キャラクターとは一発屋芸人です。
そのキャラを象徴するようなネタを繰り返し何度も行うことによって、読者に自分はこういう個性を持ったキャラであるということを印象づけます。
同じネタを何度も繰り返すと、クドいとか、うざいと思われるのではないか? と不安になるでしょうが、実態としては、繰り返すことによって、キャラを印象づけ、キャラを好きになってもらう効果があります。
例えば、古い芸人ですが、お笑い芸人の小島よしおは、海パン一丁になって、「そんなの関係ねぇ!」と叫びながら拳を振り下ろす一発芸を繰り返した結果、視聴者に強くキャラが印象づけられ、長くテレビに出演することができました。「そんなの関係ねぇ!」は、『ユーキャン新語・流行語大賞2007』トップ10に入賞しています。
ラノベのキャラも、このような一発屋芸人とほぼ同じです。
あれもこれもと大量の持ちネタを持っている必要はなく、最強のワンパターンを作って、飽きないように見せ方を変えて繰り返すのが王道となります。
例えば『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(2008年8月刊行)に登場する赤城 瀬菜(あかぎ せな)は、ボーイズラブをこよなく愛する腐女子です。彼女は、兄にガチホモゲーを買いに行かせたり、ゲーム研究会でホモゲーを作ったり、ゲーム研究会の男子同士が愛し合っているという妄想を膨らませたりして楽しんでします。
作中では、瀬菜の腐女子ぶりが何度も披露され、主人公がこれにツッコミを入れるというお約束ネタが何度も繰り返されます。
また、瀬菜の兄の浩平(こうへい)は、妹を溺愛しており、その溺愛ぶりが繰り返し描かれて主人公からツッコミを入れられるというネタを提供します。
「あのホモゲーは、妹に買ってきて欲しいと頼まれたものなんだ!」
(中略)
「おまえの妹は確かまだ中学生だろうが! どこの世界に! 兄貴にエロゲーを買いに行かせるような妹が―――――――――――――――」
引用『俺の妹がこんなに可愛いわけがない4巻』(2009/8/10刊行)
このシーンは、深夜の秋葉原で浩平がガチホモゲーを買うところに出くわした主人公・京介が、激しくツッコミを入れようとしたところです。
しかし、京介もオタクの妹にエロゲーを買ってくるように頼まれて秋葉原の店に並んでいたので、途中で言葉に詰まっています。
ここでは、極度の腐女子である瀬菜、そんな妹の無茶な頼みを聞いてしまうシスコンの浩平、彼らにツッコミを入れようとして、入れられない京介という三者のキャラクター性が笑いを生み出しています。
一発屋芸人である赤城兄妹の持ちネタは、妹の腐女子ネタと、兄のシスコンぶりです。
(主人公は、彼らのパーソナリティを笑いに転化させるためのツッコミ役を作中で担っている)
また、『とらドラ!』(2006年3月刊行)に登場する女性教師、恋ヶ窪ゆり(こいがくぼ ゆり)は独身の29歳で、婚期を逃しそうになって焦っているというネタを何度も繰り返します。
彼女が登場すると、ほぼ確実と言っていいほど、このネタを振るので、恋ヶ窪先生と言えば、焦っている婚活女子というイメージが形成され、その焦りぶりや必死さがネタになります。
恋ヶ窪先生はメインのストーリーにはほとんど関係してこない脇役です。必然的に出番も少なくなります。
そんな彼女のキャラを立たせるために、結婚に焦っている29歳の独身女性というキャラをネタとして全面に押し出しているのです。
しょうもない話をくりひろげようとしたちょっと頭がお花畑の担任(恋ヶ窪ゆり・独身・29)に逢坂は緊張と苛立ち紛れ、鋭い舌打ちをかましたのだ。ビク、と震えたのは内股の担任(恋ヶ窪ゆり・独身・あと二ヶ月で三十路)は、おそるおそる逢坂を見下ろし、
引用『とらドラ!1巻』(2006/3/25刊行)
これは恋ヶ窪先生の初登場シーンです。
趣味のお菓子作りの話をしようとした矢先に、ヒロインの逢坂大河に不機嫌な舌打ちをされて、傷つきます。
ここでは何度も繰り返して、彼女が独身で29歳であることが強調されています。表現に変化を加えながら繰り返すことが可笑しさに繋がっているのです。
「さあ急げ急げ! こんな状態を恋ヶ窪先生が見たら、ショックでまた婚期が遅れてしまう!」
引用『とらドラ!1巻』 (2006/3/25刊行)
その後、物語の後半で逢坂大河が暴れて教室がメチャメチャになってしまった時、クラス委員の北村が叫んだセリフです。
恋ヶ窪先生の婚活女子というキャラが立ちと、それをネタにしたギャグが生まれた瞬間です。初登場シーンで、29歳の独身であることを繰り返したのは、その場限りのギャグではなく、このネタを作るための伏線でもあった訳です。
続刊でも、恋ヶ窪先生は、結婚に焦っている独身女性ネタを繰り返し続けます。
現実の人間は、多面的な存在で、婚活女子というキャラ以外のパーソナリティも当然、持ち合わせています。例えば、趣味でお菓子作りをしていたり、好きなテレビ番組があったり、友達との交友関係などです。年がら年中、結婚のことを考えていることなどあり得ません。
しかし、あえて、そういった側面を見せずに切り捨てたり、そういった側面をすべて婚活女子としてのキャラに結びつけて語ることによて、ネタ化し、キャラを際立たせます。 これは恋ヶ窪先生が友達に電話をかけた際のやりとりです。
「うそーゆり!? 久しぶりー! え、うそうそ、遊ぼうよ遊ぼうよ! 今週末? あ、それはちょっと無理なんだあ、実は結納なんだよー。そうそう、あの公務員の彼と。いやー、もう腐れ縁だもん、いまさらって感じだけど親がうるさくてさ。そういえばさやか赤ちゃん生まれたんだって! 今度赤ちゃん見に行こうよ! 美穂の結婚式以来あたしら会ってないもんねえ。そういえばゆり、最近どうなの? 前にちょっと有望な年下の子がいるとかいってなかった? ゴールデンウィーク、旅行に誘うって言ったよね。あれどうなったあー? あれ? もしもーし。もーしもーし」……どうなったあ、じゃないんだよ。どうもなってないから言わないんだろうがよ。察せよ……察せよ!
引用『とらドラ!3巻』 (2006/09刊行)
友達がことごとく、恋ヶ窪先生のコンプレックスを刺激するネタを提供し、彼女はそれに対して、心の中で怒りのツッコミを入れています。
友達との関係もすべて、婚活女子としてのキャラを立たせ、これをネタにしたギャグを提供するために活用しているのです。
恋ヶ窪先生は婚活女子ネタを延々と繰り返す一発屋芸人です。
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