高得点作品掲載所     阿佐ヶ谷ニッキさん 著作  | トップへ戻る | 


ケニー・サルバン・ショウ

 やあ、デイビッド。気分はどうだい? もちろん絶好調とは言い難いかもしれないけれど、みんなもきみのことを知りたがっていると思うんだ。ほら、オーディエンスを見てごらん。誰もがきみに釘付けさ。
 今夜のケニー・サルバン・ショウは特別だからね。ゲストも特別でなきゃつまらない。そう、きみのことだよ、デイビッド。
 テレビはもう、一部の有名人や金持ちの専用舞台じゃなくなったのさ。大衆はどこにでもいる誰かの、リアルなストーリーを求める時代だ。作り物なんかには飽き飽きしている。
 きみのプロフィールはすでに公開済みだ。だからわかりきった内容のインタビュウを繰り返すほど、このケニー・サルバン、落ちぶれちゃあいない。
 早速質問に移ろう。デイビッド、率直に訊くよ。いまのきみの気持ちをストレートに答えてくれ。お母さんへの泣き言やキリストへの罵りだって、きみの言葉なら、皆満足だ。
 ……うん、特に感慨深いものはないときたね。さすがだよ、デイビッド。この大舞台でそこまで落ち着いていられるなんて、大仕事をやってのけただけの器だ。
 これからきみのショウをリアルタイムで全国にお届けするけれど、意気込みはどうだい? おっと、こんな質問は野暮だね。
 それじゃあもっと、とっておきの質問をしよう。
  この国の法律が変わることで、ショウも打ち切りだ。ぼくは残念な気持ちでいっぱいだよ。平和ボケした世の中にパンチをくれてやるのが、ぼくの使命だったか らね。これからの世の中どうなってしまうのか、正直不安でたまらない。いっそのこと大統領のツラにクソを投げつけてやりたいね、ははは。
 そこでだ、デイビッド。きみは今回の法改正について、どう考える? いやいや、そんなに構えなくていい。きみの思うように答えてくれ。
  ……そうか。そうだね、デイビッド。わかるよ、その気持ち。悔しくてしょうがないんだよね。しかしはっきり言おう。それは結局きみの運の無さ故だ。もう少 し立法が早ければ、きみはこんなところに登場しなかった男だ。おっと、気を悪くしないでくれ。なにもきみをけなしているわけじゃあない。それに、最期にぼ くのショウに出られて、きみも本望だろ? どんなスターやアスリートだって出演できないケニー・サルバン・ショウのフィナーレを飾る大役だ。人並みの星の 下に生まれてちゃあ叶わぬ夢だからね。そこは自信を持ってもらいたい。
 今夜のショウの後半は、これまでの番組の歴史を振り返るダイジェストをお 届けすることになっている。もちろんぼくはそんなくだらない構成、大反対したのだけどね。けれどこのショウは、ぼくの持ち物なんかじゃない。だって考えて みて。ぼくがショウのオーナーなら、見飽きたVTRなんか流すものか。
 ああ、デイビッド。きみが思いのほか無口だから、ついついお喋りなぼくばかりが話してしまったよ。
 ステージを見て。ほら、ハイビジョン・カメラが六台できみを狙っている。表情までバッチリさ。ショウは一瞬一瞬が命。気を抜くと大事なところを伝えられないからね。
 さあ、テレビの前のご家族。素敵なケニー・サルバン・ショウも今夜が見納めだ。子供には見せたくないとか、そんな大人の勝手を押し付けたりしないでほしいね。
 デイビッド。そろそろ時間だ。
 ステージの椅子に座ってくれ。
 それじゃあショウの準備をするあいだに、改めてデイビッドの偉業を振り返ってみよう。
  ネブラスカで生まれた彼は空き巣稼業で食を繋いでいたが、そんな彼に転機が訪れたのが十五年前だ。みんなもよく知っている、歴史的な連続殺人事件。うん、 何度見ても凄まじい仕事ぶりだよ。ほら、デイビッド。会場のボルテージも最高潮だ。たった十ヶ月のあいだに、きみは八件の強姦罪と七件の殺人罪を築き上げ た。胸を張っていい結果だよ。
 どうやら用意が整ったみたいだ。
 デイビッド、ファーストクラスの座り心地はどうだい? 手足が縛られて少し苦しいだろうけれど、誰もが座れる席ではないからね。その皮製の留め具だってフェラガモさ。うん、いまのは嘘だ。
 さあ、ショウの時間がやってきたよ、デイビッド。
 この国の刑法がチョコレート・パフェのように甘くなり、死刑がとうとう廃止になってしまう。つまり、きみのような死刑囚が出るのも今夜が最後ってわけだ。実に寂しいよ。
  デイビッド、きょうは会場にお母さんは来ているのかい?……そうか、来ていないんだね。なんて薄情な母親だ。子供の晴れ舞台をフケるなんて、信じられない よ。ぼくだったらそんな母親は殴り殺しているだろうね。おっと、いまのはテレビ用のトークだ。ぼくは至って平和主義者だからね。
 見て。僕の手元に赤いボタンがある。これを押せばきみの身体に電流が流れるという単純な仕組みだ。つくりは簡素だが、電圧調整も細かくできる優れものさ。
  もちろん、いきなり二〇〇〇ボルトなんてお見舞いしないから安心して、デイビッド。だってそれじゃあ一撃で死んでしまってショウにならないだろ? 意識を 失わない程度に少しずつ電圧を上げていくことにするから。大丈夫、ぼくは何度もやっているから腕が上がったんだ。きみが最高のステージを提供してくれる前 に死なせるような失態はやらかさないさ。
 スタッフ。デイビッドが額に汗をかいているよ。きちんと拭いてあげて。身体の表面に水分が溜まっている と、思いのほか通電しかねないからね。間違って気絶させてしまったら、今夜を楽しみに待っていたオーディエンスに申し訳が立たない。ともすれば、ぼくがス テージの真ん中で椅子に座るはめになるじゃないか。
 さて、前置きはお終いだ。
 会場の諸君。テレビの前の物好きなアメリカ国民。
 ケニー・サルバン・ショウ最後のステージをお見逃しなきよう!
 ショウはCMのあと。そのあいだにトイレを済ませておいてくれよ。


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●感想
坂本春三さんの感想
 どうも初めまして
 読ませてもらったので感想を

 話はブラックなテイストでとても面白かったです。
 ショートショートとしては完璧に近かったですね。

 あくまで一意見としてですが、
 空き巣や他の犯罪を もっとプラスの視点から描けるのなら、
 最後までオチが読めないさらに完璧な作品になるのではと思いました。

 とても面白い話でした。

 未熟者の意見ですがよかったら参考にしてくださいm(_ _;)m


ただのすけさんの感想
 こんばんわ、お久しぶりです。ただのすけです。

 拝読させていただきました。
 アメリカンなショウ番組っぽさを十二分に感じさせてくれるナイスなショートショートですね。最後まで飽きることなく楽しめました。
 こういう異国の文化・センスを扱った題材で、こうまで自然に(それっぽく)描き切れる力量にはジェラシーすら感じてしまいます。
 もっとぶっ飛んだ内容にしたらよりおもしろくなったような気も。
 いえ、話が話だけに、多少抑えた表現で正解なのかもしれません。失礼しました。

 次回作も大変期待しています。それでは失礼いたします。


K.Kさんの感想
 ショートショートはこうでなくってはね! 最高です。才能あるんですね。うらやましいです。「世にも奇妙な物語」の原作として採用してもらいたいです。


ツヴァイさんの感想
 拝読しました。

 いや、掌編として、完全な完成度を誇っていたと思います。
 始終押さえ気味な描写だったですが、それを補って有り余る、テンポのよさ。
 いやはや、これは見習わなければ、と思わされました。
 余計な感想は蛇足になるだけなので、この辺で。
 では、良いものを拝見させていただきました。


まつじゅんさんの感想
 はじめまして、感想を書かせていただきます。

 うさんくさいアメリカンテイストの作風が非常に楽しかったです。僕もアメリカは人並みに嫌いですが、アメリカンジョークは大好物です。母親のくだりは素敵でした。
 ただ後半の、ネタバレから終わりまでの展開が非常にゆっくりだったのが、ちょっと残念だったかもです。
 あくまでも個人的にですが、もうちょい死刑囚に対して嗜虐心を駆り立てられる黒いお話になってくれたら最高でした。

 長編のつなぎを書くのは苛々しますよね。僕も書きたい場面は沢山あるのに、そこに至るまでの過程がすごくシンドイです。そのつなぎにこそ、小説書きの奥義があるんじゃないかと我慢しています(-∧-;) 

 これからも頑張って下さい。それぢゅわ。


水草さんの感想
 初めまして、水草と申します。
 なんとも司会者の胸糞悪さがにじみ出ているなあと思いました。ぼくはショートショートはわりと好きで、ブラックジョークはかなり好きで、それでこの作品にも普通に好印象を抱けました。
 オチは途中で読めてしまいましたが、ええと、作者さんのコメントを見てから読んだので、何の先入観もなしに読めばどうだったかはわかりません。
 でも個人的に、ショウという言葉を聞くとどうしても「死のゲーム」とかそういうのを想像してしまいそうです。
作者さんはオチを最後でドンッと落としたかったと仰っていますが、これはこれで、内心ニヤケつつ読めてよかったです。気軽に読めるところがいいですよね、ショートショート。
 「苛々してんねやったら風呂入れ!」祖父の言葉です。幼い頃から刷り込まれたのか、苛々したときはすぐお風呂に直行するようになってしまいました。おかげで酷い時は一日五回、なんてことも(苦笑)
 それでは、次回作、期待しております。


いちふじさんの感想
 いちふじです。
 作品、拝読しました。批評、感想等書かせていただきますね。
 ブラックな作風、いいですよね。実は私も好んで書きます(余談

 掌編という短さ、ケニー・サルバンのハイテンション、明らかにされないゲストの発言、この辺りで「これはブラックに違いない」と予想し、法改正のあたりで確信。それを裏切らないラストで良かったです。
 
 なによりすいすい読めました。テンポがよく。
 さりげなく色々と詰め込まれていて、文章を計算して書かれているのだろうな、と強く感じました。
 掌編としての完成度はかなり高いと思います

 批評なしの感想になってしまいましたが、この辺で失礼します。
 それでは。


一言コメント
 ・ショウの内容を知ったときは凄く驚きました……。
 ・ブラックがきいた、ショートショート。

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