ライトノベル作法研究所
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  4. 読者のリサーチ公開日:2012/05/29

読者が求める快感をリサーチし続ける

 ターゲット層の調査に最も有効なのは、今、業界トップのグループにいるラノベと、二番手グループにいるラノベを読んで、その違いや、共通点を分析することです。
 売れている作品の中には、稚拙だったり低俗だと感じるモノも有るかも知れませんが、本当の意味でくだらない作品がヒットすることはありません。なにかしら、大勢の人々の心を惹き付けるものがあるから、売れているのです。
 ここで重要なのは、ヒット作がどのような性質の快感を提供しているのか? ということです。

 例えば、2000年代のラノベで、「鬱展開」「ブラックユーモア」「バイオレンス」などの黒い、どろどろした感情を売りににしてヒットした作品は、高めの年齢層をターゲットにした『されど罪人は竜と踊る』(2003年)くらいしかありません。私は個人的に榊一郎の『ストレイト・ジャケット』(2000年)が好きで、全巻を買って読みましたが、大人向けで「グロ」「鬱」「絶望」をテーマにしたこの作品は、シリーズ累計50万部くらいです。
 劣等生の主人公が仲間と力を合わせて、ヒロインのために優等生たちに戦いを挑んでいく、熱いノリのギャグコメディ『バカとテストと召喚獣』は、その10倍以上の売り上げを記録しています。

 ラノベのメインターゲットである中高生は、『ゼロの使い魔』『とある魔術の禁書目録』『バカとテストと召喚獣』など、明るく、気分爽快にさせてくれる作品を選んでいます。
 これは考えてみれば、当たり前の話です。
 中学生などは、性に目覚めたばかりのまだ無垢な存在なので、萌えと言っても、せいぜい女の子とキスをしたり、着替えシーンを偶然覗いてしまうくらいのライトな物を求めます。頭の中が健全なのです。それ以上の性的描写などは刺激が強すぎて、不快になるでしょう。
 また、暴力シーンも極力、残虐さを消して、敵を気分爽快にやっつけるくらいの物がもっとも受けています。
(2012年現在)

 彼らに、芥川龍之介の『地獄変』のような、主人公が、愛する娘が焼き殺される様を見せられたにも関わらず助けようとせず、その光景を傑作の絵として描き上げて自殺するなどという、超どろどろした鬱展開の話を読ませても、まず受けないでしょう。

 何が受けていて、何が受けていないかは、ヒット作とマイナー作品を読み比べれば推測できます。
 すでに世に出ている作品というのは、ターゲットとする読者が、今、どういった快感を求めているのか知るための最良のツールなのです。

 2000年代半ば以降になると、1990年代に流行った受け身なヘタレ主人公や、女の子との絡みの少ない一匹狼的な主人公は人気が出なくなりました。たくさんの女の子にただモテるのではなく、主体的に行動し、彼女らを救って尊敬を勝ち取ってモテるタイプの主人公が人気が出ています。
 『ゼロ使』『禁書』『俺妹』『ソードアート』などはこのタイプです。ヒット作は、その時代の読者の欲求・願望を反映しているので、似たような傾向を持つようになります。これがすなわち、『流行』です。
 流行というのは常に変化していくので、読者の嗜好の変化を知らず、過去に流行った作品をだたマネして書くと、外す可能性が高くなる訳です。

 しかし、文学マンセーな人たちは、こういった最小限のマーケティングさえ行ないません。
 かつての権威を盲信し、芥川龍之介の良さを理解できない現代の若者の方が間違っていると考え、ターゲット層を無視した作品を書いて失敗するという、誰の得にもならない徒労を続けてしまっているのです。
 変化を受け入れない、読者を意識しないジャンルというのは、必ず衰退します。
 漫画界で最も成功した少年ジャンプの創刊編集長・長野規は次のように述べています。

「編集者は読者の顔が見えなくてはいけない。頭の中も胸の底も、いや財布やポケットの中身も見えなくてはつとまらない」
引用・『さらば、わが青春の「少年ジャンプ』」 著者・西村 繁男

 また、電撃文庫を創刊したメディアワークス代表取締役社長・佐藤辰男は、書籍『ライトノベル完全読本』(2004年8月刊行)のインタビューで次のように述べています。

「今文庫全般は苦境にあると思いますが、理由の一つとして、多くの文庫が年齢戦略や作品をのトレンドを分析しないため、若者が読みたい作品を提供できていない状況になっていると思うんです。(中略)。そういう意味で、若い読者に対して文庫を出す場合は、若い読者が生活する舞台や感性を盛り込むことが必要でしょう」
引用・『ライトノベル完全読本』 メディアワークス代表取締役社長・佐藤辰男のインタビュー

 少年ジャンプ、電撃文庫といった漫画界、ラノベ界の頂点に君臨した組織のトップが口を揃えて、読者の求める物を理解することの重要性を述べているのですね。

 ラノベ界で成功したいのであれば、ライトノベル読者が求める快感をリサーチし続けることが必要になります。流行を追うのです。また、この際に重要なのが、読者の声ではなく、読者の行動に着目することです。

 人間は自分の価値観に合わない物を叩きたがる生き物です。ネット上では、その声が可視化されるために、あたかもそれが大多数の意見であるかのように錯覚してしまいがちです。
 ネット上で叩かれていたとしても、売り上げ部数が伸びていたら、それは優れた作品です。
 逆に、一部の層に支持されていたとしても、売り上げランキング入りしていなかったら、それはダメな作品です。

 実際に売れているか否か、それだけが重要なのです。

 これを調べる最も簡単な方法は、Amazon・ライトノベルのベストセラー をチェックすることです。
 このページは最大手のネット書店Amazonにおけるライトノベルの売り上げ記録がランキングで表示され、現在の人気作品が一目でわかるようになっています。
 ここの10位までにランキングされている作品を読んで、流行を調べるのが最も効率が良いでしょう。

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