第5研究室 アニメ化小説研究室 | | トップへ戻る | |
なぜこの小説は人気があるのか?
ネタバレ注意! このレビューにはネタバレが含まれています。 撲殺天使ドクロちゃん
中学生の草壁桜の元に押し掛けてきて居候するという、押し掛け女房型のラブコメです。 不思議な美少女がある日突然やってきて一つ屋根の下で暮らすことになるという、 まさに男の夢を具現化した、くそぉおおっ俺と代われ! と言いたくなるようなこの展開は、 王道としていろんな創作物で使われていますね。 ドクロちゃんはこういった王道をベースにしながらも、そこから巧みに逸脱し、 王道の持つメリットを享受しながら、その弊害を排除するというアクロバットを、 絶妙なバランス感覚で行っています。 王道とは、数多くの創作者によって踏襲され研鑽され効率化した物語の黄金パターンです。 確実に一定数の読者から支持されることがわかっているので、安心して使えます。 だたし、王道には「退屈」という弊害があるのです。 どこかで見たありきたりな展開であるため意外性が薄く、王道のみで構成された作品は、 他作品と大同小異の退屈極まりないモノになってしまいます。 そこで王道をベースにしつつ、 王道から外れた意外性のある展開を巧みに織り交ぜていかねばならないのですね。 それを実に上手く行っているのがドクロちゃんの冒頭シーンです。 若い男女が一緒の家で暮らすとなれば、避けられないのが、 ちょっとエッチなドキドキハプニング……(これが醍醐味) この物語の冒頭は、桜くんがノックをしないで部屋のふすまを開けたら、 ドクロちゃんが素敵な部分がばっちり見えるアングルで着替えをしていたところからスタートします。 ここまではバリバリの王道路線なのですが、 なんと悲鳴を上げるドクロちゃんは棘突きバット『エスカリボルグ』で、桜くんを撲殺してしまうのです。 そして、 ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪ という、謎の擬音と共に桜くんの身体を修復し、生きかえらせてしまいます。 まさに救いなし、容赦なし、逃げ場なしの不条理展開。 小説は冒頭が一番肝心と、第一研究室でも紹介していますが、 見事にこの作品を象徴するインパクト大のシーンから始まっていますね。 このシーンをもっと詳しく分析してみましょう。ラブコメでは、 1・主人公がヒロインに不可抗力でエッチなことをする(具体例・着替え覗き 胸タッチ)。 ↓ 2・ヒロインが怒って主人公を叩いたり、罵ったりする。 という流れが順当にウケを取れるコメディとして存在します。 ドクロちゃんは、この王道を踏まえつつ、そこから逸脱するために、 ヒロインの攻撃を極限にまで過激化しているのです。 物語をおもしろくする秘訣として、なにかを過激にすることが上げられます。 日常では体験できない過激なことこそ、非日常のスパイスだからです。 ライトノベルや漫画などでは、信じられないほど大金持ちのお嬢様や、 あらゆる技能技術を備えたパーフェクト執事、ありえない強さを誇る超人などが出てきます。 これら過激な設定は、すべて物語をおもしろくするためのスパイスです。 さらに付け加えるなら、今までのラブコメで、 主人公を撲殺して生きかえらせるなどいう倫理無視のバイオレンスヒロインはおりませんでした。 まだ誰も踏み込んだことのない未開の地を開拓したところに、 ドクロちゃんの真価があります。
ドクロちゃんをはじめとする破天荒な仲間たちが巻き起こす、 刺激に溢れたバイオレンスでぬるい日々…… そこには理想とも思える破綻のない共同体が描かれています。 誰かが誰かを激しく憎悪したり、集団から排除しようとしたりしない、 どんなに迷惑で救いのない奴でも、仲間として容認してくれる雰囲気があります。 第一巻のラストは、ドクロちゃんが未来に帰ってしまうという話なのですが、 桜くんは、どんなに迷惑でもドクロちゃんがいなくなってしまうのは寂しいという理由で、 彼女を引き留めようとします。 嫌な奴を世界から排除すれば、果たしてそこは理想郷となるのか? 一度でも気心を許してしまった相手は、例えどんなに迷惑でもいなくなってしまうのは寂しい。 だから一緒にいたい、というのには愛を感じますね。 ただ、ちょっとでも感動できるのはここくらいで、 全体を通して貫かれるテーマや目的というのはありません。 一応、目的らしきものはあるのですが、それはあくまでドクロちゃんをはじめとする天使を、 この世界に来させるために口実でしかありません。 微エロな展開、性を題材にした下ネタギャグなどが多く、良くも悪くも男性向けです。 いちおう、桜くんとドクロちゃん、静希ちゃんの三角関係など、純粋な恋愛要素もあるのですが、 全体的にエロに傾倒しています。 でも、これがおそらく高人気を呼んだ原因ではないかと考えています。 ここまで露骨な萌えや微エロに傾倒したライトノベルって、実は案外少ないのですね。 ドクロちゃん以外に上げてみろと言われると、あまり浮かびません。 それは嫌悪感を覚える読者が多いので、 ここまで思いきったことをした作者があまりいなかったからだと思います。 そういった意味でも作者のおかゆ まさき氏は、評価に値すると思います。
とにかく男性向け的萌え属性に溢れた美少女キャラばかりが登場します。 一言で表すならば…… 「ロリッ娘天国です」 どど〜〜ん!! 主要キャラである、ドクロちゃん、サバトちゃん、ザクロちゃんは、みんな属性がロリータです。 主人公の桜くんにいたっては、数十年後の未来の世界で、 ロリコンワールドを作るために女性の年齢を止めてしまう不老不死の薬を開発し、 危険人物として天界にマークさています。 すごいですね。桜くんは、ある意味英雄です(皮肉ではありません)。 「英雄は見方を変えれば大悪人」というのは本当なのだと、しみじみ思います。 未来の桜くんのガッツに乾杯! さて、主人公の設定のぶっとび具合も唖然ですが、ここで驚いてはいけません。 ドクロちゃんのキャラクター設定は、もはや誰も追いつけないほどにぶっとんでいます。 ドクロちゃんは、ロリロリフェイスでナイスバディの天使で、1人称はボク。 その声はロリコンオヤジが泣いて喜ぶようなロリータボイスだそうです(ぜひ、聞きたい)。 未来の世界から、ある日突然、机の引き出しを開いてやってきて強引に桜くんの家に居候。 寝るのは桜くんの部屋の押入の中、そして好物はどらやきだと公言してはばかりません。 背中には、昇り竜と『死ぬまで天使』の刺青。 天使のわっかは、日本刀の切れ味を誇り、もしこのわっかが頭の上から外れると、 なぜかドクロちゃんは、激しい腹痛を起こして下痢になってしまいます。 すべてがご都合主義と、不条理によって作られた存在、通称アホ天使。 リアリティ? それはどこの世界の言葉だい? と言わんばかりのぶっ飛んだ個性を持っています。 このような個性の味付けに対して、否定的な方もいらっしゃるでしょうが、 創作の世界では、すでにあらゆる個性のキャラが出尽くしており、 いかに他作品のキャラとの差別化を計るかが難しいところなのです。 下手にキャラが被ると、これは○○のパクリだ、などと批判されることさえあります。 そこへ行くと、ドクロちゃんの個性はひときわ異彩を放っています。 キャラクターはパーツ(属性)の組み合わせによって作ることができるという、 キャラクター創作法の極地から生まれたキャラとも言えます。
良くも悪くもライトノベルの一つの極です。 この作品を読んで不快感を催す人も当然いるでしょう。 かくいう私も、最初は、なんじゃこりゃと思いました。 あまりに砕けすぎた文章は、( ゚д゚)ポカーンと思考停止に陥るほどの破壊力を持っています。 『はいはいはいはいはい!』「はい、松本!」「ドクロちゃんの今日の下着の色は何ですか!」 ドカボコバキグボ!!(松本が女子生徒に殴られる音) 「(ぽつりと恥ずかしげに)黒……(ドクロちゃん)」 『うおおおおお!!(男子生徒一同)』 ドカボコバキグボ!!(僕が男子生徒に殴られる音) 「痛い痛い痛い痛い!(僕)」 「ウキー!(お猿になった松永君)」 <撲殺天使ドクロちゃん 第1巻から引用> この文章をOKだと思えるか否かで、ドクロちゃんの評価はまずわかれるでしょうね(汗)。 ご覧のようにノリとテンポは良いのですが、擬音連発、改行しまくり会話文だらけの文章と、 一見すると作者の文章力を疑ってしまうような文体です。 まさに『ライトノベル』と世間一般の人が聞いて思い浮かべるであろう、 ジャンクフード的な文章そのままです。 食べやすいが歯ごたえが無く、とにかく軽くて浮ついています。 もちろん、作者のおかゆ まさき氏はテンポやノリ、読みやすさという要素を追求した結果、 このような文体を選んだのでしょう。プロだけであって、潜在的な文章力の高さが端々に窺えます。 実際に、ユーモアに富んだうまいと思える表現や言い回しもあります。 例えば、こちらなどはかなり笑えました。 「桜くん、私ね、小さいころからずっと桜くんのこと想っていたの……」 僕はその静希ちゃんの瞳の中に、確かに流れ星を見ました。炉心は融解メルトダウン。 「私、またあの頃みたいに桜くんと二人っきりでお医者さん、ごっこしたいな……」 途端に四十二度を振り切る体温、タンパク質は煮えちゃいます。 ヤミ医者様でも、草津の湯でも、メスも鉗子もいりません。 聴診器なんかなくなって、二人の鼓動は十六ビート、 「先生、診てください、私、こんなに鼓動が早いの。病気ですか?」 「心配ない、それは“恋”という名の病なのよさ。 それでは横になりなさい、素手でのオペを開始する──」 <撲殺天使ドクロちゃん 第2巻から引用> 撲殺天使ドクロちゃんはライトノベルの1つの極であり、革命者だと思います。 ライトノベルは、10代の中高生を対象とした口当たりの良い漫画ティストの小説として生まれました。 それまでの文学作品は、少年少女を楽しませるには堅くて退屈だったわけです。 こういったザブカルチャーの創造は文学の歴史の中でもたびたび起こってきました。 例えば有名な童話作家のアンデルセンは、 難解なラテン語で書かれていた知的階級の文化だった小説を、大衆向けの口語口調で描き、 文学の新しいジャンルを開拓しました。 しかし、インテリ層からの評判は当時すこぶる悪く、相当バッシングされたようです。 撲殺天使ドクロちゃんの作者おかゆ まさき氏は、まさに現代のアンデルセンといったら、 ヨイショしすぎでしょうが、それに近い挑戦をしていると言えます。 ただし、この革命が誰にも好意的に受け止められるとは限りません。 かくいう私もこの作品の文章だけは受け入れられませんでした(汗)。 いくら読みやすいといっても基本を無視しすぎで、逆に読むのが苦痛になる箇所もあります。
男性向けの萌えをトコトン意識しています。 イラストはロリロリなドクロちゃんの魅力を余すところ無く伝えており、 もうこれだけでもごちそうさまと言いたくなるようなクオリティの高さです。 特に、桜の幼なじみの静希ちゃんが、ツインテールというところがポイント高し! 一巻のカラーページの静希ちゃんイラストには、パンチで殴られたような破壊力があり、 ブッと鼻血が出そうになりました。 静希ちゃんが脱衣所で制服を脱いでいるイラストや、ドクロちゃんがスカートめくり上げている絵、 ドクロちゃんの妹のザクロちゃんが上半身裸になっているイラストなど、 サービスカットが多すぎで、これをうれしいと評価するか、 け、けしからん! と評価しながら、食い入るように見つめるか、 自分の中でも評価が分かれるところです。 また、各章の間には、漫画やキャラ対談なども入っており、 ストーリーよりキャラクターを全面に押し出した、まさにキャラクター小説と言えるでしょう。
一巻のラストにしても、物語の締めとして、感動話を取って付けたような印象があります。 文章もとにかく砕けすぎており、読みやすい反面、歯ごたえがなくてスカスカした感じです。 それ故、読み終わった後に、何かこの作品を通して自分が成長したような満足感を得ることは、 まずできません。 単に、ああっ、おもしろかった。で終わるのではなく、登場人物の行動からなにかを学んだり、 勇気ややさしさを分けてもらうことができる作品が、個人的に名作だと思っています。 ドクロちゃんは、ギャグに特化した内容なので、そういったことを期待しても無駄です。 男性向けの萌えと、不条理ギャグのみをトコトン追求した作品であり、 このノリについていけなければ、まさに地雷としか言いようがありません。 ギャグでやるにしても、桜くんを殺して生きかえらせるなど、 命という物を粗末に扱いすぎており、なにか薄ら寒く感じる部分もあります。 また、この作品を表面的にマネした小説を作ることはオススメできません。 ドクロちゃんは、一見、妄想垂れ流しのメチャクチャな作品に見えるかもしれませんが、 その実、かなり王道的なところを踏まえており、文章に関してもそれなりの効果を狙って、 意図的に崩しています。 『型を知ってから型を破るから型破りなのだ』を体現している作品です。 この文章、この内容は、おかゆ まさき氏だから破綻することなくまとめられているのであって、 安易にマネすると火傷するだけの結果に終わるでしょう。 ▲目次に戻る ▲トップページへ戻る |
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