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退屈な日常から抜け出したいと思いながら毎日を過ごすシニカル男子・野々村。
ある日、彼は美人で成績優秀、ゴシップが絶えない謎多きクラスのアイドル・月森葉子のノートを拾う。
そんなアイドルのノートからはみ出した紙切れには彼女のイメージとは程遠い言葉─
「殺しのレシピ」という見出しが書かれていた。
思わず持ち帰ってしまった彼は翌日、月森に探し物がないかと尋ねるが、
彼女からは「いいえ」という返事。そして数日後、彼女の父親が事故死する……。
第16回電撃小説大賞最終選考作、ついに登場。
まず最初に思ったのがこの作品はミステリー色が強いと言う事。
それと恋愛が混ざっているので性別的な差を感じませんし、青春小説の匂いがぷんぷんするので私が大好きな作品として読む事ができました。
なにより取引的な会話が緊張感を醸し出し、終わりに近づくにつれて高ぶっていく感情のコントロールの仕方には新人とは思えません。
(そんな事言えた口ではないですけどね!)
総合的な評価を下したので細かい部分も(ネタバレは含みませんので大丈夫です)。
キャラクターに関しては物語に連動していて、キャラクターの性格が出来事にも関係してくるので非常にうまいと思います。
文章ではライトノベルと言う事もありますが。
器用っぽい感じなので一般小説の方でも活躍できるとは思うのですが。
お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?
私はあまりキャラクターを小説で好きになる事が無いのですが、強いて挙げるのなら刑事の虎南でしょうか。
重くなる場面を解してくれるのがいいですし、唯一ちゃんとした人間が現れるのかと思った矢先にぶっ壊してくれるので好きです。
この作品の欠点、残念なところはどこですか?
欠点は二つ程あります。
一つは宇佐美千鶴との内容が無いので必要ないのではと思った事。
もう一つは少々話が重いと感じる事です。
やはり宇佐美は何らかの伏線として張っておいて欲しかったし、主人公と月森が冷静な会話をしていたせいもあり、丁寧な為、重くなっていってしまった感があります。
いくら綿密に犯罪を画策しようと実行者が人間である以上ミスは付き物、それに警察もバカではない。
そう、現実に完全犯罪など達成できるわけがないのだ。
けれどその計画に確実性が無かったとしたらどうだろうか?
明確な殺意も確固たる計画性も認められない、偶然を利用した殺人計画がたまたま実を結び、事故として警察に処理されてしまったとしたら、それは完全犯罪と呼べるのではないか。
江戸川乱歩が命名した、いわゆる「プロバビリティ(蓋然性)の犯罪」――
それを題材にしたのが間宮夏生先生の「月光」です。
――といかにもガチガチなミステリ小説の紹介みたいな前書きになってしまいましたが、
本書におけるミステリ的要素はあくまで物語を展開する原動力でしかなく、メインはそれを用いることによって描かれる主人公野々宮と月森葉子のルナティック・ラブストーリー(一風変わった恋愛模様)です!!
主人公野々宮がクラスメイトの月森葉子の物と思われるレポート用紙を拾ったところから、物語は始まります。
シニカルな態度を取る裏腹、心のどこかで退屈な日常に変化を求める野々宮は、レポート用紙に書かれた「殺しのレシピ」なる記述に興味を覚え、それを回収します。
「殺しのレシピ」には殺害対象が事故死する可能性を少しだけ高める方法が書かれていたのですが、その他愛無さを覆すかのように、しばらくして月森葉子の父親が「殺しのレシピ」を彷彿させる状況で事故死してしまうのです。
以降、刺激を求める野々宮は殺人者かもしれない月森葉子に興味を覚えますが、彼の向ける疑惑に気づいてか知らずか、当の彼女はどういうわけか恬然と彼に接触を求め始め、しかも交際まで要求して来るのです。
さすがの野々宮もこれには唖然。
とりあえず告白は断るも、月森葉子はそんな彼に構わず接触を繰り返します。
クラスメイトの前であえて親しくしてみたり、彼と同じバイト先にアルバイトし始めたり、大胆なことに家族の居ない真夜中の家に彼を連れ込む始末。――
そんな数々のイベントが繰り広げられるなか、
月森葉子に日常では得られない魅力を感じつつもシニカルに振舞おうとする野々宮と、そんな彼を弄ぶかのように常に彼をリードしていく涼しげな月森葉子との、二人の変わった関係が非常に新鮮で楽しい小説です!
お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?
どのキャラも個性的でかつ魅力的ですが、個人的には語り部である野々宮を一番に推します。
先ほども申し上げましたが、変わらない日常に退屈して刺激を求めるも、シニカルなキャラを徹するあまり素直じゃない態度を取ってしまう、そんな天邪鬼な彼が非常に魅力的です。
ですからヒロインである月森葉子に惹かれる彼のひねくれた心理を追うのも本書の楽しみの一つと言えるでしょう。
この作品の欠点、残念なところはどこですか?
はっきり欠点と呼べる点は無いでしょう。
ミステリ面の追求が弱いとの指摘をたまに聞きますが、私個人はそれは無い物ねだり、恋愛要素がメインな本書にそれを求めるのは筋違いだと思います。
では恋愛小説として本書を見ますと、主人公のキャラクター性をよく表したある種愉快な一人称、主人公とヒロインの関係性の斬新さ、斬新な設定を支える豊かな物語性――
等々、一小説としての完成度はすこぶる高く、一体幾度改稿を重ねたのかは存じませんが、同じ舞台を競った大賞作品「幕末魔法士」に負けず劣らず、いや、「幕末魔法士」が情報の後出しを多用し、続編を意識し過ぎた結末だったことをかんがみますと、少なくとも完成度に限って言えば僕は「月光」の方が上だと思います。
ですがその一方で、間宮先生の「月光」にはライトノベルとしての華が無い、ライトノベルとして売り出す魅力に乏しいようにも感じられました。
間宮先生の「月光」は玄人が生み出した無駄の無い作品という印象が強く、私にはライトノベル的な独創性や派手さ、そして演出があるようには思えませんでした。
ライトノベル的なお約束に頼らず、記号的要素を必要としない手腕は大変すばらしいですが、やはりラノベ読者たる者、一般的な大衆小説よりも「幕末魔法士」のように荒くともスケールの大きいライトノベル然とした小説に惹かれます。
もしかしたら最終選考から洩れた一因にそのような理由があるのかもしれません。