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『お父さん、臭い』
……と、娘に言われてから四年が経つ。以来、娘は私に寄りつかなくなった。友人に言わせれば、これは思春期の娘を持つ父親なら誰でも経験することらしい。 なるほど。私の一人娘は今年で十七歳だから、それも納得のいく話だ。今思えば、娘の美咲がそう口にしたのは複雑な時期が始まったという合図だったのだろう。 いや何も、娘に不満があるわけではない。むしろ、美咲は自慢の娘だ。 責任感が人一倍強く、学校では生徒会副会長を務めるほどのしっかり者。顔立ちは妻の早苗によく似て、黒水晶のように澄んだ瞳が印象的な少女である。親馬鹿かもしれないが、才色兼備に成長してくれたことが男の親として嬉しい限りだ。 それに、家事ができない私に代わって、家の事は全て彼女がやってくれている。特に料理は見上げたもので、私が夜遅く帰った後に夕食を頼むと、食べきれないほどのキャベツ炒めをフライパンごと出してくれる。そんな時は決まって、ご飯も味噌汁もない。ただひたすらにキャベツだけ。きっと、彼女なりに私の健康を気遣ってくれているのだろう。 そんな娘だから、私は美咲の為なら何でもしてあげたいと思うし、悩み事があるならできるだけ聞いてやりたいと思っている。 ただ……愛する娘から『臭い』の一言で全否定されるのは正直辛い。 私だって、好きで臭くなったわけではない。この歳になると、身体から『そういう成分』が分泌されてしまうのだから仕方ないじゃないか。 ――ところで。 ふと思ったのだが、私は今も臭いのだろうか? 美咲に体臭を咎められてからというもの、普段から気を遣ってはいる。しかし残念な事に、自分の匂いはなかなか自覚できないもの。知らないうちに悪臭を放っていたら周りに申し訳ない、ちょっと確かめてみよう。 オフィスで仕事をしている部下達の目を盗み、さりげなくのあたりを嗅いでみる。 「――これは深刻ですよ」 何だと、やっぱりそうなのか! 慌てて顔を上げると、営業課対策係の山崎係長が眉間に皺を寄せて佇んでいた。 「柳川課長、『いっぱんたいしゅうしゃ』の売り上げに問題が発生したようです」 ううむ……やはり『一般体臭者』には問題があるのか。 「や、山崎君。そんなに……臭いかな?」 「くさい? ……ええ、ある意味では。このままでは、我が社にとって大きな損失になるかもしれません」 ああ、なんということだ。大学卒業後、この会社で勤務するようになってから早や二十五年。真面目一筋でやってきたおかげか、一度も損失を出すようなことはなかったのに。 それがまさか、自分の加齢臭が原因でこのような事態を招くとは。きっと、私のせいで職場環境が乱れているのだろう。 「す、すまない。これも全て、私の責任だ……!」 いたたまれなくなった私は、席を立ち頭を下げる。これまでは立場上、部下の失敗を叱責する場面もあった。しかし今度は私自身に問題がある。だから、ここは潔く非を認めるべきだと思った。 「課長!? そんなっ、顔を上げて下さい」 山崎が私を弁護してくれようとしている。そういった人情は有り難いのだが、やはりここは頭を下げるのが筋だろう。部下に甘えているようでは、上司失格だ。 「いや、気遣いは無用。臭いのは……私のせいなんだ!」 私が大声を出したからだろう、オフィスがどよめいた。あちこちから「どうした」「何事ですか」などという声が聞こえてくる。 「課長! 何をおっしゃりたいのかよくわかりませんが、とにかく落ち着いて下さい!!」 「し、しかし……私の体臭が職場環境を乱しているなら、責任を取らねば……!」 「違います! 私が申し上げているのは、我が社の主力商品である『一般大衆車』の売り上げについてですよっ」 …………何? 某大手自動車メーカーの営業課長。それが、私の肩書きだった。 「課長、すんません。それじゃ、お先に失礼しまっす」 パソコンと格闘している私を尻目に、二十代後半の若手社員が部屋から出て行く。時刻は午後六時を回ったばかり。昼間に話していた様子だと、この後は合同コンパとやらが待っているらしい。 「ああ、ほどほどにね」 とだけ言って、私は彼の背中を見送る。今更「残業よろしく」なんて言えやしない。 ……やれやれ。 時代は変わったものだ。私があれくらいの頃には、深夜まで残業するのが普通だと思っていた。サービス残業は当たり前、結婚する前は社内で一泊する事もよくあった。毎日遅くまで働いて、帰ったら風呂にも入らず布団へ直行。そして朝になり、再び背広という名の『戦闘服』に着替えて出勤……そんな時代だった。 だが最近はそうでもないらしい。「趣味に没頭したい」、「働くだけが全てじゃない」、そして「家族との時間を大切にしたい」……時代の変化と共に、そんな声が高まっていると新聞の社説で読んだ気がする。仕事第一の時代に生きてきた私にとっては、とても信じられない話だ。 とはいえ、いつまでも古い慣習に囚われているわけにもいかないだろう。実際、私はそのせいで過去に苦い経験をしたのだから。 「さて、と」 慣れないパソコン業務のせいでカチカチになった肩をほぐし、立ち上がる。よく磨かれた窓の向こう、高層ビルの谷間に夕日が見えた。階下の並木道では、桜の木がもう緑色の葉を付けている。まだ梅雨入りには早いから、更衣室へ傘を取りに行くまでもなさそうだ。 足元の鞄を掴むと、チャックの隙間から乾いた音が聞こえた。 何の音だろうか? そう思って鞄の中を覗き込むと、こんな文面が見えた。 【おっさん学園 開校のお知らせ 最近、家族と上手くいっていますか? 特に思春期のお子様を持つ皆さんは、その関係に頭を悩ませていることだとお察しします。 そんなお父様方のために、この度『おっさん学園』を開校する運びとなりました。 入校資格は、 1.思春期のお子様を持つ父親であること 2.お子様との不仲を解消したいと考えていること ――以上の二点のみ。ふるってご参加願います。 つきましては、別紙に開校日時と場所を記載してありますので、そちらをご参照下さい。 発:おっさん学園理事会】 鞄の中には、A4用紙に印字された二枚組の通知書が入っていた。 なんというかこれは……胡散臭い。まるで新興宗教の勧誘みたいだ。 私が娘との関係に頭を悩ませているのは周知の事実だから、職場の誰かが仕込んだのかもしれない。 悪戯好きの山岡主任が犯人候補の最有力といったところだが、彼は今日代休を取っている。まさか、同僚と結託してまでこんなことに時間を費やしたりしないだろう。 となると、次は入社三年目の平山ちゃんだろうか。つい先日、彼女が作成した書類の不備を指摘したのだが、その時の言い方が厳し過ぎたのかもしれない。それで今回、ちょっとした仕返しを……いやいや、彼女はそんなに悪い子ではないはずだ。 それなら一体誰がこんなことを? あれこれ考えてみても、心当たりがない。ただ、それはともかくとして、最初の二行が気になるのは確かだ。 もしこれが嘘なら、少し時間を無駄にするだけで済む。逆に本当だったら、願ってもない機会を棒に振ることになる。 どれ、ここは一つ担がれてみようか。まだ受講すると決まったわけではないし、会場を覗いてみるだけでも。 そう考えた私は、暮れゆく街へと繰り出したのだった。 〈おっさん学園〉の会場は、市内にある私立大学らしい。そこまでは電車で二駅、受付開始が午後七時となっていた。 電車に揺られながら、窓の外を眺める。 ……この光景を見るのは何度目になるだろう。幸いにして、今の会社ではリストラされずに入社以来ずっと勤務を続けてこられた。これも、私を支え続けてくれた同僚や部下のおかげだろう。 そして何より、忘れてはならないのが家族の存在だ。私と妻は職場で知り合い、それから交際を続けて二年が過ぎた頃にゴールインした。それを機に、妻は寿退社し家事に専念してくれるようになった。美咲が生まれた後も、妻が子育てを一手に引き受けてくれた。そのため、私は会社で日々奮闘することができたのだ。 あの頃は、とにかく働いて、働いて、働きづめだった。有給休暇など取ったことがなかったし、長期休暇にも興味を持たなかった。そうやって働き続ける事が、家計を潤す唯一の手段だと信じていたからだ。 公営住宅の狭い一室から抜け出し、駅前のマンションへと住居を移し、そして今では郊外に念願の一戸建て住宅を構えている。自分の稼ぎで建てた家を妻と娘に見せた時、誇らしい気分になったのを今でもよく覚えている。 ……なのに。 新居で暮らしていくうちに、妻の顔が次第に曇っていくのがわかった。いや、あの頃の私はそうと気づかなかったに違いない。今思えばそうだった、という話だ。 私が三十八歳の頃を境に、やたらと妻から身体の調子を気遣われるようになっていた。確かに私は元々痩せぎすで、あまり健康的には見えなかったかもしれない。けれど、家族の事を思えば会社という名の『戦場』へ出掛けることなど何でもなかった。 そんな毎日を繰り返し、今日を迎えた。それまでの間に、多くのものが変わっていった。今こうして見ている車窓の景色も、昔に比べて背の高いビルが増えたように思う。電車の中に居る人々の服装や、会話の内容。果ては電車内の吊り広告に至るまで、時代の変化を感じさせるものばかりだ。 ……いや、それらの変化は起こるべくして起こったもの。私にとって、最も変わって欲しくなかったものがある。それは二年前―― 「おっと」 物思いにふけっていたせいで、危うく乗り過ごすところだった。弾かれるようにして自動ドアの隙間をすり抜けると、私は通知書に書かれた道案内通りに歩き出す。 駅の四番出口から出た後、目の前の信号を渡り、飲食店の建ち並ぶ繁華街を通り抜ける。 完全に陽が落ちた頃、私大の正門が見えてきた。ご丁寧にも、『おっさん学園 受付はこちら』と書かれた看板が置いてある。矢印の方向へ歩を進めると、煌々と明かりの漏れる講堂が目に入った。 入り口から中を覗き込むと、長机の前に座っている若者と目が合った。面接で見かけるような黒い背広を着ている。若手社員と言うには初々しく、いかにも学生といった感じだ。 「あっ、入校希望の方ですか?」 こちらが口を開く前にそう言われ、反射的に「はい」と答えてしまう。すると男子学生が、 「こちらに記入お願いします」 と言って紙とボールペンを手渡してきた。ここに名前や年齢を書けということらしい。 渡された用紙に『柳川義之 48歳』と書いて、男子学生に返す。それを受け取った彼は、私を講堂内へ案内した。 「……ほぉ」 講堂の扉を開けた時、思わず感嘆の溜息が漏れた。というのも、既に十人ばかりの『生徒』が集まっていたからだ。顔を見れば、四十代後半から五十代後半の父親ばかり。皆、私と同じような悩みを抱えているのだと考えたら、少し気が楽になった。 「やぁやぁ、お宅さんも例の通知が気になったクチですかな」 一番前の席に着くなり、隣の男性が話しかけてきた。頬のたるみや髪の残り具合からして、私よりも年上だろう。 「ええ、恥ずかしながら。初めは同僚の悪戯かと思いましたが……やっぱり、ね」 「はっはっは! みんな反応は同じですなぁ。いやね、私も騙されたつもりで来たもんですから、今となってはびっくりですわ」 と言って、その男性は豪快に笑う。どうやら、裏表のない好人物のようだ。 それから、二人で簡単に自己紹介。相手は福本さんというらしい。歳は五十二、自宅には奥さんと高校生になる息子さんがいるそうだ。 「……ほう、柳川さんには娘さんが。そりゃまた難儀ですな」 「ええ、なかなか口をきいてくれないので苦労しています」 「しっかし、どうしてですかなぁ。柳川さんは背も高いし、歳の割には腹も出ていない。髪の毛なんかフサフサですし……あ、もしかして『コレ』ですか?」 そう言いながら、福本さんは小指を立てる。私の浮気が原因だと勘違いしているようだ。 「いえいえ! 私は妻一筋でして!!」 「またまたー、相当おモテになるんでしょ?」 「違いますよっ!」 「いやぁ、羨ましいですなぁ。その点、私なんてこの通り、ハゲと――」 と、そこで頭をペチン。続いて、お腹をポン。 「ビールっ腹ですわ!」 その言い方があまりにも潔いので、私は耐えきれずに噴き出してしまった。 私達がすっかりうち解けた頃、講堂内にチャイムが鳴り響いた。先ほどの男子学生が中へ入ってくる。彼は教壇の前に立ち、自己紹介を始めた。 「皆さん、当学園へようこそ。私は理事長を務めます、鳥山という者です」 この若者が理事長? 周りを見ると、他の人も私と同じ疑問を抱いたようだった。 「まず初めに、この学園の趣旨を説明致します。当学園は、年頃のお子様がいらっしゃる方々を対象に、子供達の価値観をお教えすることで――」 「……馬鹿馬鹿しい」 と言ったのは私ではない。振り向くと、一番後ろの席に座っている男性が気難しそうな顔をしていた。 「何の冗談かね。君のような若造が教師気取りするのは止めて欲しいものだな」 黒縁眼鏡を掛けた男性は、不機嫌な態度も露わに両腕を組む。昔気質の人らしく、鳥山君の言い分に聞く耳を持たないようだ。 「これは失礼しました。ですが、若者の価値観は若者にしか教えられないと私は考えます」 「……どういう意味かね」 「質問に質問を返すようで申し訳ないのですが、今皆さんは私に対して『この若造、何を考えている?』と思われたのではないでしょうか?」 それは、私も思った。若者の価値観を教えるといっても、それによってどんな効果が望めるのか解らない。 鳥山君は、全員の無言を沈黙の肯定と受け取ったようだ。 「はい、今まさに皆さんが思った事こそ、お子様に対して抱いている距離感の正体なのです」 なるほど。私が娘との間に距離を感じているのは、自分が子供の考えている事を理解できていないからだ。この距離を詰める為には、子供の価値観を理解した上で、相手が何を考えているのか推し量れるようにならないといけない。 「このように、皆さんと子供達――つまり若者とは価値観が違うので、なかなかお互いを理解できないのです。そこで講師が、皆さんに若者の価値観をお教えすることで、親子の歩み寄りを手助けしようというわけです」 自信に満ちた顔で、鳥山君がそう締めくくった。文句を言う者はどこにもいない。全員が彼の言わんとするところを理解したのだろう。 「先生、しつもーん!」 早速生徒気分で手を挙げたのは、福本さんだった。 「どんな事を教えてくれるんですか?」 すると、鳥山君は爽やかな笑みを浮かべた。 「まず初歩として、若者の文化に触れて頂きます。携帯電話の活用法、流行の音楽、ファッション関係……おそらく、皆さんのお子様もこれらに興味をお持ちでしょうからね」 娘も年頃だから、携帯電話の活用法ぐらい心得ているだろうし、流行にも敏感なはず。学んでおいて損はなさそうだ。 「では始めましょう。今日は若者言葉について講義します」 鳥山君は、教壇の上に載せてあった冊子を配り始めた。冊子は大学ノートぐらいの厚さがある。手元に届いたものを開くと、中にはびっしりと若者言葉が書き込まれ、その使用例まで紹介されていた。 「まずは、若者言葉の定義から。そもそも若者言葉とは――」 講義初日。こうして、父親たちによる努力の日々が始まったのだった。 ……ふっふっふ。今日から私は生まれ変わる。鳥山君の講義を受けた後だからか、気持ちが二十歳は若返ったようだ。 こう見えて、語学は得意な方だ。一定の傾向さえ解れば何の事はない。実際、私ほど早く若者言葉を修得できた人はいなかった。 今日の成果を美咲に披露したら、彼女はどんな反応をするだろう。喜んでくれたら嬉しいのだが……。 自宅はもう目の前。時刻は午後十一時と遅めだが、美咲はまだ起きているはず。どれ、どこまで通用するか試してみようか。 私は玄関戸を開くと、声高らかに帰宅を告げた。 「たっだいまぁ〜! めっちゃ遅くなって、まじゴメン!!」 ちょうどその時、風呂場から出てきた美咲と目が合った。風呂上がりらしく、肩まである黒髪がしっとりと濡れている。元々色白の肌が上気し、いつにも増して可愛らしい。 「お父さんは生まれ変わったぞ。今日から美咲の為に、すっげー頑張っから、ありえねーぐらい期待してくれってゆーか?」 「……っ!?」 ところが。美咲はまるで変質者に出くわしたような顔をするのだった。 「……い」 美咲が口を開いた。声を聞くのは実に久しぶりだ。 「嫌っ!」 そうそう、そんな風に「いやだ、お父さんったら」……って、美咲!? 何故逃げる! 娘は二階へ駆け上がる。そのまま自分の部屋へ飛び込むと、目にも止まらぬ勢いでドアを閉めた。 ――がちゃり。 今……鍵を掛ける音がしたような……。私も二階へ上がり、美咲の部屋のドアを叩いてみる。しかし返事がない。 部屋に入る間際の顔、ああいうのを『ドン引き』というのだろうか。何がいけなかったのだろう、全然わからない。 娘との関係が改善するのは、まだまだ先の事になりそうだ。 翌日。 よし、今日こそは美咲と話をしよう。 というわけで、彼女が帰ってきた頃を見計らい、部屋のドアをノックする。 「美咲。今日はお父さん、携帯電話について勉強したんだ。しっかし驚いたよ。携帯電話には色んな機能があるんだなぁ」 今日の講義で習ったのは、メール、インターネット、デジタルカメラ……等々。ポケットに入るぐらい小さな機械なのに、携帯電話とは実に便利なものだとわかった。 「ああ、そうそう。美咲、『アンドロイド携帯』は知ってるかい? あれ、人型のロボットとは違うんだって? お父さんすっかり勘違いしていたよ」 「……」 「お父さん、着メロ変えてみたんだ。どうだ、聴いてみてくれないか? きっと気に入って……」 ――がちゃり。 …………。 鍵を掛けられてしまったらしい。 いやはや、娘から『着信拒否』を喰らうとは夢にも思わなかった。 更に翌日。 今日習ったのは、流行の音楽について。美咲が普段どんな音楽を聴いているかわからないから、まずは聞き出すところから始めないといけない。 昨日と同じく、部屋のドアをノック。 「美咲、今日はいっぱい歌手の名前を覚えたよ」 「……」 「エグザイル、ビーズ、レミオロメン、ポルノグラフィティ……これ、みんな日本人なんだって? 横文字ばかりだから、外国人だと思っていたよ」 「……」 「ああそうだ。宇多田ヒカルって歌手、藤圭子の娘なんだな。お父さん、藤圭子なら知ってるよ。確か、四十年前にレコード大賞を取った歌手だ」 「……」 「あ、あと。ファンキーモンキーベイビーズと矢沢永吉は全然関係ないらしい。美咲は知って……」 ――がちゃり。 …………あ、また。 更に、更に翌日。 「みさ……」 ――がちゃり。 …………美咲、お父さんはそろそろ泣きそうだよ。 それから一週間、私は毎晩のように講義を受けた。 今日までに習ったのは、若者言葉、携帯電話の活用法、流行の音楽、テレビゲーム、催し物の楽しみ方……といったところ。私達の価値観と若者の価値観が、いかにズレているのかがよくわかった。 また、思わぬ収穫もあった。というのは、講義を受けている父親達の中で仲間意識が芽生えたのだ。 「柳川さん。どうです、これから」 本日の講義が終わった後、駅前で福本さんが話しかけてきた。全員で一杯やろうという意味だ。今日は『花金』なので、こういう流れになるのは必然と言ってもいいだろう。 二年前の私だったら、この誘いを快く受けていたに違いない。サラリーマンと酒の席は切っても切り離せないもの。取引先の接待の為、親睦を深める為、そして部下を労う為……理由は様々だ。 しかし残念ながら、私には付き合えない理由があった。 「あー……お誘いは嬉しいのですが。生憎と、夕食は必ず自宅で摂るよう娘と約束していましてね」 そう。なんだかんだ言いながら、美咲は毎晩夕食を作り置きしておいてくれる。食べるのはいつも一人だが、娘の手料理が私にとって唯一の楽しみなのだ。 「あちゃー、そうでしたか。そら、申し訳ないことを」 「いえいえ。こちらこそ、個人的な用事ですみません」 「いやそんな! 私らはみんな同じ境遇なんですから、他の方もきっと理解してくれますわな」 福本さんは恐縮した様子で両手を振る。お互いに謝ってばかりいるのが、なんだか可笑しかった。 「それじゃ、柳川さん。明日の一時に!」 「ええ、明日も宜しくお願いします」 深々と一礼。顔を上げると、福本さん達が駅前の焼鳥屋へ吸い込まれていくのが見えた。これから、気の置けない仲間と一緒に愚痴の言い合いでも始めるのだろう。それは大いに結構。 私のような『おっさん』にとって、居酒屋が唯一、現実逃避の許される場所だ。日々仕事に明け暮れ、自宅でさえ気が休まらない人もいるだろう。そんな時、私達は心のオアシスを求めてしまう。それは例えば、一杯の酒であったり、共に愚痴を言い合う仲間だったりする。 きっと、他の人達も心の底では辛いのだと思う。 私達はもう『いい大人』だ。だから、ところ構わず弱音を吐く事は許されない。けれど、実のところ心は酷く脆い。だからこそ、ああいう場所で現実逃避したくなる。女性にはわかるまい、彼女らは私達よりも遙かに我慢強いのだから。 『――間もなく、一番線に電車が到着します』 午後九時四十分発の電車が来たらしい。私は急いで改札を抜け、帰りの電車に乗った。 ……現実逃避か。できるなら、私もしたい。 相変わらず、美咲との関係は改善していない。それどころか、以前に比べて悪化しているような気がする。私が習った事を披露する度に、彼女の態度が厳しくなっていくのだ。 そもそも何が原因で、ここまですれ違うようになったのだろうか。 ――お父さんがそんな風だから!―― 心当たりは、二年前の出来事。親子の関係が崩壊したのは、当時から私が不甲斐なかったからだ。 溜息一つ。 車内放送が、次の到着駅を告げていた。 翌日は土曜日。休日を利用して服飾関係の課外授業が行われることになっていた。 「どうしました、柳川さん?」 時刻は午後一時ちょうど。集合場所である市民公園で、福本さんが訊いてきた。 「……いえ、何でもありません。最近ちょっと眠れないもので」 「ありゃ。……元気出して下さいよ?」 福本さんの飾らない一言。却って、それが有り難かった。 「全員集まったみたいですね」 引率役が甲高い声で言う。今日の講師は、全身を革製の服で固めた若者だった。耳にピアスをしていたり、ズボンから鎖をぶら下げたりと、奇抜な服装が好みらしい。特に目を引いたのは、黒光りする首輪だった。世の中に『そういう趣味』の持ち主がいる事は私も知っているが、そんな人間に今日の講師を任せても大丈夫なのだろうか。 「見ての通り、このストリートにはアパレル関係のお店が山ほどありますが、今日は講師が皆さんをお店に案内して、アドバイスさせて頂きます」 首輪の彼が、賑やかな大通りを指さし言う。普段の私なら素通りしてしまいそうな店ばかりが見えた。英字の看板や極彩色の壁、水牛の剥製が突き出ている所もある。ここは本当に日本なのだろうか。 「では、二人一組になって下さい。それぞれのペアに講師が一人付きますので、あとは三人で行動して下さいね。集合時間は――」 今日は半日かけて行動することになりそうだ。これだけ時間をかけて私達の服装をいじるのだから、講師陣の並ならぬ気迫を感じる。 「柳川さん、組みましょう」 声を掛けてきたのは福本さんだ。この人なら、変に気を遣わないで済むから申し分ない。 「ええ、こちらこそ」 と言って、私は相手の申し出を受け入れたのだった。 「おっ、こっちは柳川さんと福本さんのペアですね。宜しくお願いします」 振り向くと、首輪の彼がにこやかな笑みを浮かべていた。奇妙な身なりをしている割には礼儀正しいので、それがちょっと意外だった。 「それにしても……」 首輪の彼が、私の全身を観察する。今日の服装は、黒のトレーナーにベージュのスラックス。自分なりに無難な格好を選んできたつもりなのだが、首輪の彼にしてみれば物足りないらしい。 「柳川さん、スタイルいいですね。これは大化けするかもしれませんよ?」 「大化け……どんな風にですか?」 確認の為に訊いておく。彼のように革装束で身を固められてはたまったものではない。 「柳川さん、『ちょいワル系』ってわかります?」 それなら知っている。事前に書店で調査済みだ。確か、次郎ラモとかいう日本人だか外国人だかわからない名前のモデルが雑誌に出ていた。 私が頷くと、首輪の彼は親指を立てた。 「だったら話が早いです。それを目指しましょう」 「いや……それはちょっと……」 私が尻込みしていると、福本さんが背中を押した。 「いいじゃないですか。柳川さん真面目だから、ガラっと印象変えしたら面白いと思いますよ」 「そうですよ。この際、ぱあっと変身しちゃいましょう。『ちょいワル親父』って、若い子に結構人気あるんですよ? きっと、娘さんも喜んでくれますって」 ……それは本当だろうか。 講義初日から娘を喜ばせたい一心で努力してきたのだが、今のところ効果は発揮されていない。これは、私の努力が足りないからなのだろう。 一人で努力しても不可能な事はある。それは会社で二十五年間働いてきた経験から解っているつもりだ。誰かに助けて貰って、自分も誰かを助ける。そうやって成功を収めていくのが世の常だ。 だったら、今こそ私は助けを求める時なのかもしれない。幸い、同じ境遇の福本さんも応援してくれていることだし、目の前の若者も思ったよりは信用できそうだ。 「わかりました。やる以上は、徹底的にお願いします」 「はい、決まり! そうと決まったら、早速ヘアサロンに行きましょう」 私が頭を下げると、首輪の彼は心底嬉しそうに言うのだった。 実際、首輪の彼のセンスは確かなものだった。彼は美容院を出た後も精力的に店を選び、陳列されている服の中から厳選に厳選を重ねていた。そうして彼が選んだ服を着てみると……これが実に素晴らしい。自分の変わりように一番驚いているのは、おそらく私自身だろう。 「これが……私……?」 鏡に写った私は――自分で言うのも何だが――ドラマ俳優のように洗練されていた。 髪は薄い茶色に染められ、清潔感のある短髪に仕上げられている。襟付きシャツの第一ボタンは外し、胸元に首飾りの石を配置。上着は胸ポケットに十字架があしらわれたジャケットで、下は細身のズボンだ。そして、手首には数珠のような腕輪と、妻から誕生祝いに貰った高級時計。これで『ちょいワル親父』の完成だ。 「――うっおおお! すげぇ、イメージ以上!!」 首輪の彼が、握り拳を作ってそう言った。 「柳川さん! おっさんの私にもわかりますよ。今のあなたは格好いい!!」 福本さんに至っては、私の両手を固く握ってくるほどだった。 「外に出ましょう。他の人の反応が見たいです」 首輪の彼が、私を店外へいざなう。外はすっかり陽が落ちていたものの、店の電灯や街灯の光でまだ明るい。まるでそこが、ファッションショーの舞台に思えた。 私が外へ出た途端、視線が束になって降りかかってきた。道行く人々が、私を見ては感嘆の溜息を漏らしていく。向かいの店で客寄せしていた店員が口笛を吹き、どこからともなく拍手まで聞こえてきた。 「ほら、みんな『格好いい』って言ってますよ!」 首輪の彼に言われて、まんざらでもなくなってきた。 これで美咲も喜んでくれるだろう。そうしたら、長年の隔たりを解消する為に話をしたい。 ――美咲、学校では上手くやっているかい? 友達と仲良くしているかい? 勉強はどうだ、希望の進路へ進めそうか? 好きな人は、もう居るのかな? 頭の中で、美咲への問い掛けが次々に湧き出してくる。今まで停止していた時間が、ようやく動き出した気さえした。 「君、ありがとう。本当に……」 と、その時。 「もう止めて!」 背後から、悲痛な叫び声が聞こえた。 思わず振り向くと、そこには見慣れた顔の少女。 ――美咲? なぜここに。 彼女は怒り心頭といった様子で、私のほうに歩み寄ってきた。 「何よ、その格好! いつまで私の機嫌取りしてれば気が済むのっ!!」 いきなり怒鳴りつけられたものの、美咲が激怒している理由がわからない。 「毎晩毎晩、私に媚び売って……それってただ『娘に嫌われたくない』ってだけじゃない!」 「う……」 言い返せない。彼女の言う通りだ。 「そんなに娘が怖いの? いっつも黙ってばかりで……そのくせ、結局は自分の事しか考えてない。お父さんがそんな風だから、お母さんはっ……!」 「……っ!?」 ――お父さんがそんな風だから!―― 二年前と全く同じ台詞。それを聞いた途端、金縛りに遭った気がした。 娘は私に背を向け、走り出す。 「美咲!」 後を追おうにも、脚が動かない。自分が重大な誤りをしている気がして、走り出すのが躊躇われた。最早、どうすることが正解なのか分からない。 結局、私はその場で佇むことしかできなかった。 一人、トボトボと歩く。抜け殻のように。死人のように。 帰宅してすぐ、私は風呂場で髪を黒に染め直した。安物の普段着に着替えた後、美咲の部屋のドアを叩いてみる。しかし気配がない。娘は帰っていないようだ。 ……どうして私達はすれ違うのだろう。昔はこんな風じゃなかったのに。 記憶を辿る。 美咲が生まれたのは、十七年前の四月八日。時刻は午前三時二十六分……ちゃんと覚えている。 あの日、私が分娩室で目にした光景は今でも忘れられない。 光溢れる世界の中で、新しい命が妻に抱かれ、精一杯自己主張していた。「私はここにいるよ!」生まれたばかりの娘は、確かにそう言っていた。 あんなに小さな身体なのに、どうして彼女は私に大きな希望を与えてくれるのだろう――そう思った時には既に、涙が頬を伝っていた。 ありがとう。私達の為に生まれてくれて、本当にありがとう。何度もそう口にした。同時に、自分が一人の父親になったことを実感した。この子を守りたいと、心の底から思った。 やがて美咲は、その小さな手で私の指を握り返すようになった。微笑むようになった。おむつを替えてくれと泣き、言葉を覚え、そして――自分の足で歩み始めた。あの時は妻と二人で抱き合ったものだった。 それから幼稚園、小学校と進み、彼女は物事を学び始めた。たどたどしい文字で「おとうさんありがとう」と書いてくれた。小学二年の学芸会では、見事に白雪姫を演じ切り、練習相手だった私に感謝の言葉を述べてくれた。 そんな思い出の一つ一つが、まるで宝石のように輝いている。こうして目を閉じると、今でも鮮やかに甦ってくる。時には辛い事もあったけれど、その輝きは永遠に失われはしない。 私達にとって、美咲は太陽のような存在だ。彼女は自覚していないだろうが、そこに居るだけで勇気と元気を分け与えてくれた。 ……なのに。 美咲が中学に上がった頃から、少し寂しくなった。 彼女は私を汚物のように扱い、冷たい視線で見るようになった。私が話しかけると不快感を露わにし、すぐに妻のもとへ逃げていた。こうして、次第に娘は私から離れて行ったのだ。 だが、四年前はまだ良かった方だと思う。私達の関係が崩壊したのは、今から二年前のこと。美咲が間もなく高校受験に挑もうという頃、一つの事件が起こったのだった。 それは、私にも美咲にとっても忘れ難い出来事。つまり、永遠の別れだった。 ――妻が、この世を去ったのだ。 原因は過労。私が子育てと家事を彼女に押しつけていた結果だ。 日頃から注意して見ていれば、不具合に気付くことができたかもしれない。しかし実際、私は気付けなかった。気付いてやれなかった。 それどころか、私は妻が病院に運ばれていることも知らないで、ぬけぬけと営業課長の任命式に出席していたのだ。 連絡が遅れたのは、私が携帯電話の電源を切っていたから。「式の妨げになる」という理由からそうしていたのだが、今思えば自分がつくづく愚かだったと痛感する。 私が病院に着いたのは、夜も更けた頃。命の灯火が消えそうになっている妻の横で、美咲は両目一杯に涙を浮かべていた。 彼女は、私を罵った。責め続けた。そんな娘を前に、私が何かを言い返せるわけがなかった。 それ以来、美咲は私を避けている。きっと、今でも私を恨んでいるだろう。 妻を失ったのは、私が不甲斐なかったからだ。だから、美咲からどんな態度をされても耐えるべきだと思っていた。 しかしここ最近は、その決心も揺らいでいる。 …………辛いのだ。 娘に恨まれ、嫌われ、頼るべき妻はもうこの世に居ない。更には、家族の為にと働き続けていたことが、実は無意味だったと気付いてしまった。 いくら一生懸命働いても、喜んでくれる家族がいなければ意味がない。だったら、私は誰の為に働いているのだろう。なのに私は、そうすることしか知らない。 なんと薄っぺらな人間か。妻を気遣うこともできず、子に笑顔を与えてやることもできず、ただただ働くだけの機械。こんなことなら、私が妻と代わってやればよかった。いや、代わるべきだった! それなら、美咲はもっと幸せな人生を送れていただろうに!! 涙が溢れてくる。今日まで堪えてきたのに、もう限界だ。 妻よ、すまない。君との約束は果たせそうにない。こんな人間が、娘を素敵なお嫁さんに出来るはず……ないんだ! 「……ぅ……ぁあ……」 私は一人で泣く。そこに居るのは、ただ老いゆくだけの男だった。 どれだけそうしていただろうか。 ふと我に返り、時計を見てみると午前零時を回っている。この時間になっても美咲は帰ってこない。 涙を拭きながら、自宅の各部屋を回る。リビング、ダイニング、四畳半間……どこを見ても美咲の姿はない。 最近、美咲の帰りが遅いことは知っている。だが、いくら何でも遅過ぎる。彼女の身に何かあったのだろうか。 厄介事に巻き込まれた? 誰かに連れ去られた? どこかに監禁されている? ……駄目だ、考えれば考えるほど最悪な状況を思い浮かべてしまう。 ポケットから携帯電話を取り出し、彼女の番号を画面に表示させた。しかしいざ掛けようとすると、指が動かない。彼女は、電話に出てくれるだろうか。もしかしたら、家に帰りたくないだけなのかもしれない。 すると突然、携帯電話が鳴り出した。 画面を見ると、相手は福本さんだった。 「……はい、柳川です」 『……福本です。柳川さん、大丈夫ですか?』 心配してくれていたらしい。正直に辛いと言うと、相手は少しの間静かになった。 『……そうですか。ところで娘さんは……』 「娘は……まだ帰っていません。でも……娘は帰りたくないのかもしれません。私は……どうしたら……」 再び、涙が溢れそうになる。 美咲のことは確かに心配だ。でも、彼女が私からの電話を拒否しているとしたら? そうなった場合、親子の関係は二度と元に戻らないかもしれない。 『…………あのね、柳川さん。ちょっといいですかな?』 「……はい?」 『こないだ、みんなで居酒屋に行った時のことなんですがね。他の方の話を聞いているうちに、一つ気づいたことがあるんですよ』 あの日、私は誘いを断って帰路についていた。そういえば、あの晩、他の人達が何を話していたのか聞いていなかった。 『初めは「うちの馬鹿息子が〜」とか「娘が文句ばかりで〜」てな具合に愚痴ばっかり言ってたんですけどね……気づいたら、みんな子供の自慢話をしてたんですわ。「うちの娘は美人だぞ〜」「うちの息子は将来プロ野球選手に〜」てなもんです』 ……理解できる。仮に私がその場にいたら、きっと同じ話をしていただろう。 『だから私、思ったんですわ。なんだかんだ言って、みんな子供のことを大切に思ってるんだなぁと』 その気持ちなら、私だって負けてはいない。 『私達のような「おっさん」は、世間じゃ見下され、自宅でも疎まれる生き物なんですわ。毎日一生懸命働いても、帰りが遅ければ「駄目な父親」。誰も誉めてくれませんし、むしろ邪魔に扱われるもんです』 確かに、私達はそういう生き物だ。 『子供に嫌われ、無視され、しかしそれでも働き続けなきゃならん。所詮そういう運命なんです。何一ついい事なんて、ありゃしません。でもね――』 そこで一旦、福本さんが息継ぎをした。 『やっぱり子供が可愛いんですわ。その子が立派に成長してくれるんなら、これほどのご褒美はありませんって』 解る。私にも解る。仲間がここにもいた。 『だから柳川さん、娘さんを迎えに行きましょうよ。たとえ何を言われても、結果的に娘さんがまっすぐ育ってくれるなら、それでもいいじゃないですか』 電話の向こうに、福本さんの笑顔が見えた気がした。 『それからもう一つ。これだけは伝えにゃならんと思いまして』 と、福本さんが言葉を繋ぐ。 『柳川さん、あなたの娘さんは素晴らしいですよ――』 その先を聞いた時、私は自宅を飛び出していた。 「出して下さい、今すぐに!」 私はタクシーに乗り込む。 車内で、福本さんの話を思い返した。 ――〈おっさん学園〉の主催者は、柳川さんの娘さんだそうですよ―― 聞いたところによれば、この企画を考えたのは美咲らしい。この案を生徒会に持ち込み、教育学部に通う卒業生――鳥山君のことだ――に協力を申し出たというのだ。 何故それが判明したかというと、福本さんの息子さんもこの企画に参加した有志だからだという。この他、美咲の呼び掛けによって、クラスメイトの父親が講義に参加してくれたらしい。 この事実が分かった後だと、例の通知書を鞄に仕込んだ犯人は明らかだ。美咲が前日のうちにこっそり入れたのだろう。 ……なんという娘だろうか。彼女は私の知らないところで、歩み寄ろうとしてくれていた。なのに私は、美咲の機嫌を取ろうとしていただけだった。これでは彼女が怒るのも無理はない。つくづく自分は、駄目な父親だと思う。 さあ、美咲を迎えに行こう。 車内から、美咲の携帯電話宛てに連絡を入れる。しかし、いくら経っても彼女は出ない。電話に出られない状況なのだろうか。 少し考えた後、私はメールを起動させた。慣れない手つきで本文を作成していく。それが済んだら、本体に保存されている娘の写真を添付。そして、電話帳からメールアドレスを呼び出し、一斉送信した。 待つことしばし、すると立て続けに返信メールが届いた。送り主は〈おっさん学園〉の仲間達。彼らに娘の捜索を頼んだところ、全員快く引き受けてくれた。 一方私は、〈おっさん学園〉の開かれていた私大の付近を目指す。美咲が主催者なら、今日の出来事に関連して反省会が行われたかもしれない。 そう思った矢先、目的地に着いた。私は代金を払い、車から降りる。 さて、どう探す? 美咲が姿を消したのは、ここからほど近い服飾店街。彼女はそこから、どんな風に行動しただろうか。 講義で習ったところによれば、若者は深夜営業している娯楽施設を好むという。だから、彼女がいそうな場所といえば、駅前、服飾店街、私大周辺の繁華街……この辺りだと思う。 仲間達と連絡を取り合い、探す範囲を相談する。その結果、私大周辺の繁華街を集中的に捜索することになった。 私は未だ眠らない街の中を駆け抜ける。コンビニエンスストア、二十四時間営業の喫茶店、カラオケボックス……娘はまだ見つからない。 すると―― 携帯電話が鳴り出した。 美咲だろうか? 着信画面を見ると、表示されている名前は福本さん。 「はい! 福本さん、どうしましたか」 『柳川さん、目撃情報です。通行人に訊いたら、ついさっき娘さんと似た子が歩いていたそうですよ』 「どれくらい前ですか?」 『一分以内だそうです。駅に向かって歩いてたそうですよ。あと――』 そこで、福本さんが言い澱んだ。 「どうしました?」 『いえ。何でも、派手な身なりの男が付きまとっていたそうで……』 それを聞いて、動機が早まった。 美咲に男が? その男は何者だろう。 『ええと……金髪で、黒い背広を着崩した感じで……ふんふん、ホストかもしれない……』 どうやら、目撃者は福本さんの近くにいるらしい。電話越しに聞こえる音からして、どこかのレコード店にいるのだろう。 電話を耳に当てたままでいると、私はある事に気付いた。 電話の向こうから音楽が聞こえる。それも、最近聴いたばかりの曲だ。これは、どんな題名だったか―― 「思い出した! 『サウダージ』だ!!」 そう、三日目の講義で聴いた曲だ。確か、ポルノグラフィティとかいう音楽グループが歌っていた。 『ど、どうしたんです?』 私が大声を出したので、福本さんは面食らったようだ。 「『サウダージ』ですよ福本さん。三日目の講義で聴いたでしょう。その曲、どこから流れていますか? その近くに娘がいるはずなんです」 『ええと……』 と、福本さんが口にした時だった。 ちょうど私の脇を、ワンボックスカーが通り過ぎていく。今私がいる場所は国道に面しているので、特に気にする事でもない。 だが、私は振り向いた。 その車から、『サウダージ』が流れていたのだ。 そういえば、若者の中には音楽好きが高じて、大音響で曲を流しながら車で走っている者がいるという。これも講義で習ったことだ。 ということは、この車がつい先ほど福本さんの近くを通ったことになる。 私が視線を上げると――見えた。ツタヤの看板が! おそらく、福本さんがいるのはあの辺り。そして、美咲の進行方向は駅だというから……位置関係からして、彼女はこちらへ向かっているはずだ。 国道沿いの歩道に彼女の姿は見えないから、いるとすれば路地裏。そこを探せば、美咲が見つかるかもしれない。 疲れた身体に鞭を入れ、私は走り出す。 ――美咲、君はお父さんを恨んでいるだろう。君の目には父親が家庭を顧みないで働いているように見えただろうから。業績を伸ばせば給料が増える、そうしたら家族が喜ぶ。……しかしそれは間違いだった。生活が豊かになったとしても、愛する家族が共に居なければ意味がない。私は家族に、もっと目を向けるべきだった。 娘よ、私は駄目な父親だ。妻や君の願いを何一つ理解していなかった。君が私を嫌うならそれも仕方ない。だが一つだけ、父親としての責任を果たさせてくれ! 私は路地裏に足を踏み入れる。人通りが少なく、いかにも危険な香りがする場所だ。普段なら、美咲はこんなところを歩かないはず。しかし、そうせざるを得ない事情があったなら話は別だ。 それに、彼女一緒にいたという男の事も気になる。 美咲は何故、そんな男と行動を共にしていたのだろう。 そんな事を考えながら、三つ向こうの角に目を向ける。 ――美咲!? その光景を目の当たりにした時、私は血の気が引くのを感じた。 娘が、金髪の男に組み伏せられていたのだ。 瞬時に、全身の血液が沸騰するような感覚。 「……ぅおおおっ!」 私は駆け寄るなり、美咲の上にいる男を両手で掴んで引きはがした。相手を突き飛ばし、仰向けになっている娘を抱き起こす。 そうだ、警察を呼ばなくては。 ――と、私が考えた時だ。 「……待てや、コラァァッ!」 背後から怒号が聞こえた。と同時に、背中に衝撃が走る。 「うわっ!?」 まるで、思い切り蹴飛ばされたような感覚。私は道路に叩き付けられた。 「てめ、何様だよ! なめてんのかァ!!」 ……それが人の娘に手出しした者の台詞か。非常識にもほどがある。 私は身体を捻り、相手を睨みつける。 「私はこの子の父親だ! そっちこそ、うちの娘に何をする気――」 言い終わるよりも早く、足が降ってきた。 「っせーよ! んなこと関係あっか。俺がこいつに声掛けたら、いきなり顔面スパーンだぞ! チョーシこいてっから、ボコってやろーとしただけだよ!!」 頬の辺りを蹴飛ばされた。口の中に血の味が広がる。 ――くそっ、こんな男に負けてたまるか! 「っ!? 何しやがる!」 私は男の脚にしがみついていた。何が何でも、この男から美咲を守らねば。 「このっ、このっ、離せって!」 金髪の彼は、空いているほうの足で何度も蹴りつけてくる。脇腹、背中、頭……もう何度蹴られたかわからない。 「っだぁあ、ウゼェ! 大体、てめぇみてーなオッサンがいるから、みんな迷惑してんだよ。いーから早く死ねやッ」 確かにそうかもしれない。私のような『おっさん』は、時代の流れに取り残された化石。そして私は、娘の願いに気づけない男だ。生きる価値がないと言われれば、あながち間違いではないのかもしれない。 しかし、だ。 私はもう決めたのだ。美咲が生まれた日から、父親としてこの子を守り続けると。 そもそも、子育ては「できる・できない」の問題ではない。「やるべき事」なのだ。我が子が一人で生きられるように育てていく……それが、父親としての義務なんだ! 「くそっ、いい加減に――」 業を煮やしたらしい彼は、そこで一旦、『溜め』を作った。弱っている私にとどめを刺す気らしい。いいだろう、やれるものならやってみるがいい! ――その時。 「そこ! 何してる!!」 予想もしなかった声。 顔を上げると、路地の角に制服警官と……福本さんがいた。 ……あれから。 金髪の男は警官に現行犯逮捕され、私達は警察署で事情聴取されることになった。署で怪我の治療をして貰ったのはよかったものの、刑事から同じことを何度も訊かれ、状況の再現までさせられる羽目に。そうして諸手続を済ませ、私達が帰宅できるようになったのは、間もなく朝日が出ようかという頃だった。 福本さんが車で送ってくれると言うので、私達はそれに甘えることにした。 「いやぁ、間一髪でしたな」 運転しながら、福本さんが言う。徹夜明けだというのに、彼の声は明るい。その気軽さが、今の私にとっては救いだった。 「ところで、美咲ちゃん」 背中越しに福本さんが問い掛けた。俯いたままでいる娘をバックミラー越しに見て、気になったのだろう。 「何か、言いたい事でもあるのかな?」 「……」 美咲は膝の上で両手を握りしめた。 「……ありがとう」 小さな声で、たった一言。しかし、今の私にとってはそれで充分だった。 ようやく動き出した、二人の時間。かすかだが、そんな実感があった。胸の奥に暖かな感触が戻ってくる。それを感じられたなら、もう何も言うことはない。 「……しっかしですなぁ。二人とも、自分で決めて自分で動いて。そんな不器用さが、ホントそっくりですわ。やっぱり、親子なんでしょうなぁ」 思わずクスリとしてしまう。実際、私達はそうだった。お互いに歩み寄ろうとしていたくせに、結局最後まで気持ちを伝えていなかった。初めから素直になればよかったのに、親子ともども意地っ張りだったというわけだ。 「ほい、着きましたよ」 福本さんが車を停めた。自宅に着いたようだ。 私達は車を降り、お礼を言う。すると福本さんは愛嬌のある笑みを浮かべ、去り際にこう言い残した。 「年代や性別も違えば、考え方も違うもんです。やっぱり、口で言わなきゃわからんこともありますわな。……まあ、そういうことです」 車が走り出した。そのまま、朝日の昇る方向へ。私は手を振って、福本さんを見送った。 ……さて。 今、私は重要な助言を貰った。私達親子がすれ違ったのは、お互いの考えが理解できていなかったからだ。ということは、伝えるべきことは言葉でないと伝わらないということ。今日まで私は、そんな簡単なことを忘れていた。 「美咲」 私は娘に向き直る。彼女はまだ、俯いたままでいた。 そんな彼女に、私は笑顔を与えてやりたい。だから私は、恥ずかしいながらも口を開くのだった。 「お父さんはね、白雪姫の王子様みたいに格好良くできないんだ」 「……」 「だけど、美咲の為に『ボロ雑巾』にはなれる。何なら踏み台にしてくれたって構わない」 「……」 「それで美咲が素敵なお嫁さんになれるなら、お父さんは本望だよ」 すると。美咲が顔を上げ、照れくさそうに微笑んだ。 「……もう。その台詞――」 その名に違わぬ、花のような笑顔。そして彼女は、四年前よりも大人びた声でこう言ったのだった。 「くさいよ」 …………やれやれ、私は幸せ者だ。 [了] |
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2010年ゴールデンウィーク企画『ラ研学園祭』 掲載作品
●お題 以下の7つより、作中に3つ以上、文字列として使用して下さい。 「首輪」 「ラーメン丼」 「フライパン」 「アンドロイド」 「特殊部隊」 「片道チケット」 「ビーム」 ●作者コメント お父さんだって、一生懸命なんです!(泣) |
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●感想
海巳さんの意見 こんにちは、海巳です。見事な作品をありがとうございます。 これは、文句なしに名作です。「ミミズだって、オケラだって、おっさんだって――みんなみんな生きているんだ!」と、思わずにはいられませんでした(アメンボ扱い?)。 【以下、ベタ褒め】 この作品最大の魅力は、各キャラの切実さでしょう。全員が誠実に頑張っているのに、なかなか上手くいかないという、非常に僕好みの構成です(笑) 取り上げられた家庭問題そのものについては、フィクションとしては「ありきたり」というか、手垢がついているかもしれません。でも、それをもの凄く丁寧に書いているので、迫力がありました。むしろ、「これ、現実にどこかで起きてるんじゃないか?」と思わされて、引き込まれてしまいます。 派手な演出はないのに滲み出てくる人物の想いを読み取ると、「魂の作品」と言う他ありません。それを劣化させずにやんわりと手渡してくれる文章のうまさ・安定感も、一級品だったと思います。 文章と言えば、テンポが良かったです。適度に挿入される対句表現もキマっています。言葉選びも秀逸で、必要な情報を伝えるという点で、無駄な文章はほとんどありませんでした。ここら辺、フォーカスが厳しく合わせられていて、ひたすら感情に流れるということがありません。 例えば、主人公のおっさんは過去の自分に負い目を負っていますが、それを正当化したりしません。また、「自分なんか自分なんか」と腐ったりもしない。ため息はつきつつも、きちんとやるべき仕事をするのです。この辺が、純情ではあるけれど「大人」なんだとはっきり思わせてくれます。これは、彼の過去と照らし合わせても、非常に筋の通った人物造形です。こういうのをきちんと伝えられる筆力は、語彙なんかよりよっぽど貴重な才能だと思います。 50枚の枚数に納めるのは、作者さんには大変だったでしょうか。でも僕は、この作品に関しては、50枚に圧縮されたからこそ、甘さが取り除かれて非常に芯の通った作品になったのではないかと感じます。 とても好印象だったのは、物語の要である柳川一家に、分かりやすい「悪」を配置しなかったことですね。「母が愛想をつかして出て行く」とか「娘が非行に走っていく」とか、そういう一見刺激的で実はテンプレートな設定……というやりがちなミスをしなかった。福本さん含むおっさんズも、良心的でしたね。これが、作品全体の統一感に買っています。誇れ、ビール腹! 総括して言えば「書くべきことを、過剰も不足もブレもなく、書ききった」という印象です。ちゃんと読者を見てくれているのが分かるので、安心して読むことが出来ました。 【指摘点】 タイトルは「もう一歩」という感じです。おっさん+学園というのは面白いのですが、そこに動きが感じられないのです。「おっさん学園って何? 何が起きるの?」というフックにするために、ちょっと言葉を付け加えたいところです。 48歳奮闘記というサブタイトルは、なんかハウツー系のエッセイ本みたいで、ペラペラな感じがします。 奥さんの不在は冒頭の時点から自然と読み取れるのですが、その原因が「過労死」であった、というのが一つのキーですね。もちろん、かなり重要なポイントであることは分かります。 ですが、引っ張りすぎだと思いました。読んでいく途中、奥さんの存在が頭にちらついて、なんだか落ち着きませんでした。僕は、「奥さんはもういない」ということを、早い段階ではっきり書いたほうがいいと思います。 改善案としては、奥さんが「出て行ってしまった」という方向にミスリードするような文章を序盤に入れて、読者に納得してもらってから「忘れて」もらう。で、クライマックスで「過労死だった」とひっくり返すのも、一つの手かもしれません。そうすると、奥さんに対するネガティブなイメージが、転換される驚きがあります。実際僕は、過労と言う種明かしを受けたとき、心を打たれました。ここはもっとメリハリがあってもいいと思います。 もっとも、作者さんの「美咲のキャライメージ」の転換の方がずっと巧みなので、釈迦に説法なんですけれど……。「仕組んだのは美咲」というのは、人間関係の見え方が変わるという、心理面への訴えかけが強い優れたトリックだと思います。 奥さんが「過労死」になってしまう説得力は弱い気がします。妻が過労というと、夫がいない、あるいは夫が全然働かない、それで金銭的に苦しい……というイメージが僕にあります。 今回の場合、どちらかというとメンタル面に負担が掛かって「うつ」になってしまうのが自然な文脈です。でも、良心的な世界観を崩さないためには、「うつ」みたいな概念を持ち込みたくなかったんでしょうね……。これは仕方ないか。 強いて改善案をあげるならば、「早苗さんが一人で抱え込まなくてはいけなかった」ということを、客観的に強調したほうがいいかもしれません。「実家と折り合いが悪くて、フォローを頼むことができなかった」などの情報を加えると良くなると思います。 全体的に「……」が多いですね。多分、作者さんの頭の中に映画的に音声が流れていて、それを忠実に再現するとこうなってしまうのだと思います。それはこの作品の長所であるテンポの良さを生み出しているとも思いますが、「時間感覚」を言葉に落とし込むことも意識した方がいいと思います。作中多くの「……」は削った方がいいと感じました。描写に置き換えたい。 例えば、オチの一言の切れ味が凄まじい今作ですけど、直前にある美咲の「……」で、だいぶ損している印象です。安っぽくなっている。字数がきつかったのかテンポを重視したのか分かりませんが、ここは美咲の様子を簡潔に述べる描写にするべきです。美咲の発言が少なくなるのは、物語の構成上仕方ありません。だからこそ客観描写から彼女の存在を浮かび上がらせなくてはいけなかったと思います。 一行の注目フレーズの上下行を空けて強調する部分がいくつかありましたが、同様に安っぽく感じました。心理や人間関係に関する表現は本当に深い(余白をうまく感じさせてくれる)のですが、風景や時間感覚に関する描写は、浅い気がします。枚数で削るしかなかったのかな……。 お題の利用は物足りない感じですね。あのお題群を見事に使い切ってみせろというのは、無茶だと分かっていますけれど、本筋に全く絡んでこないのは少し残念です。「フライパン」は自然でしたね。また、若者ファッションをチョーカーなどでなく「首輪」と表現するのは、おっさんらしくて悪くない気もします(笑)「アンドロイド携帯」はさすがに浮いていました。 美咲を捜索する場面(サウダージのところです)の、おっさんの推理の流れがよく理解できませんでした。何回か読み直しましたが、論理展開が掴めません。ここはもっとシンプルでも良かったと思います。おっさん学園でのネタを、ギャグ以外にも使いたかったのだと察しますけれど、ここはイマイチですね。 金髪男の存在も、軽いです。彼以外の主要人物は、内面に葛藤を抱えつつも真っ直ぐ生きている深さがあります。これに対し、金髪男は短絡過ぎます。現実の世界と照らし合わせると「まあ、いてもおかしくないね」と思ってしまいますが(ちょっと悲しい)、この作品の世界観の中では、彼は浮いています。 金髪男との争いよりも、おっさんの心の争いのほうに重点があるので、一応目をつぶることにしました。でも、できれば「美咲の危機をおっさんが救う」という要素だけ残して、この部分は全然違う話に書き換えたほうがいいと感じました。 指摘点は以上です。 【最後に】 さて、点数はわりと思い切ってつけました。「僕が読みたかった物語を、書いてくれた」というのが、大きかったです。趣味が合ってしまった以上は、愛を叫ぶしかありません(笑) とても良い物語でした。ありがとうございました。 馬やんさんの意見 お祭りわっしょーいこんにちは。馬やんと申します。 ということで拝読させていただきましたので感想を置いていきます。 ……その前に。「お前のやったことはすべてお見通しだっ!」(ぇ ではいざ。 ●●● 一定世代以上のお父さんってやっぱりこうなんでしょうか;; なんか見事なまでに「おっさん」で、読んでいて非常に切なくなりましたorz 全体的に破綻なく綺麗にまとまっていますし、安心して読めました。 しかし、物足りない……ですorz ちょっと予定調和すぎる感じが。 一昔前のホームドラマ的な印象ですかね。いい話なんですが。ちょっといい話すぎる嫌いがorz おっさん学園を受講している当たりまでは「切ねーっ!」って唇かみ締めながら楽しめました。 特に美咲とお父さんが扉越しですれ違う数日間は涙ぐましいし微笑ましいですね。いや、お父さん必死なので笑ってはいけないんでしょうけどw 娘から着信拒否とか、こういう言葉のセンスはもう本当に流石だなと言わざるを得ませんでした。 このあたりまでは「まあこうなるだろう」と思いつつ、やっぱり「頑張ってお父さん!」と応援したい気持ちで読んでしまうという…… しかし、その後は意外にシリアス展開で妙にしんみりしていしまいました。 どちらかというと、もっとコメディ的な展開を期待していました、正直なところ。このままの流れで、ジェネレーションギャップを笑いにシフトさせて欲しかったなとわがままをつい言ってしまう私ですorz なんというか、最後はあまりにも「理想のお父さん像」なんですよね。 現実には是非そうあってほしい、と思うのですが、今の時代、右を向いても左を向いても酷いニュースばかりですし、家族間の悲しいニュースだって日常茶飯事ですよね。 もちろんこうした温かい家庭も確かにあると思うのですが、というかだからこそこういう温かい親子間が必要、というのもとてもわかるのですが、これが通用するのはおそらく、明るく健やかな家庭に育った読者だけではないかと思いました。 自分のようにいろいろと家庭的に捻くれて育った人間には本当に「くさい話」かもしれませんorz ……っていうか、こんなお父さんが、欲しかっ……た……ガフッ(吐血orz) 文句をつけるとしたら、ただその一点です。 あとのことはもう褒めるしかできませんのでorz 最終的には好みの問題と受け取っていただいて差し支えありませんので、あまり凹まないようにお願いします(‐人‐) 田中太郎さんの意見 こんにちは。田中太郎と申します。拝読いたしましたので、感想を残させていただきます。 まず率直に。すごくいい話でした。柳川さんを始め、多くのおっさんたちの健気な奮闘っぷり。さりげない娘の優しさ。不器用な人たちの、不器用な物語。読んでいてほろっときました。私もおっさんが好きなクチなので、こういう話には弱いのです。柳川さんはもちろんのこと、福本さんも、やっぱり幸せになってほしいですね。 意外だったのは、美咲ちゃんがけっこういい娘だったことでしょうか。仕事で疲れた父親にキャベツ炒めもっさりって、嫌がらせかギャグとしか思えなかったので。でも読んでいくうちに、単に素直になれないだけなんだな、とわかりまして。 それと、海巳さんが既におっしゃっていますが、奥さんが過労死、というのが少し引っかかりました。鬱→自殺というのもいいと思いますが、なんとなく、末期の膵臓ガンとかの方がいいかな、と(膵臓ガンは早期発見が非常に難しい)。そのほうが、何と言いますか、『どうしてもっと早く気づいてやれなかったんだ……』感が出るような気がしました。いえ、全く個人的な嗜好の問題なので、お気になさらないでください。 なにやら好き勝手なことを書き散らしてしまいましたが、本当に楽しんで読ませていただきました。このたびは素敵な作品をありがとうございました。短いですが、この辺で失礼させていただきます。乱文ご容赦ください。執筆お疲れ様でした! ただのすけさんの意見 読み返したら、舌足らずでひどい感想になっていました。ですので、書き直しの上で再評価させて頂きます。 御作は文章レベルが非常に高く、作者様は相当の筆力を持った方とお見受けします。 しかしそれ故、逆に辛口の批評にならざるを得ませんでした。レベルの高い作品を批評すると、相対的な評価基準が変動し跳ね上がってしまうためです。 私はこの作品が好きです。この尺の作品を読了するのは、掌編専の私にとって苦しい事が多いのですが、御作においてそのような感覚を覚える事はありませんでした。むしろもう少し読みたかったなと感じたくらいです。 ※ここからは私の主観的感想批評であり、そのため取捨選択でお願いいたします。 御作の最も大きな問題点は、ストーリーの流れ、筋だと思われます。この作品は『完全リアル』を下地に構築された物語ですよね。『世にも奇妙な物語』みたいに非現実的な要素は皆無な作品です。悪魔やら超能力者などは登場しない。なので、話も完全現実に即した展開でないと、どうしても違和感を覚えてしまうのです。 冒頭部分での勘違いは、『世にも奇妙な物語』的な世界観ならアリだと思います。しかし、完全な現実的世界観の下では不自然なシーンです。逆パターンの勘違いならリアリティがあって(それでも一般体臭者という単語があるとは思えないのでキビシくはありますが)自然です。 おっさん学園の通知書を目にしたシーンでも、現実的にキャラを動かすべきでは、と思いました。 例えば、前日、娘とささいな話題で酷い言い争いをしてしまい、激しく後悔して精神的にまいっていた。そんなときにおっさん学園の通知書を目にする。そんな事情があれば納得のできる展開になるのでは。 他にもありますが割愛いたします。 ただ、上述の点を差し引いて判断しても良作だと、素直にそう思います。玄関で娘に若者言葉を披露するシーンは爆笑モノでした。 批評・感想を終わります。それでは失礼いたします。 Ririn★さんの意見 こんにちは。 まずはテーマである学園のひねりが効いていてよいアイデアだと思いました。学園モノと言えば、青少年の特権みたいなところがありますが、この作品はお父さんをうまく学園に結びつけて、しかもそれを特殊な世界を理由に割り切っておらず、ある程度のリアリティを持たせたところが非常にうまいと思いました。 ストーリー構成に関しては前半部分にお父さんと娘のすれ違いを重点的に描いており、多少なりともテンポが悪くなると思いますが、スムーズな文章におっさん同士の掛け合いが面白く、お父さんの哀愁的な部分もうまく描けていたので退屈しない構成になっていたと思います。 前半部分でためられた鬱憤を最後に解放する手腕も良いと思いました。 お題の使い方に関しては「フライパン」は自然に使われていたと思いますが、「首輪」がちょっと不自然(今、首輪というよりもチョーカーと表現する方が多いような気がするので)だと思ったぐらいでしょうか。特に些細なことだと思いますので、点数には影響しておりません。 個人的な意見ですが、このサイトではこの作品はお父さんが主人公じゃない方が読者の共感を呼べたのではないかと愚行いたします。 短い感想ではありますが、この辺で。 執筆お疲れ様でした! 亜寺幌栖さんの意見 亜寺幌栖です。 「おっさん学園〜48歳奮闘記〜」読了いたしましたので感想を書かせていただきます。 うへえ。これはかなり挑戦的なタイトル。学園モノといえば思春期の男女がメインなのに、明らかにおっさん主人公。実にダイナミックだ。 物語は、娘と父親のハラハラドキドキな関係。いや、別にアダルティな意味ではないけど、いつの間にか引き込まれた。作者さんの罠に違いない。 キャラはなかなか行動豊か。僕は特に福本さんが気に入った。明快で面白い人だけど、いいところでオイシイ役を掻っ攫って行く。脇役賞があったら上位ランクイン間違いないと思うw。 美咲がおっさん学園の企画者という展開は、ちょっと機械仕掛けっぽい気がする。気がするのは多分自分だけだと思うが。あと、責任感が人一倍強いはずの美咲が、ホイホイとチャラ男に付いていくのはどうなんだろう。 なかなかの挑戦作でした。次回作も期待しています。 AQUAさんの意見 企画参加お疲れ様です。作品拝読しました。 今回読みながら感想を呟く『リアルタイム感想』をやらせていただきます。 (なお、この感想にはネタバレを含みますので、未読の方はご注意を……) >『お父さん、臭い』 本当に、こういう掴みが書ける方って尊敬します。(きっと作者さまは本物のオッサンに違いねぇ……。 >食べきれないほどのキャベツ炒めをフライパンごと出してくれる。 美咲たん……可愛いです。 >「し、しかし……私の体臭が職場環境を乱しているなら、責任を取らねば……!」 ベタです。作者さまはやはり本物のオッサ(ry >おっさん学園 開校のお知らせ 面白くなってきました……ワクワク。 >それは二年前―― 伏線、気になりますっ! 死亡フラグかっ? >そう言いながら、福本さんは小指を立てる。 福本さん……萌え。社員さんも含め、こういう脇キャラが立ってるあたり、かなりスゴイです。 >はい、今まさに皆さんが思った事こそ、お子様に対して抱いている距離感の正体なのです おおー、賢いです。さすが理事長。 >「たっだいまぁ〜! めっちゃ遅くなって、まじゴメン!!」 ベタだ……orz >…………美咲、お父さんはそろそろ泣きそうだよ。 お父さん、いろいろ間違ってるよ……この埋められないギャップ感が期待通りで溜まりません。 >――お父さんがそんな風だから!―― まだ引っ張りますか……うぬぬ。 >確か、次郎ラモとかいう日本人だか外国人だかわからない名前のモデルが雑誌に出ていた。 ベタです……orz でもできれば「次郎ラモだか中島らもだか」という具合にして欲しかった一読者です。 >――美咲? なぜここに。 なぜだっ? 超展開。 >光溢れる世界の中で、新しい命が妻に抱かれ、精一杯自己主張していた こういう描写に感動を覚えます。 >――妻が、この世を去ったのだ。 う……一気にヘビーに。 >――〈おっさん学園〉の主催者は、柳川さんの娘さんだそうですよ―― なんと! >金髪の男は警官に現行犯逮捕され、私達は警察署で事情聴取されることになった。 まさに危機一髪でしたな。やれやれ……。 >…………やれやれ、私は幸せ者だ。 おっと、やれやれがシメで出てくるとは。自分もおっさんスメルスグッドなようです。 読了しました。全体の感想を簡単にまとめさせていただきます。 【文章】 完成度の高さに、ツッコミドコロがほとんどありません。文章面は特に。 描写は滑らかで過不足無く、差し込まれるエピソードのタイミングから、ウィットに富んだ会話まで……お手本にしたいと思わされるものばかりでした。 ギャグはときどきベタ過ぎるところがありましたが、もしこれが福本さん主人公だったらハマったのにっ! と勝手に歯ぎしりしてます。 (自分の中で福本さんは、高田純次ポジションです) 【ストーリー】 テーマに沿って、綺麗にまとまっていました。 とにかく父親像にリアリティがあり、かといって悲壮感は泣くギャグと福本さんでライトに仕上がってますし。 娘との信頼関係を取り戻すという軸がブレること無く進み、最後は予定調和ながら頷ける結末でした。 特に、チラチラ出てくる脇役キャラが素敵でした。 お父さんは……ちょっと熱すぎ&ギャグベタ過ぎな部分はありましたが、好感度は高かったです。 ツッコミポイントを探してみると、やはり美咲ちゃんとおっさん学園でしょうか。 美咲ちゃん自身は可愛らしいのですが、お母さん死んじゃった伏線(そういえば料理の話が冒頭に出てたな……スルーしてしまったorz)に対して、少し不具合を感じるというか。 父親に変わってもらいたい、でも素直に言えないから裏理事長として作ったおっさん学園にご招待……そしてなぜか逆切れして逃げてベタな不良に襲われて。 それらの行動の理由に、お母さんの死(こちらも過労死じゃなく普通の病気がベターかと)という重い設定が、今一つしっくり馴染んでこないのです。 なんというか彼女が、ストーリーを進めるためのキャラ的に見えてしまったというか。 別の言い方をしますと、彼女がかく乱のために動く時だけ、リアリティのある世界観が予定調和な舞台に見えてきてしまうというか……。 ファッションチェックで見つかってから、不良バトル、おっさん学園主催ネタバレのあたり、少し置いていかれました。 彼女のキャラも、もうちょっとリアリティ系に寄る(例えば家出先=小さい頃家出した近所の公園、家族の思い出の場所)とか、ギャグ系に寄る(実は男の娘だった!←スルー推奨)とか、ちょっとズラしたらスッキリ収まったような気がします。 (フライパンキャベツのエピソードは、とても良かったですw) 【お題・舞台】 おっさん学園についても、舞台というより小道具的なポジションでしたね。 学園モノと呼ぶには少し苦しい感じがします。 あくまでおっさん学園のカリキュラムを通じて、娘との関係が着実にステップアップしていくような構成だと、また違ったのですが。 特にビフォーアフターシーンは一番盛り上がるところだと思うので、美咲ちゃんにあっさり否定されてしまったのがセツネー! と……しょんぼりです。 また、お題については、最初のフライパン以外はチェックすることも忘れて、つるつると読み進めてしまいました。 それくらいストーリーにのめり込んでしまった、ということなのですが。 後々考えたら、首輪のお兄さんキャラもちょい役ながら光ってました。 『アンドロイド携帯』は……微妙だったかもしれませんw ショップ巡りで、マネキンのことをアンドロイドと評するくらいの方が、ナチュラルだったかも? 【まとめ】 完成度の高さに脱帽&脱鬘な衝撃を受けつつも、ラノベとして、また学園モノとして考えるとギリギリの、マニアックな作品だったかなぁと思います。 残念なのは娘さんキャラの意図が見えなかったこと、またお題も『アンドロイド』がちょっと足を引っ張ってしまった感じです。 とはいえ、勢いがあり読み応え抜群の良作でした。 では、少しでもご参考になれば幸いです。 ※5/14 ご評価につきまして補足 全ての作品を読ませていただいた結果、感想内容・ご評価を再チェックしております。なお、ご評価につきましては以下のような基準にて。 ・ストーリーの完成度(7割) 文章的な読みやすさ/キャラは立っていたか/展開についていけたか/伏線は回収されたか/オチはついていたか、というポイントを無難にクリアしていればプラマイゼロ、どこか気にいったら加点、引っかかったら減点しています。 ・学園&お題への取り組み(3割) 今回は『学園設定&無茶なお題をどこまで上手く取り入れられたか?』を、重要ポイントとしてチェックさせていただきました。こちらも無難ならプラマイゼロ、気に入ったら加点、引っかかったら減点しています。 ・その他フィーリング(基準無し) 上記に当てはまらず心を揺さぶられた場合、加点や減点を。 なお、しっかり読み切れなかったorどうしても点がつけられない作品は、申し訳ありませんが評価外とさせていただきました。orz 永遠さんの意見 こんにちは。 冒頭からの丁寧な文章に好感を抱き、御作を読ませていただきました。 当初の期待通り、娘との関係に悩む等身大の父親が描かれていて、前半部分はよかったと思います。 しかし、おっさん学園――「学園」という観点から見たときにどうだったでしょうか。 どうも私には「学園」というよりは自動車の教習所あたりを想像してしまったのですが。 若者講師とペアになってとかいうのも、なんとなくそんなイメージで。 ●それと本文より抜粋させていただきますが、 >――妻が、この世を去ったのだ。 原因は過労。私が子育てと家事を彼女に押しつけていた結果だ。 名ばかり管理職等による過労死は聞いたことがありますが、奥さんが過労死とはこれいかに? むしろ、鬱でストレス(子どもに八つ当たり)とか、そんな感じなのではないかなぁ……などと思ってみたり。 死ぬ、とまではいきませんが、持病の悪化で病院から抜け出せなくなったとかだったら、 それなりにリアリティを感じることができたのかなと。 もしくはその他要因――親戚であるとか実家絡みであるとか、理由のつけようはあると思います。 前半の秀逸さに比べて、後半へと進むに従って徐々に浅さが感じられた御作ですが、 特にそれはどのようなところに現れていたかというと、学園の発案者が美咲(主人公の娘)であったということと、彼女が厄介事に巻き込まれたというところです。 前者では彼女の感情の掴みづらさが気になりました。 それまでのそっけない彼女からのイメージチェンジを図ったものと思われますが、 それにしてはせっかく頑張った父親に対してのあの態度。学園設立の目的が一気に分からなくなった瞬間でした。 次に後者ではそれまでの丁寧な文章、あるいは福本さんなどのキャラづくりの細かさからいっても嘘くささが多分に感じられたと。なんというか、サウダージのくだりといい、唐突な印象を受けてしまったと。 あと、この事件によって美咲のキャラも掴みづらく感じました。彼女は出来るのか、そうではないのか…… それで、お父さんなのですが、彼については読みながら「そう簡単に変われるのかな……」 などと少し疑いの目で見てしまったことから、完全な感情移入には至らなかった次第です。 結局、御作で一番好きだった人物は誰かと言うと福本さんであったという……。 複雑な読後感ではありますが、以上で感想を終わりにしたいと思います。 企画執筆、お疲れ様でした。 K.Kさんの意見 実に感服しました。今回の企画で2回目の感服です(前のと甲乙つけがたいです)。文章も素晴らしいのでしょう、自然と世にも奇妙なショートドラマを見ているような感覚でした(番組名は言わずもがなかな)。 このお父さんの気持ち、私は駄目人間ですから、まさにひしひしといった感じで伝わってきます。一方、それを掻き立てる娘の気持ちも分かります、「こんなお父さんは」。一応不器用ということにはなってますが、いや不器用なんですが、それだけでは説明できないでしょう。そういうことも行間ににじみ出ています。 まあ、年頃の娘を持つお父さんは、嫌われてもいいんですよ。それは一時のことですから。本作のように解決すればそれに越したことはありませんが、何年もたち、別居するようになってから理解されてもいい。いや、実は理解はされているのかもしれません。歩み寄るには、双方が成熟しないと駄目なのかもしれませんね。もう50前の人間に成熟というのも変かもしれませんが、年頃の実の娘を持つということについては、初体験であるのですから、そういう言い方は許されてもいいかな、と。 いずれよりするも素晴らしいとしか言いようがありません。あれこれ書きだすときりがないので、逆にほとんど何も述べずに筆を置きます。 デルフィンさんの意見 こんばんは、デルフィンです。 短編は書くのも読むのも苦手なわたしですが、本作はとても面白いと感じました。 探せば粗がちらほらと見受けられます。 専業主婦の母親の過労死とか、 学園とはちょっと違うんじゃね? とか。 題材があまりにライトノベルとして逸脱してるんじゃないか、とか、 御題がちょっと違和感あるな、とか。 しかし、それを差し引いても、本作には「短編」ならではの魅力に溢れていました。 脱帽であります。 文章力がありすらすらと読めました。 キャラ造形が巧みであり、また説得力がありました。 またなにより構成が素晴らしい! いや、楽しませていただきました。 創作お疲れ様でした。 フェルト雲さんの意見 フェルト雲です。こんにちは。 ふー。面白かった……。 気になるところもいろいろあるのですが、とってもおもしろかったです。 おっさんが主人公でマニアックな学園モノということですが、 これはこれでいいんじゃないかなと思います。 思春期の悩みや自己を形成していくうえでのアンバランスさっていうのは、 おっさん世代にも通じるものがあると思いますね。 子育て、仕事、これから、そして自分がどうあるべきかということを再び重く考える年頃なんじゃないかと。 ラノベ的にどうなのよ、ということは置いといて、 面白いテーマを扱った作品だと思います。 非常に良かったと思うところを述べさせていただきますと、 まずはテンポの良い文章ですね。読みやすいだけじゃなく、躍動感があるというか、動きのある、読んでいて楽しい文章でした。 「くさい」からはじまり「くさい」で終わる。ここも良かったところです。 主人公と福本さん、ともに愛すべきおっさんですね。生き生きとしたキャラクターでした。 一方で気になったところです。 前半のテンポの良さが、チョイ悪化後崩れてしまった感がありました。 娘が主人公に対してそんな態度とってしまったことにいまいち納得できなかったからではないかと思います。 専業主婦の過労死にも何か物足りないですし、 娘さんが学園を発起した動機と、実際の彼女の行動がなんだかちぐはぐに感じました。 不器用ということなのかもしれませんが、それにしてもちょっとピンときませんでした。 お題は、この主人公の語りから出てくる分にはナチュラルだったかなと思います。これが三人称だったらアレですけども。 おっさんだからこそ若者の首につけてるものを首輪とか言っちゃったりするんだろうなー。 そんな風に、私としては良い使い方だったと思います。 主人公が講義内容をしっかり把握して実践している場面は面白かったのですが、 よくよく考えてみると、そんな風に行動力のある彼が、 なぜ娘との距離を縮めることをもっとしてこなかったのでしょうね。 ……と思ったのですが、彼のような真面目だけど視野が狭くなりがちで、しかも素直な人だと、こういうことにもなりうるのかもしれないと思いました。 読んでよかった作品でしたっ! 執筆お疲れ様です! それでは!! ケロ太さんの意見 ケロ太と申します。読ませていただきました。 面白かった! この一言です。 冒頭から炸裂する、お父さんのあまりにも悲しい境遇に泣いていいやら笑っていいやら。一気に物語の中に引き込まれました。 とにかく、全体を通じて起承転結がはっきりしていますね。 シーンの役割とでも言うのでしょうか。「ここはコメディっぽく楽しませるところ」「ここは読者をビックリさせるところ」など、読者にどういうイメージを与えるか、きっちり意識されているように思えます。 「おっさん学園」という名前のインパクト、アイデアの面白さも十分で、わくわくが止まりませんでした。 心情描写も細かく、お父さんの必死な思いが、よく伝わってきました。いくら年をとっても、人は思い悩み、打ちひしがれて、それでも前に進んでいくものなんですね。 ラスト二行のもたらす余韻もよく、さわやかな読後感でした。 欠点の部分に関しては、すでに他の方も挙げられていますが、娘さんの一貫性のなさ、お母さんの過労死などなど。このあたりは作者さんも自覚のあるところかもしれませんが……。 特に最後の、金髪男の登場のとってつけた感じはいかんともしがたいものが。 難しいところですけどね、ああいう場面は。私だったらどうするかな、と考えて、やっぱり答えが出ませんでした。 とはいえ、それらの欠点を吹き飛ばすだけの力のある作品と感じます。 ラノベという枠組みの中で、こういう題材はどうなのという意見もありましょうが、私個人としては非常に楽しめました。 では、いい作品をありがとうございました。 冗さんの意見 こんにちは。読ませていただきました。 まず最初に、この主人公が私の萌えポイントをど真ん中ストライクで貫いてきてくれたことをご報告し、お礼を申し上げます。いや、ごちそうさまでございました。 中年の悲しみ、ドツボにはまった悩みっぷり、空回り具合、どれをとっても一級品です。おっさんばんざい。 しいて言うなら、容姿が残念でした。ちょっといじればオシャレになれちゃうスリムで高身長で頭髪資源も豊富なおっさん。パンチがないですね。どうせなら、思い切ってメタボやM字境界線(後退進行中)にしてほしかったです。そのうえでちょいワル改造を受けて「俺、格好いいかも……」と思ってるオヤジ、という絵のほうが、面白いと思うのです。娘の「やめて!」の悲鳴もより切実なものになったはずです。 他の方の感想を拝見して、「専業主婦の過労死はナイ」という意見の多さにびっくりしました。専業主婦経験者としては悲しい認識です……まだまだ世間の見方はこんなものか、と。専業主婦の場合、労災認定がないため、「過労死」という言い方で処理されることがほとんどありません。裁判にならないしニュースになることもない。だから「聞いたことない」という反応になるのでしょう。実態は同じ「過労」なんですが、言い回しをもうすこし工夫したほうが伝わりやすいのかもしれませんね。 しかし、母親の設定部分に違和感を覚えたのは私も同じでした。 主人公の受け止め方が軽すぎるのが原因ではないかと思います。過労死するほど完璧に家事をこなしていた妻がいて、ある日倒れた。それなら、妻の仕事がどんな過酷な滅私奉公だったのか理解したはずです。それは主人公にとってどんな衝撃だったのか。いまどんな不自由な思いをしているか。そういう実感がにじみ出てこない。だから、妻の過労死という重大な事柄がリアルに感じられず、とってつけた説明に見えてしまうのではないでしょうか。 また、娘のキャラクターが薄いのも気になりました。どんな女の子なのか、個性が全く見えてきません。せっかくのヒロインなのに、ただのありがちな優等生……これはもったいないと思います。 あ、キャベツ炒めはすてきです。こういうミニエピソードがもう少しあったらよかったと思います。前述した妻に関する違和感も、こういう記述を分厚く入れることで解消できる気がします。 楽しませていただきました。執筆お疲れ様でした。 次回作も楽しみにしております。おっさんを。 前田なおやさんの意見 こんばんわ、前田なおやと言うものです。 学校でオッサン呼ばわりされている高校生が通りまーす。 オッサン、かっこえー。んでもって、何故か可愛らしい。 娘のために空回りしつつも頑張るお父さんに、拍手を送りたいです。 他の作品と比べてかなり毛色が違うのもあってか、新鮮でおもしろかったです。 多分ですが、四,五十台の男性の心理はかなりリアルに表現できていたと思います。 少々残念だったのが、誤字が何箇所かあった所。 それと、まさかの娘黒幕の伏線が皆無だった点です。 まあ、面白かったので二つともそんなに気にはなりませんでしたが。 これからも頑張って下さい! つとむューさんの意見 はじめまして、つとむューと申します。 今回、初めて参加させていただきました。 よろしくお願いいたします。 【良かった点】 「おっさん学園」という発想がすごく良かったです。 文章も読みやすく、内容も面白かったです。 >「たっだいまぁ〜! めっちゃ遅くなって、まじゴメン!!」 思わず吹き出してしまいました。可笑しかったです。 【?な点】 お題ですが、「首輪」はちょっときつかったかもしれません。 いくら「おっさん学園」でも、そこまで実践するかどうかちょっと疑問です。 主人公の職種ですが、「営業」よりも「技術系」の方が良かったと思います。 (営業にされたのは、最初の「一般大衆車=一般体臭者」を出すためでしょうか?) というのも、20年前はバブルの最盛期だったからです。 文中に、「藤圭子が40年前にレコード大賞」という記述があるので、舞台は2010年と考えられます。 すると、主人公が結婚する頃はバブルの真っ最中だったはずです。 大手自動車メーカーの営業だったら、その頃はじゃぶじゃぶ会社のお金が使えて、接待の毎日だったと思います。 きっと今でも「バブルアゲイン」と思っているはずです(と思います。笑) ということで、この世代のガチガチの仕事人間を描くのであれば、技術系の方が良かったかもと思いました。 (もし作者さんが48歳の営業の方であったのであれば大変失礼いたしました。後夜祭で、仕事人間だった理由を教えて下さい。よろしくお願いいたします) 【コメント】 僕もおっさん経験者なので、娘の可愛さはよく分かります。 自分が同じ目に遭ったら、きっとこの主人公と同じ行動を取ると思います。 すごく現実的な話に好印象でした。 投稿順に読み始めて、やっとここまで来ました。 14日までに全部読み終わるかどうか、おっさんにはかなりキツイ企画です。 家に帰ってもずっとパソコンと向き合っているので、妻に「家族との団らんを犠牲にして何をやっているのよ!」と激しく罵られています(泣)。 この企画に参加したために妻が過労死したら、何か本末転倒のような気もしますし…… (企画運営の皆様。感想期間を延ばしていただけると、妻の寿命も延び、娘との関係も良好のまま企画が終わると思うのですが……。ご検討いただけると幸いです) 拙い感想で、気に障ることなどありましたらお許し下さい。 執筆お疲れ様でした。今後のご活躍を期待しています。 中行くんさんの意見 こんにちは。 もうたくさん感想が入っているので書かないつもりだったんですが、泣いちゃったので書かざるをえませんorz すみません、こっちの話でした。 感動しましたね。必死に努力をしているのに、その方向性がズレている。この悲しさ、哀愁。そこに枯れたおっさんという要素が乗っかって、しかも向ける方向が家族愛ですか。感動しましたよ。 おっさんにも関わらず「健気」という言葉が思い浮かびました。やっぱり人って言うのは年齢じゃなくて、心なのかなーと再確認させていただきました。 面白かったー。 ですが、少し起きていることは王道というか、在り来りすぎまして……、悪漢に襲われるところを助けてみたりだとか。いえ、ここも当たり前のように感動したんですが、すごく感動する自分の横に引っ掛かりを覚える自分がいました。 それと、尺の問題でしょうが、少し詰め込まれすぎている印象でした。 まあそんなことはいいです。 不器用な主人公が愛する人のために努力して、そしてちょっとだけ近づくというのは王道でしかないのですが、王道であるが故に普遍的な面白さがあったんだと思います。また、王道とはいっても、ネタはそれほど(特ににここでは)見ないものなので、安易ということは全くなかったです。 ろくな感想は書けないのでこのへんで失礼します。 あー楽しかった。 のり たまごさんの意見 おっさんではありませんが(笑)、目が覚めてしまったので。おはようございます。 このおっさん臭、どこかで嗅いだような気がするのですが。 はじめまして、だったらすんません! 面白かったです。きれいにまとめてあって楽しみながら読むことができました。フライパンでは吹きました。そこを「健康状態を気遣って」とまとめるところで作者さまが予想されたのですがね(ニヤニヤ 冷静なギャグ突っ込みが、いちいち素晴らしく、淡々としているが故の破壊力が面白かったです。 ただ、きれいにまとめすぎているとも言えるわけで。 主人公がかっこよすぎて「おっさん」臭くない。主人公と福本さんのポジションを交代していたほうが、僕としてはもっとニヤニヤできたかなあと思いましたし、作品タイトルとも合っているとも思いました。 僕が思うおっさんは、「不潔」「油ギッシュ」「エロエロ」「涙もろい」といった本当に不格好で不器用で救われないなあといった「可哀そう」な存在なのですが、たとえば「家族のため」たとえば「仕事のため」たとえば「自分ではない何かのため」だったら無駄に暑苦しくガンバル! がんばってしまう。そこが途轍もなく「カッコええ」と思わせてくれる、おっさんカッコ悪いけど、めっちゃカッコええよと言いたくなる、そんな存在です。 ですから、主人公が福本さんだったら座布団をもう一枚増やしていたと思いました。 そして奥さんが生きていた頃はこの作品の主人公と同じ「かっこいい」福本さんで娘もお父さんが大好きだった。でも奥さんが亡くなってからは福本さんは「カッコ悪い」おっさんになって行き、娘とも距離があいていく。みたいな展開だったら多分号泣していたと思います。 でも、この作風だとやはりストイックで生真面目なお父さんが合うのかもしれません。 ではでは。楽しませていただきました。 ありがとうございました! 殿智さんの意見 企画執筆、お疲れ様です。殿智と申します。 作品拝読しましたので、感想を。 【文章・構成】 文章は気になる点も特になく、読みやすかったです。 ただ、街に出て娘を探すシーンは少しゴチャッとした印象でした。後述しますが、電話連絡のあたりの不自然さなども関係していると思います。 構成は起承転結の分量配分がうまかったように思います。必要な情報を適切な量だけ書くという点が素晴らしく、自然に物語に入っていけました。 【キャラクター】 ううん……この作品はオッサンと若者というくらいの書き分けでしたね。 良い点でもあり、悪い点でもあると思いますが、コメディ・タッチで書かれているために、リアルな人間味は感じられませんでした。あくまで漫画的なオッサンキャラという感じで。他のキャラも同様な印象です。そのためコメディとしては軽快で面白かったですが、感動ドラマ的なネタを扱うには若干軽すぎたかな、と。 【ストーリー】 物語に必要な量の情報を提示して、それらをきちんと回収・料理していたのがよかったです。無駄のない描写といいましょうか。とにかく手馴れた感がありました。 ひとつ気になったのは街での捜索シーン。 授業の内容を活かして解決に導く――という意図があったのだと思いますが、『サウダージ』はちょっと強引すぎたかな、と。「大発見」みたいな描写になっていますが場所は福本さんに訊けばいいだけですし、ちょっと演出が大げさな気がしますね。私はここで作者様の意図が露骨に感じられてしまい、若干引いてしまいました。もう少し自然に役立ててあるとよかったと思います。 【総評】 あたたかい良質ホームコメディという印象でした。 ギャグや文章が、オッサン視点で統一されていたため、総じてオッサン臭かったのは……笑いが起こる感じではなかったですが、面白くはありました。この文体でウザったくならないのがすごいですね。オッサンを主役にして爽やかに締める手腕に脱帽です。 お題ですが「アンドロイド携帯」はアウト臭い気がしますが……どうなんでしょうね? 固有名詞はアウトとのことですし、この場合の『アンドロイド』は登録商標ですので……まあ、とにかく際どいネタだったと思います。 面白かったですが、気になった点での減速感が強かったため、もう一歩という印象でした。 以上となります。 個人的な意見も多分に含まれております。ご容赦ください。 それでは、引き続き企画を楽しんでまいりましょう。乱文にて失礼しました。 高橋 アキラさんの意見 こんにちは、「おっさん学園〜48歳奮闘記〜」読ませていただきましたので感想を。 少し厳しめの発言をします。 今回は無駄に厳しく鬼のような企画でした。 学園という世界観から始まり、五つから選ぶ三つのお題。そのどちらもが無駄に厳しく、作者様を縛り付けたことだと思います。 今回の企画は地図で例えると、「A地点からB地点まで行け、しかしCとDとE地点も通過すること」と百人に指示し、どれだけ違うルートでこの人たちは通るのか調査しているようなものです。 これだけ縛ってるんだから、そう数あるルートができるわけなんてないのに。 早い話、どの作品も奇抜性が生まれず、王道というよりむしろ、どの作品も似たり寄ったりになってしまうということです。企画でこれをやられては読者としてもオリジナリティを求める作者としても辛いですね。 しかし逃げ道がないわけではありません。いくら縛りのあるルールだったとしても穴は見つけられるし、むしろそれを逆に利用してやることだってできます。 今回の企画、まず第一に想像できるのがラブコメ。恋はテーマとしても重いですし、その分読者へ強い印象を与えやすい。 でも実はそこが罠。これこそが「似たような話」であり、読者を飽きさせてしまうパターンです。 言わば『企画向きではない』 この恋を扱ったテーマに作者が開き直るかのような一発ネタやありがちなツンデレなどの要素を使い始めたら斬新さなどゼロです。 難しいという点から同情の点数は得られても、読者を心の底から楽しませることはまずできない。 いつもの企画以上に、今回の企画は失敗した作者様が多いのではと思います。 しかし当作品を書かれた作者様は違うと思いました。良い意味で、です。 大抵は学園の世界観と言われたら、まず学園生活を送る学生をベースに考えます。 一方作者様はこのベース、根元の時点ですでに違う。 学園を軸に話を広げるのではなく、学園という要素を外側から取り入れています。 これは常にこういう柔軟な思考を持っていないとなかなかできません。 五つのお題が難関のように見えて、本当は違う。一番の難関は「学園」の要素。ここを見事にクリアしています。 作者様は企画初参加ではありえないと思いました。素晴らしいです。 「作者様は企画の本質を分かっていらっしゃる」 タイトルと冒頭ですぐにそう思いました。 企画で他の作品と差を付けるにはどうするか、それをしっかり考えていますね。ただ書きたいだけの人とは格が違います。 つまり、作者様は「感想が沢山欲しい」「企画に参加したい」などといった参加者ではなく、純粋に「100%企画で勝ちを目指している」方だと判断します。 その上で厳しい評価をしたいと思います。 読了後、まず自分が残念に思ったことは、作者様の素晴らしさが「学園という要素をストレートに捉えなかった」で止まっていることです。 冒頭は他の作品とは違い新鮮でしたが、それだけです。物語の始まり方から終わりまで、少々ベタだと感じました。 企画の本質を見抜き、裏をかいたのはいいですが、肝心の物語が「上手い」とは思えても「面白い」とは思えません。これでは根本的に意味がないです。 この「面白い」というのは、何もゲラゲラ笑えるということではありません。 読者がワクワクする要素、これが欠けているように思えます。冒頭で想像した展開がおおよそ当たっていて、予想通りすぎるのも難点です。 妻の死など途中で出てきますが、これもただ情報を提供されたようにしか感じられません。 何故このように感じるかと言えば、過去に起こったことを物語の後半で伝えていることが大きいです。 過去に起こったこと=過去に妻が死んでいること。 この手法(過去の出来事を物語の後半で提示する)は書く側としは楽ですが、読者としては何処か置いていかれたような心理が働きます。物語の人物が知っていることを、読者は後で知らされるわけですからね。置いてけぼりを食らうのは読者としてかなり辛いです。 効果的なのは、過去を引っ張り出して動機として提示するのではなく、やはり物語内で起こったことを動機とするほうが良いです。 妻が他界したことを動機とする、という要素そのものを変えるのが手っ取り早いかと思います。 別の動機。もっと物語内で起こったことを動機にするような形にすれば、この作品はがらりと変わるかと思います。 しかし今の指摘は大したことだとは思いません。少なくとも、もう一つの点ほどではないと思います。 「おっさん学園」そのもの。これが自分は一番気になりました。 作者様も気づいておられるかもとは思いますが、不思議な点が多いです。〜続き〜 まずこの「おっさん学園」、ビジネスとして成り立っているかどうか、です。自分には成り立っていないように思えます。 早い話、金になるのかどうか、です。この点を追求すると沢山の矛盾が見つかります。 自分から言わせてもらえれば、この「おっさん学園」は何をゴールとしているのかが分かりません。 客層が狭すぎるんです。とても金になるように見えない。 すると考え付くのが次の点、詐欺です。 主人公も言っていましたが、この企業の発想は、どこからどうみても宗教団体と同質のものです。 金を得られなければビジネスなどなんの意味もないのですから、「おっさん学園」の本質を考えるとそういうことになります。 「心の弱い人間」がいわば客です。心の弱い人を客の対象としているのですから、この点ですでに腹黒い企業だと思うのは正論です。むしろ純粋に見えるほど逆に怪しいです。 その割にはこの企業、黒さが見当たらない。 純粋な企業と言えなくもないですが、自分にはむしろ、ビジネスができない企業にしか見えません。 詐欺師や宗教団体はカリスマ、信憑性がもっとも大事です。その分人を騙すわけですから。 しかしこの理事長はその面影が見当たりません。 何よりもそう思わせるのが、この企業が最終的に何も成し遂げていないことです。 あたかも分かり切ったかのように「若者の価値観は若者にしか教えられないと私は考えます」など堂々と発言していますが、この理事長が言うことは何一つ成功していません。そして成功するようにも思えません。 若者の文化に触れたり、主人公まで若返ろうとしたり、 そんなことで若者が理解できるわけがなかろう。 そう、つっこまずにはいられません。 確かにCDや携帯電話を買ってもらったり、ヘアカットをしてもらうことで金は巻き上げられます。そして金を取るだけとって実は客を騙しているだけ。これは確かによくある話です。ダイエット器具を売る人たちと大差ないです。 ただおっさん学園に限っては、話そのものが胡散臭い。通常、使えないものを売る詐欺師は話だけは信じられるようにできています。ただ、この理事長からはそれが感じられません。 この理事長は若者どころか中年の方まで理解していないように見えます。むしろ搾取されるのはこいつなのではと思えてくるほどです。 事実として、主人公は学園で学んでも娘とは近づけずにいます。 思春期の子供を理解するのは簡単なことではない、と作者様は言いたかったのかとは思います。そこは分かりました。 でもそこを解決してこそのおっさん学園、だとも思うのです。 通常詐欺師は訴えられても紙一重で逃れられるような保険を持っています。言い逃れできる要素ですね。 おっさん学園には逃げ道すらないです。 ブラック企業であろうがなかろうが、この企業は現在進行形でうまくいっているようには到底思えません。 『信憑性』、これが重要です。 かなり追求しましたが、原点に戻ればこのような子持ちの親を相談する場所はすでに存在しています。 おっさん学園は空想的な存在に見えて、すでに存在しているものとなんら変わりません。夢があるようで、ないです。理事長の思考にあるのは中途半端な理想だけ。 物語の肝であるおっさん学園、地盤が緩すぎます。この設定をしっかり組まないことには話が始まりません。 さて、散々語りましたが、もう一つ気になったのが、結局おっさん学園は話の結末とは関係なかったことです。おっさん学園があろうがなかろうが、あまり変わらないように思えました。問題を解決したのは主人公と娘さんだけでしたし、おっさん学園はいわば物語でいう「寄り道」程度にしか思えませんでした。読者が求めるのは、おっさん学園がもっと重要な点で活躍するところだと思います。 私は勝手におっさん学園をブラック企業だと言いましたが、もちろん作者様がそう思って書いていないのは作品を読めば分かります。 しかし、私はブラック企業にした方が良いと思います。その方が物語も面白くなると思います。 汚い人物は確かに書きたくないのは分かります。しかし、悪役がいたほうが話は面白くなりますし、作者様がいくらこだわったところで最終的には「読者」が全てです。読者が面白いと思わないと話が綺麗だろうがそうじゃなかろうが意味がありません。 おそらくおっさん学園をブラック企業にするという考えは作者様にはなかったことと思います。そこでまずはそう考えてみることをお勧めします。それでいろんな視点から物語を見れることかと思います。 最初に述べた、主人公と娘の動機である妻の死、も変えられると思います。 例えばこんな感じです。 1.娘が父を嫌っているかのような行動を取る(当作通り) 2.おっさん学園に父が行く。 3.学園でたくさん学び、しかしそれはどれも有効ではないと父は知る。 ここでブラック企業に騙されたことを悟って復習してもいいし、反抗してもいい。父が気づかず娘が悟って父を救ってもいい。この辺の分岐は作者様次第です。 なぜこんな勧め方をするかと言えば、先ほども申し上げたとおり、おっさん学園が物語りと絡んでいなくて、読者としては期待を裏切られたような気分になるからです。 おっさん学園はありえるのかどうか。空想だからといって信憑性がないのは困りものです。この辺を重視するといいのではと思います。信憑性がないと、シリアスな話なのかギャグなのかも分かりづらいですしね。 お題の使い方は問題ないと思います。今回の企画で攻略すべきは学園だけだと自分は思っているので。 作者様は何処か自分と同じ匂いがしたので好感が持てました。 しかし、企画の裏をかくだけでおしとどまるのではなく、更に突き進んで欲しかったです。そうしていれば企画の優勝も見えたのではと思います。今作品はそれにまだ相応しくないと思いました。 いずれにしろ、こんな人を縛ってばかりの企画などではなく、自由に書かれる作者様の作品を読んでみたいと思いました。 次回作も楽しみにしております。 参考になれば嬉しいです。 |
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