サタンさんとのやりとりで、「地の文で普通に説明してしまう」「分け知りのキャラに語らせる」のセンにまとまりかけているご様子。それでよいなら何の問題もないわけですが。
悩んでいらっしゃるのは、つまりアレでしょうか? (どれだよ)
何かがあることを描写するのは簡単だけど、何かが無いことを描写するのは難しいということですか?
例えばある世界にリンゴがあるということを描くには、リンゴを登場させればすみます。しかし、その世界にリンゴが無いことを描くには、リンゴを登場させなければよいというわけにはいきません。リンゴはどこかに有るのだけれど、たまたま主人公の近くには無いだけかもしれないからです。
で、三人称なのだから地の文で「この世界にはリンゴは無い」と書いてしまってもかまわないし、今は無くても千年前にはリンゴが有ったのなら、希少な書物にはリンゴのことが書かれており、そういう書物を読んだことのある人間に語らせる手もある、と。
というわけですが、それではややつまらないので、もう一捻りしてみましょうか。
千年前にはリンゴは有った。主人公は敵に追われるかなんかで、深い密林に閉ざされた人跡未踏の地に分け入る。そこに、瓦礫となった古い建造物がある。そして赤い木の実を食べている人物の壁画が。
「なんだ、あれは? あんな食い物、見たこと無いぞ」
と言わせれば、この世界にリンゴ(とイチゴ)はないらしいということが伝わりますよね。
御作の設定の場合、無いのは果実ではなく宗教なので、例えば薄衣をまとった女性の石像が崩れかけていて、一方の手に剣、もう一方の手に天秤をかかげた姿に造形されていて、美しい面差しに不思議な威を感じさせる。
とか何とか書けば、読者は女神像を思い浮かべてくれるのではないかと。しかし、主人公にはそれが何なのかわからず、ただ呆然と立ち尽くす。
こんな情景をまず描いておいて、後はストーリーを追いながら情報の断片を小出しにしていきます。古代史マニアの分け知り娘とかに多少トンチンカンなことを言わせてみるとか、敵は何か知っている様子だったり、誰やらの地下室に秘密の手記が隠されていたりしてもいいです。