第5研究室 アニメ化小説研究室 なぜこの小説は人気があるのか? | トップへ戻る |
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アニメ化小説研究室 目次

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 ライトノベルはアニメ界の救世主と呼ばれています。
 1990年代のころから、「スレイヤーズ」「魔術師オーフォエン」「ロードス島戦記」といった、
 超有名作品がアニメ化されてきました。
 アニメ化といえば、これまでは漫画が原作の作品が主流でしたが、
 2000年に入ってからは、ライトノベル原作アニメが着実に本数を伸ばしています。
 
ここでは、アニメ化された作品にスポットを当て、
 なぜアニメ化されるほど人気があるのか、勝手に書評します。


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ゼロの使い魔

   
 「あんた誰?」―才人が目を覚ますと、愛い女の子が才人を覗きこんでいた。
 見回すとあたりは見知らぬ場所で、
 魔法使いみたいな格好をしたやつらが、才人と女の子を取り囲んでいた。
 その女の子・ルイズが才人を使い魔として別の世界へ「召喚」したらしい。
 訳がわからず面くらう才人に、ルイズは契約だと言って、
 いきなりキスしてきた。俺のファーストキス!と怒る間もなく、
 手の甲にヘンな文字が浮かび、才人は使い魔にされてしまう。
 仕方なく、ルイズとともに暮らしながら、
 元の世界に戻る方法を探すことにした才人だが……。

■ 作品の書評                            

 第一巻を読んだ感想は、「ハリーポッターみたい」。
 なにしろ魔法使いを養成する学校を舞台にした、ファンタジーラブコメディです。
 類似作品を探せば、それこそプロ・アマ問わず、大量に見つかるであろう王道的世界観の作品。
 
 一巻の冒頭シーンでは、異世界から召喚された主人公の才人が、
 魔法使いの少女ルイズと使い魔の主従契約を結ぶために、彼女にキスされてしまうという、
 なんともうらやましい男のロマン一直線な展開が用意されています!

 なんて書くと、なんてご都合主義な萌え展開などと、
 顔をしかめられる方もいらっしゃるでしょうけど、
 商業作品の冒頭としては評価されてしかるべきではないでしょうか?
 なぜなら、しょせん男は、美少女に強引にキスされてしまうというシュチュエーションに、
 燃えるのであります。はうはうっ。

 一番美味しい料理を一番最初に出すというのは、物語に読者を引き込む鉄則です。 

 しかも、これによって、この作品はラブコメですよ、という見事な方向性を打ち出しています。
 さてさて、まさに夢の異世界へと降り立った才人は、
 ルイズの使い魔ということで、彼女と一緒の部屋で寝起きする羽目になります。
 貴族であるルイズは最初、才人のことを人間扱いせず、男性としてまったく意識していません。
 そのため、彼の目の前で、平気のへっちゃらで着替えをし、
 あまつさえ彼に着替えを手伝わせたり、下着の洗濯をさせたりします。
 ああっ、才人がうらやましいぜ、コンチクショー! 俺と代われ! という感じですが、
 彼はその代わりほとんど奴隷扱いで、雑用をすべて押しつけらる上、
 食事も満足にさせてもらえません。
 この世界では、平民は貴族に絶対服従の存在で、才人は平民な上に、
 魔法使いに仕える使い魔なのです。哀れ……
 
 しかし、そんな逆境にもめげず、ルイズにとんでもないイタズラをして逆襲したり、
 傲慢な貴族たちに敢然と立ち向かう才人の姿は、なかなかに男らしく、かつ笑えます。


 もちろん、ご主人様にそんな横暴が許されるはずもなく、
 二巻になるとルイズの才人に対する扱いが、さらにひどくエスカレートし、
 犬呼ばわりされた上に、鞭で打たれてしまう始末。
 
 ルイズは、転がった才人の背中に足をのっけて、冷たく言い放った。
「誰があんたに人間の言葉を許したの? 『わん』でしょ。犬』
「わ、わんです。はい」
 <ゼロの使い魔2巻より引用>

 まさに女王様! 才人はルイズ様に仕える卑しい奴隷にすぎないのです。
 もちろん、彼らはSMプレイをやっているわけではありません。
 実際の歴史上でも、貴族と平民には、これくらいの格差があったのです。
 ゼロの使い魔は、貴族と平民の間にある身分の壁と、そこから発生するすさまじい暴力的差別を、
 ギャグというオブラートに包んで表現することによって、間接的に批判しているのです(たぶん)。

 人間は人間にとって、最大の敵である。
 抑圧、不正、軽蔑、侮辱、暴力、暴動、戦争、中傷、反逆、背信、
 こういったもので人間は互いに苦しめあっているのだ。

 <デイヴィッド・ヒューム 1711〜76 イギリスの哲学者>

 ゼロの使い魔に出てくる階級差別を目の当たりにしたとき、
 やっぱり差別はよろしくない、現代に生まれてよかったなぁ〜、と思うのです。
 ゼロの使い魔は、SM推奨本などではなく、教育上大変好ましい書物であります(おそらく)。

 なんて言うと、ルイズがまるで鬼女のように思えてしまうかもしれませんが、
 もちろん、彼女は本気で才人を虐待している訳ではありません。
 また、いつでも、このような虐待を行っているわけではありまません。

 それどころか、ルイズは史上最強のツンデレヒロインです。

 お約束な展開ですが、彼女はだんたん才人のことを好きになっていき、
 盛大なヤキモチを焼いて、彼に常軌を逸した八つ当たりをするのです。
 それが上記の犬扱いというわけです。 
 ルイズの異常な攻撃性は、好意の裏返しなのです!
 
 あんたなんて大嫌い! と叫び才人に虐待を加える彼女は、行動と本音の不一致のために、
 常に罪悪感に悩み、才人に嫌われることを恐れて不安になりながらも、
 貴族としての誇り高い体面を保とうとします。
 おおっ、なんと、かわいいのでしょうルイズ! 素直じゃなくてはた迷惑、だがそこがイイ!

 まさしく、ここには血肉を持った人間の少女が描かれているのです。
 キャラクターに命を吹き込むことは、アマチュアにとって難題ではありますが、さすがはプロ! 


 才人は主人公のためか、登場する女性キャラにことごとく好かれます。
 ルイズだけでなく、ルイズのライバルであるキュルケに好かれ、メイドのシエスタに好かれ、
 王女アンリエッタに好かれ、とモテモテです。
 しかも、キュルケには毎回強引に迫れるし、シエスタとは一緒にお風呂に入るし、
 アンリエッタとは、成り行き上キスする羽目になるしと、うらやましすぎです。
 そして、そのたびにルイズの嫉妬の炎が炸裂し、才人はひどい折檻を受けるわけです。
 が、才人はルイズが怒るのは単に使い魔に対する独占欲だと思っているため、
 まさかルイズが自分のことを好きだとは夢にも思いません。
  
 こういう過激なやり取りと、すれ違いが、この作品の醍醐味ですね。
 お互い相思相愛にも関わらず、相手の好意に気づかないで、
 ささいなことを自分勝手に悪く解釈して喧嘩してしまうのですね。まさに王道的ラブコメです。

 また、これは背中が痒くなるくらないな純愛ストーリーでもあります。
 才人は、よくあるハーレム系小説の主人公のような、
 「ボクは女の子たちみんなが好きなんだ、誰が一番なんて決められないよ」
 みたいな優柔不断な軟弱野郎ではなく、恋の対象がぶれたりしません。
 
 才人は出会ったときから、ルイズのことが好きで彼女一筋です。
 
 なので、いくら他の女性から迫れても、ルイズのことを考えて一線を画したつきあいをします。
 危険な冒険をするのも、すべてルイズのためという非常に男らしいヤツです。 
 そこに魅力を感じますね。

 ちなみに、彼の名誉のために言っておくと、決してマゾヒストというわけではありません。
  

■ 作品の見所                            

 学園が舞台のドタバタラブコメの体裁を取っていますが、
 これは大陸全土を巻き込んだ一大戦記でもあります。

 「ゼロの使い魔」ではなく、「ハルケギニア戦記」というタイトルでも違和感の無い内容です。
 ほのぼのした日常シーンと、戦争、謀略、破壊・諜報活動などのシーンが交互にやってきます。
 そのギャップが物語に深みを与えています。
 学園でともにバカをやって遊んでいた?友人たちが、戦争にかり出され、
 兵隊として軍隊の厳しい上下関係や、殺し合いの地獄に放り込まれる展開は壮絶でした。

 また、ヒロインのルイズは、ヴァリエール公爵家という王国の最有力貴族の子女なのですが、
 魔法がからっきし下手で、魔法学院では至上最低の劣等生です。


 教師や同級生からはゼロのルイズと呼ばれてバカにされています。
 魔法を使うと、なぜか、そのこと如くが爆発して失敗してしまうからです。
 そのため劣等感を持ち、みんなに認めてもらいたいという意思を持っています。
 中盤から、伝説の系統『虚無』の使い手であることがわかり、
 ビリからいきなり最強の魔法使いにランクアップか!? と思われたのですが、 
 精神力の総量が低いため、まともに『虚無』の魔法を使いこなすことができません。
 しかも、その力を戦争の切り札として使われることになり、機密保持のため家族や仲間にも、
 虚無の系統に目覚めたことを話すことができず、相変わらずバカにされ続けています。
 同級生が彼女を呼ぶときの「ゼロ」と、軍の幹部が彼女を呼ぶときの「虚無(ゼロ)」が、
 まったく正反対の意味を指しているのが、なんとも深いです。
 ちょっとかわいそうな女の子です。

 また、王女アンリエッタと皇太子ウェルーズの悲恋はまさに、感動の嵐です。
 戦争で引き裂かれる男女とは、古来からの王道ではありますが、
 王道すぎるためか、なかなか題材に扱っている小説はありません。
 それ故か、逆に新鮮な感じで読めました。
 ただ、あれだけ大恋愛の名場面をやった後に、
 アンリエッタが才人と急接近しちゃうのは、どうかと思いましたけどね……

 

■ この作品の欠点、残念なところ                   

 二巻からはおもしろいのですが、一巻の内容は陳腐な王道ファンタジーです。

 一巻はこれといって特色がなく、良くも悪くもない凡作と言えます。
 ゼロの使い魔は、このスタートダッシュの弱さで、かなり損をしていますね。
 友人に勧められて二巻を貸してもらうまでは、
 どうせ続きもたいしたことないだろうと、二巻を立ち読みすらしませんでした。
 三巻くらいまで、まとめて読むことをオススメします。


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