１０代のオタク向けに書く
１・１０代の中高生が好む物。彼らの願望や欲求を反映した小説。
２・オタクが好む小説。まんが・アニメ的リアリズム（漫画・アニメの世界を描写すること）。
ライトノベルというジャンルの特徴を挙げると、以上の二点となります。
このどちらか一方の要素を満たしている作品は、完成度が高ければそこそこ売れますが、ベストセラーにはなりません。両方から外れている作品は、カテゴリーエラーなので相手にされません。
ヒットする作品は、この２つの要素を満たした上で、作品独自の強み、他では味わえないオリジナリティを持っているものです。
ライトノベルのメインターゲット層は１０代のオタクです。
２０代以上のオタクは、そこに付随しているターゲットで、メインの顧客ではありません。ヒット作は、まず１０代のメインターゲット層に受けて話題になってから、次の層に浸透していきます。
これを踏まえた上で、売れるライトノベルを書くポイントは以下の二点に集約されます。
・１０代のオタクの好む要素をこれでもか！ と作中に盛り込んで、うまくまとめる。
・彼らが嫌う要素を排除する。
ベストセラーとなっているライトノベルに対して、Ａｍａｚｏｎなどで、「こんなくだらない作品がなぜ売れた？」というレビューが付くことがありますが、これはターゲット層を絞り、彼らが好む作品を書いているためです。
ターゲット層以外の人間には、なにが良いのかさっぱり理解できないことが、珍しくありません。
同じオタクといっても１０代と３０代では、ジェネレーションギャップで好む要素が違ってきますし、オタクでない人間にはオタクが好む物の良さが理解できません。
（ライトノベルは、まんが・アニメ的リアリズムにのっとって書かれており、漫画やアニメのお約束やキャラクターの身体感覚が理解できていないと、読解するのが難しい場面があります）
ケータイ小説がブームになった2000年代半ばには、そのターゲット層であるヤンキー系の少女が好むこれらの作品群がなぜ売れるのか理解できず、一般文芸のみならず、ラノベファンまで、ケータイ小説を低俗で頭のおかしい物として叩きましたが、これと同じです。
ターゲット層を絞ると、そこに近いけれど、若干外れたところにいる人から、叩かれることになります。
問題なのは、時代経過や社会状況の変化によって、ターゲットとなる読者の求める物が変ってくることです。
３０代のオタク男性が、なんの市場調査もせずに自分の好きな物を書いても、１０代のオタクの求める物とは合致しないため売れない、ということになります。
例えば、1990年代のヒット作のラノベ『スレイヤーズ』『ゴクドーくん』『ラグナロク』などは、「異世界を旅する楽しさ」「個人の自由」というテーマが根底にありましたが、2000年代のヒット作『ゼロの使い魔』『とある魔術の禁書目録』『バカとテストと召喚獣』などは、これらの要素が薄くなる、あるいは消えて、「仲間との絆」「ヒロインを救う」がテーマになっています。これは１990年代のラノベでは、それほど重視されなかった要素です。
主人公が、自分の意志でヒロインや仲間を守ることを決めて、困難に遭いながらも実行し、これによってモテるというのが、2000年代のヒット作です。そこに、とにかく楽しい仲間やヒロインとのお祭り騒ぎの毎日、萌えという要素が加わっています。
この背景には若者を取り巻く社会状況の変化があると考えられます。
2011年の国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、18～34歳の未婚者のうち、男性の61.4％、女性の49.5％が「交際している異性がいない」と答えたそうです。
これらは、異性から「あなたは価値のある存在です」と肯定される機会が失われていることを意味します。
また、世界的な不景気で、雇用の場からも閉め出される危険が高まり、組織から「あなたは価値のある存在です」と肯定される機会をも失われています。
このため安心できる居場所、仲間との絆、異性からの愛情を強く求める気持ちが、１０代の若者に広がっているのではないか、と考えられます。
ヒット作のライトノベルは、こういった若者の欲求を満たしてくれるものばかりです(2012年現在)。
(1990年代のヒット作は、同調圧力が強く滅私奉公を求める学校、企業文化から逃れたいという欲求を反映していたと考えられる)
ターゲット層の読者が今、なにを求めているのかを調査し、彼らの願望を満たすにはどうしたら良いのか？ を常に考えて実行していくことが求められるのです。
その上で、自分の書きたい物を書いて、他作品との差別化を図るのが、もっとも有効な戦略だと考えられます。
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