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○
俺の名前は佐藤太郎。十七歳の高校二年生―― と、いうことになっている。 しかし、その身分は偽りのものだ。 「ではお前は何者なのだ」と問われれば「今はまだわからん」としか言いようがないが、とにかく、物語の主人公たるこの俺が佐藤太郎などというごくありきたりな名前の平凡な高校生であるはずがないのだ。 きっと俺は本来別の世界で英雄的な存在であって、なにか止むに止まれぬ事情により一時的にこの世界に送り込まれているだけなのだろう。 そうに違いない。 こうして俺がこの世界に送られることになったのにはこの世界の常識では想像もできないような複雑怪奇な理由があるのだろうが、そんなことは考えてもわかるまい。わからないのであれば、考えない。エポケーというやつだ。 まあそんなことはどうでもいい。 重要なのは俺が特別な存在であり、俺という物語の主人公であるということ。 それだけなのだ。 周囲の連中は俺のことを『厨二病』とか言って嘲笑したり忌避したりするが、そんなものは放っておけばいい。 所詮まやかしのこの世界―― その世界ですら脇役にしかなれない哀れな者たちの戯言など、聞き流してやるくらいの器の大きさを見せてやろう。なんと言っても、俺は主人公なのだから。 ……とはいえ。 とはいえ、だ。 少しばかりプロローグが長すぎるのではないか? 俺がこの真実に気づいてからもう三年も経つのだぞ? そろそろ日常が崩壊してくれないと物語として破綻してしまうのではないだろうか? 確かにただ平凡な日常を書き綴った物語というのも世の中には存在しているし、そんな中にも素晴らしい作品がある。それは認めよう。 認める―― がしかし。 俺の俺による俺のための物語はそんな軟弱なものでなく波乱万丈の冒険ストーリーなはずだ。 だったらさっさと展開せんか! 物語はつかみが重要なのだ! 最初にドカンと戦闘シーンとか入れといた方が展開的にも盛り上がって印象に残るだろうが! ……おっと、主人公たるこの俺としたことが少々取り乱してしまった。反省だ。 しかしさすがの俺といえども、冗長な日常パートの連続に苛立ちを感じ始めているというのも、また事実。 早く始まれ! と、そんなことを考えて日々を過ごしていたが―― ついにその日がやってきた。 ――物語が動き出す。 ○ 俺は真っ白な靄に包まれた空間を漂っていた。 どちらが上でどちらが下か、そんなことすらわからないような曖昧模糊とした空間であったが、それでいて不安を覚えるようなことはなく、むしろ不思議な安心感がある。 もし無重力空間を浮遊することがあればこのように感じるのだろうか――そんなような取留めの無いことを数瞬のうちに考えて、 「夢か」 次の瞬間にはそう断定した。 こんな状況が現実に起こり得るはずがないからな。 夢の中でさえ冷静な判断力を失わない。俺はそんなクールかつ知的でスタイリッシュな主人公だ。ハードボイルドもお手の物である。 俺が自分の主人公ぶりを再確認していたそのとき、どこからともなく女の声が聞こえてきた。 『――そう。ここはあなたの夢の中です』 「そうか。やはりな」 俺はごく自然に答える。 夢の中の出来事だ。なにが起ころうと特に不思議ではない。 『今日はあなたにお話があってこうした機会を設けました』 「いや、悪いが俺にはくだらん夢にたゆたっている暇などないのだ。なぜなら、俺は主人公だからだ」 俺はそう言い残して、意識的に覚醒しようする―― 『ちょ、ちょっとストップ! 話を聞きなさい!』 「なんだ? 俺は自意識の生み出した妄想と会話する趣味はないんだが」 『……あなた普段は妄想じみたことばかり考えているくせに変なところで現実的ですね――ええと、とりあえず名乗っておきましょう。私は神様です。少しでいいから話を聞きなさい』 「ふむ……」 自称神様。 胡散臭さもここに極まれり、である。 ――さて、どうしたものか。 しかし考えてみれば、ここが俺の中である以上こいつが本当に神様だというのでなければ、俺の創り出した虚像ということになる。俺には信仰心など毫もないので、その可能性は薄いのではないだろうか。 ではこいつが本当に神様であるならどうだ? これこそ俺が待ちわびた物語開始の契機ではないか? 神との邂逅。 己の運命を知る主人公。 そして、冒険が始まる。 安っぽいストーリーラインではあるが、まあ許容範囲か。 どちらにせよここは俺の夢の中だ。少しくらい話を聞いていっても損はしないだろう。 「仕方ないな。いいぞ。話せ」 『やけに偉そうなのが気には障りますが――いいでしょう。それではあなたに真実を伝えます。佐藤太郎、あなたは実は伝説の勇者だったのです!』 「なるほど。そのパターンか」 『……予想していたとはいえここまで冷静に受け答えられるとどうにも釈然としませんね』 俺の反応が気に入らなかったのか自称神様はなにやらぼやいている。 「おい、神様とやら。俺が勇者なのはわかったからとっとと詳細設定を教えろ」 『くっ……まあいいでしょう――実は最近あなたの世界で、古き時代に封印されし魔王が解き放たれてしまいました。あなたは当時その魔王を封印した勇者の生まれ変わり、この時代でもう一度魔王を封印するか、討伐するかしなくてはなりません』 とするとこの世界は偽りのものではなかったというわけか。 ハイ・ファンタジー路線の方が好みではあるが――仕方ない。その場合も考えなかったわけでもないしな。 「わかった。倒してやろう。それで? 差し当たってはなにをすればいい?」 『あなたに伝説の宝剣を授けます。転生前のあなたが使っていた剣で、魔王にダメージを与えることのできる唯一の武器です。まずはそれを使いこなせるようになりなさい。そうでなければ魔王と戦っても無駄死にするだけです』 「フッ、なめられたものだな。俺はこのような日が来ることを信じて必殺技をすでに三百は考えてある。もちろん剣技のみではない。体術から魔術に至るまで、考えられる限りの技をノートに書き溜めてあるのだ。その上でイメージトレーニングも欠かしてはいない。そんな俺に剣が扱えないとでも?」 『……はぁ……とにかく、とりあえずは今回話すのはここまでです。しかるべきときがくればまたこうした機会を設けますが、しばらくは鍛錬に励みなさい』 自称神様はそう言って話を打ち切ろうとしたが、俺は気になることがあって呼び止める。 「おい、最後に訊きたいことがある」 『はい? なんでしょう』 「俺の名前――佐藤太郎というのは偽りの名なのだろう? 本当の名はなんという? それとこの剣、こいつにも格好の良い名前があるのではないか?」 「さあ? ちょっと私にはわかりかねますが――前世がどうあろうとあなたはあなたですから、やっぱりあなたは佐藤太郎なんじゃないですか?」 それでは俺は結局佐藤太郎を名乗り続けるしかないのか……嫌すぎる。 『不満があるのならば自分で通り名のようなものをつけてみればよいでしょう。剣にしてもそれはもうあなたのものですから好きなように呼べばいいのですよ』 「なるほど。その通りだな。そうすることにしよう。引き止めて悪かったな」 『いえいえ。というかそこで謝罪するくらいならまず神に対する口の聞き方から考え直しなさい』 神様がそこまで言うと、俺の意識が薄れはじめた。 どうやら覚醒しようとしているらしい。 抗い難い睡魔に襲われるようなその感覚に、俺は身を任せるようにして―― そこで、意識が途絶えた。 ○ 目を覚ますと、俺は自室にいた。 当たり前だ。昨晩は普段どおりに自室のベッドで眠ったのだから。 しかし上半身を起こした俺はいつも通りの自室に、見慣れない物体があるのことに気づいた。 「……ッククク」 その物体がなんであるかを認識し、思わず笑いが漏れる。 部屋の隅にある本棚、そこに無造作に立て掛けられていたのは装飾過多にも見える鞘に収まった派手な西洋刀。 「……ック――ハァッハッハッハッハハハハハハッ!」 俺、哄笑。 考えるまでもない。 あれこそが神様の言っていた伝説の宝剣だろう。 自称神様の言っていたことは本当だった。 苦節十七年――ようやく俺の物語が始まったのだ。 勇者と魔王というベタベタな王道ストーリーには少し思うところがないでもないが、しかし、それは俺という主役の活躍次第でどうとでも書き換えられるのだろう。 そう。 なにもかも俺次第だ。 今まで一時の仮初の地だと思っていたこの世界は俺の活躍により生まれ変わるのだ――冒険の大地へと。 魔王よ、いつでもかかってこい! 滅ぼして、我が伝説の糧としてくれるわ! 「とうッ!」 俺は軽やかにベッドから飛び下りて、剣のもとへと歩み寄り、それを手にとる。 なるほど。なかなかの重量だな。 剣を鞘から引き抜くと現れたのは一片の曇りもない両刃の刀身。窓から差し込む朝日を反射し、ギラリと輝いている。 「――セィヤァッ! 『疾風斬』ッ!」 俺は壁や家具に当たらないようにその剣を振り抜く。 ヒュン、と風を切り裂く音がして、その先の壁に大きな傷跡がついた。 「ぬぅ……力を抑えたつもりだったが」 『疾風斬』はカマイタチを発生させることで離れた敵を切り裂く技であるのだが――まさか一度目で成功するとは。さすがは伝説の宝剣といったところか。狭いところで振るうのには手加減が必要だな。 感覚を確かめるように二度三度と素振りをしていると、部屋の扉が控えめにノックされた。 「おにいちゃん、なにかあったの? 朝から笑ったり怒鳴ったり――それにさっき壁から変な音がしたけど……」 妹の雪姫の声だ。 俺がさっき傷つけてしまった壁の向こうが雪姫の部屋になっている。音が聞こえてしまったのだろう。 「いや、なんでもないんだ。すまない、うるさくしてしまったな」 「なんでもない、って……あんな音がしたのに。とにかく開けるよ?」 疑問形で尋ねておきながら、雪姫は俺が返事をする前に扉を開けていた。 普段は控えめで引っ込み思案な性格なのだが、どうにも心配症で俺のことになると別人のように行動的になる。この積極性を少しでも外で見せられないものか。 扉を開けた雪姫は俺の姿――俺の持つ剣を見て、唖然としていた。 おそらくついさっきまで眠っていたのだろう。キャラクタープリントの入ったパジャマ姿で、ボブカットの黒髪は寝癖だらけだ。左手にはいつも抱いて眠っているクマのぬいぐるみを持っていた。 「……ええっと、おにいちゃん……なにそれ? 新しいオモチャ?」 しばらくの沈黙の後に、雪姫がようやく漏らしたのはそんな言葉だった。 「違う。これは断じてオモチャなんかではない」 「それじゃあ、なに?」 「ううむ……それは――言えないんだ。悪いな」 俺は本当のことを言おうかと一瞬躊躇して、しかし黙っていることにした。 王道ストーリーでは主人公は自身の特殊な力や境遇を周囲に隠すものだ。妹の雪姫は信頼に足る存在ではあるが、まだ物語の序盤、この段階で打ち明ける必要はないだろう。 「ううん。いいんだよ。おにいちゃんにだって秘密、あるよね……」 雪姫は少し悲しそうな顔で、しかし笑ってそう言った。 「本当にすまない。しかるべきときがくれば必ず本当のことを話すと約束する」 「そっか。それじゃあそのときを待ってるよ。今はとりあえず、おにいちゃんが怪我したりしているわけじゃないみたいで安心した」 疑いなく本心から言っているであろうその言葉を聞いて、俺の心は少し痛む。 俺と雪姫は血縁関係のない義理の兄妹だ。(俺の名前が太郎というごく平凡なものであるのに対し、雪姫の名前が実にヒロイン的なものであるのはこれが理由だ)けれどその仲は決してよそよそしいものではなく良好であるし、普通の家庭の兄妹に負けないほどの確かな絆があると胸をはっていえる。 だからこそ、雪姫に隠し事をするのは辛い。 しかし、これも俺の物語に必要な痛み――そう考えて、耐える。 「――ねえ、おにいちゃん。代わりといってはなんなんだけど……いつもの、やってほしいな」 「ああ、いいぞ」 雪姫は俺の言葉を聞いて、嬉しそうに寄ってくる。 俺は持っていた剣を鞘に収めて壁に立て掛けた。 『いつもの』。 というのは、特別なことではなくて、単に頭を撫でてやるだけのことだ。 雪姫ももう十六歳、高校一年生であることを考えればいささか子供じみているとは思うが、雪姫が望むのであれば強いて止めはしない。兄としての愛をもって答えてやるだけだ。 ――二十分後。「えへへ。ありがと、おにいちゃん」 寝癖も治るのではないかいう程にたっぷりと頭を撫でられた雪姫は満足そうな表情で部屋を後にしたのだった。 ○ 「――『豪炎火斬弾』ッッッ!」 俺が宝剣『 「こんなところか……」 宝剣を手にしたその日―― 俺はまず自分の戦闘における方向性を決定した。 『炎系統の魔法剣士』というのがそれだ。炎系統にしたのは単純な憧れからだ。ロマンといってもいい。 次に、自分の通り名を決めた。 『 これに関しては佐藤という名前の縛りを受けているため、納得の出来とはいかないが、まあ許容範囲内だろう。名前とはまったく関係のないものにすることも考えないではなかったが、通り名はある程度の制約のなかから生み出されるべきという自らのポリシーに従うことにした。 同時に、宝剣には『 そしてそれらを決めた後、俺は修行を開始した―― あれから一ヶ月。 俺は高校にもきちんと通いながら、放課後には学校裏にある林の奥に入って行って修行に勤しんだ。幸い奥の方まで行けば夕方には誰も訪れないので、誰にも知られずに修行するには恰好の場であったのだ。 「これで百個めの必殺技が完成だ」 魔法の原理は今でもさっぱりわからないが、剣を持つことで自然とその使い方を理解することができた。マンガやアニメで身につけていた知識が良い方向に作用したらしい。イメージを明確化することで、魔法の威力や精度は増していったのだった。 俺は完全に剣と魔法の力を使いこなしていた。 もはや俺は無敵だった。 無敵。 すなわち。 敵が、いない。 「…………」 俺は再生魔法をかけて燃やした木を元通りにしながら、疑問をつぶやく。 「魔王は――いつ現れるのだ?」 そう。 俺は無類の強さを手に入れた。 はっきり言って、人類の中で『 しかし、人類は敵ではない。 魔王は現れない。 手下でさえも姿を見せない。 ゆえに、無敵。 文字通りに敵がいない。 敵がいなければせっかくの鍛錬の成果を披露することもできない。俺は日々黙々と剣技を鍛え、魔術を磨き、必殺技を編み出し続けた。 「クソッ……どうなっているというのだ! 魔王よ、恐れをなしたか。早く俺を襲ってみせろ! 絶体絶命の危機とやらを一度でいいから味わってみたいのだ!」 声は虚しく林に響くだけだ。 せっかく勇者になったというのに、力を使う場面がないというのでは生殺しだ。 なぜ物語の主人公であり勇者であるこの俺がこんな林の奥でこそこそと修行ばかりせねばならんのだ…… おお神よ! なぜ我に試練を与えたまわずや! 柄にもなく神仏に縋りたい気分だ。 ……? 神? 神様。 「そうか! 神とはアイツではないか!」 夢に現れ俺に剣を授けた存在――夢でまた会えるようなことを言っていたはずだ。 俺は駆け出していた。 眠るのだ! そしてヤツを呼び出すのだ! ○ 神との再会(顔を合わせているわけではないが)は拍子抜けするほど簡単になされた。 眠りに入る前にひたすら神との邂逅をイメージし、部屋には有名RPGの教会テーマ曲をエンドレスループでかけ続けるという万全の状態で臨んだのが功を奏したのだろうか――今思えば関係なかった気もする。 手段はどうあれ、夢の世界をしばらく漂った後に以前の白い靄の空間にたどり着くことができた。俺は声の限りに神に呼びかけ、返事が聞こえるなり率直に疑問をぶつけることにしたのだった。 「なぜ、魔王が現れない」 『わかりません。調査して原因がわかり次第お伝えします』 あまりにもあっさりとした問答であった。 あまりにあっさりとしてはいたが、俺はひとまずその言葉を信じてその日は引き上げた。神を名乗るほどの存在であればすぐに状況を把握して、なにかしらの情報を知らせてくれるものだと考えたからである。 しかし、そうはいかなかった。 その翌日から毎夜のように夢に潜り尋ねているのだが、何度訊いても、 『現在調査中です』 の一点張りなのだ。 実にお役所的である。 そんなわけで。 今日も俺は無敵なのだった。 「タローさあ、最近どうしたのよ?」 学校での休み時間、俺の席にツカツカと歩み寄って来たのはポニーテールの快活そうな少女――クラスメイトの南伊みなみだ。 「ん? どうした、とは?」 「雪姫が言ってたわよ? 最近のおにいちゃんは様子がおかしい、って。最初はいつものブラコン話かと思ったけれど、毎日のように夜遅くまで出かけていたかと思えばここ二週間くらいは帰るなり自室にひきこもって眠りっぱなし――って、そりゃ心配しないほうが変よ。私もそれを聞いて今朝から注意して見てたんだけど、やっぱりタローどこか変だし……」 みなみは俺の数少ない友人のひとりだ。家が近所で小さい頃からよく遊んでいた幼なじみということもあってか兄妹ともども親しくしてくれている。口やかましいヤツではあるが俺たち兄妹のことを真剣に心配してくれる貴重な友人だ。 「そうか。雪姫に心配をかけていたか。わかった。雪姫には俺から言っておこう。本当になんでもないんだ。みなみにも心配かけてしまったな。すまない」 「ま、まあ……なんでもないならそれでいいのよ。私は雪姫が困ってたから聞いただけで、べ、べつにアンタのことが心配だったってわけじゃないんだから」 「それでも、だ。俺には友人が少ないからな。そうやって妹との仲を取り持ってくれる存在は有り難い」 「う……わ、わかってるならいいのよ」 みなみはポニーテールを揺らしてふいと顔をそらす。 「話はそれだけか? 次の授業は移動教室だろう? 準備をしたいんだが」 俺が問いかけるとみなみは少し躊躇うようにした後、消え入るような声で、 「…………タローさ。最近彼女できた、とかじゃないよね?」 と不思議なことを訊いてきた。 「そんな事実はないが? なぜそんなことを訊く?」 「いやだって……急に夜遊びが増えるとか、急にふさぎ込むとか――恋してるみたいじゃない」 「別に遊んでいるわけじゃないし、ふさぎ込んでいたわけでもない」 「そ、そうなの……? ま、まあ別にタローが誰と付き合ってたって関係ないんだけどさ。話はそれだけ。時間取らせたわね」 恋人云々の話の意図はよくわからないが、彼女に余計な気苦労をかけてしまったということだろう。 勇者としての道を邁進するのもいいが、それで他人に気を使われるようでは俺もまだまだだ。学校には普段どおりに通っているのはそのためもあるというのに。 「よし、そうだな。そろそろ雪姫にも真実を伝えてやってもいい頃合だろう。そしてこれもなにかの縁だ――おい、みなみ」 俺は自分の席に戻ろうとしていたみなみの背中に呼びかける。 「お前に大事な話がある。今日の放課後、俺の家に来てくれ」 俺の言葉を聞いて振り返ったみなみは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔でしばらく硬直していたが、急に顔を真っ赤に染めて走り去っていった。 いったいどうしたというのか。 ちゃんと呼び出しに応じてくれればいいが…… ○ そんな経緯からその日の放課後、雪姫とみなみは俺の部屋に集まっていた。 床に三枚敷いた座布団は二等辺三角形に配置され、俺はその頂点に座している。 「――それで、話ってなんなのかな? おにいちゃん」 雪姫はいつもと変わらぬ純真な瞳で俺の顔を覗きこんでいる。 「ああ、いつだったかお前に話せなかったことを話すときがきたんだ。みなみにも一緒に聞かせようと思って来てもらった」 俺はみなみのほうを見ながら言った。 みなみはあれから一日中ずっと挙動不審だった。俺の部屋に入ってきたときには妙にぎこちなかったし、雪姫も同席すると伝えてからは急に不機嫌になったようだ。相変わらずよくわからん女である。 「それで? やけに深刻そうだけどそんなに重要な話なの?」 視線も合わせず言い放った言葉もどこか喧嘩腰だ。 「…………」 みなみのその問いに、俺は沈黙をもって答えた。 みなみはその沈黙から真剣さを感じ取ったのか、居住まいを正す。 そして、俺は二人の目をしっかりと順番に見つめてから――話し始めた。 夢に神が現れたこと。 俺が勇者であったこと。 伝説の宝剣を授けられたこと。 魔王が復活しているということ。 「――というわけだ。いまだその魔王は現れていないが、魔王が現れれば俺は激闘の日々に身を投じることになるだろう」 俺はあらかたの説明を終え、二人の姿を見た。 二人は俺が説明している間一言もなく黙って聞いていて、説明が終わった今も一様に黙っている。 「……タローさ、それ本気で言ってるの?」 先に口を開いたのはみなみだ。 「もちろん、本気だ」 俺は即答する。 「タローが変なヤツだってのは知ってたつもりだけど……さすがにここまでとは……」 みなみはなにやらブツブツとつぶやき始めた。 「お、おにいちゃん!」 今度は雪姫から声がかかる。 「わ、私は信じるよ? おにいちゃんの言うことだからね。おにいちゃんは私に嘘なんか言わないもんね」 雪姫はなぜか苦々しい笑いを浮かべながらそう言った。 すると俯いて一人の世界に入っていたかと思っていたみなみが、雪姫の言葉に反応して顔を上げる。 「――ちょ、ちょっと雪姫! いくらブラコンとはいえさすがにそれはないでしょ! 明らかにおかしいって!」 「なにがですか? 少しもおかしいことなんかないですよ? だっておにいちゃんの言うことですから。おにいちゃんは絶対なんですから」 「いやいや、ちょっと兄好き過ぎでしょ! 気持ち悪いよ! っていうか目が泳いでるし!」 「気持ち悪いなんて、ひどいです。私はただおにいちゃんを愛しているだけです。妹として、世界一。まあ他人のみなみちゃんにはわからないかもしれませんけど」 「なんですって? 聞き捨てならないわね」 「だってみなみちゃんはおにいちゃんの言うことが信じられないんでしょう? やっぱり幼なじみなんて言っても家族の絆には敵わないんですよ」 「信じないなんて言ってないでしょ!」 「じゃあ信じるんですか?」 「――――?」 「――――!」 後ろ手に閉めた扉の向こうからは、二人の声が聞こえている。 なにやら俺を蚊帳の外にして口論がはじまってしまったので、俺はこっそりと部屋を抜け出したのだ。喧嘩するほど仲が良いともいうことだし、せっかくだから二人きりにして思う存分やりあってもらおうという配慮だ。 なにはともあれ。 俺は親しき者たちに真実を告げた。 これでいざというときにも心置きなく戦えるというものだ。 あとは魔王の登場を待つだけである。 ○ 「おい、神よ。いったいどうなっている。もう俺が勇者になって半年も経つというのにまだ魔王の噂すら聞かんぞ」 『ですから――なんども言っている通り、現在調査中です』 「その言葉は聞き飽きたわ! というか半年かけてなんの情報も掴めないなんてことがあるか! それともなにか? 貴様は神の名を騙りながらそれだけのこともできんというのか?」 『くっ……まあ、好きなように言うがいいです。どう言おうと勝手ですけれど、私がなにも知らないことに、変わりはないですしー』 神は露骨に開き直った。 だが今日の俺はここで諦めたりはしない。 俺が勇者となったというのに、その原因たる魔王が半年も姿を見せないというのはいくらなんでも変だ。そして神を自称し俺に宝剣を授けたこの存在が半年もかかってそれに対する答えを一切提示できないというのもおかしすぎるのだ。 俺は試しにカマをかけてみることにした。 「貴様、もしや勇者たるこの俺に隠し事をしているのではあるまいな?」 『――! …………な、なにを言うのです? かか神の言葉を疑うのですか?』 ビンゴだった。 「言え! 貴様なにを隠している!」 『な、なななにも隠してなどいましぇん!』 「嘘をつけ! 明らかに動揺しているではないか!」 『してません! してませんよーだ! ふん、なにを言っちゃってるんだか、この人間は。ばか! ばーか!』 「キャラ崩壊しているではないか! 絶対隠しているだろう! 正直に言え!」 『あーもう、うるさいうるさいうるさい! あーあー。なにも聞こえなーい。ええい、うるさい人間なんか現実世界に帰ってしまえ!』 「あ、逃げるのか! おい、それは卑怯だ――」 ろう、と言い終える前に神は俺を夢の世界から強制退場させた。 俺はベッドの上で目を覚ます。 「クッ。あのヤロウめ……」 しかし収穫はあった。神は魔王についてなにかを隠している。 というか、ここまできたら神を名乗るあの存在自体を疑ってかかったほうがいいかもしれない。 どちらにせよ。どうにかしてアイツから情報を訊き出さなければ。 ○ あれ以来、神は姿を見せていない――いや、姿を見せたことは今まで一度もないが、声すら聞こえなくなった。 夢の中で精神集中することで、あの白い靄に包まれた空間に行けるには行けるのだが、神の声が聞こえることはなかった。言葉の限りを尽くして罵倒してやると、どことなく周囲の空気が変化するように感じるので、もしかしたら姿は見えないだけでそこにいるのかもしれないが。 現状――俺はいまだに無敵。 今日も今日とて日常を過ごす。 ――日常。 そう思っていた。 もはや、この世界に魔王が現れたという話すら嘘なのではないかと疑ってさえいた。 しかし。 ついにその日はやってきた。 「えー、本日はみなさんに転校生を紹介します」 思えばこんな事態を予測して、俺は休まず学校に通い続けたのだ。 日常の崩壊。 それは得てして日常の代名詞たる学校で起こるものである。 「それじゃあ、真王ヶ丘さん。自己紹介して」 担任教諭のその言葉を俺は聞き逃しはしなかった。 真王ヶ丘さん。 マオウガオカさん。 ――魔王。 「フハハハハ! ついに現れたか! 会いたかったぞ、魔王よ!」 と、叫びだしたい気分ではあったが、そこをなんとか抑える。さすがにクラスメイトを巻き込み、ここで戦闘するわけにもいかないからだ。 代わりに視線を悟られないように気をつけながらも、魔王――真王ヶ丘さんとやらを観察する。ちょうど自己紹介をはじめようというところだ。 「真王ヶ丘マリアです。両親の都合でこちらに引っ越してきました。このあたりのことはまだよくわからないので、いろいろ教えてくれると嬉しいです」 実に流暢に、そんな面白みのないテンプレートな挨拶をしたのは―― 小柄な少女。 幼女といってもいい。 明らかに高校生にはみえない、むしろ小学生といったほうが違和感のないその少女は、少し大きめの制服に包まれて壇上に立っていた。ニコニコと笑みを貼り付けたその表情もあどけなく、輝くような金髪をツインテールにしているのだが、その髪型がさらに幼さを強調している。 そんな容姿でありながらそれに突っこむ者はいなかった。 教師が普通に紹介している以上、彼女は普通の高校生なのだろうし、であれば他人の身体的特徴をあげつらうのも非道徳的であると判断したのだろう。 総員、苦笑してスルー。 俺を筆頭として良識人溢れるよいクラスなのだ。 たちの悪いイタズラだと思っているのかもしれない。キョロキョロと辺りを見回しているヤツはカメラでも探しているのだろうか。 とまあそんなことはどうでもよい。 問題はその少女の正体である。 真王ヶ丘とはふざけた名だ。俺に己の存在をわかりやすく知らしめようという大胆不敵なその態度は敵ながらアッパレといえるが、ここまで待たせておいてこの登場というのは如何なものか。魔王なら魔王らしく演出過剰気味な登場をしてくれたほうがこちらの気分も盛り上がるというのに。あの幼女のようなルックスも敵を欺くための仮の姿なのだろうが、どうにも貧弱そうで拍子抜けだ。 ちらとみなみの席を見やると、みなみもちょうどこちらに視線を送ってきていた。「あれが魔王?」とでも言いたげである。さすがにあのルックスとわかりやすい名前、そして俺の反応を見て勘付いたのであろう。 その視線の意図を解した俺は、「うむ。相違あるまい」という意図を込めたジェスチャーを送り返した。 みなみはなんとも複雑そうな表情を浮かべて、視線を壇上に戻した。 それを追うようにして、俺ももう一度壇上の少女をみやる。 真王ヶ丘マリアと名乗った少女はこちらを見ていた。 当然、目が合う。 その瞬間、彼女は意味ありげな笑みを浮かべた――ように思う。 ○ 「ええと、佐藤君っていいましたっけ? いきなりこんなところに呼び出して、なんの用なんです?」 真王ヶ丘マリアが転校してきたその日の放課後――俺は彼女を体育館裏に呼び出していた。 性急ではあるが、これまで半年以上に渡って待たされ続けたのだ。一目見たその瞬間に殴りかからなかっただけ褒められるべきだろう。 ――そして今、真王ヶ丘は呼び出し通りにこの場所に現れ、俺たちは話すには不自然なほどの距離を置いて対峙している。 「真王ヶ丘マリア――いや、魔王よ。そんな白々しい演技はやめたらどうだ?」 「…………」 真王ヶ丘は俯いて俺の問いに答えない。 「どうした? 人目を気にしているのか? だとしたら安心しろ。この場所には滅多に人は来ない。放課後ともなればなおさらだ」 「…………ッフフフ――」 真王ヶ丘は小さく笑いをこぼしたようだ。 「認めるか? 自分は魔王であると」 「――アッハハハ! さすがにバレてしまいましたか。いかにも。私が魔王です」 真王ヶ丘はそう言って顔を上げた。 「そうだろう。魔王よ、俺は貴様が現れるのを待ちわびていたぞ」 「フフフ、それも作戦の内ですよ。見事に術中に嵌ったようですね」 「ああ、そういうことならしてやられたな。この半年は本当に辛かった――だが、ついに俺の五百三十一の必殺技を試す日がやってきたのだ! ――死ねィ! 魔王!」 俺は叫びとともに魔王のもとに駆け出して―― 「いやいやいや! ちょ、ちょっと、ストップ! ムリムリ! ごめんなさい!」 魔王の叫びとともに足を止めた。 魔王は両腕で頭を押さえ、それまで立っていた場所にうずくまっている。イヤイヤと両腕を振って悲鳴を上げながら。 「なんだ、それはなんの真似だ? この期に及んでまだ演技をするつもりか?」 「………………!」 魔王は少しの沈黙の後、すっくと立ち上がって、恥ずかしそうにひとつ咳払いをしたあとに言った。 「今の演技を見破るとはなかなかやりますね。あなたの力を見誤っていたようです。今日のところは引き上げてあげましょう。しかし次に会ったときには――」 「いや、なにを捨て台詞のようなことを言っているのかしらんが、逃がさんぞ? ここまで待たされたんだ。この場できっちりと仕留めてやる」 「ええ!? ここは素直に逃そうよ! いきなりラスボス倒したら話の展開メチャクチャになるよ!?」 「それを言うならもうすでにメチャクチャだ。それに貴様を倒し後に真の魔王が現れて新たな冒険が始まるかもしれん。というかこの物語が成立するためには、もはやその筋書きしかあるまい」 「そんなぁっ!」 魔王は大げさに飛び上がり、震えだす。 「……えーと、うーんと。あ、そうだ! 剣! 剣がないと魔王倒せないよ?」 「うん? ああ、そう言えばそんな設定を聞いていたな。心配はいらん――『 俺が魔法を唱えると、目の前に『 中空に浮遊するその剣を手にとり、俺は続ける。 「これで文句あるまい? さあ、覚悟しろ」 「ええっ! まさかそんな魔法まで習得してるなんて……ねえ? やっぱり考えなおさない? もっと派手のステージで決戦しましょ? そのほうがいいよね?」 魔王はまだ正体を現す気はないようだ。 しかし俺はもう我慢の限界だ―― 「ええい! ゴチャゴチャとやかましい! ――俺は一秒でも早く必殺技を試してみたいのだ! 俺の欲望のために散れィ! ――◎△×◆□○……」 俺は剣を構えて、最大必殺魔法の呪文詠唱を開始する。 「キャアアァァ! すいません白状します、私神様です――魔王じゃありません!」 「………………なん……だと……」 ○ 「私、神様だって名乗りましたけど実は神様とはいっても新米で、まだたいした仕事も任せてもらえないんです。それでも、せっかく神様になったんだからなにかそれらしいことがしてみたくて――」 「それでこの世界を眺めていたら強い願いをもった人間を見つけて――そうです。それがあなただったんです」 「――はい。つまりあなたは勇者なんかじゃないんです。私が奇跡の力を少しだけ分けてあげて、それで一時的に魔法のような力を使えるようになっているだけなんです」 「最初にあなたに力を与えたとき、私は嬉しくなりました。本当に神様になれたんだなあって、はじめて実感できたんです!」 「……けれど、私がしたことはすぐに上司にバレてしまって、こっぴどく叱られました。軽々しく奇跡の力を使うなど言語道断だ、と。それであなたにわけを話して力を取り返してこいって」 「ずっと言い出す機会を伺っていたんですけど……嬉々として剣を振るっているあなたの姿を見たら、実は嘘でしたなんてとても言えなくて……」 「魔王として現れるっていうアイデアも思いつきで――こんなその場しのぎをしてもどうにもならないってわかってはいたんです。でも、でも……」 「……本当にどうお詫びすればよいか……ああっ! 泣かないで! そんな顔されたら私も泣いちゃいそうです……」 「――はい。本当にごめんなさいでした。深く反省しています。もう二度とこんなことは起こさないと約束します」 「――はい。失礼します……」 ○ 絶望。 絶望とはこういうことをいうのだな…… 俺は打ちひしがれた。 先日の真王ヶ丘マリア――いや、魔王――でもなく、神様幼女との会話。 まさか本当に魔王がこの世界にいないだなんて。 衝撃が大きすぎてその会話のほとんどを覚えていないけれど、要するにこういうことだろう―― 俺は物語の主人公ではなかった。 俺は物語の主人公になりえないのだ。 と。 確かに俺だって話がうますぎると思わなかったでもない。これまでずっと俺は主人公だと自らに信じこませてきたけれど、それだって半ば虚勢のようなものだった。 ただ、俺は認めたくなかったのだ。 自分が無価値で無力などこにでもありふれた存在だと。 ただ、俺は信じていたかったのだ。 自分だけは特別な何者かであると。 いつか俺の物語がはじまって、俺という存在がみんなに認められるのだと。 そんな夢を信じていたかった―― あれから数日が経ったが、心の傷は深い。 もう立ち直れないかもしれない。 雪姫やみなみ、それに両親が心配して何度も俺の部屋を訪れたが、俺は誰一人部屋に通さなかった。 こんな姿を見られるわけにはいかない。 プライドがそれを拒んだのだ。 そのプライドすら、もう不要の長物と化しているというのに―― 「……ハハッ」 思わず自嘲の笑いが起こる。 滑稽じゃないか。 なんて滑稽なんだろう。 俺にはもうなんの望みも残されちゃいない。 絶望だ。 絶望。 ○ ひきこもること一週間。 俺はようやく部屋から出ることを決意した。 相変わらず心に大きな穴の開いたような空虚感を抱えていたが、それでも日常に戻ることにしたのだ。 その動機としては、やはり雪姫とみなみの存在によるところが大きい。 雪姫は「おにいちゃんが学校に行くまで私も行かない」と言い張って登校拒否になっていたし、みなみは毎日必ず一度は俺の部屋の前に来て声をかけてくれていた。自らの価値を見失っていた俺に対して、それほどに気を使ってくれる二人の気持ちが痛いほどに伝わってきた。 その痛みが苦しくて、申し訳なくて――嬉しくて。 俺が部屋を出たのを見て、雪姫はボロボロと涙をこぼしながら俺に抱きついてきた。そしてそのまま一時間延々と泣き続け、俺はその間ずっと頭を撫で続けた。 みなみのところには自分から行った。「心配かけたな」と声を掛けると、みなみはその場で後ろを向いて「本当だよ……タローのバカぁ……」とつぶやいた。表情は見えなかったが、声と肩が震えていた。 俺はなにをしていたのだろう。 俺の愛する少女たちを悲しませてまで―― そう考えて、はじめて気づく。 少女。 そうか。二人とも女の子だったんだな。 雪姫とみなみ。 あまりに近すぎてよく見えていなかったけれど、魅力的な愛すべき少女たちだ―― そんな風に考えるようになったのも、今回の一件がきっかけだろう。 その心境の変化は少し切なく、少し心地よいものだった。 ○ 俺が学校に再び通いだして三日目のことだった。 その日の昼休み、俺は雪姫とみなみと三人で屋上で食事をしていると屋上の扉が開き、誰かが俺たちの方へ近づいてきた。 誰か。 ごく平凡な高校の屋上という風景にまったくなじまないその容貌。 金髪ツインテールの幼女――真王ヶ丘マリアだった。 「あれ以来姿を見なかったからもうこの世界にはいないと思っていたが……まだなにか用があるのか?」 「……あれからずっと考えていたのです。私の愚かさゆえに傷つけてしまったあなたにどうにか報いることはできないだろうか、と……それでも私にできることなど限られています。ですから――お願いです、私を近くにおいてください! メイドとしてでも下僕としてでも構いません!」 真王ヶ丘はいきなりその場で頭を下げた。最敬礼の形である。 急なことに驚いたが、俺は頭を下げる真王ヶ丘にできるだけ優しく言ってやる。 「そんなことしなくていいさ。確かに、あの件は俺にとって衝撃的で――未だにショックを引きずってはいるが、お前のことを恨んじゃあいない」 「いいえ、それでは私の気が済みません! どうか! なんなら奴隷としてでも良いのです!」 「いやしかし、お前は一応神様なのだろう? そんなことしていていいのか?」 「こちらに来る際に辞表を提出してきました! それだけの覚悟があります!」 頑として譲らない真王ヶ丘。 俺がどうしたものかと思案していると―― 「ねえ、ちょっと。黙って聞いていれば少し自分勝手すぎるんじゃない?」 と、みなみ。 「そうです。話は聞きましたけど、あなたがおにいちゃんが傷ついた原因を作った人なんですよね?」 と、雪姫。 「身勝手を承知でこうしてお頼みしているのです、どうでしょうか? 太郎様?」 ついに様付けになった。 「ちょっとタロー! こんなの早く追い返しなさいよ!」 「そうだよ、おにいちゃん!」 「太郎様、お願いします! 私に挽回のチャンスを!」 「うわ! なにタローに引っ付いてんのよ!」 「そうだよ! おにいちゃんは私のおにいちゃんなんだよ!」 「お願いします、太郎様!」 あっという間に口論は激化し、気づけば俺は三人にすがりつかれモミクチャにされていた。 美少女三人に囲まれたシチュエーション。 明るく勝気な幼なじみ。 甘えん坊な義理の妹。 奴隷志願の元神様幼女。 ついこの間までの俺ならなんとも思わなかったろうが、今の俺は違う。 なぜかわからないが妙に嬉し恥ずかしい心地である。 どうしたことだろう? 俺の心に未知の感情が芽生えていくのを感じる。 「タロー!」 「おにいちゃん!」 「太郎様!」 ああ、そうか。 ――これが噂の、王道ラブコメ展開。 「……ッハハハ、アッハハハハハハハッ、アアッハハハハハッハッハッ!」 そこまで考えて、俺は自然と笑い出してしまった。 俺に取りついていた三人はなにがあったのかと驚いている。無理もない。 清々しい気分だ。 こんな気分になったのははじめてだ。 空を見れば突き抜けるような青。 きっと、ここから―― ――物語が動き出す。 |
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作者コメント
企画には初参加です。 一週間前には書き上がっていたのですがどうにも納得がいかず、 ぎりぎりまで推敲を繰り返していました。 テーマは『魔王』と『夢』ということで…… 一応王道青春ストーリーを意識してみました。 枚数制限で書くのがはじめてだったのでうまくまとめられているか不安ですが、 ご一読いただければ幸いです。 2009年冬祭り「王道冬将軍」にて掲載された作品 以下、祭りのルール。 【テーマ】 『王道』の物語であること。 【お題】 下記お題6つのうちから2つのみを選び、文中に使用すること。(2つ限定) 『夢』、『雪』、『ボーイミーツガール』、『幼女』、『さがす(漢字変換可)』、『魔王』 |
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●感想
Ririn★さんの意見 こんにちは! 面白かったです。最初は中二設定を羅列しているだけの展開と思っていたのですが、そこからストーリーをちゃんとすすめていって、最後にはちゃんとオチを作ってあるというところに関心いたしました。 そして、オチもちゃんと中二設定になっているところが最高でした。 主人公は至って真面目に過ごしていますので、まったくおかしいものばかりではあるのですが、「こいつ馬鹿だ!」って笑う気も少しずつ失せて行き、なんか私まで信じてしまっていました。 で、なかなか魔王が出てこないわけですが、それをどう打開するのかというのと、その間に主人公が何をしていたのかっていうのが、もう本当に涙モノでした。いや、やっぱり主人公は純粋であるべきですね! 今回数ある魔王ものの中では今のところ一番面白いと思います。 ※中二設定の王道ですよね。 グレー・デ・ルイスさんの意見 こんにちは。小説楽しく読ませていただきました。 中二病患者の主人公が中二な能力を手に入れるという話ですが、 魔王はいなかったんですね、面白かったです。 ヒロイン三人もそれぞれに個性的で、これもまた王道と言った感じですねw 個人的には特に神様が好きです。 難点を挙げるならば、やはりストーリーに山がありませんね。 敵が現れないことはそれ自体が伏線でもあるわけなのですが、 チンピラ相手などに雑魚戦を数回入れてもよかったかもしれません。 では、次回作も期待しています。 うさんの意見 拝読させていただきました。 主人公が激しい中二病で、しかもマジでその能力を授けられるって… 面白かったです。はい。 ヒロインたちのキャラもほぼテンプレ通りながら良くできていたと思います。 僕は神様が好きです。 魔王モノかつ夢モノとしても、とてもわかりやすく王道でした。 しかも実は魔王は登場しないという。 オチも秀逸でした。 もうちょっと入れて欲しかったのは、誰かを魔王と勘違いして実際に戦闘しちゃうシーンとかですかね。 後は思いつきません。 さすが推敲を繰り返されたこともあって、非常にスタイリッシュでまとまっていたと思います。 作者様には書き慣れている感じを受けます。これからも頑張ってください。 田中太郎さんの意見 どうも、こんにちは。田中太郎と申します。 拝読いたしましたので、感想を。 面白く読ませていただきました。キャラクター造形もまさに王道、中二な話なのかと思いきや、きちんとストーリーが理解できる形で展開し、お手本のような、爽快感のある作品でした。文章も読みやすくすっきりとまとまっていて、文句なしに面白かったと思います。 いやしかし、この主人公、私は好きです。純粋な、愛すべきアホだと思います。口調が若干おっさんくさいのもまたそれらしくて、こういうキャラはすごくいいですね。 それでは、短いですがこの辺で。乱文失礼いたしました。執筆お疲れ様でした! 結音トウヤさんの意見 中二病、ですがとても面白いです。人ってあそこまで自分を信じられるんだと感心していました。 ストーリーの切り替えもスムーズで、読んだあとに良い意味の溜息が出ますね。 私の場合、奇跡の力でなく主人公の幻覚かと思ってしまいました(すみません)。 先に感想を上げている方にもありますが、実際の戦闘があった方が、主人公の絶望も大きいかな、と思いました。 でも誰かに被害を出してまで信じていたものが壊れたら、彼の人格が壊れてしまったかもしれませんね……。 三人のヒロインも個性的かつ王道ど真ん中といった感じでした。キャラもしっかりしていて……私はみなみちゃんがタイプです。 ミチルさんの意見 中二病……この作品を表す言葉がこの世に存在してよかったです。ひきがよく、つい読み進めてしまいました。先は予想していましたが、最後まで運ばれてしまいました。読後感も抜群にいいです。 文章は読みやすく、つまづく所はありませんでした。それでいてこのノリの良さは秀逸です。佐藤はあまり好きになれませんでしたが、男の子なら一度はこんな夢を抱くだろうなぁと共感はできました。 一方で、最後の場面はやや強引かなぁ……好きな人は好きだと思いますが、ラブコメというよりはモテスギ……主人公にそれだけの魅力があればいいのですが、女の戦いが熾烈になるのはもっと素敵な男性に限るというのが個人的な見解です。みなみは佐藤のどういった所にほれ込んだのかがいまいちわかりませんでした。そのため、他に尽くそうとしている人(神様ですが……)やライバルがいる状況でどうして燃え上がるのかがいまいち見えてきませんでした。読解力がなくてすみません。 いろいろ申し上げましたが、よかったです。これからも執筆を頑張ってください。僕からは以上です。 ミチルさんの意見 作者様、あけましておめでとうございます。 作者コメントを確認してみたところ、何と一週間も前に完成していただけでなく、企画開催までずっと推敲を続けてこられたのだとか。 そんな丁寧に仕上げられた作品なら是非読んでみたいと思い、拝読することにしました。 読了しましたので、感想など述べさせて頂きます。 それでは以下、拙い感想ですがお付き合い下さい。 まずはタイトル。 読了後、思いました。 ――『無敵』の意味、違う!(大笑) そんなわけで、読了後にじわじわくるタイトルでした。 続いて文章。 お上手な一人称だったので、誤字脱字を気にせず読み進めることができました。というか、推敲をしっかりなされた分、誤字脱字の類はなかったように思います。こういう地道な作業って、結構大事なんですよね。 また、偉そうな語り口で書かれていたので、主人公太郎の性格がよくわかりました。おそらく作者様は、文章自体を誉められることが当たり前の域にいらっしゃる方なのだと思います。 キャラクター。 とにかく主人公佐藤太郎が強烈過ぎます(笑) 彼の言動には終始ニヤニヤさせられっぱなしでした。 特に、 >少しばかりプロローグが長すぎるのではないか? >俺はこのような日が来ることを信じて必殺技をすでに三百は考えてある。 >「――セィヤァッ! 『疾風斬』ッ!」 ――といった箇所がいかにもな厨二病患者という感じで、何度も噴き出してしまいました。実に厨二病患者の心理を掴んでいらっしゃる。その想像力(……もしかしたら実体験かもしれませんが:汗)には拍手を送りたい気分です。 その他、ヒロイン全員がテンプレキャラだという徹底ぶり。厨二病王道作品における『お約束』をこれでもかと盛り込んだ印象です。それが却ってギャグになっているあたり、作者様の腕が窺えますね。 内容。 キャラクターの項目で述べた通り、読みながら何度も噴き出しました。 普段から厨二病を発症している太郎が、本当に勇者としての能力を授かってしまい、魔王を倒そうと無駄に奮闘しているところもいいですし、実は彼が勇者でないことが明らかになった後でも、ハーレムものの王道展開に持って行ってしまうあたり、緻密な構成力を感じました。 とにかく、ラノベにおける王道を上手く逆利用した力作だったと思います。 王道設定を上手く逆利用した作品もまた王道とはこれいかに。文句なしの評価とさせていただきます。 楓さんの意見 はじめまして、楓です 私には合わない作品でした。中二病というのは、見ているとどうも恥ずかしくて……。 しかし、それだけで作品を評価してしまうのはもったいないので、もうすこし。 一週間前に完成し、それから推敲をしたとのことで、文章中に問題はなかったと思います。 ただ、中二というか、ここまでくると完全に頭のおかしい人というか。 もうすこし不安がってもよかったんじゃ。 それに、人は手に入れたものは使いたくなるもの。悪者退治とか言って、不良とかヤクザとか犯罪者とか、雑魚戦を入れたら山になったと思います。 それに、ヒロイン三人のキャラが、王道というかベタな気がします。義理の妹だからって好きにならないし、幼なじみだからって好きにならないし、そもそも本当に悪いと思っているなら、もうすこし他にあるだろ神様とか。幼なじみの描写をなくし、妹の描写に力を入れたほうが、話に説得力が出たと思います。 そうするとオチは別な形になってしまいますが、まあ主人公に現実を見させるとかにしたら、綺麗にまとまったかと思います。 コメディに力を入れすぎて、作品としてきちんとまとめることに力が入っていないのでは? という印象です。 三月 椋さんの意見 読ませて頂きました。 今回の企画は、おそらく今作のような作品がいくつか投稿されるのだろうなぁと思っていたのですが、まさに中二病ド直球で笑わせて頂きました。中二病と邪鬼眼は違うとか何とか言われる昨今ですが、この際気にしません。 何よりもいい意味で頭のネジの緩んだ展開、そのテンポの良さが心地良いですね。実を言うと枚数を見ないで読み始めたのですが、読み終わってから四十枚を越えた作品だと気付き、驚きました。あまりにもサッと、楽しく読めてしまったものですから……。 主人公の設定はいわゆる『中二病にありがちなこと』を踏襲していながら、ストーリーはきちんと筋道立っていましたし、ライトノベルらしい娯楽性の高い読み物であったように思います。 あえて気になったポイントを挙げるとすれば、女性陣の佐藤に対する反応でしょうか。このような厨二病患者と積極的に親しくしようと考える人はなかなかいない気がしますし、佐藤本人が周りに忌避されていると述懐しています。その割には、佐藤が神様と出会ったことを告げたその時、ようやく頭がおかしいと思われ始めたような描写がありました。 「皆はおかしいって言うけど私だけは佐藤の味方だよ」とかそういう風でもなく、まさに「その時初めて佐藤の奇行に気付いた」ように見えます。ちょっとこの辺りの描写に違和感があったので、一意見として頭の隅に留めて頂ければと思います。 いちおさんの意見 拝読させて頂きました。いちおと申します。 冒頭から既に主人公の病みっぷりが全開で、引きずり込まれましたw 素直に面白かったし、先を読みたくなりました。 以下、拙いながら感想です。取捨選択をお願い致します。 ●タイトル 特に強力にインパクトがあったとは言いませんが、眺めているうちに「どう天下無敵なんだろう?」と興味を惹かれて、読み始めました。 このタイトルの魅力は、読み終わってからの方が感じますねw 天下無敵……切ないw > 無敵。 > すなわち。 > 敵が、いない。 そうだけど……orz ●登場人物 主人公:濃いですね。常に斜め上を行っている生真面目さが愛すべきキャラでしょうかw 私は登場人物が薄味になってしまいがちなので、羨ましい限りです。正直、身近にいたら私も忌避しますけどw 雪姫:太郎が勇者の話を語った時、信じようと自分に言い聞かせるような姿も健気ですが、いっそ「真に受けて心酔してしまうほど兄馬鹿」と言うのはどうでしょう? 変人兄妹になっちゃうか……。 みなみ:他の方とかぶってしまいますが、私も思ったので言ってしまいます。太郎のどこに惚れたのか……orz せっかく幼馴染なのですから、惚れる理由となる過去の出来事なんかにちらっと触れて読み手を納得させても良かったかも。ベタですが、「よく助けてくれた」的な理由とか。もしくは「変な奴だけど、優しいし、見た目だけはかっこいい」とか。 神様:カワイイじゃないですか。私は文句ないです。 >『〜ばか! ばーか!』 特にココがカワイイ。 ●文章 ・書き慣れている安定感があり、読みやすかったです。独特の語り口調が物語の雰囲気を作り上げていて、主人公の性格と共に思考回路を読み手にがっつり伝えることに成功しているように思いました。総じてユーモラスで、個人的にとても好みの文体です。 欲を言えば、読点が欲しいなあと思ったところがいくつかあるかも。 ・神様の暴露シーンの書き方は、上手いなあーと思いました。くだくだと描写や説明を挟まず、改行を使ってセリフのみで構成されていることで、物語の流れやテンションをすっきりと操ったなあという印象です。 その後の太郎の衝撃を描いている部分は、何だか妙にリアリティがありました。「ああ、誰もがきっとこういう気持ちを味わって大人になっていくんだなあ」と(←ぇ?)感じさせるような何かが。 ●物語・構成 ・『転生』『伝説の剣』『勇者と魔王』そして『義理の妹と幼馴染』と言う、これでもかというくらい王道設定を土台に持ってきながら、「実は魔王はいなかった」と言う展開は面白いです。王道をとことん塗し、尚且つ自分の味付けをする腕前を見習いたいものです。 起承転結のバランスも良く、文章の軽快さと相まって、中だるみ感を全く感じずに楽しめました。 強いて残念な点を上げれば、「何でみなみが主人公を好きなのか」で違和感を覚えてしまった為に……結にも違和感を覚えてしまったところでしょうか。 ●その他 全く意味のない戯言的感想です。読み流して下さい。ツッコミたいとこが山のようにあり過ぎて……w >そろそろ日常が崩壊してくれないと物語として破綻してしまうのではないだろうか? そこ、キミが心配するところじゃ……ww >俺はこのような日が来ることを信じて必殺技をすでに三百は考えてある。 コワイって! >――二十分後。「えへへ。ありがと、おにいちゃん」 ……どんだけw >獄炎糖士 名前を嫌う割りに、義理堅いww >「フハハハハ! ついに現れたか! 会いたかったぞ、魔王よ!」 いっそ言って欲しかったww でもそれを言わなかった理由が『世間体』ではなく、『ここで戦闘するわけにいかない』と言う太郎らしい厨全開の生真面目さに笑みを誘われてしまった。。 >――物語が動き出す。 冒頭、そして結に同じ繰り返しを持ってくることで、綺麗な纏まりに仕上げたなーと感じました。引き締まりますね。 読後感も良好で、楽しませて頂きました。好感度高いです。 余り実にならない感想で申し訳ないですが、私からは以上です。 永遠さんの意見 ――「なぜ、魔王が現れない」 「わかりません。調査して原因がわかり次第お伝えします」―― こんにちは。 読ませていただきましたので、感想を。 読み終えてのひとこと。 ようやるわw 中二病ですか…… ここまでくると、太郎が勝手に勘違いして誰かに戦いを挑んでもよかったような。 ただ、どこかで書かれているように主人公である彼には変なところで冷静な部分があるので、この展開は彼なりに「自重」した結果かなと。 王道展開を盛り込みながら、魔王がいないという「無敵」設定を持ってくるのは流石でした。 燕小太郎さんの意見 燕小太郎と申します。拝読しましたので、コメントを残したいと思います。 >「だってみなみちゃんはおにいちゃんの言うことが信じられないんでしょう? やっぱり幼なじみなんて言っても家族の絆には適わないんですよ」 この場合の『適う』は、『敵う』(あるいはひらがなで『かなう』)の方が適切ではないでしょうか? 『適う』は理に適うといった意味ですから、勝るという意味であれば『敵う』の方があっているのでは、と。自信はあまりないので、確認をお願います。 お題は『魔王』と『夢』ですね。神様がいるなら魔王がいてもよさそうなものなのに、と考えてしまう私ですが、そこは考えずにおきましょう。 個人的に幼女趣味適性がないせいか、神様の幼女設定がちょっと合いませんでした。何となく妹と被った感がありましたので。 キャラクターについて。 厨二病全開の主人公、佐藤太郎くんは、受身な主人公が多い中で見ていて心地よかったです。反面、女性三人がややテンプレ的に見えて惜しかったかな、と。 残念な兄貴にああも懐く妹の雪姫にしろ、幼馴染のみなみにしろ、神様のマリアにせよ、どこか枠から抜け出せない感がありました。マリアはいざ知らず、雪姫やみなみは主人公のどの辺りに惹かれたのか判然としませんし、もう少し掘り下げて欲しかったように思います。 ストーリーについて。 魔王がいると思ったらいなくて、気付いたらハーレムルートに突入しているお話。キャラクターではちょっと苦言を呈しましたが、お話そのものは好きでした。素直になれない幼馴染というのは、何度見ても飽きることがありません。 ただ何というか、ご都合主義なんて言葉がぽんと浮かんできたわけです。女性二人のベクトルが主人公に向かっているのも、神様なんて存在がいて力を与えるのも、どうもでき過ぎている感が、ひねくれている私にはあるわけでして。神様はともかく、ヒロインにはもう少し深みがあると良かったかなあ、と思います。 もう一つ、引きこもりから脱却するシーンを、もっと掘り下げてほしかったと思います。雪姫やみなみの想いが一番に発揮されるシーンですし、主人公がどん底から這い上がる場面ですから、ダイジェストみたいに流されてしまったのは残念に思います。 拙い感想ですが、少しでも作者様のためになる部分があれば幸いです。次回作も期待していますので、それでは、また。 王道であるか否かについて、私はこの二つの解釈で判断したいと思っています。一つは『主人公が熱血漢、ないし熱血要素を持ち合わせている』こと、もう一つは『成長譚である』こと。そのため『ベタ』や『よくある』話であっても私の中では王道でない場合がありえると思いますので、私の曲解もあるかもしれませんが、ご了承願います。 また、バトル要素がある場合、その二元論(正義と悪)によって若干変わることがあります。 私は王道なのかなあ、と考えます。 熱血要素は、まああれだけ長いこと特訓しているわけですから、おそらくあるのかなと思います。 成長譚も大丈夫だと考えます。一度自分が勇者でないことを知り、身近にいる人の大切さに気付いたのは成長だと思います。また、勇者でなくとも主人公にはなれる、と気付いたような描写があったのも、おそらく成長したからだと考えます。 よって、私は王道であると判断します。 みすたンさんの意見 ども、みすたンです。 ●佐藤太郎ぶっつぶす。も、絶対ぶっつぶす。妹の頭を二十分にわたり撫で撫でするなんて……許さん。 とまぁ、そんな私情も挟んでしまったわけですが。 全体的にまとまってて、よかったと思います。かなり作られた感のあるキャラやストーリーには好みがありそうですが、ライトノベル的にはいかにもっぽくてありかと。 個人的にはこの佐藤太郎、クラスでどんな扱いを受けてるのかとか、その辺が書いてあればよかったのかなぁ、とか。作中の様子だと、単純に避けられてる感じかな。それを別に気にすることもなく甘んじて受け入れてる感じ。 あとちょっと気になったのは夢の中での神のセリフが二重カギカッコ(『』)じゃなく普通のカギカッコ(「」)になってるところが数箇所見受けられたところでしょうか。別に大したことじゃないと思いますが、一応、ちょっと気になったので。 ●お題の「魔王」はもちろんしっかり使われてました。で、「幼女」はストーリーの後半からの登場だったのが若干気にはなったものの、ストーリーの大事な要素の一つになっていたので、ありだったと思います。どうせなら夢の中で最初から顔出しとけば……と思っていたのですが、よくよく考えればそしたら「真王ヶ丘=神様」ってすぐ分かっちゃいますもんね。そうか、声だけだったのはそういう理由が……なるほど。 ●もうあからさま過ぎるほどに王道でしたよね。それは間違いないと思います。それが若干わざとらしすぎる気もしましたが「王道」というテーマに対してこの作品はしっかり書かれていたのだと、思います。 ということで王道ポイントはプラス1で。 ●そういえば佐藤太郎は親の再婚で苗字が代わってそんな名前になったのかな?とか。雪姫が義理の妹ってことはそういうことなのかなーとか思ったり思わなかったり。そうだとすればもっと色々組み込めそうな要素もありそうですよねぇ……枚数制限がなかったらもっと書き込まれて面白くなってたのかな……なんて。 そんな感じで、ではでは! 171041さんの意見 どうもこんにちわ。若しくは初めまして。171041(いなとおよういち)です。今回は読ませていただいたので感想でも。 天下無敵って、そういうことか……それが分かった時、思わず吹き出しましたwいや、そりゃそうだ、うん。「指だしグローブなんて着けてお前誰と闘ってるんだ?」っていう台詞を思い出しました。 キャラクターはなんと言っても主人公の佐藤くんがピカイチでしょう。この一切ぶれない厨ニキャラ。大好きです。発想といい、台詞といい、根っこの所で現実的なところといい、凄い好み。この話は彼が間違いなく主人公ですね。 しかし彼とどうしても対比してしまうのがヒロイン達です。妹は結構描写や性格が見えましたが、特に幼馴染は幼馴染という一言で説明のつきそうなキャラでした。実際、影も薄かったような。幼女神様はストーリー進行上必要とはいえ、幼女かぁ、と。あともう一人はせくしーおねぇさんかなぁ、というのは自分の趣味です、はい。 文章は非常に簡潔で、上手いです。しっかり展開して、風呂敷を広げつつしっかり纏める手腕には手馴れたものを感じました。問題無しかと。 オチもニヤリとしていいですね。一見直ったかに見えた彼の厨ニ病がひょっこり顔を出して、まだこれから一悶着ありそうだ、と見せてハイ終わり、と〆る。あぁ、これからどうなるんだろう……と読者にやきもきさせるラブコメでは定番のオチですね。うん、王道だ。 それでは、良作をどうもありがとうございました。 殿智さんの返信(作者レス) ○共通レス(皆様へ) 企画に参加した皆様、お疲れ様でした。 感想をつけてくださった皆様、一読していただいた方、ありがとうございます。 そして、今回の企画運営に携わった関係者様方、本当にお疲れ様です。 この作品は冒頭から中二病的なモノローグがはじまるという、かなり読み手を選ぶ作品だったと思います。正直、書いていて「こういうの、苦手な人はとことん苦手なんだろうな……」と不安に襲われておりました。 そして案の定、感想期間がはじまってもなかなか感想がつかず「感想ゼロ作品の最後の一つとかになるんじゃないか」と鬱々とした気分で年末を過ごしました……冒頭とタイトルの重要性を改めて痛感。良い経験となったと思います。 さて、それでもしばらくすると少しずつ感想をいただけるようになり、最終的には私にも信じられないほどの高評価をいただけた結果となりました。 おそらく読み手を選ぶ作品だったがゆえに、このような話が好きな人が中心となって感想をくださったことが理由の一端であると思います。そういう意味では少しズルをした気分です…… 閑話休題。 感想をくださった皆様、改めて感謝です。 おもしろかったと言っていただけて、よかったです。 欠点についても、自覚していた部分から、自分では気づかなかった部分まで、本当に参考になるご意見を数多く頂きました。改善していきたいと思います。 感想をくださった皆様には後ほど個別にレスを書かせていただきますが、共通して多かったご指摘に関してここで書きたいと思います。 ・“バトルシーンがない”ことについて この話は、まず「王道→勇者(英雄)→無敵」というよくわからない連想をして、さらに「無敵=敵がいない、って面白いんじゃないか」と妄想、そこから物語を膨らませていきました。 当初から敵がいるということを想定していなかったので、必然的にバトルシーンがなくなってしまったのです(敵が現れると無敵じゃなくなってしまうので) とはいえ、盛り上がりにかけるという意見も納得です。どうにか敵じゃない何者かとバトルできればよかったのですが……ちょっと思いつきませんでした。 今後は山場の作り方、見せ方、というあたりも意識して書いていきます。 ・“ヒロインたち”について 皆様から“薄い”とたくさんのご指摘を受けました。 その通りです。すみません。 エンディング(ラブコメ風)を先に考えてからキャラを作っていったので、どうしてもヒロインが三人欲しかったのです。しかし、今回は枚数制限がある――どうすれば……? と、そんな考えの先に思いついたのが「記号をつかう」でした。『おさななじみ』『義妹』『ツンデレ』などなどの、既成概念を記号的に使うことで描写を減らして成立させようとの企みでした。 そんなわけで“薄い”といわれるのも当然で申し開きのしようもありません。 今になって思えば二人にしても成立しないこともなかったんですよね…… ・“太郎のどこに惚れた?”という意見について これも至極真っ当なご意見です。ツッコまれると痛すぎます。 『あまり魅力的に見えない人間がなぜかモテモテ』というのはラブコメでもよくあるかな、という言い訳的な発想です。(どちらかというとギャルゲですかね) とはいえ、少し太郎君を弁護させてもらえば、彼は本当はそんなにぶっ飛んだ人じゃないんです(説得力皆無ですが)。わりと常識的な思考の残った邪気眼保有者といったところでしょうか。ただのダメ人間に見えていたとしたらそれはすべて私の実力不足のせいです(太郎君、ごめんなさい) 雪姫やみなみと間には描かれていない過去でなにかしらのエピソードがあった、ということにしてくださ……いえ、あったんです。きっと。 まあごちゃごちゃと余計なことを書きましたが、要するに枚数に収めてそれに見合った表現ができるだけの実力が不足していた、ということに尽きると思います。 次に企画に参加できるときは枚数を意識して作中で完結するお話を作りたいです。 シンズーさんの意見 読み終えての第一印象は、ありきたりなシチュエーションを徹底的にこき下ろしているなぁ、という印象でした。 しかも、それを迷いなく全力で通すことに一貫していて、その点においては完成度の高い作品だと思いました。 笑いの部分も、ブラックジョーク的ではありますが非常にセンスのある笑いだったと思います。 個人的には神様の『現在調査中です』がツボです。 テンポも良くて最後まで飽きずにさらっと読むことができました。 文章に関しましても、丁寧な推敲の結果なのか、突っかかる部分は全くなかったと思います。 僕も一週間前から推敲を重ねていたのですが、改めて読み返してみると変な句読点や表現が残ってたりして、この差はいったい何なのでしょう……。 失礼、話が逸れてしまいました。 気になる点があるとすれば、笑いがブラックなことではないでしょうか。 読み手が我々のように書き手側の人間であれば、色んな作品を読み漁っているでしょうからブラックジョークとしての理解は得られると思うのですが、そうではない場合は、ジョークなのかどうかがわからずに終わってしまう可能性があるのではないかと思いました。 おそらく作者様はわかっていてゴーサインを出したのだろうとは思うのですが、個人的に無視できない部分だと思ったので指摘させていただきました。 素晴らしい作品だとは思うのですが、人を選ぶ作品だと思います。 一方、その選ばれた人達からは、中毒症状を起こすほど愛してもらえそうな作品ですね。 作者様もその辺りの毒を飲み込む覚悟はできているのだとお見受けしましたので、完成度の高い作品としましては少々低い点数をつけさせていただきました。 企画も既に終わったことですし、正直に申し上げたほうが作者様の力になれるのではないかと信じて思い切った次第です。 どうかご無礼をお許しくださいませ。 玖乃さんの意見 はじめまして、玖乃です。 後夜祭、緑色めぐりをしています。簡単な読了報告と、点数投下をいたしますので、多少お時間をいただけると幸いです。 これは……んー、読み手を選ぶ話ではないと思うのですが、内容がなさすぎる……w 日常切り取り型のストーリーとしては秀作の域で、非常に読みやすかったです。とはいえ期間中に一度開いて、冒頭の冗長さでブラウザバックした自分がいるのも事実……。私、中二病は全然オッケーですけど、若干方向性が違ったのかな。フィーリングの問題ですので気にしなくていいレベルです(汗 なんといいますか、このラストで「じゃあ俺が魔王になってやるぜ!」以外の未来が思い浮かばない……w 美女をはべらせるまさしく外道です。太郎くん。うらやましいと思いますが、あこがれとはちょっと違います。んー、失礼ながら、フィーリングが合わないけど良作ってあるんですね。 よく読むと、構成的には非常に優れた作品になっています。 ただ、いかんせん華がないように感じました。女の子ってイミの華じゃなく、御作には物語としての華が足りないように思いました。もう失礼ついでに言ってしまいますよ。すみません。 他の方も指摘なさっているとおり、それはライバル不在によるものが大きいと個人的には考えます。 御作は軸として「挫折―復活」だけを抽出したかたちのようですので、そこに必然的に必要となるファクターが欠けていることにより、それが物足りなさとなって表れているように思いました。 バトルじゃなくてもいいんです。何か主人公が乗り越えるべきものを、読者に分かりやすく提示されていることが大切だと思います。日常の克己もたしかに乗り越えるべきものではあったのですが、いかんせん華がない。その一言に帰ります。 そうしたことから御作は王道ではないと判断しますが、まあ本祭は終わっているのでポイントは無効ですよねー。 |
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