ライトノベル作法研究所
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  4. マルドゥック・ヴェロシティ公開日:2013/03/01

マルドゥック・ヴェロシティ

ジャンル:SF
著者:冲方 丁
出版社:ハヤカワ文庫JA
発行年月:2006年11月

西井 勇平さん一押し!(男性)

■ 解説

 戦地において友軍への誤爆という罪を犯した男――ディムズデイル=ボイルド。
 肉体改造のため軍研究所に収容された彼は、約束の地への墜落のビジョンに苛まれていた。
 そんなボイルドを救済したのは、知能を持つ万能兵器にして、無垢の良心たるネズミ・ウフコックだった。
 だが、やがて戦争は終結、彼らを“廃棄"するための部隊が研究所に迫っていた……
 『マルドゥック・スクランブル』以前を描く、虚無と良心の訣別の物語。

■ 西井 勇平さんの書評2013/02/28

 『マルドゥック・スクランブル』前日談になります。
 『マルドゥック・スクランブル』で好敵手として登場した『ボイルド』が主人公です。
 彼は一体どんなことがあって、相棒から離れ、虚無を抱いて堕ちていったのか?
 そんな彼の身に起こった過去の出来事を淡々と、しかし、丁寧に描かれています。

 傑作。
 全三巻を読み終えて、その単語が私の頭の中に思い浮かびました。

 あとがきにも書いているのですが、この小説を書いた筆者曰く、執筆中は極限状態まで堕ち、挙句の果てにはノートパソコンだけ持って、どこかを彷徨いながら執筆したそうです。

 そのせいで周囲から行方不明者扱いに。作者が行方不明ということで出版会社はパニック状態になったらしく、周囲に迷惑をかけてまでこの作品を書いたそうです。そこまでして書いた小説が面白くないわけがない。面白いです。
 物語を読めば読むほど引き込まれていきます。
 個性ある登場人物、さまざまな能力、大きな事件、伏線……どれをとっても納得のいく形です。思わず「えぇ!?」と叫びたくなるようなシーンがたくさんありますが、なにより一番すごいと思ったのが敵キャラ。

 「お前らのような敵がいてたまるか!」とマジレスしたくなるぐらい過激です。

 小説で敵キャラをうまく書けないと嘆く人には大変参考になると私は思います。どんな敵キャラなのかはここではあえて語りません。読んでからのお楽しみ。 

 この作品は新装版が発売されており(スクランブルの方もそうですが)、結構大幅に修正されています。つまり何が言いたいかというと、before版とafter版があります。
 「あっ、ここの文章、新装版だと消えてる。代わりにここに補足の文章が付け加えてるな」とか作者自身の添削が見られると思うので、作家志望の方にはある程度参考になるかと思います。

お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?

 ウフコック。
 マルドゥック・スクランブルではしっかり者という印象ですが、ヴェロシティではまだ少し幼い部分があり、天然で可愛 いです。戦闘ではボイルドと良い連携を見せてくれます。ウフコック可愛いよウフコック。

この作品の欠点、残念なところはどこですか?

・登場人物がメチャクチャ多いです。あれこいつ誰だっけ?と混乱する人も出てくると思います。
・この小説はスラッシュ文体が多く活用されています。
 このスラッシュ文体によって、『マルドゥック・ヴェロシティ』の世界観が表現できるのですが……。読者全員がこの文体を受け入れられるかわからないです。
 スラッシュ文体って何だよ? って思っている人のために、本作品から一部抜粋すると。

 鼻筋/目蓋の形/頭の形状/髪の色・長さ――全てがテレビに映っているレポーターの顔そっくりに変貌。

 開け放たれた倉庫の扉――中から銃声/怒号/罵声――そして悲鳴。
マルドゥック・ヴェロシティ1[新装版]より抜粋

 /(スラッシュ)以外にも+(プラス)、――(ダッシュ)、=(イコール)など多くの記号が頻繁に使われています。こんな感じの文章が作品の八割ぐらい占めています。人によっては「読みづらい」と批評する人もいると思います。

・かなり過激な性描写と暴力描写がこの作品には描かれています。……もう色々過激すぎです。
 虚無と良心の訣別の物語と紹介されているとはいえ、容赦ない描写です。そういうのはNG!という方はやめといた方がいいです。

・あと、おすすめしといてなんですが、先に『マルドゥック・スクランブル』を読んでから、この作品に手を出した方がいいと思います。その方がよりこの作品を楽しめます。

・この小説は一巻完結ではなく、三巻で完結です。まとめ買いしたほうがいいと思います。

 ちょっと長く語りすぎたので、要点をまとめると。

・登場人物がかなり多い。
・この作品は記号(/ + = ――など)を頻繁に使うスラッシュ文体を活用しているため、受け入れられない場合も。
・性、暴力などの過激でグロテスクな描写がたくさん出てくる。
・マルドゥック・スクランブルを読んでいた方がより世界観をイメージできる。
・あくまで物語は三巻で構成されている。まとめ買いがおすすめ。

 以上です。

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