ライトノベル作法研究所
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  4. 少年向けで健全公開日:2012/05/31

売れるラノベとは少年向けでギリギリ健全な物

 10代の少年向けに書かれた健全な作品は、それ以降の年代の読者や少女にも受けます。

 若い女性が少年漫画や、少年向けライトノベルを読むことは珍しくありません。
 逆に、20代、30代向けに書かれた作品は、それ以前の年代の読者にとっては、まず理解不能です。成人男性向けのエログロ漫画など、女性はまず読まないでしょう。

 このため、10代の少年向けの物語の方が全体のパイが大きく、大ヒットが狙いやすくなります。

 例えば、少年ジャンプの看板漫画『ワンピース』(1997年~)は、小学生から大人まで読みます。
 『『ワンピース』に生きる力を学ぼう!』『モンキー・D・ルフィの「D」はドラッカーだった』などといった、『ワンピース』を題材にした大人向けの実用書まで出ている程です。『ワンピース』は、主人公のルフィが技を出すときに「ゴムゴムの~!」などと叫んだり、「海賊王になる!」とあり得ない夢を語ったりするので、完璧に子供向けに作られています。
 大人は恥ずかしいので、このようなことをしゃべったりしません。人生の辛酸を舐めてきている大人は、もっと鬱で不健全な物を好む傾向があります。

 『ワンピース』は海賊たちの冒険譚を描いた物ですが、彼らは悪いことは決してしない健全な集団です。
 『ワンピース』とは対照的な非合法組織の活躍を描いた大人向けのバイオレンス漫画に、広江礼威の『ブラック・ラグーン』があります。『ブラック・ラグーン』の主人公は「ネクタイを締めた海賊」と呼ばれる犯罪に荷担する悪党で、かつての革命軍の戦士で銃火器を持って大暴れするメイドさんや、殺人狂のゴスロリ少女などが登場し、毎回、派手に人が死にます。

 『ブラック・ラグーン』の累計発行部数は500万部でアニメ、ライトノベル(著・虚淵玄)にもなっている人気作ですが、『ワンピース』の累計発行部数2億6000万部には遠く及びません。
 大人向けの残酷描写、性描写がある作品では、どれほどの名作であっても、『ワンピース』クラスのメガヒットを狙うのは難しいのです。

 これだけではデータ不足ですので、2012年段階で、世界で一億部以上を売り上げた日本の漫画のデータを、わかっている範囲で掲載します。不健全とした漫画は、人を不快にさせるような過度の暴力描写や性描写がある物です。

2012年・国産漫画の世界累計発行部数
タイトル 発表された年 累計発行部数 ジャンル
ドラゴンボール 1984年 3億5000万 少年向け・健全
ONE PIECE(ワンピース) 1997年 2億7348万(国内) 少年向け・健全
ゴルゴ13 1969年 2億 大人向け・不健全
ドラえもん 1969年 1億7000万 低年齢層向け・健全
こちら葛飾区亀有公園前派出所 1976年 1億5527万 ボーダーライン
名探偵コナン 1994年 1億4000万 低年齢層向け・健全
NARUTO -ナルト- 1999年 1億2650万 少年向け・健全
美味しんぼ 1983年 1億1120万 大人向け・健全
鉄腕アトム 1952年 1億 低年齢層向け・健全
タッチ 1981年 1億 少年向け・健全
北斗の拳 1983年 1億 少年向け・不健全

 これらのデータから、売れている漫画は、少年向けで、かつ健全な内容の物である傾向がわかると思います。
 漫画愛読者とライトノベルの読者層は被る上、2000年代のヒット作であるラノベ、「禁書」「ハルヒ」「フルメタ」「俺妹」「ゼロ使」「文学少女」「生徒会」「バカテス」「はがない」などを見てみても、友情や愛情をテーマにし、萌え要素はあるものの過度な性的表現は控えた(「はがない」は下ネタが多い)健全な内容であることから、売れる物語とは「少年向け」で「健全」な内容である傾向が強いと結論できます。

 ライトノベルが一見して不健全のように見えるのは、購読者を刺激するために萌えを重視した表紙や、挿絵イラストを使っているからで、中身の文章では性的表現は極力控えられています。アニメ化され135万部以上のヒットを記録した『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』(2009年)では、中にシャワーを浴びている女の子のイラストなどが挿入されていますが、文章はいやらしさを感じさせないように工夫されたものになっています。

 知り合いのライトノベル作家の話によると、あまりに露骨な性的表現を作中に入れると、改稿を指示されるそうです。イラストは、業界内、業界外の娯楽媒体との競争に勝つために、過激になっている傾向がありますが、中身は決してジュブナイルポルノや官能小説に近づかないように、一線を引いています。

 売れているライトノベルは、不健全と言われないギリギリのラインを攻めているような印象を受けます。いわゆるラッキースケベ、偶然、女の子の着替えシーンに遭遇してしまったり、女の子同士で胸の大きさについての会話をしたり、風呂を覗いて怒られるレベルのイベントを入れます。少年が喜びそうな内容です。
 『ゼロの使い魔』(2004年)なら、第一巻の冒頭で、主人公のサイトが美少女ルイズに使い魔の契約の儀式として、キスをされます。『とある魔術の禁書目録』(2004年)なら、主人公が助けたヒロインと一つ屋根の下で暮らすことになります。

 当たり前ですが、100%健全な物語というのはおもしろくありません。

 テレビ番組が、有名人の結婚や浮気、破局などの恋愛ネタを放送したり、凶悪犯罪の報道を繰り返したり、低俗なバラエティ番組を流したり、美人キャスターを採用するのは、大多数の視聴者に『他人の恋愛に首を突っ込みたい』『他人の不幸を見たい』『正義の側に立って悪を叩きたい』『愉快な気分にさせてもらいたい』『美人が見たい』という願望があるからです。
 こういった願望に応えた番組を作ると、一部の人から「けしからん!」と苦情が寄せられますが、それでも続けるのは、視聴率が取れるからです。
 健全で知的なインドの歴史紹介番組などやっても、あまり視聴率が取れない、イコール求められていないから、そういった番組が少ないのですね。

 ライトノベルもコレと同じで、大多数の人が求めているのは、『恋愛』『美少女』であり、これを10代のオタク向けに追究すると、萌えやラッキースケベになってしまうということです。

 しかし、過激にしすぎて、彼らに不快感を与えるようなレベルになると御法度となります。

 ライトノベルの文章は「中学一年生」でもわかるレベルで書かれているので、小学生高学年の読者もいます。彼らに、大人向けの性描写、暴力描写、鬱展開を見せるのは、完全にカテゴリーエラーでしょう。

 ラノベの読者層が縦に伸びてきたことから、大人向けのラノベを紹介する「オトナラノベ」(2011年)という書籍も刊行されていますが、最初から大人向けにするのではなく、中高生も楽しめて、大人もできれば満足できるような作風にするのが理想だと考えられます。

補足・一般文芸とライトノベルの違い

 一般文芸は「表紙は健全」、「中身は不健全」。
 ライトノベルは、「表紙は不健全」、「中身は健全」です。

 こう言うと驚く人もいるかも知れませんが、一般文芸は大人向けなので、子供にはとても見せられない不道徳で、不健全な内容が含まれた物が多いです。

 例えば、ドストエフスキーの『罪と罰』は、中二病をこじらせて殺人を犯し、罪の意識にさいなまれることになった青年ラスコーリニコフが主人公、家族のために身を売る娼婦ソーニャがヒロインです。設定がすでに不健全な上、主人公は見苦しいにも程がある、まったくのダメ人間です。

 森鴎外の『舞姫』はドイツに留学した主人公が、エリスという美少女を助けて恋に落ち、それが元で職を失います。主人公は、彼女を妊娠させるが、エリートの座に返り咲けるチャンスを得て、エリスを捨てて日本に帰国し、エリスは発狂します。
 これはどう考えても、不道徳な内容です。

 芥川龍之介の『藪の中』は、盗人に夫婦が襲われ、妻が手込めにされて夫が殺されます。事件の真相が、盗人、妻、死んだ夫の怨霊、三者の口から語られるのですが、それぞれの証言が食い違います。
 被害者だと思われていた妻が、もしかしたら一番の加害者であったかも知れない、盗人が実は結構良い奴、それぞれが自己保身のために嘘の証言をしていた、というまったく救いのない話です。傑作と呼ぶにふさわしい深さを持った作品なのですが、子供にはまず見せられません。

 これらの名作と比べると、勧善懲悪、ヒロインや仲間との絆、兄妹愛を描いたライトノベルが、いかに健全であるかわかります。一般文芸が少年少女に嫌われて、ライトノベルが支持されるのは、不健全な物を10代の子たちがおもしろいとは思わないからです。

 子供たちに友情や愛情の大切さ、悪に立ち向かう勇気を教えてくれるのがライトノベルで、これらの倫理を壊して、人間心理のえげつなさを描くのが一般文芸です。

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