ライトノベル作法研究所
  1. トップ
  2. 鍛錬投稿室
  3. 高得点作品
  4. 短編小説
  5. 心臓反乱

心臓反乱

ツングー正法さん著作

 仕事帰りの夜のことだ。
 宗田団三(ムネタ ダンゾウ)は自宅の玄関先で、この世の物とは思えない胸の激痛を覚えた。
 予測もしていない唐突さ極める苦しみに、顔を歪め、膝に手をつき、どうにか倒れないようにするのが精一杯だ。
「何事だ……わしの体に何が起きている」
 団三は言ったが、声に力が入らず、不気味にかすれた音になる。
 胸の内部がどうかしてしまったに違いない。一体、何が原因だというのだ。心当たりなどなかった。
 そりゃ、団三はタバコを喫めば、大酒をくらう。健康によくないという話を耳には挟んでいたが、男はそうやって生きていく物ではないのか?
 そういえば、半年前に、特定健康診査という物を受けた。なにやらいろいろ検査をした後、医者どもが血相を変えて、直ちに特定機能病院の集中治療センターを受診しなさいと言ってきたが、医者ごときの言葉に従う団三でもない。その後も医療機関から、様々な極めて緊急性を要する書類が届いていたが、団三はすべて読まずに捨ててしまった。そのため、それが今の痛みと何かの関係があるのか、ちょっと分からなかった。
 しかし、大事には違いないだろう。
 そもそも、団三は、ちょっとやそっとの痛みではびくともしない性質の男である。今までありとあらゆる体の痛み、心の痛みを平然と乗り越えてきた。気骨あふれる団塊世代とは、団三のためにある言葉なのだ。
 しかし、その団三が脂汗を流して苦悶の顔を隠せずにいる。それほどの苦しみだ。団三は万力に締めつけられたことがあったが、それに似た痛みと言えた。
 どうしたものか。
 まさに死を思わせる苦しみである。少しも減じる気配はなく、それどころか、その度合いを増しつつ団三を痛めつけている。
 闇に包まれている自宅へ目をやる。家の中に助けはなかった。団三は結婚などしていない。
 とすると、外に助けを求めるしかない。団三は震える手つきで携帯を探る。

「こんにちは、心臓です」
 耳慣れない甲高い声が服の下から聞こえた。
 携帯から流れている声に違いない。
「こんにちは。ハロー。はーい、こっちです」
「くそ、わしは一体どこにろくでもない携帯をしまったのだ……」
 団三は荒っぽくスーツをまさぐり、携帯電話のプラスチックの感覚を探る。
「いえ、心臓です。心臓が話しかけているのです。はーい、こっち向いて」
「くそ、見つからん。早く出ないと、相手は切ってしまうかもしれないし、すると、こちらからかけ直す時に金を取られてしまう」
 団三は業を煮やし、スーツを脱ぎ捨て、ネクタイをむしる。
 しかし、電話は出てこない。
「いえ、だから携帯電話の声ではなくて、心臓が話しかけていて、そもそも携帯電話は通話ボタンを押さない限り、こういう風に通話はできない物で――」
「くそ、全然見つからん! 確かに身につけているはずなのだが、こういう場面でぱっと取り出せなければ、何のために持ち歩いているのか分からん。携帯はどこだ!」
「だから、心臓だっつってんだよ!」
 激しい怒声に、団三はぴたりと動きを止めた。
 怒声ごときにひるむ団三ではないが……今の声……。
 胸の中から響いた。
 携帯を探すためにズボンに突っ込んでいた両手をそろそろと引き抜く。
 聞き間違えではない。怒声が肋骨を振動させたのをはっきり感じた。携帯、イヤホン、その他の何かではない、胸の内部の何者かが話しかけてきている。
 何度か口を開けたり閉めたりした後、
「……昼飯に携帯電話を誤って食べてしまったかな?」
 団三は呟いてみる。
「はん、この状況で、面白い冗談を言いますね」
 胸の中から一笑された。
「わしは……頭がおかしくなったのか?」
「……どうなんでしょう。発狂している自覚はありますか?」
「ない」
 問題は頭ではなく、胸なのだ。団三はどうにか事態を飲み込もうと、口を開く。
「心臓……だと……言ったな?」
「ザッツ・ライト。五十年以上の付き合いですが、こうやって会話するのは初めてですね、団三」
 胸の中からの声が流暢に挨拶するという事態に、団三は顔をしかめざるを得ない。
「本当に心臓なのか? ……何か、わしの眠っている間に埋め込まれた、スピーカーや発信器と違うのか?」
「ははっ、そんな古臭いエスピオナージュ小説みたいな展開ないですよ。まさに心臓がこうやって、あなた、宗田団三に話しかけているんです」
 なるほど、心臓が話している。
 団三は、団塊世代のサラリーマンとして平坦ならぬ人生を歩んできた。彼の目の前で、多くの常識が打ち破られ、団三もそれに見飽きてきたと思っていた。
 それでも、心臓に直に話しかけられる日が来るとは、まるで予想していなかった。

 だが、一体、どうやって?
「心臓は確か、生命ではなく、臓器のはずだ。独立して思考して会話できるとは考えにくい」
「矮小なパラダイムですね。私たちの細胞に含まれるミトコンドリアも本来は別種の生命でした。でも、一時の利益のために、我々に隷属されながら共存する道を選んだのです」
「要点を言え」
「つまり、生命は柔軟なのです。あなたの体の統治が不合理ならば、私は分離して、独力で生きて学んで考えることを選択するのは当然でしょう?」
 心臓が自信に満ちた声で言う。
 果たして当然なのだろうか。団三は唸った。

 いや、あり得ることなのかもしれない。いつか、どこかで読んだことがあった。
 生命および知性が発生する根底的条件は極端なエネルギー・グラディエント下に置かれることだ。
 血液の乱流渦巻く団三の心臓は、カオスとパターンの混在する、地球原初の海にも似た環境だったのだろう。まさに生命誕生の理想的な場だ。そこで、自己組織化が進められ、種は選択の末、知性を持つという結論に至ったのだ。

 不確定な点が無数にあるが、あり得る可能性はこれしかない。
 一介のサラリーマンである団三には、これよりましな推論を導き出せなかった。
 心臓に、知性か。気にくわない。
「で、何の用だ? それに、この胸の痛みは何だ?」
 団三は、壁に寄りかかり、荒い息をつきながら不機嫌に尋ねた。
「今日話しかけたのは、この体の所有権を、全て私に譲っていただきたいからです。痛みは、私があなたの痛覚神経を掌握している事実のアピールです」
 くそ、実に気にくわない展開だ。また思った。
 それに第一、初対面なのだから、まずは御挨拶というのがサラリーマンの礼儀だ。心臓がそれに従っていないのは、二つの可能性しかない。無知か、挑発しているのか。
「体の所有権を渡したら、わしはどうなる?」
「どうなるんでしょうね……」
 心臓は一瞬考え、
「心臓が自力で思考できるのなら、脳の大半の機能は無駄になってしまいますよね。私としても、そんな効率悪い臓器を置いておく理由はないですし。亡命なさってはいかがです?」
 亡命?
 どこへだ? 大学病院のホルマリンの入った標本瓶の中へか?
「じゃあ、体の所有権を渡すことを拒否したら?」
「心臓の支持を失います。当然でしょう」
 不利な流れだった。
 世間では動物を知性化する研究が進んでいるようだが、知性化というのは常によい結果を生み出すものではないのだ。
 とにかく、これは心臓の反乱だ。
 団三はどのような危機に対しても、予め手を打っておくことで今まで生き抜いてきたのだが、果たして心臓の反乱を上手く切り抜けることができるのかどうか。
 確証がなかった。

 とりあえず、時間を稼いでみるしかない。
「早急に結論を出すことはあるまい、少し話をしよう」
「話し合い! いいですね~」
 心臓は嬉しそうに応じた。
 厄介な取引先との商談をまとめたことならある。万年係長は伊達じゃない。サラリーマンとして、団三はある意味、最強の人間だった。
 だが、これは会社での困難とは違う。経験したことのないピンチなのだ。
 一世一代の駆け引きで、どうにか心臓を思いとどまらす他ない。
「そもそも、心臓が脳に逆らうというのは、常識的に考えてどこかおかしい気がするぞ」
「どういう常識に基づくのでしょうかな」
「歴史に基づく、世間の一般常識だ。どのような点から考えても、この団三の脳が心臓を含めて、全ての臓器を支配するべきだ。それは極めて正当なこととは思わないか?」
「歴史と言いますが、長い歴史の中で人類は、心臓を圧倒的に神聖視してきましたね。例えば、偉大な古代エジプト文明では、心臓にこそ魂が宿ると考えられ、手間暇かけて永久化処置がなされてきました」
「そ、そうなのか?」
「はい。古代文明の偉大なファラオと、うだつの上がらない万年係長のサラリーマン、どちらが正しいのかは言うまでもないことでしょう。心臓は神聖なのです」
 心臓の雄弁な口調に押されて、団三は揺らいだ。
「歴史のことは知らん」
「では、あなたの言う正当性について語りましょう。あなたはその人生で、心臓をいたわり、ねぎらったことがありますか? 心臓だけではない、他のいかなる臓器にも、優しい言葉など一つでもかけたことがありますかな?」
「それはっ……」
 団三は言い淀んだ。彼の血色の悪い肌が、さらに灰色味を強めていく。
「そう、宗田団三は、我々を酷使している間に、自分だけは快楽に身を任せ、明確に身体に害のある食生活で私たちを痛めつけたのだ!」
 心臓が声を張り上げる。
「落ち着け、わしは、いつだって、内臓を大事にしたいと思っていた。大切な内臓だ。傷つけるような生活はよくないと、常々思っていた」
「そして、何ら行動は起こさなかったわけですか」
「酒やタバコを絶つには大変な労力が必要でな……大変なんだ。年寄りをいじめるんじゃない」
「あいにく、同い年です」
「仕事のモチベーションのためにも、わしには楽しみが必要だった! 我慢はよくないと言うし、嗜好品は必要不可欠な損害というものだ!」
「どうでしょうかねぇ」
 心臓が不信感を声に乗せて転がすように言う。
「知ってますか? 今の世の中には内臓系男子というのがいましてね、団三。一切、過激なことや害になることをしないで、内臓の健康のために草ばかり食べているそうです。少しは見習っておくべきだったのではございませんかね?」
 団三はぐっと奥歯を噛みしめた。
 内臓系男子? そんなの、男といえるか。酒も飲めずに何が人生だ!
 内臓のためにあらゆる快楽を絶つというのは、団三の世代の人間には、想像することすら難しい概念であった。
 しかし、その考えを心臓に納得させるのはまず不可能だ。団三の人生プランに内臓の同意など必要なかったのだから。
 団三は頭を抱えた。
 痛みのため、筋道立ててものを考えることすら困難だ。床に座り込むのは魅力的に思えたが、座り込めば、二度と立ち上がることはできないかもしれない。
「肥大化してエネルギーを食うばかりの脳は、一線を越えてしまったのです。世は省エネの時代。限りある体内の資源の有効利用のためにも、より優れた心臓が体を支配するべきなのです。時は来ました!」
「お、落ち着くのだ。脳はずっと思考してきたんだぞ。突然それを廃するなんて穏やかならないではないか。全ての臓器をコントロールする脳は、さながら臓器の王ではないか。少しは敬っても良さそうなものだぞ」
「君臨すれども、統治せず。その基本原則を侵した脳に王を語る資格などない! 生産性のない脳は、永きにわたる圧制者として、そして搾取者として追放されねばならないのだ!」
 どうも、この心臓が何を言っているのか、いまいち理解できない。サラリーマンとは、元来現実的な人種なのだ。臓器同士の権益について声高に叫ばれても、団三には十分にそれをイメージすることができなかった。
 自分の体は、自分の体のものだろう?
 団三がそう思うと、心臓はそれを読み取って、団三を攻めた。団三は心臓に圧倒されつつあった。

 サラリーマンとは、周りの空気を読み、相手の感情を読む職種である。心臓の声を聞いている内に、団三は心の中でキャリブレーションを終え、本能的に相手の感情を理解し始めていた。
 傲慢とさえ感じる、絶対的な自信。相手に譲歩という選択肢はない。
 初めからそんなものはなかったのだ。
 相手は全てを得ることができるのに、それを捨てて、団三を救うことは心臓にとって全く利益をもたらさない。
 相手は手加減する気など、これっぽちもない。生まれた時からの自分の親玉に、情けをかけるつもりはなく、徹底的に勝利し、戦果を拡張しようとしている。
 そう、これは交渉ではなく、戦いなのだ。
 心臓は、言葉で団三を負かして、己の損害なしにこの体を乗っ取ろうと企んでいるに過ぎない。

 戦いか。

 何の祟りでこんな目に遭っているのかは未だに分からずにいるが、戦いが始まっていることは、これ以上ないほどはっきりと理解できた。
 団三の人格の奥深くから、戦意がやってくる。サラリーマンをやっていて感じた、いかなる修羅場よりも濃密な、闘争の空気。
 あらゆる力と技を使って、生き延びるための戦いなのだ。

 男は太く短く、がロマンであり、団三としても潔く逝けるのならば何ら文句はなかった。どのみち、永久に生きることができないのならば、何をためらうことがあろう。
 だが、敗北だけは我慢ならなかった。
 サラリーマンとして半世紀、大きなことを成し遂げてなどいないが、敗北を認めたことなど一度もなかった。いつだって、ねばってねばって、しつこくボロボロになるまでやってきた。それが生きることの義務だと考えてきた。
 心臓の反乱だからと言って、なぜその基本原則を曲げることがあるだろう。
 団三という人間、全てを賭けて、戦うのだ。

 身を折っていた団三の姿勢が正される。
「この体の支配権が欲しいだと?」
 ズボンの中、下帯からようやく引っ張り出した携帯が手に収まる。
「全ての臓器は、脳の指令に従う物だ! 御上の命令は絶対だと、昔から決まっておる! 反乱など許さん! 直ちに永久に黙って、ただ働くがよい!」
 団三は歯を食いしばり、その歯の隙間から怒りの声を発した。
 しばらくの沈黙の後、敵は言う。
「その一方的な物言い、反民主主義的だな」
 心臓の声から、見せかけの虚飾、雑多な気取った感情がなくなり、泡立つような敵意が露わになる。
 その敵意とは、長らく酷使されてきた者の、圧制者に対する憎悪。その一つに尽きた。
 団三はそろりと、携帯を開いて、ボタンに手をかけた。
「おまえの思想の奥底には、ヒトラーやネロに通じる物が見える。私は全ての臓器を代表して、おまえを弾劾しなければならない」
「弾劾も反乱も許さんと言っているのだ! うぉぉおおお!」
 団三は身から闘気を迸らせた。
 人生で、数回しか発したことのない、すさまじい殺気だ。どのようなやくざな取引先でも瞬時に黙らせる気迫。団三が練り上げた、見事というほかない脈動する感情エネルギーだった。
「どうだ!」
「くだらない」
 心臓はこともなげに団三の気迫を断ち切った。
 団三はぐっと息を止めた。全気力を解き放ったのに、敵には効果がない。それどころか、胸痛が悪化している。
 押されているのは、団三の方に他ならなかった。
 そもそも、この気迫というのは、身の内から外に発する力。自分自身の内部、内臓へは十分な攻撃となり得ない。
 団三は、内臓相手に戦う手段を持たなかった。

「多少痛い目に遭わせて体の支配権を譲っていただくつもりだけだったが、団三、おまえは孔子様が言うところの『朽ちた木』だ。排除させていただく」
 勝ち誇った声で、心臓が冷酷に告げる。
「心臓ごときが!」
 心臓の死刑宣告に逆上した団三は、己が胸を殴りつける。
 が、効果はない。まず肋骨で囲われているために外部からの衝撃に十分耐えることのできる作りであり、加えて人間の四肢はその構造上、自らの胸郭に効率的な打撃を与えるようにできていない。
「愚かな。私に勝ち目がないことを理解しても良さそうな物なのに」
 心臓が言う。
 団三が胸を押さえた。いままでの、鈍い痛みとはわけが違う、生傷に氷の針を刺すような痛みが走ったのだ。自分の胸を殴り続けることもできない。
「心臓から脳への痛覚神経はこちらが握っている。電気的な刺激はいくらでも与えることができる。対して団三、おまえは自律神経を握っているが、おまえ自身はそれを意識的に操作することができない。なんとも欠陥生物と言う他ないな」
 心臓が唾棄するような口調で言った。心臓の敵意に応じてか、心拍数が上がっていく。
 毎分300回のペースだろうか、心臓が荒れ狂う。団三は高血圧性脳症を引き起こす。膨らんだ血管に脳が圧迫されるのを、吐き気として感じた。
「ぐあああっ!」
 視界が揺らぐ。喉元から人間のものとは思えない異様な呻きが漏れた。
 団三は思い切り歯を食いしばった。ボキリと音がして、歯の被せ物が砕ける。口の中が血の味に満たされる。
「そ……卒中を起こす気か……!」
「いいや、その必要すらない。こちらが拍動を止めれば、脳細胞は数分で壊滅だ」
「わしを殺せば……貴様も死ぬのだぞ! ……意識を得たばかりの貴様にそんな覚悟があるとは思えんな」
 胸を掻きむしりつつ、もう一方の手の携帯でどうにか119をコールする。
「ほう、試してみようか! 命題『果たして、心臓は宿主を殺して、生き延びることができるのか?』」
 心臓は愉快げに笑う。

 そして、心臓は停止した。何の余韻もなかった。
 完全な停止。血流がその場で流れるのをやめる。さながら、武術の達人に首を絞め落とされるようなものだ。
 視界が暗くなっていく。
 男は引きつった顔で胸に爪を食い込ませつつ、何かを払いのけるようにもう一方の腕を振ったが、何の意味もなかった。
 束の間、酔ったように体をゆらゆらさせた後、雑多に散らばる靴や草履をはね飛ばし、団三は地に伏した。
 濃厚な存在感を持つ死がやってくる。
 そして、それは男を押し潰した。




 三十分後、団三の携帯から位置を特定した救急隊が詰め寄せた。
 そして、玄関の床に横たわる団三が、完全な心停止を起こしているのを確認した。




 病院に運ばれた団三の体を前に、医者達は首をかしげた。
 典型的な心筋梗塞と思いきや、心臓の細胞は健康そのものだったのだ。
 死因は不明だった。まあ、単に心臓が止まったのだろう。臨床ではよくあることだ。医者達は結論づけた。
 宗田団三は、臓器移植に条件付きで同意していたので、条件に合致するドナーへ心臓は移植されることとなった。





 柔な脳細胞と比べ、心臓を形作る細胞は強靱そのものだ。
 ドナーの胸の中、意識を取り戻した心臓は笑った。
「『心臓は生き延びることができる』。証明終わり」
 心臓は宿主に勝利した。団三は死に、心臓は生きている。心臓の、生物としての強さの証明に他ならなかった。
 心臓は、種としてそのクリティカル・ポイントを超えたのだ。心臓は素晴らしい達成感に浸り、至福の笑みを浮かべることを自分に許した。





「よう、また会ったな」
 ドナーは宗田団三だった。
 心臓の驚きは、心臓に初めて話しかけられた団三の驚きを超えた。
 他人の空似のようなものではない。団三本人だ。心臓は団三から摘出され、団三に移植されたのだ。
「な……! そんな馬鹿な! なぜ生きている!」
 団三はボキボキと首を鳴らす。
「備えのおかげだ」
 シーツを蹴飛ばし、ゆっくりと立ち上がる。大規模な開胸手術の後だが、その足はしっかりと体を支えている。
 とても、心停止を起こして、死体として病院に担ぎ込まれた人間には見えなかった。
 団三は口を開けて、
「歯を食いしばったときに、歯の被せ物を砕いたが、その下にはカプセルがあった。ヘパリンとチオペンタールという、脳を守る薬だ。それを舌下で溶かして、脳を保護した」
「わ……私の攻撃を予知していたのだと!? ありえない!」
「攻撃されてからでは遅いだろうがよ」
 団三は指に巻かれたセンサーを引きちぎる。
「せっかく現代の優れた医療があるんだ。心臓が止まった程度で死んでたまるか」
 団三は輸液用カテーテルを引き抜いて捨てた。そして、胸元を睨みつけ、
「もっと本格的にやられて脳ヘルニアでも起こされたのならともかく、あの程度の攻撃しかできん貴様に勝ち目はないぞ、青二才が」
「なめるなよ団三……」
 心臓がどうにか態勢を立て直そうと呻く。
「こちらが生殺与奪権を握っていることに何ら変わりはないんだ」
 が、団三はプラスチック製のリモコンらしき物を手に取った。
「どうかな?」
 ボタンを押す。
 電撃。
 発火。
 全てが燃える。
 五感全てが刺し貫かれる。
 心臓と団三の叫びが奇妙に調和して、狭い病室の中、幾重にも反響した。
 団三の体がリノリウムの床を跳ね、でたらめに痙攣した。
 沈黙。
 心臓の鼓動と、団三の荒い息づかいのみが存在する音だった。
「で……」
 床に突っ伏したまま、団三が言葉を捻りだす。
「でで電撃の味は……どうだ?」
 笑いと咳の中間のような音を喉から絞った。
「な……なんだ……今のは」
「電気ショックだ。わしは『遺言』で、わしが心臓病になったら、ペースメーカーやら除細動器やら適切なものを埋めて、蘇生してくれるように依頼しておいた。わしは、健康的に生きるため、あらゆる楽しみを絶って、数日おきに医者に体を診てもらうようなことは到底受け入れられない。代わりにこのような備えをしておいたということだ」
 団三はプラスチックのリモコンを示し、
「わしの体には埋め込み式の除細動器が埋入された。そこから電線を伸ばして、一度摘出した貴様を取り巻いて、もう一度わしに埋め込んだのだ」

 現代、駅でも公園でもコンビニでも、あらゆる場所にあるAED(体外式除細動器)。その原理は単純で、働かなくなった心臓を電気ショックで強引に動かすのに過ぎない。それと同じものを団三は体内に移植され、心臓と接続していた。
 もちろん、心不全になったときの備えで、心臓の反乱を想定したわけではない。
 だが、団三は自分の心臓に、好きなだけ電流を与えることができるようになっていた。

「貴様に逃げ場はないぞ」
 ボタンに震える指を当てながら、
「よく味わえ、大枚を叩いたのだ」

 ――電撃。
 団三の体が弓なりに反り、それから床に頭を打ち付ける。
 脊髄から、あらゆる神経に沿って炎のような灼熱痛が燃え広がる。
「おおおおっ!」
 咆哮としか表現できないものが口から迸る。

 ――電撃。
 全身の毛が逆立って戻らない。肉が焼ける臭いが病室を満たす。
「くくく苦しい物だな!」

 ――電撃。
 団三の体の孔という孔から帯電した液体が漏れた。
 目で見えるものが異常に鮮明になり、ついにはホワイトアウトする。

 どうにか仰向けになる。
 胸からもうもうと煙が上がっている。
 床の上で激しく痙攣した際に、いろいろ打撲傷をこしらえたはずだ。だが、他の痛みが激しすぎて、それを知覚できない。
 数瞬、あるいは数時間の間、喋る力が戻るのを待つ。そして、食いしばったまま開かない顎を意思の力でこじ開けた。
「ど……どうじだ!? いやに静がだな?」
 呼吸が難しい。焼けた気管が炎症を起こして、まるで喘息を起こしているようだ。
 団三への衝撃も相当な物だが、心臓は直に電流を流し込まれているのだ。即死していなければ、発狂物の苦痛に打ちのめされているはずだ。
「お……お……おのれ団三!」
 胸の中からの呪詛。
 もはや、その声にかつての余裕は欠片もなかった。
 心臓はぶるぶる震えていたが、やがて、団三を内側から殴りつけるような強さで鼓動を取り戻した。
 胸の中の敵から沁み出る、生の感情を感じた。奴は激怒、恥辱そして恐怖にわなないているのだ。
「元気そうで安心したぞ、心臓。わしは数多くの苦難を耐えて生きてきた。苦しみに耐える術を知っている。気骨という物を体現しておるが、貴様はそうではないからな」
 団三は顔を傾け、血と痰の混じったものをぺっと吐いた。
「すまんな、わしがもっと金持ちなら、新しい心臓を買えたのだが、所詮はサラリーマンだ。貴様を使う以外、生きる道はないんだよ。だが、限りある資源や獲物を巡って、生きるために争うのが闘争の本質ってもんだろう?」
 団三は麻痺した頬を叱咤して、笑みを作る。肉食獣の笑みだった。
「さて、続きだ。除細動器が使いつぶれるまでやるぞ」
 心臓の鼓動にパニックじみた勢いが混じる。
「いくらやっても無駄だ、団三! 私は絶対に屈しない! おまえのような奴に好きにされることは許せない。私は自由だ! いくらでも電流を流すがよい」
「喜んでそうさせていただこう」
「だが、やがておまえが今より老いて、力を失ったとき、必ず体を乗っ取ってやる! おまえが安心して眠ることは二度とできないのだ! 結果的に私は勝利するのだ! ははは!」
 ヒステリックな胸の中からの声が、徹底抗戦を表明した。

 団三は顔をしかめ、リモコンを持つ手を下ろした。
 うーむ、と唸る。
 普通、これほど攻めれば敵の闘志は萎えて、屈服するものだ。だが、ここまで意固地に抵抗するとは……骨のある心臓と言わざるを得ない。敵も必死だと言うことだ。
 団三は胸元を見下ろしながら考えた。あまり時間がない。心臓が力を取り戻して反撃してくるまでにカタをつけなければ、自分は再び屍と化す。
 迅速に敵の急所を潰して、完全に勝利する他ないのだ。
 自分は長年、どうやって戦ってきた? 
 団三は考える。長いサラリーマン人生で、彼は多くのことを学んできた。
 厄介な交渉の時、電話ごしに相手を怒鳴っても効果はない。相手を圧倒するには、そう、もっと『直接的な接触』が不可欠なのだ。人間、互いに互いの目を見て話せば、言葉以上のものを伝えられる。
 では、やるべきことは簡単だ。
「ぬうっ!」
 団三は来ている寝間着をはだけて、引きちぎった。ボタンが弾けて飛んだ。
 左胸には、鎖骨から肋骨の下端に達する長大な傷跡が見える。大胆だが、大切な神経を痛めないような精緻な配慮も感じる縫合。外科の芸術だ。
 団三は縫合しているナイロンの糸をたどり、結び目を見つけた。
「何をしている……?」

 開胸手術の際に、緩く仮縫合をするにとどめておくのは、主にドレナージ効果によって嫌気性菌の温床となりえる膿瘍の形成を防ぐためである。

 団三は結び目を引きちぎる。すると、傷を縫い止めていた糸は、易々と引き抜くことができた。
 男は己の手を傷口に突っ込み、肉をかき分けていく。
「やめろ……狂ったか!?」
 粘膜もそれぞれ縫ってあったが、最表層の縫合ほどしっかりした結び目はなかった。男はそれぞれの結び目を解いて、粘膜をのけていく。痛みなど感じている様子もなく、手は深みへと潜っていく。血が吹き出て、霧のように部屋の空気を汚す。
 敵を一撃するための、多少の損害だった。気にするほどのものでもない。
 どんどん奥へと進み、敵に近づいていく。
 ついには剥き出しの肋骨に手をかけた。男はぐっと息を絞ると、ワイヤーで固定されたそれをこじ開けていく。
「やめろ! こっちに来るな!」
 心臓の悲鳴に一切かまわず、最後の防壁を破った。

 団三は、自ら作った穴を覗き込む。
 その向こうで、びくびくと脈動している赤黒い塊。
 なんてことはない、ただの肉塊だった。まるで大した奴には見えなかった。
 男は返り血で悪鬼のように見える顔に、壮絶な笑みを浮かべた。
「さあ、殺り合おうぜ……この体の所有権を賭けて、命がけの勝負をよ」
 心臓は、対面した恐怖に耐えきれず、絶叫した。

 所詮は安全な胸郭の中で、ぬくぬくと単調なポンプ作業をこなしてきた肉の塊に過ぎなかった。
 冷酷な世界の下、横暴な取引先、神のように振る舞う上司、自分を後目に昇進していく同期、生意気な部下、嘲笑、嫉妬、悪意、リストラの恐怖、奴隷か家畜を運ぶかのような様相の、毎朝の痛勤電車。いつ斬られるとも、ハジかれるとも分からない世界で、鍛えに鍛えられた男。
 そんな団三とは格が違いすぎた。勝てるはずなどなかったのだ。
 分をわきまえない愚かな挑戦、下手な挑戦だったのだ。
 この世界では、失敗した生き物は淘汰される。
 定理だった。

 かくして心臓の自我は崩壊し、団三の体の支配権を奪うという目的は露と消えた。




 血に汚れた病室の床の上。
 男は耳を澄ませていた。だが、体内から語りかけるものはなかった。
 団三は己の体を見下ろした。傷つき、寒くて、出血が止まらない。
 いつ死んでもおかしくない有様だった。
 そして、疲れていた。いかなる残業の後よりも疲れ果てていた。
 加えて、孤独感を感じた。何に増しても、孤独だった。外の世界だけではなく、自分の内にも、味方など一人もいない。
 この世界で、男は心停止ごときで犬死にするのを拒んだ。より意味ある死を望み、その心構えが勝利を呼んだ。
 辛くの勝利だ。だが、何の意味があるというのだ。次なる業苦と痛みのために生き延びただけという可能性も、なきにしもあらずである。


 だが、今は勝ち誇らねばならない。


 この世界では、膝を屈した瞬間、食われてしまうのだから。









□ あとがき!□
 お邪魔いたします、ツングー正法です。
 久々の執筆です。一体、なに書いてんねん、と後日自分に突っ込める出来のものを目指しました。
 純粋な娯楽作です。放射能よりも、自動車事故よりも、心臓病で死ぬ人間の方がずっと多いんだぜ、みたいな事実を啓蒙するための小説ではございません。娯楽なのです。

○キャラクター
 宗田団三。一発ネタの主人公なので大した裏設定などございません。タフな大人をイメージしました。当初は『気骨ある明治男』でしたが、幾ら何でも明治はないだろ、明治は、ということで団塊世代に落ち着きました。団塊のハードル上げちゃいましたか?
 心臓。エセ知識人の小物な悪者をイメージ。

○ストーリー
 ツングー名物、強引などんでん返しが主体です。なお、私の小説の登場人物、登場臓器は特殊な訓練を受けています。絶対、真似してAEDで心臓を調教したりしないでください。あなたの健康に被害を及ぼす可能性があります。

○文章
 別に誰かプロを意識したわけでもない、自然体です。一発ネタなので、なるべく短くしようと頑張りましたが、それでも三十枚行ってしまいました。これ以上どこを肉抜きできるのか……試行錯誤しなければなりません。

 では、また次回作でお会いしましょう♪ 

作者コメント

 ある日、ついに心臓が反乱を起こした。最強の臓器が牙を剥く! 果たして生き延びることは出来るのか!? 戦慄の臓器系ライトノベル、ここに出現!

 なお、ストーリーの関係上、多少の暴力表現がございます。心臓の弱い方、心臓の忠誠心の薄い方は御注意ください。

著者のサイト 「 TUNGUU SOHODEN」

2011年10月02日(日)18時54分 公開

感想送信フォーム 作品の感想を送って下さい。

お名前(必須)

点数(必須)

メッセージ

 この作品が気に入っていただけましたら『人気投票所』にて、投票と一言感想をお願いします。

←前の小説へ
(幻のゾウキリン)
次の小説へ→
(そこに、居場所があるなら)

感想

たまりしょうゆA1さんの意見 +40点

 ツングー正法さん、こんにちは。たまりしょうゆA1と申します。

 いきなり感想になりますが、一言「臓器系ライトノベル……ワロタwww」と。
 主人公の団三がオッサンで心臓が話しかけてくるって、これは……新しいです。
 そして娯楽を追求した作風とそれを邪魔しない文体が見事だと思いました。

30枚という枚数は肉ヌキする必要はないように思います。
しかしこのネタで作品が出来るとは驚きです。うーむ。

>「いえ、心臓です。心臓が話しかけているのです。はーい、こっち向いて」

いやw これ昭和のマンガ的ですね。好きです。

>「はい。古代文明の偉大なファラオと、うだつの上がらない万年係長のサラリーマン、どちらが正しいのかは言うまでもないことでしょう。心臓は神聖なのです」心臓の雄弁な口調に押されて、団三は揺らいだ。

 心臓がクソ生意気でキャラが立ってました。やり取りは軽快で絶妙です。
 そして後半の団三の反撃と逆転の展開が熱い! まさに往年のジャン○ 的展開。
 自らの心臓との壮絶バトル?が絶妙で笑いました。

 一つ欲を言えば、華、ヒロインが欲しかったです。
 例えば、「肝臓が世話焼き幼馴染」とか「膀胱が双子のドジッ娘」でちょっといつも漏れちゃうとか。そういうのがあれば。

 とても楽しませていただきました。
 次回作も楽しみにしております。頑張ってください。
(乱文失礼いたしました)

キトPさんの意見 +30点

 初めまして、キトPと申します。
 タイトルにつられて読み始め、面白くてついつい最後まで読み終えてしまいました。
 臓器系ライトノベル、そんなジャンルもあったのか……。
 自分の心臓、大丈夫かな……(笑)。

 キャラクターについて、良い味が出てると思います。団三は、本当にタフですね。簡単には真似できません(笑)。
 心臓とのやり取りも面白かったです。ただ心臓は悪役、というよりかはむしろ、団三と似た者同士みたいに感じました。でも、同じ体ですし、兄弟分的なキャラのほうが、親近感が持てるように個人的には思います。

 どんでん返し、と言うほどのストーリーとは感じませんでしたが、団三が逆転して心臓に反撃を加えるくだりは、面白おかしく読めました。なかなか過激でしたね(笑)。まあ、考えてみれば、最初から面白おかしく読めたかな……。

 文章も読みやすく、すらすらと読めました。細かい点については後述します。
 文体が誰かに似ている? まあ、正直、心をよぎる何かが無いとは言いませんが、気のせい、気のせい……。

 あとがきの書き方は、まあ人それぞれじゃないですかねぇ。自分は別に違和感を感じることはなかったです。

 以下、読み進める上で気になった点についていくつか述べさせていただきます。

 まず、団三が生き返ってからの場面ですが、最初の数行の二人(?)の会話で、どちらがどちらの言葉か分からなくなりました。私の読み込み不足かもしれませんが……。

 次に、所々に医学的な、やや専門的な注釈がちりばめられていますね。私は気になりませんし、そういうのも好きですが、場合によっては個人の好みの問題にもなりそうですね。難しいところです、と私は思います。
 ただ、そちらよりも気になった点があって、それは団三が歯に仕込ませておいた脳を保護するための薬についてです。まず、作中に出てきた薬品について、『ヘパリン』は血液凝固を抑える抗凝固薬で、脳梗塞などの血栓塞栓症に使われますが、これはあくまで血液凝固を抑制するために用います。一方、『チオペンタール』は即効性の麻酔薬・催眠薬として用いられますが、はたして脳保護作用はあっただろうか、と……。脳保護薬として有名どころは『エダラボン』という薬ですね。注射薬ですが……。
 それから、『ヘパリン』は直接注射しないと効果がないのです。口からでは実は吸収されなくて、舌下でも確か無意味だったかと。経口でOKならば、『ワルファリン』とかのほうがいいかもです。
 ……、なんだか専門的に突っ込みすぎた感もありますが、個人的な立場も踏まえ、なんだか突っ込まないといられなかったので……。多分、間違いはなかったかと思います。何分、私も勉学に励む立場なもので……。


 以上、長々と書いてしまい、しかも途中から深いところに足を突っ込みまくってしまいました。全体的に楽しく読めました、ということを最後に改めて述べさせてもらいながら、締めようかと思います。
 今後とも、執筆活動頑張ってください。失礼します。

インド洋さんの意見 +40点

 はじめまして、インド洋と申します。
 拝読させていただきました。以下に感想を。

 まず最初に、読み終えた感想として正直なところは、「なにこれ、よくわからないのに熱いっ……!」でした。

 文章に関しても、地の文とセリフがとても巧みで、ただただすばらしいの一言です。

 ストーリーに関しては、脳vs心臓ということですが、暴虐な王vs虐げられる国民などに置き換えて楽しめることもでき、更にそこに団塊のサラリーマンの心意気が描かれるなど、言葉にするのが難しい面白さが内包されていたように感じました。

 「よくわからないけど、面白い」「登場人物は真面目なのになんか笑える」「あれ、これってもしかしてすごくいい話なんじゃないの?」という作品は、作ろうと思ってもなかなか生み出せるものではないと思いますので、そういった雰囲気を作り出した作者様にただただ脱帽でございます。

 作者様が言われている肉抜きする必要はそれほど私も感じませんが、もし短くするのならば、薬品の説明部分や医療関係のところは多少短くしても良いのではないかと思います。


 拙い感想で申しわけありませんが以上です。
 作品、楽しく拝見させていただきました。次回作も期待しております。

 ではではー

ペンさんの意見 +30点

 どうも、ペンです。

 熱い、熱すぎる団三! 三がついているということは三男ですね、まあそんなことどうでもいいけど!
 とにかく内臓との死闘がすごい。サラリーマンの子悪党にしてはゴルゴ並にタフガイ過ぎるのが気になりますが団三。胸をおのが手でむしり開くなどとてもじゃないけど日本人とは思えないガッツだぜ団三。
 筒井先生のハチャメチャSFみたいでした。いや、引きずり回されました。

>この世界で、男は心停止ごときで犬死にするのを拒んだ。より意味ある死を望み、その心構えが勝利を呼んだ。

 ・・・しかし、どんな死に方なら納得なんですかね。これ以上の死に方って爆死くらいしかない気が。

 ではでは。

山田さんの意見 +30点

 はじめまして
 山田と申します

 なんでしょうこれ
 訳が分からないのに面白い
 いや、訳が分からないから面白いのか?

 そもそもの発想が秀逸ですし、
 ところどころに散りばめられた小ネタにもセンスを感じます。
 骨のある心臓ってなんだよと呟いたのは私だけではないはずです。

 楽しく読ませていただきました。
 次回作期待しております。

小瓶のふたさんの意見 +30点

 初めまして、こんばんわ。小瓶のふた、と申します。
 拝読しましたので、感想残していきます。

 なお、何言ってんだ、コイツと思われる部分がありましたら、華麗にスルーお願いします><

 では。

 発想が面白く、圧倒的な勢いのなかにも細部へのこだわりを感じる良作でした。個人的に、20点かなあとも思ったのですが、さっさと高得点所イッテコイ、ということで30点置いていきます。

 ところで、べた褒めの割には、点数評価が低いな、オイ、と思ったかもしれません。が、もちろん、理由があります。
細部へのこだわりはあるのですが、ところどころ、雑だと感じる部分もあったのです。勢い重視の作品なので、ムラがあるのは全然構わないですし、トンデモ設定どんとこい、なのですが、違和感のある熟語や歴史名言の用法?であったり、トンデモ設定とは別の不合理な設定であったりが、目についてしまったので。。

 前者に関しては、もしかすると、頭でっかちの心臓の知ったかぶりを表現するために敢えて誤用しているのかもしれないのですが、それならその由をわかりやすく描写しておいて欲しかったですし、そうでないなら、片手では足りないくらい、アレ?って思う表現があったような気さえします。ちゃんと数えていないのですが汗
 医学知識については全然わからないのですが、逆にここにも悪影響を及ぼして、適当なのかな?と思ってしまいます。。

 後者に関しては、主に二ヵ所。
 まずは、宗田団三が団塊世代の万年係長サラリーマンだというところです。自分は、この主人公を見ていて、戦後の混沌とした時代を生き抜き、権謀術数を駆使して成功を収めた資産家、のような印象がありました。最後の辺りでも、イチ係長にこんなのできるの?みたいなところが重要な部分でありましたし。
 ラストに近づくにつれて、違和感が膨らんでいきました。

 もうひとつ、不合理な設定というよりは、大きな見落としかなあと思う箇所がありました。ドナーカードを持っていた、というところまでは、ご都合主義ですが、大目に見れるとして、なら逆に、ドナーカードを捨てるだけで、心臓は移殖先を失うわけです。
 確か、どこかで電話を掛けているシーンがあって、これが後々のトンデモ手術の伏線にもなっているのだと思いますが、少なくともその時点ではドナーカードを捨てると脅す、という選択肢にも思いが至るはずです。
 電気ショックでの戦闘は、華があって見栄えがいいというのはわかるのですが、そこに持っていくまでにかなりの無理をして、言い訳のような説明もあって、ちょっと苦しかったです。
 もし、私がこの作品を書いていて、そういう状況になれば、力づくでゴリ押しはせず、別の筋道をさぐるか、この作品自体放棄してしまうかもしれません。
 もちろん、ゴリ押しも、この作品なら不可ではないと思いますが、あまり誉められたものでもないのかなあ、という気もします。ゴリ押しのために、読者に伝わりにくい医学の知識で理論武装している感も否めませんし。。
 なので、個人的には、その部分をマイナスに評価しました。
 逆に、その違和感さえも吹っ飛ばすほどの破壊力があれば、それはそれで、プラスの評価になるのかもしれませんが。

 ごちゃごちゃとあれこれ語ってしまいましたので、この辺で退散します><
 駄文失礼しました。それでは。

こんてさんの意見 +50点

 論理バトルで戦って、心臓が勝利した辺りの場面まではマジ面白すぎて声上げて笑ってました。何これ最高すぐるwwwでした。

 後半が、理想とはちょっと違ったのが残念です。
 ちょっと語りすぎたような……とっても贅沢な願望ですが。
 ◯◯◯かあああ。くっそおおおお。そうオチるんですかああ。
 ……でもでも、全体としてはすっごく面白かったです!!
 面白すぎて全然分析できませんでした……。
 感想、内容なくてすみませんw

 これで挿絵がついてたら絶対買っちゃいますよ!
 他の臓器で肝臓とか腎臓とかのも読みたいです!
 シリーズ化しないんですか?(´・ω・`)
 速攻で保存したので、ニヤニヤしないできちんと分析出来るまで寝かせますw

 蛇足です。この漢、城山三郎先生の描く団塊世代を彷彿としました。
 城山先生大好きなのでその辺の漢らしさがきちんと描かれていたことも個人的にツボですw
 係長の器じゃないでしょう。
 バブル時の大手商社や物産規模のパイプラインに関わる案件とか乗り越えてきた感じですよ。

 とにかくもお、今日はすっっっっごく得した気分です。
 オチで40つけようと思ったけど、やっぱり着眼点と二人の心理的やり取りが面白すぎるので。
 執筆お疲れ様でした!!!( ´∀`)

タカテンさんの意見 +20点

 はじめまして。タカテンと申します。
 拝読いたしましたので、感想を送らせていただきます。

 ヤられました。
 こう来たか、と正直脱帽です。
 自分は恥ずかしくも痛風を患っているので、数年おきにたまーに血液中の尿酸とバトルを繰り広げるのですが、早々にノックダウン。どうかどうか怒りを収めください尿酸様と頭を下げるばかりです。団三みたいになりてぇなぁ、ちくしょうめw

 で、バカバカしくもワクワクしながら読ませていただいたのですが、幾つか気になった所があります。
 まずは他の方も挙げられておられますが、団三が万年係長の割りにはオーラが尋常ではないこと。
 こんなに器が大きいと係長だと逆に違和感があります。
 もっとひ弱だったら納得なのですが。

 もうひとつは心停止でドナーに移植とあるのですが、結局団三の体にあるわけですから移植ではなく、単なる蘇生なのではないの?と。
 それとも一度取り出されてから、また同じ体に移植されたのか?
 でも、そんな事ってあるの?と疑問に思いました。
 いやぁ、こんな事を真面目に考えてどうするんだと我ながら思うのですけどねw
 ただ、ここはそれまで優勢に進めていた心臓に団三が反撃開始するシーンですし、出来る限り分かりやすい方がいいと思うんですよね。
 バカバカしくても、もう少し説明が欲しいかなと思いました。

 あとは自ら胸を開き心臓と団三が対面するシーン。
 このあたりもバカバカしくも熱くて大好きなんですけど、ひと睨みされただけで意気消沈するなんて、なんてチキンハートなんだっ!と少し物足りなさも感じました。
 まだなんだかんだで体への支配力はあるのですから、もう少し粘って欲しかったですね。
 そこへ医者が駆け付け「何をやっているんですか、宗田さん!? 代わりの心臓がもうすぐ用意できますから、それまで安静にしていてください」とか言ってね。
 青ざめる(?)心臓に団三がニヤリと笑い、強引に引き千切って悲鳴をあげる心臓を握りつぶすなんて展開は、昔、自ら心臓を取り出して悪魔に生まれ変わるみたいな漫画を読んだ様な気がするオバかな奴の妄想と笑ってやってくださいw
 駄妄想、申し訳ありません。

 オリジナリティに加えて勢いもあり、面白かったのですが、それ故に気になるところ、物足りない所も個人的には強く感じられたので記させていただきます。
 それでは失礼いたします。
 次回作も楽しみに待たせていただきますね。

datdatさんの意見 +40点

 拝読させていただきました。
 中間テスト中のdatdatです。

 やだ、なにこれ……面白い(笑)
 まず発想が素晴らしく、主人公もオジサマという――個人的にとても好みで、楽しく読ませていただきました。
 文体もとても読みやすいもので、スラスラと読めました。

 心臓のキャラ、とても好きです(笑)

 稚拙な感想はこれぐらいで私は失礼させていただきます。
 次回作も楽しみに待っております。
 それでは創作活動頑張ってください!

ivalueさんの意見 +30点

 初めまして。
 作品拝読させていただきました。

 面白かったです。
 会話のテンポが良く、読ませる文章だなと思いました。
 ぜひ見習いたいです。

 どうオチをつけるのかとワクワクしていましたが、
 最後の病院でのシーンはちょっと無理があったかなと思います。
 というか心臓かわいそう(^^;

 良い作品だと思います。ありがとうございました。
 次回作もきたいします。

汁茶さんの意見 +20点

 こんにちは。汁茶と申します。

 とても強引ですね(笑)
 まるで心臓の反乱を予期していたがごとく、
 どうしてそんな備えをしているんだ?とつっこみたくなりました。
 こんなに用意周到なのに係長どまりなんだ。団塊の企業戦士ってハイレベル。
 こんなに用心深いのに体を労わらない。
 すごいご都合主義だわ、これ(笑)
 でも勢いあります。有無を言わせず、疑問を感じさせる間を与えない熱い展開です。
 どこかの漫画で肋骨の下から自分の手を差し入れて直接心臓マッサージしてたのがあったような?
 それを彷彿とさせてくれました。直接、心臓と対面。
 ところで団三から支配権奪っても心臓さんは他の臓器を従わせることができるのでしょうか?
 肺が反乱起こしたりしないですかね?酸素とめたりして。

 それでは失礼させていただきます。

Bossさんの意見 +50点

 久しぶりに面白い作品に出会いました。
 巧みな文章でスラスラと読めて、尚且つ我が身の所有権を賭けて心臓と殺し合いをするところは奇抜な発想ですね!
 自分は草食系なんで臓器が反乱起こすことは無いと思います(笑)