもったり……。
 いろいろ言いましたが、好きです。この作品。
 ありがとうございました。
 では、また。


寺宙さんの意見
 こんにちは、あるいは初めまして。寺宙と申します。読ませていただいたので感想のほうを。

・とりあえずこのヒロイン殺しちゃいなよYOU。とか言ったらさすがに怒られますね、はい。きっと、死ぬと何が起こるか分からないし、幸せな人生送って満足しないと世界が滅んでしまうんだ。そうなんだ。

・ヒロインの良さがない
 設 定はともかくとして、物語中において、このヒロインのよい所(気がきくなどなど)は、全部説明されているだけで、最後の最後まで実戦されておらず、ただ落 ち込んで、くだまいてるだけです。関西弁が良いのと見た目が可愛い以外良いところがない気がします。別に、本当は良い人とかの設定は特にいらないのではな いでしょうか?まあ、どんくさい、とろくさい書かれてますけど。

・ラブコメの割には設定以外ヒロインの比重が極めて低い
 主人公の会話は大抵政府の駄目人間。こういうタイプの人間は基本的に大嫌いなのはおいておきまして、設定上蚊帳の外に置かざるを得ないのは理解できるのですが、主人公好きなんだから本人向かってもうちょい不器用に頑張ってーって思う読者心でした。

 そんなこんなで、以上です。


三十路乃 生子さんの意見
 鮑の蒸焼きに同情の念を禁じえない海産物、三十路乃 生子です。

 いやぁ、面白かったです。
 ナイス・テンション。ナイス・須坂家。

 特に須坂家が程よく、あの微妙な母親、良いとこに出した親父、そして四苦八苦する主人公。全員が中々良い味してました。
 正直、富士山の活動周期とか、台風発生のメカニズムなんてどうでも良いですね。それに家族が緩い協力体制で戦いを挑む姿が、何とも。

 序盤はそんな感じでハイペースで進んだので、ペース配分は大丈夫なのか?と気にしていましたが、最後直前に多少の失速を見せるものの、テンションが下がることなく読めました。
 ただ少し気になったのが無駄毛を食うという、気持ちの悪い表現は控えていただきたかったのと、煙草はマキナの説明から受けるイメージと食い違ったので微妙でした。
 あと個人的な希望を言えば、ラスト。確かにあれで良かったと思います。しかし、折角なら対策室の力を使って欲しかった。
 あの後に先輩が襲ってきたら、武装した集団に取り囲まれたり、なんてのも読みたかったですね。

 しかし「ボビー」さんタメをはれる厄介なヒロインですね。向こうはまぁ、無害っちゃ、無害ですが。
 あとギャグモノ繋がりで「広樹と静香とバドミントン」と近い印象を受けました。参考までに。

 それでは失礼します。
 読んでいて楽しい小説をありがとうございました。


必殺感想人さんの意見
 作品を拝読させて頂きましたので、感想などを。

 魅力的な男性キャラ。(一人を除く)
 早く続きが読みたいと思わせる展開は、素直に面白いと思いました。
 フラグが立った所でピリオドを打っているのも、今後どうなったか、などの想像を掻き立ててくれます。

 しかし、少しヒロインの魅力が弱いかな、と思います。
 いや、ノリノリじゃない関西キャラというのも斬新な気がしますが、全てが終わったあとに
 もうちょっと甘い展開になってくれるだけでも違うと思います。

 文章というか、

>逆に言えば〜〜

 という始まり方は目を惹いていて良いと思います。

 以上です。
 企画、お疲れ様でした。では。


来人さんの意見
 こんにちは来人です。
 御作、拝読させて頂きました。
 下記にて、感想を述べさせて頂きます。

【物語】
 日常がやさぐれるだけで国家存亡の危機、いや、人類存亡の危機へと発展する、コミカルテイストの王道ともいえる、ギャップ、素晴らしいです。
 内容は笑えましたし、携帯の電話先にも吹き出しました。
  ただ、シリアスパートへの切り替え時に、主人公が男にタンカを切る場面が少し、興醒めてしまいました。臭かったからです(笑)。臭い台詞はいいのですが、 それを臭く感じず酔わせてくれる位の納得のいく、主人公とヒロインのエピソードというか、やりとりがもう少しあれば違ったんだと思います。

【キャラクター】
 それぞれいい味だしてますね。特に国家公務員素晴らしいです。
 ただ、父親と国家公務員一人の方がいいのでは? と思いました。父親が国家公務員をしていれば、一番収まりがよく、物語がスムーズにすすんだかもしれません。父親のあの名台詞の説得力も増すでしょう。

【設定・オリジナリティ】
 まず、題名。95作品中一番好きです。そして、一番、うまく設定を作り込んでいるなと思ったのもこの作品でした。

【最後に】
 総じてレベルの高い作品だと思いました。
 ただ、その分、シリアスパートのクライマックスシーンが残念でなりませんでした。
 点数は迷いましたが、この点数を。
 それでは、次回作も頑張ってください。


高谷さんの意見
 高谷と申します。
 読ませて頂きました。

 いわゆる「きみとぼくの関係が世界の運命に直結する」というセカイ系の構造を持った作品で、枚数に対するペーズ配分、情報開示の手際、キャラ立て、ユーモアを含んだ文体等は非常に高いレベルで結実していて、まさにライトノベルという雰囲気の良作だと思いました。

 個々の要素に対するつっこみは特にありません。
 ただ、物語の型があまりにセカイ系の教科書どおりに描かれている部分に物足りなさは感じました。
技術的な錬度やユーモアのセンスはお見事です。勉強になりました。

 あまりためにならない感想ですが、お祭り企画であまりこまごまとした事書くのは野暮だと思うんで、このへんで(汗

 それではー。


テンキューさんの意見
 こんばんは。テンキューです。
 まずは執筆お疲れ様でした。
 今回は企画に参加できなかったので、感想だけ書かせていただいております。

 というか、凄い得点ですね(汗)大いに期待して読ませていただきました。
 ギャグ調の文体で面白い比喩も多く、特にやさぐれべるの設定が独創的でした。レベルが上がるごとにワックワックしておりました。アイデアの勝利でしたね。
 で すが……なんでしょう、この微妙な読後感は。クライマックスがいまいち盛り上がらなかったんですよ。だから、もどかしい感覚が残ったんだと思います。案外 あっさりと終わったな、と思いました。理由は、渋谷系の彼と英雄との熱い展開がなかったからかなとも思ったのですが、おそらく結末がずっと読めていたこと が原因ではないかと。
 他の人も言っていますが、この作品ハルヒに似ていました。きっと世界が限界までヤバくなったときに主人公が男を見せ、ヒロイ ンと良い雰囲気になって、めでたしめでたしって話になると予想していました。彼が登場したのは予想外でしたが大方そのとおりに終わってしまいました。残念 です。
 その彼の登場にも疑問を感じました。異常気象大発生のこの時期にわざわざやってくるってかなりの猛者です。そもそも、車で移動できたのでしょうか?
 また、かなりの猛者という見方をすると、今度はすぐに引き下がったことに疑問を感じました。嵐にも負けずやってきたなら戦えよ、負けんなよ! と、つい彼を応援してしまいました笑
 前半、中盤は展開が面白かっただけに終盤の失速が残念です。あ、お父さんはカッコよかったですよ。
 終わりよければすべて良し、と言うように終盤での盛り上がりは一番大切だと思います。次はクライマックスに痺れるような展開を期待しております。

 以上、テンキューの感想でした。偉そうなことばかり言っていた気がしますが、取捨選択して参考にしていただけると幸いです。

高得点作品掲載所 作品一覧へ
 戻る       次へ